- 著者
-
平 伸二
- 出版者
- 福山大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2006
P300による虚偽検出は情報検出であり,検査時点で犯行時の記憶を再認できるかどうかが重要である。実務では,犯行から1ケ月以上経過後の検査が約半数を占めており,長期間経過後の検出可能性を検討する必要がある。そこで,本研究では,模擬窃盗課題から1ケ月以上経過後に検査を受ける1ケ月後群,1年以上経過後に検査を受ける1年後群を設けた。さらに,検査直前に模擬窃盗課題を行った部屋の映像を見る犯罪場面群と,大学内の風景を見る大学風景群に分け,記憶の文脈効果から犯罪場面群のP300振幅の増大が認められるかを検討した。特に,模擬窃盗の中心的項目(盗んだ指輪)と周辺的項目(指輪の横にある文具)を裁決刺激とした条件で,P300振幅の違いが認められるかを検討した。平成18年度の1ケ月後群に続き,平成19年度は1年後群を対象とした実験を行った。P300振幅は,1カ月後と1年後のどちらの時期においても,非裁決刺激よりも裁決刺激の方が有意に大きくなったが,条件(中心・周辺)及び群間(犯罪場面・大学風景)の主効果は認められなかった。つまり,映像による事前呈示の有効性は,中心条件でも周辺条件でも見出せなかった。本実験の結果からは,映像の事前呈示や刺激の種類が,明確にP300による虚偽検出の精度に促進効果をもたらすとは結論できなかった。しかしながら,裁決刺激に対するP300振幅は,1ケ月後群,1年後群ともに非裁決刺激よりも増大しており,事件発生から1ケ月以上経過後の検査が約半数をしめている犯罪捜査への適用を促進する結果となった。今後,映像の事前呈示の効果については,複数事件実行犯の特定事件に対する記憶活性化による検出率の向上が期待できることから,累犯(連続窃盗など)に対する検査有効性を検討していく予定である。