著者
中尾 真理
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.43, pp.23-39, 2015-03

ジョイスが二十二歳から二十六歳の時に書いた短編小説集『ダブリンの人びと』はその後の作品のテーマに発展する要素を多く含んでいるが、「ラヴ・ストーリー」と呼べる物語はその中にはない。反対に「愛の欠如」をテーマとした短編は幾つかある。「痛ましい事件」もその一つである。これは審美家で、俗世間からできるだけ距離を保って暮らしている、独身の中年銀行家が恋愛を取り逃がす物語である。ダッフィ氏は音楽会の会場でたまたま隣り合わせた女性(シニコウ夫人)と、親交を深める。だが、感受性の強いシニコウ夫人が肉体的接触を求めるそぶりをしたことに驚き、「魂の救いがたい孤独」を主張して一方的に交際を打ち切ってしまう。四年後、ダッフィ氏はシニコウ夫人が、飲酒癖により鉄道事故で命を失くしたことを知って驚愕する。語り手はその直前まで、ダッフィ氏の内面を語ることをしないが、後半、ダッフィ氏が女性の死を知った後は一転して、ダッフィ氏の内面に視点を合わせ、彼が愛の喪失を認め、自己覚醒する過程を綿密に描き出す。ダッフィ氏は自説を主張するのに忙しく、シニコウ夫人の孤独に思い至らなかったのだ。本稿では、中年の銀行家が若い人妻と親密になるという、よく似た設定の同時代の作品、チェーホフの「犬を連れた奥さん」(1899)と比較することによって、「痛ましい事件」の作品理解を深めることにする。ラヴ・ストーリーである「犬を連れた奥さん」の内面描写と比較することによって、ジョイスの短編小説の特質を明らかにし、その戦略と技巧を解き明かすのが目的である。
著者
玄 武岩
出版者
北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院 = Graduate School of International Media, Communication, and Tourism Studies, Hokkaido University
雑誌
国際広報メディア・観光学ジャーナル
巻号頁・発行日
no.18, pp.25-47, 2014

This paper examines the transnational space of popular culture and cultural identities in Korea that formed in the process of the public acceptance of Japanese Animation (Anime), one of few fields officially allowed in the postwar period during which Japanese popular culture was forbidden. Particularly, in analyzing anime-songs aired in Korea between the 1960s and the 2000s and in observing the process of their historical evolvement, critical points for arguing the flow of popular culture between Japan and Korea as it relates to media culture and identity emerge. The research first reconstitutes the cultural relationship between postwar Japan and Korea, as reflected in the acceptance of Anime and historic changes in South Korean identities in the above period, according to the ideal type "Anime-Song Community." Then, the research employs a comprehensive approach incorporating diverse perspectives of industrial and historical content flow, consumption, and identity to examine the way in which media practice constitutes that field. By thus considering from an overall perspective what kind of socio-cultural dynamics are revealed through changes in the style of acceptance of "Anime-Songs" shared between both countries, we should be able to comprehend the transition of cultural identity amidst young Korean generations.
著者
天摩 勝洋 前澤 成一郎
出版者
一般社団法人日本機械学会
雑誌
日本機械学會論文集. C編 (ISSN:03875024)
巻号頁・発行日
vol.46, no.410, pp.1191-1198, 1980-10-25
被引用文献数
1

非線形性の大きい本質的非線形強制振動系の近似解法として,非線形復元力を断片線形関数で近似する等価断片線形系の選定の仕方と,さらにこの等価断片線形解を母解として摂動法を適用する近似解法を提案する.この方法による近似解の精度を推定するために,厳密解の知られているだ円形ダッフィング方程式にこれを適用し,漸硬ばねと漸軟ばねの場合について数値計算した結果を厳密解と比較して,満足すべき精度が得られることを示した.
著者
大丘 達也 藤田 欣也
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.263-272, 2010
被引用文献数
3 3

We propose a substitutive tangential force and slip display method by controlling position of the vibrotactile phantom sensation (VPS). The tangential force is substituted by the VPS position displacement and the slip is displayed as the oscillatory displacement of the VPS position. A 20mmx20mmx20mm fingertip-wearable device with four pins has been prototyped. The evaluation experiments demonstrated the feasibility of the substitutive display of tangential force and slip, and the assistive effect in cognition of contact state change.
著者
李 善愛
出版者
宮崎公立大学
雑誌
宮崎公立大学人文学部紀要 (ISSN:13403613)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-13, 2002-03-20

ハマグリ碁石は宮崎県日向市の伝統産業のひとつである。その歴史は約100年に至っている。しかし,原料となるハマグリは採りすぎによって日本国内での供給が難しく,その不足分はメキシコや東南アジアなどの海外から買い入れて補っている。また,囲碁人口も年々減っているのが現状である。そのため,関係業者はインターネットをとおして国内市場を含めて海外の碁石市場を開拓している。さらに毎年,囲碁大会を開き,囲碁への関心を呼び起こすことにも力を入れている。本稿では,日向灘のハマグリ碁石をとりあげ自然の生物体の資源化過程と,「伝統文化」の生成について歴史的な視点から考えてみたい。
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.139-148, 1940-09-30

13. アリサンハナワラビ(正宗) は正宗厳敬,森邦彦両氏が阿里山で発見せられたものである.正宗氏はこれを新属新種にして Japanobotrychium arisanense MASAM. と命名し上記の新和名と共に発表せられたが,後ハナワラビ属に移して学名を Botrychium arisanense MASAM. と変更せられた.私は昭和9年に台北帝大の〓葉室にあった基準標本を見せていただき,又霧社にある台北帝大の山地農場で採集せられた標本も今年の4月に見せていただいたが,このアリサンハナワラビはノウカウハナワラビの毛のある型即ち印度,錫蘭,支那(雲南),爪哇,ルゾンなどにある Botrychium lanuginosum WALL. であると思う.又ノウカウハナワラビ(早田)は最初早田先生がB. leptostachyum HAYATA と命名せられたもので,後中井先生はB. lanuginosum 即ちアリサンハナワラビの無毛の一変種にして学名をB. lanuginosum var. laeptostachyum (HAYATA) NAKAI と変更せられた.確に中井先生の卓見であると思う.この無毛の変種も中井先生によれば亦支那やヒマラヤ地方にあるという.台湾では両型共にやや稀な種類である.14. Mecodium productum (KUNZE) COP. は馬来群島に廣く分布している種類であるが,私はこれを台東庁台東郡の蕃地バリブガイ附近の密林中で発見した.我邦には新発見の一種であるから新に和名をホウライコケシノブと定めた.ツノマタコケシノブM. Junghuhnii (V. D. B. ) COP. に似ているが,裂片には先端に近く不明瞭な微鋸歯があり,総包片は卵形又は卵状長楕円形,鈍頭又は円頭,上半部には不規則な微鋸歯があり,〓床は細長い.15. チリメンコケシノブ(新称)Mecodium taiwanense TAGAWA sp. nov. は私が台東庁関山郡蕃地の内本鹿越線に沿う嘉々代駐在所付近の密林中で発見した新種である.比律賓のM.thuidium (HARR.) COP. によく似ているが,葉は小さく,裂片の幅は廣く且つ皺曲はそれほど甚しくなく,〓堆の総包片は卵形又は廣卵形,その先は鈍形又はやや鋭形で決して円形ではなく,〓床は細い円柱形でその先は太くなっていない.今日までに知られている台湾産の種類中に似たものを求めるならば別属ではあるがヒメチヂレコケシノブ(初島)Meringium denticulatum (SW. ) COP. がある.しかしチリメンコケシノブでは皺曲は遥に甚しく,辺縁にはルーペで認めうる程度の微鋸歯しかなく,〓堆の総包は殆んど基部まで裂け,〓床は短くて総包片の半にも達していない.
著者
大須賀 隆子
雑誌
帝京科学大学教職指導研究 : 帝京科学大学教職センター紀要 = Bulletin of Center for Teacher Development, Teikyo University of Science (ISSN:24241253)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.143-150, 2016-03-15

ユニバーサルデザイン教育とは,視覚や触覚に訴える教室環境が準備され,児童同士の関係が支持的で間違いが許容される学級風土のなか,全ての児童が学びに参加できる,多様な学び方への柔軟な対応や必要な学習活動に十分に取り組める授業デザインをめざす教育である.学習障がい(LD),注意欠陥多動性障がい(ADHD),高機能自閉症などのある児童,すなわち軽度発達障がい児のかかわり方を,ユニバーサルデザイン教育の試みから見直し,具体的実践と課題について概観した.ユニバーサルな授業をデザインする際には,学級がどのような軽度発達障がい児やどのような傾向の学習困難感を抱える児童たちで構成されているのかを考慮して「わかる授業」を用意することが求められる.軽度発達障がいのある児童が最も敏感に反応する温かな人間関係と安定した学級風土をつくることが,ユニバーサルデザイン教育の土台づくりである.今後の課題は,従来の通常学級の論理と特別支援教育サイドからの発想とがより統合されていくような支援プランの追求や,いわゆる健常児にも軽度発達障がい児にも共通して見られる各教科の学習困難感に焦点を当てた,ユニバーサルデザイン教育の発想を生かした授業計画や授業方法の実践研究の積み重ねが求められる.
著者
大宮司 信
出版者
北翔大学
雑誌
人間福祉研究 (ISSN:13440039)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.59-71, 2013
著者
東 英弥 佐藤 純一 岩田 修一
出版者
情報知識学会
雑誌
情報知識学会誌 (ISSN:09171436)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.49-70, 2002

現代社会で生活の基本システムである経済活動の社会連関において、言語を道具とした社会的、経済的活動である広告に着目し、日本唯一の広告専門誌「宣伝会議」の1954年から2000年の47年間613冊の全誌における掲載記事の全タイトルに用いられた言葉の出現頻度について、ビブリオメトリー分析を実施した。50年代から90年代にわたる10年期毎に、第2次大戦後の日本の廃墟からの復興と現在に至るまでの経済、産業、社会の変遷を、広告用語を通して、現象論的な特徴を明確にすることを目的に研究を行った。本稿では、広告業のマーケットコミュニケーションを通じての人間社会、環境への適応への貢献の可能性を探るため、企業製品の消費者への宣伝という狭義の広告に止まらず、産業界の発展や、社会情勢を正しく伝えることで、次の10年期への経済・社会動向、企業意識、さらに環境や国際問題等の理解に日本の広告活動が果たしてきた状況について、半定量的なビブリオメトリーで明らかにした結果を報告する。