著者
伊藤 千尋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.451-472, 2015-09-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
40

本稿の目的は,滋賀県高島市朽木における行商利用の変遷と現在の特徴を,利用者や利用する地域社会の視点から明らかにすることである.これを通じて,過疎・高齢化が深刻化する現代の山村において行商が果たす役割を考察する.若狭街道に位置する朽木は古くから行商人が行き交う地域であった.聞取り調査の結果,1950年代後半までには,行商人は物資の供給だけでなく,便利屋や機会の媒介者などのさまざまな役割を担い,朽木の地域社会を構成する一つの要素となっていたことが明らかになった.しかし,1960年代前半からの社会変化により,住民による行商の利用機会は減少し,行商人との関係性は希薄化した.一方,現在の行商は,高齢者にとっての補完的・代替的な買い物手段として機能している.また,利用者と行商人との関係性は雑談や相談のコミュニケーションの場として機能するほか,高齢者の自立した生活を豊かにする相互行為としての側面をもつと考えられる.
著者
上野 惠美 趙 彩尹
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education (ISSN:21899185)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.83-93, 2022-08-30 (Released:2022-08-30)
参考文献数
8

2019年から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって、人々の日常生活が奪われ、行動制限の中で生活することとなった。コロナ禍の中、次世代を担う大学生の新卒採用において、企業等がどのような経験や能力を把握したいと考えているのかを確認し、今後のキャリア教育の内容に反映させることが本研究の目的である。本研究においては、大学生の就職活動の選考における初期段階で、選抜のために使われるエントリーシートに着目した。エントリーシートでは学生生活での経験を問う内容が多いが、コロナ禍の行動制限がある中で、それに答えることのできる内容は、コロナ禍前に学生生活を過ごした大学生と比較すると圧倒的に少ないと考えられる。そのため、エントリーシートの質問項目が大きく変化したのではないかという仮説を立てた。収集したエントリーシートをコロナ禍前後で比較するため、テキストマイニングによって分析を行った結果、コロナ禍前には画一的な質問項目が多かったがコロナ禍後においては、多角的な質問項目が増えたことが確認できた。また、「学業」「興味」「資格」という、コロナ禍においても一人で取り組みやすい質問項目が増えているという、興味深い結果が確認できた。
著者
石田 直
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.100, no.12, pp.3484-3489, 2011 (Released:2013-04-11)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

わが国における肺炎の罹患率,死亡率は近年増加傾向を示しており,特に高齢者においてその傾向が著明である.高齢者や要介護者の増加等の社会的背景を反映して,医療・介護関連肺炎という新しい肺炎カテゴリーの概念も生み出されるようなった.肺炎の管理では,原因微生物を考慮した抗菌薬治療が中心となるが,社会的背景も考慮し,緩和的医療も含めた対応が必要になるかもしれない.
著者
永井 和
出版者
京都大學文學部
雑誌
京都大學文學部研究紀要 (ISSN:04529774)
巻号頁・発行日
no.36, pp.111-152, 1997-03

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
平野 郁子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.1-22, 2014-06-30

本研究は,発達障害のある人が障害者手帳をもって生きるとはどのような体験かを明らかにする目的で,手帳取得前後のエピソードを4 名の協力者から聞き取り,質的分析を行った。 協力者らは,葛藤の末に複雑な心境で取得を決断し,取得後は,手帳を役立つものとして活用していた。しかし,期待と異なる厳しい障害者雇用の現状や,健常者にも障害者にも成り切れない「どっちつかず」のアイデンティティの矛盾に直面するなかで、複雑な思いも抱いていた。 こうした様々な揺らぎに対し,協力者らは診断以前からある信念や価値観をもとに折り合おうとしていた。そして、本研究で語ることを通じて障害者手帳をもって生きる体験が“葛藤を抱えつつ社会と自分に折り合いながら生きること”として語られていった。
著者
大谷 典生 浅野 直 望月 俊明 椎野 泰和 青木 光広 石松 伸一
出版者
Japanese Association for Acute Medicine
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.12, pp.636-640, 2004-12-15 (Released:2009-03-27)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

A case report of histamine (Scombrotoxin) poisoning is presented. Five to ninety minutes after eating cooked swordfish, 30 persons reported feverishness, diarrhea, palpitations, headache, nausea, dyspnea, generalized urticaria, angioedema, and shock. Of these, 13 persons were admitted to Saint Luke's International Hospital. The patients were given intravenous hydration, IV Hl-blocker, and subcutaneous epinephrine as needed. However, 4 patients required continuous administration of epinephrine intravenously for resolution of the anaphylactic shock. These patients required observation in our intensive care unit. On the following day, all the patients were well and ready for discharge from the hospital. There were no symptoms at the time of discharge. Quantitative determination of the plasma concentration of histamine at the time of admission revealed a value of 0.85-43.10ng/ml. Some pieces of the offending tuna were sent for analysis, and 670mg histamine per 100g of the fresh tuna and 750mg histamine per 100g of the cooked tuna were detected. Generally speaking, histamine poisoning is associated with only mild allergic symptoms. However, in this case, some people developed shock and required close observation. This experience suggests that histamine poisoning can be associated with an outbreak of anaphylactic shock and serves as a cautionary example for emergency medical staff.
著者
重光 司
出版者
社団法人 プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.659-665, 1999-06-25 (Released:2001-04-26)
参考文献数
19
被引用文献数
7 16

This paper briefly reviews the effects of electric fields, air ions, and corona discharge on plants. From the middle of the eighteenth century, electric fields and air ions have been applied to plants both in the field and under laboratory conditions. Although many studies have reported beneficial effects, the results have been inconsistent, and the electrical conditions leading to definite benefits cannot so far be predicted. High electric fields have been reported to damage plants by flowing the induced currents caused by corona discharge from the tips. Since the investigations have been continued, the results have been controversial and contradictory. There remains no firm theory governing electrophysiology in plants.
著者
川島 眞 石崎 千明
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.3, pp.275-284, 2007-03-20 (Released:2014-12-03)

医療用保湿剤の有効性を客観的に評価するために,健康成人に作製した人工的乾燥皮膚及びアトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対する保湿剤の効果を,皮膚生理学的パラメーター(角層水分量,経表皮水分喪失量)を指標として比較検討した.人工的乾燥皮膚に対するヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイド®ソフト),20%尿素含有製剤(尿素製剤)及びワセリンの保湿効果を,無作為割付によるランダム化比較試験で評価した.乾燥皮膚は,前腕内側部を対象部位として,アセトン/エーテル及び水で処置し作製した.試験薬は,1日1回計3日間塗布し,経日的に角層水分量及び経表皮水分喪失量を測定し,皮膚乾燥度を視診及びマイクロスコープで観察した.その結果,ヘパリン類似物質含有製剤及び尿素製剤は,角層水分量を有意に増加させた.ヘパリン類似物質含有製剤は角層水分量において,ワセリンに比べ有意に高い効果を示し,尿素製剤に比べ乾燥状態をより早く回復させることが示唆された.また,ヘパリン類似物質含有製剤,尿素製剤及びワセリンは,経表皮水分喪失量及び皮膚乾燥度を有意に改善した.次に,アトピー性皮膚炎患者を対象としてその乾燥皮膚に対するヘパリン類似物質含有製剤の保湿効果を検討した.前腕内側部を対象部位として,ヘパリン類似物質含有製剤を1日2回計3週間塗布した.1週間毎に角層水分量及び経表皮水分喪失量を測定し,また皮膚所見を視診で観察し,痒みの程度を問診した.その結果,ヘパリン類似物質含有製剤は,角層水分量及び皮膚所見を有意に改善したが,経表皮水分喪失量及び痒みは改善しなかった.以上より,皮膚生理学的機能異常の改善を目的に使用されているヘパリン類似物質含有製剤,尿素製剤及びワセリンの乾燥皮膚に対する有効性が示され,またヘパリン類似物質含有製剤はアトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対しても有効であることが示された.
著者
久保 健治 中川 慧 水上 大樹 Acharya Dipesh
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会第二種研究会資料 (ISSN:24365556)
巻号頁・発行日
vol.2022, no.FIN-029, pp.23-27, 2022-10-08 (Released:2022-10-01)

暗号資産販売所は、ビッド・アスク価格を提示し、顧客から暗号資産の注文を受け付ける相対取引サービスであり、暗号資産市場に流動性を供給している。顧客からの注文によって販売所の暗号資産の在庫は変化し、一方で、在庫は常に価格変動リスクに晒される。このため、適切な在庫管理が必要になる。同じ相対取引サービスである FX ディーラーの在庫管理問題については、確率制御に基づいた最適流動化戦略が提案されている。ただし、暗号資産市場は FX 市場と比べ、流動性が低く、ボラティリティが大きい。更に、暗号資産販売所においては顧客から注文に大きな偏りがみられる。そのため、暗号資産販売所における在庫管理問題を解決するためには、暗号資産市場に特有の性質を考慮して、最適流動化戦略を構築する必要がある。そこで、本研究では暗号資産販売所に対する在庫管理問題を定義し、確率制御に基づき最適流動化戦略を提案する。また、モデルパラメータを bitFlyer の公開データを用いて推定し、数値計算により、最適流動化戦略を得た。得られた結果から、注文頻度の偏りが最適流動化戦略に影響を与えることを示した。また、単純な流動化戦略と比較することで、提案手法の有効性も確認した。本研究は暗号資産販売所における最適流動化戦略という新たな領域を開拓するものになるであろう。
著者
正路 徹也 佐々木 望
出版者
The Society of Resource Geology
雑誌
鉱山地質 (ISSN:00265209)
巻号頁・発行日
vol.28, no.152, pp.397-404, 1978-11-01 (Released:2009-06-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1

The minerals of the scheelite-powellite series containing 0, 0.5, 1, 2, 4, 6, 10, 20, 40, 60, 80 and 100 mole % CaMoO4 have been synthesized. The solid solution of this series was obtained by the slow addition of a Na2WO4-Na2MoO4 solution to a large volume of boiling CaCL2 solution. The fluorescent colors of the precipitate change as follows: blue at the scheelite end, pale blue at 0.5 mole % CaMoO4, white at 1 mole %, pale yellow at 2 mole %, and yellow at 4 mole %; and increase yellow tint up to 20 mole %, but do not show any remarkable change beyond that composition. Compared with the standard color card (Fig. 4), on which the precipitates are put, the composition of scheelite containing less than 10 mole % CaMoO4 can be determined within the accuracy of 1 or 2 mole %.The X-ray powder data show that the 2θ 116 (CuKα)-2θ220 (CuKα) values decrease linearly from 5.23° to 4.83° with the increasing amounts of powellite component in this solid solution. Using this value, the composition can be estimated within the accuracy of 10 mole % CaMoO4. From the synthesis, fluorescent colors and X-ray data, it is inferred that the solid solution of the mineral series continues from the scheelite to powellite ends above a room temperature.
著者
原山 智
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.373-389, 2015-10-15 (Released:2016-01-15)
参考文献数
65
被引用文献数
6 5

日本を代表する山岳景勝地である上高地は,槍・穂高連峰などの高峰に囲まれた谷底盆地である.日本では山岳地域の河谷の多くが急勾配で狭いV字谷であるのに対し,上高地盆地の勾配(大正池-徳沢間10 km)は8‰と小さく,盆地の幅は600-900 mと広い.この緩傾斜で幅広の谷底は,12.4 kaに焼岳火山群白谷山-アカンダナ火山の活動により岐阜県側に流下していた古梓川がせき止められ生じた古上高地湖が埋積されて形成された.槍・穂高連峰を構成する第四紀カルデラ火山-深成複合体を観察する上でも上高地では優れた巡検が可能である.第四紀花崗岩である滝谷花崗閃緑岩も,巨大カルデラを埋積したデイサイト質溶結凝灰岩も谷底の遊歩道沿いで観察可能である.また形成まもないカルデラ火山では観察不可能な,カルデラ内部の陥没カルデラ縁断層,カルデラ床やカルデラ壁崩壊角礫岩が観察できる点でも貴重なフィールドである.
著者
山田 昌弘
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.41-51, 2017-05-25 (Released:2017-06-13)
参考文献数
10

日本の少子化を考える場合,次の意識を考慮に入れる必要がある。一つは,「結婚は経済的なイベントという意識」である。結婚は,恋愛の結果生じるという側面よりも,経済的に新しい生活を始める側面が強調される。第二に,日本では世間体意識が強く,他人から見て恥ずかしくない結婚生活を求める。特に,子どもに経済的につらい思いをさせたくないという意識が強い。そのため,自分が育った経済環境以上の条件が整わなければ結婚や出産を見合わせるのである。経済の高度成長期には,若者の経済状態はよく,その条件は整っていた。しかし,オイルショックを経て,1990年以降,若者の経済状況は不安定になり,格差が拡大する。子どもを十分な経済環境で育てる見込みがたたない若者が増える。その結果,結婚が減少するだけでなく,男女交際も不活発化する。そして,2000年以降,夫婦の子ども数も減少するのである。
著者
白鳥 克弥
出版者
専修大学
巻号頁・発行日
2016

identifier:博文甲第58号