著者
梶 理和子
出版者
山形県立保健医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は、前年度に収集を行った、上演に関する記録や、芝居や劇作家に対する評価をはじめとする歴史資料を基に、王政復古以降の劇場が置かれた社会的、政治的状況の再構築を試みた。とりわけ、政情に翻弄され、様々な変遷に晒された十七世紀の英国演劇の伝統が、いかに受容されたかを探ることで、英国初の職業的女性劇作家(Aphra Behn)を誕生させた契機、またBehnの死後、女性作家ブームとでもいうべき、芝居や散文によって生計を立てる女性たちが一気に出現することとなった状況などに対して考察を行った。具体的には、歴史資料に照らしながら、Behnによる翻案の際の作家としての戦略を分析した。そこで、翻案劇を創作する際の原作となった劇場封鎖以前や内乱期のThomas Middleton, John Tatham, Thomas Killigrewといった作家たちの作品と比較することで、それまでの男性の手による英国演劇がどのように用いられたのかを検証した。さらに、Behnの活躍を経た後の1695-96年の上演シーズンに、4人の女性が商業演劇界に登場するといった現象に注目し、その後、十八世紀に活躍したSusanna Centlivre, Hannah Cowley, Elizabeth Inchbaldへとつながる「女性作家」の流れを再考し、後続の女性作家たちの中にBehnとそのジェンダー・ポリティクスがどのように受容されていったのかを見出すことで、英国初の職業的女性劇作家と見なされるAphra Behnの存在意義を明らかにした。
著者
前城 淳子
出版者
琉球大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は琉歌の中でも詠み歌の琉歌作品の研究を進めるための基盤作りを目的としている。本年度は前年度までに行った(1)詠み歌作品の収集と整理、(2)各地に保存されている琉歌集の収集を引き続き行うとともに、研究の取りまとめを行った。(1)では大正期の新聞(『琉球新報』『沖縄毎日新聞』)に掲載された琉歌作品の収集とデータベース化を中心に行った。新聞に掲載された琉歌を、1結社詠(結社単位で新聞に発表されたもの)、2琉歌大会詠(全島規模で開催された琉歌大会の詠草が新聞に掲載されたもの)、3募集歌(新聞社側の募集に応じて天長節やお正月などに応募された作品)、4寄稿歌(主に個人で琉歌を新聞に寄稿したもの)の4つに分類し整理した。また、それぞれの分類ごとの特徴等について「大正期の琉歌-『琉球新報』『沖縄毎日新聞』をもとに-」としてまとめた。(2)では天理大学図書館、沖縄県立図書館や琉球大学付属図書館など沖縄県内の図書館に所蔵されている琉歌集の調査を行った。天理大学図書館に所蔵された「琉歌集」は琉歌を読むもの(文芸)として編纂したものであり、本研究にとって重要な資料である。春、夏、秋、冬、恋、雑、仲風の7つの部立をもつこの歌集は、同じ部立構成をもつ『古今琉歌集』との詳細な検討が今後必要であろう。また、琉球大学付属図書館に所蔵されている「喜納誌」と記された「琉歌集」は節名が記されていないことから詠み歌的な歌集であると思われるが、部立が示されていないためどのような方針で歌集が編纂されたか不明である。本研究によって大正期の新聞に掲載された琉歌約4,000首の収集と整理が行われた。これによって詠み歌琉歌研究の基礎資料が整ったことになる。また、各地に保存されている琉歌集の収集と整理が進められ、60余の琉歌集を確認することができた。
著者
佐藤 正樹
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

「十六世紀フランス語散文物語の文体論的研究」は、フランス語散文物語という当時生まれたばかりのジャンルの形成をマクロな観点から記述することを目標とした。十六世紀前半期の俗語散文物語は大きく二つのグループに分けられる。ひとつは騎士道物語に由来するいわゆる「ロマン」の流れを汲むのもで、もうひとつはボッカチオの『デカメロン』に由来する「ヌーヴェル」の系列である。「ロマン」の特徴は、伏線が絡まりあいながらどこまでも続く延長可能性にあり、作中人物は傑出した性質を帯びているのが普通である。主題的には、まず遠い「過去」の物語であること、作中人物の移動範囲が極めて大きいこと(「遍歴」の主題)、そして目くるめく超自然的な「驚異」が物語を進ませる原動力としてちりばめられていることが挙げられる。一方の「ヌーヴェル」の特徴は、物語が現実世界の断片として描かれるという点にある。したがって、物語に超自然的要素な要素は入り込まない。また、作中人物は傑出した性質を持つものとしては描かれず、出来事が淡々と描かれる。この書き方には年代記の影響があるかもしれない。さて、十六世紀を通じてより多く出版されたのは「ロマン」の流れを汲む作品のほうである。当時の読み手は、奇想天外でいつ果てるともない「ロマン」に、物語の醍醐味を感じていたのであろう。「ヌーヴェル」は、読者層にはそれほど浸透しなかったものの、「ロマン」の道具立ての陳腐化をいち早く感じ取り、俗語表現の可能性を追求しようとする一部の書き手に影響を与えた。「ロマン」と「ヌーヴェル」は、十六世紀にはまったく違うものとして生産・受容されていた可能性が高いが、ラブレーの作品はこの二つを意図的に混淆して作られているように見える。今後の研究では、特異なラブレーの創作プログラムを、「ロマン」と「ヌーヴェル」の緊張関係という観点からより明らかにしていきたい。
著者
田村 雅紀
出版者
首都大学東京
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

昨年度に引き続き,「骨材回収型コンクリート」における油脂系改質処理剤を用いた改質処理効果(特許出願済)に関する応用的検討を行い,その結果なども踏まえ,骨材回収型コンクリートの運用方法についても考察した。以下に得られた知見の概要を示す。1.ZKT-206法による骨材回収型コンクリートのアルカリシリカ反応低減効果の迅速評価結果JIS A 1804 骨材試験法と比較し,コンクリート法の場合,調合の影響を考慮することができる。w/c=0.6で,普通骨材を用いた改質処理法(標準の3回塗布)で製造した供試体を,材齢2日で加圧装置にかけると,アルカリシリカ反応を示さない試料でも相対動弾性係数が低下する場合がある。w/c=0.4ではそのような結果は生じなかった。従って,ASR抑制効果を意図して改質処理をしても,迅速法の場合,調合によりその効果が十分に説明できない場合が生ずることが確認された。また,その結果により,同コンクリートの長期的な力学挙動(クリープ等)や耐久性について更なる検討が必要と考えられた。2.改質処理再生骨材を念頭に置いたモルタル部分の吸水率低減性実験再生骨材に改質処理を施して目的とする効果を得るために,吸水率低減効果を詳細に検討した。結果,モルタル部分のw/cが,0.2〜0.6範囲では,実験室結果では,3回までの処理で,吸水率を十分に低減できることが確認された。3.改質処理再生骨材コンクリートの耐久性油脂系の場合,中性化速度係数は無処理と比較して低下する(w/c=0.6の場合)。これは,再生骨材のプレウェッチングが不要となり,マトリックスが緻密になる効果が期待できるためと考えられる。乾燥収縮ひずみは,無処理よりも若干低減し,それはAIJの収縮ひずみ予測式で示される範囲の変化を示す。単位クリープひずみは一般的なコンクリートよりも増大する可能性があり,そのような物性を有するものとして位置づける必要があると考えられた。(本検討は,他の研究予算による支援も受けて実施した。)4.骨材回収型コンクリートの運用方法JIS規格(案)が検討されている再生骨材Mを対象とした技術的運用も含め,環境側面を再整理し,用途拡大の方策を検討した。そして運用面では,技術的問題以上に解決すべき問題があることが把握された。
著者
錦織 宏
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

NHK番組ドクターGに表現される医師の「診断」。近年は検査技術の発達に伴って、病歴や身体診察を駆使して診断する能力を身につけることが難しくなってきています。医学生が身体診察を学ぶ教育を充実させるため、我々はこれまで、具体的な疾患名(鑑別診断)を考えながら行う身体診察法に関する研究を進めてきました。今回の研究では、それを医学部の「試験」にするための基礎的な研究を実施しました。
著者
西岡 昭博 香田 智則
出版者
山形大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究の結果、(1)従来にない斬新な米デンプンの変性法、(2)(1)の手法で得た改質デンプンと汎用プラスチック材料とのコンポジット技術の開発に成功した。具体的には、(1)において加熱とせん断を同時に印可することにより無加水で瞬時に米デンプンを非晶化できる技術を開発した。また、この技術を基盤に加熱・せん断型粉砕装置の開発に成功した。(2)では、(1)の研究結果から得られた非晶性デンプンと(a)エチレンメタクリル酸共重合体をNaイオンで中和したアイオノマー、(b)ポリブチレンサクシネート(以下、PBS)、(c)ポリ乳酸(以下PLA)の3種類の材料とのコンポジットを行い、分散性、熱安定性、機械特性、溶融物性を評価した。比較として米粉には、市販の米粉(結晶性デンプン)、市販の非晶性デンプンも使用した。本研究で得られた新規変性デンプンコンポジット材料の特徴は以下の通りである。(1) 結晶性デンプン、市販の非晶性デンプンと比較して、著しく分散性が優れる。(2) 重量分率10%までの添加では添加前のバージン材料と比較し、物性(機械的)が劣らない。このことは結晶性デンプンや市販の非晶性デンプンには見られない効果であった。(3) 重量分率50%までの添加が可能であり、本研究で用いた新規変性デンプンを添加した系は最も物性低下が少ない。(4) 新規変性デンプンは、優れた結晶核剤として作用することが分かった。本研究の結果、従来の手法と全く異なる手法でデンプン変性が可能であり、得られた変性デンプンが生分解性樹脂等の優れた添加剤となり得ることが明らかになった。
著者
村澤 尚樹
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、金属ナノ構造体に局在する光電場増強場が金属ナノ構造体近傍に配置したマイクロ・ナノメートルサイズの液晶液滴の挙動に与える影響を詳細に解析することで、光電場増強場の物理的描像を明らかにすることを目的としている。本年度は、液晶液滴の位置制御、及び液滴の位置検出のための実験システムの構築、金属ナノ構造体の設計・作製を行った。捕捉用レーザーとしてCW Nd:YAGレーザーの基本波1064nmを用い、レーザー光を偏光祁顕微鏡内に導入し、対物レンズで液晶液滴に集光照射することで液滴を捕捉した。プローブ光としてHe-Neレーザーを捕捉用レーザーと同軸で照射し、液滴の散乱光を4分割フォトダイオードに導入することで、1 nmオーダーで位置検出が可能なシステムを構築した。また、金属ナノ構造の設計として、高い光電場局在効果を期待できる3次元的に配列制御された金属ナノ構造の作製を行った。電子線リソグラフィー・リフトオフ法を用いて金ナノ構造を積層、あるいは3次元的に1 nmオーダーで制御することにより、2次元的に配列したときと比較して大きな光電場増強効果が表れることを実験的に明らかにすることに成功した。特に構造の頂点同士を近接させたナノギャップ金構造の場合、2次元的に配列した構造と比較して50倍の光電場増強効果が誘起されることが明らかとなった。今後、種々の構造を有する金属ナノ構造を用いて、構造の近傍に配置された液晶液滴のブラウン運動や液滴内部の分子配向の挙動を詳細に解析することにより、光電場増強場が空間的にどのように分布しているかが明らかになると考えられる。
著者
上杉 和央
出版者
京都府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

沖縄県内に残る沖縄戦に関する慰霊碑について、ごく一部の離島を除き、すべての地域を踏査し、これまでに紹介されてきた慰霊碑一覧には掲載されていない慰霊碑があることを発見し、新聞資料等の調査結果とも合わせて、慰霊碑の建立(撤去)のプロセスには地域差があることを確認した。また、慰霊祭の現地調査や聞き取りを実施し、その実施状況・内容に地域差があることを明らかにした。
著者
中村 みどり
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

一次資料に基づき、外務省の東方文化事業に陶晶孫が関わってゆく過程、すなわち彼が日本留学時代に「特選留学生」に選抜されてから帰国後に上海自然科学研究所へ入所するまでのルートとその背景を明らかにすることができた。また戦前の中国人留学生たちの帰国後のネットワーク、およびその後の形跡を辿ることにより、陶が戦後国民政府から台湾帝国大学の接収に派遣されるまでの背景を考察し、陶晶孫研究に新たな視点を与えるに至った。
著者
川島 均
出版者
松本大学松商短期大学部
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

運動習慣が海馬の神経新生を促進し、海馬の機能である記憶・学習の向上をもたらすことが多く報告されているが、そのメカニズムは不明のままである。近年、神経の分化や新生にマイクロRNA(miRNA)と呼ばれる小さなRNA分子が関与することが示唆されている。そこで本研究では、神経新生をもたらすことが知られている12日間の自発的走運動がmiRNAに及ぼす影響をマウス海馬において調べた。その結果、調べたmiRNAにおいて有意な変化を見いだすことはできず、もっと早い段階において海馬miRNA発現が変化するのではないかと考えられた。
著者
中西 恒夫
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

外部ソフトウェア部品は,より多くのアプリケーションに適用できるように再利用性を追求しており,その代償として個別のアプリケーションでは不要なパラメータ検査等の計算時間やコード量における余剰のオーバーヘッドを孕んでいる.本研究では,外部ソフトウェア部品の汎用性ゆえのオーバーヘッドを削減し,対象環境にあわせてアプリケーションと外部ソフトウェア部品を一体的に適応化/最適化する研究を行った.平成17年度は,ITRON, Linux等の特定のオペレーティングシステムを対象に,オペレーティングシステムとアプリケーションの一体的特化を検討する予定であったが,ITRON等のオペレーティングシステムのコンポーネント化が進められていることを鑑み,組込み向けコンポーネントを対象としたアプリケーション特化を検討することとした.Philips社で開発された組込み向けコンポーネントであるKoalaは,そのコンパイラにおいて積極的に静的評価を行い,ある程度のプログラム特化をすでに実現している.そこで,本研究ではKoalaを補強・拡張するとともに,さらに前年度に使用したC言語用プログラム特化器C-Mix/IIを,Koalaコンパイラの出力するC言語コードに適用することで,組込み機器向けソフトウェアの特化を図るアプローチをとることとした.Koalaでは,例外処理機構が整備されていないため,本研究ではKoalaの拡張として例外処理モデルを定め,当該モデルに即した例外処理コードの生成法の考案と性能評価を今年度行った.当該例外処理コード生成を対象としたプログラム特化については,今年度中に成果を出すことはできなかった.
著者
池田 友美
出版者
兵庫大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

在宅で生活する重症心身障害児(者)の睡眠の問題とその介護者の介護負担感を明らかにした。障害児の睡眠の問題は高率に認め、特に入眠の問題、睡眠の維持の問題、睡眠に関連する運動の問題が多いことがわかった。また、睡眠の問題をもつ児の介護者の介護負担度が高く、睡眠の質が悪いことから、重症心身障害児(者)の睡眠の問題を改善することが課題であることが明らかになった。
著者
加茂 具樹
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、中華人民共和国の「議会」に相当する人民代表大会と、その構成員である人民代表大会代表の政治的機能を明らかにした。これまでの現代中国政治研究は、人民代表大会の活動、とくに人民代表大会代表の活動について、ほとんど関心を払ってこなかった。本研究は、そうした学問的な空白を埋めることができた。また、地方の人民代表大会代表に対する調査をつうじて、これまで政治的機能の実態が明らかではなかった人民代表大会代表が、選出された選挙区への利益誘導を目的として活動する実態を描き出すことに成功した。本研究をつうじて現代中国政治研究は、「議会」政治研究という新しい研究分野を見出すことに成功したかもしれない。
著者
安川 由貴子
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、個として確立していくことが重視される現代社会の中で、G.ベイトソンのコミュニケーション論を基軸にして、共同性と個人の問題について生涯学習の観点から考察を行った。それは、自己実現、自己決定といった個への重視が、逆説的にどのように個を疎外していくのかを、もう一方の共同性という概念で対比しつつ、実証的に把握する試みである。ベイトソンは、個という存在をすでに共同性や環境のシステムの中に含みこまれている存在として捉えていくことにより、個人を軸とした近代西欧思想に特有の観念を乗り越えようとしていた。その萌芽は、現在の日本社会の過疎地域における生涯学習的な実践や、アルコール依存症のセルフヘルプ・グループの実践においても見ることができた。
著者
小林 悟
出版者
岩手大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の協力の下、中性子照射済み原子炉圧力容器鋼材の磁気計測を実施し、中性子照射脆化と磁気的物理量の相関データベースの構築を進めた。磁気マイナーループ法に基づく実験データ解析結果から、磁気的物理量において、降伏応力変化と同様な照射条件依存性が観測された一方、二つの異なる磁気特性変化メカニズム(銅リッチ析出物形成、応力緩和)を考慮したモデル解析から、磁気特性の脆化寄与成分と降伏応力変化量の間に正の比例関係が見つかった。以上の結果は、磁気的物理量の計測により、銅リッチ析出物形成による照射硬化の評価が可能であることを示している。
著者
鈴木 薫之
出版者
東京慈恵会医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

昨年度までの研究において,把持,切開,切離処理などの手術作業をリアルタイムに可能にする軟組織モデル,sphere-filled modelの開発を行った.また動物実験において,肝表面変位量とその変位量に応じた押付力の関係を得ることが可能になった.本年度では,このsphere-filled modelを用いて,実際の手術時の臓器に対する触感応答を得ながら作業を進めることをシミュレーション内で可能とするために,圧縮変形時の圧縮点表面変位量と圧力との関係を計測し,これをデータペース化してシミュレーションに反映させた.計測手法として,臓器の形状に応じ解剖学的に決定した点を中心に半径20mmの円形状に圧縮点5点を設定し,指先の太さを想定した直径10mmの円柱状のプローブ先端形状を持つ圧力測定装置を用いることにより,個体差が発生しないような工夫を行った.その結果,複数の実験結果を統合して得られた最大表面変位量は約30mm,最大圧力として約30gf/cm^2となった.また,臓器圧縮,圧縮解放時に応じたヒステリシス特性を有する表面変位量-圧力特性曲線を得,データベース化した.このようにして得られたデータベースの表面変位量を用いて,sphere-filled modelにおける充填球移動総和量をキャリブレーションすることにより,手術シミュレーションにおいて臓器に触れた際の感触を再現した.その結果,実際の臓器変形量に応じた定量的な反力応答能を有する軟組織モデルとなった.本モデルを用いることにより,実際の臓器特性を反映することができ,より実際に近い触感を伴った手術シミュレーションを行えるようになったと考える.
著者
坊農 秀雅
出版者
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構(新領域融合研究センター)
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

前年度から引き続きグノム上の物理的な位置に対して付与されたアノテーションデータを利用するシステムの開発を行った。実際にデータ解析している研究者に広く使ってもらえるよう,インターネット上のウェブページ上から気軽にアクセス可能となる仕組みを検討したが,ゲノム配列の全領域を対象とすることから計算量が多く,また現状では研究テーマ別にプログラムを一部改変する必要があり,ウェブページ上から一般公開して広く使ってもらうには難があるため共同研究者を対象にその利用を図った。それぞれの研究テーマに合ったゲノムアノテーションを組み合わせることで,BiomartやUCSC Table Browserなどのウェブインタフェースで利用可能なデータマイニングツールでは利用不可能なゲノムアノテーションの組み合わせでin silicoな候補領域を検索しその結果を精査してもらった。現在のところデータ解釈の途中であるが,今回の検索によってベンチでの実験回数を減らすことができたばかりでなくこれまで事実上不可能だった候補の領域の選定が実現した。現在in vitro/in vivoでそれらの確認実験が進行中となっている。論文発表とともに,参考にされた候補領域の情報はSupplemental dataとしてインターネット上で公開される予定である。昨年度から課題とされてきたシステムの使い方の文書化に関しては,DAS(Distributed Annotation System)の枠組みを利用して既存のゲノムブラウザー(Ensembl Genome Browserなど)に見たいゲノムアノテーションを表示する方法をこれまでの(Power Pointなどによる)静的なプレゼンテーションから一歩進めて動画としてその使い方を説明する形で作成した。その動画はSaya Matcherのホームページ(http://Saya Matcher.sourceforge.jp/)からアクセス可能となっている。
著者
笠柄 みどり
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

今日、子どもの入院は患児本人だけでなく、きょうだいの心身の成長発達にも影響を及ぼすことが明らかにされ、支援の重要性が認識されている。しかし、入院している子どものきょうだいに対する具体的な支援には至っていない現状である。そこで本研究は、きょうだい、家族及び医療者に対して質問紙調査及び長期入院患児の家族数例に面接調査を行い、地方の小児病棟におけるきょうだい支援に関する実態を把握する。その結果をもとに、きょうだい支援に対するモデルケースを数例定めて、きょうだいや家族のニーズにあわせた支援方策を実施し、その有効性について評価することを目的とする。本研究は3ヶ年にわたり、今年度は一昨年実施した調査をもとに、きょうだい支援に対するモデルケースへの支援を行った。大学看護研究倫理委員会に提出し、承認を受けた上で、きょうだいを支援するボランティアバンクを立ち上げ、自宅に残されたきょうだいに対して、孤独感が癒されるよう、学生ボランティアを導入して日々の遊びや学習への支援を行った。2か月の関わりであったが、きょうだいは学生と触れあう中で、自分の思いを表出するようになり、家族が不在でも笑顔で遊びや学習をして待っていることができるようになった。また、家族の意向を聞いてプログラムを立て、夏休みと冬休みにきょうだいが入院中またはきょうだいの入院経験がある子どもを対象にレクリエーションインストラクターの講師を招いて、きょうだいの会を実施した。最初は仲間の輪に入っていけないきょうだいが見られたが、学生が1対1で関わることで、思い切り身体を使って遊んで、楽しむことができていた。ボランティアで関わった学生にとっても、きょうだいについて考える機会となり、実際に子どもに触れる貴重な経験となっていた。
著者
佐々木 愛
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「宋代以後、明清期にかけて、社会に礼教が普及した」とする「通説」に対して、明清の礼マニュアルや礼説、法律とその適用などから検証し、通説は修正が必要であることを明かにしたものである。上記の視角は、朱熹『家礼』の普及がその根拠となっていたが、本研究では、『家礼』普及の実例と位置づけられていた丘濬『家礼儀節』が、朱熹『家礼』の根本原理となっている儀礼の実践を否定した書であることを明かにした。また、殺死姦夫律の検討を通して、国制と法は道徳とは別個の論理をそれぞれもっており、三者が一体となって礼教化を進めるという構造にはなっていなかったことを明らかにした。
著者
坂上 博隆
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は感圧センサ(Pressure Sensitive Paint, PSP)を用いた圧力の面分布計測で大きな問題となる、PSPの温度依存性を解消する研究である。PSPは、概して圧力感度と同時に温度依存性を持つ。このため、温度補完が不要なPSPの開発が求められてきた。また、PSPの適用分野においては、非定常計測のための時間応答性が求められる。本研究においては、発光波長帯の異なる二色素を陽極酸化皮膜に吸着させることによる、温度依存性を持たない高速応答PSPの開発を目指した。このPSPは作製時の工程(ディッピング法)における条件(二色素におけるディッピング順序、感圧色素・ディッピング時の溶媒の種類、ディッピング温度・時間・濃度)によって、その性能(発光強度・圧力感度・温度依存性)を制御できるものと考えられる。本研究においては、感圧色素としてfluoresceinとbathophen ruthenium、ディッピング溶媒としてクロロフォルムを用いた。実験の結果、二色素が溶解した溶液を用い、一度でディッピングする方法により、良好な発光スペクトルが得られることがわかった。さらに、ディッピング時間によってfluorescein側の発光ピークを制御できる可能性が示された。また、実験の再現性についても確認することができた。最後に、30分ディッピングしたサンプルについて、圧力・温度依存性、時間応答性を調べた。特に発光波長帯:590nm付近においては、通常の高速応答PSPにくらべ圧力感度が損なわれたものの、温度依存性をほとんど示さないことがわかった。また応答性試験により、二色素による感圧塗料が従来の高速応答PSPと同程度の時間応答性を有することが分かった。