- 著者
-
中村 文
今泉 敏
- 出版者
- 一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
- 雑誌
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.3, pp.264-273, 2011-12-31 (Released:2020-06-25)
- 参考文献数
- 32
【目的】あらかじめ提示される音声情報の有無による飲料の種類の予測の成否に,嚥下運動がどう影響されるか,影響に年齢差があるかどうかを検討した.【対象】 摂食・嚥下障害のない健常若年成人(11 名,平均21.7 歳)と健常高齢成人(8 名,平均68.4 歳)を対象とした.【方法】実験刺激として,5 ml の飲料(りんごジュース,水,青汁)および音声情報(ringo,omizu,aojiru)を使用した.3 種類の飲料と3 種類の音声情報の組み合わせによって,音声情報と実際に投入される飲料が一致する場合と一致しない場合が生じるようにした.音声情報を提示した1 秒後に,対象者の口腔に飲料をシリンジで注入した.対象者は5 ~ 7 秒間口腔内に飲料を保持した後,純音を合図に,一気に飲み込んだ.その間の嚥下運動を,嚥下音と表面筋電図(舌骨上筋群および舌骨下筋群の筋活動を測定)を介して計測した.従属変数を各嚥下運動パラメーターとした2 種類の分散分析を行った.分析1 では,音声情報無条件および音声情報有条件の結果を分析対象とし,独立変数を飲料と,音声情報の有無,年齢とした.分析2 では,音声情報有条件の結果のみを分析対象とし,独立変数を飲料と,音声情報の種類,年齢とした.【結果】年齢にかかわらず,音声情報を提示しない場合に,舌骨上筋群最大値が減少した(p<.05).高齢者では,音声情報を提示した場合には,飲料と一致しない音声情報を提示した場合に,嚥下音潜時‐舌骨下筋群潜時が有意に短縮した(p<.05).【考察】口腔内投入の事前合図がない場合に,嚥下運動時の筋収縮が不十分となり,高齢者では,予測と異なる飲料を飲み込む場合に,嚥下反射が弱化することが示唆された.高齢者では,音声による事前情報に基づく予測と知覚情報が異なる場合に,摂取物認知の情報処理過程が混乱し,結果として嚥下運動も変化するものと考えられた.