著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、16世紀スペインの後期サラマンカ学派(c. 1576-1600,メディナからバニェス)の思想を考察し、初期近代政治思想史におけるその地位と意義を検討するものである。中世スコラ学の刷新を試みた同学派の権力・国家論は、後に主流となる主権論とは別の観点から脱中世型権力理解を提示した点で注目されることを明らかにし、その成果を、著書や口頭報告の他、講義やメディア報道により、多様な読者、聴衆に向けて公にした。
著者
早尾 貴紀
出版者
大阪経済法科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本科研費による研究活動開始前からの刊行論文も併せて、2008年に単著『ユダヤとイスラエルのあいだ-民族/国民のアポリア』(青土社)を出版した。マルチン・ブーバーおよびハンナ・アーレントという二人のドイツ系ユダヤ人哲学者の模索したバイナショナリズム、つまりパレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人の共存思想の展開と隘路を辿った(同書前半)。また、建国後のイスラエルに対して、アイザイア・バーリンやジュディス・バトラー、マイケル・ウォルツァーらリベルラル派のユダヤ人によるイスラエル批判の意義と限界を分析した(同書後半)。そのかん、イスラエル/パレスチナへの研究滞在(主としてヘブライ大学とハイファ大学)および現地からの研究者の招聘(ハイファ大学カイス・フィロ教授)などを重ね、資料調査・研究交流をおこない、上記単著以降の研究の展開を模索した。その成果として、ブーバーやアーレントの同志であった重要人物ユダ・マグネス初代ヘブライ大学学長をはじめとする、建国直前期のヘブライ大学の哲学者たちが、いかに排他的な民族主義に陥ることなく、アラブ人・アラブ文化と共存しながら自らのアイデンティティを保持するのかという課題に取り組んでいたことの意義を分析する論考を発表した。その他、「ディアスポラ」から民族の越境と共存を読み直す共同のプロジェクトに参加し、そのなかでのバイナショナリズムの歴史的意義と現在的可能性を考察する論考を発表した。
著者
山本 恵子
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2007年度には、ニーチェにおける初期・中期・後期の生理学的考察を概念史的に検討することによって、当時の生理学者との関係に関する研究の骨子を示した。その結果、ニーチェにおける生理学という概念装置の意味が著作時期によって大きく異なることが明らかとなった。2008年度には、「健康」や「無意識」等の諸概念に着目した。そこでは、健康を画一的なものと捉える見方が人間の平等というドグマに侵されたものとして積極的に否定されるニーチェの思索が確認された。
著者
山内 太郎
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

研究実施計画書にしたがい、本年度も文献調査およびフィールドワークを行った。文献調査は、現代に生きる狩猟採集民、伝統的漁撈民・農耕民の先行研究に加えて都市居住者(先進国および発展途上国)を収集し、体格・栄養摂取量・身体活動量のデータを分析した。また霊長類、先史人類の考古学的研究についても、方法論の違いに注意を払いながらデータ収集、分析を行った。データ分析、とくに方法論の違うデータの比較・統合について利用可能性の高い手法について学んだ。フィールドワークは、研究計画書に記載したとおり、インドネシア共和国の都市居住者(中部ジャワ州の州都スマラン市)について、とくに子どもの肥満に焦点をあてて測定調査を行った。また、コミュニティー全体を対象とした調査としては、南太平洋ソロモン諸島の首都近郊の村居住者を対象として調査を行った。調査内容は、1)身体計測・血圧測定、2)食物摂取量調査、3)安静時代謝量測定、4)身体活動量測定であった。成果発表としては、計画書に記載した通り、国際学会(14^<th> European Congress on Obesity, Athens, Greece)で発表した。また、インドネシア共和国中部ジャワ州のDiponegoro大学において招待講演を行った。さらに日本相撲協会主催の相撲医学研究会で発表を行った。今後、国際学会発表(10^<th> International Congress on Obesity, Sydney, Australia)を予定している。発表論文(別紙参照)としては、国内高齢者の身体活動量とフィットネス、パプアニューギニア高地民の農村居住者と都市移住者の身体活動量および体格・体組成に関する比較研究をはじめとして、海外の研究者と協力してアフリカ(カメルーン)狩猟採集民、日本人大学相撲選手、中国都市部および農村部の学童、トンガ王国の思春期の少年少女について公刊した。
著者
川島 慶之
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

糖尿病の合併症の一つに難聴が知られている。一部にミトコンドリア遺伝子変異が関与していることが明らかになってきているが、多くは、障害部位、障害原因とも明らかではない。一方、肥満・過食・高インスリン血症など顕著な糖尿病症状を自然発生する突然変異の糖尿病モデルマウス(db/db)がジャクソン研究所で発見され、糖尿病およびその合併症の発症機構の解析究明に汎用されている。我々は、db/dbが難聴を発症し、そのホモ接合体はヘテロ接合体、野生型に比べ早期にABR閾値が上昇することを確認した。さらにDPOAEでもホモ接合体は早期からDPレベルの低下を認めた。このため、難聴の主因は蝸牛血管条障害であると予想したが、光学顕微鏡では有意な血管条障害やラセン神経節細胞の脱落は認めなかった。しかしながらレプチン受容体の内耳発現を確認するためにC3H/HeJのコルチ器を免疫染色したところ、外有毛細胞の不動毛において発現が見られた他、neonateの動毛において強い発現を認めた。これらの結果より、これらのマウスにおける聴覚閾値の上昇は、外有毛細胞の何らかの障害を含めた複数の機序が関与しているものと想定している。
著者
南里 豪志
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

IPv6対応インターネットとMyrinetで構成された階層型クラスタ向けにRMA機構を開発するとともに、通信最適化技術を開発した。また、ソフトウェアで制御されたキャッシュメモリシステムをRMA機構上に構築して、有効性を確認した。
著者
乙部 厳己
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

通常のWiener空間を含む一般のガウス測度の導入された連続関数の空間における、指定された値以上の関数からなる自然な凸集合に対して発散定理を定式化した。それによって発散定理の性質が速度のマルコフ性よりもむしろ、ガウス測度とその最大値のもつある種の正則性によって制御されていることを示した。またフラクタル集合上のパーコレーションの臨界確率を数値解析によって得たほか、特異な外力項を持つ相互作用粒子の運動を可視化、レヴィ型の雑音項を持つ偏微分方程式の解の挙動の可視化などに成功した。これによって新しい知見のもとで正則性に関する予想とそれに対する数学的に厳密な証明を与えることにも成功した。
著者
中西 祐子
出版者
武蔵大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では「doing gender(ジェンダーをする)」という概念に着目し、学校・職場内において、人々が自らのジェンダー/セクシュアリティを、自ら意図的に、あるいは他者から意思に反して構築する/されることがどのようなメカニズムで起きているのかを検討した。本研究では、人々のジェンダー/セクシュアリティというものが、アプリオリに存在しているのではなく、ある場面で行為者間の間で持ち出されることによって作り出されているのではないか、という理論的立場をとっている。たとえば、セクシュアル・ハラスメントに代表されるような学校・職場のトラブルは、文脈を無視して突然「ジェンダーをする」ことが持ち出される現象の典型例である、と考える。本年度行ったのは次の4点である。(1)国内外の先行研究の収集、(2)アメリカ社会学会参加と「ジェンダーの構築」に関連する最先端の研究動向の把握、(3)大学生を対象にアルバイト先でのハラスメント経験についての質問紙調査、(4)大学生を対象にアルバイト先でのハラスメント経験についてのインタビュー調査(継続実施中)。なお、平成20年度中に、これまでの研究をまとめた成果を論文として発表する予定である。ここまでの知見を簡単にまとめると、(1)アルバイト先でのハラスメント経験者は量的にはごく少数であるが、お客や上司からのハラスメントを経験しているものは存在している。(2)経験者の中で、その場で表立って文句をいったものは皆無であり、(3)「相手がお客さんだからはっきりと拒否するわけにはいかない」「相手が上司だからあまり強くいえない」という理由から、何とかその場をうまく「やり過ごす」/「取り繕う」ことにむしろ力点が置かれていることがわかった。これは、突然構築された「ジェンダー/セクシュアリティ」が、「客と販売員」「上司と部下」という別な文脈で消去されようとするプロセスといえるのではないだろうか。
著者
高橋 悦子
出版者
四日市看護医療大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

質の高い看護ケアに影響を与える要因を明らかにすることを目的に調査を実施した結果、電子カルテなど医療のIT化が看護ケアに与える影響は大きく、本調査でも、IT導入による医療の安全性向上、情報共有の迅速化など看護ケアの質向上に寄与している点が指摘された。一方、看護師の専門的判断力を支える、アセスメント能力、クリティカルシンキングの育成とITシステムとの連携が今後の看護ケア質向上の課題となることが明らかになった。
著者
平塚 真弘
出版者
東北薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

これまでの検討結果から、等温遺伝子増幅法とイムノクロマトグラフィーを組み合わせる方法は困難であることが判明した。しかし、血液からの直接遺伝子増幅法や高速サーマルサイクラーを用いたPCR増幅の検討を行うことで遺伝子診断時間の大幅な短縮が期待できる。そこで、島津製作所製Ampdirectを用いて血液からの直接PCRを試みた。また、高速サーマルサイクラーであるアイダホテクノロジー社製Rapid Cycler2及びインディーを用いることにより、従来、約2時間を要していた遺伝子増幅時間を1時間にまで短縮することを目標とした。さらに、現在、検出デバイスとしてイムノクロマトグラフィーであるDNA検出ストリップを用いているが、この遺伝子診断法がこのデバイス以外にも応用可能か否かを検証するため、東洋紡製イムノチップを用いてSNP検出を試みた。基本的なPCR反応はこれまでと同様であるが、イムノチップのメンブラン上には、抗ビオチン抗体が結合されている。PCR後の操作としては、産物にperoxidase標識抗FITC抗体液を5分間反応させ、全量をチップに添加する。続いて洗浄液を添加し非特異的な結合を除去し、最後に発色基質溶液を添加し、SM)が存在すれば青色に発色する。つまりチップを2個用意し、一方には野生型検出プローブを用いた時の反応液を、もう一方には変異型検出プローブを用いた時の反応液を添加することによって遺伝子型を視覚的に判別することができる。これらを検討することにより、Ampdirectを用いて血液からの直接PCRが可能となり、DNA精製に要していた遺伝子診断時間を大幅に短縮することができた。また、高速サーマルサイクラーを用いることにより、従来約2時間を要していた遺伝子増幅時間を1時間にまで短縮することができた。さらにイムノチップの利用により、DNA検出ストリップ以外の検出デバイスでも良好な遺伝子診断が可能となった。
著者
角陸 順香
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、サステナブルビルディングの現状を踏まえた上で、特にサステナブル改修について焦点を絞り、既存建築物のサステナブル化を受け入れる社会システムについて明らかにすることを目的としている。そのため、はじめに新築工事、改修工事の両方の現状について調査を行った。現在使用されている構造補強、熱や空気などの建築環境性能向上、エコマテリアル使用、環境共生の仕組みの設置などのサステナブル技術や、その背景となる経済的、社会的要求などについて整理するために、先進事例の多い公共施設などを中心に文献調査を行った。さらに、意思決定プロセスの観点から、具体的なサステナブル改修の事例について関係者へのインタビューや現地調査を行った。本年度の成果は、具体的には以下の通りである。1. 現在、日本国内及び海外においてサステナブルビルディングと評価されているものに関して、新築、改修を問わず、建物概要や採用されている技術等について、既往研究論文、書籍、雑誌などの文献を通して情報収集し整理する。用途を限定せず出来るだけ多くの事例収集を行うが、特に先進事例の多い公共施設について重点的に調査を行う。検索する雑誌は「新建築」「a+u」「日経アーキテクチュア」「Re」「月刊リフォーム」とした。2. 1の調査結果をまとめて分類しデータベースを作成して、サステナブルビルディングの現状に関する情報を整理した。3. 文献調査をもとに、この分野における有識者にインタビュー調査を行い、広い見識を得た。4. 国内の事例に関して、現地調査と関係者へのインタビュー調査を行った。
著者
菊地 直樹
出版者
兵庫県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

コウノトリの野生復帰事業が進展する兵庫県但馬地方で、コウノトリの「語り」を聞き取る調査を実施してきた。「語り方」を解析して、自然再生のシンボル種であるコウノトリを語ることによって人と自然の日常的な関係性の多元的な諸相が析出された。これは(1)地域性によるのか、(2)コウノトリという種の特徴によるのか、という問題関心に基づき、愛媛県西予市のコウノトリ、新潟県佐渡市のトキ、北海道釧路市のタンチョウの聞き取り調査を実施した。2006年にコウノトリが飛来した西予市では、人とコウノトリの行動圏が交差しており、コウノトリを通して地域を見直す活動が見られた。昨年度の調査と同様、「地域の鳥」として語られているが、多元的に語られなかった。コウノトリと暮らしてきた歴史性に欠ける地域では、「語り方」が異なっている。給餌人を中心に聞き取りを実施した釧路市では、昨年度と同様に「家の鳥」としてタンチョウが語られる特徴が見られた。作物を荒らす、人や物に危害を加えるという語りもあり、給餌しているタンチョウが畑を荒らすと「ウチのツルがすいません」といった語りも出てくる。釧路湿原に生息地が移動する繁殖期には、人とタンチョウのかかわりは一端切れてしまい、この時期のタンチョウは家族化されることはない。かかわりが冬期に集中するためか、タンチョウを通して人と自然の関係性が語られることや地域を見直す語りもほとんどなかった。このように、給餌活動というかかわりの有無、物理的・精神的距離によって、意味づけが変容する。コウノトリは「地域の鳥」、タンチョウは「家の鳥」という「語り方」に違いは、(1)人間の働きかけ(給餌活動など)と空間の意味という社会学的側面と、(2)鳥の生態から考えることができる。コウノトリは通年、人の日常空間を行動圏とするが、タンチョウは越冬期は給餌され、私有地を行動圏とする。繁殖期は釧路湿原という「公」の空間を行動圏とし、コウノトリに見られた私と公の間にある曖昧な空間をあまり行動圏としない。私と公に分断されたタンチョウと比較すると、コウノトリを「語る」ことは、相対的に人の日常生活と重なる自然を語ることにつながる。自然の象徴という同じ価値が付与された生物でも、生息域や行動の違い、かかわりの歴史性などによって、「語り方」が異なり、表象される自然も異なる。再生すべき自然は、多くの場合、生物によって象徴される。本研究に従えば、どの生物を取り上げるかによって、自然のイメージも異なってくる。自然の再生イメージ像の構築に向けて、どの生物をどのように語るのか、その「語り方」が問われるが、人と生物の行動圏が交差する空間とそこに生息する生物の意味を分析的に論じることが、今後の課題である。環境社会学と生態学を融合した視点が求められる。
著者
森本 孝之
出版者
関西学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

まず,金融データの価格変化における飛躍の検出を研究し,米国同時多発テロ事件, 米連邦準備制度理事会の公開市場操作,日銀の外国為替平衡操作を取り上げ,市場への情報流入が価格変化にどのような影響を与えるかを分析した.さらに,高頻度収益率に生じる市場のミクロ構造ノイズを共分散行列から除去する効率的な手法の開発を研究し,ランダム行列の最大固有値の漸近的性質に着目し,そのノイズに対する統計的仮説検定を提案した.
著者
上原子 晶久
出版者
弘前大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1.塩害と凍害が複合作用する環境下を再現するため,ASTM-C-672法を参考に以下の凍結融解試験を行った.連続繊維シートを接着した上面に3%塩化ナトリウム水溶液を湛水し,凍結サイクル(-15〜-20℃で約17時間)と融解サイクル(+20℃で約7時間)で構成される1回の凍結融解サイクルが約24時間で完了する環境下に80日間暴露した.その後,連続繊維シートとコンクリートとの付着試験と塩化物イオンの浸透量の測定を行った.2.連続繊維シートの種類を炭素繊維,アラミド繊維,ならびにコンクリートの空気量を実験水準として試験体を作製した.試験体は,高さ100mm,縦200mm,横400mmのコンクリートブロックの一面に連続繊維シートを接着したものである.連続繊維シートの接着工程は一般的に採用されているものとし,シートとコンクリートとの接着にはエポキシ樹脂を使用した.3.付着試験の結果,凍結融解による損傷や塩分浸透を受けた場合の連続繊維シートとコンクリートとの付着特性を代表する界面破壊エネルギーは,健全時よりも3割ほど低下する結果が得られた.これについては以下が原因である.すなわち,凍結融解試験においてシート上面に湛水している塩水の影響により母材が過冷却され,それが主因として凍結融解作による母材の劣化をさらに促進しているものと推定される.以上は,試験時において母材内部の温度を計測し,それに基づく温度応力解析の結果からも確認することができた.4.母材への塩化物イオン浸透量を分析した結果,シートの種類によらず塩化物イオンの浸透は認められなかった.以上より連続繊維シートの物質遮蔽性能が優れていることを確認した.
著者
渋谷 努
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

現地調査によって1970年代から80年代初頭にフランスのパリ郊外ノンテールに住み働いていた北アフリカ出身者が記憶にとどめている移民たちによる社会運動には、MTA(mouvement travailleur arabe)があった。彼らの活動は、パレスティナ住民の支援だけではなく、フランスの労働組合に積極的に参加していなかったアラブ諸国出身移住労働者を労働活動に参加させた。既存の労働団体とは一線を画して、労使交渉に臨んだ。また、移民たちに運動の組織化のノウハウを伝えた。彼らの活動は十年弱で終了し、団体も解散した。しかし、彼らの活動の中心的な役割を果たした者は、以降の移民による運動の中心的な役割を果たしており、移民の社会運動が成立する基礎を形作った。文献調査として北アフリカ出身移民第二世代を指す際に用いられることが多い「Beur」という言葉の1987年から2008年8月の間でのLe Monde紙上への掲載状況を調査した。掲載された総数は1924回だった。Beurは文芸や映画と結びつけて用いられる場合が最も多く、政治や選挙と次いで結びつけられていた。さらに1998年にサッカーのワールドカップがフランスで開催され、フランスチームが優勝した際にアルジェリア出身移民の子どもが活躍したことから、その後このチームのことをマスコミだけではなく政治家もblack-blanc-beurと呼ぶようになった。この表現は多様な出身者からなるフランス社会の統合を示すものとして象徴的に用いられるようになった。Beurにはイスラームと関連されて用いられることもあったがイスラム主義者と対比する形で世俗的または穏健なイメージが与えられた。以上のような肯定的なイメージとは異なり、Beurを侮蔑的な表現と関連づける大きな要因が郊外問題であり、都市暴動などの暴力であることが明らかとなった。
著者
川島 英之
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では高機能演算子を有する分散実時間ストリーム処理基盤の研究開発に取り組んだ.高機能演算子としてはベイジアンネットワーク,そしてメディアデータ管理を実現した.その他に高速永続化機構,高信頼化機構,暗号化ストリーム処理,そしてストリーム結合処理に関する研究を行った.
著者
元 晶ウク
出版者
静岡産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日韓プロサッカー観戦者の観戦動機が同時に測定できる尺度項目を開発することと、それを用いて両国サッカー観戦者の観戦動機比較を行ない、その相違と類似点を明らかにすることを目的とした。調査の結果、開発された尺度は、日本と韓国のサッカー観戦者の動機を同時に測定できる妥当性と信頼性の高い測定項目であることが明らかになった。また、両国観戦者の観戦動機平均値の差を多変量分散分析によって検証した結果、Kリーグ観戦者はドラマ、家族、選手動機の平均得点、Jリーグ観戦者は達成、娯楽、技術動機の平均得点が有意に高いことが明らかとなった。Kリーグ観戦者はスポーツ自体より、レジャーやレクリエーションの手段としてサッカー観戦を行うことに対し、Jリーグ観戦者はスポーツ自体の魅力を求めて観戦を行う特徴が確認された。また、両国のサッカー観戦者の主な観戦動機は達成、娯楽、ドラマ、逃避であることが明らかになった。さらに、選手個人の魅力に関する動機はサッカーのような団体種目においてはそれほど重要な動機として作用しないことも確認された。
著者
原田 慈久
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

低温域の水の電子状態を軟X線発光分光を用いて観測し、水素結合の切断に相当するピークが氷の領域でも一部残り、これが内殻正孔ダイナミクスによるものである可能性を示した。一方、アセトニトリル-水混合系においては、低温域で水混合のミクロ不均一性が増大しても電子状態の変化は小さく、ゆらぎのサイズは軟X線発光で電子状態変化を捉える領域に比べて十分大きいことが示唆された。
著者
渕野 由夏
出版者
福岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は、訪問看護師の職業性ストレスが睡眠障害に及ぼす影響(因果関係)を明らかにすることを目的とした縦断的研究を行った。平成17年度に実施した質間紙調査に協力の得られた333名のうち、質問紙に氏名・所属等の記入がなかった者を除く319名を調査対象とした。調査方法は平成17年度と同様の方法の郵送法による質問紙調査(NIOSH職業性ストレス調査票と独自に作成した睡眠調査票からなる調査票)を実施した。その結果、216名から回答が得られ(回収率67.7%)、今回はこのうち男性を除く211名を解析対象者とした(有効回答率97.7%)。はじめに、NIOSH職業性ストレス調査票の各尺度の得点を平成17年度実施調査(以下、前回調査)結果および平成18年度実施調査(以下、今回調査)結果から個人毎に尺度別に算出し、前回調査に比べ今回調査の方がストレスが減少した者を「ストレス改善群」、ストレスが増加した者を「ストレス悪化群」とした。次に、睡眠状況に関する項目の合計点(以下、睡眠状況得点)と睡眠感に関する項目の合計点(以下、睡眠感得点)についても、前回調査および今回調査の調査結果から個人毎にそれぞれの得点を算出し、睡眠状況、睡眠感各々ついて、前回調査に比べ今回調査の方が改善した者を「改善群」、変化がなかった者を「変化なし群」、悪化した者を「悪化群」とした。そして、ストレス改善群、ストレス悪化群と睡眠状況。睡眠感の改善群、変化なし群、悪化群の関連についてχ^2検定により検討を行った。その結果、睡眠状況については、職務満足感はストレス悪化群の方がストレス改善群に比べ、睡眠状況悪化群の割合が有意に高く(p<0.05)、また、役割葛藤、量的労働負荷についても同様の傾向がみられた(p<0.1)。また、睡眠感については、役割葛藤、職務満足感のストレス悪化群の方がストレス改善群に比べ、睡眠感悪化群の割合が有意に高く(p<0.05)、また、量的労働負荷、上司からの社会的支援についても同様の傾向がみられた(p<0.1)。したがって、役割葛藤、職務満足感、量的労働負荷、上司からの社会的支援が悪化すると、睡眠状況・睡眠感の悪化に関連したり、関連のある傾向があることから、これらの職業性ストレスは訪問看護師の睡眠障害へ影響を及ぼす要因(因果関係のある要因)であることが明らかになった。
著者
中村 菜々子
出版者
兵庫教育大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

人工透析患者34名対象の面接調査と632名対象の質問紙調査を実施して、血液透析と腹膜透析の恩恵と負担の情報を整理し医療者の効果的な支援を検討した。研究の結果、(1)患者自身が認識する両透析療法の恩恵と負担の内容と重みづけ、(2)透析種別に異なる治療上のストレスに対する効果的な対処行動、(3)医療者の関わりがセルフケアに与える影響は患者の個人特性(依存性、自律性)で異なることが明らかになり、各透析の特徴と患者の特性を考慮した支援内容や方法が提案された。