著者
稲賀 繁美
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 = NIHON KENKYŪ
巻号頁・発行日
vol.54, pp.105-128, 2017-01-31

学術としての「美術史学」は全球化(globalize)できるか。この話題に関して、2005年にアイルランドのコークで国際会議が開かれ、報告書が2007年に刊行された。筆者は日本から唯一この企画への参加を求められ、コメントを提出した。本稿はこれを日本語に翻訳し、必要な増補を加えたものである。すでに原典刊行から8年を経過し、「全球化」は日本にも浸透をみせている話題である。だがなぜか日本での議論は希薄であり、また従来と同じく、一時の流行として処理され、日本美術史などの専門領域からは、問題意識が共有されるには至っていない。そうした状況に鑑み、本稿を研究ノートとして日本語でも読めるかたちで提供する。
著者
アルベール ギヨーム
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A 教育研究 = Educational Studies (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.25-32, 2016-03-31

大学生が高等教育レベルを学ぶ時,基礎的な要件となるのは論文の書き方である。しかし,常に問題とされるのは,彼らが中等教育で論文の書き方を既に学んでいることを求められている点である。ただし,そのような知識を要して論文を書いている学生は稀である。同時に筆記試験が基本という教育制度において論文を書くための知識を中等教育の時から高めるたとしても得られる価値は少ないのである。本稿はKuhlthau のInformation Search Process(情報検索プロセス)を使い論文作成の最初のステージに焦点をあてる。研究を理解する上で重要なWord Knowledge(言葉知識)について主にスポットライトをあてる。ICTの発展により,データベースにアクセスしやすくなったことで,文献レビューの機会が多くなり研究の幅が広がった。しかし,それらデータベースを使いこなすためには,Word Knowledge(言葉知識)が必須であるが,その概念を理解し咀嚼することは難しい。本稿は,理論的観点と実践的観点の二つのアプローチを取る。
著者
西潟 憲策 佐々木 裕之 安藤 寿之 野沢 善浩 中谷 貴子
雑誌
デジタルプラクティス (ISSN:21884390)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.275-283, 2016-07-15

アジャイル開発は,開発プロセスだけでなく,プロジェクト管理の考え方も従来の方法とは大きく異なる.ベンダとして,さまざまなプロジェクトにおいてアジャイル開発を適用し,成功に導くためには,アジャイル開発の経験と実績を積み重ねることが重要である.筆者らは,これまでにもNECグループ内のツール開発やクラウドサービス開発において,積極的にアジャイル開発を採用し,ノウハウを蓄積するようにしてきた.今回,当社の新規ビジネス領域のクラウドサービス開発において,アジャイル開発を適用した.本稿では,当事例について,要件の検討と変更への適用の取り組みを中心に紹介する.
著者
BOOYSEN Frederik MOLOI Tshepo MUNRO Alistair GUVURIRO Sevias CAMPHER Celeste
出版者
GRIPS Policy Research Center
雑誌
GRIPS Discussion Papers
巻号頁・発行日
vol.16-29, 2017-01

Altruism is one of the single most important social preferences driving human behaviour. In Psychology experiments, the Social Discounting Task is employed as a measure of altruism. A conventional laboratory experiment was conducted with 117 undergraduate students, with students randomly assigned to complete an incentivized and un-incentivized Social Discounting Task. In accordance with the 1/d law of giving, the results exhibit the expected inverse relationship between social distance and altruism. There is weak evidence that incentivizing the Social Discounting Task impacts the measurement of altruism in a student population. More specifically, subjects are more altruistic when incentivized, possibly due to enforced reciprocity. At the same time, making payments real influence the identity of the target recipients: paying makes subjects more likely to choose people who are physically and psychologically close at high ranks, and more likely to report greater physical and psychological distance to subjects at lower ranks. Further research is required to verify the robustness of this result. The study also shows that among students family members are more altruistic toward each other as are those exhibiting greater intergenerational solidarity. Preferences for altruism in this student population is no different from WEIRD subject populations.
著者
斎藤 秀雄 田浦 健次朗 近山 隆
雑誌
情報処理学会研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.87(2006-HPC-107), pp.25-30, 2006-07-31

我々が開発している広域分散計算環境用のメッセージパッシングシステムMPI/GXPについて説明する.MPI/GXPは計算環境が実行毎に変化するということを意識して,実行時に測定した遅延や通信量を基に様々な性能最適化を行う.5クラスタ256プロセッサという環境では,遅延を考慮した接続確立を行うことによって,既存のグリッド用メッセージパッシングシステムのようにルータが維持できるセッション数に制限されることなく動作した.また 通信オーバヘッドを考慮したrank 割り当てを行うことによって ランダムなrank割り当てを行った場合と比べてNAS Parallel Benchmarks の性能が60%から100%向上した.
著者
成 玖美
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.43-56, 2005-01-14

アメリカの大学が地域サービスを重視しながら大学エクステンションを発展させてきたことはよく知られている。しかし南部黒人集住地域の地域開発に寄与した黒人大学のエクステンションについては、従来、等閑視されてきた。本稿は19世紀末から20世紀にかけてのタスキーギ学院におけるエクステンション活動を、地域開発教育の視点から検討するものである。タスキーギ学院は、タスキーギ黒人会議および地区会議ネットワーク、および数種の農業技術指導講習会を通して、農村生活改善に尽力した。また家庭を支える女性の役割を重視し、母親集会やセツルメントなどを通して、女性の意識向上に努めた。さらには地域図書館設立や農村公立学校の改善指導など、さまざまな形で地域開発教育を展開した。こうした実践は、学習機会が圧倒的に乏しく、差別の厳しい環境における切実な地域開発教育実践として評価されると同時に、体制内改良主義的教育としての限界をも持つ。それは現代多文化主義教育が構想される以前の、「近代」マイノリティ成人教育の光と影を示していよう。一方で、タスキーギ学院のエクステンションは、大学の専門性の地域還元という性格だけでなく、より幅広い対象へのアプローチを展開させており、地域開発の総合的教育機関としての役割を担っていたとも解される。地域開発を梃子として人種の地位向上を目指した、南部農村地域における黒人大学エクステンションの歴史的性格を、検討する。
著者
佐藤 弥生 佐々木 千晶
出版者
岩手県立大学社会福祉学部
雑誌
岩手県立大学社会福祉学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Social Welfare, Iwate Prefectural University (ISSN:13448528)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.11-21, 2016-03

本研究は、虐待の延長上にある「不適切ケア」について、特別養護老人ホームの介護職員が持つ判断基準の傾向を明らかにすることを目的とした。A県の介護職員にアンケートを実施し、不適切な行為か迷った際の判断基準があると回答した366 人分の自由記述を分析の対象とし、テキストマイニングにより経験年数を変数として分析を行った。経験年数5 年未満では、自分よりも経験知の高い人へ相談すること、経験年数5 年以上になると立場の置き換えや対象者の感情や表情を判断基準とし、経験年数10 年以上では、「倫理綱領」といった基準も存在していた。結論として、介護職員にはより具体的な基準を示した上での倫理強化が必要であると考えられた。
著者
姜 克實
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.32, pp.99-117, 2006-03-31

満州は、かつて政治的には日本と「特殊の関係」を持つ地域とされた。また「赤い夕日」の「郷愁」に象徴されるように、日本人にとって「特殊の感情」を懐かせる土地でもあった。この特殊の関係・感情とはなにか、また歴史的にはいつ、どのように形成されていったかを、本稿において検証する。
著者
廣中 詩織 吉田 光男 岡部 正幸 梅村 恭司
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 = Transactions of the Japanese Society for Artificial Intelligence (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.WII-M_1-11, 2017

The home locations of Twitter users can be estimated using a social network, which is generated by various relationships between users. There are many network-based location estimation methods with user relationships. However, the estimation accuracy of various methods and relationships is unclear. In this study, we estimate the users’home locations using four network-based location estimation methods on four types of social networks in Japan. We have obtained two results. (1) In the location estimation methods, the method that selects the most frequent location among the friends of the user shows the highest precision and recall. (2) In the four types of social networks, the relationship of follower has the highest precision and recall.
著者
KAWASAKI Kenichi
出版者
GRIPS Policy Research Center
雑誌
GRIPS Discussion Papers
巻号頁・発行日
vol.16-27, 2017-01

地域統合の動向には深刻な不確実性が高まっている。英国は、EUからの離脱を決定した。米国の新大統領は環太平洋パートナーシップ(TPP)からの撤退に言及してきた。本論文の主な目的は、応用一般均衡世界貿易モデルを用いて、地域貿易協定(RTA)の代替的なシナリオの経済効果を定量的に比較することである。米国は、TPPから撤退すると、裨益しないばかりか、損失を被る可能性も推計される。日本との2国間の自由貿易協定(FTA)及び経済連携協定(EPA)の効果はTPPよりも小さくなる。中国やメキシコに対する米国の高い関税の課税は、中国、メキシコばかりか米国の経済厚生を著しく損なう。中国の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)からの便益は、合意内容によっては、米国の関税の影響に比べて相対的に限られたものとなる。英国は、EUからの離脱によって損失を被るが、EU離脱のコストは、TPP参加の便益に比べて小さくなる可能性がある。総じて、関税削減に比べて、非関税措置(NTM)削減による所得効果はより大きなものとなることが示される。より大きな経済的な便益を享受するため、RTAの高い水準を達成する最善の努力が世界的に行われることが勧められる。