- 著者
-
肥塚 泉
- 出版者
- 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
- 雑誌
- 日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
- 巻号頁・発行日
- vol.117, no.11, pp.1321-1328, 2014-11-20 (Released:2014-12-19)
- 参考文献数
- 9
- 被引用文献数
-
2
眼振には衝動性眼振と振子様眼振があるが, 一般的には衝動性眼振を指す. 前庭性眼振の眼振緩徐相は, 末梢前庭器やその伝達路である前庭神経の障害によって生じた前庭動眼反射のアンバランスによって生じた眼球の偏倚である. 偏倚した眼球位置を, 正中眼位にリセットすることを目的に眼振急速相が続いて生じ, このプロセスが繰り返されることにより眼振が形成される. 前庭性眼振の眼振緩徐相は, 前庭系で受容した情報が, 前庭神経, 前庭神経核, 眼運動核 (動眼神経核, 滑車神経核, 外転神経核) に伝達されて形成される (前庭動眼反射). 良性発作性頭位めまい症 (後半規管型) で認められる眼振は, 回旋成分を有した上眼瞼向きの眼振である. またメニエール病や前庭神経炎, めまいを伴った突発性難聴で認められる眼振は, 水平・回旋混合性眼振である. 一方, 純垂直性眼振や純回旋性眼振は末梢性めまいでは認めることは極めてまれである. これらが認められた場合は, 中枢性めまいを疑う. 眼振急速相発現にかかわるニューロン回路は, 眼振緩徐相のそれとは全く異なっている. 眼振急速相発現の主役は, 同側の眼振急速相に一致して一過性の高頻度発射を示す網様体バーストニューロンである. 水平方向急速眼球運動の核上性機構としては, 傍正中部橋網様体 (paramedian pontine reticular formation: PPRF), 垂直方向急速眼球運動の核上性機構としては, 内側縦束吻側間質核 (rostral interstitial nucleus of MLF: riMLF) が重要な役割を果たしている. 眼振緩徐相から眼振急速相への切り替わりに関しては, burster-driving neuron (BDN) が重要な役割を担っている. 注視眼振は, 神経積分器 (neural integrator) に障害があると出現する. 水平方向眼球運動の神経積分器は, 前庭神経内側核, 舌下神経前位核, 小脳片葉などで構成されている. 垂直方向眼球運動の神経積分器は Cajal 間質核, 舌下神経前位核で構成されている.