著者
野口 宏 加藤 正平
出版者
日本保健物理学会
雑誌
保健物理 (ISSN:03676110)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.49-59, 1985 (Released:2010-02-25)
参考文献数
54

The literature on conversion of tritium gas to tritiated water in various environments is reviewed. The conversion mechanisms and the conversion rates are as follows.1. In the oxidation with oxygen and the isotopic exchange with water, tritium β-rays and metal catalyst are effective. The oxidation rate is -0.02%/day at initial tritium concentration ≤10-2Ci/l and -2%/day at 1Ci/l. In the presence of oxygen and water, it is not clear whether the exchange reaction occurs or not because of the small amount of data.2. For biological conversion, soil microorganisms contribute significantly. The conversion rate is greater than 10%/hr. The tritium gas deposition velocity, which includes the uptake rate of tritium gas by soil and the conversion. rate, ranges from 0.0025 to 0.11cm/sec and is influenced by temperature and moisture of the soil.3. Tritium gas is converted to the tritiated water througn the reaction with hydroxyl radical produced by sunlight in the atmosphere.
著者
井上 孝
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.87-100, 2018 (Released:2018-04-13)
参考文献数
44
被引用文献数
5

筆者は,2015年6月に「全国小地域別将来人口推計システム」の試用版を公開した.このシステムは,小地域(町丁・字)別の長期(2015~2060年)にわたる日本全国の推計人口(男女5歳階級別)を,初めてウェブ上に公開したものである.システム構築にあたっては,小地域の人口統計指標を平滑化する新たな手法を提案した.その後,本システムにはさまざまな改良が加えられ,2016年7月に正規版が公開されるに至った.本稿では,まずこのシステム開発の経緯に言及したあと,システムの理論面の根幹である,新しい平滑化法の概要を述べる.つづいて,推計方法と推計精度を中心に本システムの概要を述べたあと,その操作方法について解説し,最後にむすびに代えて今後の展望を示す.
著者
天野 篤 松下 訓 山本 平 稲葉 博隆 桑木 賢次
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

局所脂肪は隣接臓器の状態を反映するとともにその臓器にも影響を及ぼすことが示唆されている。本研究では動脈硬化性疾患の代表である虚血性心疾患に対する手術の際に皮下脂肪、冠動脈周囲および内胸動脈周囲の3か所の脂肪を採取し解析、脂肪の質にどのような差があるのか検討を行った。一部の炎症性サイトカインや炎症性マクロファージの発現は冠動脈周囲で最も高く、皮下で最も低かった。一方で血管新生関連因子は内胸動脈周囲で最も高かった。線維化マーカーは冠動脈周囲の発現が最も高く、コラーゲンは皮下脂肪で最多であった。このように皮下脂肪と血管周囲脂肪、さらにはその血管の状態により異なる脂肪のプロファイルを示していた。
著者
尾形 幹夫
出版者
一般社団法人 表面技術協会
雑誌
金属表面技術 (ISSN:00260614)
巻号頁・発行日
vol.26, no.12, pp.592-596, 1975-12-01 (Released:2009-10-30)
参考文献数
5
被引用文献数
1

Experiments were carried out to find the mechanism of galvanic displacement: Fe+Cu2+→Fe2++Cu. When iron is immersed in a concentrated copper sulfate solution, e.g., 0.5M, a poorly adherent copper is deposited. In this case FeSO4 or Fe2O3 coprecipitated with the copper because the concentration of Fe2+ near the interface increased rapidly immediately after the immersion. However, atyell adherent copper was deposited by immersion in an acidic dilute copper sulfate solution, e.g., 0.01M, pH 1.5. In this case the rate of copper deposition, namely, the rate of formation of Fe2+ was slow, so that the Fe2+ was permitted to diffuse into the bulk of the solution without precipitating, which was the case of well adherent copper plate. The formulation of immersion plating of copper on iron was: CuSO4 0.0025-0.03M, pH<2.5, room temperature, immersion time 0.5-15min. The copper plating applied under these conditions was adherent to iron, hence copper could be electroplated on it from the ordinary pyrophosphate baths.
著者
北嶋 志保
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2015-03-25

患者中心の医療が進められており,患者が治療に主体的に参加し,治療方法を選択することが求められている.しかし,病気や診断方法,治療方法が複雑であるため,突然病気を患った患者がこれらを正しく理解し,判断,決定することは容易ではない.患者の意思決定や治療に対する積極性を促し,QOL(生活の質)や健康状態に良い影響をもたらすためには,医療に関する必要な情報を取得し,理解,活用する力が患者自身に求められている.ところで,情報化社会の進展に伴い,誰でも容易にインターネット上に情報発信が可能となっている.そのため,インターネット上に存在する患者やその家族によって発信された情報が近年注目されている.実体験に基づく医療情報は患者の不安を軽減させたり,励みとなる可能があることに加えて、大規模かつ即時的な情報は,既存の調査を上回る可能性がある.しかし,人手で膨大なデータから,求める情報のみを取捨選択し,収集するには多大な労力が必要である.また,人手による検索では,悪い面ばかり無意識に注目し収集してしまうといった問題点が挙げられる.したがって,本研究は,インターネット上から得られる患者の実体験情報を自動的,網羅的に収集,提示することで,患者の判断材料や励みとなるシステムの構築を目的としている.近年,自然言語処理技術を用い,医療カルテから薬剤名や病状を特定する研究が進められている.著者も医療カルテやブログ記事を対象とし,薬剤名や症状名などの医療用語の位置を機械学習により特定する研究を行ってきたが,「頭痛」のような症状名は抽出できても「頭が痛む」のように対象と評価のセットで記載された症状については抽出の対象としておらず,また非専門的な表現にも対応しきれていないなどの問題点があった.本研究で著者が対象とするブログ記事も専門家ではない患者やその家族によって書かれたものであるため,専門家によって書かれたカルテに出現する用語や言い回しとは異なる表現が使われることが多いことが問題点として考えられる.そのため,本学位論文は闘病ブログに現れる表現の多様性を損なわず,適切に抽出するシステムを構築して行った研究について述べている.医療情報のなかでも,医薬品は治療において必要不可欠なものであるため,医薬品の効果や付随して起こる副作用についての情報を取得することは,患者にとってよりよい治療につながると考えられる.本学位論文では,目指すシステムの第一段階として,患者によって書かれたブログ記事から,薬剤の服用による変化,効果,副作用を,(薬剤,対象,効果)の三つ組で抽出するシステムの構築・提案を行った.実際にブログに出現する薬剤の効果,副作用に関する記述の特徴を調査し,その際用いられる特定の表現を収集し,手がかりとした.その手がかり語と構文情報を考慮したパターンマッチングにより抽出を行う.専門用語や評価表現に着目した抽出を行わないため,話し言葉で書かれたブログの表現の多様性を保持した抽出が可能であり,例えばこれまで抽出が困難であった擬音語や擬態語で書かれた評価表現も収集することができる点に本研究の独創性がある.ブログに出現する薬剤に関する効果,副作用の記述に対し,手がかり語を用いたパターンの有効性を確認するため,ブログの要約文であるスニペットを対象に評価実験を行った.一般的に意見抽出に用いられるパターンマッチング手法の評価結果と比較したところ,適合率において40.7ポイント高い42.1%という優位性のある結果を示し,本手法の有効性を確認することができた.要するに,従来の意見抽出に用いられる「薬剤名→対象」「対象→効果」(矢印は係り受け関係を示す)がブログに出現する薬剤に関する情報には不適切なことが多く,提案した「薬剤名→効果」「対象→効果」のパターンが適していることが明らかとなった.しかし,再現率は6.2%と低い結果となった.その原因として,大きく2つ考えられる.手がかり語が存在しない,助詞の省略といった理由から要素が存在する場所を特定することの誤りによって出力ミスまたは出力が得られないこと,また抽出された要素が,三つ組の要素として不適切であることである.これらの問題を解決するため,二つの改善手法を提案した.第一に,提案したパターンが当てはまらない場合についても抽出を可能にするため,手がかり語が存在する場合,しない場合について複数のパターンを提案し,それらを組み合わせて抽出を行った.その結果,再現率が24.8ポイント向上し31.0%となり,より柔軟な抽出が可能となったことが示された.また,評価表現は擬音語や擬態語など多彩な表現で記述されることが多いため,評価表現辞書に存在する表現では不十分なことが多い.しかし,薬剤の効果,副作用が現れる対象は身体の部位や感情など,ある程度限定されている.そこで第二に,対象要素の適切性を判断することにより,適合率の向上を図った.薬剤添付文書中に存在する対象要素として用いられる可能性のある単語を収集し,辞書の作成を行った.このようにして作成した辞書をフィルタとして用いることで,適合率が15.8ポイント向上し57.9%となり,対象単語に対するフィルタリングの有効性が明らかとなった.さらに,スニペットのみならずブログ全文を対象とし,システムの有効性を確認した.システムの改善に役立てるため,薬剤の効果,副作用が書かれたテキストの特徴を解析し,複数のパターンに分類されることを示した.今後は,意味解析を用いて文の構文パターンを分類し,最適な抽出パターンを判別,適用すること,照応解析により薬剤名が含まれない文からも抽出を行うこと,モダリティを考慮した抽出が必要であると考えられる.
著者
阿部 和時 黒川 潮 竹内 美次
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
日本地すべり学会誌 (ISSN:13483986)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.225-235, 2004-09-25 (Released:2010-06-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 6

間伐は健全な人工林を成立させ, 良質な木材を生産するために欠くことのできない重要な施業である。近年, 日本の人工林では森林・林業を取り巻く情勢が悪化して間伐を実施することができず, 細い木が林立した立木本数密度の高い人工林が増えている。このような林分では根系の発達が悪く, 森林が持つ表層崩壊防止機能が劣るのではないかとの懸念が強い。このため, 既往の研究をもとに間伐の影響も加えた森林の崩壊防止機能を評価できる方法を提案することを目的とした。ここでは日本の主要造林樹種であるスギの人工林を対象とした。本手法を提案するに当たり, 立木密度1400本/haの間伐林分と3400本/haの非間伐林分における根系分布状態を比較調査した結果, 根の全体積や深さ方向への体積分布, 最大分布深さ等について両者の間に明瞭な違いがなかったため, 根の分布量推定には同じ方法を用いることにした。また, 間伐された木の根が徐々に腐朽して崩壊防止機能が減少する過程を根の引き抜き試験によって調査したところ, 間伐後約10年で根の引き抜き抵抗力は消失することが明らかになった。これらの調査結果を加え, 間伐・非間伐林分における崩壊防止力の変化を評価できる手法を完成した。この手法を用いてシミュレーションしたところ, 強い間伐を多く実施した林分の方が崩壊防止力は低いことが示された。特に, 30~40年生以上の壮齢林における間伐は崩壊防止力の上昇傾向を大きく鈍らせた。しかし, 一般的に間伐が15年生頃から行われることを考えると, 表層崩壊が多発しやすい20年生以下の幼齢林では間伐の影響が現れることはなかった。また, 20年生以上の林分で一般的な強度の間伐が行われても, 斜面安全率が1.0を下回らないことが示された。この結果から, 間伐は病中害や気象害などに強い健全な森林を造成するために実施し, このような健全な森林が形成されることで必然的に崩壊防止機能も発揮されると考えるべきであることを指摘した。
著者
小泉 八雲 牧 滋
出版者
日本幼稚園協會
雑誌
幼兒の教育
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.54-62, 1937-02
著者
石井克哉
出版者
日本流体力学会
雑誌
ながれ (ISSN:02863154)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.411-412, 2008
被引用文献数
2
著者
宇根 寛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

国土地理院は、2015年に内部に地理教育支援チームを設置し、地理教育、地学教育の支援に向けた課題の整理と国土地理院による教育支援のあり方を検討するとともに、具体的な取組みを進めてきた。高等学校に関しては、「地理総合」の必履修化や「地学基礎」の履修率の増加を踏まえて、多数を占める地理や地学を専門としない教員に対する支援が重要である。そのため、「地理教育の道具箱」のページの開設による教育現場に役立つ情報の提供、教員研修等への参加や教科書会社への説明会等を通じて国土地理院が提供する情報を知っていただくこと、地方整備局や気象台などと連携した防災教育の支援、電子基準点が設置されている学校での出前授業の実施などに取り組んでいる。特に、地理院地図を用いたさまざまな地図の重ね合わせや3D表示などは、地理、地学教育に効果が大きいことから、地理院地図の普及を積極的に進めている。さらに、より効果的な支援を行うためには、教員や地球惑星科学研究者、行政、地図やGISに関する民間団体などのさまざまな立場のステークホルダーのネットワークが構築され、情報、経験の共有や協働を進めることが必要である。
著者
宮嶋 敏 漆原 元博
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

現行学習指導要領における「地学基礎」の実施によって、前学習指導要領下で7パーセント程度であった地学の基礎科目の履修率は、約26パーセントへと急上昇した。このことは、高校教員が主に自分の専門科目しか教えないこととあいまって、地学を専門としない教員が地学の授業を担当するという事態をもたらした。 この事態に対応するべく、いくつかの地学教育団体では、そのような教員向けに教材や体制を整えて地学の授業支援を行っている。 本講演では、前半に教材や体制の紹介を行い、後半で地学を専門としない教員から授業実践の様子や授業支援への要望について報告する。
著者
岩城 麻子 前田 宜浩 森川 信之 武村 俊介 藤原 広行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

地震ハザード評価において、長周期(ここでは周期およそ1秒以上を指す)の理論的手法による地震動計算では一般的には均質な層構造からなる速度構造モデルが用いられることが多いが、現実の地下構造には様々なスケールの不均質性が存在する。長周期地震動ハザード評価の対象周期を周期1~2秒まで確保するためには、特に数秒以下の周期帯域で媒質の不均質性の影響を評価することは重要である。本研究では、首都圏の詳細な地盤モデルを用いて、深部地盤以深の媒質のランダム不均質性がVS=350m/s程度の解放工学的基盤上での長周期地震動へ及ぼす影響とその周期帯域を評価する。首都圏の浅部・深部統合地盤モデルの深部地盤構造部分(地震本部, 2017)(最小VS=350m/s)のうち、上部地殻に相当する層(VS=3200, 3400 m/s)の媒質物性値に、指数関数型の自己相関関数で特徴づけられるランダム不均質を導入した。相関距離aは水平、鉛直方向で等しいと仮定し、1 km, 3 km, 5 km の3通りのモデルを作成した。標準偏差εは本検討では5%に固定し、物性値に不均質性を与える際、平均値±3ε を上限・下限値とした。地震波散乱の影響は不均質の相関距離と同程度の波長に対応する周期よりも短周期の地震動に表れると考えられる(例えば佐藤・翠川, 2016)。波長1、3、5 km に対応する周期はそれぞれおよそ0.3、0.9、1.5秒であり、周期1秒以上の長周期地震動の計算結果に対する系統的な影響は大きくはないことが予想されるが、不均質性の導入による地震動のばらつきを見積もることも必要である。異なる震源位置やパルス幅(smoothed ramp関数で3.3秒および0.5秒幅)を持つ複数の点震源モデルを用いて、3次元差分法(GMS; 青井・他, 2004)で周期1秒以上を対象とした地震動計算を行った。パルス幅が3.3秒の場合、震源から放出される波の波長はおよそ10 kmとなり、不均質媒質の特徴的な長さaよりも長い。パルス幅が0.5秒の場合、波長はおよそ1.7 kmであり、aと比べておおむね同等から短い波長となる。各震源モデルについて、不均質媒質を導入していないモデルによる計算結果に対する不均質媒質を導入したモデルによる計算結果の比(不均質/均質比)をPGVや5%減衰速度応答スペクトルについて調べた。不均質/均質比の空間分布は地震動の強さそのものには寄らずランダム不均質媒質に依存することが分かった。不均質/均質比は計算領域全体の平均としてはほぼ1になった。つまり、領域全体で見た場合、この条件下でこの周期帯では不均質媒質によって系統的に地震動が大きくまたは小さくなるということはほとんどなかった。一方、不均質/均質比のばらつき(標準偏差)は震源距離に応じて大きくなった。また、パルス幅の短い震源モデルの方が、パルス幅の長いモデルと比べて不均質性の影響が大きく、比のばらつきも大きかった。パルス幅の短いモデルでは震源から放出される波の波長が媒質の特徴的な波長に近く、パルス幅の長いモデルと比べて同じ伝播距離に対する波数が多いため、不均質媒質の影響がより強く出るものと考えられる。同じ震源距離で見ると比のばらつきは地震動の短周期成分ほど大きいことも分かった。今回検討した範囲では、地殻内のランダム不均質媒質が周期1秒以上の長周期地震動の計算結果におよぼす影響として、計算領域全体の平均値への系統的な影響よりもむしろ、予測問題における地震動ばらつきを生じさせる影響がより顕著に認められた。今後はパラメータ範囲を広げた検討や、より浅い地盤構造の不均質性をモデル化した検討も必要であると考えている。
著者
吉本 和生 武村 俊介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

はじめに関東平野では,その周辺における浅発の中・大地震の発生に伴って周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が観測され,その振幅や継続時間は大規模で複雑な堆積盆地構造の影響で場所によって大きく異なる.この特徴は,関東平野での長周期地震動の正確な予測を,国内の他の平野と比べて著しく困難にしている.その一方で,首都圏における地震防災上,石油タンクや超高層建築物などの安全対策に資するための長周期地震動予測の高度化は喫緊の課題とされている.そこで本研究では,関東平野における長周期地震動即時予測の可能性について検討した.即時予測の方法は,表面波の励起・伝播に関わる堆積盆地の応答関数を事前に評価しておき,堆積盆地外部の地震動記録にもとづいて堆積盆地内部の長周期地震動を予測する方法(例えば,Nagashima et al. 2008)とした.試行的に地震動シミュレーションの計算波形(速度波形,周期3-20 s)を解析データとし,調査研究の対象地域は関東平野の中北部とした.長周期地震動シミュレーション浅発の中規模地震による長周期地震動の発生を模擬した3次元差分法による地震動シミュレーション(Takemura et al. 2015)を実施した.2013年2月25日の栃木県北部の地震(Mw 5.8)を対象に,発震機構にはF-netカタログの値を利用し,震源の深さを0.5~16 kmの範囲で変化させて,K-NET/KiK-netおよびSK-netの観測点における速度波形を合成した.堆積層と地震基盤以深の地震波速度構造モデルには,増田・他 (2014)モデルとJIVSM(Koketsu et al. 2012)をそれぞれ使用した.応答関数本研究では,長周期地震動に関わる堆積盆地の応答関数を,関東堆積盆地北縁部で震源からほぼ南に位置するSK-net のTCH2観測点(栃木県足利市,基準観測点とする)における計算波形を入力,その他の盆地内部の観測点(盆地北端から50 km程度まで)の計算波形を出力とみなして評価した.簡単のため,長周期地震動を引き起こす地震波は震央から南方向に伝播するものと仮定し,応答関数は地震動の共通成分(上下成分-上下成分など)毎に評価した.応答関数の計算にはウォーターレベル法を使用した.評価した応答関数の特徴には,成分毎に大きな差異がみられた.東西成分の応答関数の形状(振幅・位相の時間変化)は単純であり,孤立的な波束には明瞭な正分散がみられた.一方,上下成分と南北成分の応答関数の形状は複雑であった.これらの特徴は,解析対象とした観測点配置では,東西成分にはLove波の基本モードの伝播特性,上下成分と南北成分にはRayleigh波の基本モードと高次モードの伝播特性が反映されているためと考えられる.応答関数への震源の深さの影響は,東西成分では比較的小さく単純であるものの,上下成分と南北成分では振幅と位相に大きな変化がみられ評価が簡単でないことが明らかになった.長周期地震動即時予測の数値実験上記の応答関数を使用して,K-NETのSIT003観測点(埼玉県久喜市)を対象とした長周期地震動即時予測の数値実験を行った.同観測点は,関東堆積盆地の北端から20 km程度,地震基盤深度3 km以上の場所に位置している.数値実験では,震源の深さを8 kmとして求めた応答関数を使用して,震源の深さが異なる場合(0.5~16 km)に長周期地震動をどの程度正確に予測できるか評価した.その結果,東西成分の応答関数を用いた数値実験については,震源の深さによらず長周期地震動をほぼ正確に再現できた.このことは,Love波に起因する長周期地震動については,応答関数を用いた即時予測が可能であることを強く示唆している.今後の研究課題としては,他の地震を解析対象に含めた同様の検討,リアルタイムでの長周期地震動予測の検討などがある.謝辞本研究では防災科学技術研究所のK-NET/KiK-netのデータおよびF-netのMT解を使用しました.また,首都圏強震動総合ネットワークSK-netのデータを使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターのEIC計算機システムを利用しました.
著者
矢部 優 武村 俊介
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Moment tensor of medium to large earthquakes and its spatiotemporal distribution provides us important information about the fault plane where the rupture occurs and kinematic process of seismic rupture on the fault. Long-period (> 10 s) seismic waveform is often used for this purpose because they are less sensitive to three-dimensional and small-scale seismic velocity heterogeneities, where our knowledge is usually incomplete. Furthermore, high frequency seismic waveforms mostly loose source information due to the seismic scattering (summarized in Sato et al., 2012). However, revealing high frequency behavior of seismic slip is also important to understand the dynamic behavior of fault rupture. This study tries to develop the method for moment tensor estimation in high frequency band using synthetic waveforms, which considers three-dimensional large- and small-scale heterogeneities. As a first step of this development, we develop grid-search focal mechanism estimation method, assuming double-couple source, by fitting seismogram envelope of target events, which is expected to be applicable for higher frequencies rather than fitting raw waveform. Before analyzing observed data, we conduct a series of synthetic tests to confirm the applicability of the method and resolutions of the estimation. The synthetic waveform is calculated using the parallel finite difference code developed by Takemura et al. (2015). The seismic source is set in Kii Peninsula as representing low frequency earthquakes. The three-dimensional background velocity structure is the JIVSM (Koketsu et al., 2012), including large-scale seismic velocity heterogeneity and topography. The small-scale random velocity heterogeneity model of Takemura et al. (2017) is embedded over the continental crust of the JIVSM. Target seismic waveform is filtered in four frequency bands (0.2-1 Hz / 1-2 Hz / 2-4 Hz / 4-8 Hz), and its focal mechanism is estimated by grid search in (strike, dip, rake) space by fitting its envelope with the synthetic stacked envelope waveforms in 5 s time windows around S-wave arrival. Our synthetic tests reveals following points. (I) When the seismic structure is correct, envelope-fitting focal mechanism estimation is well applicable up to 2-4 Hz, and could be applicable to 4-8 Hz. When one-dimensional structure of F-net (Kubo et al., 2002) is used, the estimated focal mechanism is significantly biased even in lower frequency band and not constrained in higher frequency band. There is strong trade-off in the focal mechanism estimation between strike and rake. (II) The focal mechanism estimation is highly sensitive to the assumed hypocentral location. When the assumed epicenter is 0.1º shifted from the true position in each direction, the fitting residual becomes significantly worse. When the assumed depth is shifted from the true position at the plate interface by a few kilometers, shallower shift makes fitting residual worse and biased. (III) The difference in the source time duration from 0.1 s to 1.0 s or the shape of source time function does not vary the fitting significantly. (IV) Isotropic components as non double-couple components of target events do not influence the fitting much because we use only S-wave time window. On the other hand, the contamination of a few tens percent of second double couple component affects the fitting results. (V) The analysis can be applicable to the contamination of random noise with the amplitude up to about one-thirds of signal amplitude.
著者
浅田 喬二
出版者
駒澤大学
雑誌
駒澤大學經済學部研究紀要 (ISSN:03899861)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.1-160, 1988-03
著者
黒山 竜太 益田 仁 柳詰 慎一 脇野 幸太郎 Ryuta KUROYAMA Jin MASUDA Shinichi YANAZUME Kotaro WAKINO
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.89-95, 2013

本研究は、救護施設における現状を踏まえた上で、利用者と施設職員にどのような心理的ニーズがあるのかを探索することを目的としたものである。救護施設の現状としては、社会情勢が揺れ動く中生活保護法のうえに成り立つ救護施設において、利用者の自立支援を促すためには様々な阻害要因が横たわっていることが窺えた。施設利用者については、その背景的要因を踏まえた上での心理的支援、とりわけ個別支援計画の作成や地域生活移行における心理的支援の必要性が示唆された。施設職員については、福祉施設全般としてメンタルヘルスへの啓発や職務に対する客観的理解および裁量度、利用者についての理解、チームでの相互の意思確認などの重要性が示唆された一方、救護施設自体の特性を考慮した上での支援については検討の余地が残されていることも明らかとなり、今後の課題が示された。This report considered the present state of public assistance institutions and the psychological needs of the people in such facilities. Now, public assistance institutions exist under the Livelihood Protection Law. Therefore, it was understood that people's self-reliance is checked by various factors. For people in facilities, it was suggested that the psychological supports based on a background factor is necessary. Especially, it was suggested that the psychological supports on designing individual support programs and the relocation from residential institutions to community living are necessary. Otherwise, for workers in facilities, it was suggested that mental-health education and objective understanding for their own jobs and the degree of discretion of their jobs and understanding about people in facilities and mutual intentions check in a team are important in all over social welfare institutions. On the other hand, it was indicated that the discussion about the support of public assistance in stitutions is insufficient. Future research topics are shown.
著者
栗田 茂明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.366-376, 2016-09-01 (Released:2016-09-01)
参考文献数
19

講演会などで,講師の話が文字になって同時通訳のようにスクリーンに投影される「リアルタイム字幕」は,手話と同じように聴覚障害者のための情報保障で「パソコン要約筆記」と呼ばれている。IPtalkは,1999年から改良を続け,無料で配布しているパソコン要約筆記専用ソフトで,現在ではデファクトスタンダードソフトとして全国で使われている。IPtalkがどのような機能をもち,IPtalkをどのように使ってパソコン要約筆記を行うのか,IPtalkの開発の経緯や今後の課題などについて述べる。
著者
鶴若 麻理
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.90-97, 2008-09-21 (Released:2017-04-27)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本論文は、台湾の楽生療養院で暮らす元ハンセン病患者14名への聞き取りを通して、強制収容や強制隔離の実態などを当事者の語りから明らかにすることを目的とした。聞き取りによって、日本が台湾を占領していた時代から、それ以後の中華民国政府によっても、継続的な強制収容・隔離政策(〜1960年代前半まで)が実施されてきたことは否定できない。また複数の対象者の証言から、戦後は全面的な外出禁止ではなかったものの、1970年頃まで行動の自由が著しく制限されていたことが示された。対象者は現在の不安としては、高齢化に伴う介護問題と楽生療養院の取り壊しをめぐる諸問題を挙げた。特に楽生療養院の取り壊しをめぐる元患者による反対運動は、自らの生きた証を守り残そうという人としての尊厳を回復する運動として捉えられよう。