著者
飯田 操
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、イングリッシュネスすなわちイングランド覇権を容認したブリテン体制を基盤にして帝国をめざしたイギリスの国家形成において、自国意識を醸成するために大きな役割を果たした国家表象の諸相について論述したものである。序章においてはブリテン体制の実態はイングランドを中心においたイングリッシュネスの構想に他ならないことを考察した。第1章においては貨幣の意匠における国家表象の役割について考察した。第2章においては風刺画に現れるブリタニア像のさまざまな様態を概観し、それらが自国意識の醸成に果たした役割を考察した。第3章においては第二の国歌とも言われる「ルール・ブリタニア」の起源について考察し、隷属を恐れ、自由を希求する願望の歌が、帝国としての発展とともに支配的で好戦的な歌に変貌することを論述した。第4章においては文明化の使命を具体化したとも言える大英博物館の創設の目的とその展示物に次第に膨張する自国意識が見られることを、特にパルテノン・マーブルの問題に焦点をあてて論じた。第5章においては1851年にロンドンで開催された万国博覧会もまた、産業国家としての発展を誇示し、自国意識を醸成する一つの国家表象であったことを論述した。第6章においては、『パンチ』に頻出するブリタニア像が自国意識を高揚させるためだけではなく、社会矛盾を批判するものとしても存在することを分析し、その国家表象としての意味について論述した。このように国家表象をさまざまな側面から分析することにより、帝国形成期のイングリッシュネスの本質に追ることができたものと考える。今後の課題は、個別的に論じたこれらのテーマを有機的に結びつけ、よりダイナミックに論じることである。また、帝国形成に果たした国家表象の意味を、西洋の列強にならって近代化をはかった当時の日本における国家表象の実態との関連でより詳しく論じることが残されている。
著者
有馬 久富 清原 裕 土井 康文
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

1.福岡県久山町在住の一般住民を対象に生活習慣病予防健診を実施した。健診では、既往歴・家族歴の聴取、喫煙・飲酒習慣・身体活動度の調査、食事調査、身体計測、随時血圧測定、医師による診察、眼科検診、検尿、血計、血液生化学検査、心電図検査、胸写、骨密度測定などを行った。医師がすべての結果を説明し、適切な事後措置を実施した。2.久山町住民の心血管病発症の有無に関する予後調査を継続して行った。3.福岡県久山町の一般住民(40歳以上)を1961年から32年間追跡した成績より、未治療の高血圧と脳卒中発症との関連を検討し、国際高血圧学会で発表した。4.福岡県久山町の一般住民(40歳以上)を1988年から14年間追跡した成績より、至適血圧(<120/80mmHg)に比べて正常血圧(120-139/80-85mmHg)から心血管病発症率が有意に上昇することを明らかにし、日本高血圧学会で発表した。5.福岡県久山町の一般住民(40歳以上)を1988年から14年間追跡した成績より、高感度CRPと冠動脈疾患発症との関連を検討し、日本高血圧学会で発表し、Arteriosclerosis Thrombosis and Vascular Biolog誌に論文公表した。6.福岡県久山町の一般住民(40歳以上)を1988年から14年間追跡した成績より、日本人における心血管病発症予測モデルを作成し、日本高血圧学会で発表した。7.福岡県久山町の一般住民(40歳以上)における断面調査の成績より、心電図におけるQT間隔とPulse Wave Velosity (PWV)との関連を検討し、Hypertension Research誌に論文公表した。8.国際共同研究であるINTERACT試験の成績より、脳出血急性期の積極的降圧療法が血腫増大を予防しうることを、国際高血圧学会で発表し、Lancet Neurology誌に論文公表した。9.下降圧療法の脳卒中再発予防効果を明らかにした国際共同研究であるPROGRESS試験のサブ解析の結果をKidney International誌およびNeurology誌に論文公表した。
著者
松村 友視 五味渕 典嗣 杉野 元子 紅野 謙介 浅岡 邦雄 杉野 元子 紅野 謙介 浅岡 邦雄 高 榮蘭 小向 和誠 黒田 俊太郎 和泉 司 三浦 卓 大澤 聡 尾崎 名津子 柴野 京子 高島 健一郎 戸家 誠
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

慶應義塾大学三田メディアセンターに寄贈された改造社関係資料の整理・調査を行い、同資料のデジタル・アーカイヴ化に貢献した。また、近現代の日本文学・中国文学・メディア史・思想史を専攻する研究者による共同研究プロジェクトを立ち上げ、改造社にかかわる実証的な研究を行う他、20世紀の前半期に日本語の雑誌や書籍が、列島の「外」において、どのように受容され、どんな作用を及ぼしていたかを明らかにした。
著者
町田 光男 馬込 栄輔 塩野 正明
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

KHCO_3、KH_3(SeO_3)_2、NH_3CH_2COOH・H_2PO_3及びそれらの重水塩の高温相の中性子構造解析から得られた水素結合中のプロトン、デューテロンの核分布を、ダブルモース関数をポテンシャルとする1粒子(プロトン、デューテロン)シュレディンガー方程式から得られる核分布で再現し、プロトントンネリングの存在を確認した。構造解析から得られる水素結合系の構造パラメータに現れる同位体効果は、トンネル効果の相違によることが判明した。また、NH_3CH_2COOH・H_2PO_3及びその重水塩の^<31>P核のスピン格子緩和時間を調べた結果、軽水塩と重水塩におけるトンネル効果の相異を反映する結果が得られた。
著者
中丸 裕爾
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

アレルギー性鼻炎の病態形成におけるマクロファージ遊走阻止因子(macrophage inhibitory factor ; MIF)の働きを調べるため、MIFの遺伝子ノックアウトマウスを使用しアレルギーモデルマウスを作成し、アレルギー性鼻炎症状、鼻腔粘膜浸潤好酸球数および鼻腔粘膜内サイトカイン濃度を検討した。結果MIFノックアウトマウスではコントロールマウスに比べ、くしゃみの回数、鼻を掻く回数ともに減少していた。鼻粘膜浸潤好酸球数もMIFノックアウトマウスは有意に減少していた。鼻腔粘膜内サイトカインの濃度は、インターロイキン(IL)-2、IL-4、IL-5、tumor necrotizing factor (TNF)-α、インターフェロン(INF)-γを検討した。MIFノックアウトマウスにおいてはTNF-αの鼻腔粘膜内濃度が低いことが判明した。IL-4,IL-5の濃度もコントロールに比べMIFノックアウトマウスでは低い傾向にあったが、有意な差ではなかった。IL-2,INF-γの濃度に差は認められなかった。さらに、MIFがIgE産生にどのように作用するのかを調べるため、MIFノックアウトマウスにおいてアレルギー性鼻炎モデルを作成し、血清IgE濃度を検討した。野生型マウスにくらべOVA特異的IgEは少ない傾向にあったが、有意な差ではなかった。以上の結果よりMIFはアレルギー性鼻炎を増悪させる因子として働く可能性が示唆された。
著者
小笹 晃太郎 竹中 洋 浜 雄光
出版者
京都府立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

京都府南部のあるの町の唯一の公立小中学校の児童生徒を対象として、1994年より継続実施している質問票によるスギ花粉症症状および背景因子等の調査と血清中IgE抗体測定を行った。スギ花粉飛散量はダーラム式花粉捕集器による自然落下花粉数を測定し、2〜4月の総和をその年の飛散量とした。スギ花粉IgE抗体陽性者(CAPスコア1以上)は、スギ花粉症少量飛散年では40数%程度であり、多量飛散年では60%前後にまで増加した。ダニIgE抗体陽性者はおおむね40%〜50%であった。スギ花粉抗体が陽性で各年3〜4月にスギ花粉症様症状(くしゃみ、鼻みず、鼻づまり、鼻がかゆい、目がかゆい、涙が出る、目がごろごろするのいずれか)が3週間以上続く者を「スギ花粉症確実者」とすると、確実者はスギ花粉症少量飛散年では15%程度であり、多量飛散年では20数%に増加した。当該症状が3週間続かないスギ花粉症疑い者は16%〜21%であったが、スギ花粉飛散量の影響を受けにくく、非特異的症状がかなり含まれていると考えられた。2001年から調査している疾患特異的QOLも、スギ花粉飛散量との若干の関連および血中スギ花粉特異的IgE抗体価との強い関連を示した。また、各種の処置や治療の有用性について、マスクや市販の内服、点鼻、点眼薬、医療機関でのくすりの塗布や吸入は「少し役立った」人が最も多く、医療機関での内服薬、点鼻薬、点眼薬処方が「大変役だった」人が多かった。また、過去14年間の当該地域でのシーズンごとのスギ花粉飛散量の変動と、対象者の血清中スギ花粉およびダニIgE抗体価を個人単位で縦断的に観察することによって、スギ花粉による抗原曝露が、当該抗原特異的IgE抗体だけでなく、他の抗原特異的IgE抗体(ダニ)の産生をも促進させることが集団的数量的に示された。この傾向はスギ花粉に強く曝露されているものほど強かった。
著者
宮内 弘
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本プロジェクトではフィリップ・ラーキンの草稿をイギリスのハル大学内のラーキン資料室で調査し、単語、統語法、詩的形式などの分析を通して、彼の詩作品の文体的特色を明らかにしようと試みた。とりわけ韻に関して細心の注意を払いながら、押韻のパターンが詩のテーマとどう関わっているかを実例を示しながら考察した。また彼の韻をイェイツ、オーデン、ヒーニーなどの他の現代詩人のものと比較しながら、ラーキンが詩の話者のさまざまな感情を伝えるために、不完全韻を含む韻の可能性を最大限追求していることを論じた。さらにテクストの内部構造を明らかにしたうえで、これまでの分析を考慮に入れ、より広い観点から作品の解釈を行った。以上の研究を次の二つの研究論文にまとめて発表した。まず「ラーキン詩における文体的特質ー『教会に行く』と『ビル』における迂言的表現と韻を巡って」『京都大学文学部紀要』第44号85-108ページ(2005年)ではラーキンの文体的特質の一つである迂言的表現と韻に焦点を合わせ、両者の役割を、互いに関連を持つ「教会に行く」と「ビル」の二つの詩において論じる。次の「ラーキンのエレジーと死に関わる詩をめぐって」『京都大学文学部紀要』第45号1-26ページ(2006年)では,これまで充分論じられてこなかった、エレジーと死に関する詩を選んで、基底に流れているさまざまなレベルの二重構造を明らかにし、それに絡めて形式と内容の関係を論じている。イェイツに関しては彼が死の前年の1938年に滞在したフランスのMentonとRoquebruneで書いた作品を調査した。
著者
三瓶 まり 深田 美香 南前 恵子 前田 迪郎 加藤 圭子 三瓶 まり
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

目的:本研究では健康な男女および出産後の女性を対象にボディソニック臥床によるリラクセーション効果を検討し、その使用法について明らかにする。実施計回:(1)平成11年度〜音楽の種類によるリラクセーション効果を比較した。(2)平成12年度〜出産後の女性を対象にボディソニック臥床と安静臥床法を行い、リラクセーション効果を検討した。(3)平成13年度〜出産後の女性を対象にボディソニック臥床を行い、リラクセーション効果が身体に与える影響として乳汁分泌ホルモンと子宮収縮ホルモンを測定し、検討した。(4)平成14年度〜曲の作用の違いによるリラクセーション効果を検討した。結果:(1)平成11年度〜安らぎ音楽と好みの音楽を用いた結果、主観的なリラックス感には差はなかった。カテコールアミン、β-エンドルフィンのホルモン変化も差はなかった。安らぎ音楽、好みの音楽どちらを用いてもボディソニック臥床によってリラクセーションは得られることが示唆された。(2)平成12年・13年度〜出産後の女性ではボディソニック臥床法が安静臥床法よりリラックス感が高く、POMS心理テストでは緊張、怒り、疲労、混乱において有意に改善された。ホルモン変化はアドレナリン、ノルアドレナリンは臥床後滅少し、ドーパミンはボディソニック法で有意に増加した。(3)平成14年〜曲の作用の違いによるリラクセーションは安らぎ音楽で高かった。しかし、臥床後の気分の改善はアップテンポの曲で高かった。まとめ:ボディソニック臥床では安らぎ音楽、好みの音楽どちらを用いてもでもリラクセーション効果はある。しかし、気分の改善では好みの音楽、アップテンポ音楽で効果は高い。出産後の女性ではボディソニック臥床法は心理的にリラクセーシヨン効果が高かった。ホルモン分析から、リラクセーションによって交感神経が抑制されていた。
著者
福岡 裕美子 佐々木 英忠 佐々木 英忠
出版者
秋田看護福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

在宅寝たきり老人へ手軽に下半身浴が実施できることを目指し機器の開発を行った。最終的に完成したものは塩化ビニール製で全長160cm,幅90cm,前面部分へ実施者の腕を挿入する穴6ヶ所(直径14cm),排水口3ヶ所(直径10cm),内部へ保温用のポリウレタンシート(全長160cm,幅73cm)を敷いた。試用の結果この機器は在宅療養中の末期がんの方や,住居の立地条件のため訪問入浴車が入ることのできない場合,訪問入浴を何かしらの理由で拒否している場合等にニーズがあることがわかった。
著者
福永 淑子 蓮沼 良一 大坂佳 保里 永嶋 久美子
出版者
川村学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

1.日本米(うるち米)の米粉を選別して180メッシュ以上の粒径の小さいものだけで米麺をつくると、でんぷんを一切加えなくとも、こしがあり、かつ嗜好性の高い純米麺を作れた。すなわち、純米麺は、米粉を180メッシュ以上の細かい粒径にするだけで日本米からでも製造できることが明らかになった。2.インディカ米であるタイ米や台湾米ではアミロペクチンの含有割合が少ないので純米麺が製造でき、一方アミロペクチンの含有割合が多い日本うるち米では純米麺が出来ないという通説がある。しかし、180メッシュ以上の粒径の小さい米粉にアミロペクチンをかなり添加しても純米麺が製造できることが分かった。3.以上の実験結果から、従前の通説は間違いで、純米麺が製造できる条件としては、アミロペクチン含有量が少ないということではなく、米粉の粒径が180メッシュ以上に細かいという条件が必要であることが明らかになった。4.また、アミロペクチンが少ないとこしが強くおいしい麺が製造できると言う説もあるが、アミロペクチン含有量は純麺のこしの強さや食味にはとくに関係はなく、米粉の粒径がこしの強さや食感に関係が深いことも明らかになった。5.180メッシュ以上の細かい粒径の米粉は、浸水しておいた日本うるち米を水挽きすることによって効果的に得ることができることが分かった。
著者
中野 茂
出版者
姫路工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

子どもの笑いの月齢による増減を指標に、発達的に母親の働きかけへの協調的反応が減少する時期を探り、その要因を検討した。また、母親が子どもを笑わせようとしてしばしばするからかいゲームがなぜ乳児の笑いを引き出せるのかその構造を、このようなやりとりはメタコミュニケーション論でいう二重のコミュニケーションではなく、何らかの身体表現に基づくのではないかという仮説に沿って検討をした。対象は、20組の母子。6か月から12か月までの毎月と15か月まで縦断的に親自身が育児記録として自分と子どもとのやりとりをビデオに記録した。こうして得られたビデオ記録から、まず、子どもの笑い、不快の出現時点を同定し、そこ5秒を基準点とし、それに前後の20秒を加えたの合計45秒の時系列を1エピソードと定義した。結果は、6か月で微笑んでいたのが、7か月では微笑みが減り、8か月では不快の表出が比較的高まり、9か月以降は、不快の出現が希となり、協調的、積極的に母親に応じるように変わったことを示した。したがって、8か月での不快の増加傾向は、子どもの積極性が増し、この時期に母子のやりとりが再編成されたと考えられる。次に、子どもの笑い、不快、母親の情動表出と「ふり」の出現率の高低で「調和」・「不調和」群に母子を分け、笑い、不快の先行要因にどのような違いがあるのかを典型例で比較した。その結果、調和群では、基準点の直前で「本来」から「ふり」、または逆の入れ替わりが認められるのに対して、不調和群では一貫して本来がふりより高いかった。この違いが両群の笑い・不快の出現率の違いを生んだと考えられる。つまり、母親が急に大げさ・コミカルな動作をしたり、逆に、急に真面目になったりする行為の落差が、子どもの笑い引き出したと考えられる。したがって、メタコミュニケーションは、このような動きの系列から考え直さなくてはならないことが考察された。
著者
川本 隆史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

教育の危機と改革が叫ばれて久しい。そこで論じられている数多くのホットな争点のうち、高等教育機関における研究活動に深く関連するものに、初等・中等教育と大学教育との《接続》がある。この問題への社会的関心を喚起したのが、中央教育審議会答申『初等中等教育と高等教育との接続の改善について』(平成11年12月16日付け)である。これと連動するかたちで申請者は、所属する日本倫理学会の大会において二年連続(平成13年および14年)のワークショップ「公民科教育と倫理学研究の《つなぎ目》」を企画・運営してきた。本研究のねらいは、中教審答申の以前から取り組まれてきた教育と研究の接続の試みを《公民科教育と倫理学研究とのアーティキュレーション》(すなわち、二つの活動の「分節化・接続・連携」)という観点から吟味し、福祉と人権をどう教えるかを軸に教育と研究のあるべき協力関係を探り当てようとするところにある。三年間にわたった研究の開始と同時に、所属部局を教育学部・教育学研究科へと移した研究代表者のポジションをフルに活用して、関連分野の研究者との交流や情報交換を深くかつ広く展開することができた。研究期間中の《アーティキュレーション》の特筆すべき成果としては、検定を通過し平成19年度より高校現場での使用が始まった公民科現代社会教科書の分担執筆および編集委員を務めた『現代倫理学事典』(弘文堂、2006年)の刊行が挙げられよう。後者は初等・中等教育の教員を主要な読者として想定している。また2004年11月よりスタートした人文・社会科学振興プロジェクト研究事業「グローバル化時代における市民性の教育」(日本学術振興会)に企画段階から関与し、そのサブグループ(公共倫理の教育)の世話人を務めている。本研究とも密接な関連性を有するプロジェクトであり、それが目指す社会的提言に本研究の成果を盛り込む所存である。なお平成19年度より同じく基盤研究(C)の交付を受けて、「シティズンシップの教育と倫理(ケアと責任の再定義を軸として)」がスタートすることになった。これが本研究をさらに発展・深化させるものであることを付言しておきたい。
著者
五十嵐 敬喜 武藤 博己 大熊 孝
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究プロジェクトの実施により、次の知見が得られた。大きくはポスト公共事業社会成立に係わるもの、市場化改革の動向に係わるもの、市民事業の理論化に係わるものである。第一の点については、全国総合開発計画に係わる歴史分析、亀井改革、小泉構造改革などを通じた制度改革の動向、長野県、広島市などの事例研究を通じて、公共事業の縮小が構造的な要因に基づくものであることが明らかになった。併せて公共事業社会からポスト公共事業社会への移行を、歴史認識として鮮明化するために公共事業関連年表の作成を行った。第二の点については、公共事業がもたらした現代社会システムの問題性の検証及び、入札改革、PFI、指定管理者制度など、国における制度改革の事例研究を通じて、官を主体とした制度改革の限界が明らかになった。このなかで官から民へ、市民へという公共事業の主体の転換について方向性を示した。第三の点については、実態調査を通じた市民事業の現状を把握すると共に、これに対応した国及び地方自治体(長野県、山形県)の政策対応を検証することで、市民事業の可能性と公共事業のオルタナティブとなるための政策課題が明らかになった。また、市民事業の主体として建設業者の事業転換の可能性について方向性を示した。以上の作業を通じ、ポスト公共事業社会の展望として、「美しさ」という価値基準の提唱を試みると共に、市民事業を通じた新しい公共のあり方について提案を行った。
著者
芹澤 知広 志賀 市子 角南 聡一郎 槙林 啓介 中尾 徳仁
出版者
奈良大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本各地の博物館に収蔵されている、20世紀前半に日本人が中国から持ち帰った中国の生活用品・民間工芸品について、共同調査を行った。その作業を通じて、どのような品物が現在残されているのかということがわかり、また多くの博物館が、それらの収蔵品について館内データベース等を通じて積極的に公開していることもわかった。その調査を踏まえ、研究代表者と研究分担者は個々の関心に基づき、対象を絞った事例研究を行った。
著者
辻 延浩 佐藤 尚武 宮崎 総一郎 大川 匡子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

小学校の系統的な睡眠学習カリキュラムを構築することを目指して, 教材を開発するとともに, 睡眠学習プログラムを作成して実践化を試み, その有効性について検討した。さらに, 開発した睡眠学習教材をデジタルコンテンツ化し, 学校園の授業や校内研究会等で活用できるようにすることを目的とした。得られた結果の大要は以下のとおりである。(1) 現行の小学校体育科の保健領域(3~6年生)の指導内容に沿って睡眠の科学的知見を位置づけ, 発達段階をふまえた系統的な睡眠学習教材を作成した。睡眠学習における児童の評価は, 3年生と4年生では, 授業の楽しさ, 内容の理解度,生活への活用度,教具の適切度ついてほぼ全員から「大いにある」または「まあまあある」の評価が得られた。5年生と6年生では, 中学年に比べて「あまりない」あるいは「まったくない」とする児童の数が多少増えているものの, 多くの児童から高い評価が得られた。授業者および授業観察者の評価では, 提示した資料の説明の仕方でいくつかの改善点が指摘されたが, いずれの学年の授業においても, 児童が睡眠の科学的知見を通して, 自分の睡眠生活を見直したり, 再発見したりしていたことが高く評価された。これらの結果から, 開発した教材およびプログラムは, 児童に睡眠の大切さに気づかせるとともに, 睡眠に関する知識を深めることができると考えられた。(2) Web教材は, 「睡眠科学の基礎」, 「健やかな体をつくる睡眠6か条」, 「快眠に向けて補足6か条」で構成させた。Web教材に対して質問紙調査(5段階評価)を実施した結果, 画像等に関わる項目の平均得点は3.9~4.3の範囲にあり, 内容等に関わる項目の平均得点は3.8~4.5の範囲にあった。Web教材の改善に向けては56件の具体的な指摘を受けた。これらをふまえて, リンクのはり方, 図の色調, 図中の文字, カット図の挿入について改善を加えた。
著者
馬越 徹
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

近年におけるアジアの大学は、従来の理論(欧米の大学への従属から脱することは不可能とする言説)では説明できない発展相を示している。特に、広義の東アジアの大学は、グローバル化に対応した積極的な戦略を展開してきており、いわゆる「研究大学」が確実に誕生しており、国際競争力を増している。本年度(初年度)は、韓国、マレーシアの事例研究を中心に作業を進めた。まず韓国においては、「頭脳韓国21世紀計画(通称:ブレインコリア21)」(第2期)事業を通じ、ソウル所在の有力大学(ソウル大学、高麗大学、延世大学等)及び韓国科学技術大学等が、国際的大学ランキング(例:タイムズ紙)の上位200校入りを果たしたことに見られるように、研究大学としてのレベルアップが図られている。国家的にも教育科学技術部が打ち出したワールドクラス大学育成事業(WCU)がスタートし、研究大学の強化が図られている。また、マレーシアの場合も、従来から有力大学であったマラヤ大学のほかに、2020年を目途とする国家戦略のもと、マレーシア科学大学(ペナン)、国民大学(セランゴール州)、プトラ大学(セランゴール州)が研究大学の仲間入りを果たし、マレーシア科学大学が国内ランキングの上で、マラヤ大学を追い抜いたことに見られるように、大学間競争が熾烈となっている。これらの大学は法人化されており、ますますのガバナンス改革と競争力強化のための戦略が進行中であることが判明した。同時に、大学の質保証機構としてMQA(マレーシア大学質保証機構)が本格的な活動を開始していることも注目される。
著者
守山 正樹 我妻 則明 齊場 三十四 福島 哲仁
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

研究の最終年度として、触知実験の手順をまとめ、実習書を試作した。同時に、触知などの保有感覚を生かして社会復帰をする過程を総合的に把握するため、中途失明を克服し、サラリーマンとして働いているS氏の事例研究を試みた。特に注目したのは、社会復帰後に失明前の仕事だけでなく、ボランティア活動までも行っているS氏のコミュニケーションである。2001年11月にA大学医学部の医学概論カリキュラムにおいてS氏が行った授業を分析し、S氏が周囲と人間関係を築く過程の解明を試みた。「S氏の授業の進め方は、他の講師の授業に比較して、どのような特徴を持つか」を、S氏の授業が終了した直後に、自記式の評価表により、学生に評価してもらった。評価表の作成に関しては、S氏が1998、99年度にも同様の授業をした際に、学生が述べた感想や、医学概論の全授業に臨席したスタッフの印象を参考に作成した。11個の評価項目のうち最初の三評価項目については、S氏の授業は他の授業に比較して有意な低値をとった。特に、「1、黒板を活用する」、および「2、スライドやOHPを活用する」の2項目はゼロであった。S氏の授業に際しては、S氏が職場復帰した様子を報じた新聞記事を資料として印刷し、学生に配布していたが、「3、プリントを活用する」においても、S氏の授業は4.2%と他の授業の82.1%に比較して、有意な低値とった。資料のプリントは講義後に読む参考資料と位置づけられ、プリント自体の解説をS氏が授業中には行わなかったことが、低値の原因と考えられた。4番目以降の項目については、その全てでS氏の授業は他の授業に比較して高値をとり、特に「5、全体の学生に語りかける」、「8、ひとり一人の学生に語りかける」、「9、ひとり一人の学生に問いかける」、「10、ひとり一人の学生の応答から話を発展させる」の4項目に関しては、差が有意であった。これらのことより、S氏の授業は、全体の学生に対しても、個別の学生に対しても語りかけ、問いかけることを、特徴とすることが明らかになった。
著者
神田 清子 栃原 裕 飯田 苗恵
出版者
群馬大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

癌化学療法に伴う味覚識別能の変化に対応した食事ケアを検討することを目的として,次の3研究を施行した.第一に,癌化学療法を受けた入院中の患者45名を対象に治療前・中(4日目)・後(治療後10日目)の甘味・塩味・酸味・苦味についての識別能を試薬滴下法により検査し分析した.第二に,癌化学療法を施行する患者のための病院献立および食事への取り組みについて,全国の病院241施設を対象として郵送法により調査し,有効回答145施設の現況を分析した.第三に,癌化学療法を受けている患者,3事例の味覚識別能および食事摂取状況,食事嗜好を調査し,栄養バランスの評価を行った.結果は次のようにまとめられる.1.甘味・塩味・酸味・苦味のうち癌化学療法の影響を強く受けていたのは塩味であり,識別閾値は治療中敏感になり,治療後は有意に鈍感になっていた.2.癌化学療法を受ける患者のために特別な献立を有している施設は,48(33%)であり,献立の種類は,化学療法食,口内炎食,加熱食などであった.3.味覚識別能と食事の嗜好との関係では,甘味・塩味・酸味の味覚では,味が鈍感になった味覚を主体とする食品を補食する傾向にあった.また,薬剤投与中は,蛋白食品や煮物に対する嫌悪感が認められた.4.化学療法剤が投与されている期間および口内炎の合併は,蛋白質,脂質,炭水化物摂取量を極端に減少させ,熱量は基礎代謝量にさえ満ちていない.以上,癌化学療法を受け味覚に変化をきたした患者の食事ケアとしては,鈍感になった味を少し強化した味付けにする.化学療法剤投与中では,肉,卵,魚類の蛋白食品を少量使用する.治療後は,口内炎の合併がなければ塩味をやや濃くし,麺類など塩分の味付けを集中させる献立を提供する.加えて,食事ケアでは,病院食として化学療法食,口内炎食を確立する必要がある.そのためには栄養士と協力し,組織的な取り組みを行うことが不可欠である.
著者
布川 清彦 伊福 部達 井野 秀一 中邑 賢龍 井手口 範男 大河内 直之
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

全盲者の白杖利用を対象として対象認知のために必要となる感覚情報を特定し,感覚情報と機器の身体化との関係を明らかにするために,マグニチュード推定法を用いて,利き手で握った白杖を用いた場合のゴムの硬度と硬さ感覚の関係を実験的に明らかにした.これにより白杖ユーザの移動支援のために,1)触覚と聴覚というマルチモーダルな情報提供を行う道具としての白杖に関する基礎的知見と,2)それに対応する環境側のデザインを考察するための手がかりが得られた.
著者
畑 信吾
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

PCR法を用いてミヤコグサ菌根cDNAライブラリーから単離した3種類のリン酸トランスポーター遺伝子のうち、LjPT3が菌根特異的に発現していることをリアルタイムRT-PCRで確認した。次いで、in situ hybridizationによってLjPT3 mRNAは菌根菌の樹枝状体を含む皮層細胞に局在することを見いだした。また、高親和性リン酸輸送体を欠損した酵母PAM2変異株にLjPT3を発現させたところ、菌体内へのリン酸取り込みが上昇したので、LjPT3には確かにリン酸輸送能があることが証明された。さらにLjPT3の役割を明らかにするため、毛状根形質転換によってRNAiコンストラクトをミヤコグサに導入した。菌根菌を接種して低リン酸濃度で対照との生育を比較したところ、LjPT3ノックダウン形質転換体では樹枝状体付近にリン酸が蓄積して吸収がスムーズに行われない結果、対照よりも生育が有意に劣っていた。共生時における菌根菌の発達をさらに詳しく観察したところ、LjPT3ノックダウン形質転換体では対照に比べて樹枝状体の数が半分近くに減少する一方、idioblast細胞(褐色のフェノール化合物を液胞に蓄積し防御応答に関与すると思われる植物細胞)や菌糸侵入地点が2倍近くに増加していた。この結果から、植物は菌根菌由来のリン酸吸収量を監視しており、能率の悪い菌根菌を排除して新たな共生関係を模索することが示唆された。次にノックダウン形質転換体に菌根菌と根粒菌を同時に接種したところ、ネクローシスを起こして早死した根粒が多数観察された。これは、宿主植物が低能率だと認識した菌根菌への攻撃を行う際に、根粒菌もそのあおりを食ったために起こった現象だと思われた。