著者
住吉 和子
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.食事摂取量を把握するための質問項目と、認識を把握するための質問項目の抽出医学中央雑誌、Medlineを用いて「食事調査」「認識」について検索を行い、食事摂取量を簡単に把握するための質問紙の検討を行った。使い捨てカメラを用いて1週間分の食事をすべて撮影してもらい、終了時に作成した質問用紙に答えてもらい、質問紙の精度を確認した。認識については、文献の自尊感情など既存の尺度と昨年のインタビューの結果から検討し、糖尿病性腎症に特有な項目を加えて質問項目を抽出した。2.糖尿病外来における糖尿病性腎症患者の事例検討O大学附属病院の糖尿病外来に通院している糖尿病性腎症と診断された3名について、昨年のインタビューから得られた結果をもとに、介入を行った。認識について共通していたのは、この先どうなるのかという将来への不安、「不確かさ」であり、このことについては、医療者にも家族にも相談できないで一人で抱えていた。この不確かさが、内服を中止したり、食事を今までどおりの内容で摂取したりという行動に繋がっていることが明らかになった。3名のうち1名は、「不安はあるけどできるだけ生活を楽しみたい」と前向きに考えているため、病院で指導されたとおりでなく、まず食べたいものを少しは食べて、平均的に塩分の摂取量や蛋白質の摂取量を調節するなど工夫をしており、結果として病状は安定していた。糖尿病教室など患者間の交流が自己管理行動を継続するための大きな要素となるが、糖尿病性腎症を合併した人には患者がお互いに交流する機会がないことも自己管理行動の継続を困難にしている要因であると考えられる。また食事療法については、既存の報告と同様に、患者自身が受け入れて生活に取り入れるまで約3年の月日が必要であることが確認できた。3.今後の課題今後の課題として、保存期にある腎不全患者が、健康を維持するために医療者や患者間で気軽に悩みを話すことができる場が必要である。蛋白制限に変更になった患者に医療者の関わり方についても検討する必要が示唆された。
著者
下川 勇
出版者
福井工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

平成19年度は、平成17年度から行ってきたイタリア現地での建物の実測、建物に関連する資料の収集について、データ整理と資料の読解を実施した。そもそも本研究は、スカモッツィの建築作品がルネサンス後期、マニエリスム期、バロック前期の狭間に計画されたものであることから、その作品に時代の思想や様式の変化を見出すことを目的として開始された。現在のところ、スカモッツィの作品は、前期、中期、後期に分類でき、はっきりと表面化するものではないが、確かに時代の狭間に計画された、すなわち混沌とした時代の痕跡が建築様式に表れていることを見出している。今後の研究としては、この基本研究を継続していき、建築様式の系統化、そしてそれを裏付ける思想の中身を明らかにしていきたいと考えている。
著者
橋本 貴充
出版者
独立行政法人大学入試センター
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

大学入試センター試験は大規模データの分析に注目されがちであるが、受験者の少ない科目のための分析が必要である。そこで、事前情報を活用できる「ベイズ統計」を利用し、より適切な分析を行うことを試みた。まず、通常のモデルにベイズ統計を適用することに限界があることを明らかにした。次に、より適したモデルで分析を行うためのソフトウェアを開発した。最後に、受験者が少ないときの、そのモデルの振る舞いについて明らかにした。
著者
水越 あゆみ
出版者
帝京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

後期浪漫主義運動のリーダー与謝野鉄幹は、機関誌『明星』にて「われらは互に自我の詩を発揮せんとす」と高らかに宣言した。旧態依然とした旧派和歌を激しく攻撃した鉄幹は、伝統的な作歌上の煩雑な規則ではなく、「自我」を創作の根源にすえることを主張したのである。この新しい「自我」概念は、明治20年代から30年代にかけての浪漫主義を最も顕著に特徴づけるものである。明治20年代の前期浪漫主義を代表する北村透谷と島崎藤村は、多感な人格形成期に西洋文学、特に英国ロマン主義の洗礼を受け、その後自身の作品において「このおのれてふあやしきもの」(北村透谷『蓬莱曲』)の探究を続けた。明治30年代後期浪漫主義を代表する与謝野晶子は、ロマン主義の息吹を吹き込まれた新文学に触発されて藤村調新体詩の模倣から創作活動に入り、やがて千年以上もの伝統を持つ和歌の形式に「われ」の心情を読み込んだ「自我独創の詩」としての近代短歌を確立した。日本近代文学史におけて、明治浪漫主義は何より「自我」の発見・確立の試みというクリシェで語られる。しかし、「近代自我」のモデルとなった自律的主体としての西洋的自我が解体された現在、近代文学作品の評価基準として長らく自明のものとされてきた「近代自我」も再考を迫られている。さらに、「近代自我」の確立の歴史的プロセスとして構築されてきた「近代文学史」や、「近代文学」すなわち「国民文学」ももはや自明ではない。本研究は、英国ロマン主義と明治浪漫主義の比較文学研究的な視点から、「近代自我(the modern self)」「文学史(literary history)」「国民文学(national literature)」という諸概念を再考察するものである。
著者
松田 剛佐
出版者
京都工芸繊維大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

新出史料『白鳥方歴代記』(以下『歴代記』)を発見することができた。この史料の価値比定を行ったのち、同史料を手掛かりとすることで、近世の白鳥御材木場の活動状況を軸にして、建築材料としての木材に着目して研究を行った。『歴代記』の内容は、慶長五年から明治八年(1875)にわたる、白鳥御材木場の事跡について書かれたもので、御材木奉行の構成員の変遷、業務の詳細などが年次ごとに記されている。明治人年以降にそれ以前の日次記のような記録史料を手がかりに纏めたか、あるいは写して成ったものと思われる。白鳥御材木場の事柄のみならず、幕府・藩の徳川家関係の記録が、時には朱書きで、詳細に記されているのも特徴的である。筆者や年代を示すものは記されていないが、現在の研究成果から確認できる事項内容については齟齬が無いなどの検証を、類例史料から検討することで、『歴代記』が史料的に信頼のおけるものであることを明らかにした。また、この史料を用いることで、設立時から幕末にかけての「白鳥御材木場」の構成について、既往研究を補完しうる詳細な様相を明らかに出来た。さらに、近世初期の木曽材の木材需給について、江戸城御台所、出雲大社正殿の寛文七年遷宮用材といった、具体的な建築名がわかるものに関して、研究することが出来た。江戸城御台所用材は、きわめて長大なケヤキ材が必要とされたこと、出雲大社正殿遷宮用材などは、一度江戸の甲良家へ送り検分したことなどを明らかにすることが出来、木曽材の調達状況の一部を知ることが出来た。また、御材木奉行が兼任から専任に移行する課程も詳しく検討する手掛かりを得ることが出来た。これらの結果、白鳥御材木場の構成、および、具体的な建築用材の動きに関して、既往研究を補強しうる成果を得ることが出来たとともに、木曽材の調達状況が公需優先であったことを再検証することができた。
著者
神崎 亮
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

様々な組成のプロトン性イオン液体中における酸塩基平衡に関するいくつかの重要な反応熱力学量を決定し、その両性溶媒としての性質および酸塩基反応メカニズムを明らかにした.さらに典型的なプロトン性イオン液体である硝酸エチルアンモニウム中においていくつかの化合物の酸解離定数を決定し、このイオン液体が酸性溶媒であることを示した.
著者
竹内 裕子
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

嗅細胞シリア上に発現している情報変換チャネルの局在を更に詳細に調査した結果、シリア上に発現している情報変換チャネル(CNGチャネル・Cl(Caチャネル))が一様に分布していることを明らかにし、局所的なUV刺激により、ケージドCaを誘起させたことによる、Cl(Ca)チャネルの分布を明らかにした。本結果は学会・論文で発表を行った。学会発表は、2006年度 : 国際学会2件、国内学会件、2007年度 : 国際学会2件、国内学会1件、2008年度 : 国際学会3件、国内学会2件を行った。論文は全て査読つき雑誌に受理され、2006年The Journal of General Physiology (Chen et al.,)2008年The Neuroscience(Takeuchi H & Kurahashi T)、アロマリサーチ(Sugahara et al.,)に掲載された。
著者
武田 清香
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

はじめに、PCMと躯体蓄熱を併用した床吹出し空調システムについて、数値シミュレーションにより夏季冷房時のピークカットに有効な運転方法について検討した。1)午前中に循環風量を少なくすることで、床下からの過剰な放熱および室温の低下を防止できることを示した。今回の計算においては、最大32m^3/h/m^2に対し、70%の22m^3/h/m^2で送風する場合、良好な蓄放熱特性および室内環境が得られることがわかった。2)夜間10時間に加え、午前中にも冷凍機を運転して蓄熱を行うことにより、PCMからの放熱をピーク時間帯まで持続させる方法を提案した。6kg/m^2以上のPCMを用いる場合には、シーズンを通して高い夜間移行率でピークカットを行えることを示した。3)設定室温が28℃のとき、26℃の場合に比べ、午前中の室内温熱環境が改善される様子が確認できた。このときピーク負荷時間帯にもPMVはほぼ中立を示し、シーズンを通して快適な室内環境となることがわかった。続いて、同システムにおいて省エネルギー性を維持しながら外気処理(除湿)機能を付加することを目的とし、夜間蓄熱時の低温排熱を用いた潜熱顕熱分離空調システムを提案した。1)シリカゲル製ハニカムを用いた吸脱着実験から、総括物質伝達係数を1.0×10^<-5>m/sと同定した。2)デシカントシステムの給排気出口温湿度を算出する数値計算プログラムを作成し、デシカントシステムにおける低温排熱の利用可能性について検討した。40℃排熱を用いて再生を行うと、1段除湿の場合は必要除湿量の約4割、2段除湿の場合には約8割を賄えることが示された。また、デシカントシステムのみで全て除湿する場合、1段除湿で約90℃、2段除湿で約53℃の再生温度が必要であることがわかった。
著者
関 奈緒
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

[目的]親子喫煙防止教育を核として、学校・家庭・地域連携による地域喫煙対策を推進する。[方法]親子喫煙防止(防煙)教室効果を、平成13年度と同様のアンケート調査による子どもの意識、家庭内分煙実施状況の推移によって評価した。本評価をもとに、防煙学習プログラムと指導教材、住民参加型による包括的地域喫煙対策システムを開発し、評価指標を設定した。[結果及び考察]1)親子防煙教室により、親子の意識向上、子どもの喫煙意志抑制、家庭内分煙の推進が得られた。2)親子防煙教室及び調査結果の住民への還元は地域への波及効果が大きく、住民主導によるたばこ学習会、公民館等の分・禁煙化へ繋がった。親子防煙教室への地域住民の参加も急増し、児童・保護者・地域住民合同グループワークへと発展、参加者の意識が向上した。3)1)、2)をもとに、学校における学年別防煙学習プログラムと、地域防煙対策の学校・行政・地域の役割分担、防煙・分煙・禁煙支援の連携による包括的地域喫煙対策システムを開発した。システム検討には、住民を巻き込んだ参加型手法を採用し、早期より意識の共有化を図ったことから、事業化が円滑に行われた。連携の取り組みの一つとして、行政主催の禁煙教室の禁煙成功者を喫煙対策サポーターと位置づけ、学校の防煙学習、地域の分煙学習等に活用したが、これは非喫煙者、喫煙者間の相互理解や、禁煙希望者の増加等を促し、かつ禁煙者本人の禁煙継続の意識付けともなる等の効果があり、地域より高い評価を得た。4)防煙教育評価は、短期指標として毎年のアンケートによる子どもの意識変化を、長期指標として成人式喫煙率調査による喫煙率推移を追跡することとした。平成14年度の新成人は、男性64%、女性43%が毎日喫煙者であり、対策の効率的実施が急務であることが示された。なお、本研究で構築したシステムは、汎用型への発展も可能であり、今後広域展開が期待できる。
著者
小山 弓弦葉
出版者
独立行政法人国立博物館東京国立博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

「辻が花染」とは、中世に行われた日本独特の染織技法で、現代では中世の染め模様を指す言葉として定着している。しかし中世の文献にある「辻が花染」と現存する資料とは同一ではないと言われ、その実態は全く明らかにされていない。本研究では、従来通説だった文字資料の解釈について再検討を試み、これまで曖昧だった「辻が花染」の定義をより明確にすることが第一の目的である。そこで、今年度は、近代から現代にかけての染織史研究(あるいは日本風俗史研究上の服飾史研究)図書を中心に資料を収集し、研究史上に現われる「辻が花染」という用語の使用過程を追った。中世染め模様である「辻が花染」と呼ばれる伝存資料について、素材・色・技法・模様構成といった諸要素を詳細に調査し、体系立てられたデータに従って中世の染め模様の編年基準を設定するため、今年度は、京都国立博物館、山形・櫛引町黒川能上座、岐阜・関市春日神社、千葉・国立歴史民俗博物館、大阪・藤田美術館、名古屋市・徳川美術館の各所に所蔵される「辻が花染」関連資料を調査した。撮影可能な作品に関しては、デジタル一眼レフカメラで撮影し、実測調査を行った。調査報告書作成のため、昨年に引き続き、調査データのデジタル化作業を進めた。調査によって収集された画像資料はコンピュータに一括管理し、デジタル・データとして保存した。同時に、ファイル・メーカーに素材・色・技法・模様構成に関する情報を順次入力し、データの構築を進めた。入力された調査データは整理し、順次校正を行った。計画では、今年度中に調査報告書を製本する予定であったが、調査報告書を作成するための予算が十分に確保できなかったため、今年度に編集した報告書用データは、来年度東京国立博物館で発行する『平成18年度東京国立博物館紀要』に掲載することとした。また、これらのデータをさらに蓄積し有効に活用できるよう、これまでの調査した資料を個別にCD-RWに収めた。
著者
福光 優一郎
出版者
新居浜工業高等専門学校
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

すべての音声言語にはアクセントやイントネーションといった韻律情報が含まれており,単語の識別や文レベルの統語構造の構築に用いられている。本研究課題は,統語構造の曖昧な文を聴取する際に,韻律情報を利用することによって,そうした曖昧性が解消されるかどうかについて,事象関連電位を指標とした研究を行った。その結果,韻律情報のひとつである休止(ポーズ)が日本語の文節レベルの修飾-被修飾関係の曖昧性の解消に関わることが示唆された。
著者
李 墨
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

2005年度に引き続き、本年度も北京と天津の実地調査を行った。調査は2005年12月11日から2006年1月3日まで集中的に行った。調査の実施については、景栄慶氏、王鳴仲氏、劉曽復氏、張宝華氏、蒋連啓氏への取材を重点的に行った。具体的な取材内容は、景栄慶氏より1930年代に創立された中国初の国立演劇学校である中華戯曲学校の演劇教育様子、尚小雲によって創立された栄春社の教育様子について詳しく語り、栄春社での修行期において範宝亭に伝授された「通天犀」を実演した。王鳴仲氏は楊小楼派の昆曲「夜奔」の演技について詳しい説明され、七段の昆曲及び全段の演技を実演した。劉曽復氏は嘗て程長庚より汪桂芬に伝わり、王鳳卿に継承された「文昭関」の唄を実演した。銭宝森に師事した張宝華氏は「金沙灘」の"下場"、「艶陽楼」の"下場"、「挑滑車」の"閙帳"を実演した。蒋連啓氏による歴代名優の着付けに関する工夫、氏の従祖父の侯喜瑞、祖父の蒋少奎の演技について詳しく紹介された。その他に、羅喜均氏による栄春社での修行期間の様子、張春華氏による葉盛章の芸、董文華氏による天津劇壇の様子などについても取材が出来た。しかし、今年度の取材対象となる名優茹元俊が10月に急死し、賀永華氏、侯少奎氏の健康状態が悪くなったため、その取材を断念した。調査成果としては、<I民国期の京劇俳優養成>に関しては清代に創立された三慶班の芸術的手法が本日の京劇舞台芸における本流たるものと判明し、<II民国期の京劇興行法>に関しては嘗ての国営演劇学校、旧式京劇教育機関の科班、劇団である"社"の運営法及び興行法について貴重な情報を得た。そして最重要な部分である<III舞台芸>に関しては名優達の協力を得て、失われつつある数々の名人芸を記録した。
著者
植田 一博
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

昨年度は,人間のサッカープレイヤに類似した学習方法によって,他プレイヤの行動の予測と状況のリスク計算の最適化を行うサッカーエージェントを構築したが,本年度は,構築した学習エージェントが,(1)チームプレーに関する学習を行わない既存のRoboCupチーム以上のパフォーマンスを示せるかどうかを実験的に検証した上で,(2)適切なパスの受渡しにとって重要なファクターである,パスの強さとプレイヤの移動速度のバランスをシステマティックに設定する方法を提案するための予備実験を行った。(1)に関しては,学習の課題として,1.味方間でパスが通れば報酬がもらえる課題(ボール支配課題),2.エンドラインを突破すれば報酬がもらえる課題(防御突破課題),3.11対11形式のゲームによる学習結果の確認,の3種類のシミュレーション実験を行った。比較対象は,申請者らがペースとして用いた,かつてのNo.1チームYowAIである。その結果,ボール支配課題に関しては,申請者の学習エージェントのボール支配時間がYowAIエージェントのそれを有意に上回り,防御突破課題に関しては,学習エージェントのアタッカチームがYowAIエージェントに比較して高い防御突破課題の達成率を示し,11対11のゲームに関しては,申請者のチームが30戦中16勝8敗6引き分けであった。したがって,申請者が提案した学習方法が動的環境下におけるマルチエージェント学習の方法として優れていることが,サッカーエージェントにおけるパフォーマンスの比較から示された。(2)に関しては,まず,3対2の中盤におけるボール支配を課題としたシミュレーションを行い,グリッドサイズとダッシュ時のプレイヤ移動速度を一定とし,パスの強さのみを変化させた.その変化に応じてボール支配時間が変化することを確認した。さらに,パスの強さに応じたパスの受渡しの変化を調べた結果,近距離パスが通りやすいパラメータ設定と,遠距離パスが通りやすいパラメータ設定があることが明らかとなった。
著者
中田 栄
出版者
愛知学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究は、社会性の指標としての自己統制をとりあげ、これまでの西洋的な観点に偏った自己統制の理論を改善・発展させていくため、米国の研究者と連携し、日米の自己統制の規定要因を縦断的に検討してきた。まず、国際的な視点から自己統制の理論化を進め、人間関係の支援に貢献するため、(1)社会性の指標としての自己統制にかかわる要因を状況別に明らかにすること、(2)日米の文化的背景をふまえた.自己統制の理論化、(3)子どもにとって新奇な2種類以上の情報が同時に提示された場合に、一方の情報を探索した後、もう一方の情報を探索し、先に見た情報を修正し、新たな情報を付け加えながら複数の情報を統合していく過程における衝動性および他者の表情変化の予測を縦断的に検討することを目的とする。このために遂行した今年度の研究内容は次の通りである。1.米国における児童の自己統制の理論化にあたって、デラウェア大学のGeorge Bear教授と協力・連携して規律性との関係から自己統制の理論化を進めてきた。2.米国研究チームの協力を得て日米の対象が同数になるように配慮し、他者の表情変化の予測と観察場面における行動を検討した。(1)対象:米国デラウェア州ニューアークおよびニュージャージの9歳から12歳までの児童48名(男子24名、女子24名)。(2)期間:2005年10月から2006年9月までのうち、冬休み期間(12月〜2月)を除き、一ヶ月あたり12回の観察記録を行った。(3)手続き:VTR撮影は児童一人あたり64分とし、米国の児童48名の合計3072分のVTR記録の中から自己統制を中心に取り上げた。3.平成18年度は、児童の自己統制について日米との共通点を取り上げ、以下の点から理論化を試みた。(1)他者の情動の予測力の正確さは、他者に対する怒りの情動を自ら調整していく力とかかわることが示唆された。(2)複数の情報の統合過程において衝動的な行動傾向を示した子どもは、攻撃行動の調整が困難な傾向が示唆された。(3)日米の児童の自己統制の共通点として、参与観察からは、(1)攻撃に対する怒りの反応は、さらなる攻撃の反応となり、悪循環となること、(2)他者からの攻撃行動に対して、衝動的に怒りの情動と攻撃行動を返したとき、周囲の第三者から助けられにくいこと、(2)他者が一方的に攻撃される状況では、周囲の第三者が、攻撃を受けている他者のために助ける行動を起こすことが示唆された。4.上記の結果に基づき、以下のような支援を提案するに至った。(1)衝動的な行動傾向を示した子どもは、攻撃反応を示しやすい傾向がみられたため、攻撃に代わる自己表現として要求の伝え方を理解させ、社会的に望ましい自己表現につなぐ必要性が示唆された。(2)視線の向け方が、他者に誤解をもたらすメッセージを与えてしまうことへの気づきを促す必要性が示唆された。(3)社会性の指標としての自己統制の役割を質的に検討することによって、対人関係の効果的な支援に貢献できることが示唆された。(4)攻撃に対する怒りの反応は、さらなる攻撃の反応を生じさせ、悪循環となるため、自己統制トレーニングにおいて、他者の立場に配慮した自己表出への理解を促す意義を提案するに至った。なお、本研究は、米国デラウェア大学およびハーバード大学との専門性を生かした協力体制のもとで実施された。
著者
錦野 将元
出版者
日本原子力研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

超短パルス・単色・高輝度という特徴を持つ軟X線レーザーとレーザープラズマX線を培養細胞集団程度の大きさまで集光できるパルス軟X線マイクロビーム照射装置を開発し、X線照射によって誘発される放射線影響に関する研究を実施した。本装置を用いて複数のがん細胞へのX線照射を行い、光子エネルギーの異なる2種類のX線を用いた細胞の放射線影響(DNA二本鎖切断生成)に関して細胞核内で発現する影響の違いを免疫蛍光染色により観察することができた。また、放射線誘導性バイスタンダー効果を評価するために、X線照射後に照射細胞および照射細胞周辺で応答するタンパク質を免疫蛍光染色で観察することにより周辺細胞への放射線照射によるストレスの伝搬を観察し、バイスタンダー効果の直接観察を行った。
著者
村上 正子
出版者
筑波大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

環境国際紛争において民事司法へのアクセスを確保するためには、環境紛争の特殊性を考慮し、紛争の性質・内容、紛争当事者の多様性にあわせて救済の方法(紛争処理方法)も被害者のニーズに合わせて多様化すべきであると同時に、裁判所への提訴の確保のみならず、損害賠償も統一的に確保するためには、特定の分野で条約による統一ルールを作成する必要があり、それを国内法で受け入れられるだけの制度(環境団体訴訟も含む)の整備が不可欠である。
著者
若林 雅哉
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

川上音二郎による翻案劇制作を研究対象とし、その受容環境との関係を中心に考察を行った。翻案劇の制作は、まずは受容環境への適応として現れるが、しかし次世代の受容の素地となっていく。翻案制作は、次世代にとって乗り越えるべき「ひとときの代用品」にはとどまらない。「歌舞伎受容層」への適応としての川上演劇のあり方と、「探偵劇」という従来は注目されていなかった様相を考察することを通じて、次世代の受容基盤を川上音二郎の制作が提供していることを明らかにした。また、翻案は制作当時の歴史的な受容のなかでは翻案としては認識されず、その役割を終えたときに翻案と認定されるという、芸術制作の認識にかかわる理論的な知見を得た。以上は、共著書・論文・講演・学会発表のかたちで公表した。
著者
岩田 一正
出版者
成城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度は、1930年代に新中間層によって都市郊外に形成された教育文化を事例として分析し、いくつかの研究会でその成果を報告した。その成果とは、次の2つである。第1に、千葉師範学校附属小学校の主事などを務め、八大教育主張(1921年)において「自由教育論」を提示した手塚岸衛が、硬直化が指摘されていた一斉教授を中心とする画一的な教育を斥けて、自由教育を実践するために設立した自由ヶ丘学園(1930年設立)にその名が由来する自由が丘に形成された教育文化と、箱根土地株式会社を中心として開発され、1927年に分譲が開始された国立に展開した教育文化を、成城に形成されたものと比較しながら考察したものであり、第2に、三田谷啓が1927年に設立した三田谷治療教育院や桜井祐男が1925年に設立した芦屋児童の村小学校が位置していた芦屋を中心とする地域において、どのような教育文化が展開していたのかを、東京に形成されたものと比較しながら記述したものである。研究会での報告を通じて、日本近代教育史を専攻する研究者からだけではなく、他の学問領域を専攻する研究者から、筆者未見の史料を紹介していただいたり、立論に関して助言していただくことができた。それらを踏まえていくつかの文献を購入し、それらを読み込み、報告に手を加え、改めて論文化しているところであり、公表は今年度に間に合わなかった。来年度以降に脱稿し、学会誌などに投稿することにしたい。
著者
渡邉 哲意
出版者
宝塚大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本と比較して中国国内におけるロックミュージックの浸透具合と観衆のライブ空間に対する印象と要求の違いが明らかになった。公演の機会が増えることで観衆の空間表現に対する意識は活性化しつつあり、より音楽的、感性的な表現方法への要求が高まることが予想される。観衆意識の発展は音楽表現と空間表現双方を複合化した総合演出としての熟成を設備と観衆共に進める必要があり、今回の研究はその演出方法の方向性を示すものとなった。
著者
福士 航
出版者
北見工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、長い18世紀(1660-1800年)の英国の舞台において、なぜ女優だけが人種的差異を示す<黒塗り>をしなかったのかについて、おもに演劇の慣習や美学的意識に関する側面と、ジェンダーや人種に関する言説との関わりから検討した。その結果、劇場での利益を追求するために人種的<他者>のイメージが操作されたことが明らかになり、商業主義と人種差別的言説の生成の一端を、当時の劇場が担ってもいたことを明らかにした。