著者
鈴木 宏昭 薬師神 玲子
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

人は意識的に把握できる情報以外の情報を積極的に活用して認知活動を行っている。しかしながらこの知見は主に知覚レベルの実験から得られたものであり、問題解決における潜在的情報の利用についての知見は少ない。本研究では、問題解決などの高次認知における無意識的な情報の利用についての検討を行った。2006年度は問題解決中にサブリミナル画像を提示し、それによる行為の変化を分析したが、実験群、統制群の間に有意な差が見られなかった。そこで2007年度はサブリミナル画像を視野のどの部分提示するかをコントロールした実験を行った。中心視野に収まる範囲、それを越える範囲、の2条件でサブリミナル画像を提示した。しかしながら双方の群ともに問題解決の促進は見られなかった。またサブリミナル画像の提示が被験者の意識しない眼球運動に現れる可能性を検討するため研究を行った。しかしながら実験群、統制群間に有意な差を検出することはできなかった。洞察問題とは異なる認知活動における潜在的な情報の利用を検討するために、ジェスチャーを用いた問題解決の分析も行った。その結果、問題解決者は問題解決の初期と後期に半ば無意識的にジェスチャーのタイプを変化させ、有用な情報を生み出していることがわかった。さらにスキル学習に無意識的な行為の変化を分析した。その結果、半ば自動的に生じる行為の熟達において、環境のセッティングの変化が重要な役割を果たすことが明らかにされた。
著者
藤江 充
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

3年間の研究は,学校と美術館との連携に関わる分野のうち,(1)美術館での教育活動の実態調査とその課題の指摘,(2)学校教員と美術館学芸員との連携の実態調査とその課題の指摘,(4)学校と美術館での美術鑑賞教育の実践上の課題,(3)学校と美術館との連携を展望するための視座の提案,を中心に行った。以下にその成果を述べる。(1)実態調査では,いくつかの県立美術館や都立美術館を訪れ,担当者に面接し,資料などの提供を受けた。そうした現場で直面している共通の課題について整理した。また。児童生徒を対象とした美術館のワークショップやギャラリー・トークなどの活動をビデオに撮影して各館の保存資料として提供した。また,北米の事例を美術館へも紹介した。(2)特に,「アミューズ・ヴィジョン研究会」を中心とする連携促進の活動に参画し,シンポジウムでのまとめをするなど連携の方向を提案した。また,教員や美術館ボランティアに対して,連携のあり方に関する意識調査を行ない,現状認識を知るデータとした。学校での美術館との連携授業に参加し,ビデオに撮影し,研究・実践資料として提供した。(3)公開講座やいくつかの学校での研修会の講師として,美術鑑賞教育の考え方や事例を紹介し,「アート・ゲーム」など最新の鑑賞指導の普及に努めた.学校や美術館での美術鑑賞活動に対する提案をすると同時に,両者を結ぶ教材を研究し,試作し,授業資料を提供した。(4)連携の方法論だけに終わらずに,連携の基本的な意義を確認するために,学術研究の対象としての連携問題を展望するためのマトリックスを示し,今後の検討のための一つの視座を提示した。今後は,収集した資料や撮影したビデオ映像などを分類・整理して,データ・ベースとして活用できるようにしたい。
著者
橋本 泰幸 佐々 有生 山木 朝彦 谷口 幹也 山田 芳明 芳賀 正之
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では,徳島県下の伝統文化の調査を行い,その成果をもとに徳島県の伝統文化を学べる文化施設をデータベース化を行う。そして,海外の伝統文化の継承と教育に関してカンボジア王国で調査を行い,日本国内の状況とを比較検討し,文化創造からの視点での文化継承と教育活動の重要性を提言するにいたった。また,以下のテーマに関する考察が本研究において行われた。美術館における鑑賞教育の観点から地域と芸術の連携に関する研究。大竹拙三を中心に地域社会における美術教育実践家の足跡に関する調査研究。鑑賞教育における身体性に関する研究。また,「生きる力」を育む美術教育プログラム及びネットワークの開発にあたって,研究究組織全体の取り組みとして,鳴門市,大塚国際美術館,鳴門教育大学の三者の連携による「地域文化財教育活用プロジェクト」を実施した。本プロジェクトによって,美術教育ネットワーク構築のための基盤がつくられ,大学と,地方自治体,私立美術館の共同運営によるワークショップ等の事業を行い,その成果として,教員が活用するための美術教育実践例が提案されるに至った。そして,本研究の成果を公開し,広く活用するためのWeb版の美術教育センターが構築された。
著者
石川 誠
出版者
京都教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

1.本研究で目指した美術鑑賞今後美術教育は,学校を出てから美術とのかかわりがいかに持てるかの視点が求められる。文化的で心豊かな市民社会の構築には,学齢期にこそ美術と身近にかかわる素地を育む鑑賞活動を体験させたい。美術館と学校の異なる豊な知的財産を生かしながら,鑑賞教育の方向を示すことを目的とした。2.研究経過(第3年度/平成17年度)1)鑑賞実践モデルの検証と中間評価から鑑賞実践ガイドの作成へ:平成15-16年度に(財)大原美術館,東京国立近代美術館,京都国立近代美術館と各地域の学校の教職員から成る鑑賞教育研究プロジェクトを組織して鑑賞実践モデルを構想・実践し,シンポジウム(2004年12月,京都国立近代美術館)により社会的評価を受け検証した。これらを教員向けガイドに集約した。2)『美術を身近なものにするために-鑑賞実践ガイド-』(2006)の作成鑑賞活動の実践を促進する標記の教員向けガイド・ブック(「ティーチャーズ・ガイド」)を次の手順で作成した。(1)鑑賞活動プログラムの体系化と一般化 (2)『鑑賞実践ガイド』の編成ガイドの特徴:●美術館作品を正面から取り上げ,教室で鑑賞資料に使える精細な大型図版を掲載し,実践で押さえる主要発問(ディスカッション・ポイント)を例示。●実践事例の提示を簡潔にし,教員の主体的な活動展開を保障。●必要情報を学芸員の経験から具体的に執筆(相談窓口等)。*作品写真と実践例,活動情報を併せて収録。提示資料がない状況を改善し,教室で美術館作品の鑑賞実践を可能にした。本ガイドは,3地区の美術館を中心に配置し,今後,本ガイドで実践した教員の評価を仰ぎ,より柔軟で発展性のある鑑賞活動,自主的に作品選定した実践などの登場を期待する。プロジェクトの成果:美術館と学校の距離が狭まった。実践にあわせ美術館が常設作品の選定に踏み出すなど,両者連携の可能性を示した。シンポジウムで提起された「美術館は変わった。学校も変わって-」は,実践を広める主要なコンセプトといえる。課題:鑑賞活動の質や評価観のさらなる検証と整備。図版使用に関する著作権教育と研究。
著者
山木 朝彦
出版者
鳴門教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

鑑賞教育の充実のためには、学校における鑑賞の学習と美術館における鑑賞の学習の内容と方法が整合性をもつように、計画されなくてはならない。このため、美術館と学校教育の連携が求められている。この連携の方法と連携によって開発される教材について、次の各項目で研究を展開し、成果を公表した。1、積極的に学校との連携を推し進めてきた美術館が、現在、どのような具体的な方法によって学校連携を展開しているのか、美術館四館(世田谷美術館・宇都宮美術館・東京都写真美術館・川崎市岡本太郎美術館)を訪問し、各館の学芸員に対面によるインタビュー形式の調査を行い、それぞれの館で展開している学校連携の方法について調査し、平成17年3月に冊子としてまとめた。また、学校との連携に関して先駆的な役割を担った「横浜美術館子どものアトリエ」の基本コンセプトについて聞き取り調査を行い、そこからワークショップなどのあり方について検討し、研究成果を美術科教育学会(平成19年3月)で発表した。2、ワークシートやティーチャーズガイドの開発と、啓発的な展示の試みを模索しているテイト・ギャラリーの教育機能について考察し、平成17年3月に学会誌論文として発表した。3、「鑑賞教育推進プロジェクト」という研究会の一員として、この美術館から発行された四種類のワークシートの開発にかかわった経験を活かし、ワークシートの開発のプロセスと、教材としての有効性をつぶさに記録し分析した。その成果を平成18年3月発行の研究成果報告書にまとめた。4、ワークシートと併用することによって教育的効果をあげるパワーポイント教材を作成し、実際の授業で活用し、その効果について成果報告書のなかで考察した。5、美術館だけではなく博物館・歴史資料館などを利用して、さまざまな造形的な作品を鑑賞する方法の一例として、日本の世界遺産の鑑賞の仕方について検討し、教材にかかわる図書の鑑賞にかかわる箇所を執筆した。
著者
垣花 京子
出版者
筑波学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

数学教育の中でIT活用が始まり20年以上になる.最近は誰でもどこでも,同じような環境でITの活用ができ,研究者の間では,数学教育で利用することで動機付けになり,その学習効果が示されている.しかし,あまり多くの人々に利用されていない.一方,関数に対して苦手意識が強い人も多く,関数と聞いただけで敬遠し,関数を利用して現象を表現したり,判断したりする機会に直面したとき,考えようともしない.この原因として,中学,高校では,1次関数,2次関数とばらばらに教えられ,面白さがなく,式操作中心になりがちで,難しいという印象だけが残っていることが考えられる(Steen, 1990, p.4).本研究では,このような原因を克服するために,人々が比較的使い慣れている表計算ソフトとソフト本体がなくても動的に図形の操作ができる環境を使い,いろいろな関数を動的に見たり,数値を操作したりしながら,グラフや図,式,数値を道具として使いこなし,関数に関する探求,問題解決ができるようにし,"関数センス"を育てるための統合的なアプローチを構築した.今までの学校教育とは,違った方向で,ITの活用により拡張できるところは拡張するよう試みた.成果物としてCD-Rに焼いた電子テキストとWebサイト(http://www.tsukuba-g.ac.jp/t/kakihana/kansu/)がある.これらは,それぞれの場面で,表計算ソフトExcelと無料でPlug inするだけで動的環境を実現できる図形学習ソフトCabri GeometryとCabri 3Dを使って関数の探求ができる.本研究で扱った教材は,ケーススタディやワークショップでの実施を繰り返しながら,改良を加えた.できるだけいろいろな形の関数に接することができるような場面を作り,数値を操作し,視覚的に変化を観察しながら関数の特性をつかみ,問題解決できる.
著者
菊谷 昌浩
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

自由行動血圧測定での、拡張期血圧と収縮期血圧の回帰係数が、その個体の動脈硬化を反映するとされAASIと呼ばれる。以下の3点を明らかにした。(1)血圧データ数が35個以上であれば、脳心血管死亡の予後予測能には影響を与えないこと。(2)家庭血圧によって導出されたAASIは脳梗塞発症を予測すること。(3)家庭血圧によって導出されたAASIは頸動脈中膜内膜複合体厚と弱い関連があること。
著者
西田 保
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、体育における学習意欲を多面的・総合的に診断するシステムの開発であった。具体的には、(1)「体育における学習意欲」「学習意欲の支持要因」「学習行動の選好」を測定する尺度の信頼性および妥当性を、4府県下(愛知県、滋賀県、大阪府、熊本県)の公立小学校5年生および6年生の男女計1,562名を対象に検討すること、(2)体育における学習意欲の類型化をクラスター分析によって特定すること、(3)体育授業以外への興味・関心(他教科の興味、諸活動の興味と体育の楽しさ)も含めて診断システムとすること、(4)各尺度の評価基準、診断プロフィールを作成することを通して、体育における学習意欲診断システムを完成させることであった。種々検討の結果、本診断システムは、体育における学習意欲(短縮版AMPET)、学習意欲の類型(パターン)、学習意欲の支持要因、学習行動の選好、他教科や諸活動の興味、現在行われている体育授業の楽しさを測定できることが明らかとなった。また、各尺度は5段階評価によって診断プロフィールの形で示すことが可能となり、本診断システムを実際に利用した5人の体育担当教師に対して感想を求めたところ、いずれも肯定的な内容であった。以上のことから総合的に判断して、「体育における学習意欲診断システム」は、教育の実践場面において十分有効利用できるものであることが認められた。本診断システムによって提供された情報をどのようにして実際の指導に結びつけていくのかという具体的な学習指導への橋渡しが今後の課題である。
著者
池上 純一
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ヨーロッパの芸術史・思想史において「モデルネ」(近代の最先端から近代の桎梏を乗り越えようとする思潮)への道を切り開いたドイツの音楽家リヒャルト・ワーグナー(1813-83)の活動とその意義を、音楽作品のみならず著作・論文等に即して美学的、哲学的な見地から解明するとともに、ナショナリズム、ユダヤ人問題、ナチズムなどの歴史的な背景に照らして現代にまで及ぶその影響を功罪を含めて明らかにした。
著者
菊本 智之
出版者
浜松大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、近世武芸や社会、武芸界に影響を与えたのは、武芸の達人・名人といった個人ではなく、政治を主導した時の権力者の武芸思想であるという立場から、為政者の武芸実践とそこで培われた思想、武芸政策について研究を進めた。特に8代将軍・徳川吉宗以降、改革期の老中には吉宗と定信の血統が名を連ねている。定信の養子先・久松松平家で実践された起倒流柔道を中心にその思想が受け継がれ、武士階級はじめ武芸界に様々な形で影響を与えていったことを明らかにした。
著者
黒木 伸明
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

聴覚障害児童・生徒の数学的学力は、中学校卒業時において数年の遅れがあると言われている。著者は数学者の立場から彼らの数学学習の自立に向けて、ろう学校及び公立中学校難聴通級クラスに出向き彼らと接してきた。教育現場での教員の努力には殆ど限界に近い状態であることから、教員の授業改善だけを期待しても、彼らの数学的学力の保障は困難であることが確認できた。そこで、ろう学校での通常のカリキュラムに加え、適切な教材の開発と、その実践を外部研究者・講師(ボランティアを含む)にお願いすることを提案したい。その学習時間は放課後・土曜日・日曜日・祭日の学習のために、先ずろう学校等の管理者(校長・教育委員会等)及び教員の意識改革が必要である。もちろん、聴覚障害児童・生徒及びその保護者の理解・意識改革も必要である。聴覚障害児童・生徒の生活体験を考慮するとき、(1)理解・解決するには少し困難さを伴う教材(2)作業を伴う教材(3)達成感の感じられる教材を教材開発の視点としていくつかの教材を開発した。例えば、(1)三角形の内角の和、(2)四角形の内角の和、(3)星形図形の性質、(4)平行四辺形の面積、(5)三角形の面積、(6)四角形の等積変形、(7)サッカーボールを作る(8)正多角形を折る(9)分数を作る(10)独楽を作るなどである。なおこれらを教育現場で実践するにあたって旅費等でSPPの支援も受けていることを記しておく。例えば、中学校における三角形の相似の考え方や、三角形の重心の考え方を適用することで、小学校6年での長方形の紙を1:2に折る教材を開発し、ろう学校6年生に実施している。これは、紙を「折る」という作業・操作活動により、中学校3年での学習内容を事前に体験させ、彼らが中学3年になり相似の学習のとき、より理解し易いようにする為である。このような観点から開発したのが上記の教材である。
著者
児美川 孝一郎 青砥 恭 小野 方資 南出 吉祥
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

大阪府内の公立高校,地元企業,地域における子ども・若者支援機関,高校にスタッフ派遣を行なっているNPO等にヒアリング調査を行い,高校の「進路多様校」における生徒の社会的自立支援・就労支援への取り組みの実態を把握した。多くの高校では,生徒に対するキャリア支援に困難を抱えており,少なからず中退者を出していること,教育・福祉・労働の連携が無ければ,事態への対処が不可能になっていることを明らかにした。
著者
松岡 克善
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

腸管の慢性炎症性疾患であるクローン病の原因は未だ解明されていない。一方で、好中球NADPH oxidaseの先天性異常のために、好中球殺菌機能が障害される慢性肉芽腫症において、クローン病類似の消化管病変を発症することが知られている。このことは、好中球殺菌能の異常により、クローン病に類似した病態が発症し得ることを示している。そこで、好中球による腸内細菌に対する殺菌能の異常がクローン病の病態形成に関与している可能性を考え、クローン病患者の好中球機能異常を系統的に調べ、クローン病の病態への関与を明らかにすることを目的として下記の検討を行った。クローン病患者の末梢血好中球および腸管粘膜内好中球を用いて1) 細菌刺激によるサイトカイン産生能、2) 細菌貪食能3) 活性酸素産生能4) アポトーシス5) 抗菌ペプチド産生能について検討した。アポトーシス、細菌貪食能、活性酸素産生、抗菌ペプチド産生は健常人の好中球と差を認めなかったが、クローン病患者の好中球からのIL-6・IL-1E産生は有意に低下していた。以上より、クローン病では好中球機能が異常になっている可能性が考えられたが、今後さらにそのメカニズムや、病態への関与を検討する必要がある。
著者
河野 透 鈴木 達也
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

クローン病腸管では炎症、潰瘍により粘膜や神経組織に強い傷害が繰り返される。その結果、神経組織で産生される神経ペプチドは顕著に減少し、血流は正常値の半分程度となる。これらの結果から神経再生を保持し、血流に配慮した新たなクローン病腸管手術を考案し、吻合部狭窄が防止できる可能性を明らかにし、大建中湯によるクローン病腸管血流改善、クローン病の病因論的関与が示唆されるTNFα、インターフェロンγ産生を特異的に抑制することを明らかにした。
著者
太田 保之
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1990年11月に始まった雲仙岳噴火災害は、1996年6月に噴火終息宣言が出されるまでに、44人の死者と広大な農耕地や多数の・家屋の焼失・埋没をもたらした。1991年9月から1995年9月までの期間に行われた被災住民の精神的健康に対する支援活動の中で、総計5回の健康調査が実施された。調査によって、次の諸点が明らかになった。(1)General Health Questionnaire30項目版(GHQ)の所見から、(1)GHQ得点8点以上(GHQ高得点者)のハイリスク群は、被災から8年間で66.9%から32.4%へと低下したが、被災地と同じ島原半島にあり、社会・経済状況が類似した対照地域の住民のGHQ高得点者率(12.3%)よりも明らかに高い水準にあった。しかし、(2)「不安感・緊張感」関連症状や「社会的無能力感」関連症状などは、避難生活開始から12ヶ月で改善した。(3)「抑うつ感」関連症状は、避難生活開始から3年〜4年以上も継続していた。(4)「対人関係困難感」関連症状は、被災から8年後にも継続していた。このように、被災住民の精神状態は時間経過と共に変化することが明らかになった。(2)自宅に戻った後の被災住民の生活実態と精神状態との関連でみると、(1)生活リズムの顕著な変化、(2)家族内役割の顕著な変化、(4)馴染みの人との付き合い減少、(5)健康感の喪失、などは精神的不健康と有意な関係にあった。(3)被災住民の精神的不健康のリスク要因は、(1)女性、(2)中・高齢者、(3)持病で長期間の受療者、(4)初期の頻回避難経験者、(5)自営業的就業者などであった。災害発生時には、被災住民の支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて、支援活動を行うことの必要性が明らかになった。
著者
弓 削繁 美濃部 重克 小林 幸夫 榊原 千鶴 小助川 元太
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

戦国末期は文化が中央から地方へ、公家から武家・町人等へと拡散し、次第に貴族的なものから世俗的なものへと変容を遂げていく時期にあたっているが、本研究は古河公方の重鎮一色直朝(月庵)が編纂・著述した『月庵酔醒記』の注釈・典拠研究に基づいて、この過渡期の文化継承のありようを具体的に明らかにしたものである。注釈・典拠研究の成果は3冊の注釈書(うち1冊は準備段階のもの)に、また注釈・典拠研究から見えてくる文化継承上の諸問題に関する研究成果は1冊の研究書に結実している。
著者
合田 敏尚 望月 和樹
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

マウスの給餌を明期に制限すると、空腸における時計遺伝子Per2および糖輸送担体Sglt1の遺伝子の発現量は、給餌開始前後に最大となるように位相がシフトすることが明らかになった。これらの遺伝子上への核内因子BMAL1およびアセチル化ヒストンの結合は、遺伝子発現の日内リズムと対応して量的に変動していた。この結果は、小腸における糖輸送担体の発現は、食事のリズムに依存して、時計遺伝子の発信機構を介して制御を受けていることを示唆する。
著者
村川 雅洋 根本 千秋 箱崎 貴大 青木 健一 平間 孝弘 菅野 良子
出版者
福島県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

手術患者の予後に重大な影響を与える術後せん妄の神経化学的機序解明を目的として、ラットを用いて麻酔中の侵害刺激と鎮静による脳内神経伝達物質アセチルコリン放出の変化を検討した。その結果、現在一般的に用いられている全身麻酔薬と術後鎮静薬はアセチルコリン放出量に影響を及ぼすことが明らかとなり、大脳皮質のアセチルコリン放出の変化が術後せん妄に影響を与えていることが示唆された。
著者
橋本 喜代太 竹内 和広
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

図版を含む提示資料付き英語プレゼンテーションは学術・産業ともにニーズが高いが、教育手法の開発は遅れている。本研究では学習者プレゼンテーションのコーパス構築により、定量的な分析を可能にし、ピア学習者評価なども含めて学習者分析を行って、学習者の困難点、誤りの相関について分析を行なった。そのうえで、困難点等を効果的に解決するための教材、オンライン支援ツールを開発し、それを利用する教育手法を開発し、その効果を確認した。
著者
八幡 雅彦
出版者
別府大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

ジョージ・A・バーミンガム(1865-1950)を中心に北アイルランド小説の普遍的意義と価値を解明した。バーミンガムの初期のふたつの小説が巻き起こした論争がいかにアイルランドの歴史を揺り動かしたかを分析し、そしてこの騒動によってバーミンガムは、人々の融和のためにはユーモアが不可欠という普遍的真理を備えた小説を書くに至ったことを実証した。北アイルランド小説の新たな展開に関しては、グレン・パタソン(1961-)、シャロン・オウエンス(1968-)らの小説が、紛争に囚われぬ新しい姿の北アイルランドを描き、どのようなグローバル性を備えているかを提示した。