著者
鹿島 剛
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

SMN1遺伝子の発現が不活化されている脊髄性筋萎縮症SMA由来の線維芽細胞にRNA結合蛋白質hnRNP A2に対するRNA干渉を施すとSMNの産生量が減少する現象を見つけた。この作用機序は,SMN2遺伝子の翻訳レベルでの調節であることが解析できた。この事は,SMN2とA2による分子間相互作用が新たな分子標的として,創薬のターゲットとして今後の研究対象になることを示唆している。
著者
近藤 真司
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ボウレイとレイトンはマーシャルの経済学と方法論を学び,当時の重要な研究テーマで彼が十分具体化できなかった応用経済学の分野に業績を残したことを明らかにした。ボウレイとレイトンの研究業績は,マーシャル経済学の現実への応用と経済学における統計的の開拓である。両者の統計学法論を考察することにより,ケンブリッジ学派の創設者として現代の経済理論の基礎を構築したマーシャルとは別の応用経済学に関心を持っていた彼の経済像を明らかにすることができた。
著者
松浦 章
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

清朝中国の国内沿海における海上輸送が、木造帆船即ちジャンク(Junk)によりどのように行われていたかを明らかにしたものである。中国大陸の沿海は数千キロに及んでいる。清代において優秀な航運能力があった帆船の航運活動に関して、特に山東半島を中心とする渤海・黄海沿海については山東省の青島における文献調査、華南沿海における福建省においては泉州地区における実地調査等によってその沿海航運について明らかにした。
著者
大川 四郎 加藤 順一 原 禎嗣 上野 利三 桝居 孝
出版者
愛知大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

まず、太平洋戦争中の捕虜問題の背景として、防衛省防衛研究所図書館所蔵「金原節三業務日誌摘録」に見られる、陸軍中枢の捕虜観を検討した。当初、当時の俘虜情報局長官は、日本が批准していないとはいえ、俘虜の待遇に関するジュネーブ条約の遵守を主張した。しかし、当時の陸相はこれに反対し、捕虜軽視策が強行された。こうした捕虜観が、軍内部の上意下達機構を通じて、戦場あるいは収容所の現場で、捕虜と直接に接する日本軍将兵らに投影され、例えば虐待という形で現出した(第1部)。次に、本研究の主対象である、日本赤十字社所蔵の太平洋戦争中旧文書(以下、「日赤戦中文書」と略)を調査した。この「日赤戦中文書」には、欠落部分が多いので、本研究では、在ジュネーブ赤十字国際委員会(以下、ICRCと略)附属文書館所蔵の対日関係文書で補完していくという手法を用いた。もっとも、ICRC文書館所蔵文書が膨大であり、実際に閲覧・分析し得た文書は1944年前半期までであった。そこで、分析の対象時期を1942年から1944年前半期と限定し、具体的には、(1)俘虜収容所視察、(2)救恤品配給、(3)赤十字通信、に関する旧文書について検討した。(1)立会人抜きの自由対話が禁じられていたため、俘虜収容所視察が形骸化していた、だが、その枠内ではあれ、函館俘虜収容所のように捕虜処遇に尽力した実例があったこと、(2)日赤俘虜救恤委員部とICRC駐日代表部の尽力で、各種救恤品が各捕虜収容所に配給されていた、だが、救恤品が最終的に、名宛人である捕虜本人にまで届いたかどうかまでは、確認できなかった、(3)赤十字通信は俘虜情報局、日赤俘虜救恤委員部、ICRC駐日代表部の協力で開設されたものであること、を明らかにした(第2部)。総じて、陸軍側の捕虜軽視策に著しく阻まれたが、ICRC駐日代表部と連携した日赤俘虜救恤委員部の捕虜救恤業務が続行された。
著者
小林 謙一
出版者
独立行政法人文化財研究所奈良文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本列島、韓半島、中国における武器・武具の資料を比較すると、それぞれの地域間の交流を示す資料が明らかになる一方で、各地域に特徴的な在地の独自性を示す資料の存在も明らかになった。日本列島に関しては、弥生時代以降、弓矢をはじめとする攻撃用武器と甲冑等の防禦具は、相互に関連しつつ変遷してきたが、5世紀中葉には、同時に、新式の攻撃用武器、防禦具が導入された。これらは基本的に騎兵装備であり、中国東北地方、高句麗から韓半島を経由して日本列島にもたらされたことが明らかになった。ただし、中国東北地方で4世紀に成立した、馬も鎧を着用した重装騎兵の装備は、韓半島南端においても出土しており、両者が同一の系譜であることが確認できるのであるが、日本列島では、馬甲・馬冑の出土が皆無に近い状況であることから、ほとんど普及しなかったと考えられる。このことは、騎兵装備が騎兵戦という戦闘方法と一体で導入されたのではなく、より性能の高い新式の武器・武具として取り入れられたことを物語っている。当時の日本列島において、重装騎兵の装備は、必要とされなかったのである。東アジア各地域における武装の相違は、戦闘方法の違いでもあった。一方、防禦施設についても、高句麗古墳の壁画に描かれた城壁や土城を巡る高い土塁は、日本列島で確認されていない。こうした点も、武器・武具は、日本列島内における戦いに対処する装備として整えられてきた一因と考えられる。さらに、騎兵と関連する馬に関して、日本列島においては、馬具の出現が、騎兵装備より時期的に先行している事実も加味すれば、その時点における必要なものを選択して取り入れるという、受容する側の状況があったことも考慮すべきであろう。
著者
冨田 敏夫 神尾 好是
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

黄色ブドウ球菌のロイコシジン及びγヘモリジンは2成分性血球崩壊毒素である。我々は、ヒト血清中のγヘモリジン阻害物資の精製に成功し、阻害物資をビトロネクチン及びそのフラグメントであると同定した。即ち、ロイコシジン及びγヘモリジンの新規機能、すなわちビトロネクチン結合能を初めて明らかにした。本研究では、(1)ビトロネクチンがγヘモリジンのHlg2成分およびロイコシジンのLukS成分に特異的に結合して両毒素の活性を阻害する事実を明らかにし、(2)ビトロネクチンの毒素分子結合ドメインの決定を試みた。ビトロネクチンの毒素阻害ドメインを決定するために、プラスミンによるビトロネクチンの限定分解をおこない、38kDaの阻害活性フラグメント(:89番目セリンから始まる)を分離した。さらに、このフラグメントをトリプシン分解した結果、C末端側が切断された24kDaの活性フラグメントが得られた。従って、ビトロネクチンの毒素阻害部位はhemopexin 1ドメインのC末端側及びhemopexin 2ドメインのN末端側の両者を含むことが明らかになった。また、(3)ビトロネクチン・毒素複合体中の両分子のモル比を測定した結果、平均して6分子のビトロネクチンが1分子の毒素を結合していた。この複合体中の毒素成分はSDS存在下で遊離するが、ビトロネクチンは複合体として存在していた。さらに、電子顕微鏡観察では、約20nmの球状構造が見られ、この球状構造が毒素成分1分子を保持するビトロネクチン複合体であると考えられた。
著者
大田 一郎 原 憲昭
出版者
熊本電波工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では,コイルやトランスを使わずに,コンデンサとICスイッチだけで電圧変換できるスイッチトキャパシタ(SC)回路を用いて,超小型軽量のACアダプタを実現させる.平成17年度には,研究の最終年度で,過渡応答試験とワールドワイド入力の対応について検証を行った.電源投入時と瞬時停電時の過渡応答試験を行った結果,電源投入時の過渡応答では,従来のSC電源に比べ,突入電流を半分以下に減少させることができた.即ち,従来のSC電源(電子情報通信学会論文誌,vol.J76-C-II, no.6,pp.422-431,June 1993参照)では,300μFのキャパシタ4個を同時に商用電源に接続するのに比べ,提案回路では全波整流後の平滑キャパシタが30μFと小さいので,ソフトスタート回路を付加しなくても大きな突入電流を防ぐことができる.瞬時停電の応答は,従来方式の総容量1,200μFに対して,提案方式の総容量は180μFと約117に軽減しているので,出力の時定数が117に減少して全負荷時では半周期の瞬時停電でも出力電圧を維持することができない.なお,復帰後の応答は突入電流が小さく良好である.次に,世界中の電源電圧に無調整で対応できるACアダプタにする必要があるので,入力電圧を100V〜240V,周波数を50〜60Hzと変化させた場合の特性を明らかにする.個別部品で実験回路を組んでいるため,配線の引き回しにより,電源部では雑音を発生しやすく,制御部では雑音を拾いやすい回路になっている.このため入力電圧を高くすると,制御回路が誤動作したため,まだ実験での検証を終えていない.今回の試作では個別部品による動作の検証,および,計算機シミュレーションによる特性解析を行ったが,今後,制御回路の誤動作を防ぐため,キャパシタ以外の全ての素子をICチップ化して,実用化の見通しを検証したいと思っている.
著者
阿部 茂 金子 裕良
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.「避難救出運転方式」とその輸送能力計算方式の開発エレベータを併用した場合の避難時間短縮効果を明らかにした。非火災時の全館全員避難の場合、ビルを縦に(ゾーン数+1)の区画に分け、最下区画の人は階段だけで避難し、残りの区画の人は各区画の最下階まで階段で下り、その階で玄関階との間を往復運転するエレベータに乗り避難する方式が、最適なことを示した。高層ビルほど短縮効果は大きく、16階ビルでは約1/3の15分程度で避難でき、避難用エレベータの有効性を確認できた。2.停電でも避難運転ができるエレベータの電源方式と運転方式火災時は停電の危険があり、ビルの非常電源では1台程度しかエレベータを運転できないため、停電時に全エレベータを運転できる電源方式が不可欠である。避難時は下方交通のため避難乗客の位置エネルギーを利用すれば、エレベータに小容量の回生電力蓄電装置を設置するだけで、停電時でも運転継続できる可能性がある。このための最適なエレベータ運転方式と電気二重層コンデンサを用いた省エネ率の高い電源方式を明らかにした。3.避難者行動ミクロモデルとそれを用いた避難シミュレーション手法避難時の階段歩行のイベントシミュレーション手法を開発した。エレベータのシミュレータと統合すれば、様々な状況における避難シミュレーションが可能となる。4.避難用エレベータの乗場における車いす利用者の画像認識避難時には身障者を特別に誘導する必要がある。エレベータ乗場の車いすの人を健常者と識別可能な画像認識手法を開発した。移動体の輪郭線と速度を求める性能の良いアルゴリズムで特許を出願した。
著者
小島 美咲 出川 雅邦
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

雄の血中アンドロゲン濃度(Ad)が顕著に異なる2品種のブタとその交配で得たF1を用いて、肝臓における薬物代謝酵素の構成的遺伝子発現の性差を調べるとともに、性差発現における血中Adの関与を追究した。その結果、構成的発現に性差が見られる肝薬物代謝酵素の遺伝子発現は、Adにより閾値をもって抑制的に制御されていること、また、Adの高発現形質は常染色体性に優性遺伝することを明らかにした。
著者
河村 勝久 平野 葉一 柴田 正憲 淺香 隆
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では1.教育研究所がHUB局となり、インターネットを利用したe-Learning活用のためのコミュニティーシステムを作り、教員同士で疑問に思ったことを互いにぶつけ合い、協同的に探求しあいながら共同のe-Learning構築を目指す。2.大学教員及び高校教員に対するe-Learningシステム活用支援システムを開発し、学習を情報と捉え、情報理解能力・情報選択能力・情報批判能力・情報生成能力・情報伝達能力を支援する。3.数学教育においては「生きる力の教育」を「数学を活用する力」と捉え、体験的作業的学習と問題発見解決型学習を推し進めるため、学生たちの視覚的理解を可能にする教材モデルの作成と実践。を研究目的として、多数の関係者の協力得て研究活動を展開してきた。この結果、目的1に関しては、東海大学学部学生・志内伸光君(現在名古屋大学大学院院生)と東海大学代々木電子計算機センターの技術員の協力のもと、e-Learning学習システムをサーバ機上に構築した。初年度はサーバ上にメールサーバを構築し、外部からの転送の確認と安全生の確認時間を費やした。その後、簡易的であるがホームページを立ち上げ簡単なコミュニティーシステムを試みた。目的2に関しては、平成14年から16年にかけて、定期的に研修会を開催し、e-Learning教材の開発およびプレゼンティションの仕様書などの作成行った。これに関しても、多数の資料が得られ、教員の意識改革の可能性の示唆を得ることができた。目的3に関しては、東海大学の数学教員の協力のもと、教材の検討、実際の授業での活用を踏まえた共同授業などを試みた。今後は、平野葉一氏が掲げる「機械仕掛けの数のマジック」のe-Learning化を目指し、学習者が数学教材・教具を見たり触ったりして観察や実験を行い、それらを作り、そこから「不思議」を感じ、体験的に「納得」し、その結果に「驚き」、「感動」する場を提供することができたように発展させたいと思っている。これも新しい教育改革に呼応することになるだろう。
著者
高桑 守
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は平成17年度から平成19年度の3カ年にわたり日本の漁民社会3地域(大分県佐伯市米水津、山口県下関市吉母浦、宮城県牡鹿郡女川町江ノ島)において民俗形成や民俗変容に果たしてきた漁民家族の実態や役割を、ライフヒストリーや家族誌の作成などの分析を通して微視的に検討しようとする試みで、民俗の持続や変革にかかわる伝承主体として漁民家族の把握をめざすものである。そのため、上記3地域において継続的に現地調査を実施し、それぞれの地域で2〜3家族をサンプリングした上で、漁業の変遷や漁業の選択、あるいは漁家経済、社会的参加、信仰事象など地域の民俗に対して、それぞれの漁民家族がどのように対応し、選択するかを検討した。とりわけ漁民家族の夫-妻関係を主軸にそのライフヒストリーや家族誌的分析を試みてきた。その結果、それぞれの家族において、種々の相異は認められるものの、総じて、漁民家族にあっては、夫-妻関係において妻(女性)の発言や行動が大きな作用性をもち、夫の漁業戦略や漁家経済(消費行動も含む)、さらには漁民社会における夫不在の間の女性の積極的社会参加に女性の役割の大きさを確認することができた。地域変化や民俗形成に漁民家族の単位でとりわけ女性の果たす役割の重要性を、この微視的考察によって明らかにすることができた。
著者
小川 晃子
出版者
岩手県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

過疎化・高齢化の進展する地域におけるICT(情報通信技術)を活用した高齢者見守りシステムの効果を、地域連携によるアクションリサーチを行いながら実証的に検証した。電話機で高齢者が能動的に発信するいわゆる「おげんき発信は、センサーなどの受動型安否確認システムや緊急通報システムに比較し、高齢者の遠慮感に配慮し、安否確認の確実性が高いことが明らかになった
著者
稲垣 宏
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

胃MALTリンパ腫の免疫グロブリン重鎖遺伝子解析から慢性炎症を基盤に発生するMALTリンパ腫群と慢性炎症の関与が明らかではない群は互いに独立していることを明らかにした。またアジア、欧州、米国間で共同研究を行い、皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫は慢性炎症の関与が明らかではない群であること、DAPKおよびp16遺伝子メチル化が高率に認められること、またアジア症例には好酸球の浸潤が特徴的であること、を明らかにした。MALTリンパ腫全体像を最新成果とともに総説に著した。
著者
長谷川 公一 吉原 直樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9・10年度は、おもに地球温暖化問題、エネルギー問題への取り組み、とくにCOP3以降の、環境NGOおよび地方自治体の役割を中心に、主要政令指定都市で調査を行った。ただしゴミ問題やリサイクル問題などと比較して、自治体とNGOのコラボレーション(対等な協働関係)の本格的な展開は今後の課題である。生協のような消費者団体、とくに生活クラブ北海道が中心となって1999年度から電気料金の5%相当分をグリーン料金として拠出しあい、その資金を風力発電事業に投資しようとする「グリーン電力料金」の運動は、消費者として電力会社および自治体に対して「意思表示」を行い、電力多消費的な自分たち自身のライフスタイルを見直し、節電の経済的動機づけをはかろうという新しいスタイルの運動として注目される。平成11年度は、主に東北・北海道の町村レベルでの風力発電、バイオマスなど再生可能エネルギー開発を中山間地域での地域おこしと結びつけようとする先進的な取り組みについて関係者への聴取調査、資料収集を行った。原子力開発のメッカだった東海村では、99年9月のJCO臨界事故を契機に、行政・住民の原子力に関する不安感、国や県の原子力行政に関する不信感が高まっており、人口1万人規模の東北の中山間地域の内発的な地域おこしをモデルとした地域づくりへの転換が模索されている。以上をもとに環境問題における市民的公共性の新しい担い手として、環境NGOを位置づけなおし、その新しい存在意義を考察し、論文にまとめた
著者
原渕 保明
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

初めに,鼻性T細胞リンパ腫の細胞の起源を免疫遺伝子学的に解析した結果,本腫瘍の細胞起源としてはNK細胞またはNK様T細胞である可能性が示唆された.また,検索した全症例にクローナルなEBウイル遺伝子が認めたことから,EBウイルスは本疾患の発症に深く関与していることが示唆された(Cancer77:2137-2149,1996).次に鼻性T細胞リンパ腫含む頭頚部悪性リンパ腫について腫瘍組織における細胞接着分子の発現と患者血清中の可溶性細胞接着分子の測定した.その結果,鼻性T細胞リンパ腫の血管内浸潤部位(angiocentric region)ではICAM-1の極めて強い発現が認められた.鼻性T細胞リンパ腫では他の頭頸部悪性リンパ腫に比較して血清中の可溶性ICAM-1が有意に高値を示していた(Ann Otol Rhinol Laryngol 105:634-642,1996).また,ワルダイエル扁桃輪原発悪性リンパ腫について臨床的解析を行った結果,T細胞リンパ腫はB細胞リンパ腫に比較して予後が非常に不良であることが統計学的に証明された(Acta Oncologica 36:413-420,1997).頭頚部原発の上皮系悪性腫瘍については中国医科大学と共同研究を行ったところ,頭頸部悪性腫瘍におけるEBウイルスの関連性には組織型や原発部位だけでなく,人種や地域性によって異なる可能性が示唆された.また,上咽頭癌ではEBウイルス遺伝子・発癌抗原の発現形態,癌遺伝子,癌抑制遺伝子の発現形態,およ臨床像との関連性が認められた(第10回日本口腔・咽頭科学会,1997;第15回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会.,1997;第22回日本頭頸部腫瘍学会,1998).最後に,鼻副鼻腔原発の悪性リンパ腫におけるEBウイルスの検出と細胞型,病理組織型および臨床像との関連性について検討した結果,細胞型または組織型およびEBVの有無による完全緩解率や生存率の有意な変化は認めないが,著明な浸潤破壊性病変を有した例では予後が極めて不良であることが証明された(2nd Asian Research Symposium in Rhinology.Seoul,Korea,November1,1997).
著者
久保田 優子
出版者
九州産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、これまで自明のこととされてきた、植民地朝鮮において「同化」の手段とされた日本語教育の論理について、実証的に解明し、以下の知見が得られた。1.第一次朝鮮教育令期(1911年〜1922年)において、朝鮮総督府は日本語教育により朝鮮人をどのように「同化」しようとしたのかを解明した。その結果、(1)日本語普及の目的は、国語の統一により国家統一を強化することであり、国語(日本語)の趣旨は、コミュニケーションの手段としてよりも、「国民精神の涵養」に重点が置かれていた。(2)総督府が意図した「同化」とは、朝鮮人に「天皇への感謝」の気持ちを持たせ、「実用的」な知識を身に付け、実業に就いて、「勤勉」に働き、役人の命令に従順に従い、「国家に尽す」人間になることであった。(3)「朝鮮教育令」策定に強く関与した、帝国教育会の朝鮮教育方針建議案の策定過程の検討により、内地人の国民統合倫理である「教育勅語」により、朝鮮人をも統合しようとする意図が「建議案」に反映されたことが解明された。2.一方、朝鮮人側の日本語教育の論理解明のため学校史及び『朝鮮日報』を取り上げた。(1)『梨花七十年史』では、日本語教育は不活発で、卒業式や祝祭日にも「君が代」は歌わず賛美歌を歌っていたこと、(2)『延世大学校史』では、総督府に大いに協力的であったこと、(3)「私立普成学校」では、日本語担当教師は朝鮮人を擁護したので朝鮮人に慕われたこと、(4)「私立延喜専門学校」では、1941年「国語常用の徹底」方針を掲げたものの、実際には日本支配に順応しなかったこと、等が解明された。以上により、朝鮮人側において、学校により対応に大きな差があったことが明らかにされた。
著者
小西 秀樹
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,政治経済学の分析枠組みを用いて,財政政策の決定について考察した.第一に,利益集団と投票者の行動を導入した政治経済モデルを開発し,財政再建が行われる政策決定プロセスの理論化を行った.このモデルでは,増税と支出削減を組み合わせた財政再建の構成が政治家と利益集団との癒着の程度を表すシグナルとしての役割を果たし,投票者が政治家のタイプを識別することができるようになる点を明らかにした.第二に,賃金税と消費税で社会保障支出の財源調達を行うケースを想定して,財源調達方法が政治経済的な枠組みのもとでどのように決定されるか,それぞれの財源調達方法が固有に持つ再分配効果の違いに着目して,検討した.そして,高齢化の進んでいない社会では,賃金税のみで社会保障財源が調達される均衡(正確には,構造誘導均衡)だけが存在し,消費税による財源調達が行われることはないが,高齢化が進展すると,複数の構造誘導均衡が現れ,賃金税だけで社会保障財源が調達するケースだけでなく,消費税だけで調達されるケース,両者が併用されて調達されるケースが均衡になることを明らかにした.第三に,現行の厚生年金制度の政治的な存続可能性を実証分析した.具体的には「存続」と「廃止」を二者択一の選択肢とした国民投票で過半数が「存続」を支持するか,将来人口推計や財政再計算のデータを用い,正の残存期間収益を持つ最少年齢(境界年齢)と全有権者の中位年齢を計測して比較した.計測の結果,現行制度は政治的に存続可能と判定されるものの,今後の年金改革では,2025年までに境堺年齢を迎える現在30歳および40歳代の世代の残存期間収益を引き下げないことが重要であることがわかった.
著者
渡辺 香織 西海 ひとみ 戸田 まどか 奥村 ゆかり 岡田 公江
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ストレスがPMSの第1要因であることを示した。さらにストレス対処、睡眠の満足感、月経の悩み、喫煙がストレスを介してPMSに間接的な影響を及ぼしていた。また、唾液による生理学的評価からPMSではストレス認知が月経周期に伴い変化し、慢性ストレス状態を示すsIgA値の低下を認めた。ストレスマネージメントによる教育プログラムの効果を認め、今後の課題としてこれらを活用したピアサポートを教育機関などで拡大する必要性を示唆した。
著者
衛藤 幹子
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、日本における女性の政治的過少代表(女性議員が少ない状態)の要因を、国際比較の文脈から分析することを目的に、文献調査、国内調査(関係者へのインタヴュー、アンケート)および海外現地調査(クオータ制度)を実施した。その結果、日本女性の過少代表の原因は、選挙制度、政党の態度、政治文化、クオータ制度の有無などから多面的に説明できるが、政治に対する女性の意識や行動が最も重要な要因であることが明らかにされた。
著者
土肥 義和 岡野 誠 片山 章雄
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

標記研究課題に対する研究成果は、次の(1)~(4)の通りである。 (1)ロシア科学アカデミー東洋学研究所サンクト・ペテルブルグ分所所蔵の胡語文献の裏面 に書かれた漢語文献の目録原稿を作成し、そのうちの非仏教文献の録文を公表した。(2)旅順 博物館所蔵の『唐律』『律疏』断片のカラー写真を学界に提供し、既発表論文のいくつかの論点 をより正確にした。また、旅順博物館所蔵吐魯番出土の唐代の田制等社会経済文書と墓葬再利用文書の文献・彩画両面資料とを実見し、それらと龍谷大学所蔵の大谷文書等との綴合を示した。さらに、綴合によって復原された唐代の官文書の史料的位置づけを行った。(3)敦煌仏教との比較資料として、開封市の繁塔に見える北宋初期の仏教石刻資料を増補し、その全体像を 提示した。(4)胡語文献の研究と関わって洛陽のソグド人「安菩夫妻」の墓と墓誌を調査し、 その成果を公表した。