著者
仲地 清 なかち きよし Nakachi Kiyoshi 地域研究所客員研究員
出版者
沖縄大学地域研究所
雑誌
地域研究 = Regional study (ISSN:18812082)
巻号頁・発行日
no.16, pp.179-189, 2015-09

第二次大戦後、設立された国際連合の役割は平和維持、人権保障、民族自決権確立などで、それらは国連憲章、世界人権宣言の中に規定されている。戦後続いた米軍統治下の沖縄では人権、自治権は限られていた。沖縄の人々にとって国連憲章と国連決議が、人権、自治権拡大運動のより処であった。論文は戦後から現在まで、沖縄の人々はどのように国連を活用してきたかを、歴史的に概観し、特に、「植民地付与宣言」に基いた「2・1 立法院決議」、さらに最近の「人権」「自己決定権」の視点から「先住民族琉球民族」の実態を国連委員会に報告する運動を分析して、沖縄と国連の関係の特質を明らかにする。The task of the United Nations is to keep peace, protect human rights and expand autonomy.The Charter of the United Nations and the Universal Declaration of Human Rights are broadly recognized standards to achieve these goals. Okinawa was under the US military government from 1945 to 1972. Even after the 1972 reversion of Okinawa, it was the location of a large presence of US military and Japanese Defense Forces. In such a social and political environment, human rights and autonomy were limited by the US and Japanese governments. The purpose of the paper is to examine how Okinawans have applied the goals andfunctions of the United Nations to promote social and political movement from 1945 to today. Furthermore, the paper attempts, using the case of Okinawa, to redefine the role of the UN today, especially in light of the current perception of its decreased role and influence.
著者
後藤 健治 程内 ゆかり 松下 恵巳 田中 佑樹 西村 佳子 石井 修平 陳 蘭荘
出版者
南九州大学
雑誌
南九州大学研究報告. 自然科学編 (ISSN:1348639X)
巻号頁・発行日
no.43, pp.61-65, 2013-04

宮崎県在来野菜の日向カボチャはニホンカボチャCucurbita moschataの黒皮品種群に属している。しかし,昭和40年以降はセイヨウカボチャC. maximaが粉質の肉質と良好な食味で普及し,日向カボチャの栽培面積は減少し,現在は高級和食料理亭用として宮崎市と都城市の一部で施設栽培が行われているにすぎない。本研究では,日向カボチャの品種改良のための基礎的研究として他の種との種間交雑を行った。日向カボチャの'宮崎早生1号'を中心に正逆交雑実験を行ったとき,'クロダネカボチャ'との間に交雑親和性がなく,セイヨウカボチャあるいはその両種の雑種との間では,'宮崎早生1号'を花粉親にしたとき,4つの品種との間に不完全であるが,交雑親和性があり,種子親にしたとき,'久台33号'以外では単為結果しか見られなかった。正逆交配で得られた'宮崎早生1号'×'久台33号'間の雑種の果実の形質は両親の中間で,ブルームも若干あった。予備実験的に行ったRAPD-PCR解析法による雑種検定でも種間雑種であることが示唆された。さらに雑種株を用いて自殖を行ったとき,正常な着果が見られた。
著者
朝倉 徹
出版者
東海大学
雑誌
東海大学課程資格教育センター論集 (ISSN:13492438)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.43-49, 2006

1910年代からアメリカ,フランス,ドイツ等を中心に「科学的管理法」が浸透し,その後日本にも波及した。「科学的管理法」は「効率・能率主義」を生み,それが社会思想,教育思想にも大きな影響を及ぼした。その一例は,多くの小説や映画,教科書教材(等のメディア)が露骨な主題主義,単純明快な人物感情描写へと変質した(「道徳的価値」の分かりやすい提示=強制)ことであり,その過程で効率良く「正解」を教え込むために事実の捏造も行われた。その後,敗戦による価値観の大変動という転換期を経て,小説や映画は主題を隠し,受容者(読者と視聴者)の解釈に依存する形をとるようになった。学校教育(国語科)でも読解に力を入れ,主題や人物感情の思惟に時間を割くようになった。しかし,1990年代以降,社会にも学校教育にも「効率・能率主義」が復権してきている。「役に立つ」ことを教授することが,教室の中でも,教育研究者の間でも疑うことなく是とされる傾向が見え始めている。「役に立つ」ことは,教育する側が価値づけした事柄であり,それについて逡巡することなく安易に,一方的に提示する指導法は戦前・戦中の思想教育と同質である。この現状に対する処方箋は,「価値ある事柄・事実」を提示・受容(学習)することを懐疑し,「価値・事実」を相対化する(疑いながら受容する)過程の重要性を確認するところから生まれる。人間の認識は,必ず状況(文脈)に依存する。ならば「自明の価値」を流通させる一方通行型の授業は,生理的な認識機能に反することである。「明示された価値」を理解(暗記)する授業ではなく,文脈(状況)に隠れた主題,様々な感情の可能性について逡巡する授業がメディア(映画や文学作品)を用いた授業の方法論として検討されるべきである。それらは甚だ「非効率的」であるが,その有益性について,教育研究者が思惟することは非常に重要なことであると考える。
著者
小澤 義博
出版者
獣医疫学会
雑誌
獣医疫学雑誌 (ISSN:13432583)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.72-76, 2014

アフリカ豚コレラ(ASF)は昔からアフリカ在来のwarthohog(イボイノシシ),wild boar(イノシシ),soft ticks(ダニの一種)に不顕潜感染を続けてきたAsfivirusによる豚の病気である。アジアや欧米でよく知られている「豚コレラ」とは全く異なるウイルスによっておこる病気である。アフリカに白人が豚を持ち込むまではASFウイルスの存在すら知られていなかった。ASFウイルスは2本錯のDNAウイルスで,感染した豚や野生動物の血液や組織や肉製品,ダニなどの中で長期間生存できる。またアフリカにおける感受性を有する野生動物やダニは,ASFに感染してもなんら症状を示さず生存することが知られている。豚がASFに感染すると高い死亡率を示す急性のウイルス病であるが,時として慢性経過を示すASFウイルスの存在することが知られている。ASFウイルスは自然環境に強く,4度Cに保存された血液中で約1年半生存することがある。感染した豚の排泄物中でも室温で約1年半生存できる。また豚舎の中では約一ヶ月生存できる。骨付き肉では約150日間,塩付け乾燥ハムで140日間,凍結肉では数年間生存できる。ASFウイルスには多くの遺伝子型が存在するが,イベリア半島に広がったウィルスは1型で比較的に弱毒のウイルスであるが,2007年に黒海地方に広がったウイルスは2型で急性の経過をたどる。ASFウィルスは人には感染しないが,感染した豚には色々抗体が出来る。しかし中和抗体ができにくいので弱毒生ワクチンの開発が試みられてきたが,未だに実用化されていない。ASFの治療薬は存在しない。従って今のところASFのコントロールや撲滅には,感染国の豚やイノシシなどの感受性のある動物の殺処分に頼るしかない。しかし特定の野生動物の完全な淘汰は極めて難しく,ロシアは今のところ国内のイノシシのコントロール/淘汰には自信がないようである。
著者
川合 伸幸
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 = Cognitive studies : bulletin of the Japanese Cognitive Science Society (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.46-58, 2013-03-01
参考文献数
35
被引用文献数
1

A Noh mask, carved out of wood, is often said to be a byword for impassivity.<br> However, a Noh mask expresses various emotions during traditional Japanese Noh per<br>formances. A Noh mask that looks upward expresses happiness, while a mask looks<br> downward expresses sadness. Nevertheless, previous studies reported the opposite re<br>sults: people recognize pictures of masks with upward inclinations as being sad, whereas<br> masks with the larger downward inclinations were perceived as happy. This absurdity<br> seems to be occurred partly due to something realized in Mona Lisa's smile. Livingstone<br> (2000) pointed out that we cannot directly see Mona Lisa's smile. Her smile appears<br> only when we look at her eyes with seeing her mouth peripherally. A recent empirical<br> study confirmed that this peripheral vision for smile makes a face more mysterious than<br> a neutral or continuously smiling face. I will argue that a smiling mouth of Noh masks<br> with downward inclinations makes a Noh mask mysterious during Noh performances,<br>because hardly Eastern Asia people look at a mouth when they judge facial expressions (i.e., people see a mouth only peripherally). In experimental settings, people look at a<br> mouth of a Noh mask directly, that causes the oppsite results from those expected in<br> the framework of Noh world. I will also discuss similarities and differences between a<br> Noh mask and "Hello Kitty", which is a fictional character that also expresses countless<br> facial expressions without a mouth.
著者
林 直保子
出版者
関西大学社会的信頼システム創生センター
雑誌
社会的信頼学 = Trust and society (ISSN:21868646)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.43-52, 2013-03

本研究は,大学の偏差値と大学生の一般的信頼の関係について再検討することを目的としている.山岸(1999)によると,大学の偏差値と大学の一般的信頼得点の平均値の間には正の相関がある.山岸はこの分析に基づき,偏差値の高い大学に入ることで,学生の信頼感が高まると論じた.しかし,山岸の分析は,10校の四年制大学と2校の短期大学からのサンプルを用いて行われており,さらなる検討が必要であった.本研究では,この議論が正しいかどうかを検討するため,男女共学の4年制の28大学を調査対象とし,4,598ケースのデータを回収した.その結果,個人レベルの分析において,大学の偏差値と学生の信頼感の間に有意な相関は得られなかった.ただし,大学を分析のユニットとした場合,極端に偏差値の高い大学(偏差値70以上)の学生の信頼感の平均値は,それ以外の学生より高かった. This study re-examines the relationship between the relative standing (hensachi) of the college and the level of general trust of the students. Yamagishi (1999) reported that the relative standing of the college is positively correlated with the students' average score on the general trust scale. Based on this analysis, Yamagishi (1999) argued that belonging to elite colleges makes students high trusters. However, because Yamagishi (1999)'s analysis used a sample from only 10 colleges and 2 junior colleges, further investigation was necessary to draw a conclusion. We collected data from 28 colleges (N=4598) and examined the relationship between the level of general trust and the relative standing of the college both at the college level and the individual level. The results of the analyses using individual data suggest that the level of general trust is not significantly correlated with the ranking of the college to which students belong. However, the mean of general trust scores of the sample from universities with an extremely high score of hensachi (over 70) was significantly higher than that of the others.
著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.241-260, 2016-03

本件は、事業者が、クロレラを含有するいわゆる健康食品の販売のため配布するチラシに、薬効を有するかのように示す表示をしていることにつき、適格消費者団体が景品表示法10条1号(平成28年4月1日以降は30条1項1号)に基づく差止請求を提起した初めての訴訟であり、団体(京都消費者契約ネットワーク)が勝訴している(平成27年1月23日、事業者側が控訴、11月現在大阪高裁に係属中である)。本件判決は、健康食品の広告表示に関して、医薬品でないにもかかわらず薬効を示すものにつき、旧薬事法によって形成された一般消費者の医薬品への信頼をもって、実際より著しく優良であるとの誤認をもたらすと判断している点に意義を有する。この判断が維持されれば、健康食品の効能効果に付き科学的な証明が不要となり、事業者に対して合理的根拠の提出を強制する術をもたない、適格消費者団体による差止請求の可能性を広げうるものと期待されるからである。本稿では、本判決の論理を分析し、その射程を検討した。今後、保健機能を標榜する健康食品に関しては、特定保健用食品等に加え、平成27年4月1日から始まった機能性表示食品制度はその利用が容易であることに鑑みると、同制度を利用しない健康食品に関しては、本判決の論理が及ぶ可能性(機能性があるとの誤認の推認)がありうる。

2 0 0 0 OA 甲陽軍鑑

著者
高坂, 昌信
出版者
巻号頁・発行日
vol.[10],
出版者
中央美術社
巻号頁・発行日
vol.第1, 1929
著者
亀井 文 弓座 成美
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.64, 2012

[目的] 胃や小腸で消化吸収されることなく大腸にまで到達するデンプン、レジスタントスターチ(RS)は食物繊維同様に腸内細菌の発酵基質として利用され、そこで産生された短鎖脂肪酸は大腸の健康に重要な役割を果たしている。しかし、でんぷん性食品のRS量が、調理によってどのように変化するのかを調べた研究はあまり多くない。前回は米の炊飯時の加水量の増減に対してRS量には変化がなく、加水量の異なる炊き立て飯とRS量との間に関係性は見られなかったことを報告した。今回は炊飯時の加熱温度上昇の違いによる炊き立て飯とRS量について実験を行った。<br>[方法] 本実験は平成23年新潟県魚沼産コシヒカリを用いた。加熱条件は鍋を用いて100℃まですぐに上昇させて高温を維持する標準的な炊飯(A)、100℃まで一定に近い温度上昇変化での炊飯(B)、低温を長時間維持する炊飯(C)、炊飯器炊飯(日立RZ-DM3)(D)、電子レンジ炊飯(E)の5条件で行った。炊き上がり後、飯を均一化し、バットに広げて荒熱を取った後脱水操作を行い、炊き立て飯としてRS量を測定した。RS量測定はRS測定キット(メガザイム社)を用いて行った。<br>[結果] 条件CのRS量は0.34%であり他の条件と比べて有意に低い値であった。条件DのRS量は0.57%であり、条件A(0.45%)、B(0.45%)と比べて有意に高い値であった。この結果より、温度上昇変化およびそれに伴う炊飯時間の違いがRS量増加に関与していることが示唆された。
著者
御簾 博文
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.1, pp.25-30, 2016-01-10 (Released:2017-01-10)
参考文献数
7

非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)と2型糖尿病はしばしば合併する.脂肪肝では肝臓由来分泌タンパク“ヘパトカイン”の分泌異常がインスリン抵抗性を惹起して糖代謝を悪化させている可能性がある.特にselenoprotein P(SeP),LECT2(leukocyte cell-derived chemotaxin 2)など,従来では別の機能を有するとされていた肝由来液性因子が糖代謝に関与するとする報告が相次いでいる.ヘパトカインを標的とした耐糖能異常に対する新たな診断・治療法の開発が期待される.