著者
高田 浩次 安達 茂樹 大塚 隆嗣 辻 昭一郎 吉田 公彦 戸倉 夏木 中野 太郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.1, pp.25-28, 2022-01-20 (Released:2022-01-28)
参考文献数
8

The reported major adverse reactions to COVID-19 vaccination are fever, headache, and malaise, but the possibility of other adverse effects should be considered. We encountered a patient who developed facial nerve paralysis with aseptic meningitis after COVID-19 vaccination. The patient was clinically diagnosed as having Ramsay Hunt syndrome, but there is the possibility that the vaccination contributed to re-activation of the varicella-zoster virus. Immediate treatment should be undertaken for facial nerve paralysis as well as critical anaphylactic shock, and careful observations should be made for the possibility of delayed adverse reactions, such as facial paralysis, to COVID-19 vaccination.
著者
氏家 無限 加藤 康幸 黒木 淳 寺島 俊和 伊藤 稔之 麻岡 大裕 白野 倫徳 柿木 康孝
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.32-36, 2021-01-20 (Released:2021-08-01)
参考文献数
10

The novel coronavirus disease 2019 (COVID-19) was first reported to the World Health Organization by the WHO country office in China in December 2019 and has since become a worldwide pandemic. In Japan, COVID-19 is a designated infectious disease under the Infectious Disease Control Act, meaning that hospitalization or isolation measures are required for infected persons. It has been noted that in some cases, patients show positive PCR test results even after discharge from the hospital upon meeting the discharge criteria for COVID-19. However, so far, there is a lack of substantial evidence on the pathogenesis of reinfection or relapse in patients with COVID-19. We report 4 cases of COVID-19 who showed repeat-positive PCR test results for SARS-COV-2 after discharge from the hospital, and assessed their infectivity using clinical information collected via a public epidemiological survey. All 4 cases showed a repeat-positive PCR test results within 40 days of the initial onset of symptoms. All the PCR test results showed high Ct values of 33 or higher in the repeat-positive test. In addition, neutralizing antibodies were detected in all cases within 3 days from the date of the repeat-positive test. Furthermore, an epidemiological survey was conducted in 18 persons who were in close contact with the 4 cases, and 11 of them tested negative by the PCR test, and no case of secondary infection was found. Based on these findings, the risk of secondary infection from the 4 cases was considered as low. No specimens collected at the time of the first infection or virus culture test results were available for further evaluation. Issues remain to be resolved in respect of the systems needed for cooperation with healthcare providers and the laboratory testing required for the evaluation of re-infection. In order to further elucidate the pathogenesis of COVID-19, and to provide appropriate medical care, it is essential to evaluate the infectivity of patients with a repeat-positive PCR test and to accumulate further knowledge about the disease.
著者
中川 裕太 笠松 悠 福岡 里紗 森田 諒 山根 和彦 小西 啓司 麻岡 大裕 中河 秀憲 白野 倫徳 天羽 清子 外川 正生 後藤 哲志
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.94, no.6, pp.814-820, 2020-11-20 (Released:2021-06-10)
参考文献数
11

大阪市立総合医療センターに入院したCOVID-19関連肺炎13例において,再検例を含むのべ20件の胸部CT画像について検討した.全例で胸膜直下の病変とground-glass opacity(GGO)を認めたが,胸水,心嚢水,縦隔・肺門部リンパ節腫脹,空洞形成は認めなかった.また,酸素投与を要した3例は下葉のvolume loss とともに胸膜直下の病変と結合する気管支血管束の病変が認められた.発症時期から画像所見を分類するとGGOは発症早期(10日未満)に多く認められ,crazy-paving pattern,consolidation,背側のconsolidation の帯状の融合像は発症後期(10日以降)に多く認められた.鑑別疾患としてはインフルエンザなどによるウイルス性肺炎と器質化肺炎が重要と考えられた.詳細な問診による発症からの期間と胸部CT画像の特徴的な所見や経時的変化を合わせて理解することで,COVID-19の事前確率を適切に評価し,診断と治療および感染対策につなげることが重要である.
著者
渡辺 実 野田 伸司 山田 不二造 藤本 進
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.367-372, 1981-05-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1

生体試料中のウイルスに対するエタノールの不活化作用について研究を行つた.エタノールの反応に十分な水分が含まれている限り, 液相および固相, いずれの生体試料中においても, エタノールのウイルス不活化作用は, エタノールの濃度に比例して上昇する. 血清原液およびPBS中のポリオウイルスは, いずれも90%エタノールによつて10秒で不活化を受けるが, 70%エタノールによつては, 前者は1分, 後者は10分, 即ち10倍の感作時間を必要とし, 血清による阻害効果が著明であつた: また凝固家兎血液およびHeLa細胞に感染したポリオウイルスは, いずれも90~99.5%エタノールにより速やかに感染価の低下が示されるが, 80%以下の濃度では不活化の進行は緩やかであつた.これに対し乾燥血清中のウイルスには, 高濃度のエタノールによる不活化効果は低く, 99.5%エタノールには殆どウイルス不活化作用は認められなかつた. しかしこの条件下においても70-80%エタノールのウイルス不活化効果は最強ではなく, 乾燥血清中のNDVおよびワクチニアウイルスは40~60%エタノールによつて最も高い不活化効果が示された.最も効果的な消毒が要求される場合には, 被消毒物件の水分およびウイルスの種類に応じたエタノール濃度の選択が必要と思われる.
著者
廣津 伸夫 長谷川 貴大 税所 優 村手 純子 池松 秀之 岩城 紀男 河合 直樹 柏木 征三郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.117-125, 2014-01-20 (Released:2016-09-27)
参考文献数
15

発熱疾患の鑑別には末梢血検査が行われ,細菌感染においてその診断および治療効果の判定に有用な手段となっているが,ウイルス感染においてはその検討は少なく,明確な見解はない.このたび,2004/05 年度から2009/10 年度に至る発熱疾患に対するルーチンの末梢血検査(白血球数とその分画およびCRP)の蓄積を後ろ向きに検討した結果,季節性インフルエンザA 型(H3N2 及びH1N1 を含む,以下季節性A 型)614 例と2009/10 年のパンデミックインフルエンザ(H1N1)2009(以下,A/H1N1/pdm09)548 例の述べ1,162 例からインフルエンザの特徴的な所見が示され両者の違いも明らかとなった. 検討に当たっては,白血球とその分画は年齢により異なるため,全症例を一般化加法モデル(GAM,generalized additive model)を用いて年齢調整を行い,解析を実施した.インフルエンザの感染初期には顆粒球の増加,リンパ球の減少が確認され,その後顆粒球は減少,リンパ球は増加に転じることが観察された.顆粒球数では,季節性A 型に対してA/H1N1/pdm09 は,治療開始前は0.93 倍,治療後は0.82 倍とそれぞれで統計的に有意に低く推移していた.リンパ球数の比率は,治療開始前,治療後のいずれも,1.12~1.30 倍であり,統計的に有意に高い推移であった.CRP は発症後24 時間から36 時間にピークを迎え,その平均値はA/H1N1/pdm09 で0.88mg/dL,季節性A 型で1.53mg/dL であった. 末梢血は疾病の時間的経過,合併症の併発,治療による修飾,治療薬の副次作用等によって変動する.このようなインフルエンザ本来の末梢血の白血球分画の変化・動態を知ることは,診断時(特に迅速診断の要否の判断),経過中の合併症や副作用の出現を把握するために重要と考え報告する.
著者
寺中 さやか 阿部 克昭 静野 健一 寺井 勝
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.94, no.3, pp.310-316, 2020-05-20 (Released:2020-12-03)
参考文献数
15

2009 年から2018 年までの10 年間に当院小児科において有熱性尿路感染症の診断で入院した患者320 名・339 例の尿より分離された腸内細菌科細菌341 株を対象とし抗菌薬感受性を調査した.入院時の年齢は日齢11~14 歳9 カ月(中央値:日齢174),男児195 例,女児144 例であった.菌株はEscherichia coli が297 株(87.1%)で大半を占めた.extended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生菌は16 株(4.7%)であり,すべてE. coli であった.CTX 耐性率は2014 年までは2~4% と低値で安定していたが,2015 年以降耐性株が増加し,直近2 年は10% 以上を占めた.LVFX 耐性率も近年上昇傾向をみとめ2018 年は13% を超えた.一方でCMZ は感性率90% 以上を保っていた.TAZ/PIPC の感性率は2010 年以降95% 以上,MEPM の感性率は全期間100% であった. 小児における腸内細菌科細菌の抗菌薬耐性化は現時点では成人と比較すると深刻ではないといえるが,ESBL 産生菌やAmpC 過剰産生菌など多剤耐性菌の増加傾向をみとめており,今後も継続して抗菌薬感受性の推移を監視することが必要と考えられた.
著者
山本 徳栄 浦辺 研一 高岡 正敏 中澤 清明 後藤 敦 羽賀 道信 渕上 博司 木俣 勲 井関 基弘
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.518-526, 2000-06-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
17
被引用文献数
14 28

水道水によるクリプトスポリジウム症の大規模な集団感染が1994年6月に埼玉県越生町で発生した. この事件の疫学的調査の結果と対応を総括した. 全住民 (13, 809名) に対する健康調査を実施した結果, 回答者12, 345名のうち8, 812名 (714%) が下痢や腹痛を発病し, 2, 856名が病院で外来診療を受け, 24名が入院した. 町外からの来訪者も感染し, 感染者の総数は9, 140名に達した. 流行時に1日だけ町内に滞在し, 感染した14名の潜伏期間は平均4.4日 (5日~8日) であり, 7名はコツプに半分~2杯の水道水を飲用して感染した。小・中学生の発症例1, 013名の有病期間は平均52日 (1~15日) であり, 発熱した469名の体温は平均37.8℃ (34.7~40.3℃) であった. また, 成人187名の有病期間は平均48日 (1~18日) であったCryptosporidium parvumのオーシストは患者便から検出され, 水道水, 浄水場の原水 (河川水), 浄水場のすぐ上流に位置する下水処理施設の放流水からも検出された. 流行の発生前, 渇水により河川水の水量が著しく減少していたが, 夜間の豪両で原水の濁度が急上昇した. しかし, 不適切な浄水処理により水道水が汚染されたことが, 集団感染の発端となった. また, 患者便に含まれる大量のオーシストが下水処理場から河川水 (水道原水) に流入し, 水道水を介してさらに感染者が増加するという循環が流行の規模を拡大させた.
著者
黒岩 豊秋 岩永 正明 小張 一峰 東恩納 厚 金城 福則 斉藤 厚
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.64, no.11, pp.1425-1432, 1990-11-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
25
被引用文献数
7 9

抗菌剤投与による糞便内菌叢の変動とそれに対する生菌性整腸剤併用の影響を検討した. 消化管に特記すべき疾患を持たずに, 抗菌剤療法を受けた成人入院患者を対象とした.抗菌剤投与前の患者69名の糞便内菌叢は, 各菌属の検出率・検出菌数とも光岡らの報告した健康成人のものとほぼ同一であり, 正常菌叢を反映しているものと思われた.抗菌剤投与後, Enterococcus, Yeastsを除く全ての菌属で検出率の減少が観察され, 検出された菌属ででも多くの場合, その菌数は減少する傾向がみられた. このような糞便内菌叢の変動は, 生菌性整腸剤 (ミヤBM: Clostridium butyricum M588) を併用した群においても同様に観察された. また, ミヤBM投与群において, 抗菌剤投与にもかかわらずC.butyricum M588株は, 70%の患者糞便中から分離された. そのうち約半数は, 芽胞形より非芽胞形の菌数が多く, 投与された生菌が消化管内において発芽していることを示していた.糞便中C.difficileまたはToxin Aの検出率は, 抗菌剤投与後著しく増加したが, その増加はミヤBMの併用により著明に抑制された.
著者
尾田 正仁 片山 充哉 森 伸晃
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.96-100, 2022-05-20 (Released:2022-05-20)
参考文献数
11

Patients who bypass medical institutions to obtain drugs to treat human immunodeficiency virus (HIV) infections often take the medications irregularly or self-interrupt their own therapy; this is problematic because it leads to drug resistance. In addition, the presence/absence of drug resistance is a determinant of the success of HIV treatment. Thus, testing for drug resistance is essential for initial drug selection.We present the case of a highly drug-resistant HIV infection in a patient who irregularly took self-prescribed pre-exposure prophylaxis medications (lamivudine/zidovudine/nevirapine). We also showed that dolutegravir and darunavir/ritonavir might be effective as initial therapies in such patients.
著者
加藤 孝治 中村 千衣 天野 冨貴子 田中 康之 上田 康夫
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.872-876, 1982-10-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
11
被引用文献数
2 4

世界の交通網の発達により, 各地の種々の風土病を観察する機会が多くなったが, 診断困難な場合もある.症例は, 22歳白人男子学生で, 約2年にわたり, 欧州, 中近東, バングラディシュ, ネパール, インドを経て来日した. 彼は, インドでA型肝炎とサルモネラ腸炎に罹患し来日し入院した. この治療中に三日熱マラリァを発症した.インド出国時に多数の蚊に刺され, その17日後より5日間発熱し解熱した. 35日目に再度発熱し, 48時間間隔の定型的な熱型と, 三日熱マラリア原虫を血液像で認め, マラリアと診断した.抗マラリア治療終了後, 1週間目に行なった骨髄穿刺では, 環状体の原虫を少数認めたが, 死滅し, 完治するものと考えられる.今後国外旅行者はさらに増加し, A型肝炎, マラリアを含め, 各地の風土病の発生が増加すると思われる.国外旅行者の発症に関しては, 充分注意して診断する必要がある. 又治療薬剤については, 種々の制限があるが, 予防投薬や, ワクチンの開発が特に望まれる.
著者
齋藤 淑子 内藤 俊夫 久木野 純子 奥村 徹 関谷 栄 礒沼 弘 渡邉 一功 檀原 高 林田 康男
出版者
社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.70-75, 2004-01-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

We report a 32-year-old female with eating disorder whose body weight was only 20kg. She was admitted to the hospital with severe low nutrition, low proteinemia, liver dysfunction, hypokalemia and hypoglycemia. On the third hospital day, she had a high fever and Campylobacter fetus subsp. fetus (C. fetus) was isolated from the blood. After treatment with meropenem (1g/day) intravenous drip injection, her condition improved.C. fetus sepsis is not common disease in Japan. A review of 37 cases of this disease in Japan revealed that the age range of adult patients was 20 to 60 years old. The male-to-female ratio was 4.6 to 1.0. Seventy-eight percent of the patients had underlying diseases which were composed of 11 patients with liver disease, 6 patients with blood dyscrasia and some with diabetes mellitus, heart disease, other malignant tumor and collagen disease. There was no case with eating disorder. All apparent sources of infection in Japan originate from eating raw food. Gastrointestinal symptoms were observed in only 16% of the patients. Recent recommendations for the treatment of C. fetus sepsis are to use gentamicin, imipenem and meropenem. Some strains of C. fetus have resistance to erythromycin, ciprofloxacin. The mortality of this infection is 14% in Japan.
著者
黒木 俊郎 八木田 健司 藪内 英子 縣 邦雄 石間 智生 勝部 泰次 遠藤 卓郎
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.1050-1055, 1998-10-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
20
被引用文献数
14 12

神奈川県下の12温泉施設30浴槽の浴槽水中のLegionella属菌と自由生活性アメーバの生息実態を調査した. 11施設の21浴槽 (21/30: 70.0%) からLegionella pneumopkilaが101CFU/100ml (6施設7浴槽: 23.3%), 102CFU/100ml (7方缶設10浴槽: 33.3%) および103CFU/100ml (2施設4浴槽: 13.3%) の菌数で検出された.決定できたL. pneumopkilaの血清群は3, 4, 5, 6群で4群株が最も検出頻度が高かった.アメーバは11施設の22浴槽 (22/30: 73.3%) から5属が検出され, その主なものはNaegleria属 (7施設14浴槽: 46.7%), Plalyamoeba属 (7施設10浴槽: 33.3%), Acanthamoeba属 (3施設3浴槽: 10.0%) であった.Legionella属菌の宿主アメーバのいずれかが検出された浴槽は合わせて9施設の17浴槽 (17/30: 56.7%) であった.温泉のいずれの水質においてもLegionella属菌あるいは自由生活性アメーバが高率に検出されたが, 標本数が少ないため生息と水質との間の関係の有無は判断できなかった.今回の調査ではNaegleria lovaniensisが13浴槽から分離された. 原発性アメーバ性髄膜脳炎の病原体であるNaegleria fowleriはN.lovaniensisと生息環境を同じくすることが知られており, わが国にも存在することが確認されていることから, 今後とも十分な監視が必要である.
著者
永井 洋子 原 規子 前田 正 岩田 基秀 土門 薫 石井 孝政 吉澤 定子 秋元 達雄 加藤 博人 瓜田 純久 中西 員茂 杉本 元信
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.45-51, 2009-01-20 (Released:2016-02-15)
参考文献数
19
被引用文献数
2 1

成人ヒトパルボウイルスB19 感染症は典型的経過をとる小児と違い,多彩な症状を呈するため診断が困難なことも少なくない.本検討は,2 年間で11,040 例の当科初診患者のうち発熱,皮疹,浮腫,関節痛,筋肉痛などを主訴とする78 例についてヒトパルボB19 ウイルス感染症を疑って抗体価を測定し,血中IgM 抗体陽性(抗体価8.89±7.86 平均±標準偏差,EIA 法)で,同感染症と診断した15 例について,臨床症状および検査所見の詳細な検討を行ったものである.検討結果より「ヒトパルボウイルスB19 抗体価を測定するべき症例の条件(以下条件とする)を次のように作成した.すなわち,1.CRP が低値か陰性,白血球数上昇なし,2.短期間出現する粟粒大の紅斑(顔面は稀),3.上下肢の関節痛や筋肉痛(必ずしも対称性でない),4.四肢とくに指先,足首,足底の浮腫,5.患児との接触,6.倦怠感,頭痛,発熱など感冒様症状,7.補体価が正常か低値,自己抗体陽性.この7 項目のうち1 を必須項目とし,残り6 項目のうち3 項目以上を満たす症例を「条件」を満足する例とした.78 例について後方視的にこの「条件」を用いた場合の感度,特異度,陽性反応的中度,陰性反応的中度は,それぞれ100%(15/15),88.9%(56/63),68.1%/22),100%(56/56)であった.以上より上記の抗体価測定の「条件」は抗体価を測定すべき症例を選択するのに十分有用であると思われた.成人ヒトパルボウイルス感染症では重症例,遷延例があるため見逃すことなく確定診断をつけることが必要である.
著者
星野 直 石原 唯史 岡田 広 松永 綾子 粒良 昌弘 田邉 良 木村 翔 石和田 稔彦 中島 弘道
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.18-25, 2023-01-20 (Released:2023-01-20)
参考文献数
22

千葉県小児災害対策ネットワーク参加施設(38医療機関,県内の全2次医療圏をカバー)を対象に,千葉県の小児新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)入院例について後方視的に検討した.流行第1波~第5波(2020年3月~2021年12月)は観察研究で集計した155例(年齢中央値6歳10カ月)を,第6波(2022年1月~5月)はメーリングリストで集計した354例(同3歳)を対象とした.ピーク月の比較で,第6波は第5波までの5倍の入院数を認めた.第5波までは軽症例(発熱のみ,上気道炎,無症状)が9割を占めたが,重症肺炎が1例見られた.一方,第6波では,痙攣(19.5%),クループ症状(4.5%)での入院例が増加した.痙攣のうち重積が42%,群発が30.4%を占め,3例が脳炎・脳症と診断された.また,この3例を含む13例(3.7%)が集中治療室管理またはそれに準ずる治療を要した.第6波での新型コロナワクチン2回接種完了者は,5~11歳で2.6%,12歳以上で40%と低率であった.このように,第6波の主体であったオミクロン株流行期には,小児COVID-19患者の症状に変化が見られた.また,入院例での新型コロナワクチン接種率は低く,重症化予防の観点から,小児へのワクチン接種の積極的推奨の重要性が示唆された.
著者
藤井 良知 平岩 幹男 野中 千鶴 小林 裕
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.592-601, 1986-06-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
14
被引用文献数
15 9

小林らの1966年から16年間の小児細菌性髄膜炎と比較し本邦に於ける1979年以降6年間の小児細菌性髄膜炎の現況を把握する目的で同じ施設107についてアンケート調査を行った.1,246名の症例を集計出来たが入院患者に対する比率は年次的に1984年の0.31%まで緩かな減少傾向を続けており, また地域差も見られた.新生児期24.8%と最も頻度が高く以降漸減するが4歳未満までに総数の84.7%が含まれ, この年齢別累積頻度は小林の報告と殆ど一致する.男女比は平均1.62: 1であった.起炎菌は3ヵ月未満の新生児・乳児ではE.coliとGBSが集積し, 3ヵ月以降ではS.pneimoniaeとH.influenzaeが集積してこの4菌種で菌判明例の70.1%を占め, 第5位のSmmsは各年齢に分散した.結核菌14, 真菌3, 嫌気性菌5などを除きグラム陽性菌と同陰性菌の比は1: 1.2であり少数宛ながら極めて多様なグラム陰性桿菌が検出された.髄膜炎菌22, リステリアは18件検出された.複数菌検出例は10例に認められた.起炎菌不明例は279例で年次的に3ヵ月未満群で菌判明率が梢高くなる傾向が見られた.
著者
田中 真奈実 入江 勇治 安羅岡 一男 佐藤 章仁 松本 繁 白田 保夫 中村 尚志 河合 美枝子 海老原 誠
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.156-163, 1988-02-20 (Released:2011-09-07)
参考文献数
16

関東地方利根川流域で感染した慢性日本住血吸虫症について, 茨城県内診断例12例を中心に, その診断法・病態・治療適応について検討した. 患者は, すべて海外渡航歴・利根川以外の本症流行地への旅行歴はなく, 取手市戸頭, 稲敷郡河内村, 筑波郡谷和原村等かつて本症の流行が報じられた地域の在住者である. 血中抗住血吸虫抗体及び糞便中の虫卵は検査したすべての症例で陰性であった. 8例の患者の確定診断は, 本症とは異なる基礎疾患で摘出された臓器 (胃・十二指腸等上部消化管及び肝・胆道系) 中の日本住血吸虫虫卵の病理学的検索によってなされた. しかし, 茨城県取手市戸頭の3症例と筑波郡伊奈町の1症例は, 人間ドックで画像診断学的に診断されており, 流行地における本症患者のスクリーニングには, 肝エコーにおける魚鱗状パターン, 肝CT像における被膜石灰化像・隔壁様石灰化像等特徴的所見も有用であることが示された. また, その病態は, 基礎疾患によって異なっており, 胃癌・肝癌等悪性腫瘍との合併例は4例であった. プラジカンテルによる治療適応の判定には, 虫卵排出の有無及び虫卵の孵化能の検索が必要であるが, 疑わしい症例には生検材料による孵化試験をすることが必要である. 病理組織学的検索だけでは, 感染時期及び孵化能の判定は困難である.
著者
久高 潤 堀川 和美 瓜生 佳世 松雪 星子 緒方 喜久代 河野 喜美子 山口 仁孝 山崎 省吾 渡辺 治雄 岩永 正明
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.79, no.11, pp.864-870, 2005-11-20 (Released:2011-02-07)
参考文献数
19
被引用文献数
5 7

食中毒及び感染性胃腸炎の潜伏時間と下痢, 嘔吐, 発熱, 腹痛, 頭痛等の臨床症状を集計し検討した.特に発生頻度の高い10病原体 (Norovirus, Salmonella, Vibrio Parahaemolyticus, Campylobacter jejuni, Clostridium perfringens, 腸管出血性大腸菌 (STEC), 腸管毒素原性大腸 (ETEC), Shigella sonnei/flex-neri (Shigella), Staphylococcus aureus, 嘔吐型Bacillus cereus) について解析を行った. 対象としたのは2000年1月から2004年12月までに九州10地区の衛生研究所管内で発生した646症例である. 調査の結果, 平均潜伏時間が最も短かったのはB. cereus (0.8h) 次いでS. aureus (3.3h), C.perfringens (10.7h) とV. parahaemolyticus (164h) であった. なかでもS. aurcusおよびB. cereusは6時間以内にV. para-haemolyticus, C. perfringensは24時問以内にほぼ全例が発症していた. 血便を示す例はSTECとShig-ella以外では殆ど見られなかった. 嘔吐の発現は高頻度群と低頻度群にはっきりと区別され, 高頻度群としてはS.aureusとB. cereusで, ほぼ全症例に見られNorovirusの71.5%, V.parahaemolyticusの56.1%が続いた. 低頻度群では最高でもC. perfringensの22.0%でありETEC, STECは5%前後であった. O157STECとO157以外のSTEC株を比較すると血便・腹痛・嘔吐では有意にO157に差が見られた (P-値0.01以下).今回の調査で各病原体による臨床症状の発現頻度を具体的な数値として示すことができたほか, 潜伏時間, 血便, 嘔吐, 発熱の4項目では病原体別に特徴的な発現頻度を有する事が判明した. 今回の結果は医療機関を受診するまでもない軽症者から入院を要した重症者, また輻広い年代が含まれることから, 保健所や衛生研究所が集団食中毒等の原因調査を行う際の有用な資料になると思われた.