著者
安藤 直子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.344-365, 2001-12-30

本論文においては、岩手県盛岡市の2つの祭礼「チャグチャグ馬コ」と「さんさ踊り」を題材に、祭りが「伝統性」保持と観光化という対立する文脈において変化していく複雑なプロセスと、そのプロセスの中での祭りに携わる人々の「伝統」保持及び観光化への関わり方を分析した。その結果、担い手による多様な「オーセンティシティ(真正性、本物性)」追求の様相が確認された。従来の観光人類学においては「ゲスト(観光地を訪れる人々)」「ホスト(観光を担う人々)」といった二項対立の枠組み上で、ゲストとホストとの関わりが議論され、オーセンティシティ概念も同様の枠組み上で論じられてきた。ゲストが「オーセンティシティ」を追求し、一方ホストは「疑似イベント」を創出しゲストに提供すると論じられ、主にゲストに主体性をおいた「オーセンティシティ」論が展開されてきた。しかしながら、2つの祭りにおいてはホストが訪問者を制して主体性を獲得し、多様な方法でオーセンティシティを主張する様相が確認された。担い手によるオーセンティシティの追求は、ゲストによるそれとは比較できないほど重要かつ切実な問題であると言える。なぜなら、担い手にとってオーセンティシティの追求は、地域社会における中心的な地位の追求と重なっているためである。2つの祭りにおいては、オーセンティシティにより近いと主張し、担い手内部でそのように評価されるほど、祭りの中で中心的な位置を占めることができる。祭り運営組織の役職に就き、運営上の主導権を獲得することは、結果的に担い手の地元内部における社会的プレステージ(威信)を上昇させる。観光化が進むほどにこの傾向は強まり、ホストによるオーセンティシティの主張は活発化し、主張の方法も複雑化している。本論文においては、観光の現場でホストがオーセンティシティを追求する理由を議論し、その概念を深めることを目的とする。
著者
上林 孝豊 中務 博信 本井 真樹 加藤 直子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.301-306, 2014 (Released:2014-06-24)
参考文献数
10

【目的】当院, 緩和ケア病棟入院中のがん患者に生じた感染症に対する抗菌薬治療の現状と, その効果を明らかにすること. 【方法】2012年5月1日から2013年4月30日までの期間に, 当院緩和ケア病棟入院中に注射用抗菌薬治療が行われた感染症症例を対象とし, 電子カルテによる後ろ向き調査で行った. 【結果】当病棟に入院した症例のうち, 44.3%に注射用抗菌薬が投与されていた. 感染症の内訳としては, 肺炎が最多(63.6%)で, 次いで尿路感染が多かった(18.2%). 抗菌薬の効果に関しては, 「有効」59.1%, 「不変」9.1%, 「無効」13.6%, 「不明」18.2%であった. 抗菌薬治療の効果は, 尿路感染症で得られやすい一方, 死期が近いタイミングでは得られにくい可能性が示唆された. 【結論】感染症に対する抗菌薬治療は, 緩和ケア病棟においても, よく行われている現状と, 一定効果のあることが明らかとなった.
著者
内藤 直子
出版者
大阪歴史博物館
雑誌
大阪歴史博物館研究紀要 (ISSN:13478443)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.0051-0062, 2012 (Released:2022-06-19)

天明元年(一七八一)に大坂で出版された『装剣奇賞』は初の本格的な細密工芸の作家名鑑として、刀装具や根付研究に今なお大きな影響を与えているが、その意義や筆者稲葉通龍については、昭和十六年の後藤捷一『稲葉通龍とその著書』以降、大きな進展がなかった。本稿は、大阪府立中之島図書館本(開板出願用の手稿本)、住吉大社本(奉納された初版本)、大阪歴博本(普及本)の三種の本をもとに、本書の成立について時系列的に考察を行った。その過程で、混沌詩社や木村蒹葭堂との接点、さらには安永四年(一七七五)刊行の『浪華郷友録』との類縁性に注目し、本書は大坂の文化ネットワークに組み込まれ得るとの視点を呈示した。一方、七巻に掲載されている根付師については同時代の大坂の出版物との異同表を作成し、当時の生業としての根付師の置かれた立場について、未だ余技的な要素が残るもののひとつのカテゴリーとして自立しつつあった状態ではないかとの推論を述べた。
著者
立川 雅司 加藤 直子 前田 忠彦 稲垣 佑典 松尾 真紀子
出版者
日本フードシステム学会
雑誌
フードシステム研究 (ISSN:13410296)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.283-288, 2020 (Released:2020-04-10)
参考文献数
11
被引用文献数
3 2

Genome editing is being applied in various fields of life sciences, such as medicine, agriculture, food and energy. Regarding the regulatory status of genome editing in Japan, policies are being issued by the Ministry of Health, Labor and Welfare and the Ministry of the Environment, and applications to the fields of agriculture and food are being widely considered. However, there has hardly been any explicit discussion on the differences between applications for plants and animals. We argue there are several points that should be taken into account. In this paper, we clarify the unique regulatory issues that separate genome edited animals from plants, in particular, safety assessment, consumer perception, and animal welfare.
著者
加藤 直子
出版者
総合研究大学院大学
巻号頁・発行日
2012

identifier:総研大甲第1530号
著者
北林 紘 伊藤 直子
出版者
公益社団法人 日本栄養士会
雑誌
日本栄養士会雑誌 (ISSN:00136492)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.585-591, 2015 (Released:2015-07-28)
参考文献数
41
被引用文献数
1

リン摂取量は、国民健康・栄養調査結果と食品分析による実測値では乖離している可能性がある。この一因として、食品標準成分表では包括化されている食品の存在が考えられる。今回、風味調味料に焦点を当てリン含有量を測定したので報告する。風味調味料9種類、計23製品の可食部100 g当たりのリン含有量をバナドモリブデン酸吸光光度法により測定した。風味別によるリン含有量の差を確認するために、Tukey-Kramer法で、かつお、こんぶ、煮干し、しいたけ、鳥がらの多重比較を行った。また、化学調味料の添加有無によるリン含有量の差を確認するために、Mann-Whitney検定を行った。煮干しはかつお、しいたけ、鳥がらと比較してp<0.05、こんぶと比較してp<0.01で有意にリン含有量が多かった。化学調味料有無では、無は有と比較して有意にリン含有量が多かった(有258±206 mg、無785±566 mg、p<0.05)。風味調味料のリン含有量は、風味の種類また化学調味料の使用有無により異なっていた。
著者
工藤 由紀 伊藤 郁乃 新藤 直子 永井 英明 辻 哲也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.217-222, 2015 (Released:2015-10-07)
参考文献数
14
被引用文献数
1

【目的】最期までトイレで排泄を希望する患者は多くみられるが,トイレ歩行が行えた最終時期や影響因子についての報告は少ない.【方法】緩和ケア病棟で2010年1月~2011年12月に死亡退院した154名(中央値75.0±11.6歳)のがん患者について,死亡1カ月前・2週前・1週前のトイレ歩行の可否を後方視的に調査した.加えて6項目(①疼痛②呼吸苦③傾眠④せん妄⑤オピオイド投与⑥酸素吸入)の有無を調査し,トイレ歩行/非トイレ歩行の2群間で比較した.【結果】トイレ歩行症例は死亡1カ月前79名(51.3%),2週前54名(35.1%),1週前33名(21.4%)であった.傾眠・せん妄は非歩行群に,呼吸苦は歩行群に有意に高い頻度で認められた.【考察】がん終末期において①トイレ歩行の実態を示した②リハ介入の余地があると思われたが,意識障害の発現と労作時呼吸苦への対策が必要である.
著者
山崎 貴子 伊藤 直子 大島 一郎 岩森 大 堀田 康雄 村山 篤子
出版者
一般社団法人日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会誌 (ISSN:13411535)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.176-183, 2008-06-20

マイタケに含まれるプロテアーゼの作用と低温スチーミング調理の併用による牛肉軟化について検討した。マイタケ抽出液は50-70℃で最もカゼイン分解活性が高く,70℃で8h反応させたあとでも30-40%の活性が残っており,熱安定性が高かった。マイタケ抽出液とともに牛モモ肉を低温スチーミングすると,茹でた場合や,水またはしょうが抽出液を使った場合に比べて,溶出するタンパク量が多かった。しかしうま味に関係するグルタミン酸は特に溶出は増えておらず,むしろマイタケとともにスチーミングした肉で有意に増加していた。組織観察の結果,マイタケ抽出液で処理したものはタンパクが分解されている様子が観察された。破断測定および官能評価では,マイタケ抽出液とともにスチーミングしたものは有意に散らかく,噛み切りやすいという結果となった。マイタケと低温スチーミング調理を併用すると,効果的に食肉を軟化できることが示唆された。
著者
加藤 直子 山岡 昌之 一條 智康 森下 勇
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.609-615, 2003-09-01

多彩な解離症状を呈した15歳女子に対し,本人へのカウンセリングおよび薬物療法,さらに親へのガイダンスを行い,症状の改善が認められたので報告した.思春期の解離症状に対しては,退行的側面と前進発達的側面の理解が必要である.家族および治療者は,行動化や外傷体験の背後にある情緒に共感し,解離した体験をつなぐ補助自我的な役割を果たす一方で,発達阻害的な退行を助長しないことが肝要であると思われた.解離症状に伴う強い不安や興奮,身体化症状には薬物療法が有効であった.
著者
齋藤 直子
出版者
家族問題研究学会
雑誌
家族研究年報
巻号頁・発行日
vol.41, pp.5-20, 2016

<p>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;この論文では、未婚化社会における被差別部落の青年たちの恋愛・結婚の現状について考察する。 <BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;まず、議論の前提として、部落出身者の定義の問題について述べた。次に、部落出身者に対する結婚差別の状況について述べた。日本社会が、見合い婚から恋愛婚に変化したことによって、結婚差別の状況も変化した。 <BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;そして、「未婚化社会」における部落青年たちの恋愛・結婚について論じた。部落青年の結婚に関する最大の悩みは、全国の青年とまったく同じで、適当な相手にめぐり会わないことである。だが、差別に対する不安もある。恋愛関係において、つきあったり別れたりを繰り返すことができる現在、相手の心変わりの理由は無数にあり、別れの理由が部落差別かそうでないのかを見分けることは難しくなった。これを「恋愛差別」と名付けた。 <BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;また、部落青年が結婚できないのは、日本社会の未婚化の影響なのか、差別のせいなのか、就職や学力の不利が間接的に影響を与えているのか、理由を断定することは難しい。結婚できないことを、本人の責任にされてしまいかねない状況がある。 <BR>&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;最後に、未婚化社会における結婚・恋愛差別への対処について、考察をおこなった。</p>
著者
近藤 直子 花田 勝美 榊 幸子 松中 浩
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.173-178, 2005
被引用文献数
1

皮膚の乾燥症状を有するアトピー性皮膚炎または乾皮症の患者26例に対し,オリゴマリン<sup>®</sup>をそれぞれ含んだ3種類のスキンケア製剤(ローション,ボディクリーム,ハンドクリーム)の使用試験を実施し,その安全性と有用性を検討した。オリゴマリン<sup>®</sup>は,海水からナトリウムなどを減量し亜鉛やセレンなどの微量元素を多く含む化粧品(医薬部外品)原料である。8週間の使用において,ボディクリームを使用した乾皮症の1例に軽いそう痒と炎症を認めたが,それ以外のすべての症例で安全性を確認した。また有用性は,皮膚所見,表皮角層水分量および角層細胞の形態観察にて評価した。その結果,本試験に供した3種類のスキンケア製剤は,乾燥性皮膚に対し安全に使用でき,かつ皮膚症状を改善するとともに,角層のバリア機能を向上させ得ることが明らかとなった。
著者
掛下 哲郎 大月 美佳 嘉藤 直子 村田 美友紀
出版者
電気・情報関係学会九州支部連合大会委員会
雑誌
電気関係学会九州支部連合大会講演論文集 平成25年度電気関係学会九州支部連合大会(第66回連合大会)講演論文集
巻号頁・発行日
pp.608-609, 2013-09-13 (Released:2016-01-17)

プログラミング教育は理工系の大学や高専において重要性が高いが,学生の学力低下に関する懸念や,プログラミング実習時の支援体制が十分には確保できない等の課題がある.本研究では,学生のプログラミング学習を支援するソフトウェアツールをMoodle上で開発する.本ツールはプログラムやトレース表に対する穴埋め問題を用いて様々な難易度の問題を学生に出題でき,学生の解答過程のログデータを収集して理解度を把握することもできる.本稿では,プログラミング教育支援ツールの目的や全体構想を紹介する.
著者
前田 忠彦 松本 渉 高田 洋 伏木 忠義 吉川 徹 加藤 直子
出版者
統計数理研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

訪問面接調査や留置調査など調査員が介在する調査法,Web調査などそれ以外の調査モードを含む様々な調査で実施の際に付帯的に得られる調査プロセスに関する「調査パラデータ」を解析し,調査の精度管理に有用な情報を得ることを目指した検討を行った。また,調査不能率が高い場合に懸念される調査不能バイアスの影響を評価したり,それを調整する方法についての研究を行った。面接調査等の訪問記録や,電話調査での発信記録を分析することによって,調査員の行動をよりよく理解することができるようになり,調査員教育に生かすことができる。また他の調査モードで得られる回答所要時間のデータなどで回答者行動の理解を深めることができる。
著者
樋笠 勝士 荻野 弘之 佐藤 直子 長町 裕司 O'LEARY Joseph 川村 信三 児嶋 由枝 竹内 修一 HOLLERICH Jean-c 村井 則夫
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、平成18年度から21年度にわたる4年間の研究計画により、西洋中世における「美」の概念を、とくに新プラトン主義の受容と変容という課題に絞って、歴史研究を行うものである。本研究の独創性は「美」の概念について、古代末期思想家プロティノスに始まる新プラトン主義美学思想が、西洋中世キリスト教思想にどのような影響を与えたのかを解明する点にある。その思想の影響系列は、「美」を「光」と関係づけるキリスト教の伝統的な形而上学思想の原型をつくりだし、また典礼芸術等の芸術現象に展開する文化的基礎となる概念形成にも展開している。さらに中世の神学思想における超越概念にも影響を与える基本思想にもなっていることから、美学研究のみならず西洋中世思想研究の基礎研究にとって、本研究課題は思想史研究上の大きな意義を有するものとなる。
著者
馬場 みちえ 西田 和子 藤丸 知子 兒玉 尚子 伊藤 直子 今村 桃子 津山 佳子
出版者
一般社団法人 日本地域看護学会
雑誌
日本地域看護学会誌 (ISSN:13469657)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.63-71, 2008-03-25 (Released:2017-04-20)

看護師の喫煙率は高いといわれ,看護学生時代に喫煙開始する人が多いと報告されており,看護学生時代の禁煙支援は重要なことである.本研究では,女子看護学生の喫煙習慣と性格特性の関連について検討を行った.性格特性の測定にはMPI性格調査票を用い,喫煙者と禁煙者は,非喫煙者と比較すると外向的であった.喫煙者は,神経質傾向がみられ,精神的健康度を測定するGHQ28ではストレスが高くなっていた.しかし禁煙者では神経質傾向がなくストレスは低かった.また禁煙ステージ別にみると,喫煙者の関心期,準備期と禁煙者の性格特性は類似していた.看護学生時代の禁煙支援あるいは喫煙防止教育には,性格特性を踏まえて行う必要があることが示唆された.禁煙教育は喫煙者にはもちろんであるが,禁煙者が再度喫煙者へ移行しないよう,禁煙者も含めて支援することが重要である.
著者
内藤 直子
出版者
(財)大阪市文化財協会
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2006

刀装具蒐集に関する基礎情報として、光村氏が心血を注ぎ完成した『鏨廼花』のデータベース化を行うと共に、作成に当たっての収集情報を書き留めたメモ集を報告書に再録した。加えて、これまで注目されていなかった幸野楳嶺門下の画家との交流及び収集作品の特定を行うための基礎資料を収集し、報告書中にまとめた。今回の研究では、彼のパトロン活動が特に活発であった時期を明治30年代後半期に特定できるのではないかという仮説を提起するに至るとともに、研究過程では新出資料の発見や、既出資料の新たな側面を見いだすに至った。