著者
岡本 隆 浅野 志穂 松浦 純生 Jan Otto LARS
出版者
The Japan Landslide Society
雑誌
地すべり (ISSN:02852926)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.39-47_1, 1999-09-15 (Released:2011-02-25)
参考文献数
15

スカンジナビア半島やカナダに分布するクイッククレイは鋭敏比が8以上で構造的に非常に不安定である。そのためクイッククレイ堆積域では河川侵食や地盤の凍結・融解, 工事にともなう振動によって地すべりが頻発する。著者らはクイッククレイ堆積域での地すべりの挙動と間隙水圧, 気象要素の関係を把握するため, ノルウェーのクイッククレイ地すべり地に試験地を設定し, 地すべりの自動観測を1997年11月から開始した。観測は, 降水量, 融雪水量, 気温, 地温, 間隙水圧, 地すべり移動量についておこなっている。電源を設置した小屋が計器のフィールドの近くに建てられ, 観測データは小屋の中のデータロガーによって15分間隔で収集されている。本報告では, その観測システムについて報告するとともに, 1年間の観測から得られた若干の結果についても併せて報告する。スカンジナビア半島やカナダに分布するクイッククレイは鋭敏比が8以上で構造的に非常に不安定である。そのためクイッククレイ堆積域では河川侵食や地盤の凍結・融解, 工事にともなう振動によって地すべりが頻発する。著者らはクイッククレイ堆積域での地すべりの挙動と間隙水圧, 気象要素の関係を把握するため, ノルウェーのクイッククレイ地すべり地に試験地を設定し, 地すべりの自動観測を1997年11月から開始した。観測は, 降水量, 融雪水量, 気温, 地温, 間隙水圧, 地すべり移動量についておこなっている。電源を設置した小屋が計器のフィールドの近くに建てられ, 観測データは小屋の中のデータロガーによって15分間隔で収集されている。本報告では, その観測システムについて報告するとともに, 1年間の観測から得られた若干の結果についても併せて報告する。
著者
沖 侑大郎 田中 直次郎 沖田 啓子 渡邉 光子 岡本 隆嗣
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Da0991, 2012

【はじめに、目的】 延髄外側症候群(以下:Wallenberg症候群)とは、1895年にAdolf Wallenbergが発表し広く知られるようになった。球麻痺、小脳失調、交代性解離性感覚障害の所見を呈し、50%以上に嚥下障害を合併するといわれている。今回、Wallenberg症候群で嚥下障害を呈した症例に対し、理学療法学的観点から頸部可動性、舌骨上筋群の機能を中心に評価し、アプローチすることで改善が認められたので報告する。【方法】 本症例は、60歳代男性で、右椎骨動脈閉塞による右延髄外側の梗塞を発症し、左片麻痺、左失調症状、右側温痛覚障害、構音障害、嚥下障害を呈し発症51日目に当院に入院した。独歩でADLは自立しており、意識障害、高次脳機能障害は認めず、嚥下障害が主な問題点であり、藤島の摂食・嚥下能力のグレード7であった。神経学的所見として、Brunnstrom stageは左上下肢ともに6レベル。体幹機能は頸・体幹・骨盤帯運動機能検査で5レベルであり、座位および立位保持は安定。Berg's Balance Scaleで56/56でADL上バランス機能に問題は見られなかった。嚥下障害に対する問題点を頸部可動域低下、舌骨および喉頭挙上不全、舌骨上筋群筋力低下とし、Videofluorography(以下VF)上で軟口蓋および舌骨の挙上不全により十分な嚥下圧が得られないことによる喉頭蓋谷、梨状窩の残留を認めた。今回の評価方法として、藤島による摂食・嚥下能力のグレード(以下Gr.)、頸部伸展および回旋の関節可動域、相対的喉頭位置(以下T-position)、舌骨上筋群筋力評価スケール(以下GSグレード)、VF上で第3頸椎の内側縦長を基準とし、舌骨と喉頭それぞれの最大前方移動距離と最大挙上距離(前方/挙上)を用い、退院までの経過を評価した。問題点に対し、頸部可動域改善に向け、頸部・肩甲帯リラクゼーション後、舌骨上筋群へのマイオフェイシャルリリース、ダイレクトストレッチおよび舌骨モビライゼーションを行った。また、舌骨上筋群を強化して舌骨および喉頭運動を改善させ、食道入口部の開大を目的に、頭部挙上練習30回反復後、頭部挙上位1分間保持3回を1セットで構成されるシャキア法を、1日3セットを週5回で退院までの1ヶ月間継続的に行った。その際、通常のシャキア法では、腹筋群での代償が生じやすいと考え、頭部挙上練習は背臥位でセラピストが頸部を軽度屈曲位になるように後頭部を介助することで頭部の重さをサポートし、患者が顎を引くことに対し、セラピストが抵抗を加えた。頭部挙上保持は、セラピストが両肩関節を床面に向かい抵抗を加えながら行うことで腹筋群の代償の軽減を図りながら舌骨上筋群の筋力強化を図った。【倫理的配慮、説明と同意】 本症例には症例報告をさせて頂く主旨を紙面上にて説明し同意を得た。【結果】 上記の評価項目を用い、退院までの経過を評価した。評価結果(入院時評価→退院時評価)として、(食形態)Gr.7→9、(頸部伸展)50°→60°、(頸部回旋左右)50°→60°、(T-position)0.44→0.416、(GSグレード)1→3、VF上で舌骨・喉頭移動距離(前方/挙上)は、(舌骨)11.7/4.4cm→12.9/14.7cm、(喉頭)22.0/10.4cm→25.9/12.9cmの項目に改善が見られた。【考察】 本症例に対し頸部・舌骨上筋群を中心としたストレッチを行うことで、頸部伸展および回旋可動域、T-positionの改善が認められた。頸部の可動域制限は、舌骨や喉頭を過剰に固定し挙上運動の制限因子となる。頸部ストレッチを行うことで伸張刺激が加わり舌骨・喉頭の挙上運動が働きやすい状況になったと考える。更にGSグレードの改善からも分かるようにシャキア法により喉頭挙上筋である舌骨上筋群の筋力が改善している。つまり、筋の長さ-張力曲線の原理から考え、頸部の伸張性が改善したことにより喉頭挙上に関する筋力が動員されやすい状態となった。さらに舌骨上筋群の筋力が改善したことにより舌骨・喉頭挙上運動が増大した。このことは、VF所見から舌骨前方および挙上移動距離の改善していることから明らかである。以上より今回の症例に対して舌骨上筋群のストレッチ、シャキア法が、嚥下機能改善に対する有用なアプローチ法であること、加えて詳細な評価が有効であることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 今回理学療法の観点からの嚥下障害に対する間接的アプローチを行うことで、改善が見られた。吉田らによると嚥下障害改善群は、頸部伸展・回旋、舌骨上筋群筋力が有意に改善すると報告しており、本症例においても嚥下機能改善に伴い、頸部伸展・回旋、舌骨上筋群筋力、T-positionの改善が見られておりアプローチ方法は有用であったと考える。今回着目した頸部の可動性、舌骨上筋群の筋力を中心に正確な評価指標をもって病態を把握し、嚥下運動に対してのより効果的なアプローチが可能になると考える。
著者
近藤 成一 海老澤 衷 稲葉 伸道 本多 博之 柳原 敏昭 高橋 敏子 遠藤 基郎 渡邉 正男 神野 潔 野村 朋弘 金子 拓 西田 友広 遠藤 珠紀 山田 太造 岡本 隆明
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

未刊古文書釈文作成のための協調作業環境を構築することにより、未刊古文書の釈文を歴史学のコミュニティにおいて協同で行うことを提起し、史料編纂のあり方について新たな可能性を模索するとともに、歴史学のコミュニティの実体形成にも寄与する基礎とした。釈文作成のために外部から自由な書き込みを許す部分と、作成された成果を史料編纂所の管理のもとに公開する部分を構築し、前者から後者にデータを選択して移行するシステムを設けた。
著者
岡本 隆司
出版者
東洋史研究會
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.84-117, 1999-06-30
著者
岡本 隆明
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.181-188, 2016

京都府立総合資料館では,所蔵している東寺百合文書の全点をデジタル化し,Webで公開している。利用を促進するため,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに依拠し,適切なクレジットを表示すれば自由に複製や再配布ができるという利用条件にしたことで,これまで東寺百合文書とはあまりかかわりのなかった分野からも関心を集めた。「『東寺百合文書』や古文書とはどういったもので,これまではどのように利用されていたのか」から始め,それをデジタル化してWebで公開し現在に至るまでの概要を紹介する。
著者
岡本 隆司
出版者
東洋史研究会
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.611-645, 2015-03

This paper aims to examine the diplomatic negotiations relating to Mongolia's "independence" and international status after the 1911 Revolution and clarifying the Chinese notion of the world order and its transformation. I first trace the process of the tripartite negotiations between Mongolia, Russia and China from the conclusion of the Russo-Mongolian Agreement in 1912 to the Kiakhta Treaty in 1915. Secondly, I focus on the language and actions of the Chinese and reexamine the correlation between Chinese interests and wording in the negotiations by chiefly conducting an special analysis of some Western concepts translated into Chinese, such as zizhu 自主/zizhi 自治[independence/autonomy], zhuquan 主權/zongzhuquan 宗主權[sovereignty/suzerainty], lingtu 領土/fanshu 藩屬[territory/ dependency], and so on. As a result, I clarify that although Russia and China recognized Outer Mongoliaʼs autonomy as a Chinese territory and Mongolia recognized Chinaʼs suzerainty in the treaty, both the Chinese and the Mongols were dissatisfied and imposed their own interpretations on such concepts as zongzhuquan [suzerainty], zizhi [autonomy], and so on. In addition, I point out that this not only necessitated Chinaʼs investiture, cefeng 册封, of "Bogd Khaan" and the abolition of Outer Mongoliaʼs autonomy only a few years later in 1919, but also brought about the conditions leading to the Mongolian Revolution in 1921. This historical process cannot be said to be unrelated to the concepts of "sovereignty" and "territorial integrity" that govern foreign relations in contemporary China. It can be regarded as a key source in examining the formation of nationalism in China and surrounding countries.
著者
加藤 正人 内山 雅史 岡本 隆
出版者
中央水産研究所
雑誌
黒潮の資源海洋研究 = Fisheries biology and oceanography in the Kuroshio (ISSN:13455389)
巻号頁・発行日
no.4, pp.45-49, 2003-02

ハリセンボンは、浅海の珊瑚礁や岩礁域に生息し、津軽海峡以南の日本海沿岸、相模湾以南の太平洋岸に分布する。日本近海では南西諸島や台湾付近で産卵し、稚魚は黒潮域や対馬暖流域に出現するといわれている。房総半島沿岸では普段目にすることは希で、漁業の混獲物としてもほとんど出現しない。ところが、2002年1月、房総沿岸の定置網にハリセンボンが大量に入網し、以後4月頃まで断続的に入網が続いた。このような暖海性種の特異的な大量来遊の記録は、漁海況の変動やその要因を明らかにする上で、有益な情報になると考えられる。そこで、千葉県各定置網での入網状況と入網したハリセンボンの大きさ、他県における来遊状況を整理したので報告する。
著者
岡本 隆 朝見 幸司
出版者
日本古生物学会
雑誌
化石 (ISSN:00229202)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.1-18, 2002
参考文献数
17

Polyptychoceras spp.の示す特異な産状を解釈するために"ゾンビ・モデル"を提唱し, 静水力学的計算と水槽を用いた埋積実験の両面からその可能性を検討した.その結果, ノジュール上部に斜めの姿勢を示して保存されているPolyptychoceras spp.の化石に関して, 以下のような化石化過程が推定された(図11).1.埋没前のPolyptychoceras spp.の遺骸は, 他のアンモナイトと同じように海底に横たわっていて, その気房部の大部分には海水が浸入していた.2.ソフトグラウンドが形成されると, その中に埋積した化石にかかる浮力は一様に増加する.きわめて不均質な密度分布をするPolyptychoceras spp.の殻だけが堆積物の摩擦に打ち勝って姿勢を起こす.3.姿勢を変化させたPolyptychoceras spp.のある個体は, その気房側のターン部を海水中に露出した状態である期間保持された結果, その部分が物理的にあるいは化学的に損傷を受けた.4.その後, 新たな堆積物がこれらを覆う.堆積物の大きな圧密が生じる以前にノジュールが形成され, 殻は塑性変形を受けることなくこの状態で固定された.海水で満たされていた気房部には方解石の結晶が生じた.
著者
上田 実 入江 一浩 渡邉 秀典 品田 哲郎 小林 資正 叶 直樹 岡本 隆一 松永 茂樹 井本 正哉 半田 宏 渡辺 肇 佐々木 誠 木越 英夫 西川 俊夫 石橋 正己
出版者
東北大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

共同研究による本学術領域の推進により、多くの天然物の標的決定が行われた。これは、天然物化学者と生物学者の共同研究によって、ビーズテクノロジーの天然物への応用が拡大したこと、ならびに数多くの標的同定法が試行されたためである。これらの成果によって、多くの天然物が種標的と同時に複数のオフターゲットと結合することが明らかになった。天然物リガンドは、従前の理解のように、生体内において「鍵と鍵穴」の様に極めて特異性の高い作用機構を持つのではなく、生体内で「鍵束」のように機能し、複数の錠前と相互作用することを示している。本領域の研究成果によって、天然物リガンドの作用に関する理解は大きく変化したと言える。
著者
河部 壮一郎 岡本 隆
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.12, pp.769-781, 2012-12-15 (Released:2013-04-26)
参考文献数
38
被引用文献数
1 7

北海道北西部羽幌川支流右ノ沢地域(羽幌ドーム)に分布する上部白亜系蝦夷層群は,下位より上部羽幌川層と流矢層に対比される.前者はサントニアン階に,後者は下部カンパニアン階に対比されると考えられる.また本地域と,より沖合であったとされる逆川地域でのアンモナイト類の産出状況を比較した結果,ハミトイド型アンモナイト類は,異常巻きアンモナイト類の中でもより浅海棲であったことが示唆された.
著者
長谷川 雄紀 岡本 隆嗣 安東 誠一 前城 朝英 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.623-629, 2019-08-16 (Released:2019-09-26)
参考文献数
20

脳腫瘍はさまざまな機能障害を引き起こし日常の活動や参加を制限する.脳血管疾患などと同様にリハビリテーション医療の役割の重要性は認識されているが,回復期リハビリテーションにおける入院管理の検討は不十分である.過去の報告や当院に入院した脳腫瘍患者に関するデータをもとに回復期リハビリテーション病棟における留意点や対応の検討を行った.良性の髄膜腫が多く,全体として入院リハビリテーション治療での有意な機能的改善を認めたが,合併症の治療や検査で急性期病院への転院を要することがあった.機能や生命の予後を考慮した入院リハビリテーション治療だけでなく,検査や合併症,後療法日数の管理などで急性期病院との連携や退院後支援を含めた包括的リハビリテーション医療体制の構築が望まれる.
著者
齊藤 忠彦 田島 達也 岩﨑 博道 岡本 隆太 高橋 幸三 財満 健史 大脇 雅直
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.25-35, 2021 (Released:2022-08-31)
参考文献数
4

2019年12月に報告された新型コロナウイルスの影響は学校教育においても深刻である。特に音楽科では歌唱などの表現活動において飛沫拡散の可能性があるため, その対策を講じることが急務とされているが, 科学的な知見に基づく研究が遅れている。そこで, 本研究では, 飛沫可視化による検証実験を通して, 定量的なデータを得ながら, 歌唱の活動における飛沫感染対策に関わる検討を行うこととした。飛沫可視化によるマスク等の飛沫防護具の比較では, 「不織布マスク」「ガーゼマスク」「合唱用マスク」「マウスシールド」「フェイスシールド」の5種類の飛沫防護具を取り上げ, それらの中で最も飛沫抑制効果が高いのは「不織布マスク」であることを確認した。その他に, 「ハミング」「歌詞唱」「朗読」の比較検討, 「日本語」「ドイツ語」の比較検討なども行った。なお, 飛沫防護具着用による音響的な変化を捉えるために, 音声分析による検証実験を行った。
著者
岡本 隆一 小貫 明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.210-214, 2019-04-05 (Released:2019-09-05)
参考文献数
26

水溶液における溶質添加効果は古くから研究されてきた.単純な分子構造を持った溶質は疎水性のものと親水性のものに分類される.酸素分子,メタン分子などの小さな分子は比較的弱く疎水的であり水に僅かに溶ける.C60やC8H18O(オクタノール)のような大きい分子は周囲の水の水素結合を変形するため強く疎水的になり水には殆ど溶けない.一方Na+やCl-のような小さなイオンは周囲の水双極子を配向させるため強く親水的になる.タンパク質や界面活性剤などの複雑な分子は,疎水部分(疎水基)と親水部分(親水基)から構成される.そのため水との相互作用は拮抗的かつ集団的であり,凝集・相分離・ミセル形成などの興味ある現象が出現する.疎水相互作用の引き起こす現象の事例としてまず1つは,水中の疎水性固体表面に形成される数十–数百nmサイズの微小バブルが挙げられる.ここでは水に溶解している酸素や窒素などが壁へ追い出されている.また疎水性ガスを水に混入し攪拌するとバルクにナノバブル(またはマイクロバブル)が生成され塩の添加でほぼ安定となる.この現象は工学・医学などで応用されているが,安定性の原因(=疎水相互作用)については殆ど意識されていない.またさらなる現象として水にヒドロトロープ(hydrotrope)を加えた場合の特異な効果も際立っている.ヒドロトロープは低分子アルコール(エタノールなど)を代表例とする小さいながら疎水基と親水基を持つ低分子共溶媒の総称である.水+ヒドロトロープ混合溶媒では濃度揺らぎが亢進する.ここに疎水性溶質が僅かでもあれば組成に応じてマクロな相分離とともに102–103 nmサイズのマイクロエマルジョンが生じる.後者に起因する白濁現象は,蒸留酒Ouzo(強疎水性アニスで香りをつけたエタノール)に水を注ぐと観測される.このような溶液の相転移を理解する上で重要な量として,第一に溶質分子の溶媒への溶けやすさを表す溶媒和化学ポテンシャルがある.これは,純溶媒に溶質分子1個を入れた時の自由エネルギー変化のことであり,溶媒分子と溶質分子,そして溶媒分子同士の相互作用を反映している.加えて重要な量として,溶質による浸透圧を溶質密度で展開したときの2次の係数,浸透第2ビリアル係数が挙げられる.これは溶媒中における(溶媒効果を繰り込んだ)溶質分子間相互作用を特徴づける.我々はこれらの溶液の振る舞いを記述するために,まず2成分溶媒+溶質の3成分系における浸透第2ビリアル係数の新しい表式を導出した.この量は溶質誘起不安定性が起こる溶質濃度の下限と関係づけられる.これらは純粋に熱力学的な表式である.そこでMansoori-Carnahan-Starling-Leland(MCSL)モデルを用いて,水–低分子アルコールのように全組成で混合するような溶媒を想定したパラメタ値を設定し,溶媒和化学ポテンシャルや浸透第2ビリアル係数などを具体的に計算した.その結果,浸透第2ビリアル係数が溶媒組成に関して極小を持つこと,そしてそれは溶媒組成揺らぎと溶質の溶媒和化学ポテンシャルの組成依存性が要因となっていることがわかった.以上の表式はミクロな理論,分子シミュレーションや実験との対応を考える際に重要なKirkwood-Buff積分とも関係づけられる.さらに,微小バブルの安定性において過飽和と疎水性溶質の存在が重要であることがわかった.加えて溶質誘起の液液相分離の相図をMCSLモデルを用いて計算し,実験で得られる水–低分子アルコール–疎水性溶質系で得られるマクロ相分離の様相と類似することが示された.
著者
岡本 隆嗣 橋本 圭司 大橋 正洋 中地 照子 石井 明美 宮野 佐年
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.678-685, 2004-10-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 6

当院で入院の多数を占める脊髄損傷,脳外傷,変形性股関節症患者のHRQOLおよび費用対効果を,EuroQOLを用い調査した.対象は2003年7月~12月に30日以上入院し,質問が理解可能で,重度の合併症がない111名である.調査内容は(1)入退院時FIM,(2)入退院時EuroQOL,(1)5項目法(5 Dimension,以下5D),(2)視覚評価法(Visual Analogue Scale,以下VAS),(3)5Dで問題がある人の割合,(3)費用効用分析,とした.結果は,脳外傷・脊髄損傷はFIMが有意に改善し,5D・VASは,3疾患とも有意に改善した.5D各項目では,脳外傷・脊髄損傷は各項目とも全体的に問題を感じている人の割合が減少し,変形性股関節症では,特に痛み・不安の項目で減少がみられた.診療報酬より算出した入院中の医療費は,脳外傷146.2±50.4万円,脊髄損傷182.2±79.0万円,変形性股関節症138.9±40.7(手術料含むと285.6±71.1)万円であった.患者の状態が退院後も変化しないと仮定した場合の1質調整生存年(Quality adjusted Life Year;QALY)獲得のための医療費は,脳外傷43.1±12.4万円,脊髄損傷42.5±55.1万円,変形性股関節症47.8±48.7(手術料含むと93.2±84.7万円)であった.本調査で,リハビリテーション前後での効用値の有意な増加を確認することができ,3群とも費用効果ありと考えられた.
著者
岡本 隆嗣
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.482-489, 2021-05-18 (Released:2021-07-15)
参考文献数
16

2000年に介護保険と同期して制度化された回復期リハビリテーション病棟は,安静による廃用を防ぎ,ADL能力を向上させ,住み慣れた地域への在宅復帰が目的である.病棟配属されたスタッフの「生活」を重視したチーム医療が最大の特徴である.病棟では,医療・ケア・リハビリテーション・ソーシャルワークの情報やチームの目標がすぐに共有できる環境にあり,多職種合同のカンファレンスが日々開催され,毎日高密度の集中的リハビリテーション・ケアが行われる.これらの質を高めるためには,診療報酬で求められている指標以外に,情報共有,カンファレンス,リハビリテーション時間・職種間協業,退院調整,教育など,さまざまな面での病棟システムが必要である.