著者
益田 理広
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.19-46, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
21

地理学の語源たる「地理」の語は五経の一,『易経』を典拠とする。『易経』は哲学書としての性格を有し,「地理」の語義についてもその注釈を通し精緻な議論が展開されている。本稿は,初期の「地理」注釈である唐宋の所説を網羅し,東洋古来の「地理」概念がいかなる意味を以て理解され,かつどのように変遷したのかを明らかにしたものである。 唐代における最初期の「地理」には,地形や植生間の規則的な構造とする孔穎達,及び知覚可能な物質現象たる「気」の下降運動とする李鼎祚による二説が存在する。 続く宋代には「地理」の語義も複雑に洗練され,次のような変遷を経る。即ち,「地理」を(1)位置や現象の構造とする説,(2)認識上の区分に還元する説,(3)形而上の原理の現象への表出とする説,(4)有限の絶対空間とする説の四者が相次いで生まれたのである。 これら多様な「地理」の語義は,東洋地理学および地理哲学の伝統の一端を開示する好資料といえる。
著者
松本 俊吉
出版者
The Philosophical Association of Japan
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
no.47, pp.286-295, 1996

かつてカントやフッサールが夢見たような超越論哲学の理想-すなわち、いかなる先入見をも排去した純粋な反省的思惟によって我々の認識の<普遍的構造>を取り出し、それを基礎に万人の認識行為が準拠すべき規範を提示し、さらにそれに則って我々が現実に所有している信念や知識を正当化しようという企図-は、遂行不可能な非現実的な理想であったというのが、知識を論ずる近年の哲学的言説の共通了解となりつつあるようである。そうした趨勢に棹さすものとしては、歴史主義、文化相対主義、知識社会学、プラグマティズム、進化論的認識論、自然主義など様々な思潮が見出され、上述のような理想を抱く哲学的立場-本稿で我々はこれを<哲学的認識論>と呼ぶことにする-は、あたかも四面楚歌の如き状況に置かれている。<BR>ところでこれらの諸思潮は概して、哲学的認識論の立場を<廃棄>し、哲学的認識論固有の問題構制などは初めから存在しなかった、ないしは問題とするに値しないものであった、という類の論法をとりがちであるのに対し、私見によれば、自然主義の主張はその最も原理的なレベルで、哲学的認識論の立場と相対峙するように思われる。本稿は、こうした見地からこの両者の対立点を明確化し、それについて検討を加えつつ、哲学的認識論の基本的発想の、現代においてもなお否定し去ることのできない有効性を示そうとするものである。
著者
萩原 富夫 Hagiwara Tomio
出版者
神奈川大学 国際経営研究所
雑誌
国際経営フォーラム (ISSN:09158235)
巻号頁・発行日
no.27, pp.145-156, 2016

本稿は徳の考察である。まず、二宮金次郎の自然との対決と隣人の助け合いの経験から徳の内容をイメージする。そのイメージを人助けのために金次郎が気づいた五常講の活動内容から徳の具体性を推察し、そこからそれを裏付けている誠の存在を考察する。その誠への金次郎の理解が如何にソクラテスの自然権認識の哲学に類似しているかを比較する。次に、徳の語の成り立ちからその意味を捉え、生命を根幹とする自然と人間そして主体間のやりとりが産み出す価値に注目し、それを徳と理解する。最後に、その徳と誠との結びつきについて考察する研究ノート
著者
柴田 正良
出版者
株式会社 弘文堂
雑誌
木田元 ・ 村田純一 ・ 野家啓一 ・ 鷲田清一[編] 『現象学事典』
巻号頁・発行日
pp.417-419, 1994-03-15

木田元 ・ 村田純一 ・ 野家啓一 ・ 鷲田清一[編] 『現象学事典』の事項項目 [フ] の一部
著者
吉川 博通
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.579-583, 2012

「健康寿命」という言葉が世間でよく使われ出したのに合わせ、元気な高齢者が実に多く見受けられるようになり、ますます超高齢化まっしぐらである。一方で、健康のメンテナンスに大いに利用されているわが国の人間ドック健診受診者の中にも高齢者が増え始め、数は少ないが75歳以上のいわゆる後期高齢者がチラホラみられるのも珍しくなくなった。<br> ただ後期高齢者になると、健康上、これまでの常識が通用しない面が多くなり、健康そのものの指標が大きく変わることから、一般受診者とは一律に取り扱うことが難しく、どうしても自立した生活が困難となる生活機能障害を予防するための特別なライフステージに応じた対応が必要となってくる。<br> 昨今、健診無用論を唱える学者もいるが、これは個人個人の哲学的問題であって、イエスもノーもいえるものではない。ただ年々人間ドック健診の受診者が増えることを考えると、それならばその人たちに満足してもらえるシステム作りが必要となってくる。高齢者たちを集め、全国各地で介護予防健診と銘打って全人的、包括的なシステムを構築し、健診を行っていることはすでに周知の通りである。しかしこのシステムを完璧に現在日々の一般健診の中で、数少ない高齢者に行うとなるとそれは至難の業といわざるを得ない。まずできる範囲で一つ一つ着手して行き、これからも増えるであろう高齢者の幸せな老後を送るのに大事なQOLを高める手立てに手を貸すとならば、願ってもない総合健診のレベルアップに繋がるということになるのではないだろうか。
著者
岡崎 佑香
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

平成28年4月より大河内泰樹教授(一橋大学)の研究指導の委託により、エファ・ボッケンハイマー博士(ドイツ・シーゲン大学)の指導の下で研究を遂行した。平成28年6月に、Society for Women in Philosophy(イギリス・ブライトン)の年次大会にて"Precarity as Independence in Hegel’s Phenomenology of Spirit"と題した研究報告を英語で行い、欧州のフェミニズム哲学研究者と意見交換を行った。本研究報告は、平成27年度の研究成果である論文「ヘーゲルの自立性再考――ケア論の新展開に向けて」(日本女性学会学会誌『女性学』第23号(2016年3月)に掲載済み)を基にしており、ボッケンハイマー博士と複数回の意見交換をした成果を反映させたものである。欧州のフェミニズム研究者からは本研究の実践的意義を問われたのに対して、ボッケンハイマー博士からはヘーゲルの読解に関して報告者とは異なる読解の可能性を提示された。平成28年11月に「文芸共和国の会」(福岡・北九州市立大学)にて、他分野の研究者や市民を対象とした「ヘーゲルとフェミニズム」と題した研究報告を行った。この研究報告では、ジュディス・バトラーのヘーゲル批判を批判的に参照しながら、『精神現象学』精神章において女性の欲望が共同体の再生産との関連でどのように論じられているかを考察する足掛かりを得ることができた。平成28年11月よりフリーデリケ・クスター教授(ドイツ・ヴッパータール大学)と博士論文の研究計画に関する意見交換を行った。平成29年4月より同教授の主催するコロキウムに、ボッケンハイマー博士とともに参加し、上述の研究成果をドイツ語で報告する予定である。
著者
奈良教育大学附属図書館
出版者
奈良教育大学附属図書館
雑誌
書想 : 図書館報附録
巻号頁・発行日
vol.71, 1985-01

哲学おんちの晩い目覚め 山本七平、論語の読み方 村上光博/貴重文献紹介のあり方について 森本修/落穂拾い 宮下福太郎/ヘルマン・ヘッカー先生のこと 千成俊夫/レオニード・クロイツアー先生の思い出 藤村るり子
著者
中村 恵三
出版者
一般社団法人 日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文報告集 (ISSN:09108017)
巻号頁・発行日
vol.365, pp.84-92, 1986-07-30 (Released:2017-12-25)
被引用文献数
1

本稿は,建築家J.B.フィッシヤー・フォン・エルラッハ(1656-1705)の考案したシェーンブルン城第1案(1688)の建築モチーフの考察と,その形態構成表現の柱ともなる彫像作品群の象徴表現の解釈,即ち象徴性の意味関連を考察する事(イコノロギー解釈)を目的としている。既に前稿[I]で,この計画案の要素となる各建築形態が独立的モチーフであり,合成的表現によって,統一ある運動をもつ一つの全体として表現されていることを指摘した。本論では,この構成技法との関連性を踏まえて,建築モチーフの由来及び特色を考察し,またイコノロギー的表現においては,各彫像群の寓意的解釈に図版全体の幾何学的秩序を関係付けた象徴表現の分析をしている。即ちこの計画案の意味内容に,部分と全体との間の必然的統一関連性を求め,寓意像の存在理由に新たな解釈を加えようとするものである。本論では,この図全体の4つの段階ごとの集まりの分類化,つまり城郭部分,2つの庭園テラス部分,そして主要な彫刻作品のある最下層テラスに分け,分析することで,計画案の個々の造形物の由来と特徴を明らかにしようとした。その結果,この計画案が古代ローマのフォルテューナ神殿復原図,また従来,抽象的にしか指摘されていなかったフランスのサン・ジェルマン・アン・レーの影響を,形態構成分析の考察に基づき,より実証的にその直接的影響を指摘した。また彫像作品間に存在する幾何学的構成表現が,象徴表現となっていると云う筆者の指摘は,城郭上方の皇帝像が下層の4つの彫像群を放射状に支配すると云う構成に基づくものである。これは,太陽神に姿を借りた皇帝像が「世界支配」を象徴化していると云う指摘である。それは,この調和的統合表現によって,一つの観念形態を象徴化するイデオロギー表現の存在を意図したものであろう。最後に,この計画案のイコノロギー表現に関与していたとも云われる哲学者ライプニッツの「調和の哲学概念」の関連性を述べているが,前稿[I]の考察も含めこれは彼の哲学概念の視覚上の表現であると云う従来からの観念的指摘に対する,一つの実証的解釈の試みともなっている。
著者
張 風雷
出版者
東洋大学国際哲学研究センター
雑誌
東アジア仏教学術論集 = Proceedings of the International Conference on East Asian Buddism : 韓・中・日国際仏教学術大会論文集 (ISSN:21876983)
巻号頁・発行日
no.1, pp.101-118, 2013-03

第1回 韓・中・日 国際仏教学術大会論文集―東アジアにおける仏性・如来蔵思想の受容と変容―韓国金剛大学校仏教文化研究所・中国人民大学仏教与宗教学理論研究所・日本東洋大学東洋学研究所共編
著者
菅野 まり子
出版者
愛知教育大学哲学会
雑誌
哲学と教育 (ISSN:02882558)
巻号頁・発行日
no.52, pp.50-41, 2004
著者
黒川 行治
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.27-44, 2016-10

本論文の目的は, 会計の利害調整の機能・役割に関連する経営者の報酬と従業員の給料の格差の問題, 労働対価の分配の正義を公共哲学の観点から考察することである。企業の統治形態, 取締役会の位置づけについて, 古典的・伝統的モデル(所有主指向モデル), 修正モデル(企業体指向モデル), 社会企業モデル(多様な構成員指向モデル)の3つのモデルを検討し, コーポレートガバナンス・コードは, 修正モデルを前提としているが, 社会企業モデルに依拠しないと経営者の高額報酬の問題は解決しないことを示す。次に, 公共哲学の諸理論を援用すると, 経営者の高額報酬・大きな格差を肯定する論理とそれを否定する論理がそれぞれ複数存在するが, 筆者の私見では, ロールズの格差原理およびジョンストンの新しいバランスのとれた相互性の理論に依拠し, 大きな格差の存在には否定的である。最後に, 会計の利害調整機能・役割と労働対価の分配の正義との関連性について言及し結論とする。論文