著者
榊原 雅人
出版者
日本生理心理学会
雑誌
生理心理学と精神生理学 (ISSN:02892405)
巻号頁・発行日
pp.2209si, (Released:2022-10-29)
参考文献数
120
被引用文献数
1

生理心理学や関連領域において心拍変動は自律神経活動を検討する目的でひろく利用されている。本稿は心拍変動の分析を用いた心理生理学的状態の評価と心拍変動の増大に関わる臨床的応用(心拍変動バイオフィードバック)について解説した。はじめに,心拍変動の高周波成分(呼吸性洞性不整脈)は統制された条件のもとで信頼性の高い迷走神経活動の指標となり,これを利用してさまざまな行動的課題(すなわち,ストレスやリラクセーション)に対する心理生理学的反応性を評価できることを示した。一方,迷走神経制御の特徴から呼吸性洞性不整脈は迷走神経活動の指標というよりはむしろ心肺系の休息機能を反映する内因性指標であると考えられ,これを利用して日常場面に関わる心理生理的状態を評価できることを示した。次に,心拍変動の増大に関わる臨床的応用の文脈から,心拍変動バイオフィードバック研究の起源,臨床的な有用性,作用機序について解説した。心臓血管系の調節に重要な役割を果たしている圧受容体反射には共鳴特性があり,共鳴周波数(おおむね0.1Hz)の呼吸コントロールは著しい心拍変動を生み出す。このような共鳴のメカニズムを通して心拍変動バイオフィードバックは圧受容体反射に関わる自律系のホメオスタシス機能を高め,ストレス症状の緩和や情動制御の効果をもたらしている。総じて,心拍変動の分析は心理生理学的状態を評価する有用なツールとなり,心拍変動の増大は心身の健康やウェルビーイングにとって重要な要因であると考えられる。
著者
榊原 良太 大薗 博記
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.92, no.5, pp.332-338, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
7
被引用文献数
1 11

Wearing masks is an easy and effective way to prevent infection by COVID-19. In Japan, two studies investigated the reasons why people wear a mask; however, the results were inconsistent. Therefore, the present study reexamined the association between mask wearing and the reasons given for doing so, focusing on the differences in and problems of item wording. The results of both studies were found to be almost reproducible, and there were few issues regarding item wording. Furthermore, the results revealed that people wear a mask to prevent themselves and others from infection and to conform to others wearing a mask. We suggest that inconsistencies in the results were due to differences in item wording, and discuss how future research should be conducted.
著者
宮内 貴之 佐々木 祥太郎 佐々木 洋子 最上谷 拓磨 榊原 陽太郎
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.487-493, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
21

本研究の目的は,Bálint症候群を呈した患者1名を対象に日常生活活動(ADL)で用いられる代償手段を明らかにすることとした.事例は左後頭葉出血で急性期病院に入院中の80歳代女性とした.急性期病院入院中に事例のBálint症候群の重症度に変化はなかったが,ADLは向上し,セルフケアが発症から4週間で自立した.向上したADLでは非利き手を用いた視覚的な手がかりと体性感覚による代償手段を用いていた.このことから,Bálint症候群を呈した患者のADLの再獲得には非利き手を用いた視覚的な手がかりと体性感覚を活用した代償手段の練習が有効であると示唆された.
著者
新井 清美 榊原 久孝
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.379-389, 2015 (Released:2015-10-27)
参考文献数
44
被引用文献数
4

目的 都市公営住宅における高齢者の低栄養と社会的孤立状態との関連を明らかにすることを目的とした。方法 名古屋市営 A 住宅の65歳以上の高齢者442人を対象に,無記名自記式質問紙を使用し調査を行った。調査内容は,基本属性,社会的孤立状態や栄養状態などについて質問した。低栄養の指標については,Mini Nutritional Assessment®-Short Form (MNA®) を使用して評価した。「栄養状態良好」,「低栄養のおそれあり」,「低栄養」の 3 区分のうち「低栄養のおそれあり」と「低栄養」を,「低栄養のおそれ群」の一群として,「栄養状態良好群」との 2 群で比較した。社会的孤立については,社会的孤立を関係的孤立としてとらえ,日本語版 Lubben Social Network Scale の短縮版(LSNS–6)を使用して評価し,非社会的孤立(12点以上),社会的孤立(12点未満)の 2 群とした。分析では,従属変数を栄養状態とし,年齢,性別,同居の有無,主観的経済状況,社会的孤立,外出頻度,孤独感,要介護認定の有無,老研式活動能力指標を,独立変数(説明変数)としてロジスティック解析を行った。結果 調査は343人から回答を得て(回収率77.6%),有効回答数は288(有効回答率65.2%)であった。分析対象者288人は,65歳から98歳(平均年齢±標準偏差:74.7±6.1歳)で,男性121人,女性167人であった。孤立を示す12点未満は44.1%であった。MNA® については,「栄養状態良好」171人(59.4%),「低栄養のおそれあり」108人(37.5%),「低栄養」9 人(3.1%)であり,「低栄養のおそれ群」は40.6%に認められた。「低栄養のおそれ群」と関連する要因は,多重ロジスティック解析で,社会的孤立状態(オッズ比(OR)=2.52,95%信頼区間(CI)1.44–4.41)および経済状況(OR=1.98,95%CI 1.15–3.41)であった。交互作用の分析結果から75歳以上の一人暮らしも低栄養のおそれと関連することが明らかになった。結論 「低栄養のおそれ群」には,社会的孤立状態および経済状況が関連要因として示され,75歳以上の一人暮らしも要注意であることが明らかになった。今回調査したような公営住宅では高齢者の低栄養や社会的孤立が潜在化している可能性があり,高齢者の介護予防や健康増進への対策には,高齢者への栄養支援とともに社会的孤立への取組の必要性が示唆された。
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-53, 2000 (Released:2022-07-27)

日本の産学連携は実りに乏しいといわれ,大学がしばしば批判されている.だがそれは大企業を中心とする偏見の疑いがある.中小企業やベンチャー企業に着目すれば,むしろ実効性の高い産学連携が進んでいることを,データは示しているからである.本稿では,産学連携の日本における実態を明らかにし,知識生産システムの変容を論じている.
著者
榊原 一也
出版者
日本経営学会
雑誌
經營學論集 第85集 日本的ものづくり経営パラダイムを超えて (ISSN:24322237)
巻号頁・発行日
pp.F55-1-F55-8, 2015 (Released:2019-09-25)

従来の撤退戦略は,主に事業ポートフォリオ理論に依拠し,衰退段階に至った事業のキャッシュを再配分するという点に重きが置かれていた。だが本研究は,経営環境の変化への適応のため,あるいは将来の事業構想のために,積極的に事業ポートフォリオを調整し,断行する「能動的撤退」に注目する。事業売却を除けば,この撤退には,事業撤退が起点となって製品差別化を果たす「適応的撤退(撤退した事業で培った知識を既存事業において活用するもの)」と,新規事業創造を果たす「創造的撤退(撤退した事業で培った知識を事業創造において活用するもの)」の2つが存在する。本研究は,キヤノン株式会社の3つの撤退事例(シンクロリーダー事業,パソコン事業,ディスプレイ事業)から,これらの能動的撤退プロセスを明らかにした。
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.52-62, 1986 (Released:2022-07-14)

組織のダイナミックな変容はしばしばドメインの定義に関連しているといわれる.しかし,その関係の分析的な議論はほとんど存在していない.本稿では通常のドメインに代えて,より広いドメイン・ユニバースという新しい概念を導入し,独自の組織変動論を展開している.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.34-42, 1987 (Released:2022-07-14)

成熟を脱却し新たな成長可能性を模索するなかで,日本企業は新しい型の戦略を展開している.それは国際ネットワーク戦略であり,それとともにネットワーク型の組織も現われている.本稿では日本企業のグローバリゼーションにかかわるこのような最近の現象を概観し,その問題点を検討する.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.71-79, 1989 (Released:2022-07-14)

職能制,事業部制,マトリックスと展開されてきた組織形態の変遷に新しい動きがみられる.それはサテライト組織(S型)とでもよぶべきネットワーク型の組織の台頭である.S型組織は「新しい成長戦略」の遂行の過程で現れてきたものであり,組織デザイン論にまったく新しい洞察を提供している.
著者
榊原 清則
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.55-62, 1992 (Released:2022-07-15)

本稿では,企業組織のドメインをめぐる議論の概念的体系化を試みる.ここにドメインとは,組織体の活動の範囲ないしは領域のことであり,組織の存在領域を意味する.分析の結論として,ドメインの広がりを空間,時間,意味の広がりの三つの次元でとらえる,まったく新しい分析枠組みが提唱される.
著者
木村 学 堤 浩之 早坂 康隆 鈴木 康弘 瀬野 徹三 嶋本 利彦 渡辺 満久 榊原 正幸
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

極東ロシアから日本列島に至る地域は被害地震が多発する地域である。近年これらの地震は北米・ユーラシア両プレート間の収束運動もしくはその他のいくつかのマイクロプレートが関与したプレート境界でのもの、ととらえられるようになった。相次ぐ被害地震にもかかわらず、ネオテクトニクスに関する研究はこれまで政治的・地理的・気候的制約があって進んでいない。そこで新年度に続き、極東ロシア、特にサハリン島北部地域の総合的なネオテクトニクス調査研究を実施した。具体的に以下の研究を行った。1. 航空写真による変動地形、活断層解析。特にサハリン島、中〜南部に分布、発達する活断層について変位のセンス及び変位置について解析した。2. 変動地形活断層の現地調査。特に中部及び南部サハリン。3. 地質学的調査。航空写真によって明らかになった活断層の累積変位、変位速度を明らかにするために現地で活断層露頭や、樹木成長の記録を調査した。サハリン変動帯最北部のシュミット半島にて、中生代来のオフィオライト、及び変形した堆積岩及びスレート帯について、構造解析を実施した。その結果、第三紀後期に北東南西方向の圧縮を受けて、地質体は激しく変形していることが明らかとなった。この変形様式は現在進行中の地殻変動と調和的である。従って、サハリン北部の地殻変動は第三紀以降、右横ずれの同じセンスのもが累積していることが明らかとなった。
著者
二藤 隆春 今川 博 溜箭 紀子 山岨 達也 榊原 健一 田山 二朗
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.166-170, 2010-04-20
参考文献数
8

声帯瘢痕は, 手術や外傷による損傷, 炎症の反復などにより本来柔軟な声帯粘膜が硬い瘢痕組織に置換され, 声帯振動の異常から音声障害が生じる疾患である. 瘢痕性病変の部位や程度を正確に評価するには通常の喉頭内視鏡検査では困難であり, 喉頭ストロボスコピーや高速度デジタル撮影が必要である. 患側の声帯振動, 粘膜波動の減弱や消失, 両側声帯間の位相差や声門閉鎖不全などの所見が観測される. 画像解析法として, 声帯振動の時系列的な変化を追うキモグラフや部位ごとの声帯振動の差異を表示可能な喉頭トポグラフなどが活用されはじめ, さらなる発展が期待されている. 症状と喉頭内視鏡検査所見が一致しない場合は, 声帯瘢痕の可能性も念頭におき, 積極的に精査を進めることが重要である.
著者
榊原 正行
出版者
紙パルプ技術協会
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.1234-1238, 2012-11-01

当社は1989年よりドイツ,ビロマティック社と大判フルシンクロカッターでの技術提携をしている。またビロマティック社がヤーゲンベルグ社のカッター部門を買収し,ビロマティック―ヤーゲンベルグという新会社を立ち上げ,2005年5月に新たな技術提携を締結し,ビロマティック―ヤーゲンベルグ社デザインのシートカッターも国内に3基納入してきた。<BR>そのような状況の中,コストダウンが図られた小幅~幅広の大判カッターの要求が国内外より寄せられており,昨年4月,1945年創業の歴史あるカッターメーカーで,幅広く多数の納入実績があるイタリアのピザラト社の全商権を譲り受け,新たに"丸石―ピザラト高速フルシンクロ大判カッター"をラインアップに加えた。<BR>これまで高性能機を中心に展開してきた同事業において,設備の品質を維持しつつ汎用型の大判カッターを提供する体制も確立し,これにより紙パルプ産業はもちろん,断裁加工工場など幅広い客先のニーズに対応していく。<BR>今回はこのコストダウンが図られた小幅~幅広の大判カッター"丸石―ピザラト高速フルシンクロ大判カッター"の特徴を発表させていただく。