著者
潮 雅之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.339-345, 2017 (Released:2017-12-05)
参考文献数
28
被引用文献数
4

マキ科・ナンヨウスギ科樹木は熱帯では貧栄養土壌や高標高域でしばしば優占する。このことはマキ科・ナンヨウスギ科樹木の根が土壌からの養分獲得において同所的に共存する他の被子植物と比べて何らかの優位性を備えている可能性を示唆している。本論文ではマキ科・ナンヨウスギ科樹木の根の形態・共生する菌根菌・土壌養分獲得能力に着目して過去の研究をレビューする。マキ科・ナンヨウスギ科樹木は根に根粒様構造(nodule-like structure)を持っており、野外においてその構造の内部にはアーバスキュラー菌根菌(AM菌)が共生している。このマキ科・ナンヨウスギ科に特徴的な根粒様構造の機能は、これまでに主に窒素固定活性に注目して研究されてきた。窒素固定活性は主にアセチレン還元法によって定量され、先行研究によるとマキ科・ナンヨウスギ科の中で弱い窒素固定活性が認められた属(例えば、Agathis, Dacrydium, Podocarpusなど)も存在する。しかし、その活性はマメ科やカバノキ科ハンノキ属の植物など代表的な窒素固定植物と比べると極めて弱い。また、根の周囲の土壌(根圏土壌)を丁寧に除去すると活性が大きく低下することから、現在のところ、マキ科・ナンヨウスギ科樹木で検出される弱い窒素固定活性は根(もしくは根粒様構造)が直接保持しているものではなく、周囲の土壌に生育している自由生活型(非共生型)の微生物によるものと考えるのが妥当である。しかし、現在までのところ、マキ科・ナンヨウスギ科樹木の根に関する研究はその多くがオーストラリア・ニュージーランドなど南半球温帯に生育する特定の樹種に関してのものである。熱帯に分布するマキ科・ナンヨウスギ科に関しては研究例・研究者が少ないこともあり、まだ不明な部分が多く、新たな発見の余地が大いに残されている。例えば、近年大きく発展している分子生物学の技術を活用して共生している菌根菌や根圏土壌の微生物を調べることで新たな展開が期待される。
著者
岸本 圭子 岸本 年郎 酒井 香 寺山 守 太田 祐司 高桑 正敏
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.159-170, 2017 (Released:2018-04-01)
参考文献数
32

東京都大田区の埋立地に成立する東京港野鳥公園では、国内外来種であるリュウキュウツヤハナムグリの生息が確認されている。園内には他にも外来の個体群である可能性が高いハナムグリ亜科2種が目撃されている。園内で発生しているこうした国内由来の外来種が分布を拡大し東京都の内陸部へ侵入すれば、深刻な生態系改変や遺伝子攪乱の脅威も予想されることから、早急に現状を把握する必要がある。本研究は、東京港野鳥公園で出現が確認されているハナムグリ亜科5種(コアオハナムグリ、ナミハナムグリ、シロテンハナムグリ、シラホシハナムグリ、リュウキュウツヤハナムグリ)を対象に、2014年から2016年に野外調査を実施し、発生状況および利用資源を調べた。その結果、リュウキュウツヤハナムグリは、成虫は自然分布地と同程度に発生量が多いこと、園内に植栽された複数の植物の花や樹液に集まること、土壌中に幼虫が高密度で生息していることが明らかにされた。さらに、これらの幼虫の密度が高い地点の土壌表層部が大量の糞で埋め尽くされている状態であることがわかり、土壌生態系や落葉の分解に大きな影響を与えている可能性が考えられた。また、リュウキュウツヤハナムグリだけでなく、コアオハナムグリ、ナミハナムグリ、シラホシハナムグリも、成虫が東京都区部や近郊に比べて数多く発生していることがわかった。これらのハナムグリ亜科成虫では、花や樹液以外にも特異な資源利用が目撃されており、園内のハナムグリ成虫の利用資源が不足していると推察された。このことから、採餌範囲を広げる個体がますます増えることが予想され、外来のハナムグリ種の内陸部への分布拡大が懸念される。今後もこれら外来ハナムグリ種の発生状況を継続的にモニタリングしていくことが重要だと考えられた。また、DNAレベルの詳細な研究を行い、外来ハナムグリ個体群の起源や侵入経路を解明する必要があるだろう。
著者
鈴木 時夫 鈴木 和子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.252-255, 1971-02-25 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
4

Im groβten Teil von Japan wird der Bereich des Meeresspiegels durchs regenreiche Klimamit Maximalsommerregen warm temperiert. Dadurch liegt der Punkt des kaltesten Monats, Januaroder Februar, in der Ecke des Schemas links unten, dagegen derjenige des warmsten Monats, Julioder August, in der Ecke rechts oben. Also entwickelt sich das Schema zwischen den beiden Punkten. Die von links unten bis rechts oben beinabe diagonal gezeichnete Figur ist fur den pazifischen Kustenstrich allgemein charakteristisch. (Abb. 1A) Das Wetter im Kustenstrich vom Japanischen Meer besteht dagegen im sehr schneereichen Winter. Der Wintermonsun ist ursprunglich eine kalte trockne Luftmasse, aber diese nimmt uberdem Japanischen meer eine groβe Menge Wasser-dampf auf und laβt uber dem Kustenstrich vom Japanischen Meer heftgen Schnee herabfallen. Dadurch geht sich der Punkt des kaltesten Monats im Schema rechtswarts fort. Die Figur des Hythergraphs zeigt im Kustenstrich vom Japanischen Meer damit einen geknickten Zustand. (Abb. 1B) Im Bereich des pazifischen Klimatypus in Sudwestjapan zeigt das Setouti-Gebiet einen besonderen Subtypus, weil die Hochsommertrockenheit auch dort vorkommt. Im Schema bildet also der Punkt des warmsten Monats einen nach links unten neigenden Haken. Vom Index des Japanischen Meers handelt es sich um die GroBe der Neigung der Linie, die im Hythergraph den kaltesten Monat mit dem warmsten Monat verbindet. Wenn diese Linie nach rechts (<90°) neigt, so kommt ein pazifischer Klimatypus vor, und wenn sie nach links (>90°) neigt, so erscheint ein Klimatypus vom Japanischen Meer. Im Setouti-Index handelt es sich um eine relative Stellung von den drei Punkten : d.h. der Punkt des warmsten und trockensten Augustes, der des regenreichsten Junis oder Septembers und der des kaltesten und schneereichsten Januars oder Februars. Ein Scheitelpunkt sei im kaltesten Monat, dann wird der Index durch die Groβe des Winkels zwischen der Linie, die den trockensten Monat mit dem regenreichsten Fruhsommer-oder Herbstmonat verbindet, und derjenigen, die den warmsten Monat mit dem kaltesten Monat verbindet, geschatzt. (Abb. 1C) Der Bereich vom Saseto-Fagetum crenatae, das eigentumlich zum Klimatypus des Japanischen Meers gehort, schlieβt sich mit der Linie von 90°um (s. Abb. 2), und daβ die Pittosporo-Quercetum phillyraeoides Hartlaubwalder im Setouti-Kustenstrich und entlang der Hoyo-Meerstraβe vorkommen, liegt mit der Linie, die der Setouti-Index mehr als 28°zeigt, zusammen. (s. Abb. 3)
著者
宮本 康 西垣 正男 関岡 裕明 吉田 丈人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2116, (Released:2022-04-28)
参考文献数
45

歴史的な人間活動の結果、沿岸域と汽水域におけるハビタットの消失が進み、これに基づく生態系機能の劣化が世界的に深刻化した。そして現在、沿岸生態系の保全が国際的に重要な課題になっている。福井県南部に位置する汽水湖沼群の三方五湖もその一例であり、沿岸ハビタットの再生が当水域の自然再生を進める上での大きな課題の一つに挙げられている。 2011年には多様な主体の参加の下、三方五湖自然再生協議会が設立され、 3つのテーマにまたがる 20の自然再生目標に向けて、 6つの部会が自然再生活動を開始した。その中の自然護岸再生部会では、既往の護岸を活かし、湖の生態系機能を向上させることを目的に、 2016年より湖毎に現地調査とワークショップを開始した。そして 2020年には、それらの結果を「久々子湖、水月湖、菅湖、三方湖、及びはす川等の自然護岸再生の手引き」として整理した。さらに、当協議会のシジミのなぎさ部会では、かつて自然のなぎさであった久々子湖の 2地点と水月湖の 1地点で、手引き書を踏まえたなぎさ護岸の再生を 2020 -2021年に実施した。本稿では、三方五湖におけるこれらの自然護岸再生に向けた実践活動を報告する。
著者
藤木 庄五郎 龍野 瑞甫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.85-90, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
16
被引用文献数
1

現在、生物多様性の保全が世界的な課題となっている。筆者らは、実用的な生物多様性広域モニタリング手法の開発を目指し、市民が撮影した位置情報付きの生物画像を収集する取り組みを実施してきた。生物データ投稿機能とAI画像解析を組み合わせたアプリ「Biome(バイオーム)」を2019年4月に日本国内を対象に公開し、これまで(2020年6月25日時点)に2万種を超える生物の分布データが65万件以上投稿されたことを確認した。この成果は、モバイル端末を用いた市民参加型生物調査の有用性を示し、市民科学が網羅的な生物分布の広域モニタリングに活用できる可能性を示唆する。一方で、一般市民からデータを集める市民科学の性質上、データ精度において課題が残った。精度検証の結果、種レベルの誤同定率:9.0 - 10.6%、属レベルの誤同定率:6.6 - 7.1%、科レベルの誤同定率:3.8 - 3.9%、目レベルの誤同定率:2.1 - 2.2%であることが分かった。類似する取り組みと比較して特段低い精度ではないものの、改善の余地があるものと思われる。大量のデータを扱う市民科学において、実用性と精度を両立させるためには、データの精度向上を市民や専門家の労力に依存させるのではなく、システム自体が精度を担保するべきである。深層学習などの技術を活用し、生物の同定AIの開発を強化することが、データ精度を高め、市民科学や生物多様性モニタリングの今後の発展に大きく寄与するものと考える。
著者
石黒 寛人 岩井 紀子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.177-186, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
32

都市の騒音や光は、野生動物の繁殖成功を阻害しうる。カエルは都市に生息し、繁殖の際、鳴き声によってオスがメスを誘引することや、夜間に繁殖を行うことから、都市の騒音や光の影響を受けやすい可能性がある。本研究では、都市の水場において、カエルの繁殖地選択と繁殖地内の産卵場所選択に対する、騒音や光の影響を明らかにすることを目的とした。日本の都市部に生息するカエルのうち、アズマヒキガエルとニホンアマガエルを対象とし、前者で62ヶ所、後者で69ヶ所の水場において、カエルによる繁殖地利用を踏査とレコーダーを用いて明らかにした。それぞれの種について、水場における繁殖地としての利用を、騒音と照度を含む10項目の環境条件によって説明する一般化線形混合モデルを作成し、モデル選択を行なった。その結果、ベストモデルにおいて、水場の繁殖地としての利用有無を説明する要因として騒音は選択されなかったが、照度は2種ともに負の影響として選択された。さらに、繁殖地を選択した後の産卵場所選択における騒音と光の影響を明らかにするため、網で囲った実験区内に2つの水場を設置し、片方から騒音(交通騒音、人間の足音)または光(弱光、強光)を発生させる操作実験をニホンアマガエルについて行なった。実験区中央に放した抱接ペアによる産卵場所の選択回数は、4つの実験全てで条件間に有意な差は認められなかったが、人間の足音の実験においては、騒音源が設置されていない水場を選択する傾向が見られた。本研究から、都市の水場におけるカエルの繁殖地利用に対し、照度は負の影響を与えることが示された。抱接後のカエルにとっては、騒音や光の影響は小さいが、騒音の質によっては影響がみられる可能性が示唆された。
著者
鎌田 泰斗 清水 瑛人 佐藤 雄大 関島 恒夫
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2016, (Released:2020-11-10)
参考文献数
76

殺虫剤は農業において不可欠であるが、人体や標的外の野生生物に多大な影響を及ぼすことが絶えず問題視されている。カエル類の多くは、産卵期から幼生期にかけて水田に依存しており、その時期が水稲栽培における殺虫剤の施用時期と重複していることから、潜在的に暴露リスクを抱えている生物種といえる。殺虫剤の暴露をうける発生初期は、生体内のあらゆる器官が形成される発生ステージであり、その時期における殺虫剤による生体機能の攪乱は、その後の生存に重篤な影響を及ぼす可能性が高い。本研究では、水田棲カエル類のニホンアマガエルとヤマアカガエルを指標生物とし、両種の初期発生過程における、ネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジン、ネライストキシン系殺虫剤カルタップ、およびジアミド系殺虫剤クロラントラニリプロールの 3種の殺虫剤が及ぼす発生毒性を、暴露試験を通じて検証し、種間による感受性の差異および殺虫剤原体と製剤間における影響の差異を明らかにした。ニホンアマガエルおよびヤマアカガエル両種に共通して、カルタップ暴露により奇形率および死亡率の増加が認められた。一方で、クロチアニジンおよびクロラントラニリプロールにおいては、催奇形性は認められなかった。カルタップ原体に対する感受性には種差が認められ、ヤマアガエルにおいては、 0.2 mg/Lで奇形率および死亡率が増加したのに対し、ニホンアマガエルにおいては、 0.02 mg/Lで奇形率および死亡率が増加した。発症した奇形パターンは、ニホンアマガエルとヤマアカガエルに共通して、脊椎褶曲と水腫が見られ、ニホンアマガエルでのみ脱色が認められた。また、カルタップ製剤処理群においては、原体処理群と比較して、脊椎褶曲の発症率は高く、水腫の発症率は低かった。本研究では、カルタップの分解物であるネライストキシンが水田棲のカエル類、特にニホンアマガエルの初期発生に深刻な影響を与えていることが示唆された。さらに、生存率の低下につながると考えられる脊椎褶曲や脱色が、カルタップの施用基準濃度において発生している可能性が考えられた。
著者
宮本 康 福本 一彦 畠山 恵介 森 明寛 前田 晃宏 近藤 高貴
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.59-69, 2015-05-30 (Released:2017-11-01)
参考文献数
49
被引用文献数
2

鳥取県ではカラスガイの絶滅が危惧されているが、本種の個体群構造や繁殖の実態が明らかにされていない。そこで本研究では、本種の分布が確認されている3つの水域を対象に、サイズ組成、母貝の妊卵状況、本種の生息域における魚類相、およびグロキディウム幼生の宿主適合性を明らかにするための野外調査と室内実験を行った。多鯰ヶ池ではカラスガイのサイズ組成が大型個体に偏っていたことから、稚貝の加入が近年行われていないことが示唆された。しかし、母貝が幼生を保有していたこと、当池でブルーギルとオオクチバスが優占していたことから、これらの外来魚による幼生の宿主魚類の駆逐が本種の新規加入の阻害要因になっていることが併せて示唆された。一方で、他の2つのため池では大型個体に加えて若齢の小型個体も少数ながら発見された。これらの池ではブルーギルとオオクチバスが確認されない反面、室内実験より幼生の宿主と判定されたフナ属魚類が優占することが明らかになったことから、新規加入が生じる条件が揃っていることが示唆された。以上の結果より、現在の鳥取県ではカラスガイの個体群動態が魚類群集に強く依存していること、そしてブルーギルとオオクチバスが優占する多鯰ヶ池は本種個体群の存続が危ういことが示唆された。以上の結果を踏まえ、最後に当県におけるカラスガイ保全のための提言を行った。
著者
澤邊 久美子 夏原 由博
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.31-38, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
24

カヤネズミMicromys minutus (Pallas, 1771)は、イネ科の高茎草地を生息地とする草地性生物の一種であり、7月から10月ごろの繁殖期にイネ科またはカヤツリグサ科の草本など多様な単子葉草本の茎葉を利用し、地上部約1 m前後の高さに球状の巣を作る。一方、本種は冬季には地上付近に巣を作ると言われているが、冬季の生態についてはまだ明らかになっていない。本研究では本種の冬季の営巣環境において、冬季植生の存在の影響と営巣の位置について明らかにした。2014年-2015年の2年間の繁殖期に継続して生息が確認されていた11地点と生息が確認できていなかった9地点の計20地点で、2016年冬季に越冬巣の調査を行った。巣ごとに巣高、営巣植物種、営巣植物高、群落高を記録し、より広域の環境要因として草地ごとに、冬季の全面刈取りの有無、カヤネズミの移動を想定した隣接する森林・水田の有無、冬季全植被率、冬季茎葉層植被率(10 cm以上)、ススキとチガヤの植被率合計を記録した。越冬巣は9地点(12巣)で確認され、越冬巣の巣高は群落高に関わらず平均28.92 cm(SD=13.12)であった。これは繁殖期の巣高より低く、越冬巣は草高にかかわらず一定の高さであった。草地における越冬巣の有無は過去2年間の繁殖期の営巣の有無とほぼ対応していた。冬季の茎葉層植被率、全植被率またはススキとチガヤの植被率が高いと越冬巣が有意に多く、冬期の全面刈取りがあると越冬巣が有意に少なかった。カヤネズミの移動を想定した森林・水田の隣接については関連が見られなかった。本研究で対象とした小規模な半自然草地における本種の冬季の営巣環境としては、特に越冬巣が多く見られた30 cm程度の位置に植物体が存在することが重要であり、全面刈り取りを避けることが重要であると示唆された。
著者
高橋 純一 福井 順治 椿 宜高
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.73-79, 2009
参考文献数
41

絶滅危惧種であるベッコウトンボの羽化殻を用いたRAPD解析によって、ベッコウトンボの集団に直接影響を与えることなく、遺伝的多様性を明らかにした。静岡県磐田市桶ヶ谷沼地域の3つの発生地で採集した60個体に対して80種類のプライマーを使用しRAPD解析を行った。17種のプライマーから20個の遺伝子座で多型が検出され、12種のDNA型が見つかった。そのうち集団特異的なDNA型が合計4つ検出された。遺伝子多様度は平均0.317、遺伝子分化係数は平均0.07となり、集団間の多様性は小さかった。AMOVA分析によっても集団間の分化は検出できなかった。また3集団から見出された変異は98.7%が集団内の個体間変異に、集団間では1.3%となった。クラスター分析からも集団間は非常に類縁関係が高いことが明らかになった。
著者
高槻 成紀
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.293-296, 2009
参考文献数
15
被引用文献数
2

Bears are popular, and are often regarded as umbrella species by conservationists and wildlife societies. This is the case for the Asiatic black bear and the brown bear in Japan. The idea is that bears' home ranges are large and, consequently, that the conservation of bears would result in the conservation of other sympatric plants and animals. Buskirk (1999), however, stated that since large carnivores are habitat generalists, they cannot serve as umbrellas. In fact, in the Sierra Nevada, most martens, fishers and wolverines, which are habitat specialists, are extinct or nearly so, while American black bears are common or abundant (Buskirk pers, comm. 2009). Buskirk's opinion is important for the following reasons. 1) Although the concept of an umbrella species has merit, unless a species' habitat and resource requirements are known, the conservation of other species is not assured. 2) If a conservation initiative is enacted under this slogan and some animals disappear, while bears are abundant, as happened in the Sierra Nevada, then the logic underpinning the initiative is flawed. 3) The proposition of "the more, the better" can be unpopular, even with people who have an understanding of conservation efforts, because such a proposition may be difficult to accept, particularly in a small country like Japan. 4) The concept that bears are umbrella species stems from the idea that not only bears but also other organisms should be conserved; however, the term can be misconstrued to imply that, "Bears live here and thus other animals must also be OK." Thus, the slogan can function in a manner contrary to its intent. We should be cautious not to use this concept without confirming the true meaning of umbrella species.
著者
高槻 成紀 久保薗 昌彦 南 正人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.87-93, 2014-05-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
3

北アメリカからの外来哺乳類であるアライグマは1960年代に日本で逸出し、1980年代以降各地に生息するようになった。アライグマは水生動物群集に影響を及ぼすといわれるが、食性情報は限定的である。原産地では、水生動物も採食するが、哺乳類、穀類、果実なども採食する広食性であることが知られている。横浜市で捕獲された113のアライグマの腸内容物を分析した結果、果実・種子が約半量から50〜75%を占めて最も重要であり、次いで哺乳類(体毛)が10〜15%、植物の葉が5〜20%、昆虫が2〜10%で、そのほかの成分は少なかった。水生動物と同定されるものはごく少なく、魚類が春に頻度3.0%、占有率0.2%、甲殻類が春に頻度3.0%、占有率0.1%、貝類(軟体動物)が夏に頻度3.4%、占有率<0.1%といずれもごく小さい値であった。腸内容物は消化をうけた食物の残滓であることを考慮しても、水生動物が主要な食物であるとは考えにくい。アライグマが水生動物をよく採食し、水生動物群集に強い影響を与えているかどうかは実証的に検討される必要がある。
著者
佐伯 いく代 横川 昌史 指村 奈穂子 芦澤 和也 大谷 雅人 河野 円樹 明石 浩司 古本 良
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.187-201, 2013-11-30 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

我が国ではこれまで、主に個体数の少ない種(希少種)に着目した保全施策が展開されてきた。これは貴重な自然を守る上で大きな成果をあげてきたが、いくつかの問題点も指摘されている。例えば、(1)「種」を単位として施策を展開するため、現時点で認識されていない未知の生物種についての対応が困難である、(2)人々の保全意識が一部の種に集中しやすく、種を支える生態系の特徴やプロセスを守ることへの関心が薄れやすい、(3)種の現状をカテゴリーで表すことに困難が生じる場合がある、などである。これらの問題の克服に向け、本総説では絶滅危惧生態系という概念を紹介する。絶滅危惧生態系とは、絶滅が危惧される生態系のことであり、これを保全することが、より包括的に自然を保護することにつながると考える。生態系、植物群落、および地形を対象としたレッドリストの整備が国内外で進められている。22の事例の選定基準を調べたところ、(1)面積が減少している、(2)希少である、(3)機能やプロセスが劣化している、(4)分断化が進行している、(5)開発などの脅威に強くさらされている、(6)自然性が高い、(7)種の多様性が高い、(8)希少種の生息地となっている、(9)地域を代表する自然である、(10)文化的・景観的な価値がある、などが用いられていた。これらのリストは、保護区の設定や環境アセスメントの現場において活用が進められている。その一方で、生態系の定義、絶滅危惧生態系の抽出手法とスケール設定、機能とプロセスの評価、社会における成果の反映手法などに課題が残されていると考えられたため、具体の対応策についても議論した。日本全域を対象とした生態系レッドリストは策定されていない。しかし、筆者らの行った試行的なアンケート調査では、河川、湿地、里山、半自然草地を含む様々なタイプの生態系が絶滅危惧生態系としてあげられた。絶滅危惧生態系の概念に基づく保全アプローチは、種の保全の限界を補完し、これまで開発規制の対象となりにくかった身近な自然を守ることなどに寄与できると考えられる。さらに、地域主体の多様な取組を支えるプラットフォーム(共通基盤)として、活用の場が広がることを期待したい。
著者
山尾 僚 深野 祐也
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.93-98, 2019 (Released:2019-08-08)
参考文献数
21
被引用文献数
1

つる性の植物の地上部は、他の植物に巻きつくために垂直・水平方向に大きく展開し、様々な種類の植物と接触する。つる植物にとってどの植物に巻きつくかは、その後の生長を左右する極めて重要な決定である。つる植物の特徴的な旋回運動や巻きつき反応に関する研究はダーウィン以来多くなされているものの、つる植物のホスト選択における識別能力についてはこれまでほとんど研究されていなかった。近年われわれは、つる植物のなかでも巻きひげのもつ識別能として、自己識別能力(自株と同種の他株を見分ける能力)と同種識別能力(同種と他種を見分ける能力)のふたつに注目し、検証を行った。本稿では、これまでの巻きひげの応答研究について概説しつつ、著者等が明らかにしてきた巻きひげのホスト選択に関する研究を紹介する
著者
佐藤 俊平 森田 健太郎
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.209-217, 2019 (Released:2019-12-24)
参考文献数
33
被引用文献数
2

サケの野生魚と放流魚で遺伝的特徴に違いがあるのかを調べるため、北海道内の放流河川および非放流河川に生息するサケ13水系16河川25集団についてSNP43遺伝子座の分析を行った。遺伝標本は、遡上したサケ親魚またはサケ稚魚の体組織から採集した。また、耳石も採集し、耳石温度標識が確認されたふ化場由来の放流魚は分析から除外した。放流魚の比較対象として既報の北海道サケ放流魚26集団を加え、集団遺伝学的解析を行った。遺伝的多様性を野生魚と放流魚で比較したところ、放流魚で低くなる傾向を示した。一方、野生魚についても河川間では遺伝的多様性にばらつきが見られ、自然産卵が可能な非捕獲河川の方が遺伝的多様性は高い傾向にあった。野生魚の遺伝的集団構造は、既知の北海道放流魚の5地域集団に区分されたが、野生魚はその5地域間よりも地域内の集団間の方で高い遺伝的分化を示した。石狩川水系に属するサケ調査河川集団間でその遺伝的特徴を調べたところ、3つのグループに分かれ、同一水系内でも弱い遺伝構造が存在することが分かった。特に、野生魚で構成されている千歳川後期群のサケ集団は他のグループとは遺伝的に異なっていた。以上の結果から、北海道に生息するサケ野生魚は放流魚とは異なる遺伝的特徴を持つことが示唆された。
著者
小山 耕平 福森 香代子 八木 光晴 森 茂太
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.91-101, 2013-03-30 (Released:2017-04-28)
参考文献数
47
被引用文献数
4

スケーリング関係とは、生物の体または器官のサイズと、それらのサイズに伴って変化する構造や機能との関係のことである。スケーリング関係は「べき乗則」で表されることが多い。本稿では、動植物の体サイズと表面積および代謝速度(個体呼吸速度または個体光合成速度)のべき乗則で表されるスケーリング関係について述べる。とくに、動物や植物の個体呼吸が個体重の3/4乗に比例するという「クライバーの法則」を中心に解説する。次に、これらのスケーリング関係を定量的に説明するための基本となる考え方として、相対成長(アロメトリー)、相似則およびフラクタル成長の3点について述べる。最後に、フラクタル成長に基づいたモデルの先駆例として代謝スケーリング理論(WBE理論)を解説し、スケーリング研究の今後の展望を述べる。
著者
西廣 淳 角谷 拓 横溝 裕行 小出 大
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2201, (Released:2022-10-20)
参考文献数
34

気候変動への適応策の推進は、国および地域レベルの重要な社会的・政策的課題である。気候変動適応策では、現在生じている問題への対処や、予測される将来の環境条件下において生態系や社会システムのパフォーマンス(農作物の収量や健康リスクの低さなどの成果)を維持するような方策が検討されることが普通である。しかし、このようなアプローチ(最適化型アプローチ)は予測通りにならなかった場合における脆弱性をもつ。本稿では、最適化型アプローチとは別の考え方による適応策として、「適応力向上型アプローチ」について解説する。適応力向上型アプローチは、突発的な環境変動や必ずしも予測通りの将来にはならないという不確実性への対応として有効なアプローチであり、システムの「変化力」「対応力」「回復力」を高めることによって実現する。これらの概念について解説するとともに、変化力・対応力・回復力を高める上で有効であると考えられる方策について、実例に則して論じる。
著者
辻田 有紀 村田 美空 山下 由美 遊川 知久
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1906, (Released:2019-10-15)
参考文献数
47

近年、果実に寄生するハエ類の被害が全国の野生ランで報告され、問題となっている。ハエ類の幼虫は子房や果実の内部を摂食し、種子が正常に生産されない。しかし、被害を及ぼすハエ類の種や寄生を受ける時期や部位が、ランの種によって異なることが指摘されており、適切に防除するためには、ランの種ごとに被害パターンを明らかにする必要がある。そこで、国内に自生する 4種のランについてハエ類の被害状況を調査した。その結果、 4種すべてにおいて、ランミモグリバエの寄生を確認した。また、本調査で被害を確認した地域は、福島県、茨城県、千葉県、高知県と広域に及んでいた。調査した 4種のうち、コクランとガンゼキランでは、果実内部が食害を受けていたが、ナツエビネとミヤマウズラでは、主に花序が幼虫による摂食を受け、開花・結実に至る前に花茎上部が枯死しており、ランの種によって食害を受ける部位が異なった。ミヤマウズラでは福島県産の株に寄生を確認したが、北海道産の株にはハエ類の寄生が見られず、地域により被害状況が異なる可能性が明らかになった。本調査より、絶滅に瀕した多くのラン科植物がハエ類の脅威にさらされている現状が改めて浮き彫りとなり、ランミモグリバエの防除はラン科植物を保全する上で喫緊の課題である。
著者
松林 圭
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.171-182, 2019 (Released:2019-12-24)
参考文献数
78
被引用文献数
3

種分化とは、生物の多様性を生み出す原動力であり、“潜在的に交配可能な集団間に、交配を妨げる遺伝的機構(=生殖隔離)が進化すること”と定義できる。生物学的種概念を基礎とするこの種分化の定義は、広く進化生物学において受け入れられてきたが、実際の生物にこの基準を適用することには困難が伴う場合が多い。異なる個体群が、果たして異なる種にあたるのか否かは、進化生物学、生態学のみならず、分類学的にも重要な問題であった。この“種のちがい”を定量化する試みは、遺伝子マーカーを使用するものや形態的相違を判別形質とするものなど、様々な手法が使われてきた。これらはどれも、生殖隔離の存在やその強度を間接的に推定するものである。最近では、野外観察や行動実験を通して生殖隔離を直接測定する手法が普及しており、隔離障壁の進化やメカニズムに関する理解が大きく進んでいる。本総説では、種のちがいを量る方法として生殖隔離の定量化に着目し、近年になってこの分野で得られた知見を紹介する。
著者
高槻 成紀
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.293-296, 2009-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
15
被引用文献数
2

Bears are popular, and are often regarded as umbrella species by conservationists and wildlife societies. This is the case for the Asiatic black bear and the brown bear in Japan. The idea is that bears' home ranges are large and, consequently, that the conservation of bears would result in the conservation of other sympatric plants and animals. Buskirk (1999), however, stated that since large carnivores are habitat generalists, they cannot serve as umbrellas. In fact, in the Sierra Nevada, most martens, fishers and wolverines, which are habitat specialists, are extinct or nearly so, while American black bears are common or abundant (Buskirk pers, comm. 2009). Buskirk's opinion is important for the following reasons. 1) Although the concept of an umbrella species has merit, unless a species' habitat and resource requirements are known, the conservation of other species is not assured. 2) If a conservation initiative is enacted under this slogan and some animals disappear, while bears are abundant, as happened in the Sierra Nevada, then the logic underpinning the initiative is flawed. 3) The proposition of "the more, the better" can be unpopular, even with people who have an understanding of conservation efforts, because such a proposition may be difficult to accept, particularly in a small country like Japan. 4) The concept that bears are umbrella species stems from the idea that not only bears but also other organisms should be conserved; however, the term can be misconstrued to imply that, "Bears live here and thus other animals must also be OK." Thus, the slogan can function in a manner contrary to its intent. We should be cautious not to use this concept without confirming the true meaning of umbrella species.