著者
明石 祐作 鈴木 広道 竹内 優都 上田 淳夫 廣瀬 由美 今井 博則 石川 博一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.9-16, 2021-01-20 (Released:2021-08-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1

日本ではインフルエンザの診断に,迅速抗原検査が広く用いられている.しかし,40~50% で偽陰性が見られるとされ,正確に結果を解釈するためには,検査性能に影響する要因を把握する必要がある.今回,インフルエンザ様症状(37℃以上の体温上昇,寒気・体熱感,咳,喀痰,倦怠感,咽頭痛,筋肉痛・関節痛,頭痛,鼻汁・鼻閉のいずれか)の発症から検査までの時間経過により,インフルエンザ迅速抗原検査の感度・特異度が異なるか,単施設前向き研究で調査した.当施設がある地域のインフルエンザ流行期間に(2017年12月~2018年2月および2018年12月~2019年3月),臨床的にインフルエンザの疑いがあり,担当医がインフルエンザ迅速抗原検査を必要と判断した患者を対象とした.基準検査法はリアルタイムPCR法とした.期間中の累計322名(2017年度:159名,2018年度:163名)のうち,313名を最終対象者とした.リアルタイムPCR法を用い129名(41.2%)でインフルエンザウイルスを検出した(A型:88名,28.1%;B型:41名,13.1%).インフルエンザ迅速抗原検査の感度は,全体で54.3%(95% 信頼区間(CI):45.3~63.1),特異度は100%(95%CI:98.0~100)だった.感度はインフルエンザ様症状の発症からインフルエンザ迅速抗原検査までの時間の経過により有意な上昇を示した(p=0.03):12時間未満,38.9%(95% CI:17.3~64.3);12~24時間,40.5%(95% CI:25.6~56.7);24~48時間,65.2%(95% CI:49.8~78.6);48時間以降,69.6% (95% CI:47.1~86.8).本検討より,インフルエンザ迅速抗原検査の感度は,インフルエンザ様症状の発症から時間が経過するに連れて上昇する可能性が示された.
著者
太田 玲子 範 瑀軒 網谷 英樹 飯塚 拓巳 山田 夏鈴 加藤 陽佳 石栗 広志 深瀬 真由美 村木 靖 西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.2, pp.34-38, 2022-03-20 (Released:2022-03-29)
参考文献数
14

手指消毒薬の開封後の使用期間は施設により異なるが,開封から半年と定める所が多い.しかし,アルコール製剤の開封後の殺菌効果については明確な指標はなく,情報も少ない.我々はその根拠となるデータを得るために当院の医療現場で実際に6カ月間使用され残ったゲル状アルコール製剤(ゲル状製剤)を回収し,そのまま室温で保存した後(開封直後から開封後34カ月,残量60から350 mL),その主成分であるエタノール濃度をガスクロマトグラフィー法で測定した.その結果,経過時間,残量に関わらずエタノール濃度はすべて開封直後と同等であった.この結果を検証するためにStaphylococcus aureusとPseudomonas aeruginosaを用いて各製剤の殺菌能を測定し,開封直後の製剤と比較検討した.殺菌能測定ではゲル状製剤の対照剤として液状製剤についても測定した.方法は製剤と菌液を30秒と5分間反応させた後に生菌数を求め,精製水を用いた対照実験に対する減少率とlog10 reduction(対数減少値)で評価した.その結果,殺菌能も経過時間,残量に関わらずすべて開封直後と同等で,エタノール濃度と同様な結果であった.今回の検討でゲル状製剤は開封後半年,あるいはそれ以上経過しても開封直後と同等のエタノール濃度とS. aureusとP. aeruginosaに対する殺菌能を保持している可能性が示唆された.
著者
戸田 宏文 古垣内 美智子 江口 香織 山口 逸弘 吉長 尚美 森田 泰慶 上硲 俊法 田中 裕滋 吉田 耕一郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.93, no.3, pp.326-329, 2019-05-20 (Released:2019-12-15)
参考文献数
19

We report herein on two cases of bacteremia caused by daptomycin-resistant Corynebacterium striatum. In these cases, daptomycin-resistant C. striatum was detected after receiving daptomycin for the treatment of multidrug-resistant C. striatum bacteremia, and ERIC-PCR band patterns were identical among the isolates of C. striatum before and after daptomycin therapy. We performed an in vitro assay to determine whether daptomycin resistance is induced in nine clinical isolates of C. striatum, including our two cases, after exposure to daptomycin in broth culture, and seven isolates showed emergence of daptomycin resistance. To our knowledge, this is the first reported case of daptomycin-resistant C. striatum bacteremia in Japan. The use of daptomycin for the treatment of C. striatam infections should be avoided, considering the risk for rapid emergence of daptomycin resistance.
著者
濵砂 良一 川井 修一 安藤 由起子 伊東 健治 倉島 雅子 西村 敬史 山口 隆正 吉村 誠 小林 とも子 村谷 哲郎 松本 哲朗
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.1-7, 2011-01-20 (Released:2015-04-06)
参考文献数
14
被引用文献数
3 1

Real-time PCR 法を用いてChlamydia trachomatis(クラミジア)およびNeisseria gonorrhoeae(淋菌)を検出するAbbott RealTime CT/NG assay(realtime 法:アボットジャパン)の有用性を,女性子宮頸管スワブ検体,女性初尿検体,男性初尿検体を用いて検討した.対象は北九州市内の産科・婦人科施設,泌尿器科施設,皮膚泌尿器科施設を受診し,子宮頸管炎または尿道炎が疑われた患者,女性88 名,男性100 名である.これらの検体をBD プローブテックET CT/GC(プローブテック:日本べクトン・ディッキンソン)と比較した.クラミジアに対する全検体の陽性一致率は97.1%(66/68),陰性一致率は99.0%(206/208),淋菌に対する全検体の陽性一致率は100%(33/33),陰性一致率は100%(243/243)であった.女性の子宮頸管スワブでは3 検体の不一致例が,男性初尿では1 検体の不一致例があった.女性初尿においては2 検査間の不一致例はなかったが,子宮頸管スワブと初尿との間にrealtime 法で3 症例,プローブテックで4 症例の不一致があった.realtime 法とプローブテックの不一致例のうち3 検体でアプティマCombo 2 クラミジア/ゴノレア(富士レビオ)による再検査を行い,すべて陽性であった.女性では子宮頸管スワブ,初尿のいずれかのうち2 つ以上の検査で陽性の場合,男性では初尿で2 つ以上の検査で陽性の場合,「真のクラミジア陽性」症例と仮定すると,realtime 法における子宮頸管スワブ,女性初尿,男性初尿の感度はそれぞれ94.4%,77.8%,97.4%であった.これに対しプローブテックではそれぞれ88.8%,77.8%,100%であった.淋菌に対する感度はいずれの検査でも100%であり,realtime 法は女性の子宮頸管スワブ,男性の初尿を用いると,淋菌,クラミジアに対してプローブテックと同等かそれ以上の有用性を示した.
著者
黒岩 豊秋 小張 一峰 岩永 正明
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.257-263, 1990-03-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
19
被引用文献数
11 12

生菌性整腸剤の効果に対する作用機序解明並びに実験的評価を目的として, 各種腸管病原菌と酪酸菌MIYAIRI 588株を混合培養し, 経時的に菌数の増減を測定した. 腸管病原菌はいずれも患者由来株を使用し, 37℃ 嫌気培養を行った.混合培養において酪酸菌は, コレラ菌・ナグビブリオ・アエロモナス・赤痢菌の発育を強く抑制した. 酪酸菌は主として消化管下部において発芽増殖するので赤痢菌との関連を更に追求し, 次のような結果を得た. (1) 赤痢菌をBHIbrothで嫌気培養すると培養終了時に培地のpHは5.2程度まで下がったが, 菌は順調に発育した. (2) 酪酸菌と混合培養するとpHは5.6程度で留まったが, 赤痢菌の発育は強く抑制された. (3) 酪酸菌24時間培養液はpH5.5前後であり, この上清中で赤痢菌は全く増殖できなかった. (4) この上清をNaOHでpH7.2に調製すると赤痢菌は新鮮培地におけると同様に増殖した. (5) 培養中のpHを6.0以上に維持させるため燐酸緩衝液を加えたBHIbrothでも混合培養によって赤痢菌の増殖は抑制された. この様な結果から, 酪酸菌による赤痢菌の発育抑制は, 培地のpH, 代謝産物など単一の要因によるものではなく, その両者及び酪酸菌そのものの存在が作用しあっているものと考えられた.
著者
夏木 茜 堀 雅之 松原 康策 太田 悠介 齋藤 良一 磯目 賢一 岩田 あや 池町 真実 竹川 啓史 山本 剛 大楠 美佐子 石和田 稔彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.6, pp.240-244, 2022-11-20 (Released:2022-11-21)
参考文献数
21

Moraxella catarrhalis is a common causative bacterium of otitis media and respiratory tract infection in children. Childhood-onset M. catarrhalis bacteremia is more common in children with underlying conditions, such as immunodeficiency, or those using a nasal device. In children without underlying conditions, the onset is usually at younger than 2 years of age.We encountered a case of M. catarrhalis bacteremia in a previously healthy 3-year-old boy. The patient was hospitalized with a 5-day history of fever. Physical examination on admission showed redness and swelling of the ear drums bilaterally. Blood culture and upper nasopharyngeal swab culture both grew M. catarrhalis, which led to the diagnosis of bacteremia and otitis media caused by this organism. The patient was treated with intravenous cefotaxime for 3 days and sulbactam/ampicillin for the subsequent 3 days, followed by oral clavulanate/amoxicillin for 8 days, with good response. Absence of abnormalities in immunological screening tests and absence of any significant past medical history suggested that the patient was not immunocompromised.
著者
横田 恭子 古川 恵一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.1, pp.27-30, 2012-01-20 (Released:2013-01-15)
参考文献数
13
被引用文献数
2

A 47-year-old Chinese woman with no significant medical history admitted for sudden-onset seizures and transient right homonymous hemianopsia had moved from China to Japan 4 years previously. Contrast brain computed tomography (CT) showed multiple calcified nodular lesions with surrounding edema, one in the left parietal lobe being likely responsible for her visual symptoms. After admission, two painful intramuscular nodular lesions were found in her left lower limb. Histopathologically biopsy specimens from these lesions were not diagnostic. Serum antibody testing (ELISA) for Taenia solium, however, was positive, yielding a diagnosis of (neuro) cysticercosis. The woman responded well to albendazole and prednisolone treatment. In the two years since discharge, she has not developed any new symptoms or seizure recurrence. With increasing global travel, clinicians must thus consider the possibility of neurocysticercosis in cases of nodular brain lesions in subjects from areas where Taenia solium remains endemic.
著者
盛山 吉弘 岩本 和真 片桐 正博 結束 怜子
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.92, no.2, pp.115-119, 2018-03-20 (Released:2019-10-30)
参考文献数
14
被引用文献数
1

皮膚軟部組織感染症(skin and soft tissue infection:SSTI)は単一の疾患ではなく,多種の異なる疾患が含まれている.膿性の浸出液や膿瘍腔がみられない蜂窩織炎は,血液培養,穿刺等による局所培養のいずれも検出率は低く,直接的に起因菌を同定できないことが多い.蜂窩織炎の主な起因菌は,β 溶血性連鎖球菌(β-hemolytic Streptococcus:BHS)と考えられているが,これは血清学的検査および抗菌薬への反応性による.一方,膿性の浸出液や膿瘍腔がみられるSSTI(purulent SSTI)では,近年,市中獲得型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus:CA-MRSA)が最も多く検出されると報告されている. Purulent SSTI と蜂窩織炎は別の疾患であり,米国のガイドラインには重症例を除く蜂窩織炎の初期治療にCA-MRSA を対象とする必要はないことが記載されている.しかし,蜂窩織炎の起因菌が不確実であるという医療者の不安から,実際には抗MRSA 薬を含めた広域の抗菌薬が,蜂窩織炎に対しても乱用され,問題となっている. これらの検討は主に米国でなされてきたが,我が国ではどうであろうか.今回自施設の症例を,前向きに集積して検討を行った.101 症例のうち,BHS の関与は60 例(59.4%)で確認された.また,101 症例全例で,CA-MRSA に対する抗菌薬は不要であった.
著者
柳澤 如樹 髙山 直秀 菅沼 明彦
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.7-11, 2009-01-20 (Released:2016-02-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

ジフテリア・百日咳・破傷風3 種混合(DPT)ワクチン接種の普及により,百日咳は乳幼児の間では既に稀な疾患となっているが,欧米で10 代から若年成人での発生増加がみられ,日本でも成人の百日咳患者や大学での集団発生が報告されている.青年・成人での百日咳予防のため,米国では成人用DPT ワクチンが認可されている.一方,我が国では成人用DPT ワクチン開発の動きは見られない.そのため青年・成人での百日咳予防のためには,国内で市販されている小児用DPT ワクチンを使用するほかない.我々は,小児用DPT ワクチンの接種量を0.2mL に減量して,30 例の成人に接種し,その効果と安全性を調査した.DPT ワクチン0.2mL 接種後に百日咳抗PT 抗体価は29 例で,抗FHA 抗体価も29 例で上昇がみられた.破傷風抗毒素価は,破傷風接種歴がないと思われる2 例を除いた28 例で上昇していた.小児と比較して接種局所の副反応の発現頻度は高かったが,発熱などの全身反応の出現率は低かった.現在市販されている小児用DPT ワクチン0.2mL を成人に接種することにより,健康上大きな問題なく,百日咳抗体価の上昇が得られると考えられた.
著者
秋山 由美 齋藤 悦子 榎本 美貴 辻 英髙 近平 雅嗣 吉田 昌史
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.87, no.6, pp.721-725, 2013-11-20 (Released:2015-02-18)
参考文献数
13

3種のBordetella 属菌(B. pertussis,B. parapertussis,B. holmesii)の同時検出をコンベンショナルPCR 法で試みた.4 種の挿入配列遺伝子(IS481,IS1001,IS1002 およびhIS1001)を増幅ターゲットとする 4 組のプライマーを混合したマルチプレックス法で,選択的な検出が可能となった.検出限界は 3 種の Bordetella 属菌の各 DNA 濃度として 5fg/μL であった.なお,低濃度のB. pertussis とB. holmesii の確認には,LAMP 法も併用した. 本法を 2012 年度に感染症発生動向調査の定点医療機関から百日咳疑いで搬入された病原体検査の 42 検体(咽頭ぬぐい液 23 件,鼻腔ぬぐい液 19 件)に適用し,12 検体から B. pertussis を検出した.このうち 8 検体は,保育所を中心とする集団発生事例のものである.病原体サーベイランスにおいて,本法は 3 種の Bordetella 属菌の検査を同時にかつ低コストで行うことができた.
著者
新庄 正宜 岩田 敏 佐藤 吉壮 秋田 博伸 砂川 慶介
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.5, pp.582-591, 2012-09-20 (Released:2013-04-25)
参考文献数
17
被引用文献数
11 14

2009 年1 月から2010 年12 月までの2 年間に全国95 施設から小児細菌性髄炎314 症例(男児186,女児124,性別未報告4 例)が報告された.年齢別では0 歳児が51.2%(161/314)と半数を占めた.原因菌として,Haemophilus influenzae(1 カ月~5 歳)が53.2%(167/314)と最も多く,次いでStreptococcus pneumoniae (1 カ月~12 歳)が24.2%(76/314),Streptococcus agalactiae(4 カ月以下のみ),Escherichia coli(3 カ月以下のみ)と続いた.耐性菌の率は,H. influenzae で50.1%(78/153),S. pneumoniae で63.0%(46/73)であった.初期治療薬は,4 カ月未満ではampicillin(ABPC)+セフェム系薬ならびにカルバペネム系薬+その他のβ ラクタム系薬の2 剤を併用した症例が77.8%(42/54)と多く,4 カ月以降ではカルバペネム系薬+その他のβ ラクタム系薬の併用が76.4%(198/259)を占めた.最終治療薬としては,H. influenzae でcefotaxime(CTX)もしくはceftriaxone(CTRX),S. pneumoniae でカルバペネム系薬の単剤が最も多かった.致死率は2.0%(6/305)であった.インフルエンザ菌b 型ワクチン(以下,Hib ワクチン)を接種したのは 5 名のみで,いずれもH. influenzae 髄膜炎以外の髄膜炎を発症した.7 価肺炎球菌結合型ワクチン(以下, PCV7)の接種者はいなかった.Hib ワクチン,PCV7 の普及していない現時点では,小児細菌性髄膜炎の特徴に,ここ数年間大きな変化はなかった.
著者
山内 保生 長沢 浩平 多田 芳史 塚本 浩 吉沢 滋 真弓 武仁 仁保 喜之 草場 公宏
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.851-856, 1991-07-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus, SLE) に帯状疱疹 (herpes zoster, HZ) が高頻度に発症する要因を解明するために水痘一帯状疱疹ウイルス (varicella-zoster virus, VZV) に対する免疫能を検討した. 当科のSLE患者119例中56例 (47%) と高率にHZの罹患がみられた. 9例はSLE診断以前にHZに罹患していた. SLE診断後のHZの発症頻度は100 person-yearsあたり5.45であった. HZ罹患と腎障害の関連はみられなかった.VZVに対する中和抗体価, CF抗体価の検討ではSLEでHZの既往のある例は, HZ既往のないSLEや健常者よりも有意に高い抗体価がみられた. VZV抗原に対する皮内反応は, SLE患者ではHZの既往の有無にかかわらず健常者よりも有意に低い陽性率を示した. また, 皮内反応時の副腎皮質ステロイド剤 (ス剤) の使用量が1日10mg以上の群はそれ未満の群に較べて有意に低い皮内反応の陽性率を示したが, ス剤を全く使用していない未治療SLEでも, 皮内反応陽性率は低下していた.SLEにHZが合併する1つの重要な要因として細胞性免疫能の低下が関与していると考えられた. 細胞性免疫能は, SLE自体による低下のほか, ス剤にも強く影響されていることが示唆された.
著者
中沢 克彦 加藤 康雄 坂井 春男
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.998-1001, 1992-07-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

We report a case of eosinophilic meningitis caused by Angiostrongylus cantonesis.This patient, a 50-year-old male, had been eating uncooked slugs for 40 years. His chief complaints on admission were headache, fever and general fatigue. Neurological examination and CT findings were normal, but the CSF contained increased cells, most of which were eosinophilic cells. The presence of eosinophilic cells in the CSF is by itself abnormal. We therefore suspected eosinophilic meningitis and performed immunological tests. Since the geletin particle method and immunological antigen antibody reaction were positive. We diagnosed the patient as having eosinophilic meningitis caused by Angiostrongylus cantonesis.There are only 27 reported cases of this disease in Japan, and most of them have been reported in Okinawa-Prefecture.
著者
関 由喜 大西 弘夏 小野瀬 輝 菅谷 憲夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.90, no.4, pp.486-492, 2016-07-20 (Released:2018-02-23)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

インフルエンザワクチンはインフルエンザ予防の基本であるがワクチン効果(vaccine effectiveness:以下VE)は一定せずに毎年異なっている.そこで我々は2013/14 シーズンと2014/15 シーズンに成人のインフルインフルエンザワクチンはインフルエンザ予防の基本であるがワクチン効果(vaccine effectiveness:以下VE)は一定せずに毎年異なっている.そこで我々は2013/14シーズンと2014/15シーズンに成人のインフルエンザワクチンの有効性をワクチン接種歴の問診とインフルエンザ迅速診断検査結果から診断陰性例コントロール試験を用いて計算した. 2013/14シーズンのインフルエンザVEはインフルエンザ全体(A型とB型)では54.9%(95%信頼区間(Confidence Interval:以下CI):24.2~73.2)で,A型に対しては56.6%(95%CI:19.1~76.7),B型に対しては56.8%(95%CI:5.8~80.2)と統計学的に有意なVEを認めたが,2014/15シーズンはインフルエンザ全体に対しても,A型に対してもVEが見られなかった.またB型は患者が少なく検討ができなかった. 2014/15シーズンにVEが低下した理由はシーズン中のインフルエンザ陽性患者の86.2%がA/H3N2であり,A/H3N2はワクチン製造過程に抗原性が変化しやすいこと,さらに自然界で大きな抗原連続変異を起こしたためと考えられた. 本法は日常診療の中で行えるがランダム化比較試験に匹敵する1)精度のある方法でありシーズン中にVE予測ができインフルエンザ予防対策の根幹になると考える.
著者
岡田 隆文 松原 啓太 松島 崇浩 込山 修 濱野(長谷川) 恵子 諸角 美由紀 千葉 菜穂子 生方 公子 砂川 慶介 岩田 敏
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.84, no.1, pp.42-47, 2010-01-20 (Released:2017-08-16)
参考文献数
20
被引用文献数
4 4

2004 年7 月1 日から2005 年12 月31 日の間に,独立行政法人国立病院機構東京医療センター小児科を受診し,肺炎と診断された720 症例を対象とした.それらの症例から採取された上咽頭拭い液から,real time PCR 法でrespiratory syncytial virus(RSV)は75 例(10.4%),human metapneumovirus(hMPV)は19例(2.6%)検出された.RSV は11 月から1 月にかけて,hMPV は3 月から6 月にかけて多く検出された.平均年齢および標準偏差はRSV が1.3±1.4 歳,hMPV が3.0±3.1 歳で,両ウイルスの平均罹患年齢に有意差を認めた(p<0.05).臨床所見上,RSV 陽性例では鼻汁と喘鳴を来たす症例,hMPV 陽性例では高体温と喘鳴が遷延する症例が多く,両ウイルス間で有意差を認めた.発熱,咳嗽,嘔吐と下痢,有熱期間,初診時のCRP 値では,両ウイルス間に有意差を認めなかった.合併症の発生率はRSV 陽性例で49.3%,hMPV 陽性例で42.1%であった.RSV では急性中耳炎(32.0%),hMPV では熱性痙攣(15.8%)が多い傾向であった.以上の成績は,RSV あるいはhMPV に起因する小児市中肺炎例の鑑別診断上,有益な情報となり得ると考えられる.
著者
薩田 清明 眞貝 晃 長谷部 昭久
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.96-104, 1990

9小学校を対象に1987年, 1988年の2年連続して, 学級単位でみたワクチンの2回接種率と発熱を伴い欠席した者の延べ欠席率との関係について検討し, 次のような結果が得られた.<BR>1) 平均接種率は1987年の157学級の58.6%に対し, 1988年の151学級では29.9%を示し, 1987年のほうが有意に高いことが認められた.<BR>2) 一方, 平均延べ欠席率は1987年の1.524%に対し, 1988年は2.802%を示し, 1987年のほうが有意に低いことが認められた.<BR>3) 1987年では9校中7枚で接種率と延べ欠席率との間に有意の逆相関が認められた. すなわち, 接種率が高くなるにつれて延べ欠席率の低くなることが有意に認められた.<BR>4) しかし, 1988年ではいずれの学校でもそのような傾向は全く認められなかった.<BR>両年のこの差として考えられることは, 1987年の接種率が高かった上に, 流行株の変異度 (V<SUB>0</SUB>が82%) が小さかったこと. 一方, 1988年の接種率が低かったことに加えて, 変異度 (V<SUB>3</SUB>以上が78%) の大きいB型ウイルスの流行に起因しているものと考えられる.