著者
武田 裕子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-134, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)
参考文献数
18

“人々が生まれ育ち,生活し,働き,そして歳をとるという営みが行われる社会の状況”が健康格差を生じるとき,WHOはそれを「健康の社会的決定要因(Social determinants of health;以下,SDH)」と定義した.舗装されていない道路や段差などの物理的環境にとどまらず,雇用や収入,社会保障制度,さらには自立を阻害する差別や偏見といった社会状況は,困難を抱える人たちにこそ大きく影響する.SDHは社会的公正(social justice)に基づく取り組みと位置付けられているが,この公正の考え方をいちはやく明示した医療職は作業療法士である.“作業を利用し,環境に働きかける”行いは,作業の権利を保障するものであり作業的公正の実現に他ならない.
著者
齋藤 弘匡 宮崎 祐太 杉 正明
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.595-603, 2023-10-15 (Released:2023-10-15)
参考文献数
48

本研究の目的は訪問リハビリテーション利用者を対象に,被介護者の抑うつ状態と介護者の介護負担感の関連を明らかにすることである.被介護者の基本情報,抑うつ度,認知機能,ADL自立度,生活空間の広がり,介護者の基本情報を調査し,介護負担感との関連を検討した.重回帰分析により,被介護者の抑うつ度の高さ,排便管理の自立度の低さが介護負担感の重要な因子として抽出され,介護負担感軽減のための介入には,被介護者の抑うつ状態を考慮する重要性が示唆された.
著者
田中 創 吉原 理美 伊藤 恵美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.655-662, 2023-10-15 (Released:2023-10-15)
参考文献数
15

【目的】ドライブレコーダーを用いて包括的に運転行動を評価し,対象者の運転再開を支援することを目的とした.【方法】脳損傷者1名を対象に実車運転評価を実施した.作業療法士は評価結果を書面にまとめて対象者へ郵送し,その内容について感想の返送を求めた.【結果】実車運転評価実施後のアンケートでは,自身の運転行動を客観的に振り返る機会を得たことに対する肯定的な感想が記載されていた.【結論】ドライブレコーダーを併用した運転評価を行い,その評価結果を書面にて呈示したことは,対象者本人が運転行動を振り返る機会となり,かつ,家族が対象者本人の運転能力を理解してもらう際に役立つ情報提供となった可能性が考えられた.
著者
南 庄一郎 中澤 紀子 永吉 美香
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.221-227, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)

医療観察法病棟において,統合失調症の対象者に関わる機会を得た.本介入では対象者の「他者との会話がうまくなりたい」という希望に着目し,この実現に向けて作業療法介入プロセスモデルと社会交流評価を用いて関わった結果,対象者の対人交流技能が向上し,コミュニケーションの困難さが軽減した.危機介入モデルが先行する医療観察法医療において,作業療法介入プロセスモデルに基づいた司法精神科作業療法の実践は,対象者の保護要因を見出すことを可能にし,再犯の防止に間接的に作用すると考えられ,社会内再統合モデルに基づく医療観察法医療を推進する可能性があると考えられた.
著者
佐野 菜緒子 早川 貴行 吉岡 和哉
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.398-406, 2023-06-15 (Released:2023-06-15)
参考文献数
24

COVID-19感染により重度の呼吸不全に陥り,人工呼吸器離脱後に不安や抑うつ状態を認めたA氏を担当した.作業療法ではA氏にとって価値ある作業に焦点を当て,さらに作業参加に影響する要因をMOHOの視点を参考に分析し介入した.経過中,A氏は再び人工呼吸器管理となったが,床上でのメールや読書など,本人にとって価値ある作業を提供していく中で笑顔が見られ,不安や抑うつの軽減を認めた.重症COVID-19患者に対して,急性期から作業に焦点を当てた介入をすることは作業療法士の重要な役割として示唆された.
著者
本間 莉那 大瀧 亮二 笹原 寛 斎藤 佑規 竹村 直
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.683-690, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
17

Pusher現象を呈する脳卒中患者のうち約80%は,発症約3ヵ月でPusher現象が消失すると報告されている.Pusher現象が長引く場合,リハビリテーションの効果は低く,ADLの回復に影響を与え,結果入院期間が長期化するとされている.今回,脳卒中発症後3ヵ月以降もPusher現象が残存し,ADLに全介助を要した症例に対して,Pusher現象の発生機序とされている主観的身体垂直(SPV)の再学習を目的に長期的な作業療法を実施した.結果,Pusher現象が軽減し,ADLの自立度が向上した.Pusher現象の発生機序や病態を理解したうえでの,段階的で長期的な作業療法は有効である可能性が示唆された.
著者
鳥居 誠志 石岡 俊之 小池 祐士 濱口 豊太 中村 裕美
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.654-662, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
23

我々は,脳卒中患者の排泄動作のうち,ズボンを上げる工程の練習方法を考案したいと考えた.脳卒中片麻痺者を対象に,その工程の自立群15名と,監視群7名のズボンを上げる工程中の足圧中心動揺を測定した.足圧中心動揺の速度や範囲を,自立群と監視群で比較したところ,監視群の左右方向への動揺範囲が,自立群の動揺範囲より有意に大きかった.監視群では,左右方向に大きい動揺が生じる結果,転倒の可能性があると推測された.それにより,生活場面の排泄動作に監視を要していると考えられた.この結果をもとに,本研究が提案する練習方法には,左右方向への重心動揺を制御する支援があげられた.
著者
山口 卓巳 沖 侑大郎 沖 由香里 大平 峰子 石川 朗
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.160-167, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)
参考文献数
30

本研究の目的は,AMPSを用い在宅COPD患者の動作特性を明らかにすることと,COPD特有の重要なアウトカムとの関連性を明らかにすることである.対象は,在宅酸素療法未導入かつ自宅でAMPSが測定できた13例とした.呼吸機能検査,mMRC息切れスケール,CAT,NRADL,PFSDQ-m,AMPSを測定し,AMPSと各項目測定値との相関を検討した.結果,AMPSの運動技能・プロセス技能ともにCAT,NRADL,PFSDQ-mと相関を認めた.またAMPS運動技能は呼吸機能,mMRC息切れスケールとも相関を認めた.AMPSは既存の疾患特異的ADL尺度と相関を認めたことから,COPD患者のADL能力を反映することが示唆された.
著者
塩津 裕康 奥津 光佳 倉澤 茂樹
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.72-78, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
16

要旨:新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の影響により,クライエントに対面で作業療法を提供することが難しい状況に陥った.そこで,我々はCognitive Orientation to daily Occupational Performance(CO-OP)を基盤とした遠隔作業療法を実施した.実践形態が遠隔であっても,読み書きが苦手な子どもたち,および保護者からポジティブな反応が確認できた.この実践を報告することによって,COVID-19の第二波やその他の理由で対面での作業療法が困難になった際の一助となることを期待している.
著者
野口 卓也 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.592-601, 2022-10-15 (Released:2022-10-15)
参考文献数
15

本論の目的は,事例を通じてポジティブ作業評価(Assessment of Positive Occupation 15,以下APO-15)における関与度推定システム(以下,推定システム)を活用した作業療法実践を後方視的に報告し,その有用性を検討することであった.方法は,APO-15の推定システムでポジティブ作業への関与状態を評価し,評価結果と事例の強みを参考に支援した.その結果,事例のWell-Being(以下,幸福)や社会参加に寄与した.APO-15の推定システムは,クライエントの関与レベルに適したポジティブ作業への参加機会を促進できるため作業療法実践で幸福の促進に寄与できると考えられる.
著者
野口 佑太 伊藤 卓也 横田 美空
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.736-740, 2019-12-15 (Released:2019-12-15)
参考文献数
14

対象者の住環境把握に向けて,Virtual Reality(以下,VR)を活用した.その結果,病院スタッフが自宅へ訪問することなく,対象者の自宅の環境や設置された手すりなどを確認することができた.VR動画は従来の写真での確認とは違い,実際の場に行かなくても擬似体験が可能な点が利点である.また,VR動画の確認にタブレット端末を使用した場合,映像酔いも認められず,安全に映像を確認することが可能であった.しかし,VR動画のみでは映像内の段差や物品の高さなどが正確にはわからないことが,課題として挙げられた.VRは,自宅退院に限らず,施設へ入所する場合や外出先の状況の把握など,作業療法の展開に活用できる可能性が示された.
著者
東 登志夫
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.136-141, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
6

作業療法士を取り巻く情勢の変化に対応するため,作業療法のエビデンス構築に向けた研究活動の活性化が急務となっている.本稿では,それらの情勢に触れた上で,我が国の作業療法士による研究活動の現状と,日本作業療法士協会が発刊している学術誌に掲載された論文や,作業療法に関係した国際誌の分析結果等をもとに,いくつかの課題を列挙した.そして,それらを改善するための方策として,日本作業療法士協会員各位が現状の作業療法を取り巻く情勢に危機感を持ち,現在の自分の状況からワンステップ上の目標に向けて行動を起こすことを提言した.
著者
藤本 皓也 衛藤 誠二 徳田 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.253-261, 2021-04-15 (Released:2021-04-15)
参考文献数
18

中心性頸髄損傷の上肢麻痺に対し,標的筋を電気刺激しながら筋収縮を促す,持続的神経筋電気刺激と促通反復療法の併用療法を行った.症例は60歳代男性で,第3-5椎体で脊髄圧迫を認めた.右上肢の手指巧緻性に関して,簡易上肢機能検査8-10の平均所要時間が,14週間の訓練で50.7秒から13.1秒へ,37.6秒短縮した.併用療法終了後は6ヵ月で13.1秒から9.6秒になり,3.5秒の短縮であった.Spinal Cord Independence Measure self-careは,9週間の訓練で9点から19点に,10点改善し,他の治療と同等の改善度を示した.この併用療法は,上肢麻痺やADL改善に有効であることが示唆された.
著者
森川 芳彦 西田 智子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.699-706, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
16

今回,我々は漢字書字困難児に対して漢字を繰り返し書く練習と感覚統合療法(以下,SIT)後の漢字練習との効果を比較検討し,SITの漢字書字に対する効果を検討した.シングルケース実験法を基にABAB法を用いて漢字書字練習を行った.A期は通常の繰り返しによる漢字練習,B期はSIT介入後に漢字練習を行った.漢字書字の効果判定は漢字テストの正答率と形態的類似度を指標とした.漢字テストではA・B期ともに正答率に差を認めなかった.形態的類似度ではA期の平均値と比べてB期は改善を認めた.SIT後の漢字練習は漢字の形態が改善する効果を認めた.今後,症例数を増やし,各訓練期の回数を増やすなど一般化を試みたい.
著者
山根 伸吾 青野 颯希
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.88-94, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
5

回復期リハビリテーション病棟にて,調理にデマンドを述べた脳卒中患者に,AMPSとACQ-OPの結果に基づき,調理練習を継続的に実施した.週に1回の頻度で,クライエント(以下,CL)と共に,メニューと目標をそのつど設定して取り組んだ.その結果,AMPSのADL運動能力測定値は0.7 logits,ADLプロセス能力測定値は0.2 logits,ACQ-OP測定値は0.6 logits改善した.両評価を用いることで,作業遂行上の問題をCLと共有しやすくなり,継続的に目標に反映させた介入を展開することに役立った.AMPSとACQ-OPを作業療法プロセスに取り入れることによる効果を検証するために,さらなる事例の蓄積が望まれる.
著者
真下 いずみ
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.79-86, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
21

要旨:約20年間ひきこもっていた緘黙症状を呈する40歳代の女性に,主に自宅で10ヵ月間作業療法を行った.介入中のLiebowitz Social Anxiety Scale日本語版は社交不安の徴候を示した.作業療法では手芸をしながら,非言語的に交流し,次にClosedからOpen-questionへ段階づけて質問した.また材料の買い物やバザーでの作品販売を行った.結果,事例は自発的に発語し,電車を利用して単独外出可能となった.言語を要さない活動を用い,作品を介して他者と交流するといった作業療法の治療的要素は,対人場面への暴露による不安を緩和させつつ,発語や外出行動を促す上で有用であった.緘黙症状とひきこもりに対する作業療法の有効性が示唆された.
著者
瀧野 貴裕 竹林 崇 竹内 健太 友利 幸之介 島田 真一
出版者
日本作業療法士協会
巻号頁・発行日
pp.661-668, 2018-12-15

要旨:脳卒中後上肢麻痺への治療戦略として課題指向型練習が挙げられるが,課題指向型練習単独では生活での麻痺手の使用頻度向上にはつながらないとの報告がある.今回,重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対し,早期から課題指向型練習を実施した.当初から上肢機能は改善したが,生活での麻痺手の使用頻度には全く変化がなかったため,Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下,ADOC-H)を用いてTransfer Package(以下,TP)を実施し,麻痺手の行動変容を試みた結果,生活での麻痺手の使用頻度が向上し,麻痺手使用に肯定的な意見を聞くことができた.回復期でのADOC-Hを用いたTPは,麻痺手の使用頻度を促進する可能性があると考えられた.
著者
赤堀 将孝 亀山 一義 宍戸 聖弥 松本 圭太 谷川 和昭
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.170-179, 2020-04-15 (Released:2020-04-15)
参考文献数
34

本研究の目的は,地域連携を視野に,地域に関わる専門職種が抱く作業療法士の認識を明らかにすることであった.質問紙調査により,作業療法士という職種についての自由記述をKH Coderを用いて分析した.結果,地域包括支援センター職員から見た作業療法士の認識には「人」,「作業」,「生活」の3つがあった.さらに,法の定義を基準にした認識や他のリハビリテーション専門職との違い,認知症を有する人の支援を行う職種,望む生活を支援するといった認識などが階層的な構造を示していた.以上から,地域包括支援センター職員との関わりでは,生活動作だけでなく対象者の「その人らしい」生活を支援する視点が必要となることが改めて確認された.
著者
髙橋 佑弥 竹林 崇 石垣 賢和
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.486-494, 2020-08-15 (Released:2020-08-15)
参考文献数
13

要旨:Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation therapy(以下,HANDS療法)は,脳卒中後上肢麻痺の末梢部の機能改善に効果が示されている.一方で,日常生活における麻痺手の使用行動および中枢部の機能改善は課題であった.今回,回復期の1症例に具体的な課題のスキル向上を目的とした課題指向型訓練,麻痺手の使用行動に有効とされている簡略化したTransfer Package,中枢部の機能改善に有効とされているロボット療法を,HANDS療法と複合して実施した.結果,Fugl-Meyer AssessmentとMotor Active Logが臨床上意味のある最小変化量を超える改善を示し,希望していた食事動作が獲得されたため後方視的に検証し,考察を合わせて報告する.