著者
藪田 貫 陶 徳民 大谷 渡
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の成果は、つぎの3つからなる。第1にアリス・ベーコンJapanese Girls and Women『日本の女性』の翻訳である。翻訳は初版本全10章のうち第5章、日本の女性の一生に関する部分までの翻訳を終え、本成果報告書に収めた。6章以下に天皇・皇后をはじめとする身分ごとの女性に関する叙述が続くが、それについては時間的な制約から、期間内に終えることができなかった。また津田梅子、大山捨松、アリス・ベーコンらの間に交わされた書簡を調査・閲覧することで本書の成立事情を明らかにすることができた。第2に津田梅子の留学、帰国後の津田塾の創設に代表される近代日本の女子高等教育の歩みを、同時代の日本史およびアメリカ史の文脈から位置付け、とくに1984年に発見された屋根裏の手紙など英文の史料から女子教育に生涯を捧げた梅子を通じて明らかにした。第3に津田梅子とともに留学し、生涯、強い姉妹愛に結ばれていた大山捨松・永井繁子らの日本での活動を、「婦女新聞」を通じて明らかにした。女性の社会的地位の向上、女子教育の振興を目指して1900年に発刊された「婦女新聞」は、廃刊となる1942年まで、廃娼運動・職業問題・母性保護・女子教育などを論じたが、そこには梅子・捨松らの投稿記事と並んで、彼女たちに関する記事も頻出するが、これまでこれほど多量に集約されたことはない。これらは梅子たちに関する同時代的証言として、今後の研究の礎石となるものである。本研究の開始に前後して、日本・アメリカ双方で、近代成立期の女子高等教育に関するあらたな研究が進展を見せている。そのような研究潮流に呼応して本研究も成果をあげることができたと総括できるだろう。
著者
鳥居 和代
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、1950~60年代の戦後日本の漁業地域において、家庭や地域を巻き込んだ学校内外にわたる生活指導がどのように展開されたのかを明らかにすることにある。2019年度は、次のような調査研究を行った。第一に、前年度に引き続き、東京大学教育学部図書室において、教育学者の大田堯や千葉県教育研究所が関与した、千葉県房総半島の最南端に位置する漁村における1950年代初頭の教育計画に関する報告書等を調査した。第二に、上記漁村の小学校を事例として、1950年代初頭における標準語教育と方言教育の実践について調査研究を行った。千葉県の館山市立博物館本館所蔵の学校日誌を閲覧するとともに、館山市立図書館において、安房地方の漁村の歴史や方言に関する諸資料を収集した。また、当該時期に収録された安房地方の方言音声資料を入手した。第三に、千葉県の銚子市公正図書館において、銚子の方言に関する郷土史料や、1960年代に漁村の小学校でことばなおしの実践に携わった元教員に関する資料を収集した。とくに、第一と第二の調査研究によって、次のことが明らかになった。すなわち、(1)1950年代初頭の漁村の一小学校では、大田堯らの関与によって、標準語教育の見直しと方言の尊重ということばの実践の深化がみられたこと、(2)当小学校ではやがて標準語か方言かの二項対立を超えて、浜者(漁民)と岡者(漁民以外)との階層的な差異や、それに基づく子ども間の「劣等感」と「優越感」とを解消していくための人間関係づくりの視座が獲得されたこと、(3)その意味において、ことばの指導から生活指導の次元へと向かう実践の方向性が確認できることである。本成果は、教育史学会第63回大会において発表した。
著者
小川 栄一
出版者
武蔵大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究代表者は、2012年度より「江戸語・東京語におけるコミュニケーション類型の研究」のテーマで科研費の交付を受け、現在は2018年度から第2回目の交付を受けている。2019年度における研究実績は次の2点である。(1)式亭三馬『浮世風呂』データベースの作成上記の談話分析を近世後期江戸語資料にも適応すべく、その基礎的な作業として『浮世風呂』データベースをコンピューター上に作成している。『浮世風呂』中の会話を句単位で区切った上で、話し手、聞き手、会話のタイプ、ストラテジーなどの情報を付加して、検索や集計が容易にできるようにしている。近い将来に公表することも予定している。(2)『浮世風呂』における敬語使用の特徴上記データベースを用いて、『浮世風呂』における敬語使用は、主として品格保持のために行われているという予測を立てている。その理由は、『浮世風呂』における敬語は、尊敬語・謙譲語の使用率が低く丁寧語・美化語の使用率が高いこと、年齢の上下関係に基づく使用(年長者には敬語を用い、年少者には用いないということ)とは明確には断言しにくいこと(たとえば、年少者に対する敬語使用が中層・上層では多いこと、完全に上下関係によるものであれば年少者に対する敬語使用はもっと少ないはずである、敬語使用は階層が高くなるほどその率が高くなる傾向が顕著であること、女性の敬語使用率が男性よりも高いこと)などの傾向があるからである。すなわち、『浮世風呂』では階層の高い人物や女性における敬語使用率が高いのであって、年齢や身分の上下関係においては明確な傾向が出ないことから、上下関係に基づく敬語使用よりも、品格保持のために敬語が使用される傾向が顕著と考えられる。これは江戸市民の高い意識に基づくものと考えられる。この結果を数値化した上で、近日中に論文として公表すべく執筆にとりかかっている。