著者
青木 賢人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.249, 2009

I 金沢大学における自然災害対応の枠組み演者の所属する金沢大学では常設の災害対応組織が構築されていない状況下で,2007年3月25日に能登半島地震が発生し,県下の災害に対し全学的な対応を求められることになった.発災当日より,本学のいくつかの災害調査関連の教員グループが自発的に現地調査を開始したが,大学としての正式な組織の発足以前から当該教員間では相互に連絡が取られ,動向が相互に把握されている「緩やかな連携」が成立していた.これは,能登半島地震が発生する以前の2005年より,金沢大学の理学系・工学系・文系教員のうち,災害関連調査を行う教員によって「白山火山勉強会」が設立され,定期的な情報交換が行われていたためである.本学教員による能登半島地震関連調査は,大学の正式組織に整理統合されていくが,通常時の「緩やかな連携」が発災時において重要な役割を果たしたことは,他大学における防災体制構築のヒントにもなるのではないだろうか.II「白山火山勉強会」の設立と展開白山は金沢市の南方約45kmに位置する活火山である.1659年の噴火記録を最後に比較的静穏な状況にあるが,本学名誉教授(元文学部地理学教室)で火山地形学の守屋以智夫氏による一連の研究(守屋,1984など)によって,最近数千年間は100~150年程度の静穏期と300年程度の活動期を繰り返しており,近々活動期に入ることが予想されている.しかし,白山の噴火を前提とした産官学の連携や,発災時の連絡・協力体制,ハザードマップの作製などの事前対策は十分に構築されていない状態であった.そうした中,2005年に白山山頂直下で顕著な群発地震が観測され,噴火の可能性が危惧された.この活動を受け,群発地震の観測成果を速やかに共有することに加え,発災時の協力体制を事前に構築することを目的に,前述の守屋以智夫氏と,自然科学研究科助教授で実際に地震観測を行っていた平松良浩氏を中心に,文系学部(文学部・教育学部)を含む学内の関連教員および,石川県・白山市などの自治体職員,金沢地方気象台,建設コンサルティング会社による「白山火山勉強会(以下,勉強会)」が設立され,演者も早い段階から参加することとなった.III 2007年能登半島地震発生時の災害対応体制2007年能登半島地震は3月25日という,春季休業中の日曜日に発生したこともあり,教員・学生とも多くが大学を不在にしていた.演者も金沢を離れており,直接的な対応をとることが難しかった.こうした状況下で,文・理・工の各領域の災害調査関連教員の所在確認と調査動向の相互把握が勉強会のネットワークを通じて行われ,スムースに情報交換が進んだ.演者が金沢を離れている間にも,勉強会参加教員の調査状況や成果はもちろん,それ以外の教員らによる成果が勉強会のネットワークを通じて提供され,その後の調査計画の立案に大いに役立った.その後,各教員の調査・研究は4月5日に発足した学長直轄の組織である「金沢大学2007年能登半島地震学術調査部会(以下,調査部会)」に集約されるが,この12日間の初動時に,特に文・理をまたぐ情報交換に勉強会が果たした役割は大きかった.また,勉強会として文・理の協働が既に取られていたことが,正式な組織立ち上げの素地となったともいえる.調査部会の発足後は,情報交換,成果の共有・発信,自治体との連携などが調査部会を核として行われている.また,自治体,消防,自主防災組織,一般市民に対する情報提供・防災教育などが,調査部会に参加した各教員によって行われている.IV「緩やかな連携」が果たした役割現在,勉強会は地震調査から離れ,本来の火山を中心とした防災に関する勉強会として調査部会とは独立に活動を継続している.能登半島地震の発生に際して,勉強会が果たした役割を再整理すると,災害発生以前から「学内にいる災害調査関連教員の把握(人材の発掘)とFace to Faceの関係構築が,教員個人レベルにおいてボトムアップ的になされていた」ということを挙げられる.一方,大学の組織である調査部会は,予算措置(とオブリゲーション)を伴うトップダウン型の組織であり,形骸的である側面も否めない.また,正式な組織は公的である反面,その設置までのステップや,多くの教員や様々な学外組織が参加するためには制約も多く,ハードルが高い.発災時において,混乱した状況下で調査組織を立ち上げ,効果的に運用するためには事前の準備が不可欠である.本学のように公的な組織が未整備な大学にあっては,その組織の発足までに多くの時間が費やされ,最も重要である初動時の調査が混乱の元で進められる可能性があった.その意味で,勉強会を通じて「緩やかな連携」が構築されていたことは重要であったといえよう.
著者
青木 健
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.653-674, 2007

ゾロアスター教研究の資料には、六-一〇世紀に執筆された内部資料であるパフラヴィー語文献と、その他の言語による外部資料がある。外部資料の研究としては、ギリシア語・ラテン語、シリア語、アルメニア語、漢文、近世ヨーロッパ諸語などの資料ごとに纏まったコーパスがあるものの、アラビア語資料を用いた本格的な研究は依然としてなされていない。本論文は、アラビア語資料を完全に網羅した訳ではないが、ある程度の資料に当たって、アラビア語資料によるゾロアスター教研究の方向性を示した試論である。暫定的な結論として、サーサーン王朝時代のペルシア帝国領内のゾロアスター教は一枚岩ではなく、各地方ごとのゾロアスター教が存在したこと、パフラヴィー語文献は、そのうちのイラン高原南部のゾロアスター教を代表するに過ぎないこと、メソポタミアやイラン高原東部のゾロアスター教の実態は、却ってアラビア語資料から類推できることが判明した。
著者
岡田 崇之 杉田 典子 大塚 明美 青木 由香 高橋 昌之 吉江 弘正
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.344-352, 2013-08-31 (Released:2017-04-28)

目的:歯周炎に対しスケーリング・ルートプレーニングを含む動的治療を行った後に残存したポケットに歯周病原細菌または炎症の継続が認められる場合,さらなる進行のリスクが高い.セルフケアとして,ブラッシングに薬剤を含む歯磨剤を併用し殺菌・消炎を図ることは,歯周炎の進行抑制に効果的と考えられる.歯磨剤ジェルコートFは,0.05%塩酸クロルヘキシジン,β-グリチルレチン酸,フッ化ナトリウム,ポリリン酸ナトリウムを含有している.今回,歯周治療後の残存歯周ポケットに対するジェルコートFの効果を調べた.材料と方法:対象は20歯以上を有する男女で,慢性歯周炎に対しスケーリング・ルートプレーニングを含む動的治療終了後1カ月以上経過し,2歯以上に6〜7mmの残存ポケットを有する20名とした.無作為化二重盲検法にて2群に分け実験群はジェルコートFを,コントロール群は塩酸クロルヘキシジン,β-グリチルレチン酸を除いたコントロール剤を使用した.残存ポケットを有する1歯を歯肉溝滲出液(GCF),ほかの1歯を細菌検査対象とし,GCF中のAST, ALT,縁下プラーク中のPorphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Tannerella forsythiaおよびTreponema denticolaを測定した.歯周病検査を行った1週後(0w)にGCFと縁下プラークを採取し,次いでポケット内に歯磨剤を注入した.患者は毎日歯磨剤を使用してブラッシングを行い,就寝前にリテーナーにて歯磨剤を10分間適用した.4週後,同様の検査を行い結果を解析した.成績:実験群,コントロール群とも有害事象は認められなかった.ベースラインにおいて年齢,男女比,ポケット深さ,細菌レベル,GCF成分の差はなかった.術前術後比較では,実験群のみ対象歯のPlaque Index (PlI)とGingival Index (GI)が減少した.それ以外に有意な変化はなかった.また,術前術後の変化量に群間差はなかった.年齢・性別の影響を調整した線形回帰分析では,GIのみジェルコートFの効果が認められた.結論:リテーナーとブラッシングを併用してジェルコートFを4週間使用した結果,歯周治療後の残存ポケットの歯周病原細菌レベルおよび歯肉溝滲出液成分に有意な変化は認められなかった.しかし,臨床所見における縁上プラークおよび歯肉の炎症を減少させる可能性が示唆された.
著者
青木 健
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.837-860, 2009

本論文は、現在までのザラスシュトラ研究の回顧から出発する。近年の研究によって、ザラスシュトラ観には、時代と共に変遷があることが明らかにされた。特に、一〇〜一三世紀に、ザラスシュトラ観が転回したことが確認されている。だが、この時期はゾロアスター教の内在的な文献を欠き、シリア語・アラビア語文献に頼って研究を進めなくてはならない。而して、二〇世紀半ば以降、この時期のイスマーイール派ペルシア学派文献の校訂出版が相次いだ。そこで、本論文ではナサフィー・ラーズィー論争に関するアラビア語テキストを主に、ザラスシュトラ観が「神官から預言者へ」変わる過程を検証する。最後に、ラーズィーがシリア教会に倣ってザラスシュトラをセム的一神教の異端と位置付けようとしたのに対し、ナサフィーは彼をセム的一神教の預言者と捉えようとして論争した経緯を明らかにする。結局、後者がイスラーム世界での共通認識になってゆくのである。
著者
早川 泰弘 古庄 浩明 青木 繁夫 オタベック アリプトジャノフ
雑誌
保存科学 = Science for conservation
巻号頁・発行日
no.52, pp.59-70, 2013-03-26

Republic of Uzbekistan is located approximately in the center of Central Asia and has many cultural heritage sites along the ancient Silk Road. The largest museum in Tashkent, the capital of Uzbekistan, is The State Museum of History of Uzbekistan. The Museum, belonging to the Academy of Science of Uzbekistan, and the Japan Foundation have been promoting projects on the protection of cultural heritage and development of human resources in Uzbekistan since 2008. As part of these projects, the National Research Institute for Cultural Properties,Tokyo conducted lectures and practical investigation on the research of cultural property using a hand-held X-ray fluorescence spectrometer in The State Museum of History of Uzbekistan in September 2012. Material analysis was conducted of several statue objects excavated from Fayaztepa ruins (southern Uzbekistan,1th-4th century),fragments of wall paintings from Afrasiab ruins (Samarkand, 7th-8th century) and Varahsha ruins (Bukhara, 6th-7th century) that are on display in the Museum. Gypsum was primarily used in most of the objects for coloring white. However, lead white was found for coloring bright white in the fragments of wall paintings excavated from Afrasiab and Varahsha ruins. Red materials including four types were identified: iron oxide red, minium, cinnabar, and a combination of cinnabar and minium. It was found that yellow material was only yellow ochre. There were objects from which trace amount of arsenic was detected. These might be derived from realgar with orange color or orpiment with yellow color. Only lapis lazuli is found as blue coloring material. Black material was considered to be carbon black. Furthermore, it was found that high purity gold leaf was used for decorating the surface of statue objects. Green coloring material was not found among the objects investigated. The present investigation was performed on only a few objects collected in The State Museum of History of Uzbekistan. However, it is certain that useful information about coloring materials was obtained from the investigation using only X-ray fluorescence analysis. It is hoped that preservation of cultural heritage and development of human resources of Uzbekistan will progress well in the future. Furthermore, it is expected that scientific research for understanding materials and production techniques of objects will be carried out systematically, and data obtained accumulated steadily.
著者
矢野 悠久子 上田 愼治エジウソン 寺内 文雄 青木 弘行
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.59, 2012

牛乳を原料としたプラスチックを家庭でも楽しめる造形材料として、生成方法と造形表現の可能性を検討した。牛乳に含まれるタンパク質であるカゼインを原料としたカゼイン樹脂は一般家庭でも作ることができる。同じく牛乳に含まれるタンパク質であるホエイプロテインからもプラスチックの生成が可能である。2つのプラスチックは食べられるもののみでできることから子供でも安心して扱える。まずこれらのプラスチックについて文献に基づいた生成実験を行い、さらに材料の混合比や加熱方法、膨張剤・食用色素の添加など条件を変えた実験を行った。カゼイン樹脂は皺ができ凸凹した見ためと感触が、ホエイプロテインを使ったプラスチックはツヤがありなめらかな感触が特徴的なものになった。また小学生に制作を体験してもらい、フィードバックを得た。これを基にそれぞれのプラスチックの特徴を活かした造形作品例を制作した。小学生を対象にしたワークショップや上級生が難しい作業をサポートできる縦割り活動などへの取り入れが期待できる。
著者
星野 浩司 井上 友子 佐藤 佳代 青木 幹太 佐藤 慈 荒巻 大樹
出版者
日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集
巻号頁・発行日
vol.62, 2015

本研究では、本学の美術学科と福岡県八女市が取り組む江戸時代より八女市にて伝統的に継承される「八女福島燈籠人形」舞台背景幕の修復・制作事業を準備段階から取材・撮影し、ドキュメンタリー番組として制作する産学連携型のキャリア教育・専門教育を目的とした人材育成教育プログラムの開発を行った。さらに、470年余の歴史と伝統を持つ、家具生産高日本一を誇る木工の産地である大川の家具制作会社と本学のデザイン学科との産学連携を企画段階から取材し、ドキュメンタリー映像と完成製品のプロモーション映像制作を行った。これらの取組みの中で、学生はドキュメンタリー番組の制作やプロモーション映像制作を通して、地域の人々が古来より守り続ける伝統文化と、永きに渡り引き継がれる職人文化を取材することで、地域の人々が持ち続ける精神性と誇りを深く理解する。また、授業で学んだ知識や技術の応用として学外での映像制作過程の中で、問題の解決や渉外交渉を通し、主体性を持った行動力とコミュニケーション能力の育成を促す。
著者
青木 隆浩
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.245-264, 2010-03-15

近年,世界遺産の制度に「文化的景観」という枠組みが設けられた。この制度は,文化遺産と自然遺産の中間に位置し,かつ広い地域を保護するものである。その枠組みは曖昧であるが,一方であらゆるタイプの景観を文化財に選定する可能性を持っている。ただし,日本では文化的景観として,まず農林水産業に関連する景観が選定された。なぜなら,それが文化財として明らかに新規の分野であったからである。だが,農林水産業に関連する景観は,大半が私有地であり,公共の財産として保護するのに適していない。また,それは広域であるため,観光資源にも向いていない。本稿では,日本ではじめて重要文化的景観に選定された滋賀県近江八幡市の「近江八幡の水郷」と,同県高島市の「高島市海津・西浜・知内の水辺景観」をおもな事例として,この制度の現状と諸問題を明らかにした。
著者
青木 滉一郎 小松 昭吾 鄭 宏杰 加藤 千恵子
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
年次大会
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>There are some reports about effects of traditional dances in each country which have been utilized for health program mainly for elderly. However, few studies tried to organize knowledge about effects of the traditional dances on mind and body which was obtained through previous studies and practices. Therefore, this study gathered text data about case examples of utilizing the traditional dances for physical and mental health maintenance and promotion mainly from academic papers. Keywords characterizing the effects of the traditional dances were identified by morphological analysis on the text data and extracting frequent words. In addition, the effects were classified into some categories by data clustering based on appearance patterns of the keywords. Considering the results of text mining and various characteristics such as body movements and expressions of each traditional dance, influencing factors on psychological and physical effects were discussed.</p>