著者
兵頭 慎治
出版者
愛媛大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

1. ヒトにおける子宮内膜内Side population cellの発現と着床不全との関連性についてヒトの子宮内膜においてもSide population cellの発現はマウスと同じように変化するのか。愛媛大学医学部附属病院産婦人科不妊外来受診患者および同院良性疾患手術患者より文書にて同意書を作成した上で子宮内膜および末梢血を採取し、それぞれに含まれるSide population cell数をフローサイトメトリーを用いて測定した。採取時期は月経期・卵胞期・黄体期にわけて採取した。また検体採取時に経膣超音波検査断層法を用いて子宮内膜の厚さを測定し、血漿中のEstradiolおよびProgesterone濃度をCLIA法にて測定した。それぞれの月経周期におけるSide population cellは子宮内膜上皮・子宮内膜間質・末梢血のいずれにおいても黄体期に高値を示した。しかしながら子宮内膜の厚さとSide population cellとの間には末梢血においては相関性がみられた(r^2=0.151,p<0.05)が子宮内膜上皮・子宮内膜間質においては相関性がみられなかった。さらに末梢血におけるSide population cellの数と血漿中のEstradiolおよびProgesteroneとの間に正の相関が認められた(r^2=0.171,p<0.05;r^2=0.218,p<0.01)。さらにフローサイトメトリーを用いて分離したSide population cellを10^8Mの17β-estradiolを含むDMEM/HamF12培地で培養し、7週間後には間質・上皮から分析したSide population cellから5cells/dishの間質細胞への分化が認められた。子宮内膜由来のSide population cellは、子宮内膜の増殖・分化に関与している可能性が考えられる。
著者
藤井 律之
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

今年度は、前二年度におけるデータをもとに論文を作成したので、その要旨を以て概要に代える。魏晋南北朝時代、とくに東晋から南朝では、官職の清濁が選挙の基準であり、官品が官人の地位を表象しなかった。そのため、官職の兼任によって、官僚の地位を昇進させる場合があった。官職の兼任は、従来注目されてこなかったが、侍中領衛(侍中が左右衛将軍を兼任すること)に代表される、侍中と内号将軍(西省ともよばれる)の兼任は、兼任によって地位が異動することを示す典型的な事例である。侍中は、尚書令へと続く最上級官僚の昇進経路のスタートにあたり、南朝では、侍中→列曹尚書→吏部尚書、中領軍・中護軍→尚書僕射、領軍・護軍将軍→尚書令という昇進経路が確立していた。それと並行して、侍中→侍中領五校尉→侍中領前軍・後軍・左軍・右軍将軍→侍中領驍騎・游撃将軍→侍中領左右衛将軍(→尚書令)という序列が形成されていた。これらのうち、侍中と驍騎・游撃将軍以下の内号将軍の兼任は、疾病による任命が多いことから、職掌は期待されておらず、官人の地位の上下を示すだけであった。それは、宋中期以後、驍騎・游撃将軍の定員が無くなり、必ずしも実兵力を統括しなくなったこと、また、侍中も才能ではなく、家柄や外見を基準に選ばれるようになっていたからである。侍中による序列が形成された理由は以下のように考えられる。1:東晋末から宋初に、侍中と左右衛将軍を兼任した人物が政局を左右し、そのため侍中領衛が高く評価されるポストとなった。2:侍中が昇進先にあたる列曹尚書よりも清とみなされ、当時の官人は昇進経路を逆行してでも侍中に任ぜられることを望んだため、侍中と他の官職を兼任させることによって官人の地位を昇進させることが行われ、侍中領衛へとつづく、侍中と内号将軍の序列が形成された。3:散騎常侍が濫発された当時において、代替として内号将軍を兼任することが当局に歓迎された。
著者
沼田 倫征
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

tRNAアンチコドン一文字目の塩基修飾は,コドンの適正な縮重を制御しており,正確なタンパク質合成にとって重要である。グルタミン酸,リジン,グルタミンをコードするtRMのアンチコドン1文字目のウリジンは,全ての生物種において修飾を受け2-チオウリジンとなる。アンチコドン1文字目のウリジンに導入される硫黄はシステインに由来しており,反応性に富む過硫化硫黄中間体となって硫黄リレータンパク質(IscS,TusA,TusBCD,TusE)を移動し,tRNAチオ化修飾酵素であるMhmAに引き渡される。本研究では,tRMへの硫黄転移反応を解明するために,IscS-TusA複合体,TusA-TusBCD複合体,TusBCD-TusE-MnmA複合体,TusE-MnmA-tRNA複合体の結晶構造解析を目指している。これまでに,IscS,TusA,TusBCD,TusE,MnmAの大腸菌を用いた大量発現・精製系,およびT7 RNAポリメラーゼを用いたin vitroにおけるtRNAの大量調製系を構築し,それぞれの複合体の結晶化条件の初期スクリーニングを行った。現在までに,いくつかの複合体に関して予備的な結晶を得ており,現在,結晶化条件の最適化を行っているところである。TusE-MnmA-tRNAからなる三者複合体結晶については,大型放射光施設にて回折強度を測定し,分解能5Å程度の回折データを収集した。
著者
松本 和紀
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、統合失調症(精神分裂病)の記憶機能に注目し、これが統合失調症の病態といかなる関わりがあるかを明らかにするために行った。報告者の研究により統合失調症では、記憶や言語機能を反映する事象関連電位反復効果に異常があることが見いだされているが、今回は特にこの反復効果が、統合失調症に特徴的である思考障害の基盤にある認知神経異常として現れると考え実験を行った。対象は、健常対照者10名、統合失調症患者19名で、患者はDSM-IVの基準を満たし、検査時には寛解期にあった。いずれの被検者に対しても研究について書面でのインフォームドコンセント行った。思考障害の評価にはホルツマンらの思考障害評価尺度を用いた。統合失調症患者は、この尺度に基づき思考障害群9名と非思考障害群10名に分けられた。反復効果課題施行中の事象関連電位が測定された。刺激は、かな二文字からなる単語で、標的は動物を意味する単語、非標的はそれ以外の単語を用いた。非標的の半分は初回提示の後に反復され、その半分は直後に反復される直後反復で、残り半分は平均5単語おいて反復される遅延反復であった。思考障害群では、有効な反復効果は認められず効果の大きさは刺激提示後300-500ミリ秒の平均振幅で健常群と比べ有意に減弱した。非思考障害群は部分的に反復効果を認め、効果の大きさは健常者と思考障害群との中間であった。反復効果の頭皮分布は、思考障害群では健常群や非思考障害群で認められる正中有意の分布を示さなかった。反復効果は、記憶や言語などの認知機能と関わりが深いことが知られており、特に刺激提示後400ミリ秒近辺の電位はN400成分と関わりが深いことが知られている。本研究の結果、思考障害を有する統合失調症患者では、N400の調整機構が障害されており、記憶や言語と関わる認知機能が思考障害の基盤にある可能性が指摘される。
著者
是永 かな子
出版者
高知大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は多文化共生社会スウェーデンにおけるインクルージョン教育の展開を、実践的、制度的、歴史的観点から分析することを目的とする。本年度は、主にインクルージョン教育が成立する背景と展開過程を検討した。具体的にはノーマライゼーションが提唱され、義務教育学校としての基礎学校が創出された1960年代以降現在に至る、通常学級での個のニーズに応じた教育の展開を分析した。本年度の研究活動は、スウェーデンでの実地調査および研究交流と、日本国内での国際交流と学会発表および論文執筆であった。まず、平成19年4月にはスウェーデン・パティレ市の知的障害特別学校長、特別教育家らを高知大学に招聘し、附属特別支援学校の教員や通常小学校の教員を交えて、日本の特別支援教育とスウェーデンのインクルージョン教育について意見交換を行った。次に平成19年10月22日-31日に渡瑞して、実地調査および資料収集を行った。それらは第一にスウェーデン・パティレ市のインクルージョン教育の実践についての調査研究であり、第二にマルメ市の大学病院内ハビリテーリングにおける障害をもつ子どもを支援する個別サービスチームの編成など医療と教育の連携体制の整備の検討、第三に自閉症学校を訪問して分離的教育措置による個に応じた教育の保障の考察、第四にイェーテボリ大学教育学部図書館におけるインクルージョン教育関連文献の収集、第五にイェーテボリ大学教育学部のJan-Åke Klassonらと意見交換を行いインクルージョン教育に関する最新の研究動向を把握すること、である。最後に、平成20年3月にも渡瑞して、同様の内容で学会発表、実地調査および資料収集を行った。日本国内での学会発表は8月4,5日の日本発達障害学会、2007年9月22,23,24日の日本特殊教育学会、2007年9月29,30日の日本教師教育学会であった。日本国外での学会発表は2008年3月6,7,8日の北欧教育学会であった。また、研究の成果を分担執筆として公表した。
著者
BERTHOUZE Luc
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

The purpose of the study was to understand the mechanisms underlying early locomotor skill acquisition by replicating the bouncing study of Goldfield et al. (developmental psychology) by using a robot strapped to a Jolly Jumper. Such replication was expected to help construct hypotheses and predictions on the key requirements for the acquisition of motor skills in humanoid. A small biped humanoid robot was constructed for the purpose of the experiment. In human infants, the natural compliance of the infant's musculoskeletal system reduces the dynamic loads of bouncing. In robots, however, mechanical compliance has a negative influence on positional accuracy, stability and control bandwidth. Compliant extensions were constructed using visco-elastic material placed in brass bushes and mounted in series with the actuators. A compliant foot system was implemented as using springy toes and a rigid heel. While compliance provided the damping necessary to cut off oscillations at an early stage, it also induced backlash, which from a control point of view, results in delay in the feedback loop. For robust jumping performance to occur, those delays must be compensated for by the control structure. A control structure based on biologically-plausible oscillators (Bonhoeffer-Van de Pol) used as pattern generators, was developed. It was shown that the architecture displayed flexible phase locking whereby the oscillators could entrain to sensory feedback from sensors placed under the feet, even in the presence of large delays. This property of flexible phase locking makes the choice of a particular organization of oscillators less critical than when harmonic oscillators are used, especially when self-tuning of the oscillators' time constants is possible ("tuning" phase studied in year 15). Robustness to environmental perturbations was tested systematically. The control framework showed to be very flexible, with rapid adaptations to changes in ground height for example.
著者
松尾 裕彰
出版者
広島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

昨年度に行った研究で、健常人においてアスピリン以外の非ステロイド性抗炎症薬であるロキソプロフェンナトリウムやジクロフェナクにもアスピリン同様に小麦製品摂取後の血中グリアジン濃度上昇作用があること、および、非ステロイド性抗炎症薬のなかでもシクロオキシゲナーゼ2を選択的に阻害するメロキシカムはその作用がほとんど無いことを明らかにした。本年度は、血中に検出される小麦グリアジンの性状および生物学的活性を明らかにする目的で以下のとおり実施した。健常人3名にアスピリン(1000mg)を投与し、30分後にうどん(小麦粉120g)を摂取させ、試験前及び食後0,15,30,60,120,180分に採血を行った。食後60分の血清から70%エタノールによりグリアジンを抽出し、ゲル濾過HPLC(TSKgel-2000)により解析した結果、分子量約3万をピークトップとするブロードなピークが認められた。すなわち、グリアジンは抗原性を有する高分子の状態で吸収され血液中に存在していることが示唆された。また、血清を直接ゲル濾過により分析すると、分子量3万のピークに加え免疫複合体と推測される分子量10万以上のピークが認められた。次に、血清中に検出されるグリアジンの抗原としての活性を、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー患者由来好塩基球を用いて評価した。その結果、健常人の血中に存在するグリアジンは好塩基球からのヒスタミンを遊離する活性をもつことが明らかとなった。さらに、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー患者の小麦負荷試験時の血中に存在するグリアジンは、同様に好塩基球からのヒスタミン遊離活性を有することが示された。以上の結果は、非ステロイド抗炎症薬の服用が食物抗原の吸収を促進することを示唆するものである。従って、非ステロイド抗炎症薬の服用は食物アレルギーの症状誘発やアレルゲンへの感作段階における危険因子であると考えられた。
著者
宇都宮 啓吾
出版者
大谷女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

従来より纏まった形ではその全体像を把握し難い天台宗系統の訓点資料の研究を行ない、現在は天台真盛宗総本山西教寺の聖教に注目して、天台宗山門派の聖教を個別に調査して来た。その結果として、西教寺正教蔵に存する訓点資料の全ての抽出とその書誌的データと目録化、および、南北朝以前の訓点資料を含めた古写本全ての撮影とデジタルアーカイブ化が完了した。また、その成果を踏まえて、以下の如きことも明らかになった。(1)西教寺聖教の中の正教蔵とされる聖教が比叡山西塔北谷正教坊を由来とする聖教であること。(2)その実態は天台僧舜興によって集書され、舜興は比叡山葛川の総一和尚となるなど、幅広く活躍する人物として多くの聖教を収集できる立場にあったこと。(3)西教寺正教蔵に存する訓点資料の具体的な把握が可能となった。(4)更に、特に注目される個別の訓点資料(具体的には、『無量義経疏』寛平点・『妙法蓮華経』院政期字音点等)に関する国語学上の意義付け。(5)比叡山における聖教調査における里坊を視野に入れた調査の重要性上記の如く、西教寺正教蔵の解明が比叡山西塔北谷正教坊の解明へと繋がり、更には、天台宗山門派系統の聖教解明として発展できることが明かとなり、目録が公開されることによって、他の研究者にも大きく寄与出来るものと思われる。
著者
松下 暢子
出版者
川崎医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.ニワトリB細胞株DT40からジーンターゲティングによってFANCG、FANCD2、FANCCの欠損細胞を作製した。これらの欠損細胞はいずれも、クロスリンク薬剤感受性などヒトのFA患者細胞と類似した表現型を示し、FAのモデルと考えて適切と思われた。2.以下のアッセイを用いて相同組み換え(HR)におけるFA遺伝子の役割を検討した。(1)ジーンターゲティング効率をいくつかの遺伝子座へのターゲティングベクターを用いて解析すると、FANCGでは数10%程度の軽度の低下、FANCD2では90%以上のはっきりした低下が見られた。(2)染色体にノックインした人工組み換え基質SCneoに制限酵素I-SceI発現によって二重鎖切断を誘導できる。その修復がHRによってただしくおこなわれれば、活性のあるneo耐性遺伝子が再構成され、G418存在下に培養しコロニー形成数をカウントする事によりHRによる修復を測定可能である。Neo耐性コロニー数はFANCG欠損で9分の1、FANCD2欠損で約20分の1に低下していた。このdefectはニワトリFANCG、FANCD2の発現によって正常化可能であった。(3)放射線照射0〜3時間後にM期に入って来る細胞はS期の末期からG2期にかけて照射されたものと考えられる。この時期に行われるDNA二重鎖切断修復は主にHRによるものであることがわかっている。このとき見られる染色体断列をカウントするとFA遺伝子欠損細胞では野生型に比べ明らかに増加が見られた。このデータはFA遺伝子のHRにおける役割と矛盾しないと言える。以上のデータは、FA遺伝子のHR修復における役割を明確に示したはじめてのものである。
著者
吉田 伸治 岸 由紀子 米田 真梨子 蘇 鐘玉 井上 理史
出版者
福井大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

数値シミュレーションに基づく屋外歩行者の移動・滞留に伴う温熱環境の変化を考慮した歩行空間の温熱快適性の評価手法を開発した。本研究では、被験者実験、屋外温熱環境実測により歩行空間の温熱環境の現状を把握・分析し、数値解析手法の開発に活用した。本研究で提案する数値解析手法は、今後、公園内の散歩コース内の緑陰、休憩地点の適切な配置、並びに街路内の温熱環境評価への適用が期待される。
著者
寺井 誠
出版者
(財)大阪市文化財協会
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本年度は2回(計10日)の韓国での資料調査と、8回(計16日)の国内資料調査を行った。韓国での資料調査では日本に搬入例の多い全羅道に重点を置いた。この結果、甑や鍋などでも全羅道と慶尚道の違いを把握することができ、今後日本の出土例にも適用できる見通しができた。また、京畿道の遺跡で出土している楽浪系土器についても実見する機会を得た。ロクロを用いている点は楽浪土城のものと共通するが、格子タタキが採用されているなど、異なる点も多い。今後、日本で出土している楽浪系土器についても楽浪郡以外の土器か否かは注意しなければならない。国内調査では壱岐・福岡市・香川県・愛媛県・島根県・神戸市の資料を調査した。特に、これまでも注意していた模倣・折衷土器の情報収集に力を入れ、在来土器に朝鮮半島的要素である格子タタキや耳が加わった土器などを重点的に調査した。その結果、島根県出雲市の中野清水遺跡で全羅・忠清道タイプの両耳付短頸壺を模倣した土器が明らかになり、この種の壺の模倣・折衷例が北部九州に限らないことが明らかになった。なお、日本出土の両耳付短頸壺については6世紀までのものも含めて朝鮮半島からの搬入例や日本での模倣・折衷例について集成し、検討を加えた。さらに、国内での資料調査や報告書による情報収集によって、古墳出現前後の朝鮮半島系土器についてのデータベースを作成した。この作業を通じて、全体的には全羅・忠清道系の土器が多いものの、対馬・壱岐には慶尚道の土器も比較的多いことがはっきりした。また、全羅・忠清道系の土器は日本で楽浪土器が減少し始める古墳時代初頭以降に増加することも明らかになった。今後これらのデータについて研究発表を通じて公表し、学界に寄与したいと考える。なお、本課題研究の成果の一部は、大阪府立弥生文化博物館の平成16年秋季特別展『大和王権と渡来人 三・四世紀の倭人社会』に展示協力することによって、還元することができた。
著者
富井 尚志
出版者
横浜国立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

3DCGデータと、利用者の知識情報を一つのデータベース(DB)に統合化し、時空間情報を共有・検索できる「時空間情報の知識ベース」の構築方法論は、DB研究の中でも注目を集めているテーマである。本研究では、知識情報と3D形状データとを明示的に結びつけるモデル化手法によって実現手法を提案し、高度な空間共有システムの実現性を示してきた。平成16年度は、これまでの研究成果の総括として、本モデル化手法の応用事例の評価と検証を行った。すなわち、「オントロジー存在エンティティー生データ(三次元データ)」の3層構造スキーマモデル化手法を応用した「高度コミュニティ空間」システムを設計し、実装の上、評価を行った。応用事例その1として、「オフィスグループウェア」の設計・実装・評価を行った。具体的には、物を「しまう」など、単なる座標の変更の背後にある「操作の意図」を表現するモデルを導入し、データベースで共有できるような「オフィス仮想環境」の実装と評価を行った。これによって、その背後にある「意味」や「意図」を明示化し、共有・検索できる仮想空間ブラウザを実現した。応用事例その2として、診断支援を目的とした医用画像所見情報の共有を実現する、PET画像データベースの構築手法を提案し、評価を行った。PET画像は、CTやMR画像と本質的に異なり、画像内に生理学的・病理学的情報を含んだ新しい画像データで、読影に際して専門的な知識を要求する。これに対し、本手法によって、単にPET画像(=3次元画像データ)を蓄積するだけでなく、読影時の所見情報(=知識+存在に関するエンティティ)も登録しておくことで、後に診断支援となる検索を行うことのできるPET画像データベース構築手法を提案した。実際にプロトタイプ上でその実現性を示し、効果的な検索が実行できることを示した。
著者
金井 崇
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

近年,インターネットによるネットワーク環境下でリアルタイム3DCG(3次元コンピュータグラフィクス)を表現するためのWeb3Dと呼ばれる技術が進展著しく,さらに,ユーザがWeb3Dコンテンツを閲覧・操作するクライアント端末のハードウェアやその環境が多様化してきている.その一方で,対応する技術がまだ未整備であることや,Web3Dで利用される高品質な形状表現形式が整備されていないなど,Web3Dはまだ世の中に広く浸透・普及しているとは言い難い.そこで本研究では,ネットワーク環境下における3Dコンテンツの品質の向上のための技術,および,Web3Dにおいて多様化するユーザの利用環境に対応するための技術を確立することを目的とする.そのために,ここでは近年の進展著しい曲面表現である陰関数曲面に注目し,Web3Dにおける高品質な3Dコンテンツの閲覧・操作のための基盤技術を開発した.
著者
藤波 朋子
出版者
昭和女子大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

昨年に引き続き、古糊と呼ばれる小麦デンプン糊を原料とした糊料の製造過程における経年変化を微生物関与の側面から考察し、微生物によるデンプン糊の分解機構をより詳細に解明するための基礎資料を蓄積することを目的としており、本年度は主に経年による微生物生産物の変化・傾向をとらえることに主眼をおいた。使用試料は平成16年2月に生成期間にある貯蔵糊容器中から糊上に張った水・糊を採取し、研究に供した。糊試料については昨年度の研究結果と合わせ考察を加えるため、各容器中より糊塊表面部と糊塊の内部の2箇所から採取を行った。糊試料については水分・還元糖量を測定し、同一容器内の糊塊の表面及び内部の状態及び分解生成物の相違を検討した。またその結果とDSCによるデンプンの熱分析、酵素科学的にデンプンの特性を把握することと合わせ、経年によるデンプン分解の傾向を把握することを計画していた。また、水試料については昨年度に引き続き有機酸分析を行い、同一容器中での変化を調査すると共に、その変化量と経年との関連性についてより考察を加える予定であった。研究廃止により未遂行事項は水試料の分析および糊試料の酵素科学的分析についてであり、それらを含めた検討は終了していない。なお、6月12〜13日には文化財保存修復学会において、昨年度の研究成果の一部についての発表を行っている。
著者
石原 光則
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,衛星データを用いた陸域植生による炭素吸収量推定手法を高精度化することを目的に,地上で観測された分光反射率データ,二酸化炭素フラックスデータ,衛星データを用いて検証を行った。その結果,MODIS(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer)データを用いて,光化学反射指数(Photochemical Reflectance Index, PRI)の算出が可能であり,この指標から光利用効率(Light Use Efficiency, LUE)を推定して用いることにより,衛星データを利用した陸域植生の純一次生産量広域推定の高精度化が可能であることが明らかとなった。
著者
高玉 圭樹
出版者
電気通信大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,介護施設において深刻な問題となっている高齢者の徘徊ケア(夜間の定期的見回りと寝つかせ支援)を軽減させるために,(1)各々の高齢者に適合した睡眠段階推定,(2)体調の変化にロバストな睡眠段階推定,(3)起床直前判定のためのレム睡眠段階推定の3つの機能を有する介護支援システムを提案し,その有効性を被験者実験を通して検証した.
著者
野村 信威
出版者
明治学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では施設入居高齢者を対象としたグループ回想法を実施し,回想法による認知機能の効果および認知症予防における有効性を検討するとともに,質問紙調査による縦断研究から日常場面で行われる回想が心理的適応に及ぼす影響の検討を試みた。グループ回想法は認知症の症状がない施設入居高齢者に対して週1回の頻度で8回実施した。認知機能への効果を検討した結果,約半数の参加者では改訂長谷川式簡易知能評価スケールの得点の上昇が認められたものの統計的には有意な効果は認められなかった。質問紙調査の結果からは,過去を想起することと想起した過去を語ることに異なる心理的意義が認められた。
著者
高倉 浩樹
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、シベリア・ヤクーチア地域の先住民社会を対象とし、歴史的・政治経済的条件のなかで、先住民の民俗環境知識の生成メカニズムの解明を目的としている。最終年度である2004年度においては、前年度までに収集してきたフィールド民族誌資料を整理すると共に、文献資料を行い、国内の専門家と意見交換を行いながら、研究を進めた。結論から言うならば、当該地域の先住民の民俗環境知識は、畜産学・家畜管理学的な知見に基づく農業政策の影響をうけながらも、放牧活動を実践する牧夫達の経験的知見の相続そして個人的な発見によって生成されている。ただし、その知識はいくつかの相に分類でき、そのことはヤクーチア地域の社会主義化=集団化・定住化と深く結びついている。知識は、(1)家畜の再生産、特に獣医学的な知識にかかわるもの、(2)家畜の群れとしての行動についての知識、(3)牧夫達が家畜管理を行う際の放牧地選定及び宿営地設営にかかわる知識である。類型的に述べると(1)から(3)の順で科学的知識の影響は弱くなり牧夫の経験的な知識が重要性を増すことになる。そのことは、これらの知識が共有される人々の量に関連する。つまり(1)に近いほど、この知識を共有する(あるいは蓄積しうる)社会的階層が人々が多く(3)については牧夫などに限られる。従来、科学的知見は専門家集団に限られ、経験的知識はより幅広い層に認められるという理解であるが、これは歴史的・政治経済的条件のなかで生業という活動に従事する人々自体が先住民コミュニティのなかで少数化していることを示している。主たる成果は、ソ連時代に科学的な畜産技術・家畜管理学的技術が導入されたトナカイ飼育のなかで、牧夫達の移動距離や行動パターンを質的・量的に把握し、群れ管理の技術と知識の位相について論考を出版したことである。第二に、その広い意味での歴史的背景を明らかにした。1920-30年代の初期ソビエト政権においてヤクーチアの民族知識人がみずからの生業の産業化の過程をどのように評価していたのか、民族学史・科学史という視点で考察した論考を出版した。さらに、上記にのべたメカニズムをより具体的な民族誌的文脈に即した論考の出版を計画している。
著者
高谷 康太郎
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

冬季東アジアモンスーンの経年変動に伴う偏西風変動には大まかに二つのパターンがあることを明らかにした。これらのパターンは冬季モンスーンの変動を考える際の「基本」となるものである。また、北日本の冬季気候に大きな影響を与える北極振動の時間発展の力学も明らかにした。さらに、熱帯海水温と冬季気候の関係を精密に解析し、今まであまり注目されてこなかった事実を明らかにした。これらの成果により、冬季東アジアモンスーンの経年変動の力学の理解および予測可能性の精度向上に貢献することができたと考えられる。
著者
塩崎 麻里子
出版者
近畿大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

終末期の治療選択に際するがん患者と家族に対する心理的支援プログラムを開発するにあたっての基礎的な知見を得ることを目的に,一般成人を対象とした意向調査とがん患者の家族を対象にしたインタビュー調査を実施した.結果から,従来までの意思決定モデルを終末期の治療選択に応用する上で,以下の3点を考慮する必要があることが示唆された.第一に,患者と家族の未来展望が判断の枠組みに影響すること,第二に,延命治療に対する信念は直感的な意思決定を促すこと,第三に納得できる意思決定の判断基準は患者と家族で異なることである.今後,終末期の意思決定に関するモデルを実証的に検討し,より実態に沿うよう改良していく必要がある.