著者
後藤 景子 中谷 博美
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.173-178, 2011-03-15 (Released:2013-08-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1

In order to investigate the effect of bath ratio on textile detergency, a washing test was carried out in aqueous detergent solutions using artificially soiled fabrics commercially available and those prepared with three model soils. The detergency evaluated by the surface reflectance method was found to decrease with a decreasing bath ratio. The reduction in detergency under a low bath ratio condition was compensated by an increase in detergent concentration and temperature of the wash bath.In terms of mechanical actions for soil removal, shaking and stirring were found to be effective under a high bath ratio condition, whereas ultrasonicwaves worked well under a low bath ratio condition. In most washing conditions, soil redeposition and fabric damage were not significantly observed. The experimental results show that detergency performance in water-saving textile washing can be maintained under adequate washing conditions with respect to detergent concentration, temperature and mechanical action.
著者
Yukinori SATO Masako TAKADA Shun NOGUCHI
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
Journal of Home Economics of Japan (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.377-380, 1991-04-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ドウの一つの基本配合を中心に, 各成分の配合量を変えてドーナツを調製し, ドーナツの脱水量と吸油量とに及ぼす配合成分の影響を求めた.その結果, 次のことが明らかになった.(1) 油の添加量を変えても, ドーナツの脱脂乾燥物あたりの脱水量と吸油量とはほぼ一定であった.(2) 水の添加量が少なくなると脱水量はやや増大し, 吸油量も明らかに増大する.これは水が減少するとドウの硬化が起こり, これがドーナツにひびを生じさせるためと考えられた.(3) ドーナツは大きい方が脱水量も吸油量も少なく, 水や油の移行には表面積が関与しており, 比表面積の大きい方が脱水量, 吸油量ともに大きくなることがわかった.(4) 砂糖の量を増すと吸油量は明らかに増大するが, 脱水量にはあまり変化がなかった.(5) 卵の量が増すと, 脱水量が減じ, 吸油量が増す傾向がみられた.これらの知見からドーナツ調製時の水や油の移行には表面積が大きく影響し, 材料配合はドーナツの組織に変化を与えることで水や油の移行に関与し, またひびの生成は脱水量, 吸油量を大きく支配することが推定された.
著者
川端 博子 松本 あゆみ 吉澤 知佐
出版者
日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.139-146, 2007
参考文献数
7

セミフレアスカートにおける裏地の効果について,着用評価とスカートの裾線形状から追究した.3種の裏地(キュプラ,差別化ポリエステル,ポリエステル一般裏地)に,2種の異なるパターン(スカートと同型でフレア状に裁断したものと脇スリット入りのストレートな形状のもの)を組み合わせた6枚のスカートについてテストした.13人の女子学生が着用評価を行った結果,フレア形状の裏地をつけたスカートは快適と感じられ,中でも動作性に優れていた.また,キュプラ裏地のものは肌ざわりにおいて他より優れていた.動作分析法により,マネキンに着せたスカートの裾線の形状を静的・動的状態で観察した.静的状態においてフレア形状の裏地のスカートの裾面積は大きく,かつ裾線形状は左右対称であった.スカートの動きの観察から,フレア形状の裏地のスカートは裾面積および裾の移動距離が大きかった.また,フレア形状の裏地のスカートでは表地と裏地の間隙が少なく,一体となって動く様子が捉えられておりこのことも動作性を高める要因と考えられる.キュプラ裏地のものは裾面積が小さく広がりの少ない形状を呈したが,もっとも移動量が多く躍動感のある動きを示していた.このことは裏地のかたさと動的振動係数とかかわると推察される.これらのことから,スカートの快適性と形状は裏地のパターンと種類の両方から影響を受けることが明らかとなった.
著者
小西 史子 伊藤 千夏 木村 靖夫 金子 佳代子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.247-254, 2007 (Released:2010-07-29)
参考文献数
19

The effects of the body composition, and of exercise, dietary and sleeping habits on bone mass of young people were studied. The bone mass of 339 males and 262 females aged 18-29 years were measured by the ultrasound methods. The bone mass of those subjects who exercised more than 3 times per week was significantly higher than of those with no exercise habits at school age. The subjects who continuously exercised from elementary to junior high school had the highest bone mass. A higher frequency of eating small fish in the school-aged diet was associated with higher bone mass. The bone mass of the female subjects who went to bed later than 1 a.m. was significantly lower than of those who went to bed before 1 a.m. in junior high school, high school or the present time. Multiple linear regression analysis showed exercise in junior high school to be the factor having the highest association with bone mass, this being followed by body weight and the time of going to bed in high school.
著者
水野谷 武志 粕谷 美砂子 齊藤 ゆか 伊藤 純 天野 晴子 斎藤 悦子 松葉口 玲子 天野 寛子 伊藤 セツ
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.877-885, 2002

以上, 本報ではまず, 2000年世田谷生活時間調査の重要な調査設定として, 調査単位, 典型的標本, 公募方式による調査協力者, を検討した.次に, 年齢, 学歴, 職業および収入の分布についての政府統計調査データとの比較対照によって, 本調査協力者の代表性を検討した.その結果, 調査協力者は, 高学歴, ホワイトカラー的職業, 高収入, である可能性が高いことが示唆された.<BR>調査結果から注目される点は, 平日の生活時間配分では, (1) 妻常勤の夫妻の睡眠時間が特に短いこと, (2) 夫の収入労働時間は1日の約半分に達していること, (3) 家事的生活時間には明確に夫妻差 (妻>夫) があり, さらに, 妻の収入労働時間が長いほど妻の家事的時間が減少し夫の時間が増加する傾向 (常勤妻<パート妻<無職妻, 常勤妻の夫>パート妻の夫>無職妻の夫) を確認した.休日では, 収入労働時間以外の時間が平日に比べて全体的に増えるが, 無職妻の家事的生活時間は減り, また, 夫に比べて妻の社会的・文化的生活時間は短くなる傾向にあった.<BR>次に家事的生活時間および社会的・文化的生活時間の行為者比率では, (1) 平日の「食事の準備と後片付け」は, 妻が7割以上であるのに対して夫は4割以下であった, (2) 「テレビ・ラジオ」の時間が夫妻の社会的・文化的生活時間の中で平日, 休日とわず最も長くなっていた, (3) 常勤夫妻の平日の「だんらん」が他の夫妻に比べて低かった, (4) 夫に比べて妻の「読書」の比率が全体的に高かった, (5) 常勤妻の平日の行為者比率は, 全般に, 他の妻に比べて低い, (6) 無職妻の休日の行為者比率は, 全般に, 平白に比べて減少する傾向にあった.<BR>最後に過去3回の調査結果 (1990, 1995, 2000年) を比較してみると, 全体的な傾向として, 平日では収入労働時間が増加し家事時間および睡眠時間が減少し, 休日では社会的・文化的生活時間が増加した.
著者
市川 朝子 佐々木 市枝 佐々木 由美子 中里 トシ子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.39, no.8, pp.829-837, 1988

1) ケーキ生地の比重は, バター添加量の増加につれて高く, また, 別立て法の場合に高くなった.比容積は, バター量の少ないものほど高く, また, 共立て法の場合に高くなった.この比重と比容積値の間には, 相関係数<I>r</I>=0.748 という高い正の相関関係が認められた.<BR>2) ケーキの水分量と糊化度の問には, 相関係数 <I>r</I>=0.748 と高い正の相関関係が認められた.<BR>3) ケーキの糊化度は, バター添加量が多くなると小さくなる傾向を, また別立て法は共立て法より小さくなる傾向を示した。別立て法でバター量 0 のケーキは, 冷凍貯蔵中の糊化度の変化がとくに顕著であった.これに対し, バターを加えたケーキは, とくに共立て法の場合, 冷凍貯蔵中の値の低下が抑制された.<BR>4) 官能検査の結果から, 嗜好的には共立て法が別立て法に比べて好まれ, 別立て法は冷凍貯蔵した場合, とくに好まれない.共立て法でバターを加えたケーキは, 焼きあがり当日も, 冷凍7日後もほとんど差はみられず, もろさの面ではむしろ後老のほうが好まれた, 以上を考えあわせると, ケーキを冷凍貯蔵する場合は, 共立て法で, バターを粉の 20~40% 量加えた試料が総合的に好まれるといえよう.<BR>5) 対照として行った冷蔵貯蔵7日のケーキの性状は, 同じ期間冷凍貯蔵したケーキに比べ, 水分, 糊化度, 弾力性についてはかなり低い値を, 凝集性はやや低い値を, また硬さはかなり高い値を示した.<BR>従来から共立て法のケーキは日持ちがよい, といわれてきたことが, 今回の糊化度および官能検査の結果から支持された.
著者
森 理恵
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.155-164, 2008-03-15

This paper aims to clarify advances in research concerning Japanese clothing between the Second World War and the post-war period of rapid economic growth. After Japan's defeat, the circumstances of the transitional period, from the time when there was a shortage of clothing until it became possible to freely obtain clothing, are not sufficiently clear. Through an analysis of articles from the monthly women's magazine "Fujin Asahi" around 1950, this paper clarifies how women remade clothes. At first, women were making western-style clothes by altering second-hand clothes and kimonos with skills and techniques that they had acquired from dress-making schools and books. After clothing regulations were abolished in 1950, new fabrics became available and the variety of clothing increased. Meanwhile, women were not merely imitating American and French fashion, as it has been said up until now. In particular, because much value was attached to work both in and outside the home, it has become clear that clothes specifically intended for work were designed, and the merits of Japanese clothing were taken into account.
著者
中谷 博美 後藤 景子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.637-643, 2013

Detergency of textiles by low-water laundering was assessed with a drum-type washing machine called a Wascator. An artificially soiled cotton fabric (Sentaku Kagaku Kyoukai) and three mechanical action fabrics (WAT cloth, Poka-Dot®306 and MA test piece) were attached to cotton ( 920×920 mm<sup>2</sup> ) and polyester ( 200×200 mm<sup>2</sup> ) load ballasts and then washed in aqueous alkaline detergent solution with a different bath ratio. The washing procedures used were normal, gentle and hand wash in accordance with ISO 6330. At the extremely low bath ratio of 1:3, both detergency, D, and the mechanical action value, ΔL<sup>*</sup>, decreased for all washing procedures. The magnitude and the deviation of D and ΔL<sup>*</sup> were dependent on the load ballasts used, indicating that soil removal was prevented and that uneven washing was promoted for large clothes. The relation between D and ΔL<sup>*</sup> for all experimental data was plotted on almost the same line in the high ΔL<sup>*</sup> region. In the low ΔL<sup>*</sup> region, the relation was dependent on the bath ratio, i.e. detergent bulk concentration. For low-water laundering, it was suggested that the detergency performance decreased as a result of the reductions of the mechanical action and detergent bulk concentration.
著者
高村 仁知 山口 智子 林 恵里奈 藤本 さつき 的場 輝佳
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1127-1132, 1999

スパイスと野菜・肉類を調理して, カレーライスを作るまでの各過程におけるラジカル捕捉活性の変化をDPPH-HPLC法により解析した.カレーに用いられる15種類のスパイスのスクリーニングを行った結果, すべてにラジカル捕捉活性がみられ, 特に, クローブ, オールスパイス, シナモンに高い活性がみられた.野菜類と比較してもその活性は同等以上であった.カレーの調理過程では, 野菜・肉を合わせた具では加熱により活性が増加した.一方, 調合スパイスでは加熱により活性の減少がみられた.カレーではスパイスだけでなく野菜もその活性に大きく寄与していた.本研究のカレーライス1食分は363μmol Troloxeqの活性を有し, カレーライスの全ラジカル捕捉活性に対するスパイスの占める割合は, およそ45%であった.
著者
勝田 啓子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.38, no.8, pp.711-718, 1987
被引用文献数
1

団子に対する嗜好を明らかにするために, とくにその力学的性質を左右する米粉の粒度構成および糯米粉と粳米粉の配合比を変えて団子を調製し, 官能検査と粘弾性測定を行った.その結果以下のことが判明した.<BR>1) 糯米粉と粳米粉を等量混合し, 0~60mes 1.18%, 60~100mesh8.6%, 100~150mesh7.8%, 150~200mesh28.1%, 200~250mesh28.9%, 250mesh 以上24.7%の粒度構成 (平均粒度200mesh) で, 加水量米粉100gに対して80mlの条件で調製した団子が最も好まれることが判明した.<BR>2) その団子の粘弾性値は, 自然数で表すとフック体の弾性率4.79×10<SUP>5</SUP>dyn/cm<SUP>2</SUP>, ニュートン体の粘性率1.05×10<SUP>8</SUP>P, 塑弾性体の弾性率2.69×10<SUP>5</SUP>dyn/cm<SUP>2</SUP>, 1組目のフォークト体の弾性率が2.52×10<SUP>5</SUP>dyn/cm<SUP>2</SUP>, 同じく粘性率が1.32×10<SUP>7</SUP>P, 2組目のそれらがそれぞれ1.86×10<SUP>5</SUP>dyn/cm2, 8.51×10<SUP>6</SUP>Pであった.
著者
劉 敬淑 全 〓蘭
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.105-114, 2005

韓国10代の自尊心, 身体満足度と整形および服装行動との相互関連性を調査し, これらの因子の属性による差異と因果関係を解明しようとした.<BR>性別による心理要因との関係では, 男性の自尊心, 身体満足度はあらゆる身体の部位で女性のそれよりもより高かったが, 整形要求度と服装行動の面で見ると流行や個性に対する選好度は, 女性よりも男性の数値が低かった.<BR>自尊心と身体の顔部分の満足度では年齢による差は見られなかったが, 身体満足度の腰・尻部分, 身長・体型部分には差が見られた.<BR>学校類型による自尊心の差はなかった.身体満足度は全体的に高校生が中学生より低かったが, 整形要求度における顔の整形と脂肪吸引の要求度は高校生が中学生より高かった.服装行動での清楚さは, 学校類型による差はなかった.魅力と流行指向は中学生よりも高校生で高かったが, 個性指向は高校生が中学生よりも低く, 中学生より高校生がより個性を追求するとされる先行研究と差が見られた.<BR>小遣いによる, 自尊心や身体満足度との関係はなかったが整形要求度や服装行動との関係では, 小遣いが多いほど顔と脂肪吸引への整形要求度が高く, 魅力・流行・個性・清楚さの全体的な服装行動も高く示された.身体部位の整形要求の順位は男女ともにホクロ・傷跡除去を一番に望み, 次に男性では歯の矯正, 鼻, 下半身, 二重まぶたの順であり, 女性は下半身, 歯の矯正, 鼻の順で整形を望んでいた.<BR>韓国の10代に, 7個の属性と自尊心や身体満足度の因子が服装行動と整形要求度に及ぼす因果関係を調査するため段階的(stepwise)方法で多重回帰分析をした結果, 整形要求度では性別, 身体満足度, 年齢, 小遣いが有意的な影響を与え, この4因子の説明力はかなり高く, 男性よりも女性で, 身体満足度が低いほど, また年齢が高いほど, 小遣いが多いほど整形要求度が高かった.<BR>服装行動では, 魅力は自尊心, 年齢, 小遣い, 体型から影響を受け, やせ型で自尊心が高く小遣いが多いほど, 衣服の魅力性を追求する.<BR>身体満足度が高いほど自尊心が高く, 女性より男性で, やせ型で, 身長が高く, 社会階層が高いほど身体満足度が高かった.特に女性は男性より自己の外貌評価にあまり肯定的ではなく, 外貌を改善しようとする欲求が強いと思われる.
著者
今井 範子 伊東 理恵
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.761-774, 2006-11-15
被引用文献数
5

本研究は,開発から約30年を経過した遠隔郊外に立地する戸建住宅地を対象に,居住地の問題を明らかにし,居住者の家族構成や親子の居住形態の動向を明らかにすることを試みた.その結果を以下にまとめる.1)住宅地内の空地が約10%,空家が約5%存在すること,中古住宅の割合が2割に満たないことから住民の入替わりが頻繁に起こらず,住宅地としての停滞状況が把握できる.このまま流入が停滞すれば,住宅地として衰退することが予測される.また住宅の改修率が低く,住宅更新があまり行われておらず,住宅の老朽化がみられる.2)駅から遠く,坂の多いこの住宅地において,居住者は買い物をはじめとして日常生活を車に依存した生活を送っている.駅から遠いこの住宅地で高齢期を過ごすことへの不安は極めて大きく,移動に関する交通手段の整備などをはじめとして,高齢者のための居住地整備が求められる.3) 60歳未満において,女性有職率が極めて低く,食関連施設の不足,医療や福祉関連施設が不十分であり,仕事場が遠い,駅から遠いことから,女性が就労することを前提とした住宅地でない.4)昭和40年代前半の都市計画により,住宅地内の幹線道路沿いは店舗等を想定し中高層の建物が建築可能な用途地域として計画された.しかし分譲開始から現在に至るまでこの道路沿いに店舗は少なく,また3層以上の建物は建築されていない.存在した店舗の撤退が近年相次いでいる.5)「65歳以上の人がいる」高齢世帯の割合は4割弱,60〜64歳の人がいる世帯を含めると6割が高齢世帯であり,今後さらに急激な高齢化が予測される.遠隔地という立地上,子は独立して流出し,戻らない傾向が強く,今後,高齢夫婦のみ,高齢単身世帯が増加すると予測される.6)別居既婚子との居住形態は,遠居が特徴である.このため,交流頻度は低く,たとえば買い物などの日常的な家事や通院の付き添いといった,子からの直接的な支援は実質受けられない状況にある.7)自然環境の良さが永住意識と結びついているが永住したいと考えるのは半数に過ぎず,永住意識は低い.住み替え希望があっても地価の下落により転売を困難にしている.8)ここ10年ほどの間の転入者のうち,親世帯や子世帯と近接居住のためにこの住宅地に転入してきた世帯は若干存在し,近年微増の傾向がみられる.また,現在他地域に居住している親世帯や子世帯が今後転入し同居,近居予定のある世帯も一定の割合で存在した.しかしながら全体としてその割合は極めて低く,血縁による居住の継承の可能性は低い.このため,今後居住地として持続していくためには,血縁によらない,新規流入が必要である.9)徒歩圏内の食関連の店舗,今後増加する高齢者のための居場所,NPO活動のための空間などの整備が求められる.それらに対し,空地,空家の活用等が当面重要である.10)対象遠隔住宅地の問題点を集約すると,つぎのようである.(1)新規流入が停滞している現況を踏まえると,団塊世代以上の年齢層の居住者が多く居住し,高齢化が,一挙に進展することが予測されること,(2)親子の居住形態の動向は,同居は少なく,別居が主であり今後,高齢夫婦のみ,高齢単身世帯が増加すること,(3)買い物等を車に頼っている現状から,加齢に伴い車の運転から遠ざかり,日常生活における移動困難が発生すること,(4)子との居住形態は遠居であり,子からの身近な支援は受けにくいこと,(5)血縁による居住の継承の可能性は低いこと等である.11)このような遠隔郊外住宅地の方途として,いくつか考えられる.まずは,どの方途であっても,高齢期に対応した居住空間と居住環境の整備は急務であることはいうまでもない.今回の調査から即断することは出来ないが,このまま新規流入が少なく停滞状況となるならば,必然的に衰退化を招かざるをえないであろう.しかし,周辺に保有する自然環境と歴史環境を生かし,また空家や空地の発生に伴う居住地の再編を進め,ゆとりのある郊外住宅地として多世代が生活を共有できる持続可能な住宅地にむけた再構築をめざす方途も一つの方向である.本調査からは,いずれかの方途を具体的に指し示す即断は避け,遠隔郊外住宅地がかかえる課題を精査し,今後の方策とそのあり方を考えていきたい.調査活動にあたり,当時奈良女子大学4回生の杉村知江乃さん,同大学院生の関川華さんの協力を得た.
著者
林 隆子 川端 博子 石川 尚子 大久保 みたみ 大関 政康 大竹 美登利 唐沢 恵子 斉藤 浩子 高崎 禎子 武田 紀久子 山形 昭衛
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.361-369, 1992

高齢者を対象とする日常着についての調査より, 高齢者の衣服の着方について以下のような特徴がみられた.<BR>(1) 男性は, 上半身に肌着シャツ, 外衣シャツ, ジャケットかジャンパーの着用が一般的であるが, 5・6月ごろの気温の変化には, 肌着シャツの重ね着で対応していることがわかった.下半身には, パンツ, ズボン下にズボンを着用している.<BR>(2) 女性は, 上半身に肌着シャツ, ブラウス, セーター類を着用している例が最も多かった.上半身用衣服には前あき型で七分袖のものが多く, 肌着シャツの重ね着は男子と同様であった.また, 下半身には, パンツ, 長パンツやズボン下そしてズボンかスカートを着用している.夏に向けてスカート・ワンピースの着用が増すが, パンツ類の着用は依然として多く, 足腰の冷えと着衣の関連性をうかがわせる結果であった.また, 服種は男性のものにくらべ女性のほうが多い.<BR>(3) 高齢者用衣服の素材には, 下着類に綿, 外衣に化学繊維が多く使用され, 天然繊維を志向する若者と対照的である.素材に関する知識は一般に低かった.<BR>(4) 着衣の種類より推定した衣服の熱抵抗と衣服重量より, 高齢者は, 若者にくらべ厚着の傾向がみられるが, 衣服の着方に個人差が大きい.<BR>以上の結果より, 高齢者のよりよい衣生活をめざして次のような点が望まれる.<BR>服種の多様化 : 高齢者の日常着の種類をみるとき, 男性では, ジャケットやジャンパーの着用が多い.それにくらべて女性はカジュアルなセーター類の着用が多い.男性は, 習慣的に外出用としてこの種の衣服を着用していると考えられるが, 家庭内ばかりでなく近所等に出かけるときにも, 軽量で伸縮性に富む衣服の着用が勧められる.女性については, 若年者にくらべ衣服の種類が少ないが, 夏になるとスカートやワンピースの着用者も増えるなどおしゃれに無関心でないことが推察される.そこで, ファッション性を取り入れた衣服の供給が望まれる.たとえばキュロットスカートなどは活動がしやすい衣服の例として考えられる.<BR>衣服の着方と形・素材の工夫 : 男女とも, 体温調節のため厚着傾向の人が多数を占めていたが, 少ない枚数でも重ね着をすると同効果が得られるような衣服, とくに下着類の充実が求められる.すなわち, 腰, ひざやひじの冷えを防ぐよう局所的に厚手のものにするなど構成と形の工夫, 熱抵抗性の高い布素材の利用, また, 重ね着をしても活動に支障をきたさないような伸縮性素材の使用などが考えられる.一方で着衣の量に個人差が大きいことから, 季節を問わず, 保温性の高いものから低いものまで多種多様な衣服の供給が望まれる.<BR>表示の改善 : 素材についての知識は一般に低いので, 組成や洗濯表示を見やすく, わかりやすい大きさで表示されるよう改善を促す必要がある.
著者
伊藤 有紀 佐野 睦夫 福留 奈美 大井 翔 香西 みどり
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.209-216, 2016 (Released:2016-04-16)
参考文献数
8
被引用文献数
1

We aimed to determine the appropriate way of arranging rice in a bowl for the purpose of teaching how rice should be served. To determine the three-dimensional arrangement of rice in a bowl, we attempted to measure the height of rice in a bowl using a depth sensor defined as “Nakataka-do”, which is an index of the particular arrangement of rice in a bowl, where the center is higher than the edge. In addition to this, we defined “Tobidashi-do” as the degree of roughness of the contour of the rice. The weight and shape index of 29 rice samples were measured by 21 undergraduate students and 8 cooking teachers to determine the arrangement of rice in a bowl. The results of the analyses are as follows: The “Tobidashi-do” of the students’ samples were higher than those of the teachers. The range of “Nakataka-do” of 100~120 g rice samples showed a wide distribution. It was suggested that an appropriate arrangement of 100~120 g rice samples in a bowl is possible by being aware of “Nakataka-do.” Cluster analysis showed three distinct sample arrangements. On the basis of these results, we demonstrated the appropriate arrangement of rice in a bowl.
著者
高橋 久仁子 宮村 小百合
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.45, no.12, pp.1145-1151, 1994

学童のいる世帯の調理行動を類推するために食品の常備状況を調査した.<BR>群馬県内に居住する, 小学生を持つ世帯の調理担当者を対象に, 比較的保存性のある50食品の常備状況を質問した.<BR>有効回答票2,721部を集計した結果, 醤油, 味噌, 食塩, 米, 植物油は99%以上の世帯が常備していた.99%未満90%代の常備率は砂糖, 卵, コショウ, 酢, 海苔, 小麦粉, ジャガイモ, タマネギ, トマトケチャップ, 牛乳であり, 80%はワカメ, 片栗粉, マーガリン, カツオ節, 風味調味料, ニンジン, パン粉, 70%代にゴマがあった.60%代には固形スープの素, ネギ, うま味調味料, 天ぷら粉, 乾麺, カレールウが, 50%代にはバター, コンブ, ツナ缶, そして40%代にはショウガ, ニンニク, パン, 煮干し, 干し椎茸が並んだ.以下, チーズ, 市販麺つゆ, 素材冷凍食品 (30%代), 即席麺, 唐揚げ粉, ホットケーキミックス (20%代), 調理冷凍食品, 合わせ調味料, モチ米, チャーハンの素, 100%果汁飲料, 清涼飲料水 (10%代), そして最下位の炭酸飲料は7%であった.<BR>各種の調味・香辛料類を調理目的別に配合した調味用食品 (合わせ調味料) や用途を限定した小麦粉加工品, あるいは「~のもと」と称する, 簡便さを売り物にした食品類も高率ではないが世帯の常備品目に進出していることが確認された.<BR>洗浄, 切断, 加熱などの調理操作が必須な素材食品であるジャガイモ, タマネギ, ニンジンの常備率の高さや, 利用するには調理加工が必要な小麦粉, パン粉の常備率などから類推する現り, 学童がいる世帯において「まな板と包丁のない家庭がある」とは肯定し難い.しかし調理担当者が40歳代の家事専業多世代世帯では総じて食品の常備率が高く, 30歳代家事兼業二世代世帯では低いという結果は, 世帯のタイプにより調理行動の活発度に差があることを示唆している.<BR>回答者の負担が小さいこの方法により, 家庭の調理行動の概況を類推することは可能であると考える.
著者
永井 房子 田中 百子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.1205-1212, 1990

Many ways of seam-finishing are used in sewing. The opening of a seam is one of them. For the most part, the seam-finishing brings about a loss in the width of sewn fabric. In this paper, the loss phenomena in the opening of a seam were investigated.<BR>The results obtained are as follows : <BR>(1) The loss in the width of a sewn fabric increases as the number of the stitch or the seam line increases.<BR>(2) The loss in the width of a sewn fabric increases as the thickness of fabric increases.<BR>From these results, it is considered that the loss in the width of sewn fabric could be prevented if the number of seams, the stitch density and the thickness of fabric were taken into consideration in pattern-making and dress-making.
著者
宮下 朋子 長尾 慶子
出版者
社団法人日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.469-475, 2006-07-15
被引用文献数
1

ババロアの調製時の調理要領を明らかにするためのモデル実験として,ゼラチンゾルに混合する生クリームの起泡程度およびゼラチンゾルの混合温度を変え,粘度,破断特性,比重および気泡径分布の測定を行った.得られた知見を以下にまとめた.(1)ババロア調製時の,起泡生クリームへ混合するゼラチンゾル温度が18℃〜16℃の場合に,上下層の分離は見られなかった.(2)起泡程度別生クリームと品温別ゼラチンゾルの最大応力および粘度は,生クリームが6分立て(本実験ではStage 6)の場合,ゼラチンゾル温度18℃および16℃において両者の値が最も近似した.(3)(1),(2)より,6分立て(同Stage 6)の生クリームと,18℃および16℃のゼラチンゾルを混合した場合に,最も均質なババロアが得られることがわかった.
著者
佐藤 裕紀子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.479-492, 2004-06-15 (Released:2010-04-23)
参考文献数
37
被引用文献数
2

本稿は, 第一次世界大戦後から大正期末までの期間に刊行された雑誌『主婦之友』第 3 巻 1 号から第 10巻 12 号 (大正 8 ~ 15 年) における, 新中間層主婦の生活体験記事を用い, 子どもに向けられた主婦の教育的関心はどのような生活行動として展開したのか, そして主婦の生活展開のあり方とどのように関わったのかを分析した.その結果, 以下の知見が得られた.(1) 主婦は自分のしつけこそが我が子にとって望ましい教育であると認識し, 子どもの世話役割から他者を排除する傾向がみられた.(2) 主婦は生活環境を教育的に整備することにより子どもが感化されることを期待し, 一方では勤勉かつ規律的な家事行動を行い, もう一方では子どもを教育的な生活環境に囲い込み, あるいはそのための生活水準の向上を目指して節約に励む, などの行動をとる傾向がみられた.(3) 主婦は自分が家庭における子どもの教育責任者であることを自覚しており, 予習・復習をみる, 受験指導をする, 学校参観をする, 生活管理をするなど積極的に学業に関与する傾向がみられた.(4) 主婦はたとえ経済的に困難であっても, 是非とも子どもには教育を授けたいと願っており, 節約に励む, 家事の傍ら内職をする, などの行動をとる傾向がみられた.(5) 主婦は怠業する我が子が学業成就できることを願っており, 学習意欲を喚起するため, 家事労働や内職に励む傾向がみられた.(6) 以上から, 主婦の教育的関心は, 大きく分けて主婦の生活を子ども中心のものとする, 積極的な家事労働を促すという二つの方向に導く役割を果たしていたといえる。しかし両者の違いは主として生活水準の違いに由来するものであり, 当時の新中間層の多数を構成した低所得世帯では, 教育的関心は主婦の家事労働を促す方向に機能したものと考えられる.本稿では新中間層の教育的関心と主婦の生活行動との関連を分析することにより, 高い教育的関心が積極的な子どもへの関与を導くというだけでなく, 積極的な家事労働を促すという, 新たな生活展開の回路を見出すことができた. またその分析を通じ, 子どもとの関係における主婦の家事労働の主観的意味づけにも迫ることができた. しかし教育的関心が描かれていない体験談も多かったことから, 主婦の生活を規定した要因は他にも多いことが予想される. また夫との関係における主婦の家事労働の意味づけも解明されていない, これらを明らかにすることにより, 新中間層主婦の生活実態にさらに深く迫ることが今後の課題である.