著者
久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.25-48, 1988-01-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 6

南関東の相模野台地・武蔵野台地に分布する谷の地形・地質を比較検討し,これらの谷の形成過程について考察した. 相模野・武蔵野をはじめとする関東平野の台地には,台地上に厚い風成テフラをのせるものが多い.これらの台地では現在までの数万年の間,テフラの問けつ的な降下と,台地に流域をもつような小さい川の侵食・運搬作用が同時に進行していたと考えられる.このような堆積(テフラの降下)と侵食・運搬作用(谷の成長)の積分の結果が現在の相模野・武蔵野台地の谷地形であること,すなわち,礫層を堆積させた過去の大河川の名残川が降下テフラを流し去ることによって谷を形成したことを,相模野および武蔵野台地の各時代の面を「刻む」谷の地形・地質を比較することにより導き,谷の形成過程を説明した.
著者
大谷 多加志 清水 里美 郷間 英世 大久保 純一郎 清水 寛之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.12-23, 2017 (Released:2019-03-20)
参考文献数
33

本研究の目的は,発達評価における絵並べ課題の有用性を検討することである。44月(3歳8ヵ月)から107月(8歳11ヵ月)の幼児および学童児349人を対象に,独自に作成した4種類の絵並べ課題を実施し,各課題の年齢区分別正答率を調べた。本研究では絵並べ課題のストーリーの内容に注目し,Baron-Cohen, Leslie, and Frith(1986)が用いた課題を参考に,4種類の絵並べ課題を作成した。課題は,ストーリーの内容によって「機械的系列」,「行動的系列」,「意図的系列」の3つのカテゴリーに分類され,最も容易な「機械的系列」の課題によって絵並べ課題の課題要求が理解可能になる年齢を調べ,次に,人の行為や意図に関する理解が必要な「行動的系列」や「意図的系列」がそれぞれ何歳頃に達成可能になるのかを調べた。本研究の結果,全ての課題において3歳から7歳までに正答率が0%から100%近くまで推移し,機械的系列は4歳半頃,行動的系列は5歳後半,意図的系列は6歳半頃に達成可能になることがわかった。また課題間には明確な難易度の差があり,絵並べ課題のストーリーの内容によって課題を解決するために必要とされる知的能力が異なることが示唆され,適切なカテゴリー設定を行うことで絵並べ課題を発達評価に利用できる可能性が示された。
著者
久保 純子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
pp.62.2112, (Released:2022-12-27)
参考文献数
88

利根川と荒川は江戸時代初期には関東平野中央部で合流し,東京湾へ流入していた.現在の利根川は加須低地から鬼怒川下流低地へ本流を移し,また現在の荒川は荒川低地から東京低地に流下している.著者は東京低地の歴史時代・先史時代の地形変遷を皮切りに,利根川・荒川の近世以前の流路や年代を,低地の微地形を手がかりとして考察した.加須低地や中川低地では,かつての利根川河道は自然堤防や河畔砂丘などの発達が手がかりとなるが,渡良瀬川との合流や断片的に残る旧河道などについての解明が望まれる.荒川低地から東京低地にかけては大規模な蛇行流路跡が認められるが,歴史時代にそこに幹川があった記録は認められない.これは堆積物の組成や考古学的データから,利根川の幹川と考えることができ,その年代と河道変遷,流域の火山活動との関係などの解明が必要である.
著者
久保 純子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.73-87, 1990-06-30 (Released:2008-12-25)
参考文献数
33
被引用文献数
6 5

東京首部の地形は更新世の台地と完新世の低地とからなっている。台地は最終間氷期の海底面と最終氷期の河成面に由来し,その表面は後期更新世を通じて富士火山・箱根火山などにより供給された風成テフラに覆われている。台地には台地上に水源をもつ開析谷が分布する。これらの谷のなかには,台地表面の離水時に現われた名残川に由来し,その起源が最終氷期まで遡るものがある。 低地は最終氷期末に形成された谷が後氷期海進を受け,日本有数の大河である利根川水系により形成されたもので,厚い軟弱地盤を形成する。完新世後期の東京低地の形成過程は,従来ほとんど行なわれなかった考古歴史資料と微地形分布との関係の検討により明らかにされるであろう。17世紀以降になると,河道の改修,海岸部の埋め立て等の人工改変が大規模に行なわるようになった。 東京の台地と低地の地形には,変動帯の特色としての関東造盆地運動や火山活動に加え,ユースタティックな海水準変動の影響があらわれている。そして近年は人類による改変が最も大きなファクターとなっている。
著者
久保 純子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.47-60, 2023-05-01 (Released:2023-05-16)
参考文献数
88

利根川と荒川は江戸時代初期には関東平野中央部で合流し,東京湾へ流入していた.現在の利根川は加須低地から鬼怒川下流低地へ本流を移し,また現在の荒川は荒川低地から東京低地に流下している.著者は東京低地の歴史時代・先史時代の地形変遷を皮切りに,利根川・荒川の近世以前の流路や年代を,低地の微地形を手がかりとして考察した.加須低地や中川低地では,かつての利根川河道は自然堤防や河畔砂丘などの発達が手がかりとなるが,渡良瀬川との合流や断片的に残る旧河道などについての解明が望まれる.荒川低地から東京低地にかけては大規模な蛇行流路跡が認められるが,歴史時代にそこに幹川があった記録は認められない.これは堆積物の組成や考古学的データから,利根川の幹川と考えることができ,その年代と河道変遷,流域の火山活動との関係などの解明が必要である.
著者
南雲 直子 久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.141-152, 2013 (Released:2013-09-13)
参考文献数
14
被引用文献数
2 8

2011年8月~10月に大規模洪水が発生したカンボジアのメコン川下流平野を対象とし,首都プノンペンを中心とした地域で洪水と微地形に関する調査を行った.衛星画像を用いて浸水範囲を把握し,水文データ等を入手するとともに,2012年3月の現地調査では洪水痕跡より浸水深を測定した.その結果,微地形と浸水範囲・浸水深の対応が良好に見られた.洪水はメコン川の氾濫原を利用して流下するとともに,トンレサップ川沿いでは深く湛水し,通常の雨季には浸水することのない高位沖積面にまで洪水が達した.これは近年最大規模といわれた2000年洪水に匹敵する規模であった.また,浸水域に比較すると相対的な被害は大きくなかった.カンボジアのメコン川はほとんど築堤が行われておらず,伝統的な地域に住む人々は毎年の洪水を経験しながらも,その環境に適応し,洪水リスクを最小限にするような土地利用や生活様式を続けている.
著者
大谷 多加志 清水 里美 郷間 英世 大久保 純一郎 清水 寛之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.142-152, 2019 (Released:2021-09-30)
参考文献数
17

じゃんけんは日常生活の中で,偶発的な結果に基づいて何らかの決定や選択を得るための一つの手段として広く用いられている。本研究は,子どもがどのような発達過程を経て,じゃんけん課題の遂行の基礎にある認知機能を獲得していくかを「三すくみ構造」の理解に関連づけて検討することを目的とした。対象者は,生後12ヵ月(1歳0ヵ月)超から84ヵ月(7歳0ヵ月)未満の幼児と児童569名であった。本研究におけるじゃんけん課題は,じゃんけんの「三すくみ構造」をもとに「手の形の理解課題」,「勝ち判断課題」,「負け判断課題」の3種類の下位課題から構成された。また,じゃんけん課題の成否と子どもの発達水準との関連を調べるために,対象者全員に『新版K式発達検査2001』が併せて実施された。本研究の結果,「手の形の理解課題」は2歳7ヵ月頃,「勝ち判断課題」は4歳9ヵ月頃,「負け判断課題」は5歳4ヵ月頃に平均的に達成されていくことが明らかとなった。また,「手の形の理解課題」,「勝ち判断課題」,「負け判断課題」の3種類のじゃんけん課題の成否および反応内容から評価したじゃんけんに関する知識や技能の獲得の段階(5段階)と『新版K式発達検査2001』の発達年齢との間で統計的に有意な相関が認められた。よって,本研究のじゃんけん課題は子どものじゃんけんの理解の段階を評価し,幼児の発達水準を査定するために有用であると考えられる。
著者
久保 純子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.269-270, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
3
著者
嶺 哲也 大久保 純一郎
出版者
日本応用心理学会
雑誌
応用心理学研究 (ISSN:03874605)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.58-67, 2019-07-31 (Released:2019-10-31)
参考文献数
35

The purpose of this research was to examine the influence of internal working model on subjective well-being and interdependent happiness and the interactions between internal working models (consisted in secure, ambivalent, and avoidance). Two hundred ten undergraduates completed measures of Internal Working Model Scale (secure, ambivalent, and avoidance subscales), Subjective Well-Being Scale and Interdependent Happiness Scale. The results of hierarchical multiple regression indicated the interactions of secure, ambivalent and avoidance on subjective well-being. Furthermore, it indicated that interaction of ambivalent and avoidance on interdependent happiness. The result indicated that was shown that balance of each pattern of internal working model (secure, ambivalent and avoidance) affect to happiness. Results suggested the importance of examining the influence of interaction between secure, ambivalent, and avoidance on psychological health.
著者
玉蟲 敏子 相澤 正彦 大久保 純一 田島 達也 並木 誠士 黒田 泰三 五十嵐 公一 井田 太郎 成澤 勝嗣 野口 剛 畑 靖紀 吉田 恵理
出版者
武蔵野美術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

朝岡興禎編『古画備考』原本(1850-51年成立、東京藝術大学附属図書館)に集成された書画に関する視覚・文字情報の分析によって初めて、自身の見聞や親しい人脈から提供された第一次情報に基づく出身の江戸狩野家、同時代の関東や江戸の諸派は詳細である一方、上方については一部の出版物に頼り、浮世絵も最新の成果が盛り込まれていないなどの偏向性が確認され、朝岡の鷹揚なアカデミズムの視点から、近代における美術史学成立直前の都市・江戸で開花した書画趣味の実態、価値観、情報の伝達経路を浮上させることに成功した。
著者
岩崎 均史 小林 ふみ子 桑山 童奈 田沢 裕賀 大久保 純一
出版者
独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

浮世絵版画では、大小(摺物・暦)制作及びその交換で、明和二年の交換会により、錦絵と称される多色摺が完成することは定説である。だが、錦絵誕生期以外の大小に関して研究されたことはごく少ない。これは、まとまった大小の作品を見る機会を得ることが困難だったことに原因がある。本研究は、国内最大の貼込帖である東博蔵「大小類聚」の大小のデータ採取し、作品名(仮題は付与)・解読・翻刻・分析・分類・大小の特定などをまとめた目録とし、加えて本研究進行中に生じた新知見、情報も適宜加えたその有用性を発信することを目的としたデータベースを研究者に公開する。これにより研究者に不足していた情報が提供可能となり、大小の活用が図られる。現在までに完了した作業での主要データ採取項目は、①摺・写の判別:摺物(版画)が筆写を含む肉筆か、またはその混合かを判別。②作品名:文字のある場合はあるがままで採取、ない場合は課題付与。③画題特定:明確なもののみとし、推定はメモ程度にとどめる。④注文主特定:記名・印章などから判定。⑤絵師特定:落款・記名で判定、画派などの推定はメモ程度にとどめる。⑥印章等判読:印章や花王など、作品に何らか関係する人物のもののみ判読、⑦採寸確認:以前採寸したものと、異なるような場合再度採寸する(通常、縦×横㎝)。⑧大小の探索:大の月、小の月がどのように配されているか確認、貼込帖の表題年代との錯誤確認。⑨文字の翻刻:配された文字をあるがまま採取し翻刻。現在、全冊の仮データベースの入力をしつつ、データ内容の確認作業を行っている。早期にこの作業を継続終了させ、撮影された画像と合わせて、逐次共同研究者の手元に送信し、内容の確認と合わせ、各分野の専門的視点を加えた検証を加えていく。
著者
佐藤 康宏 板倉 聖哲 三浦 篤 河野 元昭 大久保 純一 山下 裕二 馬渕 美帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間が都市をどのようにイメージしてきたかを解明するために、日本・中国・ヨーロッパの典型的な都市図を取り上げ、作品を調査し、考察した。研究発表の総目録は、研究成果報告書に載る。以下、報告書所載の論文についてのみ述べる。佐藤康宏「都の事件--『年中行事絵巻』・『伴大納言絵巻』・『病草紙』」は、3件の絵巻が、後白河法皇とその近臣ら高位の貴族が抱いていた恐れや不安を当時の京都の描写に投影し、イメージの中でそれらを治癒するような姿に形作っていることを明らかにした。同「『一遍聖絵』、洛中洛外図の周辺」は、「一遍聖絵」の群像構成が、平安時代の絵巻の手法を踏襲しつつ本筋と無関係な人物を多数描くことで臨場感を生み出していることを指摘し、その特徴が宋代の説話画に由来することを示唆する。また、室町時代の都市図を概観しながらいくつかの再考すべき問題を論じる。同「虚実の街--与謝蕪村筆『夜色楼台図』と小林清親画『海運橋』」は、京都を描く蕪村晩年の水墨画について雅俗の構造を分析するとともに、明治の東京を描く清親の版画に対して通説と異なる解釈を示す。ほかの3篇の論文、馬渕美帆「歴博乙本<洛中洛外図>の筆者・制作年代再考」、板倉聖哲「『清明上河図』史の一断章--明・清時代を中心に」、三浦篤「近代絵画における都市と鉄道」も、各主題に関して新見解を打ち出している。
著者
松本 誠子 久保 純子 貞方 昇
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2021年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.128, 2021 (Released:2021-03-29)

1.研究目的 本発表は、典型的なデルタとして取り上げられてきた太田川デルタの形成・成立には、上流域における往時の砂鉄採取による廃土が大きく関与した、とみなす調査結果の第一報である。近年における発表者らによる太田川上流の調査(貞方ほか2020、印刷中)を通して、これまで看過されてきた太田川の上流域でも、中世に遡る広範かつ大規模な「たたら製鉄」に伴う砂鉄採取跡地が確認された。発表者らは、さらに、そこから排出された大量の廃土が同川の下流平野・デルタ形成に何らかの影響を与えたものとみて、とりわけ同地における完新世堆積物中の「最上部陸成層」に着目し、その堆積物の諸特性や平野微地形の特徴を調査した。その結果、以下に記すような上流域の砂鉄採取と整合する幾つかの明瞭な証拠を得た。 平地に乏しい我が国にあって、デルタは主要な生活の舞台である一方、洪水や高潮などの災害も多く発生するため、防災の観点を含めてこれまで数多くの研究業績が蓄積されてきた。従来「最上部陸成層」は、後氷期海面高頂期以降の海面微変動や堆積物供給の多寡に呼応して形成されてきたとされるが、最新期における人間活動の影響も少なからず関与したものと思われる。本発表は、デルタ形成・成立における人為関与地形形成の役割を評価することに的を絞り、その調査成果の一部を紹介するものである。2.研究方法・データ 本研究では、米軍大縮尺空中写真判読を中心とした一連の微地形調査や、既存ボーリング資料の検討、表層堆積物の各種分析に加え、歴史時代を含めた短い時間スケールの地形形成の経緯をより明らかにするため、洪水史等の歴史資料の検討も行った。分析対象とした試料は、広島城西の広島市中央公園(「デルタ」:人為関与前)、広島大学霞キャンパス(干拓地)の試掘露頭ほか、「デルタ」内の数地点(深度0.5m、1m)で採取した表層堆積物および現河床の堆積物から得た。堆積物は粒度分析、砕屑粒子組成分析とともに鉄滓粒の存否を確認し、12点の炭化物についてAMS14C年代測定を行った。3.結果と考察 太田川下流域は、広島市安佐南区八木の高瀬堰以南にまとまった沖積平野を形成し、大きくは広島市西区の大芝水門付近までの幅2km前後の「下流平野」とそれ以南に広がる「デルタ」(いわゆる広島デルタ)に二分される。微地形判読によれば、太田川は「下流平野」で扇状地をほとんどつくらず、氾濫原上の旧蛇行河道に沿ういわゆる「自然堤防」の発達は弱い。また、「デルタ」のうち自然堆積域として分類できるのは大芝から白神社付近までの狭い範囲(径4km)に限られ、他の多くは近世以降の干拓地および埋立地である。さらに、干拓地内に延びる河道沿いには連続的に微高地が形成されている等の特徴をもつ。既存ボーリング資料および掘削現場の露頭観察によって「最上部陸成層」とみなされた各採取堆積物試料中における花崗岩類起源の砂粒の割合は80%以上と非常に高く、それより下位の試料(上部砂層以下)の組成では、平野の直上流側に分布する付加体起源の砂粒の割合が高いことが示された。現段階の採取試料で見る限り、「最上部陸成層」中の炭化物の年代は13世紀から18世紀という極めて新しい年代値(中世から近世)を示した。また、「下流平野」に属する安佐南区緑井の自然堤防状微高地からは、砂鉄製錬滓由来の鉄滓粒が見出され、「デルタ」の各試料からは鉄錆片(鍛造鉄器片)を含む幾つかの鍛冶関連物質粒が認められた。 これらの年代や人工物質の存在は、太田川上流部でのたたら製鉄やそれに伴う砂鉄採取が行われていた時期とも重なることから、花崗岩類起源の割合が高い堆積物は、当時の砂鉄採取によって廃出された土砂の影響をかなり受けたものと見ることができよう。歴史資料によれば、広島藩により1628年に太田川流域の砂鉄採取は禁止されたが、同川下流では引き続き過大な土砂流出・堆積が継続するとともに洪水被害が頻発し、「デルタ」では河道の固定(堤防強化)や「川浚え」と呼ばれた河道からの砂排除が行われるようになったという。こうした人為的営為も「デルタ」の微地形特徴に寄与したとみられる。4.まとめ 太田川下流の「デルタ」(広島デルタ)は教科書などで典型的なデルタとして扱われてきたが、自然堆積範囲は狭く、干拓地を含めて「最上部陸成層」の形成には、たたら製鉄に伴う砂鉄採取による廃土が大きく関与したものとみられる。また「デルタ」上の各河道に沿う微高地は、主に近世に二次的な地形改変を受けつつ形成されたものである。 本発表では微高地そのものと対応する堆積物の分析は行えなかったことや、「デルタ」の堆積物からは直接に砂鉄製錬に由来する鉄滓粒の確認はできなかったが、今後分析試料数を増やして「最上部陸成層」の意義づけや人為関与地形形成の実態把握を進めたい。