著者
森 玲奈 北村 智
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.309-318, 2013

ワークショップは教育工学の研究対象として認識されてきた.しかしながら,教育工学研究としてのワークショップの評価について,十分な議論が行われていない.そこで本稿では,第一に,ワークショップの教育評価について,ワークショップと学習目標との関係に着眼し,検討を行なった.第二に,教育工学研究としてワークショップを評価する方法について,都市計画研究における方法と認知科学研究における方法を参照し,検討を行なった.検討の結果,第一に,ワークショップの教育評価では,我々は明示された学習目標と明示されていない学習目標を分ける考えを示した.加えて,「予期されなかった学習」の重要性を指摘した.第二に,都市計画研究における評価方法を検討した結果,研究の妥当性・有用性を考える上で,実践の置かれた文脈と同様に,実践に対する研究者の立場を詳述することが重要であることと,参加者・研究者のみならず,企画者・運営者を含めた多様な関わりを踏まえた多面的な分析に,有用な知見を見いだせる可能性があることを示した.第三に,認知科学研究における相互作用分析の研究を踏まえると,言語行動のみならず,非言語行動を含めたマルチモーダルな分析を行うことが有効ではないかと提案した.
著者
松波 紀幸 永井 正洋 貴家 仁志
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.111-123, 2012

児童にデジタルペンとマインドマップを用いて協調学習を行わせ,他者の意見と自身の意見を比較検討させた後,意見文を書かせることを通して,表現の論理性を高める授業を展開した.また,協調学習の後に,遠隔地と結んだエキスパートを授業に参加させることで,さらに児童の表現の論理性が向上すると考えた.実践の結果,児童の意識調査(回答選択)からは,エキスパートが意見文の推敲に最も影響を及ぼしていることが分かるとともに,授業の事後意見文を分析した結果からも,その影響を認めることができた.また,事後意見文の質的分析からは,「具体性」,「妥当性」,「明確さ」に改善が見られ表現の論理性が向上しており,エキスパートによる学習支援の有効性が示唆された.この他,マインドマップを利用した学習支援については,意識調査(自由記述)や意見文,教員評価から児童が表現の論理性を高めており,有効であったことが認められた.
著者
宮地 利幸 三輪 信介 長谷川 忍 丹 康雄 篠田 陽一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.235-248, 2010
被引用文献数
1

「技術」の習得には理論的な学習に加え,実践的な学習が必須である.特にネットワーク技術に関していえば,自律的に動作する要素の集合であるネットワークの挙動を理解し,その管理・運用技術を習得するためには,実環境で利用される機器を用いたネットワーク管理経験が重要である.しかし,実験的なネットワークであったインターネットが社会的インフラの一つとして認められるようになり,オペレーションのミスが許されない現状では,ネットワーク技術者がその技術を育むためのインフラが不足している.このような問題を解決するため,さまざまな体験演習環境が提案されている.その一方でネットワーク技術の検証の重要性が認識され,世界各地にネットワークテストベッドが設置されるようになってきている.本論文では,ネットワークテストベッドの一つであるStarBEDおよび実験支援ソフトウェアであるSpringOSを用いた体験演習環境構築についてまとめる.また,実際にStarBEDを利用して行われた体験演習例「SOI Asia 2008 Spring Global E-Workshop」,「インシデント体験演習」について紹介し,その有用性を示す.
著者
林 一雅
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.113-116, 2010
参考文献数
8
被引用文献数
5

本研究の目的は,アクティブラーニングを導入するために教員に対して授業支援を行うために,ICT支援型ラーニングスペースで実施された授業の類型化をすることである.レスポンスアナライザやタブレットPCなどのICTを活用したアクティブラーニングの授業を参与観察し,その授業形態や什器の配置から類型化を行った.その結果,講義+ディスカッション型,タブレットPC活用型,プレゼンテーション型,実習型の4類型を見出した.これらのことから,アクティブラーニングが行われる同一のラーニングスペースであっても教員や授業内容により多様な学習空間の利用方法があることを明確にした.さらにそれぞれの類型の特徴を指摘し,目的に応じた方法がとられるべきであることを指摘した.
著者
中橋 雄 大西 元之 岡野 貴誠 久保田 賢一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.21-24, 2006
被引用文献数
1

本研究は,ディジタルメディア表現能力を高めるために模倣学習を行うWeb動画教材の開発と評価・改善プロセスについて報告するものである.先行研究の学習モデルに基づき,実際にDTP実習を支援する学習環境を開発した.その評価プロセスから,学習者が一人で模倣学習を完遂するために,システム面で改善すべき機能が明らかとなった.それらの機能を実装した結果,学習者が一人で模倣学習を完遂できるレベルに教材の質を高めることができた.ただし,学習者の個人差に配慮するべきいくつかの課題は残された.
著者
戸井 敦子 牟田 博光
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.23-32, 2008

学校は単に建設されただけではなく,生徒が就学し,良質な教育が提供される揚となって初めて本来の機能を果たしていると言える.日本はODA事業により,1996年からの3年間,インドネシアの12州という広範囲に,596もの中学校を新たに建築した.本研究は,新設された学校がリソースの限られたインドネシアにおいて,順調に機能しているかを検証するとともに,新設校の教育成果の向上に影響を及ぼす教育環境要因について明らかにすることを試みた.
著者
川上 綾子 秋山 良介
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.109-112, 2006
参考文献数
7
被引用文献数
1

授業の計画・実施・評価の各段階における教師の行為(教授スキル)に対する重要度の評価について教師及び教職志望学生を対象に調査し,授業経験によるその違いを検討した.調査の結果,「1.個々の子どもへの対応」「2.授業中の学習活動の指示と評価」「3.授業評価」「4.学習方法の計画」「5.目標の設定と効果的達成」「6.話し方」「7.教材研究」の7因子が見いだされた.それらについて学生と教師の比較を行ったところ第2因子と第5因子で因子得点に差が認められた.また,教育実習経験と教職経験年数に基づくさらに詳細な比較では,第1因子,第2因子,第5因子で授業経験による違いが見いだされた.
著者
牧野 由香里
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.89-98, 2004
参考文献数
9
被引用文献数
5

本研究は,論理構築力とメディア活用能力の分析を中心に,グループ学習(スピーチ演習カリキュラム)の学習者一人一人に対する効果について考察する.関西大学の外国人留学生を対象とした実施(2002年〜2003年の計2回)における分析から,グループ学習の成果として,論理構築力の向上が確認できた.ただし,この効果について,(1)使用言語(第一言語/第二言語),(2)言語運用能力(日本語能力レベル),(3)学習環境(対面授業/オンライン学習)との関係性は確認できなかった.このことから,グループ学習の効果(ここでは論理構築力の向上)は,学習者のメディア活用能力に必ずしも依存しないことが示唆された.
著者
清水 康敬 高比良 美詠子 高津 直己 新井 健一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.357-367, 2012
参考文献数
13
被引用文献数
1

画面の大きさと映像内容が同一の2台のディスプレイ(ハイビジョンと従来のテレビ映像)を並べて置き,幼稚園に通う3〜5歳児に提示した.その際の幼児の自主的な行動(どちらのディスプレイに近づいていくか)を観察すると共に,2台のディスプレイに対する好みと,選好理由を口頭で報告させた.その結果,いずれの年齢の幼児も,ハイビジョン側に近づいて映像を視聴しており,ハイビジョンの方をより好んだ.また,年齢の上昇に伴い,選好理由としてハイビジョン映像の良さを挙げる幼児が増加した.
著者
安藤 雅洋 植野 真臣
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.109-123, 2011
参考文献数
23

本論では,eラーニングにおけるタブレットPCの効果について,人間の情報処理モデル「デュアル・チャンネル・モデル」に基づいて分析を行った.具体的には,eラーニングでの書込みに用いられる入力デバイスに,紙媒体,キーボード,ペンタブレット,タブレットPCを用意し,アイマークレコーダで学習者の注視点を測定し,記憶・理解テスト,アンケート調査およびメモ書きの評価により,各デバイスの評価を行った.その結果,タブレットPCを用いたeラーニングでは,1)書込みにかかる外的認知負荷が少ない,2)ナレーションと同期してコンテンツに注視しやすい,3)学習者の理解,記憶保持が高い,4)メモ書きが効率的に行え,学習メモとしての正確性も高い,ことがわかった.
著者
山室 公司 久保田 賢一
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.1-4, 2010
参考文献数
11
被引用文献数
2

本研究の目的は,教育工学の研究方法と研究対象について分析し,今後の研究の方向性を展望することである.2003年度から2008年度まで6カ年分の「日本教育工学会論文誌」に記載された論文を対象に研究方法と研究対象について分析を加えた.研究方法に関しては,量的研究法が約4分の3を占めていた.質的研究法のデータ収集法としてはインタビューが多用され,量的・質的両方を併用している研究もある.研究対象の校種別では高等教育が6割以上を占めている.量的研究の場合は被験者が学習者である研究が多く,校種は万遍なく分散しているが,質的研究の場合は研究対象が教授者もしくは高等教育の学習者に偏在していることなどが明らかになった.
著者
三宮 真智子
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.173-176, 2008
参考文献数
6
被引用文献数
1

本報告では,中学生から大学生までを対象としたコミュニケーション教育の授業を考えるための基礎資料として,トラブルを誘発する誤解に焦点を当てた.まず,実態を把握するために,トラブルを招いた誤解についての事例を収集・分析した.結果として受け手のネガティブ感情を喚起したり,受け手や送り手の不都合・損失を招来したりする誤解は,省略語の非共有,語意の非共有,含意の非共有が原因であり,また,誤解の背景にはさまざまな個人的事情や人間関係が関与していた.こうした結果をふまえ,コミュニケーションの失敗事例分析法を活用した,トラブルを予防・解消するための授業の提案を行った.
著者
金森 克浩 小林 巌
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.9-12, 2006

障害のある子どもたちへの教育的支援として,アシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology:以下,ATと示す)の活用の有効性が指摘されており,養護学校の地域支援の充実のために条件整備が求められている.本研究では,都内の肢体不自由養護学校を対象としてATの普及状況に関する質問紙調査を行った.その結果,ATを扱う分掌が設置されている学校が多いものの,AT活用の充実のためにはより組織的な取り組みの必要性が示された.望ましい情報源としてWebが期待されており,これを用いたわかりやすい情報提供が有効であると推察された.
著者
尾澤 重知 望月 俊男 江木 啓訓 國藤 進
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.281-294, 2005
参考文献数
27
被引用文献数
7

高等教育の授業実践において, グループの協調的な研究活動の再吟味(リフレクション)の支援方法の検討を目的としたデザイン実験を3年間実施した.本研究では, 学期半ばに各グループに対して行った学生アシスタントの形成的な評価のフィードバック(初年次), もしくはグループ間の相互評価とその結果のフィードバック(2∿3年次)が, 各グループの研究活動に与えた効果を検討する.その結果, グループ間の相互評価の方がアシスタントによる評価のフィードバックよりも研究活動に影響を与えうることや, 約半数のグループが外部からの評価を取り入れながら「研究対象」「研究方法」「研究目的」「発表形態」についての再吟味を行い, 研究内容の質的向上を図っていることが示された.また, 再吟味が生じにくい条件についても示唆が得られた.
著者
八重 樫文 望月 俊男 加藤 浩 西森 年寿 永盛 祐介 藤田 忍
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.193-196, 2008
被引用文献数
1

高等教育のPBLにおいて,学生が授業時間外の分散環境でも,クラス全体および他グループの活動を意識して,グループ作業を円滑に進めるために,これまでに筆者らが開発してきたPBL支援グループウェアに実装する新機能を設計した.新機能には,常に他者の作業の様子が見え,他者間の会話が自然に聞こえてくるという特徴を持つ,美術大学のデザイン教育における「工房・スタジオ的学習空間」の要素を取り入れた.これを大学授業で利用したところ,学習者に対し,他グループから常に見られていることで自グループの作業への意識を高め,自分の作業の調整を促進する効果が示された.
著者
加藤 尚吾 古屋 雅康 赤堀 侃司
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1-14, 2004
参考文献数
25
被引用文献数
8

不登校児童生徒11名を対象に,電子メールカウンセリングを実施し,実施前と後で不登校状態を比較したところ,ほぼすべての児童生徒に改善がみられた.そこで,電子メールカウンセリングが不登校状態の改善に果たした役割を検討した.児童生徒が送信した電子メール文の内容分析の結果,改善の大きかった児童生徒の電子メール文中の「学校・学習関連」,「友達関連」語が,改善の小さかった児童生徒よりも多かった.また,それらは前半に送信した電子メールに比べ,後半に送信した電子メール文中により多かった.保護者へのアンケート及びカウンセラーヘのインタビューから,電子メールカウンセリングのための家庭へのパソコンの導入が家族の共通の話題を生み,家庭内のコミュニケーションが増加したことが分かった.また,インターネットを使って興味の対象を深く調べたり,パソコンを使って自己表現をしたりと,児童生徒の活動方法が広かったことが分かった.
著者
深見 俊崇
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.201-204, 2009
参考文献数
6

授業を受ける側であった教員志望学生が,カリキュラムについていかなるイメージを抱いており,教職科目「教育課程論」の講義を通してそれらがどのように変容するかについて,彼らのカリキュラムに関するメタファーから検討した.第1回と第14回での受講者の作成したカリキュラムに関するメタファーを3つのカテゴリー(「義務・固定性」「編成・柔軟性」)「マクロ・複雑性」)に分類したところ,第1回では,「義務・固定性」の回答者が大半を占めていた.講義後においては,「編成・柔軟性」「マクロ・複雑性」の回答者が増加することが確認された.
著者
松村 敦 岡本 穂高 宇陀 則彦
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.93-96, 2010
被引用文献数
2

本研究では,子どもの視点を考慮した絵本推薦システム構築のための基礎的準備として,子どもの好みと絵本の主題との関係性を捉える方法を検討した.実際に,34組の親子による絵本の読み聞かせ場面をビデオで撮影し,子どもの反応を記録した.次に,ビデオを分析し,反応の強弱によって子どもに好まれる絵本のページを特定した.最後に,各ページの主題を抽出し,子どもの好みと主題との関係性を分析した.その結果,21.4%のページには反応がなく子どもの好みとは無関係であることを示した.また,ページ毎に子どもの好みと主題とを結びつけて分析することで,より詳細な関係性を捉えられる可能性を示した.
著者
室井 みや 石井 恒生
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.213-216, 2006

コンピュータおよびインターネット技術が発展する中で,大学生が日常的にインターネット,図書館,新聞,テレビなどをどのように活用し,情報収集を行うのか,その傾向について質問紙を用いて調査を行い,検討した.その結果,社会の出来事や,授業の課題および趣味に関して,テレビ,インターネットが主要な情報源となっているが,新聞,雑誌,図書館なども状況に応じて利用されていることが示された.このように,大学生は必要に応じ,インターネットなどの新技術を活用できているが,さらに新聞,雑誌,図書館などの従来から活用されてきた方法についても十分に活用できるように工夫する必要があることが示された.
著者
新開 純子 宮地 功
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学会論文誌 (ISSN:13498290)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.129-132, 2011

アルゴリズム教育において,アルゴリズムの原理を理解することも重要であるが,その原理をプログラムとして実現することも重要である.そこで,ソートアルゴリズムを題材にして,アルゴリズムの原理を理解し,さらにプログラム化するためのアルゴリズム構築能力を育成するために,手作業による体験的なアルゴリズム教育を実践した.実践後のアンケート等の調査より,アルゴリズムを作成するカが有意に向上することがわかった.