- 著者
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吉村 晋
明﨑 禎輝
吉本 好延
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.B1606, 2008 (Released:2008-05-13)
【目的】 麻痺側に重度の機能障害を有する脳血管障害患者は,非麻痺側上肢で杖を用いる場合が多いが,杖なし歩行が可能になれば,日常生活動作中で非麻痺側上肢の使用が可能になるため,身体活動量およびQuality of lifeの向上に繋がる.杖なし歩行の自立度は身体機能・能力因子との関連が深く,中でもバランス能力は歩行自立度を規定する最重要因子であるが,歩行自立度とバランス能力の関連性を数量的に検討した報告は数少ない.本研究は,脳血管障害患者の立位バランス評価として臨床汎用性が高い片脚立位時間に着目し,脳血管障害患者の杖なし歩行の判定に片脚立位時間の測定が有効かどうかについて検討を行った.【対象および方法】 対象は平成16年から19年度に当院リハビリテーション部に理学療法の依頼があった脳血管障害患者113名(男性66名,女性47名,平均年齢67.1歳,発症からの平均期間103.1±65.9日)であり,研究の趣旨を説明し同意を得た者のみを対象とした. 方法は,目的変数として,装具使用の有無に関わらず,杖を用いることなく屋内での歩行が自立している症例を杖なし群,それ以外の症例を杖あり群の2群に分類した.調査項目は,年齢,Body Mass Index (BMI),下肢Brunnstrom stage(下肢Br.Stage),深部感覚障害の有無,両側の下肢筋力および片脚立位時間などの計8項目とし,群間比較の後,ロジスティック解析,Receiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)により解析した. 【結果および考察】 群間比較の結果,杖あり群は杖なし群と比較して,深部感覚障害を有する患者が多く,下肢Br.stage,麻痺側下肢筋力,非麻痺側・麻痺側片脚立位時間は低値を認めた(p<0.01). ロジスティック解析の結果, 杖なし歩行の自立に最も関連する因子として麻痺側片脚立位時間が抽出された(オッズ比1.353).ROC曲線によってカットオフ値を算出した結果, ROC曲線の曲線下面積は,0.934であり, 麻痺側片脚立位時間2.8秒を閾値とした場合,感度85.4%,偽陽性度9.2%,正診率は88.5%,陽性適中率は85.4%であった.本結果から,麻痺側片脚立位時間が2.8秒以上の場合,高率で杖なし歩行が可能であったことから,杖なし歩行自立度を判定する評価方法として片脚立位時間の測定が有効であると考えられた.脳血管障害患者における片脚立位時間の測定利用率は約8割以上と臨床汎用性が高く,共通した評価方法からデータを集積することで,他施設間での比較も可能となり,科学的根拠に基づいた歩行判定基準の一助になるものと考えられた.