著者
高槻 成紀 岩田 翠 平泉 秀樹 平吹 喜彦
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.155-165, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
38
被引用文献数
5

これまで知られていなかった東北地方海岸のタヌキの食性を宮城県仙台市宮城区岡田南蒲生と岩沼市蒲崎寺島のタヌキを例に初めて明らかにした。このタヌキは2011 年3 月の東北地方太平洋沖地震・津波後に回復した個体群である。南蒲生では防潮堤建造、盛土などの復興工事がおこなわれ、生息環境が二重に改変されたが、寺島では工事は小規模であった。両集団とも海岸にすむタヌキであるが、魚類、貝類、カニ、海藻などの海の生物には依存的ではなかった。ただしテリハノイバラ、ドクウツギなど海岸に多く、津波後も生き延びた低木類の果実や、被災後3 年ほどの期間に侵入したヨウシュヤマゴボウなどの果実をよく利用した。復興工事によって大きく環境改変を受けた南蒲生において人工物の利用度が高く、自然の動植物の利用が少なかったことは、環境劣化の可能性を示唆する。また夏には昆虫、秋には果実・種子、冬には哺乳類が増加するなどの点は、これまでほかの場所で調べられたタヌキの食性と共通であることもわかった。本研究は津波後の保全、復旧事業において、動物を軸に健全な食物網や海岸エコトーンを再生させる配慮が必要であることを示唆した。
著者
高槻 成紀 鹿股 幸喜 鈴木 和男
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.435-439, 1981-12-30 (Released:2017-04-12)
被引用文献数
1

Defecation rates, dry weights and numbers of pellets of Sika deer (Cervus nippon) and Japanese serow (Capricornis crispus) were determined at the Sendai Yagiyama Zoological Park for one week each in April, August, October of 1979 and in February or March of 1980. Defecation rates were greater in the Sika deer (11-13 times/day) than in the Japanese serow (2.2-4.6 times/day), while the fecal amounts per defecation were smaller in the deer (c. 19-23 gr, 81-95 pellets/def.) than in the serow (c. 37-64 gr, 200-360 pellets/def.). The daily amounts of defecation were rather greater in the deer (c. 210-280 gr, 880-1200 pellets/day) than in the serow (c. 130-210 gr, 810-980 pellets/day). Slight differences were found in the seasonal changes of the defecation rates and daily fecal amounts for the deer, however for the serow these rate and amount increased in the fall.
著者
高槻 成紀
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.19/20, pp.139-147, 2010-03-31
著者
森永 由紀 ヤダムジャブ プレブドルジ バーサンディ エルデネツェツェグ 高槻 成紀 石井 智美 尾崎 孝宏 篠田 雅人 ツェレンプレブ バトユン
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.128, 2014 (Released:2014-10-01)

モンゴル高原では数千年来遊牧が生業として営まれるが、そこには遊牧に関する様々な伝統知識があり、寒冷・乾燥フロンティアといえる厳しい自然条件の下での土地利用を支えてきたと考えられる。牧民の伝統的な食生活には、乳の豊な夏には乳製品が、寒い冬にはカロリーの高い肉製品が主に摂取されるという季節的特徴がある。乳製品の中でも代表的といわれる馬乳酒は、馬の生乳を発酵させて作られ、アルコール度が数%と低く、産地では幼児も含めて老若男女が毎日大量に飲む。夏場は食事をとらずに馬乳酒だけで過ごす人もいるほど貴重な栄養源で、多くの薬効も語られる。今も自家生産され続け、年中行事にも用いられる馬乳酒には重要な文化遺産としての意味もあるが、その伝統的製法は保存しないとすたれる危険があり、記録、検証することには高い意義がある。本研究では、名産地の馬乳酒製造者のゲルに滞在して、製造期間である夏に製造方法を記録し、関連する要素の観察、観測を行った。馬乳酒の質は原材料となる馬乳と、それを発酵させる技術(イースト、容器、温度管理など)で決まると考えられる。そこで①馬の飼養と搾乳、②馬乳の発酵方法を調査した。 調査の概要は以下のとおりである。調査地:モンゴル国北部ボルガン県、モゴッド郡にある遊牧民N氏(52歳)と妻U氏(51歳)のゲル 期間:2013年6月15日~9月22日観測項目:上記の①に対応し馬群およびその環境の観察・観測(GPSによる馬の移動観察、体重測定、牧地の植生調査、ゲル近傍および内部の気象観測)、搾乳の記録観察、②に対応し馬乳酒の成分調査、発酵方法の聞き取り、製造過程の撮影などを、モンゴル国立気象水文環境研究所の協力のもとで行った。馬乳酒の日々の搾乳量を記録した。N氏のゲルでは7月11日に開催されるナーダムという夏祭りに首都で売るために6月25日の開始後約2週間は精力的に製造に励み、約250リットルを販売した。その後一時製造のペースが下がったが、8月下旬から再び搾乳回数を増やして、秋には作った馬乳酒のうち約1トンを冬場の自家消費のために冷凍保存した。期間中の製造量は合計5.1トンだった。今後は、データ整理をすすめ、馬乳酒製造法とそれをとりまく環境の記録を残す。また、気象データの解析により、気象条件と馬の行動、搾乳量、馬乳酒の発酵(温度、pH,、アルコール度など)の関係の解析、および冬営地の気象条件の考察などを行い、馬乳酒製造と気候の関係を明らかにしていく。
著者
高槻 成紀
出版者
THE MAMMAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
哺乳動物学雑誌: The Journal of the Mammalogical Society of Japan (ISSN:05460670)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.183-191, 1983
被引用文献数
3

1973年10月から1977年10月まで, 金華山島において, シカによる群落に対する選択性を調べた。<BR>1.神社周辺のシバ群落を利用するシカは餌づけされており, 密度は800頭/km<SUP>2</SUP>にも達する。<BR>2.これ以外の野生・半野生状態のシカによる群落に対する選択性は, アズマネザサ群落とシバ群落で最も大きく, ススキ群落やワラビ群落ではその半分から3分の1程度であった。イヌシデ群落やブナ群落などの落葉広葉樹林ではさらに小さく, モミ群落, クロマツ群落, スギ群落などの針葉樹林で最も小さかった。<BR>3.この結果とその季節変化から, シカのハビタット選択には群落のエサ供給量が最も主要な要因であると結論した。ただし, この他に微気象要因やシカ内部の社会・行動的な要因が重要になることもあった。
著者
田中 由紀 高槻 成紀 高柳 敦
出版者
京都大学大学院農学研究科附属演習林
雑誌
森林研究 (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.77, pp.13-23, 2008-12
被引用文献数
9

ニホンジカ(Cervus nippon)の採食による植生変化が近年目立つようになった京都大学芦生研究林において、2002年から2003年にかけて、ニホンジカの採食とササ群落の衰退の関係を調査した。糞分析を行い、ニホンジカの餌資源としてのササの重要性を調べた。また、シカによる葉の被食、稈の枯死の程度を調べ、地形条件との関係を調べた。さらに、積雪期に踏査を行い、ササの衰退と積雪分布の関係を調べた。シカの糞内容物に占めるササの割合は年間を通じて20〜50%であり、特に冬期に高かった(54.12±16.73%)。ササの葉の被食と稈の枯死は、緩傾斜、高標高、尾根部において多かった。また、積雪が少なく融雪が早い地点でササ群落の衰退が進み、積雪が多く融雪の遅い地点で衰退の程度が小さい傾向が見られた。以上より、シカの採食によるササ群落の衰退地の分布は地形条件と積雪分布に強く影響を受けることが示唆された。その背景には、シカが緩傾斜の尾根部のような採食行動をとりやすい地形条件を選択してササ群落を採食すること、特にシカにとってササが重要である積雪期には、積雪の少ない地点を集中的に採食することが考えられた。
著者
田中 由紀 高槻 成紀 高柳 敦
出版者
京都大学大学院農学研究科附属演習林
雑誌
森林研究 (ISSN:13444174)
巻号頁・発行日
no.77, pp.13-23, 2008-12
被引用文献数
9

ニホンジカ(Cervus nippon)の採食による植生変化が近年目立つようになった京都大学芦生研究林において、2002年から2003年にかけて、ニホンジカの採食とササ群落の衰退の関係を調査した。糞分析を行い、ニホンジカの餌資源としてのササの重要性を調べた。また、シカによる葉の被食、稈の枯死の程度を調べ、地形条件との関係を調べた。さらに、積雪期に踏査を行い、ササの衰退と積雪分布の関係を調べた。シカの糞内容物に占めるササの割合は年間を通じて20〜50%であり、特に冬期に高かった(54.12±16.73%)。ササの葉の被食と稈の枯死は、緩傾斜、高標高、尾根部において多かった。また、積雪が少なく融雪が早い地点でササ群落の衰退が進み、積雪が多く融雪の遅い地点で衰退の程度が小さい傾向が見られた。以上より、シカの採食によるササ群落の衰退地の分布は地形条件と積雪分布に強く影響を受けることが示唆された。その背景には、シカが緩傾斜の尾根部のような採食行動をとりやすい地形条件を選択してササ群落を採食すること、特にシカにとってササが重要である積雪期には、積雪の少ない地点を集中的に採食することが考えられた。
著者
高槻 成紀 宇根 有美
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.21/22, pp.117-122, 2011-03-31

An exhibition entitled as “Hands and legs of mammals: the morphology and variations” was held at Azabu University from June to September, 2010. Bones were chosen from many specimens preserved at the specimen store at Azabu University. At the introduction corner, a cat specimen was exhibited in order to explain the principle of mammal body morphology. At the “hindleg corner”, hindlegs of six terrestrial mammals were exhibited. The visitors could compare the “lifting heels” and simplification of the legs in “running” mammals. At the “foreleg corner”, forelegs of a dolphin and a Japanese macaque, whole body of a bat, a flying squirrel, and a mole were exhibited. This corner showed how the mammal forelegs are modified according to the differences in life styles of the animals. At the “femur corner”, femurs of six species of terrestrial mammals were exhibited. This corner told the femurs of larger mammals are more robust than those of smaller mammals, which is explained by physical reasons. At the last corner, forelegs of a giraffe, an elephant, and a horse were exhibited to emphasize the differences of the size and shape as “long”, “gigantic”, and “simple” bones. All the specimens were arranged on boards of deep blue backgrounds which are contrastive to whitish bones, and Chinese kanji letters to symbolize the functions of the bones were laid out.
著者
大泰司 紀之 呉 家炎 (W5 J) 余 王群 高 耀亭 揚 慶紅 (Y .′ Y .′ Y O) 彭 基泰 (T%.′ J) 鈴木 正嗣 武田 雅哉 小泉 透 梶 光一 常田 邦彦 高槻 成紀 三浦 慎悟 庄武 孝義 YANG Qing-hong PENG Ji-tai GAO Yao-ting WU Jia-yan YU Yu-qun
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

《1.形態・系統学的研究》 年齢群別に標本の記載・検討を行う目的で年齢鑑定に関する研究を行い、第1切歯および第1大臼歯のセメント質組織標本により、正確な年齢鑑定ができること、および歯の萌出・交換・磨耗等によって、およその年齢鑑定ができることが判明した。体重は、2.5カ月〜3.5カ月の子鹿7例の平均の43kg、雄の場合1.5歳約70kg、2.5歳約180kg、7〜13歳の成獣は約205kg 、雌の6〜14歳では約124kgであった。胴長の平均は、成獣雄123.8cm、肩高はそれぞれ121.5、117.3cmであった。これまでに報告のない特微として、出生直後の子鹿にはニホンジカと同様の白班があり、生後2カ月、7月中旬頃には消失するることが挙げらでる。頭骨は他のCervus属の鹿に比べて鼻部顔面の幅が広く、眼下線窩が大きく深い。これは乾燥・寒冷地への適応、草原におけるcommunicationとの関係を推測させる。大臼歯のparasrastyle、mesostyleが発達していることは、固い草本を食べる食性に適応した結果と考え得る。角は車較伏の枝分かれをし、1歳で2〜3尖、2歳で3〜4尖、3歳以上で5〜7尖になるものと推定される。以上の結果などから、クチジロジカはアカシカに似るが、ルサジカより進化したものと考えられる。《2.地理的分布および生息環境》 チベット高原東部の海抜3000mから5000mにかけての高山荒漠・高山草甸草原・高山潅木草原に分布している。分布域は北緯29〜40度、東経92〜102度の範囲で、甘粛省中央部の南部、青海省東部、四川省西部、チベット自治区東北部および雲南省北部にまたがる。分布域の年降水量は200〜700mm、年平均気温は-5〜5℃、1月の平均気温は-20〜0℃、7月の平均気温は7〜20℃の間にある。森林限界は3500〜4000m、その上は高山草原であるが、4000〜4500m付近まではヤナギ類などの潅木がまばらに生えている。《3.生態と行動など》 主要な食物は草本類(カヤツリング科・禾本科・豆科)であり、冬期にはヤナギ類などの潅木の芽も食べる。胃内容や糞分析の結果では、クチジロジカはJarmanーBellの原理によると草食(Grazer)である。出産期は5月下旬から6月で、1産1子。初産は2歳または3歳で、毎年また隔年に通常12〜14歳まで出産する。最高寿命は、自然条件下では雄で12歳前後、雌はそれより長いものと推定される。群れは最大で200頭、平均35頭。雌と子および1歳の雄も加った雌群、雄群、および発情期にみられる雌雄の混群の3つの類型に分けられる。性比は2.2、100雌当りの子の数は29頭であった。夏期は標高い高山草原で過ごし、冬期は積雪の多い高山草原を避けて潅木林へ移動する。交尾期の最盛期は10月で、11月中旬に再び雄群・雌群に分かれる。妊娠期間は220〜230日と推定される。交尾期の社会組織はハレム型と交尾群型の2つがあり、ハレム型は雌が25頭以下の時にみられ、大きな角を持つ成獣雄が1頭だけ優位雄となって加わる。雌の個体数がそれより多くなると、複数の優位雄が参加する交尾群となる。音声行動には、うなり声と優位の雄が出す咆哮とがあり、特に咆哮は4〜5音節から構成される連続声で、クチジロジカ独特のものである。《4.保護管理について》 チベット高原のクチジロジカは、ヤク・ヒツジ牧業が同高原へもたらされた2000〜3000年前から、人類の影響を受け、「チベット解放」後は、家畜と人口が増えたこと、自動車道路が発達したこと、兵站が各地に出来て、銃が多数持ち込まれたことなどの直接・間接的な影響によって、分布域・生息数ともに大きく減少した。今後は、有蹄類の保護管理に従って、地域毎の適正頭数(密度)を算定したうえで、その頭数になるまでは哺護を禁止し、一定の密度に保つ必要がある。そのような体制の出来るまでの間は、各地に保護区を設定して減少傾向を止めることが最も現実的と考えられる。
著者
辻 大和 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.221-235, 2008 (Released:2009-01-06)
参考文献数
117
被引用文献数
4

哺乳類の食性の長期研究の動向を探るために,BiosisとGoogle Scholerを用いて文献検索を行い,93の文献から99の事例を収集した.食性評価の期間には2年から16年とばらつきがあった.食性の長期研究事例には分類群ごとにばらつきがあり,食肉目(Carnivora)と霊長目(Primates)で多く,齧歯目(Rodentia)と翼手目(Chiroptera)で少なかった.食性の長期研究事例は時代とともに増加する傾向があった.多くの事例では食性評価に糞分析を用いていたが,特定の分類群に特徴的な分析手法がみられた.80%以上の事例で食性の年次変動がみられたが,多くの事例では食物環境の定量的な評価を行っておらず,さらに個体群パラメータへの影響を評価した事例はごくわずかだった.動物の食性の長期変化の把握は動物の基礎生態の理解に貢献するだけではなく,種子散布や採食に付随する行動などの派生的な研究,ひいては保全戦略の策定などにも貢献すると思われる.
著者
高槻 成紀
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.45-54, 2001-07-20
被引用文献数
11

近年ニホンジカ(シカ)が増加し,農林業被害を発生させるだけでなく,自然植生への影響も出ている.一方,外来牧草が牧場だけでなく道路沿いの緑化に用いられ,それが逸出している.このような牧草がシカの個体数増加や分布拡大に及ぼす影響は今のところ不明だが,保全生態学的には重要な問題なので,既存のデータを再検討した.その結果,岩手県五葉山ではシカはミヤコザサをよく採食しているが,牧場周辺のシカは秋と晩冬に牧草をよく採食していることがわかった.シカはまた,牛の放牧が終わる秋以降牧場をよく利用していた.文献により牧草と野草の栄養価と消化率を比較したところ,牧草が栄養価の高い飼料であることがわかった.五葉山の牧場周辺には牧場に依存的なシカがおり,牧場を金網の柵で囲った年の翌春には多くのシカが餓死し,それ以降死亡数が少なくなった.また東京都の奥多摩のシカは冬に非常に栄養価の低い,枯葉や樹枝,樹皮などを多く採食していたが,若干例の胃内容物サンプルには多くの牧草が含まれていた.これらの事例や観察例をもとにシカにとっての牧草の意義を考察し,外来牧草は自然植生に悪影響を及ぼすだけでなく,シカの個体数増加や分布にプラスになっており,そのことを通じてさらに自然植生に悪影響を及ぼす可能性があることを指摘した.
著者
山内 貴義 工藤 雅志 高槻 成紀
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-44, 2007 (Released:2007-08-21)
参考文献数
16
被引用文献数
4

岩手県に生息するニホンジカ (Cervus nippon centralis, 以下シカ) の保護管理を通覧し, 近年発生している問題点を整理して, 新たに取り組むべき課題を論じた. 岩手県に生息するシカは, 本州北限の個体群として知られている. 1980年代までは個体数が減少したために保護策がとられていたが, その後, 個体数が増加して農林業に被害を及ぼすようになったため, 岩手県は1994年から頭数管理を主軸とした対策を進める一方, 1988年から適正管理を目的としてさまざまなモニタリング調査を実施している. 調査項目は「分布調査」, 「生息密度調査」, 「捕獲個体調査」, 「ササ調査」, 「ヘリコプター調査」および「被害実態調査」である. シカ密度の抑制を図った結果, 被害額は県全体で大幅に減少した. しかし近年, 新たな問題点が浮上している. それは最近の数年間でシカの生息域が拡大していることや, 五葉山周辺地域ではおそらくシカの行動が変化し, 「里ジカ」が増加したために農業被害が急増していることなどである. これらの問題を克服するためには, 地域の特性を的確に把握し, 分布拡大の抑制, 里ジカによる農業被害の集中的防除, 調査法の向上などに努める必要がある.
著者
高槻 成紀 三浦 慎吾 玉手 英利
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

金華山では1966年以降初期は断続的に、最近10数年は毎年ニホンジカの個体数調査がおこなわれている。戦後減少していた個体数は1960年代までには500頭前後にまで回復し、安定状態にあったが、1984年に厳冬の影響で約半数が死亡した。これは密度非依存的な減少であるが、しかい半数は残ったので爆発崩壊型の変動パターンとも違う。1997年にも大量死亡が起きたが、このときは厳冬ではなかった。現一在は500頭前後で再び安定している。また一部の人慣れした集団は過去15年間、完全な個体識別により、全個体の年齢と母子関係がわかり、この間に死亡した個体の年齢も明らかになった。また全個体は原則として毎年春と秋に体重、外部計測などをおこなっている。またほとんどの個体は採血をすることによりDNA情報も確保されている。これらをもとに、いくつかの解析をおこなった。食性はイネ科に依存的で、最近ではシバへの依存度が高くなっている。全体に栄養不足であり体重は本土個体に比較して30-40%も少なく、骨格も小型化している。オスは5,6歳まで成長し、このうち20%がナワバリをもった。優位ではあるがナワバリをもてないのが10%、残りの70%は劣位であった。ナワバリオスは交尾の67%を独占した。メスは初産が4歳までずれこみ(通常は2歳)、60%は4歳までに死亡した。出産はほぼ隔年で妊娠率は50%であった(健康な集団では80%以上)。育児年の夏は体重が増加できなかった。父親が特定できた子の父親は交尾回数と対応して、半数以上がナワバリオス約1割が優位オスであった。遺伝子頻度の変動はおおむね機会的であり、選択は働いていないようである。
著者
高槻 成紀 吉田 邦夫 須田 知樹 佐藤 雅俊 佐藤 喜和
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

研究の目的は野生馬タヒを自然復帰した保護区におけるギルドの解析であった。草食獣については大型のタヒとアカシカの群落選択と食性比較をおこない、タヒは草原をアカシカは森林を利用し、食物もタヒはイネ科を主体とし、アカシカはイネ科と双子葉を半々程度食べていることがわかった。最終年には当初予定していなかったユキウサギとシベリアマーモットを含めた比較ができた。肉食動物については鳥類は営巣崖値の調査が危険であるためにサンプルの確保ができず、断念した。しかしオオカミとキツネの比較はできた。ただし糞分析法を採用したため、アカギツネとコサックギツネの区別はできず、「キツネ類」としてまとめた。この分析によりオオカミはもっぱら哺乳類を食すが、キツネは夏は昆虫をよく食すことがわかった。またオオカミは保護区外の家畜をよく採食していることがわかり、保全上の問題が浮上した。タヒ個体数の順調な増加は保護区の設立目的からして歓迎されているが、保護区を生態系保全という視点でみた場合、草食獣による影響が強くなりつつある。そこで森林群落での影響調査を実施したところ、構成樹木の非常に高い枯死率、ディア・ラインの形成、若木の生長阻害が認められた。資源利用とこれらの結果から、タヒ・草原系とアカシカ・森林系の関係において、タヒ・草原系には有利に葉たらしているが、アカシカ・森林系が縮小・退行していることが懸念される。全体としては初期の目的をほぼ達成することができたが、食肉鳥類が分析できなかったこと、肉食獣の同定に限界があった点は課題を残した。これらの成果は順次論文として公表する予定であり、資源利用の基礎となるバイオマス推定についてはすでに投稿中であり、食性などは論文準備中である。
著者
森永 由紀 尾崎 孝宏 高槻 成紀 高槻 成紀
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

遊牧の知識の客観的検証のために、モンゴル国北部のボルガン県の森林草原地帯で気象学的・生態学的・人類学的調査を実施した。一牧民の事例ではあるが、谷底にある夏営地と斜面上の冬営地の気温差から、盆地底の冷気湖の上にある斜面温暖帯に冬営地が設置されている可能性を指摘し、家畜にとって冬営地の気象条件が夏営地のそれより、冬季にいかに有利かを体感気温の観点から検証した。また、家畜の群れを移動群と定着群に分けて体重測定を実施した結果から、移動する場合のほうが体重増加に有利であることを示した。さらに、聞き取り調査により、調査地域が都市近郊に形成されている牧民集中地域であり、現在のモンゴル国における典型的な牧畜戦略のひとつとして、都市近郊に居住することで現金収入を最大化させようとする志向があることを明らかにした。