著者
佐治 直樹
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.45-53, 2021-02-28 (Released:2021-03-20)
参考文献数
19

要旨: 本邦は高齢化社会を迎え, 認知症対策が喫緊の課題である。軽度認知障害 (認知症になる前段階) における, より早期での生活改善も認知症予防の視点から提唱されている。改善可能な認知症の危険因子のうち, 難聴は最も重要である。しかし, 補聴器の導入による認知症の予防効果は未解明な部分も多い。筆者らも, 耳鼻咽喉科ともの忘れ外来との協業で臨床研究を実施している。また, プレリミナリー研究の結果から, 難聴は認知症に伴う行動・心理症状の独立した関連因子であり, 難聴群ではもの忘れの自覚や不安感, 焦燥を感じる割合が多く, 抑うつ傾向であったことなどを見いだした。さらに, 地域在住高齢者の住民健診データを収集し多変量解析したところ, 難聴があると認知機能低下の合併が1.6倍多いことも判明した。補聴器導入が認知症の発症リスク軽減に寄与するのであれば, 今後は, 高齢者の聞こえや認知機能についてのチェックがさらに重要となるだろう。
著者
青柳 優
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.135-145, 2006-04-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
20
被引用文献数
3 4

他覚的聴力検査法の最終目標は, 反応閾値から正確なオージオグラムを推定することである。ABRは低音域の聴力判定において信頼性が低く, 周波数特異性の点で問題がある。聴性定常反応 (ASSR) は繰り返し頻度の高い刺激音に対する聴性誘発反応であり, 反応各波が干渉しあって一定振幅のサイン波状の反応波形を呈する。正弦波的振幅変調音によるASSRは刺激音の周波数特異性が高いこと, 反応波形が高速フーリエ変換を用いた自動解析に適していることなどから, 他覚的聴力検査として理想的な誘発反応である。変調周波数 (MF) を40Hzとした40Hz ASSRは, 位相スペクトル解析により閾値を判定した場合には成人覚醒時の他覚的聴力検査法として周波数特異性が高く, 臨床応用が可能である。一方, MFを80Hzとした80Hz ASSRは, 睡眠時に安定した反応性を示し, 幼児に対する他覚的聴力検査法として有用である。本稿ではASSRについて概説すると共に, その解析法, 臨床応用について述べる。
著者
大島 美絵 小渕 千絵
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.254-261, 2018-08-30 (Released:2018-09-27)
参考文献数
12

要旨: 難聴乳幼児のコミュニケーションの基礎の形成や良好な発達のためには, 保護者, 中でも母親の役割が重要である。本研究では, 難聴乳幼児を育てる上での母親の育児ストレスの実態について調査, 分析し, 必要とされる早期教育支援について検討した。 母親の育児ストレスに関する8項目からなる独自の質問紙を作成し, 難聴乳幼児を育てる母親17名に記入してもらい, そのストレス得点, 及び年齢, 聴力程度, その他の要因から分析した。その結果, 精神的苦悩, 将来への不安が顕著に高く, 社会的孤立, 家族和合の欠如が顕著に低かった。またストレス得点と年齢, 聴力, KIDS 発達指数, 相談室での相談期間, 兄姉の有無からの比較では, 有意な関係はみられなかった。 これらの結果より, 難聴乳幼児を育てる母親の育児ストレスは, 様々な要因により出現している可能性があり, 明確な要因の抽出は困難であると推測された。このため, 早期教育支援においては, 対象児の個別性に配慮した支援の必要性があると考えられた。

2 0 0 0 OA 総索引

出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.569-576, 2020-12-28 (Released:2021-01-16)
著者
熊谷 晋一郎 綾屋 紗月 武長 龍樹 大沼 直紀 中邑 賢龍
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.234-242, 2013-06-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
32
被引用文献数
1

要旨: 本研究では一般大学生を対象に, カルファの聴覚過敏尺度日本語版 (6件法) による質問紙票調査を行い, スコアの平均は16.9点, 標準偏差は11.6点で, 上位5%のカットオフ値はおよそ40点であること, さらに聴覚過敏尺度が 「選択的聴取の困難」 「騒音への過敏と回避」 「情動との交互作用」 の3因子構造を持つことがわかった。また, 聴力異常の既往, 抑うつ症状, 性別, 顔面神経麻痺などよりも, 「不安症状」, 「睡眠障害」, 「頭頸部手術の既往」 の3つの危険因子が有意に聴覚過敏と相関していることが明らかとなった。また重回帰分析の結果, 前2者は各々独立に聴覚過敏と相関していた。このことは, 聴覚過敏を主訴とする患者の診療において, 不安障害や睡眠障害の合併に目を向けることと, 頭頸部手術後のフォローアップにおいて聴覚過敏に目を向けることの重要性を示唆している。
著者
佐藤 宏昭
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.241-250, 2010 (Released:2010-09-28)
参考文献数
78
被引用文献数
6 1

急性低音障害型難聴 (ALHL) が突発性難聴と異なる疾患として認知されるようになって30年が経過した。2000年には厚生労働省急性高度難聴に関する調査研究班により本疾患の診断基準 (試案) が設けられ, この基準に基づく多くの報告がなされてきた。本総説では, ALHLの問題点として, 診断基準, 難治例, 治療薬剤について取り上げた。診断基準では高音部に加齢による難聴を有する例を準確実例として診断基準に加える必要があること, およびALHLの反復, 再発例とメニエール病非定形例 (蝸牛型) の名称の問題について述べた。長期的にみるとALHLは反復, 再発例やメニエール病への移行例が少なくなく, 少数ながら進行性の感音難聴をきたす例もみられ, この中には稀であるが低音障害型感音難聴で発症する聴神経腫瘍もあり注意を要する。また, ステロイドやイソソルビドなど現在使われている薬剤の有効性に関しても, 十分なエビデンスが得られていない点が問題点といえる。
著者
白石 君男
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.261-275, 2019
被引用文献数
2

<p>要旨: 日常生活における音源定位は,音の刺激が両方の耳に与えられるような音の聴取状態である両耳聴 (binaural hearing) の重要な機能の一つである。これまで, 両側性小耳症・外耳道閉鎖症などの伝音難聴では, 骨導補聴器は片側装用されることが多かったが, 両耳に骨導補聴器を装用すると健聴者と同程度の方向感の精度をもたらさないものの, 方向感を有することが明らかとなった。骨導補聴器の両耳装用は, 小耳症・外耳道閉鎖症などの幼児では聴覚系の発達を促し, 成人の伝音難聴では日常生活の不便さを減少させるものと思われる。</p>
著者
君付 隆 松本 希 高岩 一貴 大橋 充 小宗 徳孝 野口 敦子 堀切 一葉 小宗 静男
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.152-156, 2009 (Released:2009-07-31)
参考文献数
16
被引用文献数
3 1

聴力正常の聴覚過敏患者24名 (男性8名, 女性16名) に対してSISI検査, MCL・UCL検査, 自記オージオメトリー検査, Metz検査を行い, リクルートメント現象の陽性率を検討した。17名 (71%) が, 聴力が正常であるにもかかわらず何らかの内耳機能検査で陽性であった。それぞれの検査の陽性率はSISI検査で27%, MCL・UCL検査で38%, 自記オージオメトリー検査で38%, Metz検査で33%であった。片側のみの聴覚過敏は9名 (37.5%), 両側の聴覚過敏は15名 (62.5%) であった。片側聴覚過敏の場合, 症状と陽性を示した検査側は必ずしも一致しなかった。
著者
矢嶋 裕樹 間 三千夫 中嶋 和夫 河野 淳 硲田 猛真 嶽 良弘 榎本 雅夫 北野 博也
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.149-156, 2004-06-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本研究の目的は, 難聴高齢者における聴力低下に伴うストーレス・イベント, 聴力低下に伴うストレス認知, 精神的健康の関連性を検討することであった。調査対象は, 和歌山日本赤十字医療センターを利用していた難聴高齢者235名であった。面接調査は, 聴覚言語療法士によって実施された。構造方程式モデリングによる解析の結果, 性, 年齢, 聴力損失レベルと聴力低下に伴うストレス・イベントのあいだに有意な関連性が認められた。さらに, ストレス・イベントは, ストレス認知を経由して, 間接的に精神的健康に影響を与えていた。なお, ストレス・イベントと精神的健康のあいだには直接的な関連性はみられなかった。これらの結果は, 聴力低下に起因するストレス・イベントやストレス認知から精神的健康に対する効果の軽減を目指した専門的介入策を確立することによって, 聴力低下による精神的健康の悪化を予防できる可能性を示唆するものである。
著者
佐野 肇
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.201-209, 2017-08-30 (Released:2017-12-19)
参考文献数
29
被引用文献数
2

要旨: 補聴器を個々の難聴者に適合するように設定していく方法について概説した。 大きく比較選択法と規定選択法という二つの手順が存在するが通常の臨床では両者が併用されている。 規定選択法はハーフゲインルールに始まりその後補聴器性能の進歩に伴って数多くの方法が発表されてきたが, 現在では NAL-NL 法と DSL 法が広く用いられている。 両方法の補聴効果を比較した研究の結果では語音明瞭度の成績では差はみられていないが DSL 処方の方が利得は大きい。 これらの規定選択法で示されるターゲットは基本的には最終的な設定への指標と考えるべきで新規の装用者ではそれより小さな利得から徐々に上げていく方法が提案されている。 欧米で開発されたこれらの処方ターゲットが英語とは音響的特徴が異なる日本語においても妥当であるかどうかについては今後検討する必要があると思われる。
著者
立木 孝
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.253-262, 2008-08-31 (Released:2010-08-05)
参考文献数
44
被引用文献数
4 2

心因性難聴の聴力検査には, 1) 純音オージオメトリー 2) 自記オージオメトリー 3) 他覚的聴力検査の3者が必要である。ただこの中で, 3) の他覚的聴力検査については, 本紙の他の著者の総説の中で詳細に述べられているので, ここでは省略することにした。ここでは1) 純音オージオメトリー 2) 自記オージオメトリーの2者について総説する。心因性難聴では, 純音オージオグラムの“閾値”は真の閾値ではない。しかし“でたらめ”でもなく, 内在する“大きさの感じ (loudness)”によってきめられる。従っていろいろの現象がでたらめではなく, ある傾向によって定められて行く。ここが本症の診断で重要な点である。自記オージオグラムも, 閾値 (きこえる, きこえない) ではなく, ある“大きさ (loudness)”を目当てに記録が行われるので, 断続音は断続条件によってレベルが上昇していく。これが心因性難聴の診断に大きな役割を果たすことになる。本稿はそれらを中心に解説した。
著者
岩崎 聡 西尾 信哉 茂木 英明 工 穣 笠井 紀夫 福島 邦博 宇佐美 真一
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.56-60, 2012 (Released:2012-03-28)
参考文献数
8
被引用文献数
1

感覚器障害戦略研究「聴覚障害児の療育等により言語能力等の発達を確保する手段の研究」事業として平成21年から1年間に調査した症例対照研究のうち, 人工内耳装用児の現状と語音明瞭度・言語発達に関する検討を行った。対象は幼稚園年中から小学校6年までの両耳聴力レベル70dB以上の言語習得期前の聴覚障害児で, 124施設が参加した。言語検査が実施できた638名のうち人工内耳装用児は285名 (44.7%) であり, 言語発達検査の検討はハイリスク児を除外した190名であった。人工内耳+補聴器併用児が69.5%, 片側人工内耳のみが29.8%, 両側人工内耳が0.7%を占めた。難聴発見年齢は平均11.7ヶ月, 人工内耳装用開始年齢は平均3歳6ヶ月であった。人工内耳装用月齢と最高語音明瞭度とは高い相関を認め, 人工内耳装用開始時期が24ヶ月前とその後で言語発達検査を比較するとすべての検査項目で早期人工内耳装用児群で高い値が得られ, 早期人工内耳の有効性を支持する結果となった。
著者
山田 奈保子 西尾 信哉 岩崎 聡 工 穣 宇佐美 真一 福島 邦博 笠井 紀夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.175-181, 2012 (Released:2012-09-08)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

平成21年から22年の間, 聴覚障害児の日本語言語発達に影響を与える因子と, 発達を保障する方法を考える目的で行われた感覚器障害戦略研究・症例対照研究のデータを元に, 人工内耳手術年齢による言語発達の傾向について検討した。 対象は生下時から聴覚障害を持つ4歳から12歳までの平均聴力レベル70dB以上の638名のうち, 聴覚障害のみを有すると考えられる人工内耳装用児182名を, 補聴器の装用開始年齢, 人工内耳の手術年齢のピークで4群に分け比較した。 結果を語彙, 構文レベルの発達と, 理解系, 産生系課題とに分けてみると, 語彙, 構文共に, 理解系の課題においては, 補聴器装用早期群の成績が良好で, 産生系の課題については, 人工内耳手術年齢早期群の成績が良好であった。 このことから, 早期に音を入れることが言語理解に, 早期に十分弁別可能な補聴をすることが言語産生に影響を与える可能性があるという結果が得られた。
著者
平田 恵啓 伊福部 達 坂尻 正次 松島 純一
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.35, no.6, pp.659-665, 1992-12-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

我々は, 蝸牛外刺激型人工内耳の開発を行っており, 音声情報を時系列信号に変換して蝸牛を刺激する方法を提案している。 本論文は, このような時系列信号がどのような刺激として知覚されるかを, プロモントリーテストで調べたものである。 結果から, 刺激閾値の個人差は極めて大きく, 刺激電流を35μAで感じた患者もいたが, 8名の患者については400μAでも刺激を感じなかった。 生じた感覚を大別すると2種類あり, 第一は音のような感覚であり, 第二は振動のような感覚やチクチクする痛みのような感覚であった。 このことから, 我々のプロモントリーテストでは聴神経ばかりでなく迷走神経や顔面神経も刺激されている可能性がある。 ダブルパルス列からなる時系列信号の弁別テストの結果から, 3名の患者については, ダブルパルスの時間差を僅かに変えただけでも生じる感覚に差がでた。 従って, 音声情報を時系列信号にして伝達する方法は蝸牛外刺激型人工内耳における信号処理方法の一つのアプローチといえる。
著者
杉本 賢文 曾根 三千彦 大竹 宏直 寺西 正明 杉浦 淳子 吉田 忠雄
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.218-223, 2016-08-30 (Released:2017-03-18)
参考文献数
12

要旨: 10歳時に初めて高度難聴を指摘できた人工内耳手術症例を経験したので報告する。 5歳時より難聴を疑わせる症状を呈していたが, 耳鼻咽喉科診療所や総合病院耳鼻咽喉科にて複数回純音聴力検査を受けても難聴は指摘されなかった。 当院初診時の純音聴力検査による聴力レベル (4分法) は右 98.8dB, 左 92.5dB と 500Hz 以上の中高音域にて高度な難聴を認めたが, 右耳の 125, 250Hz では 30~40dB の残存聴力を有していた。 初診10ヶ月後には, 補聴器装用効果不十分のため, 左耳へ人工内耳植込術を実施した。 10歳まで高度難聴を把握できなかった要因としては, 難聴が徐々に進行した可能性, 低音域に残存聴力が存在したこと, 不十分な聴力評価により繰り返し難聴を否定されてきたことなどが考えられた。 小児の聴力検査を行う際は, 他覚的聴覚検査の併用も考慮し, 慎重に診断を行うべきである。
著者
土井 礼子 北野 庸子 中川 雅文
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.679-691, 2012-12-28
参考文献数
17

聴覚障害児と家族に対する支援として, 情報通信技術 (Information and Communication Technology: 以下ICT) を活用し, 遠隔支援プログラムサイトを構築した。聴覚障害児の親と言語聴覚士 (以下ST) を対象に遠隔支援プログラムサイトの評価を行った。各対象者にはサイトに接続してもらい, プログラムのわかりやすさ, 資料や映像のダウンロードなどの機能の使いやすさ, 映像内容, 指導内容, 遠隔支援の有効性について回答してもらった。肯定的な回答と否定的な回答に分けて二項検定を行ったところ, 聴覚障害児の親は48/53の, 言語聴覚士は47/53の質問項目において肯定的な評価が過半数以上であることが有意に示された。今後, 利用者のICTへの精通度, 対面の個別言語指導との併用などの検討が必要と思われたが, 遠隔地や海外滞在者を対象に支援を行う際に, 有効に活用できる可能性が示唆された。
著者
柘植 勇人 富田 真紀子 加藤 由記 稲垣 憲彦 岩田 知之 山脇 彩 宮田 晶子 松田 真弓 中原 裕子 中島 務
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.239-248, 2011 (Released:2011-07-28)
参考文献数
28

Tinnitus Retraining Therapy (TRT) の音響療法を実施する中で, sound generatorのノイズ音に馴染むことが出来ない症例を経験する。そこで, TRTの音響療法として, 自然環境音で同様の効果が得られないかを検討した。sound generator (SG) を十分に使い慣れているTRT実施中の患者10名の協力を得て, 携帯音楽プレーヤーと耳かけオープン型イヤホン (一側耳装用) を用いて, 川のせせらぎなどの5種類の音源の試聴を行い調査した。その結果, TRTにおける音響療法は広帯域ノイズに固執する必要はなく, 自然環境音で代用できる可能性が示唆された。人によっては様々な音源による音響療法が成り立つ可能性と静寂部分が含まれている「波の音」は適さない傾向が示唆された。一方, 広帯域ノイズに似た「滝の音」が好まれるグループがあったので, SGの有効性も示された。今回の結果より, 夜間の静寂を避けて寝室に心地良い環境を作るという意味で, 自然環境音をBGMとして活用する価値も考えられる。今後は, 実際の活用症例の効果を検討する必要がある。