著者
桧垣 博章
出版者
東京電機大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

移動無線ノードが疎に分布する無線ネットワークでは, エンドエンドの接続を維持した無線マルチホップ通信を行なうことは困難である. しかし, 車載コンピュータを無線ノードとする ITS ネットワーク等の多くのアプリケーション環境では, ノード密度が必ずしも高くないこと, ノード分布が経時変化する場合には偏在することがしばしばであることから, 耐遅延ネットワーク(DTN)通信手法の導入が必要となる. しかし, 各中継移動無線ノードが隣接ノードを持つ機会が少ないために全域的な状況把握は困難であり, 適切なルーティングの実現が求められる. 本研究課題では, 各無線ノードの変更可能な移動計画を隣接無線ノード間で局所的に交換することによる広告手法の導入による高性能 DTN 通信を実現した. また, これを活用した ITS 支援, 広域被災地における安否情報交換, 快適な歩行支援といったアプリケーションへの応用を行なった.
著者
福井 千鶴
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成18は南米、日本において現状把握の調査と実証実験用の理想モデルの考察を行った。平成19年度で研究を具体的に推進する実証実験モデルの実施要件の策定を行い、実証的研究を推進と同時に評価を行った。実証実験モデルでは、日本企業で通用する南米日系人リーダーであり、かつ、プロフェッショナルとして活躍できるIT分野の人材を養成することを狙いとした。選定理由は、□自己の能力次第で企業化可能、□企業化時の投資額とリスクが少ない、□IT関連事業は、ネットワークを通じて海外の遠隔地との間で受発注と納品が可能、□ネットワークを通じて連携することができ、研究成果の目的である日本と南米の連携システムの構築が容易にできる、などの利点があることによった。考案した実証的研究モデルをもとに、南米日系人の受入れ日本企業を開拓した他、コロンビア、ペルー、パラグアイ、ボリビアの南米諸国日系人協会や商工会議所などの団体組織にて実証実験プログラムの具体的な推進方策の説明会と実施方法、ならびに実証実験参加者の募集活動を行った。考案した実証的研究プログラムは、全説明先において南米現地の問題を解決する具体的な手段として効果的な初めての提案との高い評価を得た。説明した全地域で、このプログラムの推進を要望され現地各協会や組織団体などが正式な窓口対応を行うとの協力意志が表明された。本件研究成果を実施するは、各団体組織や企業の連携が組織的にできるNGO組織を設立し推進することが適切との結論に達し、研究成果を反映してNGOを設立し推進することとした。
著者
木島 孝夫 高崎 みどり 徳田 春邦
出版者
千葉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

生活習慣病の中で、肥満・糖尿病及びその合併症は、最も深刻な問題であり、ショ糖代替甘味物質の研究はきわめて重要な研究課題である。そこで、天然代替甘味料として広く利用されているステビア葉のジテルペン配糖体steviosideについて、抗発がんプロモーター作用を明らかとし、次いで中国広西壮族自治区の特産植物Momordica grosvenoriの果実・羅漢果に含有されるcucurbitan型のトリテルペン配糖体mogroside Vにも同様の強い抗発がんプロモーター作用が認められることを明らかとした。更に、糖尿病患者血清中に高濃度に出現するAdvanced Glycation Endproducts(AGE)が、顕著な発がんイニシエーターとなることに着目し、これら天然代替甘味料の抗発がんイニシエーション作用を検討することにより、発がん予防作用に関する研究を行なった。その結果、羅漢果に含有される11-oxo-mogroside Vには、AGEにより誘起される発ガンイニシエーション作用に対する顕著な抑制効果があることを明らかとした。また、UVBの照射、窒素酸化物などによる発がんイニシエーション作用に対しても顕著な抑制効果があることを明らかとした。従って、天然代替甘味物質には発がん予防物質として有効なテルペン類が数多く存在することが明らかとなり、機能性を有する代替甘味物質として今後の有効利用が期待される。羅漢果含有の甘味配糖体はショ糖の数百倍の甘味を有することが明らかとされ、中国政府により、羅漢果は同地区のみで栽培が許可され、極めて厳重に保護政策が布かれているが、これらの資源に関して、中国内での栽培状況を明らかとした。これらテルペン誘導体に関連し、既に抗発がんプロモーター作用が顕著であるとされる海洋生物由来のジテルペンsarcophytol類についても、発がん予防作用を詳細に検討し明らかとした。
著者
堀坂 浩太郎
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,2年間にわたりブラジル,アルゼンチン,ウルグアイ,チリ,ボリビアからなる南米部地域を対象に,「市場統合」の推進と補完的な関係にあるインフラ部門や通関システムなどの"物的統合"がどのような形で進展しているかとともに,その促進に影響を及ぼすと考えられる「地域公共財」的発想の観点を検証することを意図して行ったものである。「南米南部共同市場」(メルコスール)や南米地域インフラ統合計画」(IIRSA)がうたうエネルギー網や輸送網,通関制度などからなる,かなり幅広い分野の現地調査を行った。その成果を踏まえながら,本報告書では,調査期間中にボリビア新政府が天然ガスの「国有化宣言」を行う等,当初予期されなかった事態が発生したこともあり,事例研究として天然ガスを集中的に取り上げ,経済自由化、市場開放過程でのインフラ(ガスパイプライン網)の整備状況,ネオリベラリズムの反動ともいう形で発生した「エネルギー(天然ガス)危機」,その後の各国の対処法,および南米南部地域としての解決策の模索を取り上げた。その中で,天然ガスおよび同パイプラインは「非排除性」および「非競合性」からみて純然たる公共財(pure public goods)とはいえないものの,市場の原理には完全に任せずに,公益性を有した半、公共財と認識し,地域構成国が納得し遵守しえる規範づくりが早急に必要とされる点,およびそうした発想を再確認することによって初めて,安定した供給体制の確立に道が開かれる点を指摘した。世界的に天然資源の需給逼迫が言われるなかで,地域の方向性を検討する上で不可欠な視点の一端を示した研究といえる。
著者
高垣 敏博 上田 博人 宮本 正美 福嶌 教隆 ルイズ ティノコ アントニオ
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本論は,スペイン語圏の地理的広がりの中で,統語現象の分析に新たな視点を見出すという観点から,現地アンケートの手法で得たデータから分析を加えるのが目的である.平成17年度はメキシコ市,平成18年度は南米のコロンビア,パラグアイ,アルゼンチン,チリの首都において総計100名余りの被験者から100をこえる質問文に対する回答を収集した.本年度は,こうして得られたデータを処理し,すでに前科研助成にて完了したスペインの9都市における同調査結果とともに比較検討した.また,分担者2名は香港における国際学会にてこの成果を報告した.今後,さらに調査地点を南米アンデス地域,米国のスペイン語話者などに拡張,より精度を上げてことを視野に収め,方法論の確立を進める.最終報告書にはこれまでの成果と見通しを盛り込みたい.
著者
武田 千香 柴田 勝二
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

マシャード・デ・アシス(1839-1908)は、夏目漱石(1867-1916)とほぽ同時代に地球の反対側に生きたブラジル文学を代表する写実主義作家である。当時、日本とブラジル両国の間にはまだ活発な文化交流がなく、両作家の間にも接触はなかったと思われるにも拘わらず、双方の文学の間には親和性がある。本研究は、間テキスト性にその原因を求めることのできない親和性がなぜ生じたのか、その要因を明らかにすべく行なわれた両作家の文学の比較研究である。研究の結果、まずは両者がアレゴリーという文学的手法を用い、主要な登場人物にそれぞれの国やその外交関係を仮託することによって、当時の近代日本や近代国家ブラジルに対する批判的精神を盛り込んだことが明らかになった。そして、その批判的精神自体にも明らかな共通性がみてとれる。これはおそらく当時のブラジルと日本が、似たような地政的な状況に置かれていたことに起因するものであろう。すなわちブラジルも日本も19世紀に西欧の外圧を受けることにより、200年〜300年の長きにわたって閉ざしていた門戸を開け、突如すでに構築されていた地球規模的国際関係や西欧的知的枠組みに組み込まれ、新生近代国家として急速な近代化を進めざるを得なかったのである。いずれの作家もそうした激動の時代を生き抜き、その経験を各自の作品の中に描きこんだ。すなわち両者の文学はともに西欧から働きかけられた近代化の波に襲われた非西欧的周辺国で生まれたものなのである。このように考えれば、両者の文学の親和性は必然的な結果だということができる。以上は、11にある成果を通して明らかになったことである。
著者
川本 隆史
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、1970年代から英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議され成果が蓄積されてきた「社会正義論」の観点から、租税の根拠と再分配原理を考察し、あわせてわが国の租税制度のあるべき姿を構想することをねらいとする。租税の根拠についての説明としては、「利益説」と「義務説」という二つの有力な立場があるが、未だ決着を見ていない。さらに租税の機能の一つに資産および所得の再分配があるとされるけれども、租税を通じての再分配原理の実質まで立ち入った論議はほとんどなされてこなかった。そこで本研究は、そうした欠落を埋めようとするものである。初年度は、まずこれまでの「社会正義論」における租税論の蓄積を吟味ししつ、租税の根拠および再分配原理の探究がどれほど深化しているかを見定めた。研究第二年度には、折りよくMhrphy, L.and T.Nagel, The Myth of Ownership : Taxes and Justice,2002が刊行された。本書のポイントは、「われわれが正当に稼いだ所得なのに、政府はその一部を税金として取り立てている」との臆断の無根拠さを暴きながら、「租税の公正よりもむしろ社会の公正こそが租税政策を導く価値であるべきで、所有権は因習・規約に基づくものに過ぎない」と主張するところにある。研究第二年度から最終年度にかけて、本書をしっかりと読み解くことで、著者らが提起した「社会の公正」という理念と照らし合わせつつ、「あるべき税制」を共同で探究する作業の基礎を固めることが出来た。その成果は、学会誌等への寄稿や学会・研究会での報告に随時盛り込んだ。
著者
大上 祐司
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

結晶を微細化する熱処理とショットピーニングを組み合わせた材料強化加工法によって微細結晶化するメカニズムを調査し, しゅう動機械要素の表面強度向上を実現するための加工条件を明らかにすることを目的としている. 提案加工法では長寿命化が可能で, 加工時間の短縮に由来する製造コスト低減を達成できる. さらに, 加工により創製されるディンプル形状は油膜厚さを向上させる. 提案加工法は, 材料表面特性と潤滑性能の観点から従来の方法よりも有利であった.
著者
中澤 哲夫 新野 宏 榎本 剛 田中 博 向川 均 吉崎 正憲
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

全球大気顕著現象の予測可能性研究計画(THORPEX)を日本で具体化し推進する研究戦略を、3回開催した研究計画策定会議により策定した。本研究は、毎年日本を含むアジア域で発生している顕著気象(台風、豪雨、旱魃、寒波、熱波など)を適切に予測して、社会的・経済的被害の低減を目的とする。日本のリーダーシップがアジアにとどまらず、世界的にも大きな役割を発揮して研究が推進できるよう、以下の6課題について研究戦略を策定した。1:大気顕著現象の発生過程とその大規模場との相互作用の機構解明。暖候期及び寒候期の大規模循環異常とメソスケール擾乱の力学と予測可能性について研究を推進する。2:偏西風帯上のエネルギー伝播と大気顕著現象発生の機構解明。偏西風の蛇行による砕波がもたらす大気顕著現象の発生機構をデータ解析や数値シミュレーションから解明する。3:アンサンブル予測の高度化に関する研究。世界各地の数値予報機関で行われているアンサンブル予測データを束ねた確率的予測手法を構築する。4:季節内変動の機構解明とその予測可能性に関する研究。長期予測の精度向上に不可欠な季節内変動をアンサンブル予測データから調査する。5:大気顕著現象発生に果たす風・水蒸気の挙動に関する研究。降雨の予測向上のためには、風上の下層大気の風と水蒸気の空間分布の把握が重要であり、観測船のデータから調査する。6:台風の進路・強度変化に果たす力学場・熱力学場の影響評価。台風周辺の直接観測を実施し、台風の予測精度向上を目指す。上記の課題を解決するため、以下3点の重要性が認識された。・気象庁をはじめ機関が保有するデータのデータベース構築とその利用・予測可能性研究のための共通基盤的研究の更なる進展・本研究の成果を東アジアや東南アジア諸国に還元し、それらの国の研究促進への貢献本研究の成果を踏まえ、平成19年度からの特定領域研究に申請を行う。
著者
川村 隆一
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究課題はエルニーニョ南方振動(ENSO)現象がどのようなメカニズムで夏季アジアモンスーンの変動に影響を与えるのかを解明することを主たる目的としている。本研究課題の成果は以下の二つの項目にまとめられる。1.ENSO赤道対称・非対称インパクトとアジアモンスーン循環南アジア夏季モンスーン変動とENSOを関係づけるプロセスとして、ENSO発達期の赤道対称インパクトと衰退期の赤道非対称インパクトが存在することが観測・モデルの解析から見出された。1970年代後半以降、長周期ENSOが頻繁に出現し春季に終息しないで持続傾向になったことで、冬季から春季にかけてインド洋にENSOシグナルが伝わり、海面水温と積雲対流活動の赤道非対称構造を生成するのを容易にさせた。このような非対称構造が維持されるためには、風-蒸発-海面水温(WES)フィードバックが重要な働きをしていると考えられる。この赤道非対称インパクトは中央アジア地域の陸面水文過程も関係する間接的なインパクトで、モンスーン循環へ与える影響はモンスーン前期(6-7月)において有意である。別の解析結果から、二年周期的なENSOが発達する8月から11月にかけて、熱帯インド洋上の対流圏下層循環と降水量偏差に顕著な赤道対称構造がみられることがわかった。これはインド洋から西部太平洋へ東進するウォーカー循環偏差の一部をなすものであり、このようなインパクト(空間構造から赤道対称インパクトと呼ぶ)の実態は、準二年周期的なENSOの大気海洋結合システムが熱帯インド洋から太平洋へ発達しながら東進する過程において形成される、赤道対称構造であると解釈できる。赤道対称インパクトはむしろモンスーン後期(8-9月)に顕著である。準二年周期的なENSOの発達期にみられる赤道対称インパクトが1970年代後半以前の強いENSO-モンスーン関係をもたらしていると考えられる。2.日本を含む東アジア夏季の天候に影響を与える力学プロセス日本の夏季天候との関係に注目すると、赤道対称インパクトが明瞭であった1960年代から70年代中頃までの期間では、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化は不明瞭で典型的なPJパターンもあまり卓越しなかった。その結果、日本の夏季気温変動の振幅は小さく比較的安定した夏が続いた。逆に1970年代後半から90年代にかけての長周期ENSOの卓越により、ENSO衰退期の赤道非対称インパクトが顕在化し、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化とPJパターンの励起が頻繁にみられるようになった。これにより日本の夏季気温変動の振幅は大きくなり不安定な夏が続いたと解釈できる。最近では1999年から2001年まで3年連続で猛暑の年が続いたが、春季から夏季のインド洋・西太平洋の大気・海洋の状態はKawamura et al.(2001b)の模式図と非常に類似しており、赤道非対称インパクトの卓越と関連してフィリピン付近で積雲対流活動が活発化した、まさに典型例であると言える。
著者
宮脇 博巳
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

佐賀市内のオニバスを佐賀大学噴水池に移植栽培し2003年度に549個,2005年度に200個の種子を採集した.これらの種子使って実験室で種種の条件で栽培した.以下にその研究の概要を箇条書きにする.1,野外観察により富栄養な水質と底土があり,年間を通して流れが緩やかで,水位が安定している場所を好んでオニバスが生育していることが判明した.2.農薬,河川の清掃などによってオニバスは,絶滅の危機へと追い込んでいると思われた.3.オニバスの移植栽培は適した水質と底土さえあれば比較的簡単に行え,種子も採集することが判明した.4.オニバスの発芽は低温処理と珠孔の蓋の除去を行い,水温を20〜26℃に保てば,発芽率を約10%に上げることができた.
著者
田角 栄二 井町 寛之 高井 研 川口 慎介
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

南海トラフの深海底表層堆積物を植種源とするバッチ集積培養から分離したMethanosarcina sp. NT-MS1株を圧力培養した。増殖は15 MPaで最も良好であり、分離源と同じ圧力(25 MPa)下でも、高い増殖能を有していることが確認された。生成されたメタンは、炭素同位体比(Δ^<13>C-CH_4)が-81~-63‰の「同位体的に軽い」メタンであり、NT-MS1株は高井らにより報告されたMethanopyrus kandleri 116株のように「同位体的に重い」メタンを生成しなかった。
著者
古旗 賢二
出版者
城西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

カプサイシン含有のトウガラシ品種にカプシエイト生合成能があり、カプシエイト含有品種にカプサイシン生合成能があることを明らかにした。両品種は、カプサイシンあるいはカプシエイトの最終生合成酵素と推定されるアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を有しており、両品種で同一のものであった。カプサイシン、カプシエイトの最終合成酵素は同一であるが、前駆体としてバニリルアルコールが供給される場合に、カプシエイト蓄積が優位になることが示唆された。
著者
後藤 和子
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

創造的産業、日本ではコンテンツ産業が、今後の都市経済を牽引する重要な産業であることは異論のないところであろう。しかし、日本のコンテンツ産業を分析した経済産業省の報告書(2007年9月,2008年1月)は、その未来が決して明るいものではないことを指摘する。報告書は、日本のコンテンツ産業は、現在、世界第二位のシェアを占めているが、それは国内市場規模の大きさを反映したものであり、貿易に関しては輸入超過となっていること、輸出は各分野で減少していると指摘する。重要なのは、この報告書では、コンテンツ産業は「文化」と「産業」の2つの側面を有するが、敢えて、産業としての側面、文化を経済価値にどう結びつけていくかに焦点を合わせたと述べていることである。しかし、創造的産業とは、非営利的で創造的な活動と、営利的で単調なビジネスとの契約による結合であり、その契約が不完備契約であることが、産業組織の構造を規定している側面がある。そのため、日本のコンテンツ産業の問題を本格的に分析しようと思えば、文化と産業の結節点を分析する必要があるし、政策化にあたっても文化政策と産業政策の両面から、あるいはその結節点に新たな光を当てて検討する必要がある。本研究では、創造性へのインセンティブに焦点を合わせ、創造的産業の産業組織の国際比較を行い、その容器である都市政策との関連を探った。インセンティブとしての著作権の配分や税制(タックス・インセンティブ)、産業組織構造の国際比較により、日本の創造的産業の特徴が浮き彫りになるとともに、欧州では、創造的産業政策が、文化部局と経済部局、都市空間部局の密接な連携のもとに行われるようになっていること等が分かった。
著者
塚本 明廣
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 ピラミッド・テキスト全文を、ゼーテ底本およびフォークナー補遺に基づき、聖刻文字手書本文から、一定の書式に従ってローマ字化翻字本文に書換え、言語学的情報を付加して入力した。2 この翻字法は、文字の転移・簡略表記・同一語の多様な表記・語境界を跨ぐ音声連続の1文字表記・碑文の欠損・欠落が多いピラミッド・テキストに対応して、筆者の従来の翻字法を改良して、有効性を検証したものである。同時に、入力作業の一層の軽減を図った。3 言語学的情報を付加して入力した単一のファイルから、転写本文・復元箇所明示転写本文、狭義の翻字本文、語形総索引を、指定に従って自動的に出力する方式を確立した。出力本文は、ゼーテの底本同様、行毎の異文校合が可能である。4 本データベースに統語情報を付加し、文構造を表示することに拡張できるかを否かを探った。統語情報をかなり絞り込めば、この書式のままで利用できる。一方、相当に議論の多い文法解釈をデータベースに盛り込むことが躊躇されたため、統語分析用の書式例および付随ファイル類を提供するに止める。5 プログラム(バッチ・ファイルとスクリプト)類のモジュール化(部品化)を図り、一部のプログラムの変更が、関連する一連のプログラム類に自動的に反映できるようにした。これにより、一部修正のたびに他の関連プログラムを逐一照合しながら書換える無駄が解消された。6 王毎に出現節が異なるピラミッド・テキストの出入りを自動表示するプログラムを作成した。7 これらの成果の一部は、ピラミッド・テキスト・データベースとして、ウェブ上に公開された。
著者
早川 文代 神山 かおる 佐々木 朋子
出版者
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

テクスチャーの官能評価において、「かたさ」「サクサク感」など評価項目に用いる用語は重要な役割を担う。しかし、用語選定は労力と時間のかかる過程である。そこで、本課題では、官能評価に有効なデータベースを作成し、官能評価の迅速化に資することを目的とした。テクスチャー用語はすでに収集した445語を用いた。文献調査、質問紙調査および官能評価によって、935品目の食物名を選定し、コレスポンデンス分析によって、用語間の関係、用語と食物名との関係、食物名間の関係の数値化を行い、食物からも用語からも検索できるデータベースを作成した。
著者
金武 潤
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

連続データの特性を生かした死後経過時間推算アルゴリズムの開発を目的として、新たに直腸温2次元温度分布測定用センサーを投入した実験系の構築を目指した。(1)2次元温度分布センサーの作製複数の熱電対を内装した専用装置を設計・作製し、寒天モデルを使用してその妥当性を確認した。肛門部から2cm間隔で8点を同時に測定することにより、長軸方向の温度分布を詳細に捉えることが可能となった。(2)可搬型疑似生体モデルの開発腰部マネキンモデルを作製し、長軸方向温度分布データの採取に成功した。しかし、全装置重量が20kgを超え、可搬ではあるものの死体発見現場に容易に持ち込み可能な水準ではない。モデル構成成分・材質等のさらなる検討が必要であり、またセンサー部とデータ解析・蓄積部の無線・赤外線通信等による分離の必要性が認められた。(3)ヒト死体温データの採取実験計画通り、宮城県下の5署に新たに開発され高分解能型小型温度データロガを配備し、剖検予定の死体を対象に直腸温データの採取を行った。従来法に比べ高精度の解析が可能となり、変曲点抽出が可能となった。一部は鑑定に採用し嘱託者に還元した。(4)実験動物を対象とした直腸温データの採取当初、小型動物としてウサギ、大型動物としてシカを対象に計画していたが、上記(1)・(2)の開発計画の遅れから、シカを対象にした予備実験のみ実行した。高分解能型小型温度データロガを用いて、3点計測によりシカ直腸温を採取した。長軸方向の温度分布が観察され、本研究の目的にかなったデータ採取が可能であることが確認された。
著者
水田 憲志 野入 直美 松田 良孝 松田 ヒロ子 卞 鳳奎
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究課題では以下の成果を得た。(1)日本植民地時代の台湾在住経験をもつ沖縄系移民のエスニシティの多元性について明らかにした。(2)太平洋戦争末期における沖縄県から台湾への疎開と戦争終結後の引き揚げの実態、ならびに台湾沖縄同郷連合会の存在とその役割について明らかにした。(3)戦後初期において石垣島でパインアップルと水牛が普及する過程で台湾系住民が果たした役割について明らかにした。(4)研究成果を地域社会へ還元するために、八重山の地元高校で出前授業を実践した。さらに「八重山の台湾」を学ぶ郷土学習、生涯学習の教材となる図書の出版準備作業を継続中である。
著者
嶋崎 尚子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では1980年前後から職業生活を開始したサラリーマン男女101名分の職業キャリアを中心としたライフコースデータを収集し、職業キャリアに生じた構造的変化を個人水準で観察した。本研究をとおして、サラリーマン男女の働き方が、企業社会における終身雇用制・年功序列制のゆらぎ、男女雇用機会均等法施行、転職労働市場の成立、育児介護休業法等、所属企業の慣行や職場環境、夫婦の働き方や勢力構造、サポートネットワーク、個人の人間行為力Human agencyなど、多元的なコンテクストの影響を受ける動態が明らかとなった。
著者
宮崎 謙一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

提示された音について音高名以外を答えることが求められる課題や, ピアノ音が聞こえてくる中で記憶する課題では, 絶対音感の保有者は, 求められている課題とは関連がない音高からの妨害を受けて, 非保有者にくらべて遂行成績の低下を示した. この結果から, 絶対音感保有者では音高と音高名が自動化のレベルに達していて, 音高の命名化が不可避的に起こることが示唆された. また指定された音高を歌う形の能動的絶対音感と, 事象関連電位を用いて音高と指の対応づけに関する脳過程を調べる実験を行った.