著者
北出 智美 若尾 慶子 Drinkwater Eleanor Outhwaite Willow
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.84-95, 2022-10-14 (Released:2022-10-14)
参考文献数
19

本研究では,両生類の最大の輸入国である米国と日本におけるワシントン条約非掲載種の取引状況を調査し,ペット取引によって存続が脅かされている可能性の高い種・分類群を特定した.米国の輸入記録では267種の非掲載種が特定され,輸入個体数の29%が野生由来,10%が個体数の減少している種であることが明らかになった.日本については,両生類の輸入が近年増加傾向にある中,市場調査で確認された230種(および25亜種)のうち81%が非掲載種,およそ4分の1が保全上の懸念があること(CR/EN/VU/NT)が分かり,亜種も含めた総種数のうち27%の種で野生捕獲個体の表示が見つかった.日本原産の両生類は,39種・亜種で国内販売が確認され,野生捕獲が一般的であることが示されたほか,海外市場でも保全上の懸念のある種が数種特定された.本研究でリスクが特定された種・分類群については,ワシントン条約規制をはじめ,原産国での法的保護や個体群のモニタリングを含む保全策の検討が急務である.
著者
吉川 泰弘
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.81, no.10, pp.613-621, 2006-10-15 (Released:2011-05-24)

:主な人獣共通感染症は700種類以上を数え,中でも結核は重要であり,結核を含む抗酸菌症は霊長類や反笏動物に多い。結核菌の自然宿主はヒトであるが,牛型結核菌や非結核性抗酸菌なども含めて多くの動物は抗酸菌に感受性が高い。また,最近のわが国のペットブームによりヒトと動物の間での再帰感染例が増加し,動物園動物における抗酸菌症の発生も見られている。動物の国際取引も増加しており,動物由来の感染症や食品に関する国際基準は1927年に設立された国際獣疫事務局(OIE)が決定している。加盟国はその基準に拘束されるが,わが国は比較的良好にコントロールされており,乳牛での牛型結核の発生はほとんどなく,実験用の輸入サルでも人型結核の報告は少ない。しかし,結核予防法が感染症法に統合される予想の下,動物における抗酸菌症の届け出や非汚染証明書の発行などの範囲等は検討すべき課題であり,獣医のみならず医師もこの問題に関心を持つ必要がある。
著者
嶋田 久美
出版者
美学会
雑誌
美學 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.121-132, 2012-06-30

This article explores expression activities in clinical practices focusing on two cases: La Borde Clinic and Bethel House. The former is a psychiatric clinic in France known as a Psychotherapie institutionnelle and the latter is a community in Japan for people with mental disturbances founded in 1984. Both foster unique activities in ways that challenge the dichotomies in clinical practices such as art/therapy, client/therapist and normal/abnormal. In this article, two aspects of expression and art in these unique activities are verified referring to the concept of 'dispositif' by Michel Foucault, Gilles Deleuze and Giorgio Agamben. First, expression and art may function to analyze the power relations around the clinical site. Next, they function to maintain the dynamism of powers that generate liquidity and porosity among people. However, as Deleuze implies, these functions should be examined using immanent criteria. Therefore, these two cases must not be taken as universal models but should be positioned as nodes or hubs of networks concerning clinical environments. Which is why these two cases also urge us to reconsider the perspectives of disease and disability and the roles of group and community.
著者
小木曽 智信
雑誌
じんもんこん2012論文集
巻号頁・発行日
vol.2012, no.7, pp.25-32, 2012-11-10

旧仮名遣いで書かれた口語文のテキストを形態素解析する場合、既存の形態素解析辞書では不十分な点があった。発表者は既存の形態素解析辞書UniDicをベースに見出し語の追加やコストの再学習を行い、旧仮名遣いの口語文を解析するのに適した新しいUniDicを開発した。本稿では、この旧仮名遣いの口語文を対象とした形態素解析辞書の作成方法とその解析精度について述べる。
著者
Yoshiaki Kai Mikhail Nazarkin Hayato Fukuzawa Yuta Yagi Kay Sakuma Kunihiro Fujiwara Tomonori Hamatsu
出版者
The Japanese Society of Systematic Zoology
雑誌
Species Diversity (ISSN:13421670)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.15-22, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
23

Ricuzenius toyamensis Matsubara and Iwai, 1951 was originally described on the basis of eight specimens collected from Toyama Bay, the Sea of Japan coast of central Honshu Island, Japan. The species has subsequently been considered as a valid species of the genus Icelus Krøyer, 1845, diagnosed by the following characters: supraocular and parietal spines absent; nuchal spine blunt and indistinct, covered with skin; uppermost preopercular spine unbranched; mid-sized scales scattered (not in rows) above and below lateral line; belly naked; minute ctenoid scales on upper part of maxillary; lateral line scales large, tubular, bearing spinules on dorsal and posterior margins; and lower jaw slightly protruding anteriorly. However, examination of the type specimens of Icelus rastrinoides Taranetz in Schmidt, 1935, a northern Sea of Japan species, showed them to be consistent with the holotype and paratypes of I. toyamensis. Accordingly, I. rastorinoides is regarded as a senior synonym of I. toyamensis, with the lectotype of the former being designated herein. The species is redescribed in detail on the basis of the types of both nominal species plus non-type specimens, with a note on geographic variations in dorsal- and anal-fin ray counts, which reflect Jordan’s rule.
著者
來田 享子
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.23-38, 2010-09-30 (Released:2016-10-05)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿は、女性の競技スポーツの普及について、2つの変化を通して読み解こうとするものである。具体的な検討の対象として、複数の競技種目において世界のトップパフォーマンスが競われるオリンピック大会と国際オリンピック委員会(以下IOC)における議論をとりあげる。検討する変化の第一は、オリンピック大会の参加者数、オリンピック大会で実施可能だと承認された競技や種目についてである。第二の変化は、性カテゴリーの解釈と性別の取り扱いに関する変化である。ここでは、IOCが「身体的性別とは何か、その境界はどのように設けることができるのか」について探求した事例として、二つの議論を中心に検討する。二つの議論とは、1960年代後半からの性別確認検査の導入に関するものと2004年から承認された性別変更選手の参加に関する議論である。この研究の目的は、女性の競技スポーツの普及と拡大は、性カテゴリーの解釈の変化と相互に関連するものであったことを示すことである。 戦後、女性の競技スポーツの拡大と普及は、戦前には「女性向き」の改変が必要であるとされた競技が社会に承認されることによって前進した。この前進は、IOCが1960年代後半以降に性別確認検査の導入を検討した時期と重なっていた。また、「男性向き」の競技であるとされ、女性が実施できなかった競技には、1960年代以降に女性たちが挑戦をはじめた。彼女たちの挑戦がオリンピック大会において認められ、女性のための競技スポーツが拡大したのは、1990年代であった。 これと同じ頃、性別確認検査の廃止と性別変更選手の参加承認が決定された。これらの決定は、競技スポーツ界が1)性カテゴリーの境界は医学的に決定が困難で曖昧なものであること、2)性カテゴリーは越境可能であること、という2点を認めたことを意味する。これらの決定は、スポーツと「性別」をめぐる状況をより複雑にしている。競技をする身体にとって、実際のところ重要なのは、競技のパフォーマンスに有利さをもたらすようなテストステロン等の性ホルモン分泌量や骨格などのいくつかの諸要素のどこに線引きをするかだという現実を医学的検査はほのめかしつつある。その意味で、性カテゴリーを峻別した競技とは、もはやフィクションに過ぎないのかもしれない。
著者
熊谷 明
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.290-295, 2011 (Released:2011-05-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1
著者
佐藤 学 上村 仁 小坂 浩司 浅見 真理 鎌田 素之
出版者
公益社団法人 日本水環境学会
雑誌
水環境学会誌 (ISSN:09168958)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.153-162, 2016 (Released:2016-09-10)
参考文献数
38
被引用文献数
4 17

神奈川県の水道水源河川である相模川水系の河川水及びそれらを水源とする水道水について, 2014年4月より一年間, ネオニコチノイド系農薬6種, ブロマシル, テブコナゾール, テフリルトリオンおよびテフリルトリオン分解物の実態調査を行った。河川水からは調査期間中9物質が検出された。イミダクロプリド, テフリルトリオン等は農薬の適用時期に濃度が上昇する傾向がみられたが, 都市部の除草剤等としても使用されるテブコナゾール, ブロマシルは農薬の適用期間外においても検出された。実態調査の結果を環境中予測濃度 (PEC) と比較したところ, テブコナゾール及びブロマシルにおいて測定値が水産動植物PECを超える採水地点が確認された。水道水からはイミダクロプリド, クロチアニジンが河川水中濃度と比較的近い値で検出された。また, 水道水中からはテフリルトリオン分解物が検出され, その濃度推移は河川水中のテフリルトリオンの濃度推移とほぼ一致した。
著者
下澤 楯夫 青沼 仁志 西野 浩史
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

神経系はなぜ多数の繊維からなる束なのか?多細胞生物としての当然の帰結なのか?これらの疑問は、つまるところ、神経系は進化の上での如何なる淘汰圧への適応の産物なのか、またその適応にはいかなる拘束条件が付きまとったのか、を問うことである。情報の生成(観測)にはエネルギー散逸が避けられず、感覚細胞における情報のエネルギーコストは統計熱力学上の理論限界である0.7K_BT[Joule/bit]に近い。本研究は、細胞の熱雑音感受性は進化を通して達成した適応ではなく、生命の起源に遡る拘束であることを明らかにし、資源や危害が時間的空間的に偏在する生存環境は情報伝送(観測)速度増大の淘汰圧として働くこと、それに対する唯一の適応方策は神経細胞の並列化であること、を次のように明らかにした。1)気流感覚毛で、揺動散逸定理に従ったブラウン運動を観察できることを光学計測によって示した。コオロギ尾葉上の近傍にある二つの気流感覚毛のブラウン運動の無相関性の計測は達成できなかった。2)気流感覚毛のブラウン運動と感覚細胞の電気的応答の相関(コヒーレンス)の実証には至らなかった。3)神経細胞は熱雑音領域で動作しており、情報伝送素子としての信号対雑音比が極めて低いことを、実証した。4)計測と平行して、信号対雑音比の極めて低い神経細胞のパルス列からでも、介在神経へのシナプス加重によって信号を再構成できることを理論的に示した。確率統計学や情報理論で、標本の平均値が母集団の真の平均値から外れる確率が標本数の平方根に反比例して少なくなる「加算平均原理」に着目し、熱雑音に拘束された細胞でも多数による加算平均によって、熱雑音以下の信号の検出精度が向上することを示した。もちろん「束」の前提として多細胞化は必要であるが、多細胞化の直接的生存価自体も、「加算平均原理」で説明できることを示した
出版者
政策研究大学院大学 / National Graduate Institute for Policy Studies
雑誌
科研費「核不拡散体制の成立と安全保障政策の再定義」プロジェクト
巻号頁・発行日
2022-02

インタビュー対象者 : 沼田 貞昭 (ヌマタ サダアキ) インタビュアー : 岩間 陽子, 高橋 和宏, 吉田 真吾, 武田 悠, 白鳥 潤一郎, 合六 強, 栗田真広, 岸俊光インタビュー期間 : 2019/4/18 - 2020/11/27
著者
江島 尚俊
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.1-24, 2018 (Released:2019-03-30)

本稿は、明治三〇年代から大正初期にかけて行われた行財政改革に焦点をあてて、大正二年六月に文部省が宗教局を所管する、言い換えれば、文部省が宗教行政を制度的に掌握するまでの経緯を明らかにしている。まずは、明治三五年七月に当時の法制局長官奥田義人によって第一次桂内閣に提出された『奥田案』が黙殺されたことで、文部官僚による宗教行政所管構想が一旦は挫折したことを明らかにした。次に、第二次西園寺内閣時の内相原敬が実行した内務省改革と内務省主導の地方行政改革が、従来の神社行政・宗教行政に大きな変化をもたらし、その結果、文部官僚らの所管構想は更に後退したことを指摘した。そして最後に、第一次山本権兵衛内閣時の内相原と文相奥田による協働の結果、大正二年六月に内務省から文部省へ宗教局が正式に移管され、明治三〇年頃からの文部省の宿願がようやく結実したことを論じた。
著者
楠橋 直 安藤 友一 谷 健一郎 松原 尚志 栗田 裕司 奈良 正和 山路 敦
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.411-426, 2022-12-29 (Released:2022-12-29)
参考文献数
71
被引用文献数
3

四国北西部に分布するひわだ峠層は,三波川変成岩類上に載る最古の地層として知られ,しばしば三波川変成岩類の地表への露出年代を制約するために使われる.しかしながら,同層に関する先行研究は少なく,同層と三波川変成岩類との関係すらも明確には記載されてこなかった.そこで本研究では,同層の全貌を明らかにすることを目的とし,地質調査と砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定をおこなった.ひわだ峠層は,層厚100 m以上の浅海成層で,石灰質および非石灰質な礫岩・砂岩により構成される.産出する海棲生物化石と砕屑性ジルコンのU-Pb年代から,その堆積年代は中期始新世のLutetian期前期であると推定される.また,同層は基盤の三波川変成岩類を無整合に覆い,また上位の久万層群によって傾斜不整合で覆われている.したがって,少なくとも四国地方の三波川変成岩類は,中期始新世初めまでには地表に露出していたと考えて良い.
著者
商業興信所 編
出版者
商業興信所
巻号頁・発行日
vol.明治35年, 1911
著者
飯野 智子
出版者
実践女子大学
雑誌
実践女子大学短期大学部紀要 = The Bulletin of Jissen Women's Junior College (ISSN:21896364)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.51-67, 2018-03-09

本稿は、今日「男性問題」(男性が男性であるが故に生じる問題)という概念が一般の共有認識となっていない現状をふまえ、「男性学・男性研究」が研究対象とする「男性問題」とは何かということを、男性性の自明性、男性問題の不可視性、問題設定の困難さという視点から考察する。また、男性の労働や家事、育児への参加を取り上げ、現状の男性の被抑圧状況やその打破への可能性を検証する。最終的には、今日のジェンダー問題の解決のため「男性学・男性研究」にどのような意義があるのか探っていく。
著者
根津 一嘉
出版者
公益社団法人 計測自動制御学会
雑誌
計測と制御 (ISSN:04534662)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-116, 2017-02-10 (Released:2017-02-21)
参考文献数
13