著者
堀 成美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.82-83, 2018-01-01

2017年1月6日の産経新聞に「国保悪用の外国人急増 留学と偽り入国,高額医療費逃れ 厚労省,制度・運用見直し検討」という記事が掲載された.2016年に筆者が参加した外国人患者受け入れ体制整備関連のセミナーでも,「健康保険証の不適切な使用事例がある」というフロアからの同様の指摘があった. 外国人に限らず,健康保険証の偽造や不適切な使用による診療報酬詐欺といった事件は,メディアでも何度も報じられている.外国人患者が増えると,このような問題が増えるのではないかという指摘は当初からあった.在留・訪日外国人が増えるなかで,今後,医療機関が経験するかもしれない健康保険証をめぐる問題のパターンとその対処について紹介したい.
著者
豊倉 康夫
出版者
医学書院
雑誌
神経研究の進歩 (ISSN:00018724)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.425, 1967-08-25

Von Economoがいわゆる嗜眠性脳炎についてはじめて記載したのは1917年(大正6年)5月であるが,これは1916年の冬から翌年にかけてウィーン市に突如として流行した原因不明の脳炎についてである。1918年以降,流行はドイツ,英国,北米に拡がり,ほとんど全世界を席捲するに至つた。 わが国では大正8年(1919年)長野,新潟各地で髄液透明,ワ氏反応陰性で嗜眠,眼瞼下垂,複視などの脳症状を示す疾患の流行があり,田中清氏が同年10月5日の「日本之医界」誌上に嗜眠性脳炎として報告されている。また稲田竜吉教授が同年「実験医報」に東京地方の流行について「急性脳炎」として説かれた所論がある。日本におけるこれらの脳炎様疾患がエコノモの記載したものと同一疾患てあつたか否かについては,問題は必ずしも解決したわけではない。ただ明らかなことは大正13年(1925年)夏期に大流行があり,以後常にわが国において重大な問題となつた日本脳炎(Japanese B Encephalitis)とは異なつたものであること,そして不思議なことに1926年を境として激減の一途を辿り1930年代には事実上姿を消してしまつたということである。のみならず,興昧あることはエコノモ型脳炎の後遺症としてパーキンソニズムの発症がはなはだ高率であり,この古典的な脳炎後パーキンソン症候群も1935年以後の新しい発症がほとんどみられなくなつたという事実である。
著者
八尾 隆史 津山 翔 赤澤 陽一 上山 浩也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1088-1094, 2019-07-25

要旨●十二指腸粘膜は正常では小腸型粘膜であるが,異所性胃粘膜や胃上皮化生をしばしば伴い,十二指腸で発生する腫瘍は腸型および胃型形質ともに存在することから,胃と同様の病理診断基準を用いることが可能と考えられる.早期病変の観察に基づく経験から導かれた病理診断基準に,胃上皮性腫瘍の形質発現や細胞増殖動態,遺伝子異常などのエビデンスを加え,構造異型の乏しい高分化上皮性腫瘍の病理組織学的診断基準(腺腫と癌の鑑別診断基準)をここで提唱する.
著者
コマロフ アンソニー 高橋 良輔 山村 隆 澤村 正典
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.41-54, 2018-01-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は6カ月以上持続する疲労感,睡眠障害,認知機能障害などを生じる疾患である。ME/CFSは自覚症状により定義されているため疾患概念そのものに対する懐疑的意見もあるが,近年の研究では神経画像,血液マーカーの解析,代謝,ミトコンドリアなどの研究でさまざまな客観的な異常が報告されている。特に脳内外での免疫系の活性化がきっかけとなり,炎症性サイトカインが放出されることで病気が発症する可能性が指摘されている。この総説ではME/CFSについての客観的なエビデンスを中心に解説する。
著者
川崎 涼子
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.433, 2018-05-10

本書を読めば多変量解析の手法だけではなく,統計学としてデータを扱う際の基礎的な考え方や,データの扱いといったプロセスをよく理解できる。近年,多くの看護学研究において多変量解析が用いられているが,その基本的な考え方や手法が非常に明快に記載されている。 まず,第1章では,変数となるデータの種類を踏まえてデータの分布,代表値について丁寧に述べられており,初学者には特に貴重である。
著者
福永 真治
出版者
医学書院
雑誌
検査と技術 (ISSN:03012611)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.1397-1398, 2012-11-01

子宮内膜症(endometriosis)とは子宮内膜が異所性にみられる病変で,卵巣,卵管,骨盤内組織などに発生することが多い.子宮筋層にてみられる場合は腺筋症(adenomyosis)と呼ぶ.この異所性内膜組織は本来の内膜と同様に周期性を示す.卵巣では血性内容を容れる囊胞を形成し,チョコレート囊胞とも呼ばれる.子宮内膜症は,組織学的には内膜腺とその周囲の内膜間質組織よりなり,ヘモジデリンを貪食した組織球の浸潤を伴うことが多い.内膜腺がなく内膜間質成分よりなる子宮内膜症を間質内膜症(stromal endometriosis)という.本来,子宮内膜症は女性特有の疾患であるが,極めて稀に男性においてみられる.報告は英語論文で10例以下であり,その多くは泌尿生殖器組織である1~7). 傍睾丸に発生した自験例1)を紹介する.患者は69歳の男性で,左陰囊水腫の臨床診断のもと両側除睾術が施行された.本患者は9年前に針生検により前立腺癌(腺癌,Gleason score:4+5=9)と診断され,その後今回の手術まで長期の女性ホルモン療法を受けている.手術検体は,肉眼的に左睾丸は5.2×3.1×3.0cm大,多囊胞性で血性の漿液性内容を容れる.囊胞壁には出血,ヘモジデリンの沈着をみる.睾丸実質は高度の萎縮を呈す(図1).組織学的には囊胞内壁はほぼ一層の円柱状細胞で被覆される.間質では子宮内膜間質細胞に類似した均一な小型類円形細胞の増生,豊富な毛細血管,ヘモジデリンを貪食した組織球の浸潤が観察される(図2).その中に少数の小型腺管状の構造を認める.免疫組織学的には,囊胞の被覆細胞と小腺管組織はCAM5.2,vimentin,calretininに陽性,estrogen receptor,progesterone receptorは陰性であり,上皮細胞ではなく中皮細胞と考えられる.一方,間質細胞はCD10,estrogen receptor,progesterone receptorが陽性であり,内膜間質細胞と考えられる.部位,組織像,免疫染色より陰囊水腫の壁に出現した傍睾丸の間質内膜症と診断される.
著者
武村 雪絵
出版者
医学書院
雑誌
看護管理 (ISSN:09171355)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.446, 2018-05-10

まるで講義を受けているような奥深さ 統計解析の解説本・指南本はこれまでにたくさん購入してきました。自分が研究をする際に,理解不足のまま多変量解析をして見当はずれな結論を導くのは怖いと思っていましたし,論文を読む際も,図表を読み取れず書かれていることを鵜呑みにするのは避けたいと思っていたからです。 多くの書籍を購入してきましたが,書店で本書を見つけてパラパラとページをめくった瞬間に購入を決意しました。感想を一言で言えば,「買ってよかった!」「読んでよかった!」。本書は,変数の種類と組み合わせで機械的に正しい解析方法を選ぶといった,従来の入門書とは全く違います。著者の講義を受けるかのように,丁寧により深く,しかも面白く多変量解析を学ぶことができます。
著者
太刀川 弘和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1025-1032, 2021-07-15

抄録 本稿では,コロナ禍前(プレコロナ),コロナ禍中(ウィズコロナ)にわけて日本と世界の自殺者数の推移や現況を各種統計から概観した。プレコロナでは,1998年以後14年にわたり年間自殺者数3万人以上の状態が続いていたが,2009年より減少傾向となった。それでも世界と比較すれば,日本はOECD加盟国では6位,G7では1位の自殺率であり,年次推移も世界の自殺率減少のトレンドに及ばなかった。ウィズコロナの2020年,日本の自殺率は11年ぶりに増加し,特に女性,若年層,医療従事者,飲食店関係者など,コロナ禍に関連して社会経済生活にストレスが生じた層の自殺者数が増加した。現在までにコロナ禍と直接関係づけられる自殺者数増加が報告されているのは,日本の他世界的に少ない。ポストコロナにおいて自殺者数増加を抑止するためには,精神保健福祉システムの強化やレジリエンスを高める教育システムの強化が喫緊の課題と思われる。
著者
風野 春樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.588-589, 2003-06-01

伝染する精神病,というものがあることを知っていますか? 妄想を持った人物Aと,親密な結びつきのある健常者Bが,あまり外界から影響を受けずにいっしょに暮らしている場合,AからBへと妄想が感染し,妄想を共有することがあるのです.これを感応精神病,またはフォリアドゥ(folie à deux)といいます.フォリアドゥとは,フランス語で「2人の精神病」という意味です. たとえば,堀端廣直らによる「Folie à deuxを呈し“宇宙語”で交話する一夫婦例」という文献の例をみてみましょう.
著者
井上 義郷
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.22, no.12, pp.667-672, 1958-12-15

I.ゴキブリの害虫化について ゴキブリは俗にアブラムシとも呼ばれ,直翅目,ゴキブリ亜目に属し,わが国に分布を記録されているその種類は,琉球,小笠原諸島のものまで含めますと5科22種となります。そのうちの大部分の種類は野外に棲息しているもので,われわれの生活と直接的な関係をもちません。事実上衛生害虫として問題となる種類は,ビルの事務室や飲食店などで広く見かけられる黄褐色で小型のチヤバネゴキブリと一般家庭の台所に多い黒褐色の大型の種類です。これには2種類あつて関東以南に主な分布を示すクロゴキブリと,関西から北で秋田県附近まで知られているヤマトゴキブリです。なお,地域によつてはワモンゴキブリも注意さるべき種類となります。 これらのゴキブリは,いままで,衛生害虫として一般にはあまり問題とされていなかつたものですが,最近,非常に注目されるようになつてきました。特に,近代的な設備を具えた都市のビルや鉄筋アパートでは,ハエや蚊よりも,むしろ,このゴキブリが重要な害虫として登場してきております。その問題点を,まずはじめに,考察することが駆除対策を立てる上に重要だと考えられます。

8 0 0 0 ジンクス

著者
松村 正巳
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.236, 2003-11-30

私が研修医の頃,当直するたびに重症の患者さんが搬送され,上級医から「おまえは,よくつく奴だ」と,言われた覚えがあります.看護師さんからは,「お祓いでも受けたらいいんじゃないの」と言われる始末でした.このコラムをお読みの方のなかにも,同じような経験のある方はいらっしゃいませんか? どの病院にも,患者さんを呼び込む医療スタッフがいるものです.当直中に,重症の患者さんが来院されなければ,ホッとする反面,研修にならず難しいところです. さて,このような,“つく”,“つかない”といった科学的な根拠がないと思われることについても,研究が行われることがあります.例えば,満月と救急患者の数などです.洋の東西を問わず,米国の医師たちも,いわゆるジンクスを気にするようです.Ahn A, et al:“We're jinxed”―Are residents' fears of being jinxed during an on-call day founded? Am J Med112:504,2002は,ちょっとおもしろい論文です.Dr. Ahnは,マサチューセッツ総合病院の医師です.これはシニアレジデントを対象に行われたrandomized controlled trialで,シニアレジデントをジンクス群 (n=33)と,非ジンクス群 (n=36)に分け,on-call dayの入院患者数,睡眠時間,主観的な仕事の困難度(1~5までのスケール)をon-call dayの終わりに報告させて,比較,検討しています.群分けはon-call dayの朝,“You will have a great call day”と書かれた紙が入っている封筒か,何も書いてない紙の入った封筒を選ばせています.もちろん,“You will have a great call day”と書かれた紙が入っている封筒を選んだレジデントは,ジンクス群です.そしてレジデントに対して“You will have a great call day”と,声に出して読み聞かせました.さて,結果や,いかに?
著者
上野 征夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.162-163, 2003-01-10

「寒冷あるいはストレス暴露で,指先が白くなる.これをレイノー現象(Raynaud's phenomenon)という(図1).正式には,白,青(紫),赤の3色の変化をいう.色調の変化はこの順で起こる.白は血管の攣縮,青(紫)は血液の毛細血管,小静脈へのうっ滞,赤は反応性の血管拡張をそれぞれ意味する. 3色変化のうち,2色以上みられることがレイノー現象の定義である.しかし白の1色変化でも,それが著明であればレイノーと呼んで構わない. レイノー現象は,何らかの基礎疾患に伴って起こってくることが少なくない(表1).20歳代の女性では全身性エリテマトーデス,40歳以上では,強皮症,Sjogren症候群,関節リウマチが多い疾患である.レイノー現象が一側性の場合,高安病などの血管炎,頚椎の疾患,肩・手症候群(shoulder-hand syndrome)なども考慮されねばならない.職業病として以前,電動チェーンソーを使って伐採に従事する人に起こり問題となった.薬剤ではβブロッカー,あるいは片頭痛治療薬のエルゴタミン服用者などにみられることがある.
著者
中張 隆司 大黒 恵理子 島本 史夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.57-65, 2011-01-15

はじめに 気道上皮の管腔側膜には多数の線毛が存在し,線毛層の上は気道表面粘液層で覆われている.吸入された異物や微小粒子(細胞破砕物,細菌など)は,気道表面粘液層に捉えられ末梢気道から中枢気道へ輸送され,体外へ排泄される.この気道における異物,微小粒子の排泄機構は粘液線毛クリアランスと呼ばれ,肺の宿主防御機構の一つである1~5).粘液線毛クリアランスは,いわば気道における異物運搬のベルトコンベアーシステムであり,気道表面粘液層はコンベアーベルト,線毛運動はモーターに相当する1~6).気道線毛細胞の機能不全(線毛細胞の消失,線毛運動の低下)は粘液線毛クリアランスの低下を引き起こす1~5).特定の遺伝子の障害により全身の線毛運動(脳室,気道,卵管,輸出精細管,精子)が低下あるいは消失している線毛運動無動症,いわゆるKartagener症候群(内臓逆転症,副鼻腔炎,気管支拡張症)では重篤な呼吸器疾患を合併してくる1,4,5). これまでの研究で,気道線毛運動は様々な物質(アセチルコリン,ホルモン,ATP,Ca2+,cAMP,cGMP)により活性化され2,4,6~10),また様々な因子(細胞容積,浸透圧,細胞内Cl-濃度など)により修飾を受けることが明らかにされている9,10).日常診療に広く用いられているβ2刺激薬も気道線毛運動を活性化する薬剤の一つである7,10). 一方で,気道線毛運動周波数(ciliary beat frequency;CBF)は8~25Hzと非常に早く,これまで光散乱など,CBFを測定するいくつかの方法が用いられてきたが,様々な制限があり測定そのものが難しかった2,4).近年,ビデオ光学機器(光学顕微鏡を含む)と高速度カメラの発展により,高時間分解能(1/500~1/1,000秒)で線毛運動の観察記録が可能になった6,8,11).本稿では,われわれが数年前から行ってきた高速度カメラを用いた気道線毛運動の解析結果を紹介する.
著者
立木 孝
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.570-572, 2005-07-20

ベートーベン(Ludwig van Beethoven)は若くして難聴になり,その難聴はあらゆる治療に逆らって進行を続け,50歳を超える頃にはほとんど聾になっていたという。1824年5月7日,ウイーンで行われた「第九交響曲」初演の際,指揮者の1人として聴衆に背を向けていたベートーベンは,演奏が終わったときの熱狂的な拍手に気がつかず,歌手の一人に促されて振り返り,初めてその成功を知ったといわれている。このベートーベンの難聴の原因が何であったかについては,少なからざる論文や記述があるが,定説は得られていないようである。 1964年,ドイツ留学中であった私は,1日,ボンのベートーベン・ハウスを訪れた。ベートーベンの生まれた家が記念館となって,デスマスクやピアノ,そのほか数々の遺品や記念品を展示していたのである(図1,2)。ベートーベンが生まれたのは,3階屋根裏の小さな部屋で,そこにはベートーベンの胸像が1つ,ポツンと置かれていた(図3)。数々の展示物のなかには,メトロノームの発明者Mälzelがベートーベンのためにつくったといわれる4個の補聴器もあった(図2,4)。若い女性のガイドがいて,いろいろと説明してくれていたが,補聴器については,難聴が進行するにしたがって大きなものに変えなければならなかったと説明した。私はそのガイドに,ベートーベンの難聴の原因は何だったのかと訊ねてみた。若い女性のガイドは,一言,“Otosklerose”と答えた。

8 0 0 0 あとがき

著者
高倉 公朋
出版者
医学書院
雑誌
Brain and Nerve 脳と神経 (ISSN:00068969)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.419, 1982-04-01

最近悲しい計報が続いている。脳神経外科学会長を勤められた,札幌医科大学の橋場輝芳前教授と群馬大学川淵純一教授が相次いで亡くなった。御二人とも,我が国の脳紳経外科学発展のために,その生涯を捧げられたにとであった。 何よりも,私共にとって残念であったのは,川淵教授をはじめ,脳神経外科学会の若く前途ある医師が,昭和57年2月8日早朝のあの忌わしいホテルニュージャパンの火災によって不帰の旅路へと立たれたことであった。川淵教授は、すべての医療は患者のためにあり,患者の幸せだけを基本に考えて,診断も治療も,また研究も出発すべきことを常に説かれ,私共後輩にも教えられてきたのであった。その先生の理念が,我が国の脳神経外科学の進歩を正しい方向に向けてきた一つの原動力であったことは間達いない。
著者
上田 香織 中村 誠
出版者
医学書院
雑誌
臨床眼科 (ISSN:03705579)
巻号頁・発行日
vol.71, no.12, pp.1666-1670, 2017-11-15

はじめに レーベル遺伝性視神経症(Leber hereditary optic neuropathy:LHON/OMIM#535000)はミトコンドリアの点変異による急性ないし亜急性の視神経症である。典型的には片眼の急激な視力低下と中心視野欠損で発症し,数週から数か月の間隔をおいて対側眼に同様の症状をきたす。光覚を失うことは稀で,多くは手動弁から(0.01)程度の視力で経過するが,ごく少数の症例で自然回復がみられる1)。 LHONはミトコンドリア疾患のため母系遺伝し,これまで10〜20歳代の若年男性に好発するとされてきたが,近年は高齢者での発症報告例が増加してきている。本邦でのこれまでの疫学調査では,1995年にHottaら2)が11778変異の患者の発症年齢の平均値を23.4歳と報告していたが,2014年の新規発症患者を調査したところ,発症時の平均年齢は33.5歳とこの20年で10歳上がっており,40歳代以上の中高年の患者は全体の40%以上を占めていた(図1)3)。本邦ではこれまで正確な患者数も把握されておらず,統計的に予測値を算出するにとどまっていたが,2016年に指定難病となり,今後は疫学調査も進むことが期待される。 LHONでは95%以上の症例でmtG3460A,mtG11778A,mtT14484Cのいずれかの一塩基置換が検出される。これらはprimary mutationと呼ばれるが,すべて呼吸鎖複合体Ⅰを構成する蛋白をコードしている。遺伝子変異によって複合体Ⅰの機能不全をきたし,網膜神経節細胞のアポトーシスに至ると考えられているが,なぜ網膜神経節細胞のみにこのような変化が起きるのかはわかっていない。また,発症には何らかの環境因子が酸化ストレスとして関与していると予想されており,疫学調査では喫煙や大量のアルコールの摂取がリスクファクターであることが示唆されている4)。 現在有効な治療法は確立されていないが,眼血流を改善する目的で点眼薬やビタミンBなどのサプリメントが用いられることがある。また近年,LHONをはじめとするミトコンドリア病に対しコエンザイムQ10誘導体である,イデベノンの内服が有効であるというデータが蓄積されつつある。変異遺伝子を正常のものと置き換える,または正常遺伝子を導入して呼吸鎖の機能を回復あるいは補塡する,といった遺伝子治療も試みられている。 本稿では,主にイデベノンと遺伝子治療に関する最近の臨床試験の成績について述べる。
著者
宮内 倫也
出版者
医学書院
雑誌
総合診療 (ISSN:21888051)
巻号頁・発行日
vol.27, no.9, pp.1182-1187, 2017-09-15

Case日常型の心的外傷を有する一例患者:23歳、女性。発達に特記事項なし。小学校から大学まで、交友関係は平穏であった。現病歴:大学卒業後に、就職し働いていた。仕事中に泣いていることがあり、同僚が心配して受診を勧めた。診察中に本人から自発的には語られなかったが、医師から「昔あった嫌な記憶がフッと湧き出して、つらくなることはないか」と問うたところ、「入社当時に部長から大声で怒られたことを、突然思い出しちゃう。忘れようとしてもできなくてつらくて、夢にも出てきてうなされる」と話した。「そのようなつらいことがあれば、苦しくなるのも無理はないだろう。そのなかで頑張っているし、よく話してくれた」とねぎらい、四物湯と桂枝加竜骨牡蛎湯を2包/日ずつ処方した。4週間後には改善しており、表情にも優雅さが戻ってきた。
著者
堀端 廣直 郭 哲次 坂口 守男 小野 善郎 百渓 陽三 吉益 文夫 東 雄司
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.297-302, 1995-03-15

【抄録】夫婦の間で約5年間持続した二人組精神病について報告した。二人で鍼灸治療所を開いていたが,妻が宇宙からの通信を受け始め,被害妄想も生じた。1か月後には,夫も宇宙からの通信を受け始め同様の妄想を持った。 夫婦は,鍼灸業は停止し,近隣から孤立していった。約2年後に夫は“宇宙語”と称する言葉をしゃべり始め,その半年後には妻も同調し,“宇宙語”による夫婦間の交話が約2年間続いた。二人は不穏行為などで,トラブルを頻繁に起こしていたが,夫の父親が近所の人々からの苦情などに対応し,当人たちに経済的援助もしていた。夫婦の精神科治療への導入は困難であったが,通行人への暴力行為を契機として,妻が措置入院となり約4か月後,軽快退院した。夫は妻との分離後,約3週間目には妄想をなくしていた。感応の成立過程とその方向,“宇宙語”での交話によって夫婦の共生的関係が強くなり,父の庇護により二人の感応精神病が持続したことについて考察した。