著者
市川 伸一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.p253-257, 1985-05
被引用文献数
2
著者
渡邉 純子 渡辺 満利子 山岡 和枝 根本 明日香 安達 美佐 横塚 昌子 丹後 俊郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.113-125, 2016 (Released:2016-04-02)
参考文献数
36

目的 本研究は,中学生におけるライフスタイルと愁訴との関連性の検討を目的とした。方法 2012年 5~11月,同意を得た熊本県内10校の中学校 1, 2 年生,計1,229人(男子527人,女子702人)を対象とし,愁訴(12項目)および体格,食事調査(FFQW82),ライフスタイル(18項目),食・健康意識(9 項目)に関する自記式質問紙調査を実施した。回答を得た1,182人(回収率96.2%,男子500人,女子682人)を解析対象とした。愁訴は(いつも・ときどき)を愁訴ありとして,12項目のありの個数を「愁訴数」として取り扱った。要約統計量は男女別に,連続量は平均値と標準偏差または中央値(25%点,75%点),頻度のデータについては出現頻度(%)を求めた。男女間の比較には前者では t 検定,またはウィルコクソン順位和検定を,後者ではカイ 2 乗検定により比較した。愁訴については因子分析で因子構造を確認した。ライフスタイル等と愁訴との関連性は,主成分分析およびステップワイズ法による変数選択により検討した。有意水準は両側 5%,解析は SAS Ver9.3を用いた。結果 本対象の体格は全国平均とほぼ同レベルであった。エネルギー摂取量の朝・昼・夕食の配分比率は,2:3:4 を示し,とくに朝食の摂取不足の傾向が認められた。ライフスタイルでは,男女ともに朝食を十分摂取できていない者 2 割強,夜 9 時以降の夕食摂取者 3 割程度,TV・ゲーム等 2 時間以上の者 5 割程度認められた。愁訴の出現頻度は,「いつも疲れている感じがする」,「集中力がない」,「やる気がでない」がそれぞれ男女ともに 40%以上を示した。 多変量解析の結果,「愁訴数」の少なさと関連するライフスタイル項目として,男女ともに「バランス食摂取」,「睡眠 6 時間以上」,女子の「3 食規則的摂取」,「食欲あり」,「リラックス時間あり」が示唆された。「愁訴数」の多さと関連する項目として,男女ともに「早食い」,「TV・ゲーム等 2 時間以上」,男子の「料理・菓子をつくる」,女子の「間食・夜食をとる」,「夜 9 時以後の夕食摂取」,「弁当は自分でつくる」が示唆された。なお、食事摂取量は「愁訴数」とはほとんど関連が認められなかった。結論 中学生の「朝食を落ち着いてしっかり食べる」および「食事は 1 日 3 回規則的に食べる」などの食事摂取状況やライフスタイルが「愁訴数」の少なさと関連することが示唆された。
著者
間瀬 知紀 宮脇 千惠美 甲田 勝康 藤田 裕規 沖田 善光 小原 久未子 見正 富美子 中村 晴信
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.371-380, 2012
被引用文献数
2

<b>目的</b> 本研究は,女子学生を対象として,若年女性における正常体重肥満者,いわゆる「隠れ肥満」の体組成に影響を及ぼすと考えられる食行動,運動習慣および身体活動量について検討した。<br/><b>方法</b> 対象は京都府内の大学 6 校に在籍する18~21歳の女子学生530人である。体脂肪率,歩数の測定および無記名自記式の質問紙調査を2010年 1 月~2010年 7 月にかけて実施した。質問紙調査項目は生活環境,体型認識,体型への希望,ダイエット経験,運動習慣,睡眠時間および食行動に関する 7 項目であった。食行動調査は EAT–26(Eating Attitude Test 26:摂食態度調査票)を実施した。BMI が18.5以上25.0未満の「標準体重(n=439)」判定者の中で,体脂肪率が75%タイル以上の者を「High group(n=115)」,体脂肪率が25%タイル以下の者を「Low group(n=111)」,この 2 群以外の者を「Middle group(n=213)」と分類し,3 群について比較検討した。<br/><b>結果</b> 質問紙調査より,グループ間に体型認識,体型への希望,やせたい理由,ダイエット経験の有無,ダイエットの失敗の有無および睡眠時間についての回答の比率に有意な差がみられた。しかしながら,身体活動量はグループ間に差がみられなかった。さらに,EAT–26を用いて食行動を検討すると第 3 因子「Oral control」においては High group は Low group と比較し,有意に高値が認められた。<br/><b>結論</b> 標準体重者で体脂肪率が高い者は,やせ願望やダイエット行動が関連していた。やせ願望の強い学生に対し,適正な体組成の維持と適切な食生活を確立させるための健康教育の必要性が示された。
著者
岡本 悦司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.445-451, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
10
被引用文献数
4

レセプトとカルテといった異なったデータを個人単位で連結(リンケージ)したり,複数の機関から個人情報を収集するがん登録のような疾病登録事業を,個人名を平文のままで行うのではなく暗号により連結可能匿名化して行う可能性を検討する。 暗号化と解読の両方が必要な通信とは異なり,暗号化のみで足りる研究目的の連結(リンケージ)の場合,情報提供を受ける研究者が鍵を共有する必要はないので自治体や保険組合等のデータ保有者は簡単な暗号化により安全に研究者にデータ提供を行うことが可能である。 Microsoft エクセル®を用いた人名暗号化の具体的な手法を紹介する。人名の漢字を JIS コード化し,そのコードを無作為に選んだアルファベット(大小52文字)で置換する。この数字とアルファベットの対応表が鍵であり,5.74×1016 通りの組み合わせがあることから鍵無しに解読は不可能である。これにより万一漏洩があってもプライバシー侵害が起こらない技術的担保ができ,公衆衛生研究が促進されよう。 がん登録や脳卒中登録のような複数の機関から個人情報を収集し追跡する疾病登録事業においても公開鍵暗号を用いることにより連結可能匿名化された登録システムが可能になる。しかしながら,暗号化作業が複雑であること,登録機関からの問合わせが不可能であること,鍵を公開することにより人名と暗号との対応表を誰でも作れることから安全性は十分には保証されず,暗号のみに頼って疾病登録事業の連結可能匿名化はなおも困難である。
著者
小池 高史 長谷部 雅美 野中 久美子 鈴木 宏幸 深谷 太郎 小林 江里香 小川 将 村山 幸子 藤原 佳典
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.357-365, 2015 (Released:2015-08-27)
参考文献数
25

目的 自治体による身元不明の認知症高齢者の増加を抑制する事業の利用を広めていくために,大田区で展開される高齢者見守りキーホルダーの利用の特徴を明らかにする。また,普及を担当する地域包括支援センターの方針や戦略と利用の特徴との関連を明らかにすることを目的とした。方法 2013年 7 月,東京都大田区 A 地区において,住民基本台帳上65歳以上の高齢者のうち,自力回答が難しいと思われる人を除いた7,608人を対象に質問紙を郵送し,5,166人(回収率67.9%)から回収した。このうち,分析に用いた変数に欠損のなかった4,475人を分析対象とした。見守りキーホルダーの利用の有無を従属変数とする二項ロジスティック回帰分析を行った。独立変数には,性別,年齢(前期高齢者/後期高齢者),同居者の有無,社会的孤立状況(孤立/非孤立),IADL(自立/非自立),もの忘れ愁訴の有無を投入した。また,2014年 8 月に大田区内 6 か所の地域包括支援センターにて12人の職員を対象にインタビュー調査を実施した。結果 ロジスティック回帰分析の結果,女性は男性よりも1.64倍,後期高齢者は前期高齢者よりも4.39倍,独居者は同居者のいる人よりも2.14倍,非孤立者は孤立者よりも1.36倍,IADL 非自立の人は自立の人よりも1.50倍,もの忘れ愁訴のある人は無い人よりも1.37倍見守りキーホルダーを利用していた。地域包括支援センターへのインタビューの結果,見守りキーホルダーの主な普及の対象としては,独居高齢者,心配を持っている人,若くて元気な人などがあげられた。地域包括支援センターのなかでも,独居高齢者と若い層を普及の主な対象と考えているセンターがあったが,実際には独居高齢者は多く利用し,前期高齢者の利用は少なかった。登録している人が多いと考えられていたのは,不安感の高い人,若くて自立度が高い人などであった。実際の登録までの経路としては,人づてや,町会などで登録するケースがあげられた。結論 見守りキーホルダーは,女性,後期高齢者,独居者,非孤立者,IADL 非自立の人,もの忘れ愁訴のある人により利用されていた。地域包括支援センターの多くが例示した友人や地域団体を経由しての登録の仕方と,孤立している人の利用率の低さの関連が示唆された。若くて IADL の高い人や社会的に孤立した人の利用を広めていくことが今後の課題である。
著者
中村 美詠子 近藤 今子 久保田 晃生 古川 五百子 鈴木 輝康 中村 晴信 早川 徳香 尾島 俊之 青木 伸雄
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.881-890, 2010

<b>目的</b> 本研究は,児童生徒における「学校に行きたくないとしばしば感じる気持ち」(以下,不登校傾向)の保有状況と自覚症状,生活習慣関連要因との関連を横断的に明らかにすることを目的とする。<br/><b>方法</b> 平成15年11月に小学校 2・4・6 年生,中学校 1 年生,高等学校 1 年生の5,448人と小学生の保護者1,051人を対象として実施された静岡県「子どもの生活実態調査」のデータを用いた。自記式の調査票により,児童,生徒の不登校傾向,自覚症状,生活習慣,および小学生の保護者の生活習慣を把握した。<br/><b>結果</b> 有効な回答が得られた小学生2,675人,中学生940人,高校生1,377人,小学生の保護者659人について分析を行った。不登校傾向は,男子小学生の11.4%,男子中学生の12.1%,男子高校生の25.3%,女子小学生の9.8%,女子中学生の19.6%,女子高校生の35.9%にみられた。不登校傾向を目的変数,自覚症状,生活習慣関連要因をそれぞれ説明変数として,性別,小学(学年を調整)・中学・高校別に,不登校傾向と各要因との関連を多重ロジスティック回帰分析により検討した。男女ともに,小学・中学・高校の全てでオッズ比(OR)が統計学的に有意に高かったのは,活力低下(OR: 3.68~8.22),イライラ感(OR: 3.00~6.30),疲労倦怠感(OR: 3.63~5.10),朝眠くてなかなか起きられない(OR: 1.98~2.69)であり,また強いやせ希望あり(OR: 1.83~2.97)のオッズ比は中学男子(OR: 2.09, 95%信頼区間:0.95–4.60)以外で有意に高かった。一方,小学生において保護者(女性)の生活習慣関連要因と不登校傾向との間に有意な関連はみられなかった。<br/><b>結論</b> 不登校傾向の保有状況は小学生では男女差は明らかではないものの,中高生では女子は男子より高かった。また,不登校傾向は,不登校者においてしばしば観察されるような様々な自覚症状と関連していた。
著者
阿江 竜介 中村 好一 坪井 聡 古城 隆雄 吉田 穂波 北村 邦夫
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.665-674, 2012-09-15

<b>目的</b> 全国的な疫学調査である「第 5 回 男女の生活と意識に関する調査」のデータをもとに,わが国の自傷行為についての統計解析を行い,自傷経験に関連する要因を明らかにする。<br/><b>方法</b> 全国から層化二段無作為抽出法を用いて選出された2,693人に調査票を配布し,自傷経験に対する回答の解析を行った。自傷経験があると答えた群(以下,自傷群)とないと答えた群(以下,非自傷群)の 2 群間で比較を行った。<br/><b>結果</b> 1,540人(回収率57.2%)の対象者が回答した。全体の7.1%(男の3.9%,女の9.5%)に少なくとも 1 回以上の自傷経験があり,男女ともに自傷経験者の約半数が反復自傷経験者であった。16–29歳における自傷経験率が9.9%と最も高く,30–39歳,40–49歳はそれぞれ5.6%,5.7%とほぼ同等であった。男女別では,年齢階級別(16–29歳,30–39歳,40–49歳)で,女はそれぞれ15.7%, 7.5%, 5.8%と若年ほど自傷経験率が高く,男は3.0%, 3.4%, 5.5%と若年ほど低かった。群間比較では,喫煙者(自傷群47.5%,非自傷群28.2%,調整オッズ比[95%信頼区間]:2.18[1.32–3.58]),虐待経験者(23.6%, 3.7%, 4.24[2.18–8.25]),人工妊娠中絶経験者(30.3%, 12.7%, 1.93[1.13–3.30])の割合が自傷群で有意に高く,中学生時代の生活が楽しかったと答えた者(41.1%, 78.6%, 0.45[0.25–0.79])は有意に低かった。調整後有意差は認めなかったが自傷群では,すべての性•年齢階級において,両親の離婚を経験した者,中学生時代の親とのコミュニケーションが良好ではなかったと答えた者,親への敬意•感謝の気持ちがないと答えた者の割合が高い傾向を認めた。<br/><b>結論</b> 多くの先行研究と同様に,自傷経験率は16–29歳の女で高く,また,喫煙者や虐待経験者で自傷経験率が高いことが示された。自傷行為の予防には,これらに該当する者に対して重点的にケアを提供する必要がある。また,社会的な観点から言えば,これらの要因を持つ家庭環境についても,今後明らかにしていく必要があろう。
著者
高岡 幹夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.36, no.10, pp.p731-734, 1989-10
著者
石原 融 武田 康久 水谷 隆史 岡本 まさ子 古閑 美奈子 田村 右内 山田 七重 成 順月 中村 和彦 飯島 純夫 山縣 然太朗
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.106-117, 2003

<b>目的</b> 思春期の肥満は成人肥満に移行することが多く,学童期あるいは,それ以前の肥満の対策が重要とされている。本研究は,縦断研究により思春期の肥満と幼児期の生活習慣,家族関係および体格等との関連を明らかにすることを目的とした。<br/><b>対象と方法</b> 1987年 4 月から1991年 3 月に山梨県塩山市で出生した児を対象として,1 歳 6 か月,3 歳児健康診査時の質問票とその時の身長,体重の実測値,また,思春期は2000年 4 月の健康診断時の身長,体重の実測値を解析に用いた。平成12年度の学校保健統計調査結果の年齢,性,身長別の平均体重を標準体重として,肥満度を算出し,20%以上を肥満と判定した。1 歳 6 か月,3 歳時の体格についてはカウプ指数を用い,生活習慣については健康診査時の調査票の生活習慣項目を用いて,思春期の肥満との関連について解析した。<br/><b>結果</b> 1 歳 6 か月児健康診査時の質問票の回収数は883人で,思春期まで追跡可能であった児が737人であった(追跡率83.5%)。平均追跡期間は10年11か月であった。<br/> 1 歳 6 か月時と 3 歳時のカウプ指数高値群において有意に思春期の肥満者が多くオッズ比はそれぞれ2.61 (95%信頼区間:1.11-6.12)と5.34 (2.54-11.23)であった。また,母親の肥満群において有意に思春期の肥満者が多く,オッズ比は5.32 (2.67-10.60)であった。<br/> 生活習慣項目では,1 歳 6 か月時の「室内で一人で遊ぶことの多い」のオッズ比が3.01 (1.01-8.99),また,3 歳時の「おやつの時間を決めずにもらっていた」のオッズ比が2.12 (1.25-3.61)で思春期の肥満のリスクであった。食品項目では,「牛乳」摂取頻度のみが思春期の肥満と有意な関連を示し,オッズ比0.63 (0.41-0.95)であった。<br/> 共分散構造解析を行い逐次因果最適モデルを求めた。3 歳時の体格,母親の体格,遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取は思春期の体格に影響を与えていた。また,母親の体格は子どもの要求の応じ方に影響しており,子どもの要求の応じ方はおやつの取り方に影響を与えていた。<br/><b>結論</b> 思春期の肥満は,1 歳 6 か月と 3 歳時の体格,母親の体格,幼児期の遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取と関連があった。遺伝要因が強いことが確認されたが,幼児期の生活習慣も思春期の肥満と関連していることが示唆された。
著者
岩澤 聡子 道川 武紘 中野 真規子 西脇 祐司 坪井 樹 田中 茂 上村 隆元 MILOJEVIC Ai 中島 宏 武林 亨 森川 昭廣 丸山 浩一 工藤 翔二 内山 巌雄 大前 和幸
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-43, 2010

<b>目的</b> 2000年 6 月に三宅島雄山が噴火し,二酸化硫黄(SO<sub>2</sub>)を主とする火山ガス放出のため同年 9 月に全住民に島外避難命令が出された。火山ガス放出が続く中,火山ガスに関する健康リスクコミュニケーションが実施され,2005年 2 月に避難命令は解除された。本研究では,帰島後 1 年 9 か月経過した時点における,SO<sub>2</sub> 濃度と小児の呼吸器影響の関連について,2006年 2 月から11月の 9 か月間の変化を検討した。<br/><b>方法</b> 健診対象者は2006年11月時点で,三宅島に住民票登録のある19歳未満の住民を対象とした。そのうち,受診者は,141人(受診率50.4%)で,33人は高感受性者(気管支喘息などの気道過敏性のある呼吸器系疾患を持つ人あるいはその既往のあり,二酸化硫黄に対し高い感受性である人)と判定された。<br/> 健康影響は,米国胸部疾患学会の標準化質問票に準拠した日本語版の自記式質問票により,呼吸器に関する自覚症状調査,生活習慣,現病歴,既往歴等の情報を収集した。努力性肺活量検査は,練習の後,1 被験者あたり 3 回本番の測定を実施した。<br/> 環境濃度は,既存の地区名を一義的な括りとし,当該地区の固定観測点での SO<sub>2</sub> モニタリングデータをもとに,避難指示解除より健診までの22か月間のデータについて,その平均値により居住地域を低濃度地区(Area L),比較的曝露濃度の高い 3 地域(H-1, H-2, H-3)と定義し,SO<sub>2</sub> 濃度(ppm)はそれぞれ0.019, 0.026, 0.032, 0.045であった。<br/><b>結果</b> 自覚症状では,「のど」,「目」,「皮膚」の刺激や痛みの増加が,Area L と比較すると,H-3 で有意に訴え率が高かった。呼吸機能検査では,2006年 2 月と2006年11月のデータの比較において,高感受性者では%FVC,%FEV1 で有意に低下(<i>P</i>=0.047, 0.027)していたが,普通感受性者では低下は認めなかった。<br/><b>結論</b> 高感受性者では呼吸機能発達への影響の可能性も考えられ,注目して追跡観察していくべきである。
著者
赤澤 正人 竹島 正 立森 久照 宇田 英典 野口 正行 澁谷 いづみ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.41-51, 2014 (Released:2014-02-26)
参考文献数
12
被引用文献数
2

目的 保健所における「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」(以下,運営要領)の運用実態を把握し,運営要領の改訂に向けた基礎資料とすることを目的とした。方法 全国の保健所495か所を対象に,平成24年に郵送による質問紙調査を実施した。保健所を県型,中核市型,指定都市型の 3 群に分類し,独自に作成した項目の単純集計,または平均値をもとに分析した。結果 回収数は308か所(62.2%)であった。保健所の型別の回収数は,県型239か所(63.9%),中核市型48か所(67.6%),指定都市型21か所(42.0%)であった。  精神保健福祉法と障害者自立支援法の担当課が別であったのは,県型99か所(41.4%),中核市型32か所(66.7%),指定都市型 8 か所(38.1%)であった。担当業務の概ね 4 分の 3 以上が精神保健福祉業務である職員数は,県型においてより少ない傾向がみられた。組織育成のための助言指導は,精神障害者家族会に対する割合が最も高く,県型205か所(85.7%),中核市型42か所(87.6%),指定都市型14か所(66.7%)であった。精神保健のグループワークは,中核市型において半数以上の27か所(56.3%)で実施されていたが,県型では75か所(31.4%),指定都市型で 8 か所(38.1%)であった。県型保健所における市町村への協力および連携の内容では,精神保健福祉相談•訪問指導(83.5%)が最も高く,次いで精神保健福祉の課題や業務の方向性の検討(44.6%),事例検討会(42.0%)であった。また,主たる領域•対象では,対応困難事例(84.8%)が最も高く,次いで社会復帰•地域移行(59.5%),自殺対策(44.2%)であった。結論 障害者自立支援法,自殺対策基本法の成立など,近年の法制度の整備とともに,保健所の精神保健福祉業務の実施体制と業務内容に変化が起こっている可能性が示唆された。運営要領改訂に当たっては,この点を考慮する必要があると考えられた。
著者
神奈川 芳行 赤羽 学 今村 知明 長谷川 専 山口 健太郎 鬼武 一夫 髙谷 幸 山本 茂貴
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.100-109, 2014 (Released:2014-04-16)
参考文献数
16

目的 世界的に人為的な食品汚染についての関心が高まるに伴い,G8 では専門家会合が開催されたり,米国では多くの対策•方針案等が策定されている。しかし,日本では,食品企業の食品テロに対する認識が低く,その脆弱性が危惧されている。今回我々は,日本の食品企業に食品防御対策を普及させるためのガイドライン等を作成した。方法 すでに作成されている食品工場用チェックリストに示されている食品防御対策について,費用対効果を考慮した「推奨度」を整理した。その推奨度(費用対効果の高い対策順)を基に,「食品防御対策ガイドライン(案)」を作成し,食品工場に対して聞き取り調査を実施した。また,食品防御の観点から,食品工場用チェックリストやガイドラインと「総合衛生管理製造過程承認制度実施要領(日本版 HACCP)」を比較した。結果 推奨度を基に試作したガイドライン(案)に対する食品工場への聞き取り調査を踏まえて,「食品防御対策ガイドライン(食品製造工場向け)」とその解説を作成した。また,食品企業に普及させるために,HACCP における食品防御の観点からの留意事項を作成した。結論 食品防御対策を普及させるためには,食品事業者が使用しやすいガイドラインが有用と考えられた。
著者
望月 由妃子 田中 笑子 篠原 亮次 杉澤 悠圭 冨崎 悦子 渡辺 多恵子 徳竹 健太郎 松本 美佐子 杉田 千尋 安梅 勅江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.263-274, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
30

目的 児童虐待件数は毎年増加しており,虐待の予防,早期発見,早期支援に関し,実態に基づく適切かつ具体的な取り組みが求められる。本研究の目的は,保育園の園長および保育士が「虐待疑い」と評価し,市と情報交換しながら見守りをしている子どもの養育者の育児不安および育児環境と虐待との関連を明らかにし,虐待の予防,早期発見・早期支援の一助とすることである。方法 A 市の全公立保育園に在園する子どもの全養育者1,801人に育児支援質問紙および育児環境指標(ICCE)への記入を依頼した。育児支援質問紙は養育者の育児困難感や不安・抑うつ傾向を,育児環境指標は子どもと環境とのかかわりの質や頻度などを測定する。専門職が「虐待疑い」と評価した子どもの養育者を「虐待群」,それ以外を「非虐待群」とした。育児困難感,不安・抑うつ傾向および育児環境と虐待との関連を検討するため,両質問紙の回答をリスク群,非リスク群の 2 群に分類し,各リスク項目の有無の独立性について,Fisher の正確検定により検定した。さらに虐待と有意に関連する要因を他の項目の影響を互いに調整した上で検討するため,「虐待」を目的変数,育児不安と養育環境で有意な関連のみられた項目を説明変数,性別と年齢を調整変数とし,多重ロジスティック回帰分析によりオッズ比を算出した。結果 多重ロジスティック回帰分析の結果,「虐待群」は「非虐待群」と比較して,育児不安では,「不安や恐怖感におそわれる」が4.9倍,育児環境では,「保育園以外に子どもの面倒をみてくれる人がいない」が4.7倍であり高い値を示した。調整変数(性別,年齢)では有意な関連はみられなかった。結論 育児困難感や不安・抑うつ傾向および育児環境と虐待との関連より,保育園等の専門職が養育者への具体的かつ活用可能な支援の方策が得られ,虐待の予防,早期発見,早期支援の一助となることが示唆された。
著者
國井 修 喜多 悦子 渋谷 健司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.853-859, 2001-10-15

【目的】 1994~97年に3度のエボラ出血熱(以下EHF)流行が発生したガボン共和国において,流行状況とその対策,また背景にあると考えられる文化的要因について検討した。【方法】 1997年1月3度目のEHF流行期間中,米国およびガボンにおいて関係機関を訪問し情報を収集した。また,EHFが流行中のガボンのBooue村において,20歳以上男女計20人に対しEHFに関する知識および意識について,伝統治療士2人に対し患者の治療方法について,それぞれ訪問面接調査を実施した。【結果】 3回の流行はすべてチンパンジーやゴリラとの関連が疑われ,特に第二の流行では12人の死亡例が村の祭りのため死んだチンパンジーの皮を剥いで調理し食していた。スーダンやザイールでEHF流行を悪化させた要因である病院での汚染注射針の利用は早期に予防されていたが,家庭内における家族の患者との濃厚な接触,葬式における遺体への抱擁などの伝統的風習が本流行での重要な伝播要因となっていたと考えられる。 訪問面接調査の結果は,流行地の村でありながら3割以上はその疾病の名前さえ知らず,知っていてもそれがどのような病気でどのように伝播するかを回答できない者が多かった。住民の伝統治療士に対する信頼度は高いが,患者の両腕にナイフで傷をつけ血液を皮膚に擦りつけるなどの伝統的治療が感染伝播に寄与していることも推測された。【結論】 EHF流行の背景には文化的要因が強く関連している可能性が示唆された。今後国際的な感染症対策において,人類学・社会学など保健医療以外の分野との協力体制が重要になってくると思われる。【Objective】The Republic of Gabon experienced epidemics of Ebola hemorrhagic fever (EHF) three times between 1994 and 1997. This study aimed at exploring cultural factors related to the outbreaks.【Methods】We collected information about EHF epidemics from the Gabon Ministry of Health, district hospitals and other facilities and conducted in-depth interviews with 20 villagers and 2 traditional healers in the village where the third epidemic occurred.【Results】All three epidemics were supposed to have direct or indirect relationship with great apes, the victims having cooked or eaten chimpanzees meat. Although the reuse of syringes and needles in hospitals which had worsened past EHF outbreaks in Sudan and Zaire did not contribute to the outbreak in Gabon, traditional practices as family members remaining close to the patient to nurse him/her, and hugging and touching the dead at funerals were suspected to be crucial sources of infection. Interviews with traditional healers revealed that traditional treatment methods as cutting a patient' skin with an unsterilized knife and appkling blood to the skin were risky and might have been contributory factors in the deaths of one traditionals healer and his assistant in the thir EHF outbreak. In one village where EHF had reached epidemic proportions, in-depth interviews were conducted with 2 traditional healers and 20 persons of mean age 33 (20~46) years with a sampling method of selecting every tenth household form the entrance. Even though they lived in a village suffering an EHF outbreak, only two thirds of them knew the name of the disease and about half of them could not explain what kind of thought it had been due to evil spirits; others responded the mosquitoes or patient's sweat/saliva were the cause.【Conclusions】This study showed that cultural factors might be very crucial to EHF outbreaks in developing counties. Quick intervention with health education is needed to disseminate appropriate knowledge and persuade people that traditional practices could carry a high risk of infection.
著者
大和 浩 太田 雅規 中村 正和
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.130-135, 2014

<b>目的</b> 飲食店の全客席の禁煙化が営業収入に与える影響を,全国で営業されている単一ブランドのチェーンレストランの 5 年間の営業収入の分析から明らかにする。<br/><b>方法</b> 1970年代より全国で259店舗を展開するファミリーレストランでは,老朽化による改装を行う際に,全客席の禁煙化(喫煙専用室あり),もしくは,喫煙席を壁と自動ドアで隔離する分煙化による受動喫煙対策を行った。2009年 2~12月度に全客席を禁煙化した59店舗と,分煙化した17店舗の営業収入の相対変化を,改装の24~13か月前,12~1 か月前,改装 1~12か月後の各12か月間で比較し,客席での喫煙の可否による影響が存在するかどうかを検討した。改装が行われておらず,従来通り,喫煙区域と禁煙区域の設定のみを行っている82店舗を比較対照とした。解析は Two-way repeated measures ANOVA を行い,多重比較検定は Scheffe 法を用いた。<br/><b>結果</b> 全客席を禁煙化した52店舗,喫煙席を壁とドアで隔離する分煙化を行った17店舗,および,未改装の82店舗の 3 群の営業収入の相対変化(2007年 1 月度比)は,12か月単位の 3 時点の推移に有意差が認められた(<i>P</i><0.0001)。改装によりすべての客席を禁煙とした店舗群の営業収入はその前後で増加したが(<i>P</i><0.001),喫煙席を残して壁と自動ドアで隔離する分煙化を行った店舗群の営業収入は有意な改善を認めなかった。<br/><b>結論</b> ファミリーレストランでは,客席を全面禁煙とすることにより営業収入が有意に増加するが,分煙化では有意な増加は認めらなかった。
著者
植村 直子 マルティネス 真喜子 畑下 博世
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.762-770, 2012-10-15

<b>目的</b> 在日ブラジル人妊婦が,妊娠から出産までの日常生活をどのように過ごしているのか,日本の保健医療システムの中で,どのような点に戸惑いや困難を感じているのかを調査し,在日ブラジル人妊産婦の保健医療ニーズを考察した。<br/><b>方法</b> 対象者は A 県在住で,日本語理解が不十分で,日本での出産が初めてであるブラジル人妊婦10人とした。2007年 8 月から2009年 7 月に,研究者と通訳者が対象者の妊婦健診への同行,および家庭訪問によるフィールドワークを実施した。分析は,フィールドノートより各対象者の妊娠•出産についての思いや考え,日常生活の様子,保健医療の場面での戸惑いや困りごとに関する記述からラベルを作成し,意味の共通するものをグループ化する作業を繰り返しカテゴリー化した。<br/><b>結果</b> 対象者の年齢は20歳代が 8 人,30歳代が 2 人で,在日期間は 3 年未満が 8 人,10年未満が 2 人であった。出産経験は「なし」が 8 人,「あり」が 2 人であった。労働状況は10人とも妊娠後期までに退職し,経済状況は夫の収入のみでは生活は厳しい状況であった。同居家族は「夫」が 6 人,「夫,子ども」が 2 人,「夫,親」が 2 人であった。家族の支援状況は,実際に身近に手伝ってくれる者がいるのは 6 人で,友人等の交流状況は,退職後は10人とも「なし」であった。<br/>  日常生活の様子や保健医療場面での困難では,4 つの大カテゴリー:I. 身内との支えあいは強いが,友人や近所との日常的なつきあいはあまりない,II. 過酷な仕事により,不規則な生活を送らざるを得ず,体に負担がかかっている,III. 日本での出産に関する情報が十分得られておらず,理解できていないことによる不安がある,IV. 母国と違うシステム,習慣に戸惑う,に整理された。<br/><b>結論</b> 在日ブラジル人妊婦の日常生活は孤立しがちで,不規則な生活状況であった。保健医療の場面では,日本での妊娠•出産に関する情報を十分に得られておらず,体重増加など日本とブラジルの基準の違いに戸惑っていた。こうした在日ブラジル人妊婦の生活状況を理解し,産後孤立させないことを見越した妊娠期からの関係の形成や,ブラジルの情報を踏まえた対応が求められる。また,市町村や保健所,産科•小児科医療施設,国際協会や民間支援団体,雇用者(企業)などが協力し,通訳の配置,対訳表•異文化理解のためのマニュアル普及やセミナー実施,相談日を実施するなどの支援体制づくりが望まれる。