著者
猪股 弥生 青山 道夫 濱島 靖典 山田 正俊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

The 137Cs derived from the Fukushima Nuclear Power Plant Accident (FNPP1-137Cs) rapidly transported to the Sea of Japan several years after its release to the environment in March 2011. The inflow of FNPP1-137Cs had started in 2012 and reached to the maximum in 2015/2016, and has been still continued in the coastal site of Sea of Japan in the year of 2016. In the south of the Japanese islands, the FNPP1-137Cs activity concentrations showed subsurface peak in the seawater of which density correspond to the Subtropical Mode Water (STMW). These suggests that FNPP1-137Cs injected into the western North Pacific Ocean at south of Kuroshio were subducted into the ocean interior just after the accident, then transported southward/southwestward. A part of FNPP1-137Cs in STMW reaches the western boundary at lower latitudes, and obducted from under the Kuroshio, and is transported to the west of Kyushu by Tsushima Warm Current bifurcated from the Kuroshio. This pathway might be new finding of transport process from the western North Pacific Ocean to the SOJ. Almost same value of the 134Cs/137Cs activity ratio in the coastal region of the Japanese islands (ECS, SOJ, and south of the Japanese islands in the western north Pacific Ocean) also support this circulation route. The integrated amount of FNPP1- 137Cs entered in the SOJ until 2016 was estimated to be 0.20±0.023 PBq, which corresponds to 4.8 % of the total amount of FNPP1-137Cs in the STMW. The integrated amount of FNPP1-137Cs back to the North Pacific Ocean through the Tsugaru Straight in the surface layer was 0.081±0.005 Bq, which corresponds to 1.9 % of the total amount of FNPP1-137Cs in the STMW.
著者
遠田 晋次
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2017年7月に経済産業省資源エネルギー庁によって高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する「科学的特性マップ」が提示された.国民に地層処分のしくみや我が国の地下深部の地質環境等について理解を深めてもらうために,地域の科学的特性を全国地図の形で示したものである.発表者は2013年10月から日本活断層学会の推薦で地層処分技術WGに委員として参加し,主として活断層評価の観点から同マップ作成に関わった.本発表では同検討過程で考えてきたこと,特に今後地層処分が具体化していくまでに解決しなければならない活断層評価の課題を2つ示したい.1)プロセスゾーンは本当に断層長の1/100で良いのか. 「科学的特性マップ」はあくまでも,既存の全国データに基づき一定の要件・基準にしたがって客観的に整理し,200万分の1の全国地図の形に示したものである.活断層の評価に関しては,断層変位による処分場の破壊を避ける観点から,活断層の近傍が「好ましくない要件・基準」になるが,その回避距離は,基本的に断層破砕帯の概念をさらに広くしたプロセスゾーン(process zone)を基本としている.このプロセスゾーンは,断層長の100分の1程度(断層の両側の合計)におさまるとされており(Vermilye and Scholz, 1998, JGR),「科学的特性マップ」でもその基準を採用している.しかし,意外にも200万分の1の日本全国マップにすると活断層長の1/100の断層幅は無視できるほど小さい.特にA4サイズ1枚に収めると,長大な中央構造線活断層系などを除くと,ほぼ無視できるレベルになり,「回避すべき」要素としての活断層は,火山活動などに比べるとそれほど影響が大きくない.しかし,今後,文献調査,概要調査とスケールアップするに進むにつれて,この回避ゾーンが重要な問題となってくるのは明らかだ.特に,著者が懸念していることは,断層先端の進展速度である.少なくとも,断層先端にまで同様のプロセスゾーン概念を適用できないだろう.例えば,遠田ほか(2017,地震学会秋季大会要旨)は熊本地震で阿蘇カルデラ内にまで伸張した布田川断層帯先端の末端成長速度を33-190 mm/年と見積もった.Aso-4噴火のカルデラ形成で布田川断層が断ち切られるという仮定が入るが,10万年換算で断層先端が3―19kmも成長する.布田川断層の断層長から評価される数100mよりも1オーダー以上大きい.少なくとも,10万年程度を視野に入れた断層成長速度や発達過程に関しては,研究・議論が十分とはいえない.2)伏在断層の問題 M7前後の内陸地震は必ずしも既知の主要活断層で発生しない.これは,C級活断層問題(浅田,1991,活断層研究),短い活断層の評価(例えば,島崎,2008,活断層研究)として,地震の長期評価の課題として取り上げられてきた.実際に,活断層分布から予測されるM7以上の地震数よりも,1923年以降に観測された地震数が2倍程度多いことが示されている(遠田,2013,地質学雑誌).そのため,地震ハザード評価では,長さ20km程度の断層が地下に多数伏在しているか,その一部がわずかに短い活断層として地表に出現していることを前提とした検討が進んできた.地層処分においても伏在断層問題を避けては通れない.また,熊本地震では,干渉SARなどにより震源断層外での多数の誘発断層変位が報告されている.他の内陸地震でも同様の報告が多く,受動変位も含めた小中規模の断層の実態を解明する必要がある.さらに,1)の断層成長速度とも絡んで,今後サイト候補地周辺に伏在する活断層を検出する探査技術と断層成長の可能性まで含めた評価法を確立する必要がある.
著者
森 済
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

阿蘇カルデラは、カルデラ中央を西南西-東北東方向に国土地理院の一等水準路線が貫いている。10点余りの一等水準点がカルデラ内にあり、1893年以来の水準測量データがある。カルデラ中央部を含めた上下変動を100年以上にわたって直接見ることのできる、わが国では唯一のカルデラである。また、20世紀末の1990年代から整備された国土地理院のGNSS連続観測点(電子基準点)が3点もカルデラ内に置かれており、1997年4月以降、カルデラ内の上下変動が、3点で連続的に観測できるというわが国で最も恵まれたカルデラである。1893年以来5回(他の4回は、1941年、1964年、1988年、2003年)行われている一等水準測量のデータから、100年間余の上下変動について検討した。その結果、1941年以降カルデラ内の水準点が、カルデラ外の点に対して沈降していることがわかった。1941年以降の20世紀は、長期的な沈降傾向にあり、地下深部からのマグマの供給等カルデラ噴火につながるような現象は無いと考えられる。公開されている九州中部の国土地理院GNSS連続観測点(Geonet点)の日々の座標値(F3値)を用いて、2016年熊本地震前までの、阿蘇カルデラ内の観測点の上下変動の時間変化を検討してみた。なお、熊本地震以降の変動については、地震時の変動および余効変動が顕著であり、カルデラ内の3点でも向きや量が異なり、評価が困難なので、今回は議論から除外した。その結果、1998年以降熊本地震発生前までは、阿蘇カルデラ内および九重山付近のGeonet点は、その他の周辺のGeonet 点と比較して、沈降量がおおきく、沈降傾向にあることがわかった。すなわち、阿蘇カルデラは、20世紀末以降、沈降傾向が継続している。地理院の一等水準測量とGNSSによる阿蘇カルデラの上下変動の結果から、20世紀以降2016年熊本地震前までは沈降傾向にあることがわかった。したがって、20世紀以降の阿蘇カルデラは、地下深部からの新たなマグマの供給は無く、カルデラ規模のマグマ溜りの成長も起きていない。つまり、長期的に見てカルデラ噴火の可能性はほとんど無いと言える。
著者
白濱 吉起 宮下 由香里 亀高 正男 杉田 匠平
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

2016年熊本地震に伴い,布田川・日奈久断層帯に沿って地表地震断層が出現した.地震断層は従来推定されていた布田川区間の北端を約4 km越え,阿蘇カルデラ内東部にまで及んだ.阿蘇カルデラ内に出現した地震断層は,立野付近から北東南西走向の右横ずれ変位を主体とするトレースと,東西走向の上下変位主体のトレースに分岐する.この内,東西方向の地震断層は濁川左岸の地溝帯に沿って断続的にやや左ステップしながら約2.5 km続く様子が確認された.この地溝帯が熊本地震のような断層活動によって形成された変動地形であるとすれば,地表地震断層が活断層である可能性が示唆される.そこで我々は,九州大学からの委託業務「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」の一環として,新しく阿蘇カルデラ内に現れた地表地震断層が活断層であるか否か,また,活断層である場合はその活動履歴を明らかにすることを目的に,熊本県阿蘇郡南阿蘇村河陽沢津野地区においてトレンチ調査を実施した.掘削地点は立野地区から2 km東の2~4 mの崖に挟まれた地溝内に位置する.そこでは,地構内の平坦地を利用した水田に,幅20~30 mでほぼ並走する東西走向の二本の地表地震断層が確認された.南側のトレースは北落ち,北側のトレースは南落ちを示し,地形と調和的に中央部分が落ち込む様子が見られた.トレンチ掘削前にボーリング調査を行ったところ,地溝外のコアでは地下7~8 mで草千里ヶ浜降下軽石層(Kpfa)が見られたのに対し,地構内では地表から約16 m下で見られた.この深度の差は地形的な落差と比べると明らかに大きく,累積的な沈降が示唆された.そこで,南北の地震断層トレースを横切りつつ,導水管を避けるように,長さ34 m,幅7 m,深さ4 mのトレンチをクランク状に掘削した.壁面には地表地震断層につながる断層と,地層の変形が明瞭に確認された.地層は主に阿蘇火山を起源とするローム層で構成され,河川性堆積物は見られなかった.また,地層中には年代指標となる鬼界-アカホヤ火山灰,姶良Tn火山灰,Kpfaといった広域テフラが確認されるとともに,弥生土器が出土した.断層はトレンチ北側では南傾斜,南側では北傾斜を示した.地層は断層に近づくに従って緩やかに撓み下がり,その撓みに伴う開口亀裂が多数生じていた.断層で上下に地層が食い違うとともに,いくつかの層準では断層を境に地層の厚さが増しており,変位の累積が見られた.これらの観察結果と14C年代測定結果を元に,約3万年前以降の活動履歴の推定を行った.発表では本トレンチが示す活動履歴について議論する.
著者
吉岡 敏和
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

おおいた豊後大野ジオパークでは,2016年4月の熊本地震の後,2017年には豊後大野市朝地町綿田地区における地すべりや,9月の台風18号による水害など,多くの自然災害に見舞われた.本ジオパーク内のサイトについても,熊本地震に伴って轟橋基部の柱状節理が崩落したほか,台風18号の際に白山渓谷の轟木橋が損壊するなど,いくつかの直接的被害があった.このような自然災害は,サイトの保全という観点からは損害をもたらすものでしかない.しかしながら,そもそも自然災害は地質現象そのものであり,本ジオパークのメインテーマである阿蘇火砕流にしても,もしそこに人類が生活していれば,壊滅的な被害をもたらした巨大災害になっていたことは間違いない.また,火砕流堆積物を谷が浸食し,滝や断崖絶壁といった景勝地が形成されたのも,度重なる洪水や斜面崩落などの積み重ねでしかない.さらに,深い谷と激流を克服しようとして造られたアーチ式石橋や,断崖を利用して彫られた磨崖仏なども,このような地質学的,地形学的現象の産物と言うことができよう.これまでの防災教育は,どちらかと言えば危険の周知や避難・備蓄の推奨などが中心で,災害発生メカニズムやその背景となる地質・地形環境についての啓発活動は,十分になされてきたとは言い難い.そのような中で,ジオパーク活動を進めることによって,住民一人一人が自分達の住む地域がどのように形成されたかに関心を持ち,住民自らによる災害の予測や災害時の的確な行動につながることが期待できる.おおいた豊後大野ジオパークでは,今後もシンポジウムや講演会などを通じて,地域の地質・地形をより深く理解するための活動を推進していきたいと考えている.
著者
関澤 偲温 中村 尚 小坂 優
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Variability of convective activity over the Maritime Continent (MC) influences climatic condition over East Asia via atmospheric teleconnections, through which SST variability such as ENSO is considered to provide seasonal predictability. In boreal winter, interannual variability of convection is centered around Indonesia and northern Australia, representing significant variability in the Australian summer monsoon (AUSM). Through an analysis of observational data, we show that interannual variability of austral summertime precipitation over northern Australia is hardly driven by tropical SST variability and is dominated by the internal variability of AUSM. Our analysis suggests that anomalously active AUSM sustains itself by inducing anomalous low-level westerlies over the eastern Indian Ocean and enhancing surface evaporation and moisture inflow into northern Australia. Anomalous AUSM activity is associated with distinct wavetrain pattern from the MC toward the extratropical North Pacific with dipolar pressure anomalies resembling the Western Pacific pattern. This teleconnection modulates the East Asian winter monsoon and exerts a significant impact on wintertime temperature and precipitation especially in Japan and Korea. This study reveals that interannual variability of the AUSM, which is unforced locally or remotely by tropical SST variability, substantially limits seasonal predictability in wintertime East Asia.
著者
小橋 拓司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

本報告では、自然地理教育に関わってきた立場から、2022年度から実施予定の「地理総合」について紹介し、具体的内容を検討することを目的としている。具体的には、(1)地理教育における自然地理教育の現状を紹介し、その比重がかなり低いこととその理由を明らかにする。(2)地理総合を考えるにあたり、「持続可能な社会づくり」という観点が重要であることを指摘する。(3)「防災教育」を事例として、授業実践を報告する。以上のことを踏まえ、地理総合をみんなでつくりあげていく意義に触れたい。
著者
鶴田 拓真 冨田 悠登 石川 智也 Gusman Aditya 鴨川 仁
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

M7以上クラスの地震に伴う津波発生後約9分以降に津波源の赤道方向にTEC上昇が見られたのち、津波電離圏ホールと呼ばれるTEC減少がおきる。2011年M9東北地方退避栄養沖の場合、23分後に津波電離圏ホールが最大規模となった。津波電離圏ホールにおけるTEC最大減少率のは最大初期津波高と相関があることが知られている [Kamogawa et al., Scientific Reports, 2016]。津波電離圏ホールは津波発生領域をおおまかに示していることから、TECのリアルタイム空間観測で早期津波予測が期待できる。一方、TIHの前には、津波発生領域の赤道方向に、TEC上昇がみられる。本研究では、この初期TEC上昇率と最大初期津波高には相関がみられることを示した。この初期TEC上昇はマグニチュードに関わらず約10分で最大に達することから電離圏ホール検知前の情報でも簡易的な早期津波予測が可能とみられる。
著者
稲田達也 鈴木由美
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問題と目的 社会人基礎力は,「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として経済産業省が2006年から提唱する概念である。 中学校・高校における課外活動の中で大きな割合を占めるのが部活動である。部活動に関する研究は数多くあり,青木(2005)は,運動部所属群は無所属群及び文化部所属群よりも社会的スキルが高いことを明らかにした。郡司・伊藤(2010)は,部活動への参加経験が長いほど学校への適応感が高まり,規範意識が増大することを示唆している。上野・中込(1998)は,運動部員は部活動に参加していない生徒よりも,運動部活動場面における心理社会的スキル(競技状況スキル)を獲得しており,またそれが般化する形で競技状況スキルと同種の側面を持つライフスキルを獲得できることを明らかにした。中学校・高校における部活動と心理的発達の関連に焦点を当てた論文は数多く見られ,中学校・高校の部活動を通して,社会人基礎力も向上すると考えられるが,具体的に両者の関係に焦点を当てた研究はほとんど行われていない。そこで本研究では,中学校・高校での部活動で身についた力(部活動能力)がどのように社会人基礎力に影響するかを明らかにすることを目的とする。方 法 中部地方公立A大学1〜4年生326名を対象に平成27年4月に質問紙調査を行った。回答を求めた項目は以下の通りである。1.個人属性:性別,中学校・高校での部活動系列(運動部か文化部か),活動期間(引退の時期まで続けたか,途中でやめたか)の回答を求めた。2.部活動能力尺度(自作):予備調査より得られた部活動能力尺度について,5件法で回答を求めた。3.改訂版社会人基礎力尺度(西道):西道(2011)が作成した40項目の「改訂版社会人基礎力尺度」を用い,5件法で回答を求めた。なお,改訂版社会人基礎力尺度(西道)は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「伝える力」「チームで働く力」の4因子構造である。結果と考察 個人属性と部活動能力尺度(自作)の各因子を独立変数とし,改訂版社会人基礎力尺度(西道)の各因子を従属変数とした重回帰分析(強制投入法)を性別ごとに行った(Table 1,2)。その結果、男子では,部活動能力尺度の「分析・戦略」「キャプテン・統率」因子が,女子では「チームワーク・対人」因子が社会人基礎力に対して強い影響力を持つことが読み取れた。次に,男子では部活動能力尺度の「根性・努力」「規範・礼儀」因子が,女子では「根性・努力」因子が,社会人基礎力にはほとんど影響しないということが明らかになった。最後に,個人属性と部活動能力はともに社会人基礎力に影響しているが、個人属性よりも部活動能力が社会人基礎力に対して強い影響力を持つことが明らかになった。
著者
和田 恵治 弦巻 峻哉 池谷内 諒 佐野 恭平 佐藤 鋭一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

黒曜石はほとんどガラスからなりガラス構造中にH2O成分を含む。高温で加熱するとH2O成分が発泡し,軟化した緻密な黒曜石ガラス中で気泡が膨張して内部が多孔質な軽量物質(パーライトと呼ばれる)ができる。筆者らはこれまで北海道産黒曜石を電気炉中で加熱して発泡させる実験を行ってきたが,電気炉の温度設定や加熱時間,発泡開始の定義が確立されていなかった。またパーライトの組織観察を十分に行っていなかった。今回,(1)各産地における黒曜石の発泡開始温度とパーライト形成温度の測定,(2)パーライトの組織観察による分類,(3)天然の多孔体試料との組織比較を行ったので報告する。黒曜石11試料の発泡開始温度の測定においては,径2.5~4mmの黒曜石片10個を磁製皿に入れ,設定温度に昇温させた電気炉中で30分間保持した後に取り出して気泡の有無を実体顕微鏡下で確認して10個すべてが発泡した場合にその黒曜石試料の発泡開始温度(Tf)とした。パーライト形成温度についても同様の実験方法で計測し,10個すべてが完全に発泡してパーライトとなった温度をパーライト形成温度(Tp)とした。これらの加熱実験の結果,赤井川産Tf =780℃;Tp =830℃,奥尻産Tf =790℃;Tp =850℃,神津島産Tf =890℃;Tp =950℃,白滝産(IK露頭)Tf =900℃;Tp =1030℃,十勝三股産Tf =930℃;Tp =1060℃,置戸産(所山)Tf =990℃;Tp =1100℃,置戸産(北所山)Tf =1010℃;Tp =1090℃,白滝産(十勝石沢露頭)Tf =1030℃;Tp =1160℃,白滝産(球顆沢露頭)Tf =1060℃;Tp =1150℃,白滝産(西アトリエ)Tf =1070℃;Tp =1190℃,白滝産(あじさいの滝露頭)Tf =1070℃;Tp =1190℃であった。パーライト組織の観察では各産地の黒曜石を1cmキューブ状にしたものをパーライトに作成した。気孔の大きさや形態・数密度から3つのタイプ(A~C)に分類した。Aタイプは気孔の大きさが約1mmであり,1つ1つが独立して球形をなす。表面・断面共に光沢がある。これらは発泡開始温度が990℃以上,及びパーライト形成温度が1060℃以上の6試料である。Bタイプは気孔の大きさが1.5mm〜5mmで1つ1つ独立している。気孔は球形〜不規則形で歪んだ形状を示す。表面は白灰色だが断面は光沢を示す。これらはTfが900℃〜930℃,Tpが1030℃〜1060℃の2試料(白滝IK露頭・十勝三股)である。Cタイプは気孔の大きさがパーライトの気孔組織は,加熱温度や加熱時間・黒曜石の水分量が深く関係し,ガラス構造に基づく物性(ガラス粘度など)も気泡の形状に関係するかもしれない。天然の多孔体(軽石や発泡した黒曜石)の気孔組織と比較すると,気孔の形状や数密度が天然多孔体と異なる。これは,(1)黒曜石がすでに脱ガスした試料で水分量が少ないこと,(2)天然多孔体がマグマ流体の動きの中で気泡が生成し移動や引き延ばしによってできた形状なのに比して,パーライトは静的な条件のもと,軟化した黒曜石壁を気泡が等方状に膨張したことに起因すると考えられる。
著者
鶴我 佳代子 関野 善広 神田 穣太 林 敏史 萩田 隆一 會川 鉄太郎 保坂 拓志 菅原 博 馬塲 久紀 末広 潔 青山 千春 鶴 哲郎 中東 和夫 大西 聡 稲盛 隆穂 井上 則之 大西 正純 黒田 徹 飯塚 敏夫 村田 徳生 菅原 大樹 上田 至高 藤田 和彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

【はじめに】 東京海洋大学では、平成29年度に新設される海洋資源環境学部において、海底および海底下構造を対象とした海底科学に関する実習・教育・研究を行い、我が国の海洋の将来を担う海洋観測人材の育成を目指している。その機能強化の一環として、可搬型海域2次元地震探査システムを新たに導入した。この地震探査システムは、小規模ながら海底下の浅層構造調査に有用な性能を有しており、学生に対する最先端技術の実習・教育の実施と同時に、駿河湾など日本周辺の重要な海域の浅層構造精密調査に有効利用されることを目標としている。2016年11月、我々はこのシステムを東京海洋大学練習船「神鷹丸」に搭載し、初の海域探査試験として静岡県駿河湾での試験航海に臨んだ。本発表は、本学の地震探査システムの概要を紹介し、試験航海とその成果の第一報を報告するものである。【観測システムの概要】 我々は、2016年11月13~19日の期間中、静岡県駿河湾内において、エアガン震源を用いた2次元反射法地震探査および海底地震計を用いた屈折法地震探査の試験を実施した。この地震探査システムは、10ftコンテナ規格の格納庫に入った震源部・コンプレッサー・受振アレイ部、およびPC等の制御・収録システムにより構成される。震源はBolt社製エアガン1900LL(260cu.in) 2基からなるTwin-Gunを 2対擁し、発震時は左右両舷から1対ずつ曳航する。海上受振アレイは、Hydroscience社製デジタルストリーマーケーブル(長さ600m、センサー間隔6.25 m、96チャンネル)と最後尾の測位用テールブイで構成される。システムは全て可搬型になっており、本学練習船「神鷹丸」(総トン数 986トン、全長65 m、幅12.10 m)の後部甲板および室内観測室に設置する。屈折法地震探査では、Geospace社製海底地震計OBXを21台海底に設置した。OBXは近年石油探査などの浅海調査の際に非常に多くの数を海中ロープで接続し、海底に設置し、観測後回収するタイプの海底地震計である。OMNIジオフォン3成分とハイドロフォン1成分の4成分観測ができる。【駿河湾における試験航海】 駿河湾は陸/海のプレート境界に位置し、深部地震活動を正しく理解するためには、精確な海底下構造の情報が必要不可欠である。この地域は東海地震の震源想定域として地震や地殻変動などの観測網整備が重点的に行われているが、海域における詳細な地下構造調査は陸域のそれと比べると多くはない(例えば村上ほか(2016)など)。そこで我々は、本学の地震探査システムの稼働試験およびその調査性能の検証にあたり、駿河湾海域を調査地域とし、2次元反射法および屈折法地震探査による浅部地下構造の精密調査を試みた。調査は、2016年11月13~19日の期間中、駿河湾内の東部・北部・西部の海域に設定した4つの測線(A~D:総測線長約74km)において、3.5ノット程度の船速で曳航し、50m間隔の発震を行った。東部B測線では、Geospace社製海底地震計OBX21台を投入し同時観測した。日本国内において本タイプの海底地震計による海底アレイ観測は、これが初である。また西部D測線では東海大学による海底地震計4台によって同時観測がおこなった。一次解析の結果からは、駿河湾東部A測線(24km)では、ほぼ平坦な海底下に厚さ~200m程度の堆積層があり、その下には陸上延長部の地形と相関を有する地層境界の明瞭な起伏が見られた。駿河トラフ軸を東西に横断する北部C測線(17.5 km)や、東海地震の震源想定域に含まれる駿河湾西部D測線(石花海南部~清水港沖; 32.5km)では起伏の多い海底地形と一部食い違いとみられる構造が見られている。本システムに関わる技術検討および詳細な構造解析については本発表にて報告する。【謝辞】 本調査は、静岡県漁業協同組合連合会、駿河湾の漁業協同組合・漁業者の皆様の多大なるご協力のもと実施することができました。共同研究により東海大学には実習船「北斗」による海上支援を頂き、本学練習船の安全な航行と調査航海にご協力いただきました。また産学共同研究により㈱地球科学総合研究所、ジオシス株式会社の皆様には多岐にわたるご協力をいただきました。心より御礼申し上げます。最後に初めての地震探査試験航海にも関わらず強力なサポートをしてくださった本学の「神鷹丸」乗組員、陸上支援をいただいた海洋観測システム研究センター、船舶運航センターのスタッフに感謝いたします。
著者
原田 智也 西山 昭仁 佐竹 健治 古村 孝志
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

京都・奈良の日記には,明応七年六月十一日(ユリウス暦1498年6月30日)の申の刻(午後3〜5時)に“大地震”と記録されている.また,江戸時代に編纂された史料では,鹿児島県から山梨県にかけて大地震が記録されている.特に,江戸時代初期に書かれた『九州軍記』という軍記物語には(以下,“軍記”と呼ぶ),九州地方における,この地震による大被害が記述されている(ただし,地震の発生時刻は,巳の刻(午前10〜12時)と書かれている).軍記は,明応七年六月十一日の地震から100年以上後に書かれた文学作品であるにもかかわらず,九州における地震被害の記述は,多くの地震学者に無批判で受け入れられ,この地震の震源を推定するための情報として重要視されてきた.宇佐美(1987)は,軍記における記述の信頼性は低いとしながらも,京都およびその以東で申の刻に記録された地震と,軍記に記述された巳の刻の地震とを別々の地震と考え,巳の刻の地震の震央を日向灘に推定した(M7.0〜7.5).ただし,震央の精度は100km程度としている.都司・上田(1997),都司(1999)は,軍記の被害記述の一部を津波の描写であるとし,また,中国上海における同日の水面動揺(宇津,1988)も同じく津波であると考え,六月十一日の地震を,同年八月廿五日(9月11日)に発生した明応東海地震に先行した南海地震であると主張した.石橋(1998,2002,2014)は,軍記の記述と上海の水面動揺を津波とする解釈には無理があることを指摘し,さらに他の史料の精査により,六月十一日の地震は南海地震でありえないとした.なお,石橋(1998,2002,2014)は,この地震が,1909年宮崎県西部の地震(M7.6)のような,九州下のスラブ内大地震である可能性もあるとしている.また,「[古代・中世]地震・噴火史料データベース(β版)」では,「14~16時頃に京都で強い地震の揺れを感じた。被害は記録されていない。三河の堀切や熊野地方の新宮も強く揺れた模様。この日午前10時頃に日向灘で大地震が起きて九州で大災害とする説があるが、根拠とする『九州軍記』の記事は疑問である。」という綱文が立てられている.以上のように,この地震の震源について議論が続いているが,この議論を解決するには,九州における地震被害の有無を検討する必要がある.そのためには,軍記における被害記述の信頼性を確かめる必要があるので,本研究では,軍記の成立過程と被害記述の検討とを行った.その結果,以下の理由により,軍記における被害記述の信頼性は非常に低いと考えられ,明応七年六月十一日の地震による九州での大被害の有無は不明,あるいは,無被害である可能性も高いことが分かった.したがって,六月十一日巳の刻の地震が日向灘の大地震であるという説は再考が必要である.(1)地震被害の記述には,具体的な地名が無く,大地震による一般的な被害の描写である印象を受ける.(2)被害記述後に,過去の大地震が列挙されているが,このことから作者が過去の大地震を調べることができたことが分かる.よって,明応七年六月十一日の地震も,年代記等から調べられた可能性がある.(3)誇張された地震発生時刻に関する記述から,この地震が巳の刻に発生したと読めるが,この時刻は,明応東海地震の発生時刻である辰の刻に近い.実際,同時代史料である『親長卿記』や『塔寺八幡宮長帳』では,明応東海地震の発生時刻を巳の刻としている.したがって,軍記の作者が,明応東海地震と六月十一日の地震を混同していた,あるいは,混同して記された史料に基づいて,六月十一日の地震を描写した可能性がある.(4)地震の記述がある章は,明応七年に終わる章と永正二年(1505年)から始まる章との間にあり,文亀三年(1503年)の大飢饉と,度重なる災害による人々の苦しみも記されている.したがって,この章は後に続く物語の舞台設定の性格が強く,地震被害も物語を盛り上げるための創作である可能性も考えられる.(5)軍記には,僧了圓による慶長十二年(1607年)四月と記された序がある.序によると,軍記は,肥前国松浦郡草野村(現福岡県久留米市)において,烏笑軒常念(文禄四年(1595年)没),草野入道玄厚によって書き継がれ,慶長六年(1601年)に完成した.また,軍記完成から約250年後の史料であるが『橘山遺事』によると,了圓も軍記の修正と補筆を行っていたようだ.よって,玄厚(と了圓)は,文禄五年(1596年)の慶長豊後地震を近くで体験していると考えられ,その体験や情報が軍記の記述に影響した可能性も考えられる.本研究は,文部科学省委託研究「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の一環として行われた.
著者
Hartmut Wziontek Reinhard Falk Sylvain Bonvalot Axel Ruelke
出版者
日本地震学会学, 日本測地学会学長
雑誌
IAG-IASPEI 2017
巻号頁・発行日
2017-07-11

After about 10 years of successful joint operation by BGI and BKG, the International Database for Absolute Gravity Measurements "AGrav" was under a major revision. The outdated user interface was replaced by a responsive, high level web application framework based on Python and built on top of Pyramid.Functionality was added, like interactive time series plots or a report generator and the interactive map-based station overview was updated completely, comprising now clustering and the classification of stations. Furthermore, the database backend was migrated to PostgreSQL for better support of the application framework and long-term availability.As comparisons of absolute gravimeters (AG) become essential to realize a precise and uniform gravity standard, the database was extended to document the results on international and regional level, including those performed at monitoring stations equipped with SGs. By this it will be possible to link different AGs and to trace their equivalence back to the key comparisons under the auspices of International Committee for Weights and Measures (CIPM) as the best metrological realization of the absolute gravity standard. In this way the new AGrav database accommodates the demands of the new Global Absolute Gravity Reference System as recommended by the IAG Resolution No. 2 adopted in Prague 2015.The new database will be presented with focus on the new user interface and new functionality, calling all institutions involved in absolute gravimetry to participate and contribute with their information to built up a most complete picture of high precision absolute gravimetry and improve its visibility. A Digital Object Identifier (DOI) will be provided by BGI to contributors to give a better traceability and facilitate the referencing of their gravitysurveys.BGI mirror site : http://bgi.obs-mip.fr/data-products/Gravity-Databases/Absolute-Gravity-data/BKG mirror site: http://agrav.bkg.bund.de/
著者
Yasuyuki Kano Yuta Hashimoto Ichiro Nakanishi Junzo Ohmura Tama Amano Tomoyo Kuba Haruno Sakai Kazuyuki Ito Yoko Odagi Makiko Nishikawa Haruo Horikawa Kazuya Mizushima Ryoichi Yasukuni Munehisa Yamamoto
出版者
日本地震学会学, 日本測地学会学長
雑誌
IAG-IASPEI 2017
巻号頁・発行日
2017-07-11

We have launched Web-based transcription project “Minna de Honkoku" in January, 2017. The URL is https://honkoku.org/. “Minna de Honkoku" is also the name for Web application to realize this online transcription project. The study of historical earthquake is based on historical documents. In Japan, almost all of the documents are written in Kuzushi-ji. Kujzushi-ji is writing style used before ~1900. Since the style is different from that of modern Japanese, transcription is necessary to use the historical documents as data for earthquake research. Catalogs of historical records such as "New collection of materials for the history of Japanese earthquakes" has been published and used for earthquake research. Although huge number of historical documents survives, the majority of the documents left untranscribed. We loaded 114 historical documents included in the Ishimoto correction in Earthquake Research Institute Library, the University of Tokyo. We planned to start the transcription project with historical document describing past earthquakes on "Minna de Honkoku," although the application can be used for any type of historical document. "Minna de Honkoku" consists of viewer of document image and vertical (Japanese-style) editor for transcription. Users can input transcribed texts viewing its image. The ranking of words transcribed is displayed to keep motivation of users. The edit history and online bulletin board are implemented to enhance communication between users. The application is inked to Kuzushi-ji Learning Application, KuLA developed by Osaka University. Transcription has been completed for 29 documents out of total 114 documents in 3 weeks. Total number of inputted character is about 700,000. To finish the transcription of 114 earthquake-related historical document is the main goal of the project. In addition, the Web-based project may attract people who are not interested in local earthquake history and natural disaster.