著者
木村 容子 佐藤 弘 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.394-398, 2016 (Released:2017-03-24)
参考文献数
20

呼吸器症状の漢方治療では五臓の「肺」だけでなく他の臓腑にも着目する。ストレスが関与した慢性咳嗽に八味地黄丸が有効であった2症例を経験した。症例1は25歳女性。会社のストレスによる胸の苦しさを伴い,腹診で心下痞鞕も認めたため半夏厚朴湯を処方したが効果不十分。腰の重だるさがあり八味丸に転方して咳が軽快した。症例2は42歳女性。数年間の不妊治療が背景となってゆううつ感,のどのイガイガ・つまり感が出現し,半夏厚朴湯や麦門冬湯を使用したが効果不十分。腰痛があり八味丸に転方したところ咳が改善した。両症例で小腹不仁はみられなかった。ストレスによる気うつが慢性化して気虚,特に腎虚に進行して出現する咳は,半夏厚朴湯の効果が乏しく,補腎薬である八味地黄丸が有効であると考えられた。罹患期間が短く,高齢者でない場合は,腹証で小腹不仁が必ずしも認められない。腎による咳では腰部の張りや痛みに着目することも大切である。
著者
佐藤 弘樹 吉川 憲一 宮田 一弘 佐野 歩 水上 昌文
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11914, (Released:2021-02-16)
参考文献数
33

【目的】脊髄損傷者の体幹機能評価尺度(以下,TASS)を開発し,信頼性を検証すること。【方法】脊髄障害認定理学療法士9 名によって開発したTASS を用いて,理学療法士2 名が脊髄障害を有する10 例の評価を実施した。級内相関係数ICC(2,1),Cohen のκ 係数,Cronbach のα 係数を用いて,検者間信頼性,項目一致度,内的整合性を確認した。Bland-Altman 分析を用いて,系統誤差の有無を確認した。【結果】TASS は端座位課題7 項目で構成される尺度となった。ICC(2,1)は0.98,κ 係数は0.57 ~1.00,α 係数は0.94 であった。評価者2 名の差の平均値は95% 信頼区間が–2.58 ~1.18,散布図の回帰直線の傾きは0.19(p=0.61)であった。【結論】端座位課題7 項目で構成される体幹機能評価尺度が完成し,高い検者間信頼性,内的整合性を示し,系統誤差のない尺度であることが確認された。
著者
大石 和徳 佐藤 弘 多屋 馨子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.7, pp.901-904, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
4
被引用文献数
6

Although rubella is usually a mild, febrile illness, and up to 50% of rubella infections are asymptomatic, congenital rubella syndrome (CRS) can occur in the developing fetus of a pregnant woman infected with rubella virus (RV) in early pregnancy. After a rubella outbreak from early 2012 to late 2013 in Japan, another outbreak re-emerged from mid-2018 in the Tokyo metropolitan area and other large cities. In 2018, and up to epidemiological week (EW) 25 in 2019, more than 4000 rubella cases had been reported. Three CRS cases were also reported up to EW 24. Seroepidemiological surveys among Japanese residents indicated that the susceptible pocket to RV in male adults aged 30-50 years, as determined in 2013, remained unchanged in 2018. To reduce the number of male adults sensitive to RV, in early 2019, Japan's Ministry of Health, Labour and Welfare decided to implement routine immunization of male adults aged 40-57 years between 2019 and 2021. These male adults have been determined to have low anti-RV antibodies, and were therefore designated as the target population for this routine immunization (as category A). Although one-third of male patients with rubella reported in 2018 were in their 20 s and 30 s, these younger generations were not included in the target population for routine immunization against rubella, because they had already received a routine vaccination. Rubella vaccination is also required for male adults aged 20-40 years to diminish the susceptible pocket.
著者
木村 容子 黒川 貴代 永尾 幸 山﨑 麻由子 杵渕 彰 佐藤 弘 伊藤 隆
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.228-235, 2015 (Released:2015-11-05)
参考文献数
21
被引用文献数
4

不眠に補中益気湯が有効であった7症例を経験した。内訳は,補中益気湯を就寝前に服用した2例,補中益気湯の服用のみで不眠が改善した3例,補中益気湯を追加した2例であった。全症例において「浅い眠り」の訴えがあり,疲れやすい・食後の過度の眠気・日中の眠気など気虚による所見を認めたが,食欲不振などの「胃腸症状は顕著でない」ことが共通していた。また,7例のうち5例では補中益気湯により朝の目覚めが改善した。不眠に用いられる酸棗仁湯と帰脾湯は,いずれも気と血を補う処方であるが,帰脾湯は脾胃や心を補う生薬を多く含み,より虚証に用いるべきと考えられた。疲れやすい・食後の過度の眠気・日中の眠気など「気虚による症状が顕著」であるにもかかわらず,動悸・胸騒ぎ・驚きやすい・健忘・貧血・出血など「心の異常による血虚の症状に乏しい」場合には,浅い眠りや朝の目覚めの改善に補中益気湯が有効であると考えられた。
著者
佐藤 弘喜
巻号頁・発行日
2004

序論, 第1章, 研究の背景と動機, デザインや美術作品に対する印象を人間がどのように評価するかという研究は、これまでにも様々な対象物に関して行われてきたが、その方法論において、対象となる造形物を人間がどのように見ているかという条件は考慮されていない。しかし同一の対象であっても見る側の見方が異なれば、それによって感性評価の結果も異なるものになるのではないかという予測が成り立つ。そしてデザインを見るという行為について明らかにすることは、デザイン行為の有効な手がかりになるに違いないと考えた。そうした認識に立ち、デザイン行為とその対象を見ること、そして見ることの結果として発生する感性評価の関係を明らかにすることを目指して開始した。第2章, 研究の目的と意義, 本研究は従来のデザイン評価、感性評価に関する研究領域に対して、視覚認知構造概念を導入することの有効性と意義を提案しようとするものである。したがって本研究は、上記の視覚認知的な働きに関する仮説を検証し、デザインに対する視覚認知の構造の一端を明らかにするとともに、明らかになった視覚認知的な知識をデザイン評価および感性評価研究の有効な手がかりとして活用することを目的とする。第3章, 研究の方法と構成, 本論文では、はじめに理論的研究として視覚認知、デザイン支援、感性評価、文様デザインなどについて論じ、本研究の提案につながる仮説を、文献および他の研究事例の検討や概念的な考察によって導き出す。そこで得た仮説をもとに、本研究の目的に従って実験的研究を行う。第1に、文様に対する複数の視覚認知パターンを実験結果の解析によって抽出し、文様に対して複数の見方が存在していることを確認する。第2 に文様に対する造形的な特徴評価と、上記の実験で得られる視覚認知パターンに対する印象評価を解析し、文様に対する視覚認知パターンと造形的特徴の結びつきを明らかにする。そして第3に、文様デザインに対する選好評価を行って視覚認知パターンとの関係を解析し、どのような見方が文様デザインの選好と結びついているのかを明らかにする。第4として、上記で得られた視覚認知パターンを利用した文様デザインデータベースの構築を行い、得られた知識によって文様の分類と検索という、デザイン支援のための応用が可能であることを示す。そして第5 に、構築するデータベースの検索システムを用いて文様の検索評価実験を行い、感性評価との関係を調査する。最後に、解析的方法によって調査を行い、その結果から視覚認知パターンの性質と相互関係について考察する。以上の理論的研究および実験的研究によって得られた結果を集約し、本研究が提案するデザイン評価および感性評価研究における視覚認知構造概念の導入の有効性を示す。第4章, 先行研究と本研究の位置付け, 本研究は第1にデザインに関する研究である。第2にデザインが視覚によってどのように認知されるかを明らかにしようとする視覚認知に関する研究である。また第3に感性工学の研究領域に属するものである。第4に文様に関する研究である。文様デザインがどのように視覚的に認知され、その結果としてどのように評価されるかを研究する。そしてデザイン支援の領域を扱う。デザイン学とそれぞれの研究の関係領域には、概念的に近いものや扱っている対象が近いもの、また方法論が近いものなどの事例は見られるが、本研究の位置付けであるデザイン学を基盤として認知科学、心理学、文様学、感性工学の各領域が交差する点に同様の研究事例は見られない。本研究はこうした点で新たな研究の位置と意義を持つものである。
著者
佐藤弘 編
出版者
三省堂
巻号頁・発行日
1938
著者
佐藤 弘希 丸山 徹 小田切 陽子 三村 絵美子 河上 恵子 池田 倫子 岡山 善郎 安楽 誠 小田切 優樹
出版者
一般社団法人日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.9, pp.940-945, 2006-09-10 (Released:2007-11-09)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

The results of a population pharmacokinetic (PPK) analysis for Japanese suggest that smoking and gender difference are factors influencing the clearance of olanzapine, an atypical antipsychotic drug. However, no post-marketing verification has been conducted regarding how these factors affect the prescribing of this drug by practicing physicians. We therefore conducted a retrospective analysis on the effects of smoking and gender difference on olanzapine dosages. The results showed that smokers received significantly higher doses of olanzapine than non-smokers and that males tended to receive higher doses of olanzapine than females. The dosage for male smokers, the highest dose group, was 1.3 times that for female non-smokers, the lowest dose group. These results showed good correspondence with those of the PPK analysis given in the package insert and suggests that PPK data could be useful information for the community pharmacist.
著者
佐藤 弘喜 石川 和也 堀江 大 伊藤 弘基 山根 生也
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究作品集 (ISSN:13418475)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1_18-1_21, 2016-02-01 (Released:2016-04-19)
参考文献数
2

選挙活動において、選挙カーは活動の為の重要なツールである。しかし従来の選挙カーは、機能的に候補者のニーズを十分に満たしているとは考えにくい。また、選挙カーは一般市民にとって好ましい、魅力的な印象を持つ事も重要である。そこで、インタビューや実験などの調査に基づき、候補者の政策等を効果的に伝達できる選挙カーの開発を行った。現状の選挙カーの調査や、議員など利用者のインタビュー調査をもとに新たな選挙カーのニーズを分析し、デザイン案を制作した。採用候補とした複数のデザイン案に対して幅広い年代に評価実験を実施し、どのような選挙カーが好まれるかを調査した。実験結果の分析によってデザイン案を絞り込み、最終的に決定されたデザイン案に基づいて、実際に選挙カーの車輛が製作された(図1)。車輛は今後の選挙において利用される予定である。
著者
佐藤 弘喜 石川 和也 堀江 大 伊藤 弘基 山根 生也
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究作品集 (ISSN:13418475)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.1_18-1_21, 2016

選挙活動において、選挙カーは活動の為の重要なツールである。しかし従来の選挙カーは、機能的に候補者のニーズを十分に満たしているとは考えにくい。また、選挙カーは一般市民にとって好ましい、魅力的な印象を持つ事も重要である。そこで、インタビューや実験などの調査に基づき、候補者の政策等を効果的に伝達できる選挙カーの開発を行った。<br>現状の選挙カーの調査や、議員など利用者のインタビュー調査をもとに新たな選挙カーのニーズを分析し、デザイン案を制作した。採用候補とした複数のデザイン案に対して幅広い年代に評価実験を実施し、どのような選挙カーが好まれるかを調査した。実験結果の分析によってデザイン案を絞り込み、最終的に決定されたデザイン案に基づいて、実際に選挙カーの車輛が製作された(図1)。車輛は今後の選挙において利用される予定である。
著者
新井 信 佐藤 弘 代田 文彦
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.247-254, 2000-09-20
参考文献数
12
被引用文献数
2

軽症のSLEと診断され, 顔面, 頭部および背部の皮疹と脱毛を主訴に来院した26歳の女性患者に対し, 小柴胡湯合黄連解毒湯加〓苡仁を用いて治療した。その後の経過として, 紅斑, 脱毛, 光線過敏症などの皮膚症状が消失したうえ, 初診時に640倍を示していた抗核抗体が約2年後には陰性化した。さらに, 約1年間休薬しても皮膚症状が再燃せず, 抗核抗体もほとんど再上昇しなかった。調べ得た限り, SLEに対して漢方薬単独で治療して抗核抗体が陰性化した報告, 小柴胡湯合黄連解毒湯あるいはその加味方で治療した報告はなかった。<br>以上のことから, 本例は軽症のSLEの一部, あるいはSLEと診断できず, 西洋医学的にステロイド治療の対象とならない疑SLE症例に対して, 漢方薬を試みる価値があることを示唆する興味深い症例と考えられた。
著者
木村 容子 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.391-395, 2009 (Released:2009-08-12)
参考文献数
15

気管支喘息に対する漢方治療では,咳や痰の性状や呼吸困難の程度などを指標として,通常,臓腑の立場からは「肺」へのアプローチをを選択することが多いと思われる。さらに,気管支喘息の増悪因子がある場合は,その要因を排除することも大切である。今回,便通異常を伴って気管支喘息の症状が悪化した患者において,便通の改善を図ったところ,患者の咳嗽や呼吸困難などの症状が軽快した3症例を経験したので報告した。漢方では「肺」と「大腸」は表裏関係をなすとされるが,どのような気管支喘息患者の場合に,便通調整を考慮するのが有効であるかを検討した報告は少ない。今回の3症例から,便通が安定している軽症の気管支喘息患者が,突然,気管支喘息症状の悪化とともに便通異常を認めた場合に,「肺」に直接作用する処方だけではなく,その表裏関係にある「大腸」の作用を整える治療をすることが有効であるのではないかと推測された。
著者
木村 容子 田中 彰 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.299-304, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
15
被引用文献数
11 12

目的:当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効な冷え症のタイプを検討した。研究デザイン:後ろ向きコホート研究。対象:冷え症患者181名を対象とし,初診時に自覚症状をデータベースに登録した。さらに,外的妥当性を新規28名で評価した。介入:エキス顆粒7.5g/日服用1ヵ月後に評価。評価項目:治療効果の有無。結果:冷えは74%の患者で改善し,頻度および程度(0-4)は各々3.2±0.7から2.1±0.1(p <0.01),3.1±0.7から2.2±0.9(p <0.01)に減少した。治療効果予測の最適モデルとして,胃もたれおよび抑うつを伴わない腸骨窩圧痛の有無が選ばれ,判別予測率は84.4%であった。このモデルを別の28名の患者で検証したところ,予測精度は82.1%であった。結論:胃もたれや抑うつ感がみられず,腹診にて腸骨窩圧痛が認められる冷えの患者で,当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効である可能性が示唆された。
著者
木村 容子 清水 悟 田中 彰 藤井 亜砂美 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.707-713, 2008 (Released:2009-04-30)
参考文献数
27
被引用文献数
3 4

釣藤散が有効な頭痛の患者タイプを多変量解析により検討した。51名の頭痛患者に対して随証治療にて釣藤散を投与し,このうち1カ月間服用した46名(男性13人,女性33人,中央値48歳,範囲19-77歳,片頭痛31例,緊張型頭痛14例,混合型頭痛1例)を対象とした。随伴症状,体質傾向,舌所見,腹部所見,年齢,性別,身長,体重,高血圧の有無の計38項目を説明変数とし,頭痛改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせを検討した。この結果,単変量解析では,重要な順に「朝の頭痛」,「めまい・ふらつき感」,「不眠」,「体重」,「耳鳴」,「舌下静脈怒張」となった。これは,「朝の頭痛」という口訣を統計学的に支持する結果となった。多変量解析では,「朝の頭痛」,「舌下静脈怒張」と「頸肩こり」の組み合わせが,釣藤散による頭痛改善を予測する最適なモデルとなった。抑肝散証では「背中の張り」を重視するのに対して,釣藤散では「頸肩こり」が頭痛改善を予測する情報として有用であったことは,両者の鑑別に役立つものと考えられた。
著者
松本 大樹 木村 容子 佐藤 弘
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.325-329, 2012 (Released:2013-02-14)
参考文献数
17

更年期女性の動悸に対し,桂枝加竜骨牡蛎湯が有効であった症例は報告されているが,冷えに対する効果に言及した報告は認めない。今回動悸と冷えに対し,桂枝加竜骨牡蛎湯が速やかに奏効した症例を経験したので冷えを中心に考察を加え報告する。症例は48歳,女性。2-3年前より動悸,手足の冷えが出現し,X 年5月8日当院を初診。虚証で動悸と不眠を訴え,腹診所見の腹部動悸から,桂枝加竜骨牡蛎湯7.5g/日を投与したところ,服用2週間で動悸,手足の冷えが改善した。1年後に5g/日と減量したが,症状は落ち着いている。今回の症例では,臍上悸を伴う動悸と手足の冷えに対し,桂枝加竜骨牡蛎湯が速やかに奏効した。桂枝加竜骨牡蛎湯はのぼせを伴う上熱下寒型の冷えに限らず,のぼせの訴えがない場合でも,動悸や臍上悸などの気逆によると考えられる所見を伴う手足の冷えには,桂枝加竜骨牡蛎湯を応用できると考えられた。
著者
木村 容子 清水 悟 田中 彰 鈴木 まゆみ 杵渕 彰 稲木 一元 佐藤 弘
出版者
社団法人日本東洋医学会
雑誌
日本東洋醫學雜誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.265-271, 2008-03-20
参考文献数
19
被引用文献数
6 10

抑肝散およびその加味方の有効な頭痛の患者タイプを検討した。対象は,随証治療にて抑肝散およびその加味方を投与した頭痛の患者45人(男性6人,女性39人,中央値38歳,範囲25-68歳,片頭痛34例,緊張型頭痛6例,混合型頭痛5例)とした。年齢,性別,身長,体重と,初診時に認められた体質傾向と随伴症状からなる31項目を説明変数とし,頭痛改善の有無を目的変数として,多次元クロス表分析により最適な説明変数とその組み合わせ検討した。この結果,単変量解析では,抑肝散による頭痛改善に有効な情報は,「眼痛」,「背中の張り」,「目の疲れ」,「イライラ」の順であった。多変量解析では,「眼痛」,「イライラ」,「背中の張り」の組み合わせが,抑肝散による頭痛改善を予測する一番よいモデルとなった。古典的考察を加え,抑肝散およびその加味方は「肝」と関連する頭痛において治療効果を期待できると考えられた。また,抑肝散およびその加味方は,呉茱黄萸で軽快するもののストレスによって再び増悪する頭痛にも有効で,ストレスなどの頭痛発作の誘因や増悪因子を抑えるはたらきがあると推察された。従来,抑肝散には緊張興奮型などの腹証が重要視されてきたが,本研究では興味深いことに,むしろ背部所見に頭痛改善と強い相関を認めた。これまで抑肝散に関する背部所見の有用性について述べた報告はなく,今後は抑肝散証では背診も重要となることが示唆された。