著者
長谷川 大輔 鈴木 勉
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1284-1289, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2

近年,モータリゼーションの進行や郊外型の都市構造への変化によって,都市内公共交通の利用者が減少している.そのため,既存の交通手段に代わり,デマンド型タクシーやライドシェアやカーシェアリングなど,様々な交通手段が新たな地域の公共交通サービスとして検討されている.本研究では多様な公共交通システムにおける優位性の理論的考察を目的として,アクセス移動の有無,路線・運行ダイヤ柔軟性の異なる5つの交通手段に関して,需要密度・利用者移動距離の変化による,一定のサービスレベルを実現できるコストの観点から,それぞれが優位となる基礎的条件を導出し,地域公共交通の導入実態を把握した上で,現実の都市の値での比較を行う.分析の結果,都市モデルを用いた理論的検討から,低需要密度におけるデマンド型交通,タクシー,カーシェアリングの優位性が示され,移動距離によっても優位性が変化する事を示した.また,自治体別に需要密度・移動距離を求めた結果,コミュニティバス導入地域は高需要密度・短距離移動であるのに対し,デマンド型導入地域は逆の特徴がある点,デマンド型交通導入地域におけるモデルの適合性が確認できた.
著者
石倉 智樹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.565-570, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
14

パンデミックは人類の歴史上繰り返し発生し、大きな健康被害とこれに伴う社会的影響をもたらしてきた。近年でも、高病原性インフルエンザ(A/H5N1型)の流行など、世界的な感染症流行の拡大が生じている。パンデミックが生じると、都市の社会機能や経済活動の混乱が起きる。パンデミックが発生した際には、ワクチンの開発には最低でも3~6ヶ月はかかると言われている。それまでの間、感染拡大を抑制または遅延させるための有効な政策として、公共交通の停止や学校閉鎖といった人々の活動制限が考えられる。一方でこれらの政策は、経済活動の縮小を伴うものであり、行うタイミングを誤れば効果が半減するだけでなく、経済活動へ大きな損失を与える。すなわち、活動制限による適切な政策効果を得るためには、政策実施を適切なタイミングを把握することが求められる。そこで、本研究は、パンデミック時の、特に初期の段階、すなわちワクチン生産等の医療対策が整っていない段階において、公共交通の停止や地域間境界閉鎖のような水際対策などの社会経済活動制限を行うか否かの判断、および活動制限の最適な実施タイミングを導出する方法論を提案する。
著者
阿部 正太朗 藤井 聡
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.37-45, 2015
被引用文献数
1

自転車の放置駐輪は、社会的ジレンマ構造を内包し大きな社会問題となっている。京都市では放置駐輪に対して、駐輪場増設や撤去取締りなどに力を入れている。また、放置駐輪への警告看板を市内のいたるところに設置しているが、その内容は放置自転車の撤去に関する記載に留まり、看板自体も老朽化、陳腐化している。本研究では、心理学などの知見を援用しつつ、放置駐輪の抑制を目的としたポスターを設計した。そして、設計したポスターを、実際に放置駐輪多発地点に設置し、その効果の検証を試みた。その結果、自転車放置者が自転車の放置をためらう意識の活性化等が確認され、ポスター設置による放置駐輪抑制効果が示された。
著者
味戸 正徳 長田 哲平 大森 宣暁
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1630-1637, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
15

国内初の新設のLRTがこの度宇都宮で開業する. LRT事業は開業までに様々な出来事が起き,新聞報道として取り上げられることが多かった. 本研究では,事業が加速度的に進んだ2013年以降の10年間のLRT事業の歴史の変遷と新聞別で定性・定量的に見出し記事を分析すると全国紙,経済紙,地方紙でそれぞれ報道の仕方の違いが明確になり,各紙で報道傾向がある可能性を示した.
著者
津倉 真優子 後藤 春彦 佐藤 宏亮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.44.3, pp.559-564, 2009-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
8

平成の大合併を経て、行政区域が広がりつつあるなか、地域住民が地域の課題解決のために自律的に集まり、行動していくような住民自治の在り方が模索されている。そして、このような住民の自治的な行動を考える上では、地域共有の場となり得る空間は重要な意味を持つ。本稿では、村櫛酒販売所を対象として、コミュニティ財の運用と情報交流の仕組みに着目し、地域共有の場としての酒場の機能を明らかにする。そのうえで、住民自ら地域共有の場を経営していく知見を得ることを目的とし、コミュニティ財の運用の蓄積によって「酒場」が地域住民に浸透してきたこと、および「酒場」における情報交流の仕組みを明らかにした。そのうえで、住民自ら地域共有の場を経営していく可能性を考察する。
著者
橋戸 真治郎 蕭 閎偉 嘉名 光市
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.1451-1458, 2021-10-25 (Released:2021-10-25)
参考文献数
19

日雇労働者のまちとして栄えた大阪市西成区の北東部に位置するあいりん地区は、日雇労働者の生活拠点であった簡易宿泊所が近年、観光客向けのゲストハウスに転用されることに伴い、外国人観光客を惹きつける観光地へと変容しつつある。他方で、観光関連ビジネスは地域活性化の重要な起爆剤とされている一方で、それに伴う施設開発は既存の居住空間の喪失や外部資本の無計画な流入などを引き起こし、地域の持続可能性への課題も指摘されている。本研究の目的は、あいりん地区における建物用途の変容に着目した空間的な分析と、地域関係者の観光化への意見や各主体の関係性に着目した人的側面の分析から、あいりん地区における観光化に伴う地域変容の実態を明らかにすることである。空間的分析の結果から、あいりん地区では観光需要の拡大と地域の住宅用途の建物の老朽化により、空き家を建て壊して宿泊施設へと用途変更する物件が増えつつあることが明らかとなった。また、人的側面の分析から、地域内の店舗が観光客には利用しにくい現状や、簡宿に宿泊する観光客は地域外に滞在する時間が長いことから、観光による経済効果が地域に波及していない現状の課題を解明した。
著者
河西 奈緒 町田 大 北畠 拓也 土肥 真人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.697-702, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
10

効果的なホームレス政策の計画・実施には、政策対象を知り、支援ニーズを捉え、必要な資源を投下して効果を測ることが不可欠である。しかしホームレスの実態を捉えることは容易ではなく、特に野宿状態は、根源的な現象でありながらその把握が最も難しい。2000年代以降、野宿人口調査の一手法である市民参加型ストリートカウントを大規模に実施する都市が世界の様々な地域で登場し、新たな潮流を生んでいる。本論は、筆者らが実際に参加したニューヨーク、シドニー、ロンドン、東京の4都市で実施されている市民参加型ストリートカウントの規模や運営の詳細を明らかにし、政策デザインや資源投下の効果測定のために各都市が多数の市民ボランティアを集め実態把握に取り組んでいる現状と、HL問題への取り組みを市民に開くことで、市民教育と同時に、政策の正当性や公共性が担保されていることを論じた。
著者
齋藤 嘉克 佐藤 宏亮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1424-1429, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
6
被引用文献数
1

「日本創生会議・人口減少問題検討分科会」は、2040年までに全国の市町村のうち約半数が消滅する恐れがあると発表した。移住定住促進を意図した政策により、近年国民の地方回帰意向が高まりその動きが注目されてきている。本研究では、奄美大島龍郷町秋名・幾里集落を対象地として研究を行なった。本研究対象地は奄美大島龍郷町20集落の中で、若年層のUターン者が多く、2008年から2018年の10年の間で急激に増加している。一般的に沖縄・奄美地域は帰還性が強く定年退職後のUターンについては離島研究の多くでも言及されてきた。しかし、若年層Uターン者の増加やその要因についての分析や報告も少なく、若者の回帰促進を考える上で回帰を促進する要因とその形成プロセスの究明は重要性が高い。
著者
遠藤 瞭太 後藤 春彦 山村 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.1083-1088, 2014-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

昨今我が国を含めた先進諸国においては、社会の成熟とともに知識重視社会に向かいつつあり、教育インフラの重要性が高まっている。本研究では、サードプレイスで学習をする都市生活者を調査・分析したところ、以下の3点が結果として明らかになった。1)サードプレイスで学習する際の意思決定プロセスには、「学習を目的として場所を選択する場合」と「場所を選択する事を目的とする場合」の2種類がある。居住地や就学先周辺では、前者が多くみられた。2)サードプレイスで学習する理由には、物的な側面の動機と心的な側面の動機がある。このうち、心的な動機は、学習意欲に対して強い影響を与えている。3)サードプレイスで学習する人は「人がいる」「一人になれる」という2つの対極的な欲求を持っている。それを満たし、かつ求める物的環境の快適性を有する場所として、サードプレイスが利用されていた。以上のようにサードプレイスは都市における学習場所として価値を有していた。
著者
中澤 知己 杉田 早苗 土肥 真人
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.962-967, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
13

日本国内では2016年のヘイトスピーチ解消法後も、年間300を超えるヘイトスピーチが行われている。本研究では国内で初めてヘイトスピーチに対して罰則刑を定めた川崎市の条例の成立背景を明らかにすることを目的とする。 分析方法としては、川崎市の革新的な取組の背景を明らかにするために、市議会の議論に注目し、議事録からヘイトスピーチに関する発言、全1313件を抽出し、6つの論点に分類し、分析・考察した。また、条例に対する2万6千を超えるパブリックコメントを整理し、市民の意見を概観し、市議会での議論と比較し考察した。結論として、川崎市には外国人市民の抱える問題に対し、市民、市議会が協働して支援を拡充し、全国で初めての試みを行うなど、都市の中に多文化共生の意識が育っていること、止まらないヘイトスピーチに対して市民の訴えに市議会が応えたことで、全国で初めてのガイドラインや、条例などの対策が講じられたこと。都市の中に多文化共生の共通認識があったからこそ、全国初となる対策や支援を何度も実行できたこと、都市のビジョンを共有することは都市の態度を決め、都市問題に立ち向かう力になるということがわかった。
著者
松原 康介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.44.3, pp.889-894, 2009-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
26

シリアのアレッポは、世界各地との交易を背景として多様性豊かな商業都市として発展した。20世紀に入ると高度な資本主義の発展の下で歴史的市街地に開発圧力が集中したが、その時の都市計画の理念と実態はいまだ明確ではない。そこで本研究では、仏委任統治領時代に始まるフランス都市計画のアレッポにおける変遷を考察し、近代都市計画の導入に伴う都市空間の変容を明らかにする。旧市街における道路計画はダンジェによる最初の都市計画に既に現れていた。エコシャールは古代遺跡局出身者の立場から歴史的建築の修復計画をこれに加える一方、道路計画に変更は加えなかった。独立後、ギュトンの計画はこれまでの道路計画を更に発展させ、具体的な街路線計画を残した。この計画が旧市街の破壊につながったと言われるが、ギュトンは計画の背景にアレッポ市側の要請があったことを示唆している。その後に都市計画を担当した番匠谷尭二は、旧市街に道路を貫通させない方針を明確に示し、ギュトン計画にあった道路の多くを削除した。それでもダンジェ以来の道路計画のいくつかが方針に反する形で採用されており、そこには商業都市アレッポの開発圧力があったものと考えられる。
著者
讃岐 亮 吉川 徹 饗庭 伸
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.42.3, pp.481-486, 2007-10-25 (Released:2017-02-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

近年日本では、大規模商業施設が田園地域の真只中に立地している現象が多く見られる。本研究はこの現象に対する理論モデルを作成することを目的とする。そのため本研究では、2つの都市中心とその中間の地域における立地ポテンシャル優位性の逆転に焦点を当てた、商業施設の立地モデルを提示する。このモデルは自動車移動可能性と人口分布という2つの変数とするものである。立地ポテンシャルは二乗距離の指数関数によって表される。このモデルを、2001年開業の大規模ショッピングセンターが中間地域に立地する酒田市・鶴岡市の地域に適用し、適合性の高い結果が得られた。
著者
布川 悠介 伊藤 史子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.45.3, pp.589-564, 2010-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
6

「グラフィティ」とは街に描かれる落書きのことである。本研究ではグラフィティ分布と都市要素との関係を分析し、ライターの行動特性に関する示唆を得ることを目的としている。高円寺駅を中心とした半径600m以内のグラフィティ分布の調査を行って得られた地点と数、種類のグラフィティ属性データを用いて空間分析を行った。駅距離とグラフィティ密度の関係から非線形回帰分析により密度関数を導出した。ライター間の敵対的な「Communication」地点と不特定多数に見せつけるための「Exposure」グラフィティの各分布が商業地域、駅南の商業地域に集中していることをKolmogorov-Smirnov検定、二項検定により示している。グラフィティを描く目的に着目して行った空間分析の結果より、ライターの行動特性は都市要素と関係していることがわかった。特に駅からの距離、用途地域はグラフィティを描く場所を決定する上での大きな要因となっている。これらの分析によって導かれた結果はライターの行動特性を空間的に捉える一つの指標になると考えられる。
著者
山田 あすか 讃岐 亮
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.881-887, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
12

放課後のこどもたちの活動の場である学童保育拠点は,就労支援や児童福祉の観点から,ますます拡充が求められている。その際,コストや整備期間の短縮といった観点からは地域資源の活用が有効であると考えられる。本研究では,都内の学童保育拠点の設置状況(単位面積あたり拠点数,1拠点あたり定員)が異なる3つの区を対象としたケーススタディとして,学童保育拠点の配置と,定員の過不足についての検証を行う。また,定員が不足する場合には拠点増設を想定し,[将来想定]条件での将来的なニーズの把握とそれに対応した拠点整備効果の検討を行った。拠点分布に偏りがある場合の利用圏域の調整など現有資源の有効活用,ならびに地域資源の活用を想定して拠点の圏域と定員の調整を行い,将来的な利用児の増加に対する対応可能性を示した。この成果は,高学年児童も受け入れる学童保育制度への移行や,1人あたり面積の拡充等に向けた道筋となる資料として一定の価値があると考える。
著者
飯田 晶子 大澤 啓志 石川 幹子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.319-324, 2011-10-25 (Released:2011-11-01)
参考文献数
21

本研究では、南洋群島の旧日本委任統治領、パラオ共和国バベルダオブ島の3つの流域で行われた農地開拓とボーキサイト採掘を事例に、開拓の実態と現代への影響を分析した。農地開拓では、島内に4つの指定開拓村が設置され、1940年には合計1671人が2255町歩の土地に暮らし、主にパイナップルやキャッサバが栽培された。一方で、日本人が撤退した後65年を経た現代においても、当時の森林伐採と土地収奪的な営農による植生への影響、および、移入種Falcataria moluccanaによる固有種への影響が見られる。ボーキサイト採掘地は、島内2カ所に合計106ha設置され、島の一大産業であった。開拓面積は小さいものの、表土を剥がしとったために、採掘当時は多量の土砂が流出し、湿地と沿岸域に堆積した。また、パラオ人集落でも、土砂の埋立てと集落移転、インフラ設備の再利用、産業遺産の観光化など、少なからず日本の影響が見られる。開拓はいずれも水系を軸として流域を単位に進められており、開拓の影響は沿岸の生態系やパラオ人集落など、流域内の自然や社会に対して広域、かつ長期にわたる影響を与えている。
著者
坪原 紳二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.84-95, 2012-10-25 (Released:2012-10-25)
参考文献数
27

オランダ・フローニンゲン市は1977年、交通循環計画(VCP)に基づき中心市街地を4セクターに分割し、車がセクター間を移動するには一度、環状線に出なければならないようにした。これによって中心市街地の自動車交通量は半減した。本論文はこのVCP導入の政治的プロセスを分析することで、環境にやさしい交通政策の実現にとって必要な民主主義について、示唆を与えることを目的とする。当時導入を主導したニューレフトは、リベラル・デモクラシーの実現手段である政治化、対極化、及び参加民主主義の実現手段である市民参加を、政治信条として掲げていた。ところが実際のVCPの導入プロセスにおいては、政治化と対極化は明確に見て取ることができたが、市民が参加する機会は極めて限られていた。このことは、環境にやさしい交通政策を実現するうえでは、参加民主主義よりもむしろリベラル・デモクラシーが有効であることを示唆している。
著者
長曽我部 まどか 谷本 圭志 森本 智喜
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.792-798, 2018-10-25 (Released:2018-10-25)
参考文献数
20

本論文では,2016年の鳥取県中部地震を事例として,被災者が災害ボランティアセンター(災害VC)に依頼したニーズを分析し,ニーズが発生する要因と発生するタイミングを明らかにした.被災者のニーズを専門的な作業が必要なニーズと一般のボランティアが対応できるニーズに分類し地区別に集計した上で,それぞれの発生要因について,地区の被害状況,災害VCまでの距離,高齢化率,自主防災組織の活動率を取り上げ,ポアソン障壁モデルを用いて推計を行った.その結果,依頼の有無については,専門ニーズは被害状況や距離が影響を及ぼす可能性が,一般ニーズは被害状況,距離,高齢化率,自主防災組織の活動率が影響を及ぼす可能性が示唆された.依頼のタイミングについては,距離を除く全ての変数が影響を及ぼす可能性が示された.更に,年齢と天候状況に着目した分析を行った結果,専門ニーズは高齢であるほど依頼するタイミングが早く,一般ニーズは,高齢であるほど遅いことが明らかになった.また天候が悪いと依頼をするタイミングが早まることが分かった.
著者
窪田 亜矢
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1358-1364, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
38

東日本大震災後に都市計画が適用された状況をふまえれば、都市計画において合理的な目標像を設定できたとはいえない。都市計画の再考が必要である。都市計画は、特定の都市や地域を対象に、今よりも良い状態が存在し、それを合理的な目標像として描き、規制と事業によって実現できるという信念に基づいている。現状からの変化を前提としているので、個人の移動の自由を制限することを原理的に包含している。しかし、個人の移動の自由とは、現状保障を基本とする居住や事業を営む場所に関するもので、個人の命や生活に関わる重大な自由である。そこで、現状の都市計画に、個人の移動の自由を尊重する規範を並立させる必要がある。
著者
安達 友広 久保 勝裕 西森 雅広
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.546-552, 2015-10-25 (Released:2015-11-05)
参考文献数
24
被引用文献数
1

明治期の北海道内陸部で建設されたグリッド市街地の多くは、「殖民地区画制度」に基づいて計画された。これらは合理的に農耕地を開拓するための原野区画と一体的に形成され、空間的には原野区画とその軸性が一致するのが特徴である。特に、原野区画の基準となった「基線」は、開拓道路として地域で最も早くに開削され、沿道に市街地が開設された場合が多いことから、市街地の空間構成を考える上でその性格を把握することは重要である。一般的に、北海道の空間計画における「基線」は、高燥地であること、勾配や凹凸が少ないこと、原野区画の基準線として当該原野を長く貫くこと、等の合理的な理由に基づくものとされてきた。しかし、基線上に山当ての現象が見られる等、それだけでは説明できない場合も指摘されている。本論では、歴史的資料を用いて原野の空間計画の考え方を分析すると同時に、羊蹄山周辺地域の事例分析から「基線」の設定と山当ての関係を考察し、それらが合理性だけではなく、デザイン的要素も加味した計画手法であったことを明らかにした。
著者
瀬川 遥子 島田 由美子 藤井 さやか
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1187-1194, 2023-10-25 (Released:2023-10-25)
参考文献数
20

筑波研究学園都市では、1980年の概成から40年が経ち、国家公務員宿舎の廃止や事業予定地の売却に伴う民間事業者による開発が相次ぎ、住宅地開発が加速している。従前の公務員宿舎地区では、エリア全体に適用される「計画標準」という開発ルールによって、空間デザインの統一や敷地間の連続性が図られ、研究学園都市の空間資源を創出していた。計画標準に代わる誘導策として、2010年より宿舎跡地に「地区計画」が策定されている。本研究ではこの地区計画に着目し、規定内容及び形成された空間の質に対する評価から、地区計画が研究学園都市の空間資源の継承に果たす役割と課題を明らかにすることを目的とする。地区計画作成内容、現地調査、規定項目と実際の開発状況の分析から、現行の地区計画では開発ボリュームの増大はコントロールできていないが、反対に、かきやさくの構成と緑については、一定の誘導効果をあげていることが明らかになった。