著者
小寺 宏曄
出版者
一般社団法人 日本色彩学会
雑誌
日本色彩学会誌 (ISSN:03899357)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.265, 2018-11-01 (Released:2019-01-25)
参考文献数
26

哺乳類の進化を辿ると,共通祖先の脊椎動物は4色覚であったが,恐竜が栄えた中生代には夜行性の2色覚に後退した.霊長類は恐竜の絶滅とともに昼行性を取戻し,約3500万年前に,人類の祖先は遺伝子複製過程での変異により LMS 3色覚を得たとされる.鳥類は紫外域の錐体をもつ代表的な4色覚であり,太古の祖先の色覚を今に継承している貴重な分類群である.共通祖先が視ていた紫外の世界を鳥の色覚から垣間できれば興味深い. 本稿では,ROGU錐体をもつ相思鳥を例に,マトリクスR理論を4色覚に拡張する.拡張射影子R4は分光入力C(λ)を,相思鳥の基本色空間FCS(Fundamental Color Space)へ写像する.相思鳥に視えるのは,この写像された基本分光成分(fundamental)C *4(λ)である.まずsRGBカメラ画像の3刺激値からROGU 4刺激値の線形推定を行い,次にその逆写像からC *4(λ)を復元する.これをROGUに4色分解し,Uを着色して紫外像を可視化する.最後に,C(λ)が既知の計測データに拡張射影子R4を操作して基本分光成分の理論値を求め,提案モデルによる分光推定誤差を評価する.
著者
若倉 雅登 山上 明子 岩佐 真弓
出版者
日本神経眼科学会
雑誌
神経眼科
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.421-428, 2017

眼球や第一次視覚野までの経路が正常だとしても,例えば何らかの原因で開瞼が不能であればその機能を利用できない.我々はこうした症例を,医学的分類というより,当該患者が何に不都合を感じているかという観点から「眼球使用困難症候群」と名づけた.<br>この症候群は,そうした不都合を有する病態に広く用いたいと考えるが,同症候群の命名のきっかけになった最重症の8症例を提示し,それらの臨床的特徴を明らかにする.8例に共通するのは,微細な光に過敏に反応し,眼球の激痛や高度の羞明に常時悩まされている点である.<br>8例はいずれも,暗い部屋でも閉瞼するだけでなく,アイマスクや遮光眼鏡の使用は日々の生活で常に必需であった.大半の症例はジストニアのような動的異常よりも感覚異常のほうが目立った.一部の症例は,線維筋痛症を含む身体痛,舌痛症,顎関節症や抑鬱を合併していた.また,向精神薬の連用や離脱,頭頸部外傷や何らかの脳症などが契機となって発症していた.<br>このように,全例眼瞼痙攣の最重症例と類似点があるが,完全に一致するかは今後の問題である.<br>眼瞼痙攣は神経科学では局所ジストニアとして理解されているが,本質は,眼球使用ができないことにある.それゆえ,眼球使用困難症候群の一部を成すものとして扱い,特に高度なものは視覚障害者として扱うのが妥当であることを主張する.<br>今回提示した8例以外にも,眼球使用困難症候群はさまざまな場合があると考えられ,症候発現に関する因子も種々であろう.<br>日常生活において高度の不都合があるにもかかわらず,日本の現今の障害者福祉法では,視力のみ及び視野でしか評価しないために,視覚障害として認定されない.このように,眼球使用困難症候群では福祉的救済が必要であるにもかかわらず,法的にこのような障害が想定されていないことが問題点であることを,臨床医学の立場から指摘した.
出版者
国立国会図書館
巻号頁・発行日
vol.2008年, no.(569・570), 2008-09-20
著者
澤井 豊光 吉岡 寿麻子 松尾 信子 須山 尚史 河野 茂
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.193-196, 2014-03-25 (Released:2016-10-29)

背景.V字型の魚骨による気管支異物のため摘出に難渋した症例を経験した.症例.75歳,男性.咽喉頭部違和感,咳嗽,血痰を主訴に近医を受診し,胸部CTにて左主気管支の気管支異物を指摘され当科紹介となった.6週間前に鯛のお吸い物を食べた際に咳き込んだというエピソードがあった.同日,気管支鏡検査を行ったところ,左主気管支にV字型の魚骨を認めた(長辺2.5cm,短辺1.5cm).V字型魚骨の短辺の方を鰐口鉗子で把持,牽引したが,V字型の片方は左主気管支内腔より長かったため気管支壁に支え摘出は困難であった.次にV字型魚骨の長辺の方を鰐口鉗子で把持,牽引したところ,気管支壁に支えることなく魚骨を摘出し得た.結論.単針様の魚骨であれば摘出は比較的容易であるが,形状がV字型の場合,その角度が広く,径が長いほど軟性気管支鏡での摘出は困難となり,硬性気管支鏡や外科手術まで考慮する必要がある.
著者
Bitabarova Assel
出版者
Slavic-Eurasian Research Center, Hokkaido University
雑誌
Eurasia Border Review (ISSN:18849466)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.63-81, 2015

This article examines the Tajik-Chinese border settlement and Tajik debates over it, both of which have yet to be extensively examined by either domestic or foreign scholarship. The long-standing territorial dispute between China and Tajikistan in the remote Pamir Mountains finally came to an end in January of 2011 with the ratification of the Tajik-Chinese Border Demarcation Protocol. Although the peaceful border settlement has laid the foundations for friendship between the two neighbours, Tajik attitudes varied significantly among different interest groups, ranging from overt opposition to overt support of the demarcation protocol.
著者
五味 敏昭 寺嶋 美帆 國澤 尚子 西原 賢 坂田 悍教 細川 武
出版者
埼玉県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

最近、注射における医療・医事紛争が多発している。看護学教育における重要な看護技術のひとつである「注射部位」について、その安全性の科学的根拠が問われるようになり、今回は筋注部位として医療現場で日常用いられている三角筋について、MRI(核磁気共鳴画像法)を用いて映像解剖学的に安全領域について検討した。三角筋の刺入部位として、教科書・技術書の殆んどが「肩峰より三横指下」を推奨している。しかし、報告者は長年解剖学の研究・教育に携わり、「肩峰より三横指下(約5cm)」が本当に誰にでも当てはまる安全領域であるのか否か疑問を感じてきた。1.腋窩神経は肩峰の後端から腋窩横線(腋窩の前端(三角筋と大胸筋との交点)と腋窩の後端(三角筋と大円筋との交点)を結ぶ線)に下ろした垂線の下1/4〜前端の下1/3、後端の下1/3〜前端の下1/2の範囲を走行していた。2.肩峰中点から腋窩神経までの距離は平均5.8cm(男性6.4cm、女性5.2cm)、Max. 8.3cm、 Min. 4.3cmであった。3.皮脂(皮膚+脂肪)の厚さは平均7.4mm(男性6.6mm、女性8.1mm)、三角筋の厚さは平均29.2mm(男性30.9mm、女性27、9mm)であった。4.肩峰中央部から腋窩横線に下ろした垂線(腋窩縦線)の1/2からやや上方が三角筋注射部位として適しているが、身長、腋窩縦線の長さを考慮する必要がある。5.神経位置・腋窩縦線・身長の相関関係から、腋窩縦線が10cm以下、身長が155cm以下の場合は注意を要する。6.刺入部位である「肩峰から三横指下」は万人に適用出来るとはいえない。7.刺入部位は「肩峰から二〜三横指下」または「肩峰から3.5c〜5cm下」が適当である。8.看護師は自身の「三横指長」を理解するとともに肩峰を正しく同定(触知)できる事が重要である。
著者
高坂 彬夫 松田 良弘
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.28, no.312, pp.794-797, 1979-09-15 (Released:2009-06-03)
参考文献数
11
被引用文献数
2 3

An investigation was made on the method of concentrating oxygen in air under the gauge pressure of 0∼3g/cm2 at a normal temperature by using Itaya-zeolite composed mainly of clinoptilolite.Approximately 50 volume % of oxygen-concentrated air could be obtained by a two-cylinder small-sized pressure swing device. Though Itaya-zeolite has less adsorbing power of nitrogen than the molecular sieve 5A or 4A, it will be useful for oxygen-enriched air in the fields such as waste water treatment and medical attendance.
著者
岡崎 由佳子 片山 徹之
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.151-156, 2005-06-10 (Released:2009-12-10)
参考文献数
46
被引用文献数
4 8

フィチン酸は, ミオイノシトールに六つのリン酸基が結合した化合物であり, そのリン酸基が無機質の吸収抑制に関与すると考えられ, 一般的に抗栄養因子と位置付けられている。一方, ビタミン様物質であるミオイノシトールは, 抗脂肪肝作用を有することが知られている。著者らは, フィチン酸のイノシトール骨格に着目し, フィチン酸がミオイノシトールと同様に抗脂肪肝作用を有することや, フィチン酸によるこの効果が現実に摂取しているレベル付近で発揮されることを明らかにした。また, ミオイノシトールとフィチン酸が共通して抗がん作用を有することも報告されている。さらに, 最近の研究からフィチン酸が哺乳動物細胞内における常成分で, 哺乳動物の脳に結合タンパク質が存在し, 細胞内小胞輸送に関与している可能性が考えられている。著者らは, これらの結果からフィチン酸が栄養的にみてビタミン様物質の前駆体あるいはビタミン様物質そのものとして機能しうるのではないかと考えている。
著者
竹中 彰治
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.361-370, 2016 (Released:2016-08-03)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本研究では,セルフケアにおける洗口液の継続使用に影響する要因を探索するために,新潟大学医歯学総合病院・歯の診療室に歯周基本治療あるいはメインテナンスのために受診した68名の患者を対象として,機械的清掃器具の使用頻度,洗口液の使用経験および使用感に関する質問票調査を行った. 洗口液使用者には,使用理由,期待する性質および選定時に重要視する要素を調査した.使用感は,国内で市販されている四種類の洗口液[コンクールF®(CHG),リステリン®(LF),リステリン®ナチュラルケア(LN),薬用GUM®ナイトケアBF(CP)]の味,刺激,爽快感,効果の実感および全体的な印象について,二重盲検法(LF は単盲検法)により5段階評価を行う形式で調査し,それぞれの評価項目の相関分析を行った. 洗口液の使用経験者は37名(54.4%)であり,洗口液の常用者は18名(26.5%)であった.洗口液選定時に重要視する要素の順位付けには一致性があり,優れた殺菌力,爽快感および味が上位要素であった.使用感調査において,CPおよびCHGの全体的な印象は,LFおよびLNと比較して有意に評価が高かった.LFとLNはすべての評価項目において有意な差は認められなかった。相関分析において,味が最も全体的な印象と相関性が高かった. 洗口液に求められる性質として,殺菌効果だけでなく,継続使用のためには味や爽快感も重要な要素であることが示唆された.
著者
三上 真理子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
哲學 (ISSN:05632099)
巻号頁・発行日
vol.114, pp.223-258, 2005-03

特集都市・公共・身体の歴史社会学-都市社会学誕生100年記念-B編 身体と公共の歴史社会学論文1. はじめに 兵役忌避者のイメージ2. 大正・昭和の『読売新聞』にみる兵役忌避報道 2-1. 大正・昭和の『読売新聞』 2-2. 報道件数の推移と報道内容の特徴3. 兵役忌避者の肖像 : 大正・昭和の『読売新聞』報道から 3-1. 兵役の不平等 : 国民と兵役をめぐる議論 (1) 兵役という"貧乏くじ" (2) 兵役は「名誉」か「苦痛」か 3-2. 二つの忌避者像 : 大正の忌避者たち (1) 減らない兵役忌避 (2) 学生への猶予問題再び (3) 都市のインテリに忌避の傾向 (4) 児戯に類した嘘をつく 3-3. 兵役法の公布から総動員体制へ : 昭和の忌避者たち (1) 物語の復活 : 転落のストーリー (2) 姿を消す忌避者たち4. おわりに イメージの力・イメージする力The purpose of this paper is to describe the portraits of draftdodgers in Japan and through them to think about the relationship between the government and their people and the role of newspaper as the agent between them. Since the conscription was introduced in 1872, there were many draft-dodgers in Japan. To escape from conscription, they used various legal and illegal means, but they proposed the same question. That is, could the government force their people to kill or to be killed against their will? In this meaning, the draftdodgers represent the tensions between the government and their people. In this paper, I tried to describe the portraits of draft-dodgers from the articles of YOMIURIin Taisho and Showa era. YOMIURI is one of the most popular newspapers in Taisho and Showa era in Japan. I found 107 articles about draft-dodgers in it. I have already analyzed the changes of their portraits in Meiji era. Through Meiji era, their portraits changed from the men of darkness to HIKOKUMIN as coward and the cunning intelligentsia. In Taisho era, YOMIURI presented two typical portraits of draft-dodgers. They were as cunning intelligentsia and men of darkness and ignorance. However, the conscription was also criticized because of its unfairness and inequality. In Showa era, the experiences of continuous wars changed their portraits to as wrongdoer and offender. They were criticized as obstacles to accomplishment of wars. After the breakout of war against China, the articles about draft-dodgers in Japan faded out from YOMIURI. Instead of them, the articles of draft-dodgers in America, China, England-the portraits of enemies-appeared. The portraits of draft-dodgers reflected the changes of political, social and military situations. They represented the worst category of Japanese at that time. YOMIURI kept showing people the image of "good" Japanese by showing them the portraits of "bad" Japanese, the draft-dodgers.
著者
黒沢 良彦
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.155-"160-2", 1975

従来, 屋久島からオニクワガタ Prismognathus angularis WATERHOUSE として知られた種は, 本州, 四国などの高地に産し, 北海道や樺太にも産する真のオニクワガタとは異なる別種であることを確認したので, 新種ヤクシマオニクワガタ Prismognathus tokui Y. KUROSAWA として記載した。一方宮崎県青井岳 (563m) で採集されたオニクワガタも北九州の長崎県雲仙岳, 福岡県英彦山などの高所で採れた標本や, 本州, 四国, 北海道など日本各地産の真のオニクワガタ P.angularis WATERHOUSE と見做される標本とは異り, ♂♀共にオニクワガタとヤクシマオニクワガタの中間に位する形質を具えているので, オニクワガタの新亜種 P.angularis morimotoi Y.KUROSAWA として区別命名した。前者は採集者渡辺 徳氏, 後者は標本提供者森本 桂博士にそれぞれ奉献された新名である。日本におけるこれら3型の成因について考察してみると次の様になる。洪積世の氷期に大陸から日本侵入したこれら3型の祖型と思われる種類は, 次の間氷期に北上したが, 屋久島, 種子島を含む南九州の一部は本土から隔離されたために, 本土とは異るものとなった。さらに次の時代にはこの地域から少なくとも, 現在の屋久島を含む地域は隔離された。やがて, 次の氷期の訪れと共に南九州地域は再び北九州と連結し, 北方からオニクワガタが侵入して来たので, 在来種のヤクシマオニクワガタとの間に雑交が起り, 現在の南九州亜種が生じた。しかし, この時屋久島はすでに島として形成されていたので, オニクワガタは侵入できず, ヤクシマオニクワガタは高所に追い上げられはしたが, そのまま屋久島特産種として残存した。他の種子島などのものは温暖化する気候に適応できず, 逃避すべき高所もなく, 絶滅したものであろう。ここに問題になるのは, 南九州の産地が宮崎県青井岳の海抜600m にも満たぬ低山地である点である。これは極めて難かしい問題ではあるが, 飛島, 粟島, 佐渡, 伊豆諸島, 四国沖の島など, 瀬戸内海の諸島を除く本州, 四国周辺の小島嶼の昆虫相がその対岸の本土の低地の昆虫相とは異って, 主として, 山地, 時にはかなり高地の昆虫相と似通った種類が基盤をなし, それを暖地性昆虫相が覆っている事実, さらに島嶼ではこれら山地性の種類がかなりの低地, 時には海岸近くまで発見される事実によって説明できるのではなかろうか。即ち, 青井岳付近から大隅半島を経て種子島, 屋久島へのびる地域が一つの島として本土から分離した時代があったのではないかと推定したい。上記オニクワガタを含めて, この地域にはカラスシジミ, ミヤマクロハナカミキリなど本州では寒冷地やかなりの高地に見られ, 九州では他地域では見られない様な種類が意外に低地で発見される理由もこの辺にあるのではないかと推定される。
著者
伊勢田 哲治
出版者
名古屋工業大学 技術倫理研究会
雑誌
技術倫理研究 = Journal of Engineering Ethics (ISSN:13494805)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.1-36, 2016-11-30

フォード・ピントの設計上の欠陥の事例は, その設計のもとになったとされる非倫理的計算を示す「ピント・メモ」とともに, 日本の技術者倫理教科書の中で頻繁に言及されてきた. しかし、この事例についての「通説」には多くの不正確な点があり, とりわけ, 「ピント・メモ」は実はピントの設計に直接は関係しない文書であることが分かっている. この問題についての注意喚起はすでになされているが, 技術者倫理教育コミュニティの反応はそれほど敏感とはいえない. 本論文では「通説」の不正確な部分をより一次資料に近い文献をもとに確認するとともに, 現行の技術者倫理教科書でこの事例がどのように扱われているか, 具体的に検討し, 分類する. さらに, 現行のさまざまな取り上げ方に長短があることを踏まえ, 本論文で「フィクション派」と名付ける, 別の取り上げ方を提案する.
著者
関根 郁夫
出版者
千葉医学会
雑誌
千葉医学雑誌 (ISSN:03035476)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.75-80, 2005-04