著者
土居 誉生 隅田 英一郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.1742-1752, 2006-06-15

コーパスベース翻訳は高い翻訳品質を実現しうる有望な技術である.しかし,入力文と関連のない語が訳文に湧き出すなど,特徴的な翻訳誤りも観察される.本稿では,この湧き出し誤りへの対処として,後編集により自動修正するアプローチを提案する.提案手法は,単語翻訳モデルを利用して誤り語候補を検出し,修正処理を起動する.誤り語候補は,対訳コーパスから得られた用例を利用した制約の検証を経て,訳文から削除される.日英および中英翻訳を対象とした複数のシステムを使った実験で,誤り語自動削除による翻訳精度向上効果が確認された.
著者
工 一仁
出版者
拓殖大学政治経済研究所
雑誌
拓殖大学論集. 政治・経済・法律研究 = The review of Takushoku University : Politics, economics and law (ISSN:13446630)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.185-196, 2020-03-25

満洲の農業開拓事業に従事する人材の養成を主たる目標に掲げて,昭和14(1939)年4月1日に設置された拓殖大学専門部開拓科は,第二次世界大戦終結後,拓殖大学が群馬農林専門学校を吸収合併したのに伴って紅陵専門学校農学科(群馬分校)となり,現在は,拓殖大学北海道短期大学農学ビジネス学科として,広大な北海道深川の地でその歴史と伝統を力強く継承している。学校法人拓殖大学では,中国帰国者の受け入れを全学をあげて積極的に行ってきた。専門部開拓科を中心とする卒業生の多くには,満蒙の開拓事業に全身全霊を持って挺身し,戦争終結時の予想だにしなかった大混乱の中,艱難辛苦の言語に絶する困難を,満身創痍の同胞と共有し経験してきた歴史的所以がある。そして,念願であった日中国交回復後,東京都社会福祉協議会ならびに東京都中国帰国者自立研修センターの委託を受け,本学が学内に開設した「拓殖大学茗荷谷日本語教室」は,他に先駆けての社会的国際貢献活動であった。
著者
三木 雅博
出版者
梅花女子大学文化表現学部
雑誌
梅花女子大学文化表現学部紀要 = Baika Women's University Faculty of Cultural and Expression Studies Bulletin (ISSN:24320420)
巻号頁・発行日
no.19, pp.72-93, 2023-03-20

平安朝漢文学の担い手といえば、大学寮で高度な漢学の研鑽を積み、漢語を自在に用いて作詩や作文が行える文人官僚たちを、多くの人は思い浮かべるであろう。菅原道真や大江朝綱、大江匡衡、菅原文時、院政期に降っては大江匡房などがその代表的存在として挙げられる。しかし、平安時代、漢語を用いて漢文を綴っていたのは、これらの名だたる文人官僚たちばかりではない。これらの文人官僚たちの下もと、朝廷で下働きをする官人、あるいは地方の国衙やその出先で働く在地の官人、都や地方の寺院で文書の作成に携わる僧侶など、多くの場所に様々な漢文を綴ることを生業なりわいにしていた人々がいた。こうした人たちが作成する漢文の大半は日常的な文書の類たぐいであり、その役目が終わると廃棄されてしまい、残されたものも歴史の「史料」とはなっても「作品」と呼べるものはほとんど残っていない。とはいえ、中にはそう呼べるものもいくつか存在し―本稿で扱う『尾張国解文』『将門記』『仲文章』などが挙げられる―、細々ほそぼそとではあるが現在まで伝わっている。本稿では、こうした下層の官人や僧侶たちが生み出したと思われる作品や、その作品を形成している漢文の世界に焦点をあて、それらが前述の名だたる文人官僚たちの作成した漢文の世界―彼らの代表作が収められた書物『本朝文粋』の名を取り「『本朝文粋』的漢文世界」と仮称する―と相対的にどのような関係にあるのかを考察し、こうした下層階級の漢文作品の存在意義について述べてみたい。
著者
北村 伊都子
出版者
梅花女子大学文化表現学部
雑誌
梅花女子大学文化表現学部紀要 = Baika Women's University Faculty of Cultural and Expression Studies Bulletin (ISSN:24320420)
巻号頁・発行日
no.19, pp.36-43, 2023-03-20

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、日本だけでなく世界中で感染対策のため、マスクの着用が普及した。これにより、鼻と口、つまり顔の下半分を互いに隠した形で他者とコミュニケーションをとることが余儀なくされ、表情の印象評定が困難になった(e.g.,Carbon, 2020)。この印象評定の困難さの度合いが文化によって異なるのかを、齊藤・元木・高野(2021)はオンライン実験によって日米比較を行った。結果、表情の印象評定はマスク着用によって影響があり、その度合いに日米差が見られた。特に、マスク着用の笑顔表情においては、アメリカ人は印象評定が阻害されるが、日本人では阻害がされなかった。この違いは、印象評定の際、人の顔のどの部分に注目するのかという文化の違いが影響を及ぼしていると考えられている(Yuki, Maddux, & Masuda, 2007)。加えて、なぜ注目する部分が違うのかについて、Tsai(2017)はその文化における理想的な感情表現・表情表出のルールにのっとっているからではないかとしている。本論文では、このようなマスク着用時における笑顔の印象評定の文化差について、日本を含む東アジア・北米に焦点をあて、文化的な背景を比較しながら検討を深めた。
著者
池 弘子
雑誌
聖学院大学論叢 = The Journal of Seigakuin University (ISSN:09152539)
巻号頁・発行日
vol.第19巻, no.第1号, pp.33-46, 2006-11

Research has established that psychological abuse has the longest-lasting and strongest negative effect on children of any type of child abuse. There are many researchers who believe that psychological abuse is a core component of all types of child abuse. But psychological abuse has created so many difficulties and so much confusion for researchers and practitioners, and these difficulties and confusion have led to delays in protective intervention. It is pointed out that one of reasons for these difficulties and confusion lies in the absence of a unified and precise definition. This study reviews the wide range of definitions of psychological abuse and proposes an appropriate direction for defining the term. (a) Psychological abuse should be defined solely by parental behaviour having potential for harm to a child not including observable child harm. (b) Psychological abuse should be limited to nonphysical parental behaviour and nonphysical child outcomes. (c) Parental intent to harm the child is not necessary for the definition. (d) Psychological abuse should include not only repeated patterns of parental behaviour but also singular extreme incident. In addition I propose the following five subtypes of psychological abuse: spurning, terrorizing, isolating, encouraging inappropriate behavior, and denying emotional responsiveness.
著者
林 容子
雑誌
尚美学園大学芸術情報学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Informatics for Arts, Shobi University (ISSN:13471023)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.57-79, 2004-12-24

2002年から2004年の夏にかけて、マンスフィールド財団、アジア財団、パシフィックフォーラムという3つの米国系財団の招聘で、日韓の諸問題を討議するリトリートに参加した。安全保障や外交の専門家に加え、NGO、文化、ジャーナリズムを専門とするそれぞれの国の代表が一同に招聘され、自由に討議した。それぞれの視点より、日韓関係を述べることになったとき、筆者のカウンタパートである韓国の美術史家より、「日本は、日帝期時代に多くの朝鮮墳墓を発掘し、朝鮮美術品を不当に日本に持ち帰り、返還していない。日本には、多くの逸品を含む30万点に上る朝鮮文化財があり、韓国の研究者は、自国の文化財なのに、わざわざ日本まで見に行かなければならないし、なかなか見ることができない。」と開口一番に指摘された。文化分野を代表していたものの、私の専門はアートマネージメントであり、朝鮮美術の専門家ではない。これまで、特に朝鮮美術はおろか、日韓関係についても特別の関心は持ってこなかった。彼女が指摘したのは、いわゆる略奪文化財の問題であるが、略奪文化財といえば、それまで私の脳裏に浮かぶのは、大英博物館保有の古代ギリシアの大理石彫刻(別名:エルギンマーブル)やナチスが略奪して、散逸した美術品の数々であり、「日本が朝鮮から美術品を略奪した」といわれても"晴天の霹靂"といわざるをえなかった。その場では、残念ながら日本代表として弁護することも、謝罪することもできず、とにかく自分なりに事実関係を確認し、次に報告すると約束するのが精一杯だった。これが本稿の切掛けとなった。帰国後、このことを日本の様々な知人に話すと様々な反応が帰ってきた。しかし、この件について無知だったのは、私だけでなく、朝鮮美術や東洋美術の専門家の友人を除いて、多くにとって、このことは初耳のようだった。事情を話すと、一般の人は「それなら返還したらいいじゃない。」と別に人事のような反応だった。一方、日本の東洋美術の専門家の友人たちに話すと、「この件は、すでに決着がついているのに、何故いまさらそんな過去のことを調査するのか。日韓の文化交流はとてもよくなっているのに、あなたがしようとしていることは、全くの時間の無駄であり、それよりも何故、もっと前向きなことにエネルギーを使わないのか。」と大変な勢いで抗議された。本問題に関して、両国の国民の間の意識レベルに大きなギャップが存在する。この問題に対する双方の一般国民の意識の低さおよび事実関係の認識の欠如が他の日韓の歴史問題同様に感情論の問題にしてしまい、根本的な問題解決を妨げていることも否めない。その一方で、日本と韓国の交流は、日韓ワールドカップの共催を経て両者の政府の方針もあり急速に高まっている。韓国側でも政府主導の友好的な外交政策がとられ、少なくとも日本では韓国に対する国民感情が少しずつながら好意的なものになっている。結果として85年以降日本人コレクターによる韓国への文化財の恣意的な寄贈も増えている。今、日本は、国交正常化以来の韓国文化ブームに沸いている。また、韓国でも、日本の朝鮮半島占領政策がもたらした経済効果を数字で分析する経済学者1が現れるなど、単なる感情論を越えて、日本の植民地政策を分析しようという動きが出てきている。調査を進めるうち、本問題は、日本の朝鮮植民地政策、日韓条約などの歴史問題に深く関わることはいうまでもないが、さらに、現在の国際法上での略奪美術品の扱いの問題や日本における美術品に関する税制や公開の制度の未整備など、国内外のアートマネージメント上の問題が大きく関わっていることがわかった。そこで本稿では、大きく第一に、在日朝鮮文化財の歴史的経緯、第二に、国際的および日本の国内事情の抱えるアートマネージメント関連の問題の考察、つまり、多くの在日朝鮮美術品の返還と公開に関わる問題を取り上げる。最後に、これらを踏まえた上でのこの問題に対する改善試案を提案する。
著者
荒木 菜穂 Naho ARAKI
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
vol.30, pp.1-19, 2016-03-15

フェミニズム的活動を行う女性グループでは、しばしば、権力構造を否定する関係性、すなわち、対等な関係性、「平場」の関係性が目指される。そこではしばしば、権力構造をともなう組織であれば解決されていたかもしれない困難が発生する。権力や権威を否定することは、フェミニズム的理念にはかなうが、活動が力を持ち、持続、発展していく際には足かせとなる。しかしそれは、結果として、それらの困難を乗り越えたグループが持続、場合によっては発展、成功していることを意味する。本稿では、フェミニズム的側面を持つ女性グループにおける平場の意味と、平場的組織のあり方の困難、その解決について、いくつかの事例を紹介する。女性が平場の関係性を持続させ、そこでの活動を発展させるちから、場合によっては外部の何らかの構造に働きかける権力を持つためにはどういったことが必要であるのかを知る道筋のヒントを明らかにしていきたい。
著者
久野 靖
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.352-355, 2014-03-15
著者
半田 健 西田 晴香
出版者
九州地区国立大学間の連携事業に係る企画委員会リポジトリ部会
雑誌
九州地区国立大学教育系・文系研究論文集 = The Joint Journal of the National Universities in Kyushu. Education and Humanities (ISSN:18828728)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.No.10, 2023-03-31

本研究は、通常の学級において、児童の着席行動を対象に、ミステリーモチベーターを組み合わせた相互依存型集団随伴性の効果を検証した。 研究計画は、ベースライン期と支援期から構成されるABデザインを用いた。場面は、公立小学校の通常の学級であった。参加者は、4年生の児童39名であった。独立変数は、ミステリーモチベーターを組み合わせた相互依存型集団随伴性であった。標的行動は、児童の授業開始時の着席行動であり、「3時間目の開始を知らせるチャイムが鳴り終わった時点で着席している行動」と定義した。結果は、児童のチャイム終了時の離席者数が減少した。また、社会的妥当性も学級担任と特別支援教育コーディネーターから概ねポジティブな評価を得た。結論として、小学校の通常の学級における児童の着席行動に対して、ミステリーモチベーターを組み合わせた相互依存型集団随伴性の効果 が示された。課題として、間欠強化スケジュールを用いた手続きや学校行事を考慮した支援計画、教職経験の少ない学級担任でも実施可能な手続き、負の副次的効果を防ぐ手続きについて検討する必要性が指摘された。