4 0 0 0 OA 失認症

著者
鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.216-221, 2009-06-30 (Released:2010-07-01)
参考文献数
10

患者の症状をみる臨床の技の基本は,観察から発症機序に関する仮説を立て,それをさらなる観察により検証していくということである。それに加えて,神経機能画像や神経生理学的検査の所見を得て,神経科学的知見を統合することにより,ヒトの高次脳機能の神経基盤について洞察を深めることができる。失認症の場合も系統的な診察を進めることにより,的確な診断に至ることができる。失認症は「1 つの感覚様式を通してのみ対象が認知できない」ことであり,他の感覚様式を使えば対象を容易に認知できる。この定義に基づいて失認症であることの確認をし,次に失認症の特徴を検討する。類似の症候の鑑別をするためには,常に障害の質的な面に注意を払い,一人一人の患者において障害の本質を見極める努力をすることが重要である。
著者
小川 七世 鈴木 匡子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.238-250, 2021-12-25 (Released:2022-01-12)
参考文献数
83

Gorno-Tempiniらによる原発性進行性失語(PPA)の臨床診断基準が発表されてから,今年で10年になる.診断基準という共通語ができたことで,PPAの論文数は急激に増加した.一方,この診断基準は発表当初から,PPAの診断をめぐって,またその先の3タイプの分類に関して問題点が指摘されてきた.特に3タイプのいずれにも属さない分類不能型や2タイプ以上にあてはまる混合型について様々な提案がなされている.その中でPPAからの独立性を確立しつつある原発性進行性発語失行やPPAの新タイプを中心に概説する.また,PPAの経過と背景疾患/病理所見についても述べる.
著者
鈴木 匡子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2+3, pp.83-89, 2009 (Released:2009-03-21)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

大脳の機能を知るためには,高次脳機能の系統的な診察が欠かせない.高次脳機能は背景症状と局所症状に分けて考えると理解しやすい.背景症状として,全般性注意障害,見当識障害,情動変化など全体像をとらえたうえで,個々の局所症状の診察に入る.局所症状としては,言語,計算,行為など主に左半球が司っている機能と,視空間機能,方向性注意など主に右半球が司っている機能について検討する.記憶は両半球が関わるが,障害側や部位により質的特徴がことなる.高次脳機能障害を的確に把握することは,大脳の機能低下の範囲や経時的変化を知るのに役立つ.さらに,ヒトでしか検討できない言語など複雑な機能の神経基盤を探る手がかりになる.
著者
小嶋 雅代 酒々井 眞澄 鈴木 匡 坡下 真大 早野 順一郎 村上 里奈 山本 美由紀 浅井 清文 浅井 大策 石川 大貴 木村 侑樹 明石 惠子 赤津 裕康 大原 弘隆 川出 義浩 木村 和哲
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.221-235, 2019

<p>背景 : 医療系学生による高齢者家庭訪問実習の初年度の教育効果の検証.</p><p>方法 : 実習に参加した医学部3年生5名, 高齢者5名によるフォーカスグループインタビューを基に自記式調査用紙を作成し, 医学部3年生, 高齢者の全参加者に調査協力を依頼した.</p><p>結果 : 学生84人と高齢者30人が協力に同意した. 学生の74%が「高齢者の暮らしぶりが分かった」と回答し, 高齢者の57%が「良い変化があった」と回答した. 93%の高齢者が本実習に満足だったのに対し, 学生の肯定的な意見は半数であった.</p><p>考察 : 学生が本実習に積極的に取り組むためには, 各自が明確な訪問への目的意識を持てるよう, 入念な事前準備の必要性が示された.</p>
著者
藤田 直希 鍋谷 伸子 梅村 紀匡 菊池 千草 鈴木 匡
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
pp.15-00277, (Released:2016-06-28)
参考文献数
7
被引用文献数
3

In this study, we took continuous measurements of hemoglobin A1c (HbA1c) levels and conducted lifestyle checks in three cases to determine if these parameters were effective in improving overall wellness. We selected three young men with relatively high HbA1c levels. During the 12-weeks study periods, we regularly measured each participant's HbA1c levels and monitored their lifestyle habits every two weeks at the community pharmacy once every 2 weeks using specific guidelines. The first participant, a 23-year-old man, had a HbA1c level of 5.7% at his first measurement. His HbA1c level decreased to 5.2% at the last measurement. The second participant, a 19-year-old man, had an initial HbA1c level of 5.7% and a final HbA1c level of 5.4%. The third participant was a 22-year-old man with an initial HbA1c level of 5.4%. His HbA1c level had decreased to 5.1% by the last measurement. The lifestyles of all three men improved with respect to exercise and diet. Based on these results, we surmise that continuous measurements of HbA1c and regular lifestyle checks may contribute to reducing the risk of lifestyle-related disease.
著者
鈴木 匡子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.33-37, 2018 (Released:2018-06-26)
参考文献数
14

【要旨】視覚情報は側頭葉に向かう腹側経路と頭頂葉に向かう背側経路で処理される。腹側経路は形態・色・質感などから対象を認知する際に働き,背側路は視覚情報を行為へ結びつける際に働く。両者はばらばらに機能しているわけではなく,相互に連携しながら働いているものの,その一部が損傷された場合には部位毎に特徴的な症状が出現する。腹側路の損傷では,形態,色,質感が独立して障害される場合があり,それぞれを処理する神経基盤は異なっている。背側路の損傷では,対象を見つけ,到達し、操作する各過程に障害が生じうる。代表的な症状としては,視覚性注意障害,道具の使用障害などがあり,視覚情報を行為に結びつける動的な過程の変容として捉えられる。このように,脳損傷患者の症状の観察から,視覚情報を意味や行為に結びつける過程を垣間見ることができるとともに,個々人における障害の本質を知って適切な対応につなげることができる。
著者
鈴木 匡子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.70-76, 2019-06-25 (Released:2019-07-04)
参考文献数
14
被引用文献数
1

注意機能は,覚醒状態を維持し,状況に応じて脳の機能をどこに優先的に振り分けて,効率的に処理を進めるかを調整するはたらきである.周囲の外的な環境や自己の内的な環境は時々刻々と変わるため,注意はダイナミックに変化する.脳損傷によって注意機能が障害されると,精神運動速度遅延,せん妄,半側空間無視,視覚性注意障害などの症状が出現する.臨床例の観察から,視覚性注意障害においては,視覚対象の動きや内容,課題などにより,視覚性注意の向けられる広がりや個数が大きく変動することが示された.注意機能は多くの認知機能の基盤となるものであり,その性質を理解しておくことは重要と考えられる.
著者
大石 如香 丹治 和世 斎藤 尚宏 鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.370-378, 2015-09-30 (Released:2017-01-03)
参考文献数
17

左頭頂葉梗塞によって生じた非流暢な伝導失語例の発話の特徴について検討した。症例は 81 歳右利き男性, 発話障害と右手指脱力で発症した。接近行為を伴った頻発する音韻性錯語や重度の復唱障害といった伝導失語でみられる特徴的な症状を認めた一方で, 発話速度の低下やプロソディ異常といった伝導失語では通常認められない非流暢性発話を呈した。発話に現れる音の誤り方について分析を行ったところ, 課題によらず音の歪みがみられること, 音韻性錯語の出現率に呼称と復唱で差がないこと, 子音の誤りは置換が多く, 転置が少ないことが明らかとなり, 中心前回損傷でみられる発話特徴に近似していた。病巣は左縁上回から中心後回の皮質下に及んでおり, 中心後回と中心前回は密な機能連合があることから, 中心後回の皮質下の損傷が本例の非流暢な発話に関連していることが示唆された。
著者
鈴木 匡子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.222-230, 1996-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
9

喚語困難は,語産生,語選択,語義の各過程およびこれらの離断によるものの4種類に分けられる.喚語困難の種類と臨床的な失語症の分類とはほぼ対応しており,それぞれの喚語困難の解剖学的基盤は異なっていると考えられる.さらにPETによる正常人の研究から,呼称をする対象のカテゴリーによって脳の活動部位が異なることが報告されている.我々の施行したカテゴリー別視覚性呼称課題では,失語群で有意に成績が低下していたが,身体部位と野菜では有意差がなかった.語想起課題では,(1)流暢性失語と非流暢性失語で有意差がない,(2)左前頭葉病変群は左前頭葉病変のない群に比べて,身体部位,甘いもの以外で成績が低下していた.また我々の経験した語義失語例では,喚語困難と単語の聴覚的理解障害がみられたが,身体部位の呼称と指示は比較的保たれていた.単語の成立基盤はカテゴリーにより異なるため解離性の喚語困難が生じると考えられる.
著者
小川 七世 菅野 重範 成田 渉 鈴木 匡子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.152-163, 2021-09-25 (Released:2021-10-13)
参考文献数
64
被引用文献数
1

LPAの臨床診断基準が2011年に発表されてから約10年が経った.この間,LPAに関する英語論文は400本を越える.しかし中核症状に喚語困難と復唱障害という失語症ならば多くに認められる症状が挙げられていることもあり,臨床の現場においてLPAは,特徴的な言語症状を見出しづらく,いまだにわかりにくい概念であるといえよう.よって本論では,まず日本語話者の既報告からLPAの言語症状の特徴を整理して示す.また経過とともに出現してくる,言語症状および言語以外の症状についても言及する.最後に,最近の話題であるLPAとDLBの関係や,新たな診断基準に向けた動きについても紹介する.
著者
鈴木 匡子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.300-303, 2004-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
22
被引用文献数
1

発語失行の責任病巣については長年議論されてきたが, どの部位が最も重要かに関しては異論も多い.これまで報告された左半球病巣による純粋発語失行例21例をまとめると, 1例を除き全例で中心前回下部が病巣に含まれていた.一方, 失語症で発語失行の要素を含む症例の検討では島前部を重視する報告が出された.われわれは, 言語優位半球病巣をもつ症例において構音を含む言語機能および行為について検討した.また, 脳腫瘍例においては皮質電気刺激による術中言語マッピングを施行した.その結果, 発語失行の責任病巣としては言語優位半球中心前回下部が最も重要で, 島前部は必須の領域ではないことが示された.術中マッピングでは, 中心前回下部は口舌の運動野やnegative motor areaと同定される例が多かった.以上より, 言語優位半球中心前回下部は高次の運動コントロールに密接に関係しつつ, “言語野”として働いていると推定された.
著者
大石 如香 永沢 光 鈴木 匡子
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.3-9, 2020-03-25 (Released:2020-04-15)
参考文献数
20

本邦における漢字と仮名の失読および失書に関する研究の歴史的経緯を述べ,日本語の文字特性を基盤とした読み書き障害の病態メカニズムの概要について述べた.次に,受賞論文で報告した仮名一文字と仮名単語の読みが乖離した左後大脳動脈領域梗塞による失読および失書例の神経心理学的研究を紹介した.最後に,日本語の読み書き障害のリハビリテーションにおける神経心理学的意義について述べた.
著者
近藤 文雄 鈴木 匡弘
出版者
一般社団法人 日本質量分析学会
雑誌
Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan (ISSN:13408097)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.114-118, 2003 (Released:2007-10-16)
参考文献数
19
被引用文献数
5 3

During the past 20 years, outbreaks of enterohemorrhagic Escherichia coli (EHEC) have been increasing worldwide and have been recognized as a potential health concern. Vero toxins produced by EHEC seem to be the most common cause of hemolytic uremic syndrome. Rapid diagnosis of EHEC infection is important to prevent the expansion of infection. Diagnosis is carried out by both isolation of EHEC and detection of Vero toxins in fecal extracts or fecal cultures. This review describes briefly about the current knowledge of the EHEC and Vero toxins, and about the determination methods for Vero toxins. The attempt to identify Vero toxins by electrospray ionization-liquid chromatography/mass spectrometry is also discussed.
著者
菊池 千草 堀 英生 前田 徹 松永 民秀 鈴木 匡
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.131, no.3, pp.477-483, 2011-03-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

One of the Specific Behavioral Objectives (SBOs) of pharmaceutical education model-core curriculum is as follows: “Understand patient's state of mind and be sensitive to patient's feelings”. We performed learning through simulation of diabetes drug therapy as a means to achieve the objective and evaluated the educational effects of the learning. The simulation was performed and a questionnaire survey was conducted among the 4th-year students of the 6-year curriculum before and after simulation. The score of “level of understanding patient's feelings” was significantly increased after simulation (p<0.001). In addition, the score tended to be associated (R2=0.192) with an increased score in two factors that affect patients' self-care action: “Consciousness of diabetes mellitus” (β=0.251, p=0.062) and “Time and effort for drug therapy” (β=0.248, p=0.065). The main topics of discussion about the simulation included “Lack of sense of critical illness”, “Lifestyle”, “Dose regimen” and “Necessity of support from patients' family and others close to them”. Therefore, the learning through simulation diabetes drug therapy was effective to understand patients' states of mind because students learned the importance of some factors affecting self-care action.
著者
菊池 千草 松永 民秀 鈴木 匡
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.135, no.6, pp.809-820, 2015-06-01 (Released:2015-06-01)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

Pharmacy school students were trained in a program simulating medication administration and giving adherence instructions. Following the training, the educational effects were evaluated. Students were separated into two groups. One group of students played the role of pharmacists and instructed simulated patients on medication adherence. Another group of students played the role of patients receiving simulated drug therapy; they were instructed on medication adherence by the students playing the role of pharmacists. The educational effects were evaluated using a questionnaire. The scores for “recognition of factors that influence medication adherence” tended to increase after the simulation, and they increased significantly after practical training. The scores for “self-evaluation of technique for instructing patients on medication adherence” increased significantly after the simulation, and they increased even more after practical training. The students' understanding of the effects on patients who were being instructed also increased significantly after the simulation, and these changes were maintained after practical training. In particular, students became more aware of the influence of pharmacists' attitudes. In practical training, the simulation training was helpful for bedside practice at hospital pharmacies and over-the-counter service at community pharmacies. Thus, the use of role play and simulated patients was an effective method for training pharmacy students to instruct patients on medication adherence.
著者
齊藤 将之 前田 徹 市原 利彦 岩尾 岳洋 鈴木 匡
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.140, no.10, pp.1269-1274, 2020-10-01 (Released:2020-10-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1

We previously reported that tolvaptan may influence warfarin pharmacodynamics in vivo; however, the mechanism responsible for this influence was not clear. In this study, we investigated the drug-drug interactions between warfarin and tolvaptan by measuring warfarin blood concentrations in 18 patients who received warfarin therapy and in 24 who received warfarin+tolvaptan therapy. The free warfarin concentrations significantly increased in patients who were also receiving oral tolvaptan (p=0.04). In vitro albumin-binding experiments showed that the free warfarin concentrations significantly increased with the addition of tolvaptan, in a dose-dependent manner, through albumin-binding substitution (approximately 2.5 times). Both clinical and in vitro data showed that tolvaptan increased the unbound warfarin serum concentration. The prothrombin time-international normalized ratio (PT-INR) tended to increase within 2 weeks when tolvaptan was added at clinically used doses (p=0.14). Special attention is warranted in cases with a serum tolvaptan concentration of ≥125 ng/mL (≥7.5 mg/d) for at least 2 weeks following oral tolvaptan administration.
著者
大石 如香 今村 徹 丸田 忠雄 鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.476-483, 2016-12-31 (Released:2018-01-05)
参考文献数
23

左被殻出血後に慢性期まで記号素性錯語を呈した流暢性失語例において, 記号素性錯語の特徴について検討した。症例は 64 歳右利き女性で, 意識障害はなく, 非言語的な認知機能は保たれていた。自発話や呼称において豊富な錯語を示し, 特に呼称における記号素性錯語が特徴的だった。記号素性錯語は発症 1 年後にも認められ, 保続型と非保続型に分類できた。保続型はすでに表出された記号素やその意味的関連語を含む記号素性錯語で, 目標語を含まないものが多かった。一方, 非保続型は目標語や目標語の意味的関連語を含む記号素性錯語が多かった。経時的には保続型記号素性錯語が徐々に減少していく傾向があった。本例にみられた記号素性錯語は, 意味や運動など種々のレベルでの保続や, 目標語に関連して活性化された語の抑制障害など多様な機序により生じていることが示唆された。記号素性錯語の出現には左基底核損傷が関与している可能性があると考えられた。
著者
赤津 裕康 土井 愛美 正木 克由規 田中 創始 兼松 孝好 小嶋 雅代 明石 惠子 岩田 彰 鈴木 匡 木村 和哲 浅井 清文 間辺 利江 大原 隆弘 竹尾 淳 川出 義浩 木村 雄子 近藤 麻央 伊藤 禎芳 長野 弘季 野崎 耀志郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日老医誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.358-366, 2018
被引用文献数
2

<p><b>目的:</b>今後の超高齢社会を乗り切っていく重要な1つの方策は意識改革である.その要になるのはヘルスケア・メディケーションを行いつつ自らの最終ゴールを見つめる,即ちアドバンスケアプランニング(Advance care planning:以下ACPと略す)と事前指示(Advance directive:以下Adと略す)を行うことである.また,パーソナルヘルスレコード(Personal Health Record:以下PHRと略す)の匿名開示,病理解剖はあまり言及されていない.しかし,死後のことも事前に考え,意向を聞いておく環境整備も必要である.この死後対応を含めたAd/ACPの啓発・浸透が国民の意識改革にもなっていく.本研究は地域住民の意識をアンケート形式で把握し,講演(啓発活動)での変容を捉えることを目的とした.<b>方法:</b>高齢化の進む大都市旧ニュータウン住民へAd/ACP啓発講演を行い,その前後での意識調査を行った.意識調査はアンケートでの自記式4択を主体に末期認知症になった状況を主に想定した6大項目,38問を設けた.<b>結果:</b>参加者は35名(男7名,女22名)で40歳代~80代以上で70歳代が25名であった.途中退出者が数名発生したため,前後変容に関しては,統計的解析は不可能であったが意識変容の傾向は得られた.特に死後の対応(献体)に関しては有意差をもった意識変化を認めた.また蘇生・延命の希望者数と救急搬送希望者数に乖離を認めた.<b>結論:</b>医療行為への希望・不安はその情報量に加え,置かれた状況でも変容する.今回の意識調査で,死後の社会貢献意識に講演前後で変化が観られた.また蘇生・延命と救急搬送は別物と捉える地域住民が多い点も明らかとなった.今後のAd/ACPの普及,意識改革では,この点を念頭においた地道な活動と医療・介護者,地域の方々,家族,本人との連携が必要である.</p>
著者
鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.331-338, 2018-09-30 (Released:2019-10-02)
参考文献数
5

視空間認知障害はよくみられる症候であるが, 失語のように体系化されたリハビリテーションがなく, 長期経過についての報告も稀である。そこで右優位の両側頭頂葉損傷により多彩な視空間認知機能障害を呈した 1 例の 10 年間の経過を観察した。視覚性即時記憶の低下, 視覚性注意の障害は 10 年間大きな改善はみられなかった。一方, 線分の傾き判断や模写などの構成機能の成績は徐々に良くなったが, 体性感覚や言語化など他の機能により補完している様子が観察された。日常生活では, 広い空間での視空間認知障害, 自分が動く際の視覚と他感覚の統合などについての障害が軽度残存していた。このように症状により回復しやすさに差はあるものの, 両側頭頂葉損傷では視空間認知障害が長期に残存する。患者が症状を理解し, それに対応して工夫していけるよう支援し続けることが大切である。