著者
南雲 サチ子 松浦 成昭 河口 直正 森 誠司
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

癌細胞の形態学的異型性のうち、構造異型については接着分子インテグリン、カドヘリンの発現の変化が構造異型に重要な役割を果たすことを明らかにした。細胞異型、特に核の異型に関しては、細胞異型の高度ながん細胞にH3K9me3、HP1α(ヘテロクロマチン関連タンパク)の発現亢進が見られた。また、in vitroでH3K9me3の発現を亢進させると細胞遊走能、細胞浸潤能が増加する結果が得られた。核膜タンパク質LINC complex分子については癌細胞の異型度の著明なものにはSUN1、SUN2、Nesprin2の発現低下が見られた。
著者
山田 芳則 佐藤 友徳 山田 朋人 南雲 信宏 藤吉 康志 牛尾 知雄 原 旅人
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

観測や数値モデルによる研究から、大雪や突風をもたらすような降雪雲に関して多くの知見が得られた。観測では、Kuバンドレーダーによって対流スケールでの降雪雲の3次元構造の時間変化を高解像度で捉えた。マルチドップラーレーダー解析から大雪時の降雪雲内のメソβ~γスケールの気流構造の特徴が明らかになり、山地の地表面での鉛直流を含む解析により札幌での大雪には雲と地形との相互作用の寄与が示唆された。数値モデルでは降雪予測を改善するバルク雲微物理モデルを開発した。大雪や突風を伴うことがあるメソαスケールのポーラーローについて過去30年間の冬の領域モデル実験から、この低気圧の発生や発達に寄与する過程を解明した。
著者
南雲 泰輔
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.95, no.2, pp.317-347, 2012-03

一〇世紀半ばに編纂されたとされるビザンツの百科事典『スーダ』は、四世紀末の宦官エウトロピオスの時代に、宦宮が階級として発展したことを伝えるが、先行研究中でこの箇所が精査されたことは皆無に近い。そこで本稿は、この『スーダ』の記述を手掛かりに、四世紀末のエウトロピオスの影響下に宦官がいかにして階級としての発展の契機を掴んだかという問題意識のもと、エウトロピオスが宦官として行なった行政改革の検討に基づき宦官権力の確立の実態を明らかにするとともに、研究史上の画期となったK. Hopkins の宦官モデルに対する問題提起をも試みた。本稿での検討によって明らかになったのは次の三点である。第一、宦官エウトロピオスは宮内長官として帝国東部宮廷における政策決定に深く関与したが、それはかつてギボンが軽侮したごとく宦官の私利私欲に基づくものではなかった。第二、宦官エウトロピオスは、道長官から官房長官へ権限移譲という改革を通じ、皇帝顧問会議の全体を自らの権力下に置き、帝国財政を一手に掌握した。このことは、宦官になりさえずれば帝国の莫大な富への接触機会が得られるということを広く世に知らしめた。第三、皇帝家の宦官利用の理由について、奴隷(宦官) 所有の意味と当時の社会状況とを勘案するならば、Hopkins の宦官モデルによっては説明されえない、エウトロピオス時代に固有の宦官増加の理由を説明することが出来る。Historians have demonstrated that the eunuch is one of the most significant features of the Later Roman and Byzantine Empires. Ever since the British historian Keith Hopkins published his seminal 1963 paper on the social status and function of the eunuchs, many studies of eunuchs from a variety of perspectives have been conducted, These studies include analyses based on gender; comparisons with eunuchs in other empires such as ancient China; and, more recently, those on court society, inspired by the works of Norbert Elias. It is still unclear, however, when and how eunuchs decisively established their power in the Later Roman court in Constantinople. In my opinion, this question can be answered by analyzing the actions of Eutropius as Grand Chamberlain (praepositus sacri cubiculi). Eutropius was the most notorious and powerful eunuch during the reign of Arcadius, and is now viewed as the archetypical Byzantine eunuch, According to the relevant entries in the Suda, the tenth-century Byzantine encyclopedia, eunuchs as a 'class' (εθνος) increased in number, owing to the importance and power of Eutropius. These entries in the Suda, resting on descriptions by the fourth-century historian Eunapius of Sardis (a contemporary of Eutropius), suggest that the age of Eutropius was the most significant epoch in the history of Later Roman and Byzantine eunuchs. Despite the importance of the eunuchs of this age, historians have not fully studied them. In this paper, I examine the process of establishing eunuchs' power in the Later Roman Empire by considering the legislation and reforms enacted by Eutropius. My paper is intended to challenge one of the main elements of Hopkins' model of the eunuchs' power: his assertion that the political influence of the eunuchs in the Later Roman court depended upon their close relationships with the emperors and the resulting favors, or, in Hopkins' own words, 'the direct patronage of the emperor' Through my investigations, I have arrived at three main conclusions. First, Eutropius was deeply involved in the various political decisions at the eastern court of the Roman Empire, but largest part of these decisions, which took the form of imperial laws, was not actually rooted in Eutropius' self-interests. As Tony Honore and Alan Cameron have already persuasively argued, Eutropius had attempted to restrain the increasing influences of the Christian Church and the landowners in order to defend the interests of the Roman state. Some scholars, such as Santo Mazzarino, have even described Eutropius' attitude as opposition to the 'feudalizing tendenciess'. Although this legislation shows the great extent of Eutropius' power, it did not directly establish the eunuchs' power. Therefore, I also focus on the reforms enacted by Eutropius in order to clarify their significance with regard to the empowerment of eunuchs as a 'class'. In regard to these reforms, John Lydus, the sixth-century bureaucrat, argued that in the age of Eutropius, some important powers, including the control of the arsenals (fabricae) and the public post (cursus publicus), were transferred from the Praetorian Prefect of the East (Praefectus Praetorio Orientis) to the Master of Office (magister officiorum). Eutropius also transferred control over the imperial estates of Cappadocia (domus divina per Cappadociam) from the Count of the Privy Purse (comes rerum privatarum) to his own position, the Grand Chamberlain. These reforms were crucial because they allowed Eutropius not only to dominate the consistorium but also to gain control of all imperial finances, without the imperial patronage that Hopkins argues was necessary. This led to a greater awareness that eunuchs could access imperial wealth and consequently might have affected the increase in their number. Finally, I provide two possible reasons why emperors employed more eunuchs in the age of Eutropius. The first is the simple and most fundamental: status. Since the Early Roman Empire, possession of slaves and ex-slaves generally indicated power and high rank. Emperors were expected to own slaves, especially the most expensive slaves, who were eunuchs. This was also true in the Later Empire. The second reason is connected to the development of the new capital, Constantinople. As the imperial court in Constantinople developed, emperors used an increasing number of eunuchs to demonstrate their own position at the top of the imperial hierarchy. Emperors attempted to display their power and influence through this conspicuous possession of eunuchs. Thus, the emperors' motivations coincided with the reforms of Eutropius, and eunuchs' power was perhaps established as the Suda suggests.
著者
南雲 泰輔
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は、まずは昨年度取り組んだ研究成果を口頭報告および論文として発表することから始めた。第一に、第8回日本ビザンツ学会において口頭で報告を行なった21世紀以降の「古代末期考古学」の動向分析を学界動向として論文化し、『古代史年報』8号(2010年)に発表した。第二に、ローマ帝国西部の武官スティリコに関する研究成果の一部を、第60回日本西洋史学会大会(2010年5月30日、別府大学)において口頭で報告し、この口頭報告を基にした論文を『古代文化』62巻3号(2010年)に発表した。この論文は、後期ローマ帝国において「蛮族」という属性が持った意味について、近年主流となっている考え方とは異なる視角から解明を試みたものであり、詩人クラウディアヌスのラテン詩等の分析に基づき、皇帝家と「蛮族」出身の武官スティリコとの間で形成された姻戚関係に着目して考察を行なった,続いて本年度は、ローマ帝国西部における当時の代表的元老院貴族クイントウス・アウレリウス・シュンマクスの著作を中心とした考察を新たに進めた。予定通り、2010年9月に英国・ロンドン大学古典学研究所および大英図書館において集中的な文献調査・資料収集を行ない、国内では入手・閲覧の困難な多数の関連資史料を参照・収集することができ、これによって現在までの研究状況とその問題点とを概ね把握しえたことは大きな成果であった。また、この文献調査・資料収集の結果、本年度の当初の研究計画は部分的に修正する必要が生じ、とりわけ分析の中心となる同時代史料については、シュンマクスの残した『書簡集』のみならず『陳述書』をも視野に含めることとして、それぞれの史料の読解を進め、これを検討した。
著者
菊池 眞夫 高垣 美智子 倉内 伸幸 南雲 不二男 丸山 敦史 丸山 敦史
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

サブサハラにおける「低投入環境保全型」農業モデルを提唱するため、ウガンダにおいて農家調査、栽培試験、パピルス湿地開田試験、関連2次資料収集を行った。これら基礎データの分析により、陸稲作・水稲作の普及により稲作生産を飛躍的に拡大するポテンシャルは極めて大きく、サブサハラにおいて、環境に負荷を与えることなく「緑の革命」を達成する条件は整っており、それを達成することが農村の貧困解消にも貢献することが明らかとなった。
著者
南雲 道彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

高強度鋼の遅れ破壊が環境変動によって促進されることをプリストレスドコンクリート(PC)鋼棒について明らかにした。環境因子として荷重及び水素添加ポテンシャルを取り上げ、最大荷重あるいは電解電流値を一定にして変動させた。環境変動の効果は、低歪み速度の引張り試験と定荷重の遅れ破壊試験の両方で確認した。環境変動の効果は水素の吸収速度や吸収量には影響を与えず、荷重変動の効果が試料表面の保護被膜の破壊によるとする従来の考えでは説明出来ない。水素添加ポテンシャル変動の場合も水素の吸収及び放出速度の解析から水素の拡散速度を求め、水素添加ポテンシャル変動の効果は受けないことを示した。環境変動の効果を水素の存在状態から調べるために、鋼中に吸収された水素の加熱放出特性を測定した。約100℃に放出ピークを持つ弱くトラップされている水素には、塑性変形に伴なって増加する水素と、もとの組織中の析出物などにトラップされている水素とがある。塑性変形跡に200℃での低温で回復処理を与えた試料に水素を吸蔵させて放出特性を調べることにより、塑性変形に伴なって増加する水素のトラップサイトは点欠陥であり、昇温過程で点欠陥が消滅するために水素が放出されることを明らかにした。荷重変動の効果は、回復処理で消滅する点欠陥密度を増加させることにあることを見出した。これらの結果から、水素脆性の機構は塑性変形によって導入される点欠陥を安定化してその密度を増加させるためであり、環境変動はこの効果を強調するものであるという新しい考えを提出した。
著者
桑波田 謙 間瀬 樹省 原 利明 千葉 マリ 南雲 幹 石井 祐子 大石 奈々子 井上 賢治
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集 第9回日本ロービジョン学会学術総会
巻号頁・発行日
pp.5, 2008 (Released:2009-01-17)

【目的】白杖を利用する視覚障害者の誘導について、屋外では点字ブロックの整備が進んでいるが、公共施設や病院等の屋内では点字ブロックは限定的な整備に留まっている。白杖利用者がより自由に行動でき、同時に高齢者や車椅子利用者等にとっても負担の掛からない新たな仕組みを目指して、床の素材差による誘導の有効性を調査した。【方法】タイルカーペット敷きの空間に点字ブロックとホモジニアスビニル床タイル(以下床タイルとする)による2通りの経路(距離6m、幅50cmのL字型誘導ライン)を設置した。被験者(全て晴眼者)は全員アイマスクを装着し、オリエンテーションの後白杖を使ってそれぞれの経路をエンド部まで辿り、辿りつけるかの成否、掛かった時間、エラーの場所と回数を計測した。学習効果による優位性を考慮し、調査の先行は点字ブロックと床タイルを交互に変えて行った。調査後それぞれの印象についてSD法、リカート法による評価を行った。被験者は52名(男性26名、女性26名)、平均年齢は39.4歳±12.6歳であった。【結果】エンド部まで辿りつけなかった人数は点字ブロック2名、床タイル4名で、共に高い誘導効果が示された。先行した群での辿りつけなかった人数は、点字ブロック1名に対し床タイル4名で同等だった。到達時間は点字ブロック54秒(±29秒)、床タイル50秒(±24秒)で双方に有意差は無かった。印象についての評価では、SD法、リカート法共に点字ブロックの方が評価が高かった。【結論】健常者を対象にした今回の比較調査では、点字ブロックは誘導効果の高いものであるが、その代替案として屋内空間においてはカーペットにタイルを埋め込む等、床の素材差による誘導も可能であることが示唆された。 しかし、本調査は白杖を使用しての歩行に不慣れな健常者にアイマスクを装着してもらって、実験的に作った空間を歩くという調査の為、実証には、日常的に白杖を使用者している人を対象とした実際的な調査が必要だと思われる。
著者
南雲 秀次郎 白石 則彦 田中 万里子
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.71, pp.p269-330, 1981-12
被引用文献数
1

東京大学千葉演習林スギ林生長試験地の資料に基づき,電算機を用いてスギ林収穫表を調製するシステムを研究した。この収穫表調製システムでは,さまざまな間伐方法のもとで林分から得られる幹材積と利用材積が計算できる。このシステムによる収穫表の調製手順は次の通りである。1.林分の平均直径,その分散,立木密度を組み合せて林分胸高断面積の生長を記述するモデルを確定する。2.上で確定した林分胸高断面積のもとで,林分の直径分布を決定する。この直径分布の関数としては,ワイブル分布を利用する。3.林分平均樹高の生長曲線を決定する。この曲線式としてはミッチェルリッヒ式を利用する。4.樹幹の相対幹曲線式を決定する。この曲線式としては三次の多項式で,いわゆる吉田式と呼ばれる関数を用いる。5.樹高-直径関係を相対化した相対樹高曲線式を決定する。いま,任意の樹幹の胸高直径,樹高をd,hとし,林分の平均胸高直径,平均樹高をそれぞれ〓,〓とすれば,この式は〓となる。ただしa,b,cはパラメター,tは時間である。これらの式を組み合せると次のようにして収穫表を調製することができる。まず,地位,林齢,間伐方法に応じた直径分布を決定し,林分平均樹高を求める。この平均樹高を相対樹高曲線に適用して,実際の大きさをもつ樹高曲線を復元する。この曲線に基づいて,相対幹曲線を利用して径級ごとの細り表をつくる。この細り表によって径級ごとの幹材積および利用材積を計算し,これを全径級にわたって加え合せて収穫表が確定する。以上の手法によって東京大学千葉演習林スギ林収穫表を調製した。利用材積の計算は三種類の木取り法によっておこなった。計算の結果,幹材積で測った平均生長量最大の時期より利用材積で測った平均生長量最大の時期の方が5年から15年程度おそいこと,また,利用材積による金員収穫は木取り法によって大きな差があらわれることがわかった。A computerized system TUSYCS constructing an empirical yield table for sugi even-aged stands was developed on the basis of data from the permanent experimental plots in the Tokyo University Forest in Chiba Prefecture. Using the basic stand variables of age, mean height growth expressed by the so-called Mitscherlich equation, number of stems, basal-area per hectare, taper curve, and relative height-diameter curve, the system predicts the stand diameter distribution, the volume, followed by the assortment of logs produced by a specific log cross-cutting strategy.
著者
西村 千秋 小坂 明生 常光 和子 吉沢 修治 南雲 仁一
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.28-33, 1984-06-30

手掌部より導出された皮膚電位水準(SPL)は覚醒水準の低下とともにその電気的陰性度が減少する。この現象を利用して自動車運転時の覚醒水準の評価を行なった。第一の実験において,試走路運転中のドライバーからSPL,脳波(EEG),眼球運動(EOG)および心電図(ECG)の導出を行なった。実験中に,覚醒水準の低下に起因する危険な運転が見られた。実験の結果,SPLとEOGについては覚醒水準と相関のあることが示された。しかし,EEGとECGについては覚醒水準との関連が認められなかった。つぎに第二の実験を行ない,SPLを覚醒水準の指標として,その制御可能性を検討した。ドライバーのSPLが所定の閾価に達すると,実験者は音声刺激をドライバーに与えた。この実験の結果,SPLは閾価以上に保持され,運転行動にもミスのないことが示された。このフィードバック手法は,自動車の運転手や飛行機のパイロットなどのためのいねむり警報システムに利用できるであろう。