著者
内田 由紀子 遠藤 由美 柴内 康文
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-75, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

人間関係への満足は幸福感を予測することが知られている。しかし,人間関係が幅広く,数多くの人とつきあうことが必要なのか,それともストレスが少なくポジティブな感情を感じられるような人間関係を維持することを重視するべきなのかについては明らかではない。本研究は,人間関係のあり方が幸福感とどのように関わるのかを探るため,つきあいの数の多さと,つきあいの質への評価に注目した。研究1ではソシオグラムを利用して身近な人間関係のグループを特定し,各々のグループの構成人数や,そのつきあいで感じる感情経験などを尋ねた。その結果,つきあいの質への評価が幸福感と関連し,どれだけ多くの人とつきあっているかは幸福感や身体の健康とは関わりをもたないことが示唆された。研究2ではより広範で一般的な人間関係を対象とし,関係性希求型の項目を加えて,関係志向性における個人差を検討した。結果,一般的にはつきあいの数が多いことと,つきあいの質への評価の双方が重要であるが,人間関係を広く求める「開放型」の人ではつきあう人の数が多いことが,既存の安定的な人間関係を維持しようとする「維持型」の人ではつきあいの質への評価が,それぞれ人生への満足感とより関連することを示した。また,開放型は維持型に比べてより多くの人と良い関係をもち,人生への満足感も高かった。これらの結果をもとに,人間関係が幸福感に与える影響について検討した。
著者
前浦 菜央 中山 真孝 内田 由紀子
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.262-279, 2020-09-01 (Released:2020-09-15)
参考文献数
26

This study focused on two similar but potentially distinctive emotions, awe and being moved. Although these emotions have been studied independently, they have commonalities both in cognition and emotion. For example, both have been shown to influence cognitive frameworks (Tokaji, 2004), such as need for accommodation (Keltner & Haidt, 2003). In addition, when instructed to write about being moved, Japanese descriptions resembled descriptions about awe in Western descriptions (Hashimoto & Ogura, 2002; Shiota, Keltner, & Mossman, 2007). In this study, we hypothesized that these two emotions overlap in linguistic labeling and in perceived emotional states. To test this hypothesis, we conducted two survey studies in Japan. Study1 examined how people labeled emotional states caused in various awe-inducing and being-movedinducing situations. Study1 indicated that some of typical awe experiences were likely to be labeled as being-moved experiences. Study2 showed that the experience of awe was more similar to an emotional state of being deeply moved by a life event, than being normally moved by a daily event. Therefore the present studies suggest that being moved and awe are more likely to overlap when the situation is a deeply moving life event.
著者
笹川 果央理 中山 真孝 内田 由紀子 竹村 幸祐
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.88.15066, (Released:2017-11-10)
参考文献数
31
被引用文献数
2

This study investigated the personality of employees on medical leave due to mental health disorders. Focusing on Contingencies of self-worth (CSW) as a metric of personality, we examined whether the CSW of employees on medical leave due to mental health disorders matched the perceived values of their workplace, in comparison with that of employees at work. We also examined the change of CSW before and after medical leave. Thirty-six employees on medical leave and 133 employees at work participated in this survey study. The results showed that three types of CSW (CSW for being superior, for having positive evaluation from others, for having autonomy) were higher in employees on medical leave than in employees at work. We also showed that there was a large difference between each type of CSW of employees on medical leave and the perceived values of their workplace and that all three types of CSW decreased after medical leave.
著者
阿久津 聡 内田 由紀子 中田 光紀 永田 智久 宮本 百合 Lee Jinju 山本 翔平
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

研究者らはこれまでの研究で、遺伝子発現の技術を使い、会社に対する評価や職場での協調、自己効力感といった要因が高いと炎症マーカーの抑制や細胞性免疫の増強につながることを突き止めた。本研究では、働く人々の健康に影響を及ぼす、①国の文化、②企業、③従業員という3つの要因間の関係性を理論化した「三層モデル」を構築し、産業医学・神経科学・心理学の方法論を援用してモデル検証する。さらにモデルを基に介入調査を立案・実施し、その効果検証まで行い、効果的な健康経営施策への含意をまとめる。
著者
長岡 千賀 内田 由紀子
出版者
一般社団法人 日本計画行政学会
雑誌
計画行政 (ISSN:03872513)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.33-44, 2015-05-15 (Released:2022-04-18)
参考文献数
15

Secure management of nuclear power plants requires workers to be of sound mental health. Therefore, the aim of this study was to determine the occupational stressors faced by workers in nuclear power plants in order to propose practical measures to improve their mental health. The target population of this study consisted of nondestructive testing personnel and radiation control personnel (radiation control personnel supervise and coach workers, including nondestructive testing personnel, on radiation protection) in periodic inspections of nuclear power plants. Participants (n = 87) completed a self-administered questionnaire that measured variables such as interpersonal issues on the job, cooperation from coworkers, and the number of vacation days given. The results indicated that “interpersonal issues on the job” (e.g., “there is a possibility that they incur a great danger to a lot of people due to their own misjudgment or lack of instructions”) was a stronger stressor. Moreover, a low level of cooperation from coworkers and an inadequate number of vacation days were found to affect the mental health of radiation control personnel. We therefore provide suggestions for effective management of radiation control personnel in terms of opportunity for long-term training for skill acquisition, number of days off work, and culture in the nuclear power plant.
著者
日下 あかり 内田 由紀 田邊 輝真 世良 俊樹 多田 昌弘 伊関 正彦 竹崎 亨 楠 真二 山野上 敬夫
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】2018年7月の西日本豪雨においては、広島県でも各地で土砂崩れ、河川の氾濫などにより甚大な被害が発生した。土砂災害の被災者で軽微な挫創から破傷風を発症した1症例を経験したので報告する。【臨床経過】70歳台、男性。土砂崩れにより自宅が倒壊し、およそ3時間後に土砂の中から救出され当院へ搬送された。全身の土砂を洗浄後に検索を行ったが、大きな外傷を認めず、両膝の約2cmの挫創を洗浄・縫合し、破傷風トキソイドワクチンを投与して救命センターへ入院とした。感染兆候を認めず一般病棟へ転棟し離床を進めていたが、入院10日目に呂律困難および嚥下困難を自覚、入院11日目からは開口障害が出現した。破傷風と診断し、抗破傷風ヒト免疫グロブリン1500単位を投与、ICUへ入室しペニシリンG300万単位×6回/日投与を開始した。その後も開口障害と嚥下障害は進行し、唾液を嚥下できず吐き出すようになり、入院13日目に開口制限は0.5横指まで増悪、経口摂取を中止し経鼻胃管による経腸栄養に切り替えた。入院16日目頃より開口障害は改善傾向となり、21日目に経口摂取を再開し経鼻胃管を抜去、後遺症なく36日目に自宅退院となった。【結論】軽微な創傷からでも、あるいは明らかな外傷がない場合でも、破傷風を発症する可能性があることは知られている。本症例は比較的軽微な挫創であり、受傷後6時間以内に初療がなされ、破傷風トキソイドワクチンが投与されたにもかかわらず破傷風を発症した。土砂災害による外傷患者に対しては、過去の予防接種により十分な抗毒素抗体価が期待できる場合を除き、外傷の程度や受傷からの時間によらず積極的な破傷風予防・治療が必要と考えられた。
著者
内田 由紀子 平野 羊嗣 神庭 重信
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

研究の目的は、ネガティブ感情の制御についての文化差を、脳波計で測定される脳誘発電位を用いて測定し、検討することであった。参加者は脳波計を装着し、実験室で脳波を用いた感情制御の課題を遂行した。「注意条件」では、不快あるいはニュートラルな画像刺激をみて、自然に生じる感情反応に注意を払うように教示した。「抑制条件」では同様の画像を見て自然に生じる感情反応を「抑え、隠すよう」に教示した(これらの条件は被験者内要因で実施された)。解析の結果、抑制条件では不快刺激においてもニュートラル刺激と同様の脳波(LPP)の反応が得られ、日本人参加者におけるネガティブな感情制御が示された。
著者
内田 由紀子
出版者
行動経済学会
雑誌
行動経済学 (ISSN:21853568)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.162-164, 2012 (Released:2013-05-29)
参考文献数
11
被引用文献数
2

本論文では指標作成などを通じて幸福についての国際的議論を醸成する上で,「文化的幸福」を捉えることが重要であることを指摘する.その上で,1) 幸福度指標についての心理学的知見を延べ,2) 日本にはバランス志向的幸福観が存在することを呈示し,3) 持続可能な社会に向けて日本における幸福感が果たしうる役割と国際的な幸福研究に向けての提言を行う.
著者
高橋 卓也 内田 由紀子 石橋 弘之 奥田 昇
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.103, no.2, pp.122-133, 2021-04-01 (Released:2021-06-26)
参考文献数
48
被引用文献数
3

森林に関わる主観的幸福度を測定し,得られた結果とその要因について検討した。滋賀県野洲川上流域を対象として,2018年に一般世帯を対象とするアンケート調査を実施した。因子分析の結果を踏まえ,森林に関する幸福度を満足度,充実感,プラスの感情,マイナスの感情の4種類に分類し,森林との関わりについての説明変数等による回帰分析を行った。農業,林業への従事は森林充実感と,個人所有林およびボランティアでの森林管理は森林満足度や充実感と正の相関が見られた。一方,地元の山の森林管理はプラスの感情と負の相関を示した。居住地域の森林比率と幸福度との間の相関は特定できなかった。森林所有は4種類すべての森林幸福度と負の関係が見られたが,これは森林の資産価値が低下し,森林管理の負担感が大きくなっていることを示すものと推測される。森林資源の量的な再生がある程度達成され,質的な面での改善が求められている日本の現状において,個々人が森林とどのように関わり,個人およびコミュニティの幸福度をいかに促進するか検討する上で,森林幸福度の構造的な(種類別の)把握が政策課題としても必要とされることを論じる。
著者
内田 由紀子 遠藤 由美 柴内 康文
出版者
日本グループ・ダイナミックス学会
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.63-75, 2012
被引用文献数
3

人間関係への満足は幸福感を予測することが知られている。しかし,人間関係が幅広く,数多くの人とつきあうことが必要なのか,それともストレスが少なくポジティブな感情を感じられるような人間関係を維持することを重視するべきなのかについては明らかではない。本研究は,人間関係のあり方が幸福感とどのように関わるのかを探るため,つきあいの数の多さと,つきあいの質への評価に注目した。研究1ではソシオグラムを利用して身近な人間関係のグループを特定し,各々のグループの構成人数や,そのつきあいで感じる感情経験などを尋ねた。その結果,つきあいの質への評価が幸福感と関連し,どれだけ多くの人とつきあっているかは幸福感や身体の健康とは関わりをもたないことが示唆された。研究2ではより広範で一般的な人間関係を対象とし,関係性希求型の項目を加えて,関係志向性における個人差を検討した。結果,一般的にはつきあいの数が多いことと,つきあいの質への評価の双方が重要であるが,人間関係を広く求める「開放型」の人ではつきあう人の数が多いことが,既存の安定的な人間関係を維持しようとする「維持型」の人ではつきあいの質への評価が,それぞれ人生への満足感とより関連することを示した。また,開放型は維持型に比べてより多くの人と良い関係をもち,人生への満足感も高かった。これらの結果をもとに,人間関係が幸福感に与える影響について検討した。<br>
著者
京野 千穂 内田 由紀子 吉成 祐子
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.56-67, 2015-03-31 (Released:2017-04-26)

援助場面を叙述する際に使用されるテモラウとテクレルの違いを明らかにするために,日本語母語話者に対し2種類の調査を行った.調査1では援助を受けた場面について,その状況と援助時における与え手との会話を思い出し,記述してもらった.その結果,会話内で与え手からの申し出があった場合,テクレルで状況を記述する傾向が見られた.一方,会話での受け手からの依頼は,テモラウによる記述には結びつかなかった.調査2では,テクレルあるいはテモラウで記述された状況文を呈示し,援助の与え手と受け手の会話を想像して記述してもらった.会話内の依頼表現と申し出表現を数えたところ,テクレルを含む状況文に対しては,与え手からの申し出表現が約8割,そして依頼表現が2割となった.一方,テモラウを含む状況文に対しては会話内の依頼表現と申し出表現がそれぞれ5割と同程度出現することが明らかになった.これらの結果から,テクレルと与え手からの申し出のほうが,テモラウと受け手の依頼との結びつきより強く,また,テモラウは与え手の申し出とも結びつくものであることを示した.上記結果は,テモラウ・テクレル文の構造と関連し,また,後続する感情表現とも関連することを論じる.
著者
笹川 果央理 中山 真孝 内田 由紀子 竹村 幸祐
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.88, no.5, pp.431-441, 2017 (Released:2017-12-25)
参考文献数
31
被引用文献数
2

This study investigated the personality of employees on medical leave due to mental health disorders. Focusing on Contingencies of self-worth (CSW) as a metric of personality, we examined whether the CSW of employees on medical leave due to mental health disorders matched the perceived values of their workplace, in comparison with that of employees at work. We also examined the change of CSW before and after medical leave. Thirty-six employees on medical leave and 133 employees at work participated in this survey study. The results showed that three types of CSW (CSW for being superior, for having positive evaluation from others, for having autonomy) were higher in employees on medical leave than in employees at work. We also showed that there was a large difference between each type of CSW of employees on medical leave and the perceived values of their workplace and that all three types of CSW decreased after medical leave.
著者
矢野 裕理 内田 由紀子 増田 貴彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. HCS, ヒューマンコミュニケーション基礎 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.464, pp.99-104, 2012-02-27

本研究では、表情認知への背景情報の影響とニート・ひきこもりリスクの関連を検討した。その結果、ニート・ひきこもりリスク高群は、中心にいるターゲット人物の表情と背景人物の表情が不一致な場合のターゲット人物の感情判断において、その判断がより背景情報に影響されており、その傾向はターゲット人物の表情がネガティブな場合に有意であった。この結果は、ニート・ひきこもりリスクの高い人々が、少なくとも複数人数でのコミュニケーション場面において、強い包括的認知傾向を持っている可能性を示唆するものである。