著者
荻野 智之 玉木 彰 解良 武士 金子 教宏 和田 智弘 内山 侑紀 山本 憲康 福田 能啓 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.124-130, 2014-04-30 (Released:2015-11-13)
参考文献数
29

【目的】健常成人を対象に,体幹前傾角度や上肢支持姿勢の違いが肺気量位,胸腹部呼吸運動,呼吸運動出力に及ぼす影響を調査した.【方法】測定肢位は,安静立位,体幹前傾30°位,60°位,各体幹前傾姿勢での上肢支持(on handとon elbow)の7姿勢とした.肺気量位の測定は呼気ガス分析器を用い,胸腹部呼吸運動はRespiratory Inductive Plethysmograph(RIP)を用いて測定した.さらに呼吸運動出力として各姿勢時のairway occlusion pressure 0.1 s after the start of inspiratory flow(P0.1)を測定した.【結果】上肢支持位で肺気量位は有意に増加し,胸郭も拡張位となった.しかし,同じ体幹前傾角度での上肢支持による有意な変化や上肢支持姿勢の違いによる有意な変化はみられなかった.P0.1も姿勢による有意な変化はみられなかった.【結語】健常成人男性においては,上肢支持位で肺気量位は増加し,胸郭も拡張位となるが,上肢支持と体幹前傾姿勢による加算的効果や交互作用は認められないものと考えられた.
著者
大迫 絢佳 山内 真哉 梅田 幸嗣 笹沼 直樹 児玉 典彦 内山 侑紀 道免 和久
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11849, (Released:2021-01-13)
参考文献数
15

【目的】クリーゼを呈した重症筋無力症患者に対し,日々の病態を評価する指標を用いて理学療法を実施し,自宅退院の転帰に至った症例を経験したので報告する。【症例】75 歳女性。胸腺腫摘出術後,誤嚥性肺炎を機にクリーゼを呈した。薬剤療法を行い第27 病日より離床を開始した。【方法】日々の病態評価にQMG スコアの頸部屈曲保持時間と下肢挙上保持時間,修正Borg Scale を用いて,離床や運動療法を実施した。【結果】FIM は,57 点から112 点まで回復し自宅退院となった。【結論】QMG スコアと修正Borg scale を指標として病態評価を行いながら運動療法を実施したことで,overwork weakness を生じることなく自宅退院に導くことができた。
著者
西角 暢修 若杉 樹史 水野 貴文 山内 真哉 笹沼 直樹 内山 侑紀 道免 和久
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.12117, (Released:2022-01-25)
参考文献数
15

【目的】二次進行型MS 患者の下腿三頭筋の痙縮に対して,FES を前脛骨筋に実施し,痙縮の減弱に伴い歩行能力向上を認めたため報告する。【症例】40 歳台男性。再発と寛解を繰り返しているMS 患者で,今回4 度目の再発にて歩行困難となり入院。ステロイドパルス療法が施行されたが,右下腿三頭筋の痙縮や前脛骨筋の筋力低下が残存し,歩行が不安定であった。【方法】FES は,歩行練習中に右前脛骨筋に対して5 日間実施した。評価は,介入前後でMAS や足クローヌス,6 分間歩行距離などを測定した。【結果】FES 介入前後でMASは2→1+,クローヌススコアは4 →1,6 分間歩行距離は80 m →150 m であった。【結論】前脛骨筋へのFES は,即時的に下腿三頭筋の痙縮を減弱させ,立脚期の反張膝や遊脚期での躓きが減少することで,歩行能力を向上させる可能性があることが示唆された。
著者
園田 茂 椿原 彰夫 田尻 寿子 猪狩 もとみ 沢 俊二 斎藤 正也 道免 和久 千野 直一
出版者
社団法人日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテ-ション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.p217-222, 1992-03
被引用文献数
8

入院リハビリテーションを施行した脳血管障害患者(入院時61名,退院時49名)を対象に,FIMおよびBarthe1 Index (BI)によるADL評価を行った、FIMの合計点とBIの合計点の間の回帰係数は0.95であり,FIMはBIと同程度に妥当な評価表である可能性が示唆された.BIの満点に対応する回帰直線上のFIM合計点は満点には至らず,FIMはADLが自立に近い患者におけるリハビリテーションの余地を示しやすいと考えられた.さらにFIMの各項目ごとに,それぞれを従属変数として重回帰分析を行った.独立変数にはFIMのコミュニケーションと社会的認知の項目の合計点(認知合計),Brunnstrom stage等を用いた.入院時のADLには認知合計の寄与が大きく,退院時には麻揮の寄与が大きかった.
著者
北風 浩平 川口 浩太郎 山田 哲 日高 正巳 和田 智弘 島田 憲二 福田 能啓 道免 和久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0258, 2012

【はじめに、目的】 膝に問題をかかえる患者の臨床所見の一つとして腸脛靭帯(iliotibial tract:以下ITT)の硬さが報告されている。ITTと外側広筋(vastus lateralis:以下VL)の硬さの関係について生体で検証した報告はなく、下腿内旋可動域(以下:下腿内旋)との関係を検証した報告もない。本研究では、健常男子大学生のITT・VLの組織硬度と下腿内旋を測定し、ITTの硬さならびに下腿内旋に影響を及ぼす因子について検討することを目的とした。【方法】 対象は、本研究の目的、測定方法に同意の得られた健常男子大学生12名(年齢21.4±1.0歳)の左右2膝、計24膝とした。また、対象者の膝関節に整形外科疾患、関節不安定性、関節弛緩性がないことを確認した。ITT、VLの硬さは組織硬度計OE-210(伊藤超短波株式会社)を用いて測定した。測定肢位は検査側下肢が上方の安静側臥位(膝関節伸展位)とし、測定部位をITT:大腿長遠位5.0%、VL:大腿長遠位67.1%とした。ITT、VLは触診及び超音波画像診断装置HS-2000(本多電子株式会社)を用いて確認した。測定中の筋収縮による影響を除外するため、表面筋電図計TELEMYO2400Tv2(Noraxon社)を用い、筋活動の有無を確認した。下腿内旋はMuaidi Q.Iら(2007)の方法を参考に下腿内旋測定装置(以下:装置)を作製し、他動運動を行った。大腿骨内・外側上顆、下腿近位1/3の脛骨粗面にマーカーを貼付し、大腿骨内・外側上顆マーカーを結ぶ線と脛骨粗面マーカー(棒状)のなす角度の内旋トルクを加える前後の差を下腿内旋角度と定義した。測定肢位は端坐位(両上肢腕組み、体幹・骨盤中間位、股関節屈曲90°・内外旋0°・内外転0°、膝関節屈曲90°、足関節底・背屈0°)とし、足関節内・外果を結ぶ線の中点を装置の回転軸上に設置し、距骨中間位で距骨関節面の前縁を結んだ線が装置に対して平行になるようにした。測定前にゴニオメーターを用いて測定肢位、口頭指示・触診により筋収縮の有無を確認し、2.548N/mの内旋トルクを代償運動・摩擦抵抗に注意して加えた。下腿回旋運動軸上1.37mの位置にデジタルカメラOptio M30(PENTAX社)を固定し、内旋トルクを加える前後に撮影を行った。膝関節周囲軟部組織の粘弾性の影響を考慮し内旋トルクを加え、装置の数値が一定になった後、 10秒間その位置を保ち撮影を行った。組織硬度は各部位3回測定し、3回の平均値を代表値とし、単位は%10Nとした。下腿内旋は測定画像を画像処理ソフトウェアImageJ1.34(NIH)に取り込み、角度を求めた。10回施行中、中間4回の平均値を代表値とした。統計処理として各々の代表値からITTとVL組織硬度の関係、下腿内旋とITT組織硬度の関係、下腿内旋とVL組織硬度の関係をPearsonの相関係数(r)を求め検証を行った。尚、有意水準は5%(p<0.05)とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には文書を用いて研究の趣旨を十分説明し、同意を得た。本研究は兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(第10025号)を受け、実施した。【結果】 ITT組織硬度は71.7±3.2%10N、VL組織硬度は61.4±3.3%10N、下腿内旋は1.5±1.6°であった。それぞれの結果からPearsonの相関係数(r)を求めた所、ITTとVL組織硬度はr=0.169(p=0.429)、下腿内旋とITT組織硬度はr=-0.028(p=0.448)、下腿内旋とVL組織硬度はr=-0.079(p=0.357)となり全て有意な相関関係は認められなかった。【考察】 本研究の結果より、健常男子大学生では、ITTの硬さに対するVLの硬さの影響は少なかった。ITTの硬さに影響を与える因子として、先行研究の結果から股関節周囲筋等の影響も考えられており、今後検討する必要がある。また、ITTならびにVLの硬さは、下腿内旋にもあまり影響を及ぼさないことが明らかとなった。下腿内旋に影響を与える因子としては、kwak S.Dら(2000)はITT以上に下腿に直接付着している外側ハムストリングスの影響が強いと報告しており、今後さらなる検討が必要である。本研究の限界として、除外基準を設定したものの、関節の硬さには個人差があるため、対象者によっては十分な内旋トルクが加えられなかったことも考えられる。今後、実際にITTやVLのタイトネスを抱えた対象者に対する検討、さらに動作時もしくはVLの筋収縮時に検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 臨床場面で様々な部位に痛みを誘発したり、大腿と下腿のニュートラルなアライメントを阻害する腸脛靭帯付近の硬さの原因を探ることで、迅速かつ効果的な理学療法アプローチの立案につながる。
著者
福岡 達之 吉川 直子 川阪 尚子 野崎 園子 寺山 修史 福田 能啓 道免 和久
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.Suppl.2, pp.S207-S214, 2010 (Released:2011-12-01)
参考文献数
20
被引用文献数
2

本研究の目的は、舌骨上筋群に対する筋力トレーニングの方法として、等尺性収縮による舌挙上運動の有用性を検討することである。対象は健常成人 10 名 (平均年齢 27.4 ± 3.8歳)、方法は各対象者の最大舌圧を測定した後、最大舌圧の 20%、40%、60%、80%の負荷強度で舌を挙上させた時の舌骨上筋群筋活動を表面筋電図で記録した。さらに、最大舌圧で舌を挙上させた時と頭部挙上、Mendelsohn 手技、挺舌について、各動作時の舌骨上筋群筋活動を記録した。舌骨上筋群筋活動は最大舌圧時の値を 100%として正規化し%RMS を用いて比較した。結果から、舌圧が上昇するに従い舌骨上筋群筋活動も増大を示し各強度で有意差を認めた。種々のトレーニング動作の比較では、最大舌圧による舌挙上時の舌骨上筋群筋活動が最も高く、頭部挙上 (34.8 ± 15.6%)、Mendelsohn 手技 (42.5 ± 14.8%)、挺舌 (43.0 ± 16.4%) と比べて有意差を認めた。以上より、等尺性収縮による舌挙上運動が、舌骨上筋群に対する筋力トレーニングの方法として有用となる可能性が示唆された。
著者
園田 茂 才藤 栄一 道免 和久 千野 直一 木村 彰男
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.273-278, 1993-04-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
11
被引用文献数
5 2

脳血管障害において,機能障害評価は必須である.しかし既存の評価法は十分とは言い難かった.そこでわれわれはBuffalo symposiumの勧告に準じて機能障害評価法Stroke Impairment Assessment Set (SIAS)を作成した.SIASは運動,腱反射,筋緊張,感覚,可動域,疼痛,体幹,高次脳,健側機能評価を含んでいる.このSIASを用いて発症4週以内の脳血管障害患者66名を評価し,クラスター分析にて群分けを行った.SIASの得点分布は弛緩性完全麻痺を示す得点以外はほぼ均等であった.またクラスター分析にて全般低下群,健側機能良好群など予後予測に有用と思われる4群に分けられた.以上よりSIASは簡便で有用な機能障害評価表と考えられた.
著者
小山 哲男 道免 和久
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
pp.20031, (Released:2020-10-22)
参考文献数
18
被引用文献数
2

目的:中枢神経系疾患(脳卒中,頭部外傷,神経変性疾患)は,リハビリテーション科の診療対象として患者数が多い.脳卒中,頭部外傷,神経変性疾患はすべて脳疾患の範疇であるが,そのリハビリテーション診療はそれぞれ異なる.今回,計量テキスト分析を用いて年次学術集会の抄録を解析し,これらのリハビリテーション診療の特徴を調査した.対象および方法:第56回日本リハビリテーション医学会学術集会(2019年)の公募演題1,424題を解析対象とした.脳卒中,頭部外傷,神経変性疾患の疾患群別にコーディングを行った.類似度の指標であるJaccard係数に基づき,それぞれの疾患群について関連語抽出を行った.結果:脳卒中群402題について,関連語の上位10個は「麻痺,回復期,入院,発症,病棟,機能,FIM,障害,改善,退院」(係数0.36~0.23)であった.頭部外傷群36題について,関連語の上位10個は「外傷,交通,高次,事故,転落,脳,就労,脳症,血腫,機関」であった(係数0.15~0.08).神経変性疾患群96題について,関連語の上位10個は「認知,MMSE,高齢,介護,在宅,施設,骨折,障害,Yahr,疾患」(係数0.18~0.09)であった.考察:年次学会抄録集を計量テキスト分析により解析することで,それぞれの疾患群のリハビリテーション診療の体系化が可能であった.
著者
打田 明 竹林 崇 花田 恵介 道免 和久
出版者
三輪書店
雑誌
作業療法ジャーナル (ISSN:09151354)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.895-899, 2014-07-15

Abstract:皮膚筋炎のリハでは急性期は筋への負荷を避け,CK値の正常化に合わせて運動負荷を漸増することが一般的といわれている.しかし,運動療法の開始時期や運動負荷量について一致した見解は得られていない.今回,亜急性期皮膚筋炎患者に対し,筋炎の再燃・増悪に配慮した筋力増強訓練とADL訓練を実施した.筋への各種運動負荷強度の設定としては,「筋疲労に対する主観的運動強度を修正Borg scale 3~4」,「翌日に筋疲労が残らない程度」,「CK値が上昇しない範囲」,といった基準を設定し,過用症候群を防止するよう努めた.その結果,無事に筋力増強とADLの拡大を認めた.亜急性期筋炎患者に対する訓練において,従来の一般的な指標に加えて,適宜過用症候群に対するリスク管理ができる主観的運動強度を用いた訓練を行う必要性を考える.
著者
松本 匠平 玉木 彰 和田 陽介 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.85-90, 2019-05-31 (Released:2019-06-28)
参考文献数
18

【目的】呼吸理学療法において咳嗽介助や咳嗽練習は重要であるが,臨床上体位が制限されることは多い.本研究では若年者および高齢者を対象に体位が咳嗽・呼吸機能に与える影響を,複数の測定項目を用いて多くの観点から検討した.【方法】健常若年男女20名,健常高齢男女6名を対象とし,ベッド上で座位,背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位の6つの姿勢を無作為にとらせ,肺活量,1秒量,咳嗽時最大流量,咳嗽時吸気量,呼吸筋力,咳嗽時の胸腹部の周径差,咳嗽加速度を算出した.【結果】若年者,高齢者ともに座位と比較すると臥位での咳嗽機能の数値は低下し,特に半腹臥位や腹臥位で低値を示した.【結論】半腹臥位や腹臥位では咳嗽機能が低下し,高齢者ではより顕著な低下を示した.端坐位の実施が困難である患者に対し,半腹臥位や腹臥位での介入は不利であるが,側臥位での介入は比較的有利である可能性が示唆された.
著者
千野 直一 園田 茂 道免 和久 才藤 栄一 木村 彰男
出版者
The Japanese Association of Rehabilitation Medicine
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.119-125, 1994-02-18 (Released:2009-10-28)
参考文献数
13
被引用文献数
81 168

脳血管障害による機能障害は多岐にわたっているために,多面的かつ簡便な機能評価法は少ない.ここに提唱するStroke Impairment Assessment Set (SIAS)は日常臨床で用いる理学・神経学的診断法を主体として,機能項目別に単一手技(single-task assessment)にて評価し,機能段階は0点から3,あるいは5点法とするものである.評価項目には運動機能,筋緊張,感覚,ROM,痛み,体幹,視空間認知,言語機能,健側肢機能を含む.また,レーダ・チャートにて脳卒中患者の各機能障害の程度を一瞥でとらえることもできる.統計学的に検者間の信頼性にも問題がなく,リハビリテーション医療での応用は広いものと考える.
著者
岡前 暁生 原田 和宏 岡田 誠 和田 智弘 和田 陽介 道免 和久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1375, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】介護者のレスパイト目的などで利用されるショートステイにおいて,介護負担感と関連している要介護者の神経精神症状(以下 NPS)の変化に関連する要因を明らかにすることは重要である。しかし,これまでショートステイでの各要因が要介護者のNPSに与える影響については十分に検討されていない。離床時間は廃用症候群の予防のためにも重要であるが,ショートステイ中に具体的にどの程度の離床時間が適切なのか明らかでない。そこで本研究の目的は,ショートステイ利用前後における要介護者のNPSの変化に関して,離床時間を含めた各要因との関連について検証することである。【方法】対象は介護老人保健施設のショートステイを利用した要介護者50名(男性23名,女性27名),平均年齢84.0±9.8歳である。除外基準は,調査期間中に急な体調の変化が生じた者,要介護者の普段の生活の様子を観察できる介護者がいない者,介護者から正確な情報を得ることが困難な者とした。データ収集は利用前の状況は入所2日前から前日の状況,利用後の状況は退所翌日から2日目の状況について,主介護者から回答を得た。評価項目は基本属性,ショートステイ利用状況,個別リハビリテーション実施加算の有無,NPSについてはThe Neuropsychiatric Inventory(以下 NPI)を改変したNPI重症度2日間評定版(以下 NPI 2d)を用いて調べた。また,離床時間は1日のうち座位および立位の姿勢を取っていた時間として,自宅の状況は主介護者から,施設の状況は介護スタッフから情報を得た。さらに施設の離床時間から自宅の離床時間を減じた値(以下 離床時間の差)を求めた。統計学的検定は,NPI 2dの利用前後の変化値から改善群と非改善群に分類し,各項目の差をMann-WhitneyのU検定,対応のないt検定,χ二乗検定を用いて比較し,有意差が認められた項目を独立変数,NPI 2dの変化を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。抽出された因子についてROC曲線により感度・特異度,カットオフ値を算出した。有意水準は5%とした。【結果】改善群(18名)と非改善群(32名)を比較した結果,利用前NPI 2d(p<0.01),施設の離床時間(p<0.05),離床時間の差(p<0.01)に有意差を認めた。ロジスティック回帰分析の結果,利用前NPI 2d(odds比=3.484,95%信頼区間1.287-9.431,p<0.05),離床時間の差(odds比=1.297,95%信頼区間1.004-1.676,p<0.05)が独立した有意な関連因子として抽出された。改善群と非改善群を分けるカットオフ値は利用前NPI 2dが1.5点(感度:0.824,特異度:0.727),離床時間の差が2.5時間(感度:0.647,特異度:0.879)であった。【結論】ショートステイ利用後の要介護者のNPSの改善には,利用前のNPS,施設と自宅の離床時間の差が関連していることが示された。今回の結果は,ショートステイにおける理学療法士の効果的な関わりの手がかりになる可能性がある。
著者
森下 慎一郎 瀬戸川 啓 中原 健次 太田 徹 眞渕 敏 海田 勝仁 小川 啓恭 児玉 典彦 道免 和久
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.122-123, 2011-04-20

【目的】造血幹細胞移植患者に対し無菌室内で運動療法を実施し,その効果と安全性を検討することである。【対象および方法】造血幹細胞移植を受けた患者30名(運動療法群15名,コントロール群15名)を対象とした。造血幹細胞生着の有無,生着までの日数,感染症,移植前後の身体機能を評価した。【結果】運動療法群,コントロール群共に造血幹細胞は全例生着し感染症も認めなかった。身体機能は移植前と比べると移植後,筋力,体重,6分間歩行は低下したものの,歩数は有意差がなく,逆に15名中6名は増大した。【結語】免疫機能が低下している期間中でも感染予防を徹底すれば,安全に運動療法を実施できた。しかしながら,移植前と比べると移植後は身体機能は低下していた。本研究では,運動療法群のみ身体機能評価を行っており,今後,運動療法の効果を検証するには無作為化比較試験の実施が必要であると考えられる。
著者
香川 真二 村上 仁之 前田 真依子 眞渕 敏 川上 寿一 道免 和久
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.B0148-B0148, 2007

【目的】本研究の目的は、動作の熟練した頚髄損傷(頚損)者の身体感についての語りから、理学療法について再考することである。<BR><BR>【方法】サイドトランスファーが獲得されているC6完全麻痺患者に自らの身体についての半構造化インタビューを行い、得られた患者の主観的側面を解釈し、考察した。尚、対象者には本研究の趣旨を説明し、学会発表への同意が得られている。<BR><BR>【結果】インタビュー結果の一部を示す。<BR>Th:「怪我した直後の身体ってどんな感じ?」Pt:「頚から下の感覚が急に鈍くなったから、足の位置とか手の位置がよくわからんようになったり、自分の体をどう認識していいかわからへんようになってました。初めて車椅子に座った時は、座ってる感覚なかったかな。車椅子にこう、くくりつけられているような感じ。今は、この感覚のない身体でも、微妙に感じがわかるんですよ。だから、この感じが座ってるっていう感じって。だから体で覚えるとかじゃなくて頭で覚えんとしゃーないっすね」<BR>Th:「リハビリして動作が上手になっていく時ってコツみたいなのがあるの?」Pt:「突然じゃなくって、間違えたり正解したりとかを繰り返すのも必要なんかなって。成功ばっかりじゃダメで失敗したからそこに何かをみつけていくみたいな。そんな風にして自分たちが頚髄損傷になってから今の状態があるんかなーって」<BR><BR>【考察】「自分はこうである」といった確信は、個人としての主体が現実の秩序を疑ったり、確かめたりしながら築きあげたものであり、自分自身の「客観」や「真理」を保障するものである。今回の結果から、頚損者では受傷直後に自己の「身体状況」における確信が破綻していることが明らかとなった。さらに、「車椅子にくくりつけられているような感じ」といった「知覚」も変貌していた。つまり、受傷前までほぼ一致してきた「身体状況」と「知覚」が一致しない状態に変化している。この不一致が動作獲得の阻害因子の一つになっていると考えられた。そして、動作が獲得されるためには失敗と成功の中に表れる「身体状況」と「知覚」の関係性から、何らかの秩序を見つけていく必要がある。理学療法においては、まず「身体状況」と「知覚」の一致を目的に運動療法を行わなければならない。そのためには、「身体状況」と「知覚」をひとつずつ確かめながら体験的に認識することが必要となる。具体的には、セラピストが言語により動作の内省を「問い」、患者は自己の身体で知覚されたことを言語で「表象」する。セラピストの支援で構造化されていく語りの中で、患者自身の体験が意味づけられ、「身体状況」と「知覚」の関係性を学習し、新たな身体における確信が再構築されると考えられる。<BR>