著者
秦 公正
出版者
法学新報編集委員会
雑誌
法学新報 (ISSN:00096296)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3-4, pp.105-129, 2016-08-30

共有物分割の訴えにおいて全面的価格賠償の方法による分割を認めた最判平成八年一〇月三一日民集五〇巻九号二五六三頁の登場から二〇年が経過しようとしている。その後の裁判例は、全面的価格賠償の方法による分割を命じる場合に、持分にかわる賠償金の支払いを確保する観点から裁判所の裁量による多様な判決を認めるに至った。具体的には、当事者の申立て(訴え)なしで、現物取得者に賠償金の支払いを命じるもの、持分の移転と賠償金の支払いとの引換給付を命じるもの、あるいは、賠償金の支払いを条件に現物の単独所有を命じるものなどである。本研究は、共有物分割の訴えにおいて全面的価格賠償の方法による分割が問題となった近時の裁判例を整理して、その動向を明らかにすることを目的とする。
著者
森山 央朗
出版者
東洋文庫
雑誌
東洋学報 = The Toyo Gakuho (ISSN:03869067)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.413-440, 2009-03

The many Arabic local histories compiled between the latter part of the 10th and the first half of the 13th century AD throughout the Islamic World mainly consist of “who’s whos” among ‘ulamā’ (specially ḥadīth scholars) associated with the regions concerned. This article calls these histories “biographical local histories.” The research to date has discussed the biographical local histories in the context of the evolution of Muslim biographical writing and historiography or has utilized them to study the social history of the regions in question. However, little attention has been given to the reasons for compiling the histories and the bibliographical character the genre.Given such a gap in the research, the goal of this article is to clarify the characteristic features of the biographical accounts contained in the histories, which should be the starting point for describing the actual condition of the academic activities of ‘ulamā’s who took on the task of popularizing their compilation.As a result of his analysis of the content, the author discovers that the biographical accounts in the biographical local histories do not describe the local activities of the characters depicted, only the usual activities of any ‘ulamāʼ or ḥadīth scholar relating to the learning and transmission of the ḥadīths and other Islamic knowledge.Therefore, the purpose of compiling the biographical local histories was to provide information to ḥadīth scholars of other regions about the academic careers and evaluation of the ḥadīth scholars associated with the region in question. In other words, these histories were compiled for the benefit of, and embedded in ‘ulamā’ academic activity all over the Islamic World. The author concludes that the popularization of compiling these biographical local histories was a phenomenon that occurred as part of the general interregional intellectual activities of ḥadīth scholars of the time.
著者
武田 素子 千葉 朋美
出版者
国際交流基金
雑誌
国際交流基金日本語教育紀要 = The Japan Foundation Japanese-Language Education Bulletin (ISSN:13495658)
巻号頁・発行日
no.15, pp.39-54, 2019-03

国際交流基金が運営している日本語学習のためのプラットフォーム「JFにほんごeラーニングみなと」では、日本のことばと文化を総合的に学ぶ「まるごと日本語オンラインコース」を開講している。本稿では、初年度はA1のみであった「まるごと日本語オンラインコース」にA2のコースを追加するにあたり、ユーザーがいつでもオンライン上で気軽に受けることができ、自身の日本語能力にあったコースを選ぶための目安となるよう開発した「おすすめコース診断テスト」の開発過程について述べる。本テストは「もじとことば」「かいわとぶんぽう」「ちょうかい」「どっかい」の4セクションで構成され、問題はCEFRを参照し、各コースで扱われているCan-doから出題するのに相応しいものを選定しながら作成した。本テストの受験者7307名のデータを分析した結果、高い信頼性が得られ、ユーザーにとってコース選びの一助となり得ることがうかがえた。
著者
瀬戸 敦子
出版者
岐阜女子大学
雑誌
岐阜女子大学紀要 = BULLETINOFGIFUWOMEN’SUNIVERSITY
巻号頁・発行日
no.50, pp.53-59, 2021-02-25

岐阜を代表する観光資源である長良川鵜飼は,ユネスコ無形文化遺産登録へ向け様々な分野からの研究が行われている。また,より多くの観光客を呼びこむための取り組みが行われているが,一方で新たな観光的魅力を探る必要性も叫ばれている。本論では,その一つの起点として,国際観光資源であった長良川鵜飼を1922年当時の英国皇太子エドワードが観覧した時の様子を考察したものである。
著者
菅根 幸裕
出版者
千葉経済大学
雑誌
千葉経済論叢 = CHIBA KEIZAI RONSO (ISSN:21876320)
巻号頁・発行日
no.64, pp.一-四七, 2021-06-01

筆者は近世における俗聖、特に空也聖の実態について、京都市空也堂の史料を中心に分析してきた。そうした中、なぜ俗聖が空也堂と本末を結んだのかがポイントとしてきた。本論は、六歳念仏講と末流(茶筅・鉢屋)を中心に、空也聖の近世から近代への変容を考えてみたい。 特に空也堂配下が一堂に会した歴代天皇の焼香式については、その記録を詳細に分析したいと考えている。そのうえで空也堂と六斎念仏講及び末流が本末を結ぶことのメリットは何であったのかを考察するものである。言い換えれば、空也堂はなぜ歴代天皇の焼香式を行ったのか、六斎念仏講や末流がこれに供奉することでどのような特典があったのかを分析してみたい。
著者
塚常 健太 黒川 茂莉
雑誌
じんもんこん2018論文集
巻号頁・発行日
vol.2018, pp.39-46, 2018-11-24

日本の苗字はその由来と地域性の点で多様性があり,由来に関する文献学的研究および地域性に関する統 計学的研究が行われてきた.しかしながら,苗字の由来を考慮した定量的分析を行っている研究は少ない. 本論文では,苗字の由来に関連すると考えられる植物の名前が含まれる苗字(植物苗字)に着目し,その統 計学的分析を行う.電話帳に基づく苗字統計の Web サイトより収集した上位1万位の苗字データを用い,漢 字辞典を基に植物苗字の分類を行った.その結果得られた1,154種の植物苗字を対象とし,非植物苗字との 比較も行いながら地域的な偏りに関する統計的傾向を明らかにした.さらに,その地域的偏りの要因をマル チレベル分析により分析し,植生分布が正の影響を及ぼすことなどが分かった.
著者
渡辺 扇之介 渡邊 芳英 Sennosuke Watanabe Yoshihide Watanabe
出版者
同志社大学理工学研究所
雑誌
同志社大学理工学研究報告 = The Science and Engineering Review of Doshisha University (ISSN:00368172)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.166-170, 2013-07-31

組合せ最適化問題の多くは,線形計画問題として定式化することができるため,それぞれの問題に合った組合せ論的アルゴリズムだけでなく,線形計画問題におけるアルゴリズムを使っても解くことが出来る.本論文で取り上げる最適化問題は,フローネットワークにおける最適化問題の代表例である最短路問題と最長路問題である.最短路問題とは重みが最小となる道を求める問題で,最長路問題とはその逆に,重みが最大となる道を求める問題である.本研究の目的は,最短路問題と最長路問題の線形計画問題としての定式化と,最長路問題を解く組合せ論的アルゴリズムを見つけることである.本論文では,最短路問題の線形計画問題としての定式化は与えるが,最長路問題については,線形計画問題としてではない定式化を与えるにとどまる.最長路問題については,組合せ論的アルゴリズムを与える.
著者
田村 美由紀
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ (ISSN:24343110)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.173-188, 2021-03-31

本稿は、口述筆記創作における〈男性作家―女性筆記者〉というジェンダー構成に着目し、近代作家を取り巻くケア労働の問題の一端を明らかにするものである。公的領域における自律した主体概念と密接に絡みつく形で周縁化されるケア労働の問題は、作家の有名性の陰でシャドウワークとして扱われてきた女性筆記者の不可視化の構造とも通底している。 本稿では、まず作家という職業において公的領域と私的領域との境界確定がいかにおこなわれているのかを確認し、特に女性筆記者の営為が評価の対象から取りこぼされ、搾取される構造をケアの論理と重ねて整理した。そのうえで、実際に谷崎潤一郎の筆記者を務めた伊吹和子(1929 ~ 2015 年)の回想記の記述を導きに、口述者と筆記者との交渉の実態や口述筆記の現場に生じる摩擦や軋轢のありようを具体的事例として検討した。特に、伊吹が筆記者としての自身のスタンスを示すなかで繰り返す「〈書く機械〉になる」という自己認識に焦点を当て、自らの立場を非人格化した無機質なライティング・マシーンに重ね合わせる一見受動的な自称が、女性が労働する身体として主体化する際の戦略的な構えであると同時に、 筆記者の役割を矮小化する評価構造への抵抗にも繋がることを指摘した。 また、〈書く機械〉として伊吹が口述筆記の現場に参画することが、谷崎が〈小説家になる〉 という生成変化と表裏一体に立ち上がるものであることを考察した。これは、支配や抑圧といった紋切り型の言葉で表象されざるをえなかった口述者と筆記者との固定化した主従関係に風穴を開け、ケアの実践に根ざした関係性のなかにその営みを位置づけるうえで有効な視角となる。伊吹の言葉から谷崎との相互依存性を読み取ることで、口述筆記創作の現場を口述者と筆記者双方におけるアイデンティティの形成と承認の空間として捉えることが可能になると結論づけた。
著者
関口 浩之
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.1076-1083, 2019-10-15

欧米圏では2010年頃から流行しているWebフォント.Webフォントとは閲覧デバイス側のフォントを使用せず,Webサイトで指定した書体をクラウドサーバから受信し,そのフォントで閲覧できる仕組みである.アルファベット言語と異なり,日本語は文字数が1万字以上と膨大であり,日本語Webフォントはデータが重たくて流行らないと言われていた.それら課題を克服した経緯が分かる.情報基盤であるフォントの歴史観点からディジタルフォントを学ぶ.