著者
濱野 惠 木村 文彦
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.41-47, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
11
被引用文献数
1 2

イチゴ種子繁殖型品種‘よつぼし’を北東北で夏秋どりに適用するため,4月下旬定植・無加温栽培を行って播種日,播種時のセルトレイの大きさ,および花成促進目的の長日処理について検討した.播種時期について,1月27日播種は5月中旬頃に頂花房が分化し,1か月おきの長日処理(24時間日長,2週間)時期に応じて累積花房数が無処理より増加したが,8月処理による花成促進効果が現れる時期は想定する作型には遅いと考えられた.2月27日播種苗は5月の長日処理にはほとんど感応せず,幼若性が推察された.6月, 7月処理で累積花房数が増加したが,収益性を考慮すると播種時期は1月中が適すると思われた.次に,セルトレイの大きさと9月以降の増収を目的とする長日処理の影響を調査するため,1月13日にセルトレイ200穴および406穴に播種し,6月, 7月, 6月 + 7月に長日処理(24時間日長,2週間)を行った.セルトレイによる定植時生育,頂花房分化時期,同じ長日処理間の花房数や収量性にはほとんど差がなかった.6月処理で9月に,7月および6月 + 7月処理で10, 11月に無処理に対して増収効果が確認されたが,長日処理の適正な時期・回数については今後さらなる検討が必要と思われた.
著者
Tshering Penjor 永野 幸生 三村 高史 松本 亮司 山本 雅史
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.307-314, 2014 (Released:2014-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
5 4

2007年9月にブータン王国において自生・在来カンキツ類の遺伝資源を調査した.調査は東部のモンガルおよびタシガン,西部のワンデュ・ポダンおよびティンプーならびに南部のチランで実施した.調査した14系統のうちNo. 11のみはカンキツ近縁属のベルノキ(Aegle marmelos)で,他の13系統はカンキツ属植物であった.このうち自生・在来カンキツは11系統であった.内訳はイーチャンパペダ類縁種が1点,ライム類縁種が4点,無酸ライムが2点,シトロン類縁種が2点,ラフレモン類縁種が1点,未同定種が1点であった.イーチャンパペダ類縁種は冬季の低温のため他のカンキツが生育していない標高2,000 m付近で生育していた.調査した数点について葉緑体遺伝子のmatKの塩基配列を解明して主要カンキツ類との類縁関係を調査したところ,ブータン王国のイーチャンパペダ類縁種は佐賀大学農学部保存のイーチャンパペダではなく,カシーパペダと同一の配列であることが確認できた.ライム類縁種のmatKの塩基配列には多様性が認められた.DNA分析を実施することにより,形態面の調査だけよりも正確に供試系統を同定することができた.
著者
酒井 悠太 斉藤 由理恵 乘越 亮 今西 英雄
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.57-63, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
10

オリエンタル系ユリ ‘カサブランカ’ の国内産球根を用い,予冷温度と期間を変えてそれに伴うシュートの成長,茎先端部汁液のBrixと糖含有量の変化を調べた後に,球根を–2.0°Cの氷温に移して貯蔵した.それらの球根を7~10か月後に取り出して植え付け,開花調査を行い,長期氷温貯蔵後の障害発生と予冷温度・期間との関係を明らかにしようとした.1°Cの予冷期間を0~20週と変えた場合,予冷期間が12週以上になると,氷温貯蔵後の抑制栽培において開花率の低下と葉の障害発生がみられ,それと茎先端部汁液のスクロース含有量の低下とが関連すること,Brixの変動はスクロースの変動とほぼ一致することがわかった.次に1°C, 6°C, 8°Cおよび12°Cで8週間予冷した後,1°Cに移して10週間貯蔵を続け予冷温度の影響をみたところ,1°Cと6°Cの予冷はBrixと糖の含有量について同じような変動を示し,栽培試験でも葉の障害発生あるいは開花率の低下が認められ,同じように影響することが示された.また1°Cで18週間予冷した後に氷温貯蔵に移した場合,氷温貯蔵期間が8週間長くなると全く開花がみられなくなった.以上の結果,6°C以下の温度で長期間予冷することが,長期氷温貯蔵後の栽培において開花率の低下や葉の障害発生をもたらすことが明らかになった.
著者
加古 哲也 持田 耕平 郷原 優 中務 明 小林 伸雄
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.467-472, 2022 (Released:2022-12-31)
参考文献数
12

本邦固有の有用な遺伝資源である,トウテイラン(オオバコ科クワガタソウ属)の夏秋期出荷の鉢物生産方法の開発を目的に,摘心時期,摘心節位が開花時期ならびに生育に及ぼす影響について検討した.鉢物用 ‘NG-1’ を用いた実験の結果,摘心時期が遅い区ほど開花は遅くなった.一方,摘心時期が遅くなると到花までの積算温度は少なくなった.出荷期の生育は,摘心時期が遅くなると開花節位は低下し開花枝長は短くなった.高い節位で摘心を行った場合,開花は早く,到花までの積算温度は少なくなり,開花節位は低下し,開花枝長は短くなった.開花枝は,摘心時期や摘心節位にかかわらず増加した.一方,6月末の摘心,また,低節位での摘心では不開花枝も増加した.これらのことから,トウテイランの鉢物利用において,摘心時期ならびに摘心節位により鉢物生産における開花期や生育の制御が可能であることが明らかとなった.なお,5月末前後に基部から2~3節の直上で摘心することで敬老の日を目標とした9月上旬の鉢花出荷が可能であると考えられた.
著者
椿 信一 篠田 光江
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.11-18, 2023 (Released:2023-03-31)
参考文献数
16

我が国に産する辛味ダイコン11品種中10品種は,一般的な青首ダイコンと比較して,搾汁液中のイソチオシアネート含量が多く,強い辛味が感じられた.葉片の形状や,根形,根色は変化に富み,一定の傾向は認められなかったが,小型で水分含量が少なく,硬度,Brix値が高く,スクロース含量が高いといった諸特性から,いずれの辛味ダイコンも北支系ダイコンに属すると考えられた.供試品種の搾汁液当たりのイソチオシアネート含量は ‘京都薬味’ が最も多く,ハマダイコン系3品種も多い値を示した.乾物率とイソチオシアネート含量の間には強い正の相関が認められ,水分含量が少ない品種ほどイソチオシアネート含量が多い傾向が見られた.糖組成は品種間差が大きく,‘松館しぼり’ 各系統とハマダイコン系が糖組成におけるスクロースの割合が高かった.糖組成の違いは品種の類縁関係を示す指標として活用できる可能性が示唆された.
著者
真野 隆司 杉浦 俊彦 森口 卓哉 黒田 治之
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.573-579, 2011 (Released:2011-11-19)
参考文献数
23

イチジク‘桝井ドーフィン’に対する環状剥皮が凍害の発生に及ぼす影響を検討した.露地圃場の挿し木個体は萌芽期の凍害を受けたが,前年の秋季に環状剥皮処理を行った挿し穂を用いると,萌芽が遅くなり凍害が軽減された.また,ポットの挿し木個体について,萌芽期に低温処理を行った結果,−3℃以下で枯死する芽が発生した.しかし,前年の秋季に環状剥皮を施し,かつ,より下位節から採取した挿し穂の方が糖やデンプン含量が高く,遅く萌芽して芽の枯死が少なかった.さらに,露地圃場に定植した幼木についても,秋季に環状剥皮を行った枝の糖とデンプン含量が高く,厳寒期の凍害が少なかった.以上より,イチジク‘桝井ドーフィン’に対する環状剥皮処理は,休眠枝の貯蔵養分を高め,その生育ステージが遅延することによって,萌芽期や厳寒期の凍害を軽減する効果があると考えられた.
著者
水野 真二 成川 昇 近藤 春美 上吉原 裕亮 立石 亮 窪田 聡 新町 文絵 渡辺 慶一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.109-115, 2021 (Released:2021-03-31)
参考文献数
12

アントシアニン色素を多く含み,果実が濃赤色を呈する促成栽培用イチゴ品種 ‘真紅の美鈴’ を育成した.神奈川県における試験栽培において,本品種は ‘とちおとめ’ より花芽分化がやや遅く,定植適期は9月20日頃以降であると考えられた.果実の硬度は ‘とちおとめ’ 並みに高く,糖酸比は20を超え,還元糖のグルコースとフルクトースを比較的多く含んでいた.果実のアントシアニン色素の含量は新鮮重1 g当たり185 μgであり,母親の ‘ふさの香’ および父親の ‘麗紅’ の約2倍,‘とちおとめ’ の約3倍であった.一方,果汁の抗酸化活性には‘真紅の美鈴’と従来品種で大きな差はみられず,アントシアニンの抗酸化活性への寄与度は低いと推定された.アントシアニンの組成はペラルゴニジン配糖体が80%以上を占めており,検出された5成分の構成比は ‘とちおとめ’ や親品種と概ね同等であった.このことから,‘真紅の美鈴’ が濃赤色を呈するのはアントシアニン組成の影響ではなく,色素の含量が顕著に多いためと考えられた.
著者
窪田 聡 村松 嘉幸 大島 秋穂 小田部 桃子 菅田 悠斗 腰岡 政二
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.95-103, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
21
被引用文献数
3 2

住宅用床暖房パネルと空気熱源式ヒートポンプ冷温水システムおよび発泡スチロール製の断熱鉢トレイを組み合わせて新しい根域温度制御装置(N.RECS)を開発した.N.RECSは根域の加温と冷却の2つのモードを持っている.加温モードでは,気温が10°Cを下回っても根域温度を約25°Cに維持することが可能で,冷却モードでは気温が40°Cを上回っても約23°Cに冷却することが可能であった.冬季に矮性ダリアの生育・開花に及ぼす根域加温の影響について検討した.根域加温を行わずに最低気温を15°C設定にした対照区に比べて,最低気温を12°C設定または無加温として根域を24°C加温した12°C/24°C区と無加温/24°C区では生育が促進された.また,12°C/24°C区と無加温/24°C区のエネルギー消費量は,対照区に比べて金額ベースで34%と69%それぞれ削減された.夏季にフクシアの生育に及ぼす根域冷却の影響について検討した.根域冷却を行わない対照区では48%の株が枯死したが,20°Cまたは23°Cに根域を冷却するとすべての株が健全に生育した.これらのことから,N.RECSは通年にわたって花苗の生育制御に活用できることが示された.
著者
羽山 裕子 阪本 大輔 山根 崇嘉 三谷 宣仁 杉山 洋行 草塲 新之助
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.55-61, 2023 (Released:2023-03-31)
参考文献数
33

早期多収で機械化にも適応できるTaturaトレリス樹形を参考にしたV字仕立てのニホンナシ ‘豊水’ において,主枝数および着果量が初期収量および果実品質に及ぼす影響を明らかにした.2本主枝および4本主枝は定植3年目に,6本主枝は定植4年目に樹冠が完成し,いずれの主枝数においても主枝当たり12果を着果させることで定植3年目には3 t・10 a–1以上の収量が得られた.収量は着果量が多いほど多かったが,果実品質は着果量が多いほど果実が小さく,糖度が低くなる傾向であった.また,果実重はいずれの主枝数・着果量区においても平棚仕立ての同樹齢樹や成木樹に比べて小さくなり,糖度は中着果区(主枝当たり12果)で平棚仕立ての成木樹と同等であった.着果位置については,高い位置の果実で収穫が早くなり,果実が小さい傾向であった.定植5年目までのV字仕立てのニホンナシ ‘豊水’ について検討した結果,早期の収量性と果実品質の観点から,主枝数は4本主枝,着果量は主枝当たり12果程度が適していると考えられた.
著者
倉藤 祐輝 尾頃 敦郎 藤井 雄一郎 小野 俊朗 久保田 尚浩 森 茂郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.425-431, 2008 (Released:2008-07-25)
参考文献数
21
被引用文献数
5 5

ブドウの早期成園化と高品質な果実の多収を目的に,灌水同時施肥による超密植栽培システムを開発した.本システムは,根域を制限せずに,10 a当たり800本以上の挿し木苗を超密植し,樹冠下に不透水性マルチシートを設置し,自動灌水制御装置と液肥混入器および点滴灌水チューブを用いて,生育ステージに応じて灌水と施肥を同時に行う方式である.定植2年目には成園並みの果実生産が可能であった.果実品質と収量に及ぼす新梢密度の影響を調査したところ,着果基準を15果房・m−1と設定した場合,新梢密度を10~20本・m−1とすることで,果粒重,糖度および果皮色の優れた果実の多収生産が可能であることが明らかとなった.以上の結果から,本方式での3か年の果実品質と収量から,年間の灌水同時施肥基準を策定した.
著者
北村 八祥 森 利樹 小堀 純奈 山田 信二 清水 秀巳
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.89-95, 2015 (Released:2015-03-31)
参考文献数
9
被引用文献数
8 8

炭疽病抵抗性と極早生性を併せ持つ高品質な促成栽培用イチゴ品種‘かおり野’を育成した.1990年に‘女峰’,‘アイベリー’,‘とよのか’および‘宝交早生’の間の総当り交配により育成を開始し,その後‘章姫’,‘あかしゃのみつこ’,‘とちおとめ’および育成集団から品種化された‘サンチーゴ’を交配親として加えながら,9世代に亘り相互に交配を繰り返して改良した炭疽病抵抗性系統群のうち,系統‘0028401’と系統‘0023001’を2003年に交配して得られた実生から選抜された.特性調査,現地適応性試験を経て2008年に品種登録出願を行い,2010年に品種登録された.最重要病害であるイチゴ炭疽病に対して,‘宝交早生’および‘サンチーゴ’と同等の強い抵抗性を持つ.‘章姫’よりも強い早生性を示し,普通促成栽培において11月下旬から収穫を開始することができ,12月までの早期収量,3月まで総収量ともに高い.食味は高糖度,低酸度で甘みを感じやすく,上品な香りを特徴としている.果実は大きく,果形は円錐形で,果皮は光沢の強い橙赤色,果肉色と果心色は白である.品種の普及には,行政,研究および普及の各組織と生産者団体が一体になったプロジェクトにより取り組み,三重県に限定せずに県内外の生産者に生産を認める許諾制度を設け,栽培指針を改良しながら消費者に対する販売促進を進めた結果,‘かおり野’を選択する生産者は三重県内外で大きく増加した.
著者
湯本 弘子 福田 直子
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.299-306, 2022 (Released:2022-09-30)
参考文献数
16

トルコギキョウの春出荷作型において,中心部分の花弁に緑色部が残ったまま開花に至る着色不良花が発生することがある.本実験では,春出荷作型において花芽分化期と予想される時期の高温(27°C)処理が着色不良花の発生に及ぼす影響について調査した.高温処理実施期間(1月7日~2月18日)のガラス温室内の日平均気温は19°Cを下回った.主茎頂花については高温処理7日間では1月14日,1月21日,2月4日,処理14日間では1月7日以降の高温処理で着色不良花率が対照区より低くなった.一次側枝頂花については高温処理7日間では2月4日,処理14日間では1月28日以降の高温処理で着色不良花率が対照区より低くなった.花弁,雄ずいおよび雌ずいの数は高温処理区で対照区に比べて少ない傾向がみられた.また,頂花および側花における着色不良花の花器官数は正常花に比べて多かった.これらの結果から,高温処理によって着色不良花が減少することが明らかになった.春出荷作型では低温期に花器官が多数分化し,外側の花弁と内側の花弁の発達ステージが大きく乖離することから中心部分の着色が不十分なまま開花に至ると考えられた.
著者
水谷 高幸 田中 孝幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.17-21, 2008 (Released:2008-01-25)
参考文献数
11

レタスの系統維持のため花茎の節培養を行った.レタスとL. serriolaの雑種およびレタスの四倍体は34から40節で花芽を形成し,播種後110日あるいは140日にはそれぞれの株の頂部から順に開花した.2次花茎の節の外植体からの葉芽形成率は四倍体レタスでは44.8%,L. serriola × レタスでは19.9%であったが,これは四倍体レタスの方が発育は遅く,外植体における花芽の形成が進んでいなかったためと考えられた.花芽発育ステージの遅い主茎の低い節位から発生した2次花茎の外植体も上位の節位の外植体より葉芽形成率が高かった.また,主茎の頂部の頭花が開花した株の2次花茎の節の外植体の葉芽形成率は5.6%と低く,発育ステージが遅く頭花の未開花の外植体のそれは55.1%と高かった.さらに,2次花茎の節位が主茎側に近いものほど葉芽形成率が高かった.得られた葉芽は移植後,発根し,馴化した後に,開花結実した.本研究で明らかになった抽だい開花しているレタスの花茎の節を培養して,葉芽形成を誘導する方法は,種子を生産した後においても,その個体を維持することに役立つものと思われた.
著者
腰替 大地 坂上 陽美 阪本 大輔 杉浦 裕義 木﨑 賢哉 内野 浩二 杉浦 俊彦
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.433-440, 2022 (Released:2022-12-31)
参考文献数
16

近年の温暖化に伴い,九州などの暖地で,ニホンナシ露地栽培における発芽不良の発生が顕在化してきている.そこで本研究では,発芽不良の発生軽減が期待される春施肥の有効性を,‘豊水’ および ‘幸水’ において,5年間継続して検証した.両品種において,施肥時期を慣行の秋施肥から春施肥に変更することで,耐凍性が向上し,5年間安定して発芽不良の発生が軽減された.一方,9月と3月に分施する秋春施肥では,耐凍性の向上効果および発芽不良の軽減効果は見られなかった.なお,春施肥に変更したことによる果実品質への悪影響は認められなかった.以上のことから,凍害によるニホンナシの発芽不良発生の軽減策として,全量を春に施用する施肥法は,有効的かつ実用的なニホンナシ露地栽培技術であることが明らかになった.
著者
柘植 一希 大中 創太 今井 峻平 元木 悟
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.185-195, 2017 (Released:2017-06-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1 2

スイートコーンは,野菜類のなかでも収穫後の品質劣化が早い品目である.品質劣化のうち,子実に凹みや隙間が発生するしなびは,生産から販売までの各現場で問題となっている.また,スイートコーンは,収穫後に苞葉を取り除いた形態や,柄や茎を付けた形態に調製することが可能である.本研究では,スイートコーンのしなびの発生に着目し,しなび評価基準を作成するとともに,3品種を用い,貯蔵形態が貯蔵性に及ぼす影響を明らかにするため,しなび評価,重量減少率および部位別の水分含量の貯蔵形態別の経時変化を温度10°Cおよび湿度70~80%の暗黒条件下で貯蔵し,収穫14日後まで調査した.しなび評価は,いずれの品種も,「むき」が収穫3日後からほかの貯蔵形態に比べて有意に高い点数を示し,「むき」のしなびは,ほかの貯蔵形態に比べて早期に発生することが明らかになった.「むき」の重量減少率は,‘ゴールドラッシュ’ では収穫3日後から, ‘味来390’ では収穫10日後から「慣行」に比べて有意に高い値または傾向を示した.「むき」の子実の水分含量は,いずれの品種も重量減少率とほぼ同じ収穫後日数から,「慣行」に比べて有意に低い値を示した.「むき」の穂全体の水分含量の減少率は,いずれの品種も,「慣行」に比べて高い傾向であったことから,苞葉を取り除くことにより,穂全体の水分が著しく消耗するものと考えられた.播種時期による比較では,いずれの播種時期および品種においても,「むき」はしなびが収穫3日後以内に発生したが,その要因と考える重量減少率および子実の水分含量の影響は,播種時期および品種によって異なった.以上の結果,しなびのおもな要因は,子実からの水分の消耗と考えられるが,今後はさらに品種数を増やし,子実の硬さや呼吸量,炭水化物含量の消長などを調査することにより,しなびの発生に影響を及ぼす要因をさらに詳しく検討する必要がある.
著者
遠藤(飛川) みのり 曽根 一純
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.131-139, 2020 (Released:2020-06-30)
参考文献数
25

関東,四国および九州沖縄地域の観光農園を対象に質問紙を配布し,面積などの農園の特性を踏まえたイチゴ品種の利用実態を調査した.その結果,関東地域に比べ都市的地域が少ない四国,九州沖縄地域の農園では,果実を摘み取りや直売以外にも多用途に利用している傾向があったものの,いずれの地域においても農園当たり約4品種の併用が認められた.また,品種別では, ‘紅ほっぺ’ や ‘かおり野’に代表される,草勢が強く高設栽培適性が高い,早生,多収品種の利用率が高かったほか,晩生や少収傾向の品種の利用も多く認められた.品種選定において重視する事項の調査結果から,農園が異なる早晩生の品種を複数利用する動機は,収穫時期の拡大よりも,収穫時期や果実品質の平準化にあると推察された.なお,いずれの地域においても,観光農園が利用品種を選定するうえでは,連続開花,収穫性の他に,果実品質や病害抵抗性を重視する傾向が認められた.今後は,多品種の併用に関する技術開発とともに,上述の特性を併せ持つ観光農園向け品種の開発が期待される.
著者
古賀 武 下村 克己 末吉 孝行 三井 寿一 浜地 勇次
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.91-95, 2014 (Released:2014-06-30)
参考文献数
16

近紫外線除去(UVA)フィルム被覆下でも果皮の着色が優れる単為結果性ナス品種育成の可能性を判断する目的で,へた下の着色が濃い半数体倍加(DH)系統(濃系統),へた下の着色が淡いDH系統(淡系統)およびこれらのF1を供試して,へた下の着色程度とUVAフィルム被覆下における果皮色との関係について検討した.一般農業用ビニルフィルム被覆下(農ビ区)とUVAフィルム被覆下(UVA区)における果皮色の色差値は,濃系統の方が淡系統より有意に小さかった.また,濃系統を両親としたF1系統では,淡系統を片親あるいは両親としたF1系統より,農ビ区とUVA区間における果皮色の色差値が有意に小さかった.このことから,へた下の着色程度とUVAフィルム被覆下における果皮色には遺伝的な関連が認められ,UVAフィルム被覆下でも果皮の着色が低下しにくい単為結果性ナス品種育成の可能性が示唆された.また,果皮色の選抜に当たっては,一般農業用ビニル被覆下におけるへた下の着色程度を指標とすることによって,UVAフィルム被覆下でも果皮の着色が優れる系統を選抜できるものと考えられた.
著者
井手 治 龍 勝利 森山 友幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.35-42, 2022 (Released:2022-03-31)
参考文献数
24

慣行の軒高が2 mのハウスにおける新たなトマト多収栽培技術として,トマト連続栽培システムを開発した.開発したシステムは6段果房または8段果房摘心栽培を,それぞれ年間2,3回のインタープランティングを行うことにより,盛夏期を休耕し周年栽培することなく累計24段果房を収穫できることが明らかとなった.また,作付回数の違いでは,年4作区が年3作区より,寡日照時期に果実肥大する果房上葉の受光量が多く,平均果重と可販果率が向上することから,単位面積当たりの可販果収量が増加し,30 t・10 a–1以上が得られることが明らかとなった.