著者
齋藤 みのり 佐野 伸之 小林 隆司
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.72-77, 2019-02-15 (Released:2019-02-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

自閉症スペクトラム児の対人社会性を阻害する要因の一つに,ファンタジーへの没入現象が指摘されている.今回,ファンタジー没入行動により,様々な日常生活の遂行に支障をきたしていた広汎性発達障害男児に対し,ファンタジーを外在化する作業活動を通した支援を行った.本児は,架空のカードゲームを頭の中で展開する遊びに,様々な日常生活場面で没頭していた.作業療法では,頭の中に描いているファンタジーを外在化し,それを用いて一緒に遊べるよう模索した.また,徐々に交流の場が広がるよう促した.これらの支援により,本児の頭の中のファンタジーが整理され,現実とのつながりを築いていき,生活障害が軽快したと考えられる.
著者
横井 賀津志 藤井 有里 酒井 ひとみ
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.109-117, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
19

レビー小体型認知症の発症により,作業ができなくなり自分らしさを獲得できなくなったクライエントに対し,Person-Environment-Occupation Model of occupational performance(PEOモデル)を用い介入した.クライエントと作業療法士は作業ニーズを特定し,作業歴を紐解き作業分析を行い,人-環境-作業の適合を見極めるため,それぞれを個別に評価した上で作業遂行場面を観察したところ,作業形態と意味が満たされた.クライエントを主語に作業を基盤とした介入を実施した結果,人-環境-作業が最大限に適合し,クライエントは日記に「自分が生まれた感じがした」と表現する作業的存在を確認できた.さらに作業の力は,傾眠回数の減少にも寄与した.
著者
齋藤 駿太 京極 真
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.452-459, 2023-08-15 (Released:2023-08-15)
参考文献数
31

本調査では,Occupational Engagement(以下,OE)の国内外の研究を系統的に概観し,ギャップの特定を通じて,国内におけるOE研究の発展の方向性の検討を行った.方法は,スコーピングレビューで実施し,国外19編,国内3編が採用された.共通点として,①OEは個人の肯定的な主観的経験であること,②OEの評価ツールの不足が挙がり,相違点として,①国内外のOEの研究方略の違い,②国内外のOEに関する知識量の差が挙がった.以上より,国内のOE研究の方向性として,①質的研究を通じた国内のクライエントのOEと健康と幸福との関連性や,OEの認識を検証すること,②OEの評価ツールの開発の検討が課題に挙がった.
著者
宇都宮 裕人 廣瀬 卓哉
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.112-118, 2023-02-15 (Released:2023-02-15)
参考文献数
15

日常生活において麻痺手の使用頻度が乏しい回復期脳梗塞患者に対し,3Dプリンタで作製した筆記自助具を麻痺手機能の改善状況に合わせ段階的に変更を加え提供した.同患者へは,日記をつける際に自助具を用いた麻痺手で行うことを促した.結果,上肢機能評価において臨床上意義のある最小変化量を超えた改善が得られた.また,福祉用具満足度評価では,症例の上肢機能改善に応じて,修正を加えた3Dプリンタの自助具に対して高い満足度が示された.以上の結果は,上肢機能の変化に応じて自助具の形状を変更する方略が上肢機能訓練において有用な手段であることを示唆した.
著者
本間 健太 穂満 稔里 外川 佑
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.460-468, 2023-08-15 (Released:2023-08-15)
参考文献数
35

本研究では,回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)入院中の脳卒中後うつ症状(以下,PSD)患者において,意味のある作業の満足度が自己効力感の変化量を媒介し,うつ症状を軽減するかを調査した.72名の対象者の入院時と退院時間における,うつ症状,意味のある作業の満足度,自己効力感のスコアの変化量について媒介分析を行った.その結果,意味のある作業の満足度は,自己効力感を媒介することなく,うつ症状に有意な直接効果を示した(β=-2.5,95%CI[-4.2,-0.86],p=0.004).この結果から,意味のある作業の満足度は,回復期病棟におけるPSDの軽減に寄与する可能性が示唆された.
著者
高木 雅之 其阿弥 成子 織田 靖史 ボンジェ ペイター
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.301-310, 2020-06-15 (Released:2020-06-15)
参考文献数
24
被引用文献数
1

地域在住高齢者の健康や幸福を促進する作業に焦点を当てた集団プログラムの開発が進められている.本研究では新たに開発された活動日記を用いた集団プログラムの効果を,ランダム化比較試験によって検証した.対象者は地域在住高齢者125名であった.実験群には計4回の集団セッションが実施され,活動日記を毎日記入することが依頼された.対照群に介入は行われなかった.その結果,実験群の作業に対する満足度,生きがい感,生活満足度の変化量は,対照群よりも有意に高く,効果量は中程度であった(p<.001,r=0.3300.38).本プログラムは,地域在住高齢者の作業に対する満足度,生きがい感,生活満足度の向上に寄与することが示された.
著者
金子 隆生 黒坂 浩平 竹林 崇
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.199-205, 2023-04-15 (Released:2023-04-15)

脳梗塞により利き手に麻痺を呈した事例に対し,機能面の介入のみならず,作業に関する自己評価・改訂第2版(OSA-Ⅱ)や一般職業適性検査(GATB)を活用し,相互作用をもたらすような作業療法介入を実施した.約5ヵ月の関わりによって,麻痺手の機能と実生活における使用行動において臨床上意味のある最小変化量(MCID)を超える変化が得られ,最終的に復職に至った.本事例に関しては,OSA-ⅡやGATBを用いた復職を見据えた包括的な介入が有効であり,行動変容につながったと考えられた.
著者
岸 優斗 竹林 崇 堀 翔平 花田 恵介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.336-343, 2021-06-15 (Released:2021-06-15)
参考文献数
16

脳卒中慢性期の重度片麻痺例に対し,先端機器を備えていない施設において行った具体的介入や,その経過を共有することは意義がある.今回,発症から13年経過した重度上肢麻痺を呈した脳卒中患者に対し,ADOCを用いた目標設定を行い,電気刺激療法や装具療法,促通反復療法,CI療法を用いて複合的に介入した.その結果,麻痺手の機能は介入前後で大きく変化しなかったが,麻痺手による意味のある作業を獲得でき,主観的評価も改善した.本事例への介入は,限られた設備環境であっても実現可能な内容である.麻痺手機能の向上と日常生活での麻痺手の使用を促す関わりは,重度片麻痺患者の意味のある作業に寄与する可能性がある.
著者
渡部 喬之 鈴木 久義
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.713-720, 2021-12-15 (Released:2021-12-15)
参考文献数
49
被引用文献数
1

脳損傷による眼球運動障害に苦しむ患者は多いが,そのリハビリテーションの方法は確立されていない.本稿では,眼球運動の神経機構,脳画像所見と予後予測,一般的な評価や治療を概説したのち,国内外の脳損傷者に対する眼球運動障害改善のためのリハビリテーションの報告を俯瞰し,臨床での活用をテーマに再考した.過去の研究では,追視,固視,サッケード,輻輳を促通する訓練が眼球運動を改善させると報告されており,訓練時間や頻度も通常診療のなかで実施可能な範囲であった.眼球運動障害は,生活に大きな影響を与えるものである.作業療法士が,積極的な眼球運動障害への評価,介入とその効果検証を行っていく必要があると考える.
著者
宇都宮 裕人 廣瀬 卓哉
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.517-523, 2023-08-15 (Released:2023-08-15)
参考文献数
20

感覚障害により,日常生活において麻痺手の使用頻度が乏しい回復期脳梗塞患者を担当した.事例に対して,代償モデルを用いた3Dプリンタで作製した食事用自助具を提供した.同患者へは,自助具のニーズを確認しつつ,個別性に考慮した自助具の調整を行った.結果,感覚障害に変化はないが,自助具適応直後より麻痺手での食事動作の獲得,一部の上肢機能評価において短期間での臨床上意義のある最小変化量を超えた改善が得られた.以上の結果は,3Dプリンタで調整した自助具を代償モデルとして適応することは,事例の残存能力を活かした上で,食事などの事例にとって意味のある活動の獲得や上肢機能の改善に有用であったことが示唆された.
著者
後藤 紀史 寺岡 睦
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.691-698, 2021-10-15 (Released:2021-10-15)
参考文献数
25

作業に根ざした実践2.0(Occupation-Based Practice 2.0)は,クライエントの作業機能障害の改善と,クライエントを取り巻く環境で生じる信念対立に対処していく方法である.本報告では,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中後遺症を呈したクライエントに対して,OBP 2.0を用いた評価と介入を実施し,回復期リハビリテーション病棟におけるOBP 2.0の臨床有用性を検討した.その結果,関係者間での信念対立を低減しつつ,作業機能障害を改善しクライエントとの共通目的を達成することができた.OBP 2.0は多職種連携を中核概念に据える回復期リハビリテーション病棟において,有用である可能性が示唆された.
著者
外川 佑 村山 拓也 岩城 直幸 山崎 佳与 﨑村 陽子
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.372-379, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
20

自動車運転再開支援では,対象者の運転能力を包括的に捉えることが求められる.今回,過去3回の運転評価で全般性注意機能低下と危険運転行動により運転再開不可とされた70代男性に対し,交通心理学のアプローチを用いた介入を実施した.当院における院内初期評価ではSiDSのタイミング検査や反応時間の遅延,教習所内コース評価では一時停止やカーブ進入前のブレーキ操作の遅れ,自身の運転のモニタリングの不十分さが観察された.交通心理学のアプローチに基づくブレーキ操作の反復訓練と教習指導員による公道での実地走行の結果,ブレーキ操作や運転パフォーマンス,自身の運転に関するメタ認知に変化を認め,最終的に運転再開に至った.
著者
小渕 浩平 竹林 崇 松井 克明 村岡 尚 中村 裕一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.497-504, 2019-08-15 (Released:2019-08-15)
参考文献数
19

学習性不使用による慢性期脳卒中後の上肢運動障害に対し,Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)の主要コンセプトであるTransfer packageを,外来作業療法にて実施した.低頻度(週1回20分)であったが,4ヵ月後には臨床上重要な最小変化を大きく超える,麻痺手の使用行動と上肢機能の改善を認めた.さらに,事例が目標とした活動の多くを獲得することができた.CI療法は,訓練時間や医療保険適応の問題が指摘されているが,事例の状態によっては,必要なコンセプトを中心に,低頻度の介入でも効果が得られる可能性が示唆された.
著者
小渕 浩平 竹林 崇 花田 恵介 松井 克明 中村 裕一
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.694-702, 2022-12-15 (Released:2022-12-15)
参考文献数
24

本邦では,急性期でのCI療法後の長期経過を観察した研究は見当たらない.今回,急性期にて1日2時間以内の修正CI療法を実施した複数の対象者について,介入から1年後までの長期間の追跡調査を行い,麻痺側上肢の回復経過を観察した.結果,FMA,MALともに,介入後・介入1年後と時点の固定効果で有意な差を認めた.またMALは,短期・長期ともにMCIDを超える変化を認めた.さらに,長期的なFMAの改善は,MALと強い関連があることが示された.本研究から,急性期においても適応患者によっては,修正CI療法が長期的にも上肢機能と麻痺手の使用行動に良好な変化を与える可能性が示唆された.
著者
廣瀬 卓哉 丸山 祥 金子 文成
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.333-339, 2022-06-15 (Released:2022-06-15)
参考文献数
23

視覚で誘導される運動錯覚(KINVIS)を用いた介入(KINVIS療法)が,視床損傷に起因する上肢の運動失調に及ぼす影響を検討した.症例は視床梗塞により左上肢に運動失調を呈していた.介入は10日間であり,20分間のKINVIS療法を実施した後に40分間の作業療法を行った.結果は,単回介入による即時効果,および反復介入期間前後で運動失調の軽減を認め,さらに10日後の評価においても機能が維持されていた.さらに,物品操作能力の改善や,生活場面上の問題の改善を認めた.上肢の運動失調に対する治療法として,今後もKINVISの効果を検証していく価値があるものと考えた.
著者
永井 貴士 石井 良和 市田 博子 小森 愛子 山田 孝
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.26-37, 2020-02-15 (Released:2020-02-15)
参考文献数
29

本研究の目的は,家族介護者の従事する「介護」という作業の構成概念を生成することである.要介護者と在宅介護生活を1年以上経験している家族介護者16名を対象に非構造化面接を実施し,SCAT(Step for Cording and Theorization)を用いて分析した.その結果,構成概念は102の意味コードが生成され,家族介護者の想い,介護する生活,介護と環境の3つの大カテゴリーが得られた.作業療法士は家族介護者の作業適応への支援として,これらの視点で検討する必要性が示唆された.
著者
石根 幹久 花田 恵介 徳田 和宏 竹林 崇 藤田 敏晃
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.780-787, 2023-12-15 (Released:2023-12-15)
参考文献数
26

脳卒中患者の上肢機能と麻痺手の使用頻度はしばしば正の相関があるが,一方で乖離があることも報告されている.しかし,先行研究には高次脳機能障害による影響を検討した報告はほとんどない.今回,脳卒中発症後に麻痺側上肢の運動機能は向上したにもかかわらず,日常生活での麻痺手の使用行動に繋がらなかった70歳代男性を経験した.詳細な神経心理学的な検討を行ったところ,運動無視や無為を認めた.本例においては,これらが麻痺手の使用頻度に影響を与えていた可能性が考えられた.
著者
山口 桜子 友利 幸之介 齋藤 佑樹 高畑 脩平
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.630-637, 2023-10-15 (Released:2023-10-15)
参考文献数
17

学校作業療法が円滑に実施できるまでには様々な障壁があることが先行研究にて明らかとなっているが,作業療法士はその障壁をどのように乗り越えているだろうか.今回,複線径路・等至性アプローチ(TEA)を用いて,学校作業療法を円滑に実践するためのプロセスの理論化を目指した.その結果,広範囲に安定的に学校作業療法を実施するためのターニングポイントとなる6つの分岐点と,分岐点での行動選択を方向づける5つの信念や価値観が抽出された.これらの価値観に共通する概念として,作業療法士は常に相手の理解に努め,利他的に相手を活かす姿勢を貫いており,これが学校作業療法の障壁を乗り越えていく基本となっていると推察された.
著者
小山 貴士 赤坂 竜一 大野 勘太 友利 幸之介
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.435-445, 2023-08-15 (Released:2023-08-15)
参考文献数
56

認知症患者および軽度認知機能障害患者を対象としたリハビリテーションにおける目標設定に関する既存の知見を,スコーピングレビューを使用して分析した.PubMed,MEDLINE,ProQuest,CINAHL,Web of Science,Scopusから得られた33編の適格論文を精読した結果,意思決定支援ツールや介入パッケージ・理論を適応させる研究や,介護者の関与を促進させる研究が抽出された.しかし,重度認知症患者を対象とした報告は限定的であり,今後は重度認知症患者に対する目標設定のさらなる検証や,認知症特有の意思決定支援ツールの開発の必要性が示唆された.