著者
下川 隆
出版者
金沢医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

有尾両生類の一種であるアホロートルを用いて、切断された四肢骨格筋の再生メカニズムの分子機構を解明することを試みてきた。本研究では、マウスやニワトリの四肢発生過程で、前/後肢の決定に関与するPitx1に着目し、アホロートルにおいてPitx1のクローニングを行い,四肢再生過程ならびに発生過程における発現パターンについて、解析を行った。Pitx1の切断四肢再生過程における発現様式について,RT-PCRにて解析を行ったところ,前肢および後肢のいずれにおいても発現が認められた。前・後肢の部位による発現パターンの変化は認められず、全体的に一様に発現することが明かとなった。Pitx1の四肢再生過程における発現レベルは、前・後肢いずれにおいても,再生初期において発現レベルの増加が認められ、再生過程が進むに従い漸減していた。このことから、四肢再生過程でPitx1は、再生組織のパターン決定には関与せず、主に再生組織の増殖に関与しているものと考えられた。Pitx1の再生四肢における機能を解析するために,再生芽にアンチセンスオリゴDNAをエレクトロポレーションで導入したところ,再生芽の形成・伸長の遅延が認められたところから、四肢再生過程では再生組織の増殖に関与していることが確認された。さらに,成体のアホロートルにおいては、Pitx1が再生していない通常状態の四肢において発現していることが明らかとなった.このことは、マウス等の従来の報告とは異なっており、四肢再性能になんらかの関与を示すと考えられた。Pitx1について、発生過程における発現パターンをホールマウントin situ hybridizationで解析したところ、後肢にのみ発現が認められたところから、四肢発生過程では、前/後肢の決定に関与していると考えられた。
著者
桝永 一宏
出版者
滋賀県立琵琶湖博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

淡水から海水にいたる様々な水辺環境への進出に成功した数少ない昆虫である双翅目昆虫のアシナガバエ科Hydrophorinae亜科について、このグループにおけるND5遺伝子の分子時計(0.01D=285万年)を算出した。さらに、海洋性アシナガバエHydrophorinae亜科の海水適応のグループが単系統であり、北大西洋地域に分布するAphrosylus属が一番最初に分化したグループであり、その起原が最も古いことが示唆された。
著者
平尾 章
出版者
信州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

エコタイプとは同じ種に属しながら、異なる環境に適応して遺伝的分化を遂げたもののことであり、生物多様性を生み出す供給源となる。高山植物ミヤマキンバイでは、風衝地と雪田という対照的な立地環境に適応したエコタイプの分化が、複数の山岳地域で多発的に生じていることが明らかになった。「天空の島々」のように互いに隔離されながらも平行進化的にエコタイプ分化が生じているミヤマキンバイは、生物多様性の創出メカニズムを研究する上で有用なモデル系となる可能性がある。
著者
設楽 悦久
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

これまでにシクロスポリンによる有機アニオントランスポーターに対する阻害効果が単なる競合阻害ではなく、阻害剤に曝露することによって、阻害剤除去後も持続的に見られるものであることを見出してきた。この機序を解明するために、シクロスポリン投与後のラットより遊離肝細胞を調製し、細胞表面をビオチン化したのちに、ビオチン化を受けた蛋白を回収し、そこでのトランスポーターOatp1a1発現量を解析することで、細胞表面での発現量の変化について検討を行った。しかしながら、発現量が低いため、十分量の回収をすることができなかった。同様に、培養肝細胞にシクロスポリンを曝露した後、細胞表面のOatp1a1発現量の解析などを試みたものの、結果が得られなかった。一方で、トランスポーター活性に影響を与えると考えられている肝組織中グルタチオン量を測定したところ、シクロスポリン投与による変化は見られなかった。このことから、肝臓内グルタチオン量の変化による現象ではないことが明らかとなった。また、阻害剤がトランスポーターに共有結合している可能性を考慮し、トリチウム標識シクロスポリンをOatp1a1発現細胞およびベクター導入細胞に曝露した後、膜表面を有機溶媒でwashした後で、結合しているシクロスポリン量を測定したものの、結合量に差は見られなかった。ヒトでの有機アニオントランスポーターOATP1B1およびOATP1B3発現細胞の供与を受け、シクロスポリン曝露によるトランスポーター活性の低下を検討したところ、曝露時間および濃度依存的な阻害効果が認められた。ラットOatp1a1発現細胞を構築し、同様の検討を行ったところ、ここでも同様の結果が得られた。以上より、シクロスポリンによる曝露時間および濃度依存的なOATPファミリートランスポーターに対する阻害が明らかとなったものの、機序を解明するには至らなかった。
著者
小路 淳
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

陸域起源物質が河口域の魚類生産に与える影響の時空間変動を評価するために,太田川河口域において物理・生物調査を実施した.周年調査によりスズキが生活史初期に河口域に広く分布することが明らかとなった.スズキ仔稚魚は2月下旬から5月末にかけて河口域の優占種となった.胃内容物調査と安定同位体比分析の結果から,春季の上流域では河口域における魚類生産に対する陸域起源物質への貢献度が高まることが明らかとなった.
著者
山本 真行
出版者
高知工科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は明るい流星の出現直後に稀に見られる流星痕について、研究代表者らが1998年より開始した市民参加の観測キャンペーンである流星痕同時観測(METRO)キャンペーンによって得られた史上初の大量流星痕画像を解析し、未知の部分を多く残す流星痕生成メカニズムならびにその地球超高層大気における消散過程を統計的に調査したものである。本研究課題ではMETROキャンペーンのデータを各種パラメータと共に記録した画像集として世に残すため、まず2編の流星痕カタログ論文を出版した(Toda et al., 2004 ; Higa et al., 2005)。これらの論文は1988〜2002年の国内流星痕観測を纏め上げた世界初の流星痕画像カタログであり、流星痕研究の基礎をなすデータとして今後も活用が期待される観測史的に貴重な文献である。以上は本研究課題によって平成16年度に成された成果である。平成17年度には、さらにカタログ論文に掲載しきれなかった画像についても世界の研究者による利用の便を考えweb上におけるMETROキャンペーンアーカイブとしての整備を進めた。現在、最終の確認作業中であり、著作権等の確認の後に公開される予定である。流星痕の高度解析結果については、1988年〜2001年に得られた観測例のうち、解析に必要な十分な時刻精度と空間分解能を備えたデータ20例を吟味し整約計算を進めた。結果として、オリオン座流星群による2例しし座流星群による18例(計20例)の永続流星痕の高度解析結果から、永続流星痕の出現高度に関して109km〜75kmの高度領域を得た。流星雨の夜の数時間にメソスケール程度の領域に得られた10例のしし座流星群による流星痕に関し、平均中央高度93.0kmを得た。この高度は、Borovicka and Koten (2003)モデルのフェーズ3である主に酸化鉄FeOによる発光過程における流星痕発光高度を統計的に初めて明らかにした成果である。同発光過程においてはオゾンの中間圏・熱圏下部からの供給と酸素原子の供給、拡散を支配する背景大気圧力のバランスが重要であるとJenniskens (2000)等により指摘されているが、本研究はこれを観測的に求めた成果である。20例の分布から、流星痕高度の上端は100km付近で一定であるが、下端については地方時(輻射点高度)依存性が見られ、流星痕発光領域の流星経路長依存性が指摘できる結果を得た。これらの成果は、Yamamoto et al. (2005)としてEarth, Moon, and Planets誌に出版された。その過程で、Abe et al. (2005)における分光観測結果に対し高度情報を与える成果も得た。三次元構造解析の時間発展から中間圏・熱圏風速場について研究した成果は、日本地球惑星科学連合2006年大会にて発表予定である。
著者
阿部 新助
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、惑星間空間から地球へもたらさせる彗星・小惑星起源物質(流星ダスト)から、組成と軌道およびその進化を明らかにすること、流星の超高層大気での発光素過程を調べることである。平成18年度に開発を行った超高感度紫外分光TVカメラと汎用小型TVカメラを用い、平成19年度は、幾つかの観測を施行した。汎用小型TVカメラ一式は、京都大学生存圏研究所・MU 信楽観測所内に設置を行い、リモート観測を継続的に行った。関連成果として、Earth-grazing fireball(地球大気突入後、宇宙へ戻った隕石火球)の観測に成功し、近地球型アポロタイプ小惑星軌道であることなどを突き止めた(研究成果欄参照)。同型の小惑星である小惑星イトカワの探査データを用い、イトカワの平均密度、空隙率、組成や重力場の導出行い、申請者が筆頭あるいは主導的役割を担った論文は、Science, Nature他に掲載された。また、超高感度CCD-TV紫外分光観測システムを用い、2007年9月に長周期彗星起源流星の分光観測をハワイで行ったが、悪天候に阻まれた。同システムを用い、2007年10月オリオン座流星群、12月ふたご座流星群の分光観測に成功した。また、EMCCDカメラ(五藤光学研究所)を使い、流星体の月面衝突閃光を世界で始めてカラーで捉えることに成功した。これらのデータの一部は、論文や学会を通して発表を行った。また、彗星・小惑星と流星の関連について、「Meteoroids and Meteors - observations and connection to parent bodies(S. Abe), in Small Bodies in Planetary Systems(Eds. Ingrid Mann, Akiko Makamura, Tadashi Mukai, Springer-Verlag)」に大学院生向けの教科書としてまとめた。
著者
伊集院 壮
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

細胞増殖や細胞内物質輸送など様々な細胞内シグナル伝達を司るホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)は、PIP3の脱リン酸化酵素であるSKIPやPTENによって細胞内において時間的にも空間的にも精緻に制御されていることを明らかにした。この結果はがんや糖尿病の一因を知る上で有力な手がかりとなると期待される。
著者
金子 一史
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

3ヵ月児健診において,産後抑うつと母親から乳児に対する愛着に関する調査を行った.その結果, 抑うつと愛着には,中程度の関連が認められた.高得点者となった母親に対しては、その場で問診を行った.問診の結果支援が必要と判断された場合は、経過をフォローした.また、ケース処遇会議を毎月開催した.通常の乳幼児健診における産後うつ病への介入システムを考案し,愛知県内の自治体にて実際に実施した.これらにより,地域住民の健康増進に貢献することができた.
著者
長瀬 清
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ペントバルビタールで麻酔した日本白色ウサギに頭窓を作成した。,ネックターニケットを装着し、二酸化炭素応答とアセチルコリンに対する脳軟膜動脈血管の反応を、生体顕微鏡を用いて直接観察できるように設定した。生体顕微鏡可の観察により一過性全脳完全虚血に維持されていることを確認した。6分間の一過性全脳完全虚血により、二酸化炭素応答は完全に消失した。一方で、アセチルコリンに対する応答は維持された。これは、血管内皮細胞の昨日は残存しているにもかかわらず、神経細胞機能が消失しているために一酸化窒素の放出が消失しているためと考えられた。一方、低体温を導入しても、二酸化炭素応答は消失したにもかかわらず、アセチルコリンに対する反応は維持された。また、その程度は、常温の時と比べて差を認めなかった。これは低体温を導入したにもかかわらず、虚血になると脳神経保護効果が必ずしも発揮されない可能性があることを示唆している。一方、ニトログリセリンなどのNOドナーの投与を併用しても一過性全脳虚血後の脳血管応答は回復しなかった。これは神経細胞から放出されるNOの障害だけではなく、血管内皮細胞の機能低下が背景にあると考えちれた。吸入麻酔薬のような血管内皮細胞と神経細胞の両方に作用する脳血管拡張薬を投与した場合も、常温において、全脳虚血前後では明らかに血管拡張応答の消失を認めた。これらの知見は従来から指摘されたMCA閉塞法による一過性局所虚血モデルに一過性全脳虚血モデルも類似しているが、必ずしも完全に一致していないことも明らかになった。
著者
内田 淳史
出版者
拓殖大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、情報理論的セキュリティに基づく暗号鍵発生方式を提案し、超高速レーザカオスを用いてこれを工学的に実装することを目的とする。特に相関乱数暗号の要素技術として、共通カオス信号により駆動された半導体レーザカオス同期および相関の制御を実験的に実現した。本実験では、3つのDFB半導体レーザ(それぞれDrive、Response1、Response2と呼ぶ)を用いた。外部鏡を用いてDriveに戻り光を付加することでカオスを発生させた。Driveの緩和発振周波数とRepsonse1, Response2の緩和発振周波数を異なる値に設定した。Driveからのカオス的レーザ光を、ビームスプリッタ(BS)を調整することでRespoense1とResponse2に注入させた。このときDrive-Response間では低い相関、Response1-Response2間では高い相関を確認した。次にResponsel、Response2にそれぞれ外部鏡を用いて戻り光を付加させた。Response1の外部鏡の距離をピエゾステージによりナノメータ(nm)単位で変化させ、Response1の戻り光の位相を変化させることにより、2つのResponseレーザカオス同期波形の相関の制御を行った。その結果、戻り光の位相が一致したときの2つのResponse間の時間波形は一致しており、相関値を計算したところ0.907と高いことが分かった。一方で、戻り光の位相が一致していないときの2つのResponse間の時間波形は一致しておらず、相関値も0.076と低いことが分かった。以上より、戻り光の位相を変化させることで、Response1-Response2間の相関を制御可能であることが実験的に確認された。本特性は相関乱数暗号方式への応用における要素技術として非常に重要である。
著者
清水 将文
出版者
三重大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、省農薬使用の野菜セル成型苗生産を目指し、植物内生放線菌を利用したセル成型苗病害の新規生物防除技術の開発を目的としている。キャベツやブロッコリのセル成型苗に発生する黒すす病が近年深刻な問題となっている。そこで、本病に防除活性を示す内生放線菌の探索を行い、昨年度に有望3菌株(MBCN43-1株、MBCN56-1株、MBCY58-1株)を選抜した。本年度も引き続き探索試験を行った結果、これら3菌株よりも強力な菌株(MBCN152-1株)を得ることに成功した。MBCN152-1株の生化学的性状や形態などを解析し、Streptomyces sp.と同定した。キャベツセル成型苗黒すす病の一次伝染源である汚染種子に対するMBCN152-1株の防除効果を検討するため、本菌株の胞子懸濁液を5×10^5、5×10^6、5×10^7cfu/g(育苗土)の割合で混和した育苗土に汚染種子を播種し、2週間育成した。その結果、放線菌無処理区では約45%の苗が発病したが、MBCN152-1株処理区の発病苗率は5%未満であった。特に、5×10^7cfu/g処理区ではほぼ完全に発病が抑制され、極めて高い防除効果が得られることを明らかにした。つぎに、発病苗からの二次伝染を想定し、MBCN152-1株(5×10^7cfu/g)処理育苗土で育成したセル成型苗に黒すす病菌胞子を噴霧接種して温室内で育成したところ、苗枯死が無処理区と比較して約84%抑制された。これらの結果から、MBCN152-1株を最終候補株として選抜した。また、本菌株の凍結乾燥胞子を含有する粉状生菌剤の試作に成功し、最低3ヶ月間以上は常温で安定的に保存できることも確認した。現在、本菌株をより安定的且つ低コストで製剤化する技術の検討や防除機構の解析を進めている。本研究で得られた成果を基に特許を出願(特願2007-59639)した。
著者
有村 俊秀
出版者
上智大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

初めに、昨年度収集した情報をもとに、排出量取引の利点である排出削減費用の抑制効果が、米国二酸化硫黄(SO_2)排出承認証取引制度において発揮されているかどうかについて、実証的な観点から計量分析を行った。具体的には、企業の主な排出削減手段である排出承認証取得、低硫黄石炭への発電燃料の転換、脱硫装置の設置に焦点をあて、州ごとに行われている地元炭鉱の産業保護や排出承認証売買による費用や利益に関する規制などがこれらの選択に対して及ぼす影響を、1995年のデータをもとに多項選択モデルを用いて推定した。燃料購買の長期契約による影響についても分析を行った。結論として、主に3つのことが実証された。第一に、高硫黄石炭の産業保護が低硫黄石炭の選択を減少させることが示された。第二に、排出承認証取引で生じた費用/利益を消費者に転嫁/還元しなくてはならないとする規制によって、排出承認証の需給が減少したことが明らかになった。第三に、排出承認証取引で生じる費用や利益の取り扱いについて不確実性がある場合は、排出承認証の購入が減少することが確認された。次に、昨年度行った脱硫装置の技術・費用に関する情報収集および、パラメータ推計に関する情報収集をもとに、発電所における脱硫装置設置行動を離散的投資モデルとして定式化し、排出量取引の動学的市場均衡モデルを構築した。発電所の離散動学モデルを解析的に明らかにすることは困難なため、数値解析法により発電所の投資モデルを求めた。そして、それらをもとに排出承認証の均衡価格と、均衡下での発電所の行動モデルを明らかにした。最後に、これらの数値解のモデルを用いて、脱硫装置導入の補助金(承認証ボーナス)の効果を定量的に分析した。数値解により、承認証ボーナスの付与がなければ、脱硫装置の投資は行われなかったことが示された。
著者
伊規須 素子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

顕微赤外分光法を先カンブリア時代微化石試料と現生微生物試料に適用した結果、次のことが明らかになった。脂肪族炭化水素(CH_2とCH_3結合)に着目すると、現生原核生物細胞、脂質はそれぞれドメインレベルで区別される。そのため、本手法は迅速かつ簡便なドメイン識別法として有用であることが期待される。また、約5. 8億年前の微化石がこれまで形態的特徴によって決定されてきた分類以上に多様な生物を起源とする可能性がある。
著者
永田 晋治
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

昆虫の摂食行動に関わる生体内分子の探索を行なった結果、カイコ(Bombyx mori)の幼虫から新規のペプチド性因子を2 つ見出すことができた。ともに機能は未知であるが、脂肪体で発現し体液中に分泌するペプチドであり摂食行動や栄養要求に関連することが示唆された。
著者
立木 美保
出版者
独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

エチレンは果実の成熟・老化を促進させるため、果実の鮮度を保持するためには、その作用を抑制させる必要がある。1-MCPはエチレン受容体に作用する強力なエチレン作用阻害剤であるが、その効力が樹種によって異なることが報告されており、本剤によるエチレン作用阻害機構について分子レベルでの解明が求められている。昨年度の研究結果より、1-MCP効果による鮮度保持効果が高いリンゴ果実では、1-MCP処理後エチレン情報伝達系を負に制御しているエチレン受容体が蓄積していることが明らかとなった。そこで、今年度は1-MCPの効果が低いモモ果実を用いて解析した。1-MCP処理したモモ‘あかつき'の果肉硬度は、収穫3日後まではやや高い傾向を示したが、5日後には無処理区と同じレベルに低下した。また、エチレン生成量は、1-MCP処理した果実において処理2日後に一過的な増加を示したことから、処理後1〜3日までは、硬度、エチレン生成量とも1-MCPの影響を受けていると推測された。従って、モモにおける1-MCP効果が低い原因として、エチレン受容体と1-MCPの親和性が低いという理由は当てはまらないと考えられた。モモよりエチレン受容体遺伝子Pp-ETR1およびPp-ERS1を単離し、1-MCP処理した収穫後果実における発現様式を解析したところ、無処理区および1-MCP処理区においてPp-ETR1及び年Pp-ERS1の発現量は大きな変化を示さなかったことから、エチレン受容体の発現制御において、モモではリンゴほどエチレンの影響を受けないと推測された。1-MCP処理期のエチレン生成量が、1-MCP効果に影響を及ぼす可能性が考えられたが、リンゴ果実では収穫直後ならばエチレン生成量が多い場合でも、1-MCPの効果は高いことが明らかとなった。
著者
朝倉 政典
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

代数的サイクルと混合モチーフについて研究している。混合モチーフは数論的代数幾何学における壮大な構想であり、理論として確立されたあかつきには、代数幾何学のみならず整数論へも数多くの深い応用をもつことが期待されている重要な分野である。しかし多くの優れた研究者の努力にも関わらず、混合モチーフはいまだ定義すらない極めて研究の困難な分野でもある。私は特に複素数体上の混合モチーフの理論を確立することを目的として研究してきた。これまでに、数論的ホッジ構造という概念を導入し、代数曲面上の0-サイクルや、代数曲線のK群についてのブロック予想について研究してきた。本年度の研究では、代数曲線のK群に関して新しい方向へ踏み出していった。より詳しく説明すると、これまで研究によって代数曲線のK群の研究にはベイリンソン・ホッジ予想が鍵となることが分かっているが、その予想を管状近傍型多様体に対して一般化することを試み、肯定的な結果を得ることができた。但し、予想そのものは未だ解決されておらず今後の研究の進展が待たれる。更にこの研究から派生する問題として、クレメンス・シュミット完全列に関する研究結果を得た。これは既に投稿済みであり掲載が決まっている。
著者
野村 幸世
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

Hcmizygote F1マウスは50頭しかそろえられず、50頭にメチルニトロソウレアを投与した。そのうち、投与開始より1年間生存したものは36頭であった。メチルニトロソウレア投与により、その投与濃度にかかわらず、ほぼ100%胃癌の形成が認められた。また、100%に胃以外の臓器にも癌が認められた。担癌臓器はリンパ節、肝臓、肺、脾臓であった。肺以外は胃癌の転移と考えられた。採取した胃はまだすべての解析が終わっていない。すでに解析が終了した5頭においては、すべて組織学的にも担癌であった。5頭のうち2頭は癌が多発していた。これを含む9病変のうち4病変はポリクローナルであった。しかし、これが衝突癌である可能性は否定できるものではない。以上のすでに解析済みのものは、凍結切片にて施行したが、凍結切片では、HE染色像もあまりクリアでない。クローナリテイの解析に使用しているX-gal法そのものは凍結切片でないと不可能であるが、β-galactosidascの免疫染色であれば、パラフィン切片でも可能である可能性があり、今後、これによる解析を検討中である。現在のところ、パラフィン切片に対するβ-galactosidascの免疫染色自体の条件が確率できていない。また、ポリクローナルに見える腫瘍において、真に上皮細胞がポリクローナルであることを証明するために、連続切片におけるケラチンの免疫染色を検討中である。また、発癌剤投与により、X染色体不活化そのものに影響が出た可能性も否定できないため、現在、Homozygousのマウスを作成中であるが、これは出生率が低いため、今だにいる。これが得られたあかつきには、再び、これらにMNUを投与する予定である。
著者
田村 隆雄
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は入手が容易な河川水位データや地形図データを元に,中小流域以上の河川流域に置いて,雨水流出や物質流出を容易に行うことのできる汎用的な分布型流出モデルを構築することが目的である.平成19年度は,雨水流出については,一級河川吉野川上流域を対象にした流出解析を行い,森林斜面の保水能の評価などを行った.物質流出については,小雨年であったため使用に耐えうる洪水時の水質データを観測することができずモデル解析も行えなかったが,吉野川上流域の本流及び支流(例:貞光川,銅山川など)対象にした,平水時の詳細な水質観測を通して,土地利用状況や地質と水質特性(溶質濃度やヘキサダイヤグラムの形状特性)との関連性を検討し,物質流出を対象とした分布型流出モデル構築のための重要な知見の蓄積に努めた.成果をまとめると以下の通りである.1.雨水流出を対象とした分布型流出モデルを吉野川上流域の洪水時水文データに適用して,小流域毎(1km^2〜25km^2)の保水能の評価を行うことができた.植生の異なる岩木川上流域の森林流域の保水能と比較したところ,スギ人工林である吉野川上流域の保水能とブナ天然林の岩木川上流域の保水能はほぼ等しいという知見を得た.2.貞光川,銅山川,早明浦ダム上流の吉野川の3流域を対象にして,1流域当たり20箇所程度の詳細な平水時水質観測を行い,土地利用状況や地質と水質特性の関連性を検討した.その結果,珪酸は地質地形(崩壊地)及び土地利用(鉱山)の影響を強く受けること.硝酸は田畑や集落の近くで濃度が高いほか,上流での用水取水があるとその下流の濃度が高くなる傾向があることなどが分かった.
著者
井上 貴章
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

口腔癌の手術後は顎骨欠損や歯牙欠損を伴い、咀嚼、嚥下、構音などの重要な口腔機能や審美性が著しく損なわれ、患者の社会復帰の障害となる。そのリハビリテーションの手段として、顎補綴治療が行われるが、特に上顎の顎補綴では、個々の症例に差があり、様々な治療経過、術後経過をたどるため、術者や施設により治療方針、治療評価が異なる。このため、顎補綴治療の限界や可能性が不明確な状況で治療が行われているのが現状であり、的確な診断、治療方針、治療評価を確立することが必要である。上顎顎補綴の研究としては、上顎欠損患者と補綴装置に関する実態調査、顎義歯の設計に関する模型実験、顎義歯の機能時の動態と下顎運動との関係などが行われてきた。また、顎義歯本体の動特性を明らかにするため、振動解析が行われてきた。今回、顎義歯本体の振動解析結果との比較と顎義歯装着時の振動解析を行うための予備実験として、三次元有限要素法を用いて、顎義歯荷重時の応力分布について解析、検討した。実験モデルは上顎右側第一第二小臼歯、第一第二大臼歯欠損を伴う上顎右側部分切除症例を想定した。モデルの物性値ならびに栓塞部の設計はこれまでの報告を参考にした。栓塞部の形態を充実型、中空型、天蓋解放型の3種類とし、床の材質はレジン床のみとした。解析は、パーソナルコンピュータにて、汎用有限要素法解析プログラムCOSMOS/M(SRAC社/(株)大塚商会)を使用し、三次元線形静解析で行った。荷重点は顎義歯の左側第一大臼歯人工歯相当部に設定し、総荷重98Nの垂直荷重を付与した。直接維持装置として右側犬歯部、間接維持装置として左側第一第二小臼歯部、左側第一第二大臼歯部を拘束した。結果は、3種とも維持装置の基部に応力の集中がみられ、特に左側第一第二小臼歯基部への応力の集中が大きかった。今回の実験は解析ソフトに制限があり、モデル上にクラスプを設置することが出来なかった。今後は実験モデルをより詳細に作成するとともに、支持組織の性状、荷重条件、拘束条件、材質などによる影響についても検討していきたい。