著者
青木 賢人
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.189-198, 2000-06-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
31
被引用文献数
4 10

木曽山脈北部の千畳敷カールおよび濃ヶ池カールのカール底に分布するターミナルモレーン上に露出する複数の巨礫に対し,宇宙線生成核種の一つである10Beを用いた露出年代測定法を適用し,モレーン構成礫の生産年代を測定した.AMSによる10Be測定から得られた露出年代値の多くが17~19kaを示し,両モレーンは最終氷期極相期に形成されたことが示された.また,両モレーンは構成礫の風化皮膜の厚さが等しく,モレーン構成礫の風化皮膜の厚さを用いた相対年代法(WRT年代法)による年代推定結果と矛盾がないことが確認された.
著者
藤根 久 遠藤 邦彦 鈴木 正章 吉本 充宏 鈴木 茂 中村 賢太郎 伊藤 茂 山形 秀樹 Lomtatidze Zaur 横田 彰宏 千葉 達朗 小杉 康
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.253-270, 2016-12-01 (Released:2017-01-12)
参考文献数
46
被引用文献数
3

有珠火山の南麓には善光寺岩屑なだれ堆積物(Zd)が多数の流れ山をなして分布する.Zdは従来,9kaから6kaに発生した有珠山外輪山の崩壊によるとされてきた.海岸の近くの岩屑なだれの流れ山に囲まれた標高約4.5mの低地においてボーリングコアを2本採取し,その層序,年代,堆積環境,植生変遷を検討した.両コアはほぼ岩相が同様で,標高+2~-6mにわたり連続的に泥炭層および有機質シルト・粘土層が見られた.AMS法による14C年代測定の結果,最下部の有機質シルト・粘土層から20calkaBP頃の年代が得られた.泥炭層下部には15calkaBP頃に濁川カルデラから飛来した濁川テフラ(Ng)が,泥炭層中部には駒ヶ岳から6.6calkaBPに飛来した駒ヶ岳gテフラ(Ko-g)が,同上部には白頭山苫小牧火山灰(B-Tm)などのテフラが認められた.コアの基底には洞爺火砕流堆積物(Toya(pfl))と同質の軽石に富む軽石質火山灰層が捉えられた.珪藻化石は,20~10calkaBPに湖沼~沼沢湿地が継続し,10calkaBP頃に沼沢湿地に移行し,以後0.4calkaBPまで継続したことを示し,先行研究で明らかにされている最終氷期から完新世にかけての北海道の植生変遷と矛盾しない.花粉化石は,20~15calkaBPに亜寒帯性針葉樹林が卓越し,15calkaBP頃からカバノキ属が増大する移行期を挟み,10calkaBP頃に温帯落葉広葉樹林へと推移したことを示した.以上から,2本のコアの泥炭層および有機質シルト・粘土層は,Zdの岩屑なだれで閉塞された凹地に形成された湖沼~沼沢湿地の堆積物で,岩屑なだれの発生は20calkaBPのLGM(最終氷期最寒冷期)の頃である可能性が極めて強い.また,有珠外輪山の活動は20calkaBPより以前に始まって山体を形成していたことになる.
著者
松下 まり子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.301-310, 2002-08-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
33
被引用文献数
3 10

大隅半島肝属平野における完新世堆積物(KYコア)の花粉分析を行い,肝属川流域の照葉樹林の発達過程を明らかにし,6,500yrs BPに起こった鬼界アカホヤ噴火の植生への影響について考察した.検出されたおもな木本花粉の産出状況に基づき,下位よりKY-I,KY-II,KY-III,KY-IVの4つの花粉化石群帯が区分された.これらに対応して4つの森林期,すなわち古い方から落葉広葉樹林期,エノキ-ムクノキ林を伴う落葉広葉樹林-常緑広葉樹林移行期,照葉樹林(シイ林)期,照葉樹林(シイ-カシ林)期が設定された.当地域での照葉樹林の発達は,9,200yrs BPのKY-II帯に始まっており,シイを主体とする照葉樹林は8,000yrs BPに成立し,鬼界アカホヤ噴火に至るまでの1,500年間安定して繁栄を続ける(KY-III帯).鬼界アカホヤ噴火により一旦途絶えた森林は6,200yrs BP(6,570yrs BPを大気-海水リザーバー効果補正)にはすでにシイ-カシ林として回復し,4,000yrs BPまで維持される(KY-IV帯).当地域は,幸屋火砕流(K-Ky)到達域の北限に位置し,火砕流堆積物の厚さや分布は一様でなく,したがって鬼界アカホヤ噴火の影響も一律ではなかったであろうが,肝属川流域全体をみると,照葉樹林は比較的早く,少なくとも100~300年程度で回復したものと思われる.
著者
鳴橋 龍太郎 須貝 俊彦 藤原 治 粟田 泰夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.317-330, 2004-10-01 (Released:2009-08-21)
参考文献数
27
被引用文献数
7 9

プレート内部の活断層における活動間隔の規則性を検討する目的で,桑名断層の完新世活動史を群列ボーリングコアの層相解析およびコア中の82個の14C年代測定結果を基に復元した.断層を挾んだコア間において,対比線(等時間線)を多数認定し,対比線に挾まれた同時代地層の層厚を比較することによって,約7千年前以降に少なくとも6回の断層変位イベントが解読された.さらに,高精度でイベントの回数と時期を検出するため,沈降(下盤)側と隆起(上盤)側それぞれの堆積速度の時間変化を詳しく比較・検討した.その結果,下盤側の堆積速度が上盤側のそれとほぼ等しい時期(A)と,前者が後者より有意に大きい時期(B)とが交互に現れることが判明した.(A)から(B)への変化は断層変位の発生時期を,(B)は断層崖が埋積されていく期間を示すと判断される.この解釈に基づくと,桑名断層には過去約7千年間に,有史以降の2回を含めて6ないし7回の活動を認定しうる.そして,桑名断層の活動間隔は平均約1,000年,平均変位速度は約1mm/yであるといえる.
著者
ブルーム アーサー 朴 龍安
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.77-84, 1985
被引用文献数
37

韓国の黄海沿岸に位置するたくさんの小さい入江 (三角江) は, 20世紀初期以来, 干拓が行なわれてきた. これらの入江では, 薄い水田土壌及び河成の堆積物の下に, 有機質に富む河口成堆積物が風化した基盤の砕屑物を覆っている. 河口成堆積物の基部約15cmは, とくにたくさんの流木の破片を含み, これは完新世海面上昇期の高潮位に形成された泥炭質泥層と混ざっている. これらの基底付近の河口成泥層のうち, 8試料の<sup>14</sup>C年代が得られた. その年代と深度に基づいて韓半島黄海沿岸における完新世海水準変化曲線が復元された.<br>8,600y.B.P.から4,800y.B.P.の間, 韓国の黄海海岸は約1.6mm/年の平均速度で沈水した. その後, 沈水速度は約0.4mm/年に減少した. 韓国南東部の浦項-梁山地塊は, その東岸を一連の海成段丘で縁取られている. これらの海成段丘の年代はまだわからないが, おそらく少くとも最終間氷期 (約125,000年前) にさかのぼると考えられる. 後期更新世のこの地塊の隆起速度は約0.1m/1,000年と推定される.
著者
檜垣 大助
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.27-45, 1987-05-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
57
被引用文献数
10 6

In this paper mass movement and slope formation in the central Kitakami Mountains are discussed with special reference to their periods. Many tephra layers of the late Quaternary found in the study area enable to study the periods of mass movement and slope formation tephrochronologically (Fig. 2).The slopes are classified as follows (Fig. 3). (1) gentle slopes on the summits, (2) piedmont gentle slopes, (3) fan-like gentle slopes, (4) smooth crest slopes, (5) upper head hollow slopes (continuing smoothly from the surrounding slopes), (6) lower head hollow slopes (smaller than (5), surrounded by clear breaks in slopes), (7) talus and alluvial cone, (8) other slopes. In the study area two periods of mass movement, chiefly by solifluction, are confirmed during the Last Glacial.The first period was in the early Last Glacial Stage, perhaps around 50, 000y.B.P., and the second was in the late Glacial Stage, between 30, 000 and 10, 000y.B.P..These periods of mass movement correspond to those of the involutions under periglacial climate in the Northern Kitakami Lowland area (Endo, 1977) (Fig. 7).In the study area not only were well-jointed bedrocks such as shale, slate, and schist susceptible to frost shatterin, bnt also fallen volcanic ash and soil produced from deep weathered bedrock were also susceptible to solifluction.Gentle slopes on the summits and smooth crest slopes have been formed by bedrock frost shattering and solifluction in these periods of mass movement by surface processes. Gentle piedmont slopes have been formed by solifluction. Upper head hollow slopes were developed as smoothly concave profiles by debris accumulation. Fan-like gentle slopes were developed chiefly by slope wash (partly by solifluction in the Last Glacial Stage) at the same time.Most of the piedmont gentle slopes and fan-like gentle slopes began to form in the early Last Glacial Stage or in the cold period before the Last Interglacial Stage, and the deposits of the late last Glacial Stage, which is generally recognized as the maximum period of the last Glacial Stage in Japan, are only 0.5-2.0m thick.During the warming period from the latest Pleistocene to Holocene, landslides have formed lower head hollow slopes and alluvial cones have been formed at the outlet of valleys with small river basins.
著者
岩田 修二
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.275-296, 2014
被引用文献数
3

日本アルプスの氷河地形研究における転向点1(1940年)は,発見時代の多様な氷河地形を今村学郎がアルプス型氷河地形だけに限定した時点である.転向点2(1963年)は,空中写真判読による日本アルプス全域の氷河地形分布図を五百沢智也が発表した時点である.その後,日本アルプスの氷河地形研究は大きく進展したが,転向点3(2013年)は,「地すべり研究グループ」によって複数の氷河地形がランドスライド地形と認定された時点である.転向点3以後における日本アルプスの氷河地形研究の課題は:1.露頭での詳細調査による氷河堆積物とランドスライド堆積物との識別,2.白馬岳北方山域での氷河地形とランドスライド地形との峻別,3.白馬岳北方山域での山頂氷帽の証拠発見,4.剱岳の雪渓氷河や後立山連峰のトルキスタン型氷河がつくる氷河地形の解明である.つまり,急峻な山地での氷河による侵食・堆積作用とその結果できる地形を見直す必要がある.
著者
河村 善也
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.251-257, 1998-07-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
29
被引用文献数
20 39

第四紀における日本列島への哺乳類の移動を本州・四国・九州と北海道,琉球列島という3つの生物地理区に分けて考察した.本州・四国・九州地域では,長鼻類化石の生層序学的研究によって,次の3種のゾウが最初に出現した時期が明らかにされている.すなわち,シガゾウの出現は1.2~1.0Ma頃,トウヨウゾウの出現は0.5Ma頃,ナウマンゾウの出現は0.3Ma頃である.これらのゾウの出現は,それらが近隣の大陸地域から移入してきたことを示し,またそのような移入を可能にする陸橋の形成を示唆する.ナウマンゾウの移入期以後,本州・四国・九州地域は大陸や北海道からずっと隔離されてきたと考えられる.北海道では,化石の記録が本州・四国・九州よりはるかに少ない.北海道の後期更新世の哺乳類は,ナウマンゾウ,プリミゲニウスゾウ,ヤベオオツノジカといった3種の大型草食獣で代表される.そのうち,ナウマンゾウとヤベオオツノジカは,本州・四国・九州地域から0.3Ma頃に移入した可能性があり,プリミゲニウスゾウは後期更新世後半にシベリアからサハリン経由で移入したと考えられる.琉球列島では,更新世の化石記録は大部分が後期更新世のものである.琉球列島北部の後期更新世の動物相では固有の要素が卓越しているが,それらはおそらく更新世以前にこの地域に移入したものであろう.琉球列島南部の後期更新世の動物群は,中期あるいは後期更新世に移入した種類と,より早い時期に移入した種類から成り立っている.
著者
森脇 広 松島 義章 町田 洋 岩井 雅夫 新井 房夫 藤原 治
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.253-268, 2002-08-01
被引用文献数
2 7

姶良カルデラ北西縁の平野を対象に,完新世の地形発達および相対的海水準変動,地殻変動を,地形と堆積物の観察,<sup>14</sup>C年代測定,テフラ分析,考古遺跡,貝化石と珪藻化石の分析結果にもとづいて検討した.3面に区分される完新世海成段丘は,それぞれ7,300cal BP(6,500yrs BP)~3,500yrs BP,3,000~2,000BP,古墳時代(1,500cal BP)以降に形成された.姶良カルデラ周縁では,カルデラ中心部へ向かって傾き上がる傾動隆起が生じ,その隆起量は7,300cal BP(6,500yrs BP)以降,最大10m以上に達する.この地域の海面高度は8,700cal BP(8,000yrs BP)頃には現海面高度にあり,現海面上4~5m(8,500~8,400cal BP:7,700yrs BP頃),現海面上6m(8,100cal BP:7,300yrs BP頃)を経て,7,300cal BP(6,500yrs BP)頃に現在の海抜12mの高さに達した.その後,海面は次第に低下し,現海面上5~7m(3,000~2,000yrs BP),現海面上2~3m(1,500cal BP)を経て現在に至った.この特異な相対的海水準変動は,姶良カルデラの火山活動に伴う地殻変動が影響しているとみられる.8,100~8,000cal BP(7,200~7,300yrs BP)には,海進は内陸深く及び,溺れ谷が形成された.この時期,米丸マールを形成したベースサージは,別府川流域の内湾を大きく埋積した.その後,汀線は段階的に前進し,縄文時代後期(3,500yrs BP頃)には現在の海岸に近い位置にまで達した.約8,000~7,000cal BP(約7,300~6,000yrs BP)の時期に,池田カルデラ,桜島,鬼界カルデラでも大規模な噴火が起こり,縄文海進最盛期に形成された南九州のリアス式海岸は急激に変化した.
著者
小池 克明 西山 孝 石田 志朗 藤田 和夫
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.395-404, 1990
被引用文献数
4 1

Facies analysis of sediments based on the boring database systems of the Osaka, Kyoto, and Kameoka basins situated in the central part of the Kinki district, Japan, have been carried out to correlate their subsurface sediments. The analytical method is the one which calculates the appearance percentage of clay, sand, and gravel at the same elevations and at 0.5m intervals in each of the basins, and then smooths these data using the moving average method for 21 terms. As a result, it has been revealed that the fluctuations in the appearance percentage of clay in the Osaka basin occur with a frequency very similar to the fluctuations of oxygen-isotope ratio in the upper part of core V28-239 raised from the Solomon Rise at lat 3°15′N, long 159°11′E from a depth of 3, 490m. Furthermore, the fluctuation patterns of the appearance percentage of gravel in each of the basins are similar to one another, which suggests a common sedimentation related to the global paleoclimate in the basins of the same drainage system.<br>Spectral analysis using the Maximum Entropy Method (MEM) reveals that the appearance percentage of clay and sand in the Osaka basin each have a preeminent period of about 30m, while gravels in the northern part of the Kyoto basin and the Kameoka basin have a 12-13m period in common.
著者
中村 有吾 丸茂 美佳 平川 一臣 澤柿 教伸
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.39-49, 2008-02-01 (Released:2009-03-26)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

北海道東部,知床半島のほぼ中央に位置する羅臼火山は,過去約2,200年間のうち3時期にマグマ噴火したことが知られており,それぞれ降下テフラ(Ra-1 : 500~700 cal BP, Ra-2 : ca. 1,400 cal BP, Ra-3 : ca. 2,200 cal BP)および火砕流を噴出した.これら羅臼起源のテフラは,いずれも斜方輝石および単斜輝石を含むなど鏡下での特徴が類似するが,脱水ガラス屈折率は異なり,識別が可能である.羅臼火山の南西約4.5kmに位置する天頂山火山から約1,900年前に噴出した天頂山aテフラ(Ten-a)は,多量の石質岩片のほか,フレーク状火山ガラス,斜長石,斜方輝石などの本質物質を含む.その火山活動はマグマ水蒸気噴火だったと推定される.Ten-aの噴出量は約0.02km3である.羅臼岳の南~南南西方向約5km付近,標高500~750mの地域には,羅臼湖など多数の沼沢地や湿原が点在する.複数の湿原での掘削調査の結果,駒ヶ岳c1テフラ(AD1856),樽前aテフラ(AD1739),駒ヶ岳c2テフラ(AD1694),Ra-1,摩周bテフラ(774~976 cal BP),Ten-a, 一の沼火山灰の存在と層序が明らかになった.そのほか,知床半島の南部には,摩周起源の摩周lテフラ(ca. 13,000 cal BP)が分布する.
著者
大村 明雄 伊勢 明広 佐々木 圭一 新坂 孝志 長谷部 由美子
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.195-207, 1995-08-31
被引用文献数
5 6

最近のウランおよびトリウム同位体分析への質量分析計技術の導入は,<sup>230</sup>Th/<sup>234</sup>U年代測定法の精密化とともに,必要試料の大幅減量や適用範囲の<sup>14</sup>C法による測定年代域への拡張も可能にした.一方,従来のαスペクトル法でも,測定機器類の計数効率や安定性の向上と,試料の放射化学的処理法の改良によって,測定誤差がTIMS法の4~5倍にまで改善された.今では,最終間氷期最盛期相当の測定値(約125ka)の誤差が,95.5%の確率を意味する2σの統計誤差で表示しても,TIMS<sup>230</sup>Th/<sup>234</sup>U法では約1ka(1%),αスペクトル法でもおおよそ5ka(4%)と,以前に比べ格段に小さくなった.しかし,そのような年代値を,みかけ上誤差が小さいからというだけで,そのまま信用することはできない.本論では,真に信頼できる年代値を得るには,最良の試料を用いることが不可欠であるという立場から,試料が<sup>230</sup>Th/<sup>234</sup>U法固有の前提条件と必要条件を満たすことを検証するための方法を提示し,さらに<sup>230</sup>Th/<sup>234</sup>U法の信頼性を高めるための方策を論じた.
著者
太田 陽子 松田 時彦 平川 一臣
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.109-128, 1976-10-30 (Released:2009-08-21)
参考文献数
28
被引用文献数
14 9

The Noto Peninsula, which projects northeastwards from central Japan is the largest peninsula in the area along the Sea of Japan. This peninsula mostly consists of low relief erosion surfaces and marine terraces truncating the Neogene rocks. Many active faults which displace these geomorphic surfaces as well as alluvial fans are observed as shown in Fig. 1. Figures 2 to 12 represent the detailed topographies and profiles near and across the active faults. All the active faults are expressed as clear fault scarps or scarplets, and most of them are reverse faults with upwarping of the terrace surfaces on the upthrown side.Active faults in this peninsula are classified into three types according to their bearing on geomorphic development. Type I is the first order active fault which resulted in the differentiation of mountain blocks as indicated in Fig. 1. Bijosan I, II and Sekidosan Faults belong to this type. Ochi Depression delineated by these faults at both margins is a kind of ramp valley in a restricted sense rather than graben, as shown in Fig. 13. Fault scarplets at younger uplifted fans (L1) indicate the faulting has still continued until recently. Type II is the second order fault, represented by large scale height difference of marine terraces, and caused subdivision of each mountain block. Togigawa and Sakami Faults belong to this type. All the other active faults except those mentioned above belong to type III, which has resulted in local deformation of marine terrace surfaces. Faults of this type are usually less than 2km in length and less than 20m in vertical displacement. It is especially interesting that the seaward portion of terrace surfaces generally upthrust against their inland parts. Therefore, active faults of type III can be easily recognized by such an abnormal inland-facing scarplet on terrace surface.Active faults in this area are listed in Table 3. It is noticed that the rate of faulting is always more than 10cm/1, 000 years in types I and II, while it is usually less than that in type III. The amount of vertical displacement even in type III is, however, thought too large to be caused by a single earthquake, so that repeated faultings must be considered.Direction of principal axis of maximum compressive stress is N40-60°W, which is inferred from the frequency distribution of trend of active reverse faults shown in Fig. 14. Fault mechanism of a destructive earthquake of 1933 shows also a maximum pressure direction of approximately E-W, probably with a reverse faulting. The direction above mentioned is almost the same as that in the inland areas of central Japan. It is noteworthy, however, that there is a clear difference in fault type between the Noto Peninsula and the other areas of central Japan where strike-slip active faults predominate.
著者
石坂 信也 渡辺 一徳 高田 英樹
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.91-99, 1992-05-30 (Released:2009-08-21)
参考文献数
25
被引用文献数
3

熊本平野とその周辺には多くの活断層が存在することが知られている. 筆者らは, 熊本平野やその周辺に掘られた多数のボーリングの中で重要なもの50本余りのコアを, 改めて詳細に観察した. ボーリングコアには, 約6,300年前に鬼界カルデラから噴出したアカホヤ火山灰, 約30万年前以降に阿蘇カルデラから噴出したAso-1~Aso-4火砕流堆積物などの重要な鍵層が認められる. それらの放射年代と深度の差異から, 熊本平野における最近の約15万年前以降の第四紀層の沈降速度を見積もることができた. 平野南部での平均沈降速度はおよそ0.2~0.5mm/年であり, そこは, 熊本平野の周辺で確認されていた活断層による木山-嘉島地溝 (渡辺ほか, 1979) およびその西方延長部にあたる. 平野西部での沈降速度はおよそ0.2~0.3mm/年である. これらの沈降は, 熊本平野地下の活断層の動きによって引き起こされていると考えられる.
著者
閻 順 穆 桂金 Xiu Yingqing ZHAO Zhenghong 遠藤 邦彦
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.235-248, 1997-10-31
被引用文献数
2 4

タリム盆地の東端に位置するロプヌール低地において,K1ボーリング・コアを採取し,主として花粉分析に基づいて当地域の第四紀環境変化を明らかにした.約100mのコアは,前期更新世以来のおもに泥質堆積物からなり,深度66.2mに前期および中期更新世を分ける不整合が存在する.前期更新世のこの地域は森林-草原の環境下にあったが,中期更新世以後,砂漠-草原と砂漠環境が繰り返す環境に置き代わった.湖沼の発達はおそらく更新世初期の頃まで遡るものと考えられる.トウヒ属花粉および総樹木花粉数が前期更新世に高い出現率を示すことは,当時ロプヌール地域は比較的湿潤で,近くに森林が存在していたことを示唆する.乾燥環境は中期更新世のはじめ頃に始まり,完新世にはきわめて乾燥した条件が支配的となった.
著者
奥野 充 小林 哲夫
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.113-117, 1994
被引用文献数
1 4 8

種子島には阿多 (Ata), 鬼界葛原 (K-Tz), 姶良Tn(AT)などの後期更新世テフラが分布する. 長岡 (1988) は, K-TzとATの間に種I火山灰, 種II軽石, 種III火山灰を記載している. 筆者らは, 種IIの上位に2枚の火山灰層を認めたので, これらを下位から種III火山灰, 種IV火山灰と呼ぶ. 種Iは橙色の細粒降下火山灰, 種IIは淡黄褐色の降下軽石であり, 両者とも種子島北部に分布する. 種III火山灰と種IV火山灰は, 黄褐色~橙色の細粒降下火山灰で, どちらも種子島全域に分布する. 噴出年代は, K-TzとATとの層位関係から, 種Iと種IIが65ka, 種IIIが45ka, 種IVが35kaと推定される. 斑晶鉱物の組合せ, 斜方輝石(γ)の屈折率および層位から, 種IIは阿多カルデラ周辺に分布する唐山スコリア (Nagaoka, 1988) に対比される.
著者
吉崎 昌一
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.343-346, 1997-12-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
10
被引用文献数
3 8 2

これまで,縄文文化には複数の栽培植物アサ(アサ属Cannabis),エゴマ(シソ属Perilla),ヒョウタン(ユウガオ属Lagenaria),クリ(クリ属Castanea)等の存在が知られていた.しかし,最近のフローテーション法の採用による炭化植物種子の検出,イネのプラントオパール抽出などの考古植物学的な調査によれば,縄文文化前期~中期前半の層準から東日本ではヒエ(Echinochloa)が,西日本にはイネ(Oryza sativa)が検出される.これらイネ科Gramineae植物の出現や文化的な背景には,まだ不明の部分が多い.しかし,ヒエは東日本で栽培化が行われた可能性があり,イネはアジア大陸とその周辺部から渡来してきた,と考えられる.また,縄文時代に存在するといわれていたリョクトウVigna radiata (L.) Wilczekについては,まだ確実な資料は発見されていない.
著者
Hisao BABA Shuichiro NARASAKI
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.221-230, 1991-07-25 (Released:2009-08-21)
参考文献数
44
被引用文献数
6 33

The skeletons of Minatogawa Man, found on Okinawa Island in 1970, have been morphologically reevaluated. The skulls of Minatogawa Man are characterized by a low and wide face with rectangular orbits, a projected glabellar region, a depressed nasal root and deep temporal fossae, which more or less resemble those of the late Pleistocene men from Zhoukoudian Upper Cave and Liujian and early Holocene Jomon people in Japan. In Minatogawa Man, however, the development of these characteristics is very pronounced. In the Minatogawa and Jomon skulls the zygomatic bones protrude anteriorly and the zygomatic arches are thin and flared, which are different from the features of the Upper Cave and Liujian men. Besides the skulls, the Minatogawa postcranial bones stand apart from those of the Zhoukoudian Upper Cave, Liujian, Jomon Japanese, and are close to Zhoukoudian Homo erectus, in some characteristics. Therefore, Minatogawa Man should be assigned to the oldest type of Mongoloids or modern Homo sapiens in East Asia. We infer that he might be a direct ancestor of Jomon people, but not an ancestor of the Upper Cave and Liujian men.
著者
棚田 俊收
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.461-467, 1999-12-01

神奈川県温泉地学研究所によって決定された1990年から1998年の9年間の震源データを用いて,「神奈川県西部地震」の想定震源域である相模湾北西部における地震活動と地質構造との関係について考察した.<br>地震活動の高い地域は,神奈川・山梨県境や箱根火山のカルデラ内に分布し,それぞれ丹沢山地の隆起運動や箱根火山の火山活動に関連していると見られている.箱根古期外輪山の山麓東部では,地震が深さ10~20kmに発生しており,震源の深さは箱根火山中央火口丘から山麓東部へと行くに従って徐々に深くなっている.この特徴は,火山体近くの熱的構造を反映し,地震発生層の厚み変化を表していると考えられる.<br>一方,伊豆地塊の衝突によって形成された足柄山地や,断層で囲まれた大磯丘陵,湯河原や多賀火山等の第四紀火山地帯では,地震活動は相対的に低い.また,神縄断層や国府津-松田断層などの活断層付近では,浅い地震は観測されていない.
著者
井上 克弘 成瀬 敏郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.209-222, 1990-08-20 (Released:2009-08-21)
参考文献数
53
被引用文献数
10 14

A long-range, tropospheric eolian dust transported from the Saharan desert and the Asian continent has been deposited on the terrestrial and aquatic environments in the northern hemisphere. Soil loss due to wind erosion in the arid and semiarid source areas is more significant than previously assumed. Global emission of desert dust and mineral aerosol material is estimated to amount to more than 1.0×106ton yr-1. Long-range eolian dust is an important factor in soil formation and nutrient input in many deposition areas. Physical, chemical, and mineralogical characteristics of long-range eolian dust derived from the Takla Makan and Gobi deserts and the Loess Plateau in China and their influence and significance to the soil and paleosol formations in Japan and Korea are reviewed in this paper.The long-range eolian dust in East-Asia was characterized by a predominance of soil particles 3 to 30μm in diameter. Their dominant minerals were 2:1 layer silicates, kaolinite, quartz, and feldspar. Nonallophanic andosols, red-yellow soils developed on limestones, basalts, and other diverse parent materials, and paleosols buried in paleodunes in the area along the coast of Japan Sea, were strongly influenced by the long-range eolian dust derived from China. Oxygen isotope abundance of the fine-grained quartz (1 to 10μm) isolated from soils revealed that fine quartz and 2:1 layer silicates in diverse soils and paleosols in Japan and Korea and pelagic sediments in the Japan Sea were of eolian dust origin. The eolian dust flux from the atmosphere to terrestrial environments in Japan is significant in the heavy snowfall area along the coast of Japan Sea and was more prominent in the last Glacial age than in the Holocene. Dust flux from East China Sea, Yellow Sea, and Japan Sea pelagic sediments dried during the marine regression period in the last Glacial age to soils and paleosols was also significant in Japan. Thus the desert dust phenomenon is of relevance to geophysical science in general, e. g. geography, geochemistry, climatology, soil science, ocean sedimentology, and Quaternary studies. Desert dust emission and long-range transport are useful indicators for dynamic change in the tonal circulation system, influencing the discussion of future climatic change.