著者
川上 恵治
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E1107, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】前頭葉損傷患者では自発性や意欲の低下、行動開始の遅延、衝動コントロールの不良などを伴うことが多く、これらの付加要因があるとリハビリテーションにのりにくい。今回、既往歴に小脳出血がある前頭葉症状を呈した症例を担当し、前頭葉症状の中核となる遂行機能障害に対し問題解決療法なる段階的教示を実施したところただちに改善が見られたが、その後拒否と易怒性のために理学療法実施が困難となった。認知症の辺縁症状を考慮して理学療法を実施した結果、著名な改善が見られた症例を経験したので報告する。【症例】62歳男性。介護老人福祉施設入所中平成18年6月14日熱発、6月19日誤嚥性肺炎で当院入院し絶食と補液。6月30日肺炎軽快。7月31日理学療法開始。既往歴は32歳腹膜炎、高血圧症、52歳小脳出血手術、多発性脳梗塞、高血圧症、平成18年1月腸閉塞。【初期評価】把握反射は両手陽性。動きは拙劣。左半身低緊張。体幹の立ち直り反応なし。意識清明。HDS-R6点。発語少ない。寝具に包まれ臥床している。寝返り、移乗動作全介助。端座位は左へ傾き立ち直ろうとせず。車椅子座位は左へ傾き背あてに押し付けている。食事動作全介助、排泄オムツ。問題点;1発動性の低下、2起居動作全介助、3食事動作全介助。ゴール:車椅子の生活、食事・トイレ動作の介助量の軽減。プログラム:1起居動作訓練、2食事動作訓練。【経過】段階的教示法に基づき動作を誘導した。起座は手すりを把持し軽介助。座位は口頭指示にて右へ重心移動可となり保持可能となった。車椅子座位は傾き、背もたれへの押し付けが減った。平行棒は介助にて1往復可能となった。食事動作は自力摂取可となったが、気が向かないと自力摂取せず、スプーンを持たせると拒否し怒った。同じように起居動作訓練も拒否し怒り実施困難となった。拒否されないように接し方を変え、一方的に誘導するのでなく本人の了解を一つ一つ得ながら実施した。その結果、拒否や暴言はなくなり訓練が可能となり食事も自力摂取するようになった。【退院時評価】拒否、易怒性が見られなくなり、食事動作は自力摂取となった。自発語が増加した。姿勢の傾きは減り体幹が安定してきた。排泄動作は訴えがなく実施できなかった。問題点:1発動性の低下、2起居動作要助、3排泄オムツ。【考察】認知症の評価は機能や生活上の問題点だけを課題抽出するのではなく、本人の能力や・願望・好みといった「したいこと」や「できること」をアセスメントする事であり、拒否や暴言は認知症の辺縁症状で、接し方により改善の可能性があると言われる。症例に対し評価の視点、接し方を変えることにより、辺縁症状が改善し理学療法の実施が可能となり効果が表れたと考える。
著者
足立 直之 坂井 健一郎 山本 絵理香 加藤 浩
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0986, 2007 (Released:2007-05-09)

【緒言】本研究の目的は,足部の筋緊張を高めた歩行が,足関節より近位の膝関節,股関節,及び体幹筋群へ及ぼす影響を動的表面筋電図解析の視点から検討することである.【対象】対象者は過去に上下肢及び体幹に機能障害の既往歴を有さない健常男性19例(平均年齢:21.9±0.9歳,平均身長:168.8±4.4cm,平均体重:61.6±5.6kg)であった.また,全例には研究の目的を説明し同意を得た.【方法】表面筋電計は,TELEMYO 2400T(NORAXON社製)を使用し,被験筋は,脊柱起立筋,外腹斜筋,腹直筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,大腿直筋,内側広筋,外側ハムストリングス,内側ハムストリングス,前脛骨筋,内側腓腹筋,内側ヒラメ筋とした.自由歩行及び,右側の母趾と第2趾間の付け根にパッドを挟んだ歩行(以下,パッド歩行),最大随意収縮の各筋活動を測定した.統計学的処理は,1標本t検定を用い,自由歩行とパッド歩行との%IEMGの差を検定した.【結果】パッド歩行時の筋緊張の有意な高まりは,全歩行周期において多関節筋が単関節筋に比べ多く認められた.また,遊脚相が立脚相に比べ多く認められた.筋緊張の有意な高まりは,歩行周期の0~6%で内側ヒラメ筋,前脛骨筋,内側ハムストリングス,大腿直筋,大腿筋膜張筋,外腹斜筋,脊柱起立筋,88~92%で内側ヒラメ筋,前脛骨筋,内側広筋,大腿筋膜張筋,外腹斜筋,腹直筋において下肢遠位筋群から体幹筋群までの連鎖が認められた.前脛骨筋の筋緊張の有意な高まりは,歩行周期の大部分で認められた.【考察】パッド歩行では,自由歩行時と比べ筋緊張の高まりが足部から体幹まで連鎖しており,協同して筋緊張が高まっていた筋も認められた.そこで本研究では立脚相と遊脚相に分けて,運動連鎖の特徴を検討した.立脚相は下肢遠位部が床で固定されている状態であるため,運動連鎖の視点から見るとCKCである.CKCは多関節運動,協同運動を行い,運動連鎖を引き起こすため,足部の状態によって,足関節より近位の関節筋群にも影響を及ぼすと考えられる.正常歩行では,遊脚相は下肢遠位部が固定されておらず,自由に運動ができるため,運動連鎖の視点から見るとOKCの状態である.しかし,パッド歩行では,足部の筋緊張が高まったため,下肢遠位部の自由が阻害され,CKCに近い状態になったと考えられる.つまり,足部で高まった筋緊張は,膝関節,股関節及び体幹筋群に運動連鎖を生じさせたと考えられる.臨床において,下肢遠位部の筋緊張が高い患者は,遊脚相では常にCKCの状態である可能性が考えられる.
著者
杉山 幸一 伊藤 浩充 木田 晃弘 大久保 吏司 瀧口 耕平 黒田 良祐 水野 清典 黒坂 昌弘
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1262, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】膝屈曲筋である大腿二頭筋は下腿の外旋、半膜様筋と半腱様筋は下腿の内旋作用を有している。これら3筋はそれぞれ2関節筋であるが、大腿二頭筋と半膜様筋は羽状筋であり、半腱様筋(以下ST)は紡錘筋であるように機能解剖学的に異なっている。本研究では、下腿回旋によって屈曲トルクとSTの収縮動態に影響を及ぼすのかどうかを明らかにすることを目的とした。【対象と方法】対象は膝周囲に外傷および障害の経験を有さない健常な成人8名(男性6名、女性2名、平均年齢21.3±0.89歳)16肢とした。膝関節等尺性屈曲トルクを腹臥位で測定した。膝屈曲角度は30度、60度、90度とし、下腿肢位を最大内旋位と最大外旋位で行った。収縮時間は20秒、間隔は40秒とし、最大トルク値を記録した。同時に超音波画像診断装置を使用して、ST腱画の最大水平移動量を測定した。測定値については、腱画移動量は大腿長で除して腱画移動率(以下SR)を求め、屈曲トルクを60度および90度の各トルクを30度の屈曲トルクで除してトルク率(以下TR)を求めた。統計処理にはJMP5.1Jを使用し、反復測定2元配置分散分析と対応のあるt検定を用いた。また、SRとTRとの関連についてはPearsonの相関係数を求めた。統計学的有意水準は5%未満とした。なお、ヘルシンキ宣言に基づき、被検者には書面ならびに口頭にて研究協力への同意を得た上で研究を実施した。【結果】ST腱の収縮動態からは、膝屈曲角度増加によるSRの有意な増加を認め、また30度と60度、30度と90度との間で有意差を認めた。さらに、SRは全ての角度において内旋位に比して外旋位で有意に低値を示した。一方、膝屈曲トルクは膝屈曲角度増加と共に有意な減少を示したが、下腿の内旋位と外旋位との比較では有意差はなかった。一方、TRについては、90度において内旋位と比較して外旋位で有意に高値を示した。SRとTRとの相関関係については、下腿内旋位では30度SRと90度TRとの間、外旋位では全SRと90度TRとの間に有意な負の相関関係が認められた。(r=-0.55~-0.67)【考察】膝角度の増加によりSRが増加したことと、SRとTRとの間に相関関係が認められ外旋位で顕著であったことより、STの静止張力の低下が深屈曲位でのトルク低下に影響していると考えられた。しかも、下腿内旋位と外旋位でのSR差はこの傾向が顕著に表れたものと考えられた。一方、SRのこのような動態の下腿回旋位の違いによる膝屈曲トルクへの影響は少なかったと考えられた。膝屈曲角度90度においてTRが下腿内旋位よりも外旋位の方が有意な高値を示したことは大腿二頭筋の活動優位性か、もしくは下腿外旋によるST張力増大を伴ったトルク増加が考えられるが、これらのことについては更なる検討が必要である。
著者
中村 浩明 岡本 高志 山本 友紀 加藤 太郎 五十嵐 進 伊藤 大起 古野 薫 横井 秋夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0998, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】顎関節症患者の顎関節だけを一時的にアプローチしても、また症状が元に戻ってしまうことを多く経験する。今回、顎関節に疼痛、違和感を訴えている患者を、疼痛増強主訴である歩行から関連を捉え、足部からのアプローチを行い、良い結果が得られたので報告する。【症例紹介】26歳、男性。理学療法士。診断名:左顎関節症、変形性頚椎症。18歳頃より左顎関節に違和感出現。25歳に総合格闘技で、右足部にアンクルホールドを極められ左顎関節症状が悪化。その後、全身体調不良となった。主訴は、口を開けるとクリック音がして痛い。左顎が常に重だるく違和感がある。よく顎を鳴らしたくなる。両足首に不安定感があり歩行中、歩行後に全身に違和感、疲れやすさがあるとの事であった。【理学療法評価および治療】Passenger Unitへアプローチを座位から行い、顎関節へのメカニカルストレス軽減を狙ったが、歩行するとLocomotor Unitの不安定性から身体が崩れてしまう傾向があり、良い治療結果が残せなかった。特に本症例の場合、疼痛、違和感が増強するという訴えは、歩行時のLoading Response~Mid Stance、Mid Stance~Terminal Stanceにかけて著名であった。Loading Response~Mid Stanceでは距骨下関節が過回内し、Ankle Rocker機構機能不全、また、Mid Stance~Terminal Stanceでは横足根関節が過外反しForefoot Rocker機構機能不全の状態がみられた。その機能不全状態を、足部からのテーピングにより各Rocker機構が機能的に作用する環境に整えた。【結果】テーピング後は、下顎が真っ直ぐ下制するようになり、顎関節の疼痛、違和感の消失。開閉の最終時の左顎関節のクリック音が消失した。歩行時も前方への推進力が発揮できるようになり、全身状態も楽であるとのことであった。【考察】歩行時に違和感を訴えたLoading Response~Mid Stance、Mid Stance~Terminal Stanceは、荷重期の特に下肢の支持性、推進力の維持、下肢と体幹の支持性が必要な相である。これらの相に必要な骨での支持は、足部ではRocker機構の事を指し、身体のアライメント、軸の形成には不可欠であると考えられた。各相でLocomotor Unit、または、Locomotor UnitとPassenger Unitのアライメント、軸形成を足部から同時に図ったことにより、顎関節へのメカニカルストレスは開放され疼痛、違和感が消失したと考えられた。【まとめ】顎関節症患者を足部からコントロールし、姿勢アプローチをした。特に主訴であった歩行時の足部Rocker機構に注目してアプローチを行なった。軸の形成は、各々の組織が、分化的に働けるような環境を作る意味で重要であると考えられた。
著者
浅井 友詞 田中 千陽 馬渕 良生 佐久間 英輔 曽爾 彊
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0502, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】長期臥床による筋萎縮の研究は古くから行われ、筋力に関する研究では、1週間の臥床により10から15%、3~5週間では50%低下するといわれている。また、立野らはマウスの後肢懸垂モデルにて2週間で筋の湿重量が20%減少したと報告している。こうした量的な研究から最近では質的な検討がなされてきたが多くは動物実験である。我々は第41回本学会で献体された2症例より、入院期間の違いによる筋萎縮の変化を肉眼的観察および筋組織の横断面より検討し報告した。そこで今回は筋組織の縦断面からの情報を加え検討したので報告する。【第1報の要旨】短期(4日)および長期入院(4ヵ月半)中、肺炎にて死亡した2症例の肉眼的観察にて長期入院例の下腿三頭筋に高度の筋萎縮がみられ、扁平化していた。組織学的にも細胞間の結合組織が増加すると共に筋細胞は減少し、細胞の形態は極度に萎縮していた。【症例】症例1: 死亡時年齢90歳・女性・身長約145cm・死因;急性胆のう炎にて4日間入院中、誤嚥性肺炎にて急死。症例2: 死亡時年齢92歳・女性・身長約145cm・死因;4ヶ月半入院中、肺炎にて死亡。【肉眼的観察】症例2は、下肢筋の強度な筋萎縮と共に、大体外側の腸脛靭帯から膝関節下部外側の付着部までの軟部組織に緊張がみられ、柔軟性の低下から膝関節に屈曲拘縮が推測できる。このことより歩行困難となり、臥床を強いられていたことが予測できる。岡崎によると安静臥床後6週間で、下腿三頭筋の筋力低下は他筋と比較して特に大きいと報告され、今回の症例2の筋萎縮と同様の症状である。【組織学的観察】本献体はホルマリン固定にて保存され、肉眼解剖時に上腕二頭筋・大腿四頭筋・腓腹筋・ヒラメ筋を採取した。標本はホルマリン固定後、定法にてパラフィン包埋をした。その後、5μmで薄切片を作成し、ヘマトキシリン・エオジン染色した縦断面を光学顕微鏡にて観察した。症例1では、各筋において筋線維の形状が保たれ、線維間は、結合組織で隔壁され、密集した縦方向への筋線維が観察された。一方、症例2では不規則な筋線維の配列間に多量の結合組織を観察した。また、筋線維数の著明な減少がみられ、結合組織中には多くの核が点在していた。今回観察された症例2の廃用性の変化は、筋線維数の減少のみならず、結合組織の増加など退行性変化が強く認められ、筋の伸縮性低下より理学療法の阻害因子となり得ると思われる。【まとめ】今回献体より入院期間の違いによる筋の変化について検討し、長期入院者では筋細胞間に結合組織が増加し、筋機能の低下が示唆された。
著者
柿崎 藤泰 根本 伸洋 角本 貴彦 山﨑 敦 仲保 徹 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0312, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹の運動機能を評価する過程で、骨盤との運動連鎖に注目した評価は重要であり、臨床でも良く行われる評価であると考える。しかし、体幹機能の評価で、肋骨の分節的な評価や、他の分節との運動連鎖を観察する一般的な評価はあまりにも少ない。呼吸器疾患をはじめ、他の運動器疾患でもより効果的な理学療法治療を展開するうえで、体幹の運動機能を障害するファクターとしてなりうる胸郭運動の病態把握は重要であると考えている。今回我々は、体幹の複合動作である回旋運動に着目し、胸郭の歪みを形成する肋骨の動きを検討したので報告する。【方法】対象は特に整形外科的疾患をもたない健常成人10名(男性9名、女性1名)で、平均年齢は25.2±3.9歳であった。 計測はzebris社製の CMS20S Measuring system を用いた。マーカーポインターにより測定した部位は、両側肩峰部、両側上前腸骨棘、胸骨柄、剣状突起下端部、第1、3、7、12胸椎棘突起部の各部分であった。各部位の測定では、部分の凹凸に対し、最も陥没している部位、または最も突出している頂点部分にポイントするよう注意を払った。被験者には両手を頭の後に組んだ状態で、40cmの椅子に座ってもらった。静止座位と体幹回旋位で2回の測定が行われた。体幹回旋角度の規定は特に設定せず、骨盤中間位にて、上半身のみの回旋運動で、無理なく運動が遂行できるところまでとし、被験者の任意の角度で測定した。肋骨の動きは、胸骨の長軸を通る直線と第1から第3胸椎、第3から第7胸椎、第7から第12胸椎の各々を結ぶ直線とを前額面上で投影させ、その2直線の交差する角度で判定した。【結果】胸骨長軸直線と各々の胸椎直線との間に、共通した関係はみられなかった。しかし、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線とを投影する角度が、安静座位で2度未満(平行状態に近い)のものが5例、安静座位の時点ですでに4度以上の角度で交差しているものが5例いた。4度以上の5例では、安静時に比べ、回旋位での2直線の角度が全例で減少した。また、対照的に2度未満の5例では、安静時に比べ回旋位での2直線の角度が全例で増加した。そして、2度未満の5例の任意の平均回旋角は4度以上の5例に比較し、より大きな値を示した。【考察】今回の検討にて、胸骨長軸直線と胸椎の各文節との間には明確な関係はみられなかったが、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線との正中化が得られている場合、胸郭形態を無理なく歪ませることのできる機能を有しており、そのことは体幹の回旋運動に有利な条件となることが示唆された。理由として、肋間筋の体幹の回旋作用を指摘する報告もあり、予め胸郭形状に変化が生じている場合、肋間筋の長さにも影響を及ぼし、回旋動作障害に起因する可能性もあること、また第3-7胸椎の中間的役割としての機能が低下することなどが考えられる。
著者
寺田 勝彦 藤田 修平 田端 洋貴 脇野 昌司 松本 美里 辻本 晴俊 菊池 啓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1304, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】ヒトの直立二足立位・歩行を獲得するには,ヒト上科に属するチンパンジーなどの霊長類モデルとの機能形態比較や,central pattern generator(CPG)を考える必要がある.今回,それらの観点からの介入法により,歩行機能を再獲得した症例について報告する.【症例】37歳,女性.既往歴:34歳の時にTh11脊髄出血.PT介入により,自立歩行獲得.36歳の時に坐位姿勢不良,立位保持・歩行は不可能となる.介助した立位姿勢は,頭部を前方へ突き出し,躯幹上部を前屈させ,両肩甲帯挙上・後退,上肢外転,股・膝屈曲した霊長類の立位postural synergy(PS)を取る.本院の神経内科病棟に入院となるが,CT・MRIの画像診断,神経伝導速度,血液・生化学検査で異常は認められなかった.なお,本症例には公表する旨を伝え,同意を得た.【PT評価および介入】原始的立位PSと姿勢筋トーヌスおよび神経テンションテスト,神経・筋の触診から,副神経,肩甲背神経,長胸神経,胸背神経,肋間神経,腸骨下腹神経,閉鎖神経,坐骨神経,大腿神経,総腓骨神経,脛骨神経および橈骨神経,正中神経,尺骨神経の神経緊張の増大とmobilityの低下が認められた.また端坐位姿勢から,CPGが賦活されにくい脊髄動力学の異常が観察された.そのために,霊長類モデルのナックル姿勢・歩行,垂直木登りのPS・MSとの機能形態や神経・筋比較から,ヒトの歩行機能の獲得に必要な介入法を模索した.先ず神経モビライゼーションの導入と脊髄動力学の改善をヒトの正常発達の順序性に則した肢位と正座・胡坐で施行し,それらのPSを獲得し直立二足立位PSに繋げた.次にステップ肢位でのPSを獲得し,歩行のmovement synergy(MS)に繋げた.神経モビライゼーションの手技は,バトラーの手技で対応できる方法はそれに準じた.手技の無い体幹の神経である肋間神経,腸骨下腹神経は水平かつ後方に,副神経・長胸神経・胸背神経は中枢から末梢に向かって動かした.それらの神経との繋がりが強い神経系は,相互にテンションを高め走行に沿って上から圧を加えた.脊髄動力学の改善は,Louisの報告を基に行った.またステップ肢位は,前下肢を足関節背屈位とした.【結果】PT施行前は坐位・立位保持,独歩不可能であるが,施行後は安定した坐位・立位姿勢保持可,ロフストランド杖歩行20m可,独歩も5m程度であるが可能となる.【考察】原始的な立位PSが優位な症例では,ヒトの直立二足立位・歩行は獲得されない.今回の介入法により,原始的PSを誘発する神経系の緊張の軽減とmobilityの改善および脊髄動力学の改善を得ることで,腰椎前弯を呈した直立二足立位PSが可能となった.更にステップ肢位でのPS獲得により,flexion reflex afferents(FRA)からの求心性情報が,CPGを構成する介在ニューロン網の活動を高め,多シナプス性に左右下肢の屈筋と伸筋の律動的な活動を生み出し, ヒトの歩行MSが再獲得された.
著者
村上 仁之 渡邉 修 来間 弘展 松田 雅弘 津吹 桃子 妹尾 淳史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0561, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】近年,PETや機能的MRIなどのイメージング技術により,随意運動や認知活動の脳内機構が明らかにされている.しかし,随意運動遂行中に密接に関連する触覚認知の脳内機構に焦点化した研究は極めて少ない.触覚認知がどのように行われ,どのように学習されるのかを明らかにすることは,脳損傷後の理学療法の治療戦略を立てる際に,重要な示唆を与えると考えられる.そこで本研究は,触識別時の脳内機構および学習の影響を明らかにすることを目的に,機能的MRIを用いて麻雀牌を題材として,初心者と熟練者を対象に,触識別に関する脳内神経活動を感覚運動野(sensorimotor cortex: 以下,SMC)と小脳に焦点化して定量的,定性的に分析を行った.【対象】対象者は健常者16名である.内訳は,麻雀経験のない初心者が10名(対照群)と、5年以上の麻雀経験を持ち,母指掌側のみで牌を識別できる熟練者6名(熟練者群)である.【方法】GE社製1.5T臨床用MR装置を用いて,閉眼にて利き手母指掌側での麻雀牌の触知覚時および触識別時の脳内神経活動の測定を行った.データ解析はSPM99を用い,得られた画像データを位置補正,標準化,平滑化を行い,有意水準95%以上を持って賦活領域とした.加えて,両群間の差の検定をt‐検定を用いて分析した.【結果】対象者16名中,触知覚時では,対側SMCが14名で賦活した.さらに触識別時では,SMCの賦活のなかった2例を加えた16名で,SMCの賦活領域の増大を確認した.加えて,同側SMCが12名と同側小脳が11名の賦活を認めた.また,全脳賦活領域をボクセル数として定量化した平均値は,対照群は触知覚時467.0ボクセル,触識別時4193.0ボクセル,熟練者群は触知覚時408.5ボクセル,触識別時2201.8ボクセルであった.両群とも触知覚時に比べ,触識別時では有意に増加した.また熟練者群は対照群に比べ,触識別時に全脳賦活領域が有意に減少した.【考察】触知覚時は,対側SMCの賦活が認められ,触識別時は,対側SMCだけでなく,さらに同側SMC,小脳でも賦活が認められた.つまり,単なる触知覚に比べ,触識別という認知活動時には,両側SMCや小脳などの広い領域が関与していると考えられる.しかし,熟練者においては,全脳賦活領域が減少し,限局したことから,“学習”により,全脳賦活領域の縮小,限局をもたらすことが示唆された.触識別という認知的要素が脳内機構として明確化され,学習により縮小,限局するという脳内の可塑的現象は,脳損傷者に対する理学療法において,認知的要素が中枢神経系になんらかの影響を及ぼす可能性を示唆しているではないかと考えられる.
著者
藤井 亮嗣 井舟 正秀 石渡 利浩 上口 絵美 川北 慎一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B1315, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】低酸素脳症は、窒息・呼吸不全・心不全などの種々の原因により発症し、運動障害、構音・嚥下障害、高次脳機能障害を生じる。今回、心室細動により低酸素脳症を発症した患者の理学療法を経験したので報告する。【症例紹介】61才男性、平成17年3月呼吸停止・心室細動の状態でT病搬送される。すぐに蘇生し自発呼吸を認めるが低酸素脳症による意識障害JCS200を認めた。5月リハビリテーション(以下リハ)目的に当院へ転院、PT・OT・ST開始となる。【初期評価時】精神機能面:JCS3、失語、指示理解は不明。身体機能面:四肢麻痺Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)右上肢3手指2下肢2、左上肢4手指3下肢4。坐位保持困難、起居動作全介助。ADLはBarthel Index(以下BI)で0点、食事は経管栄養、排泄はおむつ内失禁。四肢ROMの維持、起居動作・移乗動作介助量軽減を目標にアプローチを行った。【経過】7月、坐位はポジショニングにて保持可能、起居動作・移乗動作中等度介助。右上下肢及び体幹に固縮様の筋緊張異常が認められ今後ROM制限が増悪しないよう注意を要した。ご家族に対して総合リハ実施計画書を説明し、今後の方針を相談した。キーパーソンは妻で今まで2人暮らしだったが長男夫婦がのちに同居予定。自宅退院するには身の回りのことがある程度できればという希望であった。8月上旬、急性冠症候群、呼吸停止状態にて発見される。ICUへ転室、異型狭心症と診断された。8月中旬リハ再開、身体機能及び能力に著変は認められなかった。12月、起き上がりは軽介助、いす座位は自立、移動は手つなぎ歩行。ADLはBIで30点、食事は時間がかかり介助が必要な状態であった。長男夫婦が同居することとなり、介護に協力してくれることとなる。正月外泊を行うにあたり、PT・OT・ST・NS・ケアで現状の能力の把握、必要な介助及び家族指導についてカンファレンスを行い各担当者で家族に対して介助方法の説明指導を行った。また家屋評価もPT・OT・ケア・MSWで行い、ご家族・建築業者と共に家屋改修について検討した。年末から年始にかけて外泊施行される。【退院時評価】精神機能面:指示理解の改善。身体機能面:BRS右上肢4手指4下肢4、左上肢5手指5下肢5。起居動作・移乗動作軽介助。ADLはBIにて35点、食事はほぼ自力摂取、排泄はオムツもしくは尿器で排泄、ほぼベット上の生活ではあるが平成18年3月下旬自宅退院となる。【まとめ】本症例では当初ご家族が希望された能力には至らなかった。しかし、各職種からの介助方法の指導、家屋改造等を行ったこと、息子夫婦の協力により、自宅介護が可能であることを認識してもらい、ご家族の希望より低いレベルではあったが自宅退院が可能となった。
著者
小西 貴 目島 直人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1254, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 日々の臨床で治療を展開していく際に局所に問題点をしぼらず,全身的に評価し治療していくことが重要であることはいうまでもない.筆者は慢性閉塞性肺疾患の対象者に仙腸関節の関節モビライゼーションを施行すると,酸素飽和度や胸郭の動きが改善し,呼吸苦が減少する場面に多々遭遇する.そこで今回,仙腸関節が呼吸機能の目安となる胸郭拡張差に及ぼす影響について検討し,若干の知見を得たので考察を踏まえて報告する.【対象と方法】 本研究の趣旨を十分に説明し,賛同を得た健常男性11名(平均年齢28±2.6歳)を対象とした. 方法としては次の通りである.まず,仙腸関節の関節モビライゼーション施行前後で最大吸気を行ってもらい胸郭拡張差を測定した.胸郭の周径は1.腋窩レベル,2.剣状突起レベル,3.第10肋骨レベルで計測した.仙腸関節モビライゼーションは左右の仙腸関節にうなずき運動,起き上がり運動を3回ずつ行った.以上の方法で得た胸郭拡張差を端坐位にてメジャーで計測して仙腸関節モビライゼーション前後の差を検出し,そのデータをt検定にて比較した.【結果】 被験者全員に腋窩レベル,剣状突起レベル,第10肋骨レベルで胸郭の拡張が認められた. 仙腸関節のモビライゼーション前後で上記1.~3.のレベルのそれぞれで胸郭拡張差の有意差が認められた(p<0.05).【考察】 仙骨のうなずき運動が生じると第5腰椎は伸展する.腰椎が伸展運動を起こすと横隔膜の腰椎部である右脚と左脚が下方へ伸張され,横隔膜全体は下方へ牽引される.よって,横隔膜の下降とそれに伴うドームの平坦化によって,胸郭の垂直径を増やす.また,横隔膜の下降によって,腹腔内容の圧縮,腹横筋のような伸張された腹筋群の他動的張力による腹腔内圧の上昇によって抵抗される.腹腔内圧の上昇は,下部肋骨を側方へ拡大させる.腹腔内圧の上昇によって一旦固定されると引き続いて生じる横隔膜の肋骨線維の収縮により下位と中位の肋骨が挙上される. また,仙骨の起き上がり運動により寛骨は外旋‐内転する.それに伴って,大腰筋は緩んだ状態となり,大腰筋と筋連結をもっている横隔膜も弛緩する. よって,仙骨のうなずき運動により横隔膜全体は下方へ牽引され,仙骨の起き上がり運動により弛緩が促されることになる.これは仙骨のうなずき‐起き上がり運動により横隔膜の収縮‐弛緩がスムーズに行われるようになっているのではないかと思われる.
著者
冨松 剛 西山 保弘 中園 貴志 松尾 啓太 内田 陽一朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.F1019, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】 交代浴は、温浴に冷浴が加わる部分浴であり、温熱および寒冷療法の相乗効果を備えている。交代浴は、慢性炎症症状、外傷性血腫の吸収に効果を認め、近年では複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状改善にも有効であると水関(1994)は報告している。我々は、温浴および冷水温の異なる交代浴を用い、その皮膚温変化について検討し若干の知見を得たので報告する。【方法】 対象は、研究に理解を得た健常成人ボランティア(男性5名、平均年齢28.5歳)。部分浴は、温浴および2つの交代浴を用い、右手のみを施行した。温浴は40°Cの温水に24分間浸した(以下、温浴)。交代浴は温水40°Cと冷水15°C(以下、15°C交代浴)、冷水5°C(以下、5°C交代浴)の2種類の冷水温を用いた。交代浴の浸水方法は水関らの方法に準じた(温水4分、冷水1分×4 最後は温水)。皮膚温測定は、サーモグラフィーTH3100(NEC三栄株式会社製)を使用し両側手背部中央の皮膚温を測定した。測定間隔は安静時、施行直後、15分、30分、45分、90分、120分、150分、180分後の計9回の皮膚温を測定した。サーモグラフィーの測定は日本サーモロジー学会のテクニカルガイドラインに準じた。統計処理は、paired t-test及び mann-Whitney U-testを行った。【結果】 右検側肢の平均皮膚温の変化について、温浴は施行直後、皮膚温が上昇し、交代浴はいずれも下降した。2つの交代浴は120分を経過すると180分まで、いずれも低下した皮膚温が回復傾向を示した。左非検側肢の平均皮膚温の変化は、どの部分浴も施行直後に皮膚温は低下した。しかしその後、検側肢に同調した皮膚温の回復変化を示した。特に15°C交代浴はその傾向が強く観察されました。統計学的には、安静時に対する各皮膚温の有意差は認められなかった。【考察】 交代浴は、温熱による血管拡張効果に寒冷療法の一次的血管収縮と二次的血管拡張の作用が重複することが考えられる。非検側肢の影響については、三崎は体性-交感神経反射が関与し両側に出現すると述べている。また、施行後低下した皮膚温は、180分以上をかけて緩やかに反応し、回復傾向を見せた。【まとめ】 冷水温の異なる交代浴の皮膚温変化を検側肢及び非検側肢に渡り検討した。温浴に比べ皮膚温の回復は、交代浴が長時間作用していた。
著者
平川 善之 上堀内 三恵 山崎 登志也 宮前 雄治 高橋 精一郎 甲斐 悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0313, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】安定した姿勢制御には下部体幹筋群・股関節周囲筋群の協調性が重要とされている。臨床においては、腹筋のトレーニング後に運動中の姿勢が安定することを経験する。しかし体幹筋の筋力トレーニングが股関節周囲筋に与える影響は不明である。そのため、下部体幹筋のトレーニング前後の筋活動を比較することで股関節周囲筋に与える影響を調べることを目的とした。【対象】健常男性21名。平均年齢26.6±3.7歳 平均身長172.4±5.8cm 平均体重63.7±5.9kg。【方法】一側下肢を側方へ踏み出す動作にて、下部腹筋と股関節周囲筋の筋活動を記録した。そして片側の内腹斜筋のみトレーニングを行い、その後同様の動作中の筋活動を記録した。測定動作は肩幅大の開脚立位より、検査側の側方へ20cm踏み出し、80%荷重後元に戻った。荷重量はツイングラビコーダー(アニマ株式会社)を用いてフィードバックした。またFoot switch EM434(Noraxon社)を同期させ、検査側の接踵・離踵を判断した。筋活動は表面筋電図Tele Myo2400(Noraxon社)で記録した。被験筋は、検査側の内腹斜筋・大殿筋・中殿筋・内転筋と、先行研究にて左右方向の動きを制御するとされる反対側の内腹斜筋・内転筋とした。筋力トレーニングはEMGフィードバックをしながら、内腹斜筋以外の筋収縮がないよう注意しつつ行った。その後、十分な休憩を取った。筋活動の比較は、各筋の筋活動を最大筋活動で除して%MVCを求め、トレーニング前後で1:筋活動量の比較(検査側の接踵から離踵までの%MVCを比較)と2:筋活動増加時期の比較(接踵時を基準時とし、その前後を50ms毎に10区間に区切り各区間内で%MVCを比較)をした。統計処理はWilcoxon符号付順位検定を用い、危険率5%未満を有意とした。【結果】筋活動量の比較では、検査側の内腹斜筋及び対側の内転筋で、トレーニング後に有意に大きくなる傾向があった。筋活動増加時期の比較では、内腹斜筋、中殿筋、対側の内転筋において、接踵時の前250~450msの期間にトレーニング後に大きくなる結果が得られた(p<0.05)。他の筋には有意差は見られなかった。【考察】内腹斜筋のトレーニングによる即時効果として、トレーニング後の内腹斜筋と対側の内転筋に筋活動の増大が見られた。これらはLeeらのいう、骨盤帯の安定性に寄与する筋群とされるアウターユニットの「外側系」を構成する筋群であり、機能的な連結が考えられた。また筋活動の増加は、すでに荷重負荷の急激な増加が起こる接踵時より以前にみられており、負荷に対する予測的活動として増加したものと推測される。健常者に比べ腰痛患者では、上下肢の運動以前におこる体幹筋の予測的活動が少ないとする報告がある。今回の体幹筋のトレーニングにより股関節周囲筋にも変化が見られ、このことが姿勢の安定性に影響を与えていることが考える。
著者
亀井 裕子 三木屋 良輔 田中 毅 畠中 耕志 中川 司 森野 恭典
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D0214, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】末期肺癌患者1症例の理学療法を担当した。余命が1~2ヶ月であり、理学療法開始時より安静時から呼吸困難感の訴えが強く、呼吸困難感の改善を目的としてスクイージングを行ったので、その効果を検討した。【症例・経過】症例は83歳、男性。身長158cm、体重35kg。診断名は肺癌、慢性肺気腫、慢性心不全、肺炎。主訴として呼吸困難がある。現病歴は2004年11月に肺癌と診断され、2005年6月21日に症状悪化により外来通院から入院に至った。安静時から呼吸困難感の訴えが強く、ほぼベッド上での生活をされており、経鼻4L/分で酸素療法を実施していた。MRCはGrade5。胸部単純X線所見では左上中葉中枢に腫瘤が認められた。また横隔膜は低平化、肺は過膨張しビール樽状胸郭を呈していた。胸部CT所見では両上葉で気腫性変化、左上葉中枢に腫瘍が認められた。肺機能検査では呼吸困難度(ボルグ)3、動脈血酸素飽和度(%SpO2)98%、脈拍(HR)80回/分、呼吸数(RR)26回/分、平均血圧(MBP)73.3mmHg、胸郭拡張差1.75cmであった。理学療法プログラムとしては、2005年7月16日~8月24日(3~4回/週、23回介入)の間でスクイージングを行い、その前後でボルグ、%SpO2、HR、RR、MBP、胸郭拡張差を測定した。【結果】スクイージングの前後でボルグ、%SpO2、HR、RR、胸郭拡張差が有意に改善し、MBPは有意に低下した(P<0.01)。そしてRR、胸郭拡張差はボルグと有意な相関(P<0.05)がみられた。【考察】スクイージング前後でHR、RR、%SpO2が改善されたことから、呼吸筋の仕事率が軽減したことが予想され、これによりボルグの改善が得られたと考える。その結果、リラクゼーションが得られ胸郭拡張差の改善にも関与したことが示唆された。また、MBPに有意な低下がみられ、RR、胸郭拡張差はボルグと有意な相関がみられたことからリラクゼーションとの関連が示唆された。指標ではないが「少し楽になった」という声も聞かれ、タッチングによる心理的効果によってもリラクゼーション等の相乗効果による呼吸困難感の改善が得られたと考える。【まとめ】終末期になると肺癌による肺障害が進み通常の理学療法が実施困難になる場合が多い。しかし、スクイージングを行うことで呼吸困難感の改善がみられ、リラクゼーションの効果も示唆された。本症例においてADLに対する効果は認められなかったが、スクイージングが末期肺癌患者に対する緩和的な治療としても適応と考えられた。今後は末期肺癌患者に対して動的な改善の検討が必要性であると感じた。
著者
中山 裕子 大西 秀明 中林 美代子 石川 知志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0602, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】肩甲下筋は主に肩甲上腕関節の内旋作用を持つ筋で,回旋筋腱板を構成する重要な筋である.肩甲下筋はその構造や神経支配より,部位による機能の違いの可能性が報告されているものの,上・中・下部に分けた筋活動特性についての報告はみない.本研究の目的は,肩甲下筋の上・中・下部線維の機能的な違いを明らかにすることである.【対象と方法】対象は実験内容を書面にて説明し同意を得た健常成人6名(男性4名,女性2名,平均年齢35.0歳)であった.運動課題は5秒間の肩関節最大等尺性内旋運動とし,筋力測定器(BIODEX)を使用して行った.測定肢位は椅子座位とし,肩甲上腕関節内外旋中間位で,上腕下垂位,肩甲骨面挙上60度,120度に固定した肢位で2回ずつ行い,肩甲下筋の上部・中部・下部線維の筋活動をワイヤー電極にて導出した.電極はウレタンコーティングのステンレス製ワイヤー電極を使用し,電極間距離を5mmとして,肩甲骨内縁から関節窩方向に向けて刺入した.肩甲下筋の上部線維には内角,中部線維には内角より3横指尾側,下部線維には下角より1横指頭側からそれぞれ刺入し,電気刺激を利用して確認した.ワイヤー電極の刺入は共同研究者の医師が行った.筋電図は前置増幅器(DPA-10P,ダイヤメディカルシステムズ)および増幅器(DPA-2008,ダイヤメディカルシステムズ)を用いて増幅し,サンプリング周波数2kHzでパーソナルコンピューターに取り込み,運動開始後1秒後以降で最大トルクが発揮された時点から0.5秒間を積分し,上肢下垂位の値を基に正規化した(%IEMG).統計処理には分散分析と多重比較検定(有意水準5%未満)を用い比較検討した.【結果】肩甲下筋上部線維の%IEMGは,60度挙上位で93.9±11.5%,120度挙上位で79.1±23.6%であり,120度挙上位の値は下垂での値よりも小さい傾向が見られた(p=0.08).中部線維では60度挙上位で119.3±14.9%であり,120度挙上位(93.7±18.4%)より有意に高い値を示した(p<0.05).下部線維では60度挙上位で112.4±11.9%,120度挙上位で129.6±19.4%であり,120度挙上位の値は下垂位の値より有意に高い値を示した(p<0.05).【考察】肩甲上腕関節回旋中間位における等尺性内旋運動において,肩甲下筋上部線維の活動は肩関節面挙上角度の増加に従い減少する傾向があり,中部線維の活動は60度屈曲位が最も大きく,下部線維の活動は120度屈曲位が最も大きいことが示された.このことは上腕骨長軸に対しより垂直に近い線維が最も効率よく肩関節内旋運動に作用することを示唆していると考えられる.
著者
梶原 史恵 大川 裕行 江西 一成 植松 光俊 中駄 美佳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E0443, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】 慢性期のリハビリテーションでは,日常生活での身体活動量の確保が重要な課題となる。特に,施設入所高齢者では、生活範囲の狭小化や疾患の重症度から活動量が低下することが推察される。施設入所高齢者の身体活動量を24時間にわたり正確に評価できれば,実施しているリハビリテーション・プログラムの検証を行うことも可能となる。そこで今回、老人保健施設入所者を対象に、24時間の身体活動量と自律神経活動を測定し、歩行能力別・生活時間帯別に検討を加えたので報告する。【方法】 対象は、某介護老人保健施設入所中の者で、本研究の趣旨が理解でき協力可能な12名(年齢84±8歳、男性4名、女性8名)とした。被験者は,歩行可能群(6名),不可群(6名)に分けられた。 日常生活活動能力(Barthel Index)評価し,アクティブトレーサー(GMS社製AC-301)を用いて身体活動量、起床時間、および自律神経活動を24時間連続的に記録した。身体活動量,起床時間は,腰部に装着したアクティブトレーサーの3方向の加速度,及び傾きから算出した。また,自律神経活動は記録された心拍R-R間隔変動をスペクトル解析して求めた。得られた結果は,歩行可能群・不可群,日中時間帯・夜間時間帯で比較検討した。【結果】 24時間の身体活動量は、歩行可能群,不可群間で有意差を認めなかった。 時間帯による身体活動量の比較では,一部を除き両群ともに日中時間帯の身体活動量は夜間時間帯よりも有意に大きな値を示した.歩行可能群は不可群よりも日中時間帯の身体動量が大きかったが両群に有意な差は認めなかった。 歩行可能群の起床時間は,日中時間帯の方が夜間時間帯よりも有意に大きな値を示したが,不可群では時間帯による起床時間に差は認めなかった.さらに,両群の日中時間帯に有意な差はなかった。 自律神経活動の比較では,両群ともに24時間を通して交感神経・副交感神経活動に差は認められなかった。【考察】 歩行可能群と不可群の起床時間に差がないことは、歩行不可群でも介護スタッフ等により、座位起立姿勢を促されていたことが考えられた。また、歩行可能群で日中時間帯と夜間時間帯の起床時間に差を認めたことは、歩行可能群は日中時間帯に座位起立姿勢をとる機会が多いものの、活動量としては、歩行不可群と同程度のものであったことがわかった。さらに、自律神経活動の結果もこれを裏付けるものであった。また、歩行不可群の生活も昼夜の差が自律神経活動量に現れない程度のものであった。 今回得られた結果から、歩行不可群は、24時間の内、約8時間の起床時間を確保できていることがわかった。また、歩行可能群の高い運動機能を、日常生活の活動量に反映させる取り組みが必要であることを確認した。
著者
藤井 岬 宮本 重範 村木 孝行 内山 英一 鈴木 大輔 寺本 篤史 青木 光広
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0995, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】足関節周囲の骨折や靭帯損傷による固定や不動により生じる足関節拘縮は,歩行動作に影響を与え,日常生活動作や社会活動に大きな影響を及ぼす.関節拘縮に対する理学療法手技の1つに関節モビライゼーションがあり,足関節背屈制限に対して距腿関節,遠位脛腓関節へのモビライゼーションが治療として用いられる.臨床では距腿関節モビライゼーションが多く用いられているが,遠位脛腓関節に対する治療手技の効果について詳細は明らかにされていない.本研究の目的は,生体に近い未固定の遺体を用いて遠位脛腓関節の運動学的な特性を把握し,足関節拘縮に対する効果的な治療手技を検討することにある.【方法】実験には生前同意を得られた新鮮遺体標本7肢(男性5名,女性2名,平均死亡年齢79.9)を用いた.下肢標本を足底接地させ,中足骨と踵骨で木製ジグに固定した.近位の固定を行う前に足関節の背屈可動域,腓骨の運動を磁気センサー3次元空間計測装置(3Space Tracker System)を用いて計測した.次いで,足関節底屈10°を保持して大腿遠位部をジグに固定した.モビライゼーション手技を想定して腓骨外果を4方向(後方,後上方,上方,後外側)に,それぞれ19.6N,39.2Nの強度で牽引し,腓骨の変位をX(前後方向),Y(内外側方向),Z(上下方向)成分に分けて測定した.【結果】足関節の背屈可動域は平均13.25°±4.85であった.4つのモビライゼーション方向(後方,後上方,上方,後外側)の腓骨外果の変位はそれぞれ,X軸上で0.13±0.10,0.19±0.11,0.09±0.08,0.48±0.16,Y軸上で0.19±0.12,0.13±0.11,0.04±0.04,0.22±0.20,Z軸上で0.09±0.06,0.07±0.06,0.05±0.04,0.20±0.10であった.二元配置分散分析を用いて検定したところ,3軸方向成分全てにおいて牽引による変位量は統計学的に有意であった(X:P<0.0005,Y:P=0.005,Z: P<0.0005).牽引強度による変位量の比較ではX成分でのみ有意に39.2Nで大きかった(P<0.0005).方向と強度の相互作用については有意差が認められなかった.方向についてBonferroniの方法で多重比較したところ,X,Z成分では後外側とその他の方向,Y成分では上方とその他の方向のモビライゼーション間で有意差がみられた.【考察】以上の結果より,後外側方向へのモビライゼーション手技は腓骨を前後・上下方向へ大きく動かすことが明らかにされた.また上方向への手技では内外側への動きが少なかった.更に前後方向への変位にのみモビライゼーション強度が関与することが判明した.従って,足関節背屈制限に対する遠位脛腓関節のモビライゼーションにおいては,腓骨の後外側方向への滑り運動手技が有効であり,強い強度を用いた方がよいと考えられる.
著者
森本 浩之 水谷 陽子 浅井 友詞 島田 隆明 水谷 武彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0110, 2007 (Released:2007-05-09)

【はじめに】人間のバランスは視覚、前庭覚、体性感覚の情報を入力し、中枢で処理した後、運動神経を介して出力している。その中でも視覚情報は重要な役割を果たしており、全感覚の約60%を占める。動作の中で頭部や眼球が動き、網膜の中心の像が2~4°ずれると見えにくくなる。そのため、vestibuloocular reflex:VORとcervicoocular reflex:CORの働きで、視覚情報を補正している。また眼球追視(smooth pursuit:SP)も複雑な脳での処理システムにより調節している。今回、立位バランスにおける頭部・眼球運動に着目し、重心動揺計を用いて視覚情報の刺激(SP)や、VOR・CORの影響について検討したので報告する。【方法】対象は、同意を得た20歳~34歳(平均:23.4歳)の健常な男女10人。重心の測定は、Neurocom社製BALANCE MASTERにより立位時の重心を評価した。被検者はバランスマスター上に立ち、眼から70cm前方に視標追視装置を設置し固視点を映し出した。負荷方法は1)固視2)追視運動(SP)3)固視したままの頚部の左右回旋(VOR・COR)の3条件にて行った。さらにバランスマスター上にFORMを置き、同様の3条件の計測を行い、各条件間の総軌跡長を比較した。また、計測環境は、その他の外乱刺激が入らないよう暗室で行い、頚部回旋はメトロノームを用いて1秒間に1動作の設定とし、頚部の回旋範囲は60°に設定した。各設定時間は10秒間とした。【結果】FORMなしの立位時での重心の総軌跡長は、5.85±2.06cm、追視運動時の重心の総軌跡長は、5.38±2.67cm、頚部回旋時の重心の総軌跡長は、5.42±2.01cmであった。また各条件間に有意差はなかった。FORMありの立位時での重心の総軌跡長は、18.10±3.08cm、追視運動時の重心の総軌跡長は、17.77±4.81cm、頚部回旋時の重心の総軌跡長は、15.18±3.44cmであった。SP群とVOR・COR群のみ有意差が認められた。また、FORMの有無での各条件間に有意差を認めた。【考察】FORMの使用で体制感覚入力の抑制を行った事により、体制感覚が立位バランスに大きな影響を与えていることが示唆された。また、体制感覚の抑制で、立位保持とVOR・COR群に有意差がなかったことから、視覚情報と前庭器官のみでも立位バランスを保持することが可能であると考えられる。しかし、VOR・COR群と SP群に有意差があったことから、視覚情報の混乱と体性感覚の抑制により動揺が大きくなったと考えられる。これは、日常生活において、突然の視覚情報の変化、例えば振り向き動作時の風景の変化に視覚情報が対応しきれずにバランスを崩す可能性があると考えられる。
著者
山本 泰三
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1234, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹スタビリティーの一部は、腹部を筒状に包み込んでいる腹横筋による腹腔内圧の調整によって獲得されている。姿勢変化による腹横筋の針筋電図を用いた評価では、Hodgesが仰臥位より座位にて収縮量が増加していることを、Jukerは座位と立位にて最大収縮の4%収縮していることを報告している。本研究の目的は、姿勢変化による腹部周径の変化と腹壁筋の厚さの変化を比較し、腹壁筋の収縮様態が求心性か遠心性かを推定することである。【方法】対象は、腰部、腹部に病変を持たない健常男性10名で、年齢は29.5±4.7歳であった。腹部の周径は、へその高さに手縫い糸を巻きつけた後に計測した。腹壁筋は、超音波診断装置(東芝社製femirio8)を使用し、表層画像が測定できる14MHzリニアプローブを右前腋窩線で周径を測定したラインにあてて、安静呼気終末に静止画を撮影した。腹壁筋の厚さは、内蔵スケールにて外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を計測した。測定肢位は、仰臥位、背もたれのない座位、立位に加えて、傾斜台を用いて内蔵が腹壁を圧迫しない45°頭低位の4種類とした。統計的検討は、分散分析(p<0.01)の後、Post-hocテストを行った。【結果】腹部の周径は、仰臥位で80.4±7.2mm、背もたれのない座位で86.6±7.7mm、立位で83.4±7.1mm、45°頭低位で75.5±6.4mmであった。分散分析の結果、姿勢変化の主効果が認められ(p<0.001)、45°頭低位、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなった。腹横筋の厚さは、仰臥位で3.7±0.7mm、背もたれのない座位で3.6±0.7mm、立位で3.9±1.0mm、45°頭低位で3.8±0.4mmであった。内腹斜筋の厚さは、仰臥位で11.6±2.0mm、背もたれのない座位で12.5±2.7mm、立位で12.2±2.5mm、45°頭低位で10.7±1.8mmであった。外腹斜筋の厚さは、仰臥位で8.4±2.5mm、背もたれのない座位で7.7±1.7mm、立位で7.2±2.0mm、45°頭低位で7.6±2.3mmであった。腹壁筋の厚さは、4種類の姿勢変化による主効果は認められなかった。【考察】姿勢変化による腹部周径は、仰臥位、立位、背もたれのない座位の順に太くなっているのに対して、腹壁筋の厚さは、変化していなかった。先行研究のように姿勢変化により腹横筋の活動電位が増加しており、かつ、筋の長さが延長されて、筋の厚さが変化していなかったので、収縮様態は遠心性収縮が推察される。抗重力姿勢になれば、内蔵は腹壁を圧迫する。内蔵による腹壁の圧迫が少ない45°頭低位では、腹部周径が最も細かったにも関わらず、腹壁の厚さは変化していなかった。腹横筋をはじめとする腹壁筋は、筋の弾性による静止張力を加えた遠心性収縮により効率的張力を発生させていると推定される。
著者
岡崎 倫江 那須 千鶴 吉村 和代 曽田 武史 津田 拓郎 高畑 哲郎 大石 賢 中川 浩 矢倉 千昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0305, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】女性競技者の前十字靭帯(以下ACL)損傷は,男性より高い確率で発生し,特に非接触型損傷が多いことが知られている。その要因のひとつとして性ホルモンの影響が指摘されており,先行研究では月経周期中の性ホルモンの変動とACLとの関係について検討されている。一方,Eiling ら(2006)は,片脚飛びの着地時における制動から筋硬度を測定し,下肢の筋硬度が月経周期に影響されることを報告している。この報告から女性におけるACL損傷と月経周期の関係は,ACLよりも膝関節周囲筋の筋硬度の変化による膝関節へのストレスが関与している可能性がある。そこで,本研究は月経周期中の膝関節周囲筋の筋硬度および短縮度の変化について調査し,性ホルモンが筋硬度に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象者は月経周期の安定した(28日±1~2日)健常成人女性9名(測定18脚),平均年齢25.9±2.1歳であった。全ての対象者に内容を説明し,同意を得た上で測定を行った。月経周期を28日とし,最終月経日より逆算し,月経期(7日目)・排卵期(14日目)・黄体前期(21日目)・黄体後期(28日目)の4期間に分け,それぞれの期間で測定を行った。月経周期の把握と測定日の設定は,測定者以外の者が行い,測定者には対象者の月経周期を知らせなかった。筋硬度は大腿直筋および大腿二頭筋の停止部から25%部位と50%部位を,筋硬度計(NEUTONE,TRY‐ALL社)を用いて測定した。筋短縮度はElyテストとSLRテストの最大伸張時の関節角度を測定した。すべての測定は3回行い,その平均値を代表値とした。統計解析は一元配置分散分析を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした。【結果】筋硬度は大腿直筋及び大腿二頭筋の50%部位において,他の周期と比較し黄体前期が有意に高値を示した(p<0.05)。筋短縮度は月経周期中における有意な変化はみられなかった。【考察】黄体前期は,エストロゲンが急減し,プロゲステロンが急増する時期であり,これらの変動が膝関節周囲筋の筋硬度に関与していると考えられる。プロゲステロンには,コラーゲン合成を促進させる(蛋白同化)作用があり,この作用によって筋硬度が増加している可能性がある。ACL損傷は,排卵期と月経期に多く,黄体期に少ないといわれている。しかし,膝関節周囲筋の筋硬度とACL損傷との関係については明らかにはなっていない。今後は,月経周期中における性ホルモンの変動と筋硬度,ACL損傷との関連について検討する必要がある。
著者
小田 桂吾 鈴木 恒 平野 篤
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0926, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】今回、腰椎椎間板ヘルニアを患ったプロ総合格闘技選手の競技復帰に向けたリハビリテーション(以下リハ)を経験したのでここに報告する。【症例紹介】29歳、男性。診断名:腰椎椎間板ヘルニア(L5/S1)。身長163cm、体重58kg。【現病歴】2004年より腰痛、左下肢のしびれが出現。以降、試合出場困難となる。2006年、2年振りに復帰し2試合2勝の成績を収めるが腰痛が改善されず、更なる競技能力向上を目的として2週間、リハ目的の入院となった。【初期評価】主訴:常に腰が重い感じ。練習後、腰が張る。(ともに特に左側)アライメント:立位前額面で左肩甲帯下制、脊柱やや右側弯で体幹軽度左側屈あり。矢状面で腰椎前弯、骨盤前傾あり。タイトネステスト:SLR;右60度、左50度。HBD;右0cm、左5cm。FFD;-10cm、MMT:左中殿筋4【経過】1週目の主なリハプログラムは腰部の筋緊張改善を目的とした物理療法、ストレッチ。腹部の深層筋を意識しながらフォームローラーやバランスボールを使用したコアトレーニング。股関節周囲筋力強化を目的としたアウフバウトレーニング等を中心に行った。2週目はトレーニング強度を高めつつ、立位でアライメントが崩れない身体の軸作りを目的としたバランストレーニング、スタビライゼーショントレーニング等を導入していった。退院時、タイトネステストでSLRは左右共70度、HBD左右共0cm、FFD0cmに改善、疼痛は練習後少し張りが残る程度の訴えに軽減。退院後は外来及びジムでフォローしながら退院2週後より実戦練習再開。8週後、初の打撃のみの試合に出場し判定勝ちを収めた。【考察】実戦動作の問題点のひとつとして、左ストレートを打つ際に骨盤の右回旋が不十分で体幹の左側屈が出現しており左腰部に過度なストレスが考えられた。原因としては軸足となる右股関節周囲の筋力低下や左腹斜筋、腸腰筋の柔軟性低下が考えられ、これを改善するために軸足を不安定板に乗せた状態で打撃練習を行い、骨盤を回旋させ体幹と左腕の連携を意識させながらパンチを出す練習を行った。近年、腰痛の治療は体幹の前後、左右、ひねり、上、下肢との連動性を十分考慮したコアトレーニングの概念が必要であると報告されている。また力が発揮する姿勢であるパワーポジションを獲得するためには骨盤の安定性が必要であるとも言われており、激しい動きを伴う総合格闘技選手は様々な技術と体力が要求されるためリハは単に症状の改善を目的とするだけでなく、そのファイトスタイルを考慮する必要があり今後さらなるレベルアップを選手とともに目指していきたいと考える。